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シナリオ詳細

運び屋急募 幻想に雪はふるなり

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●大雪に閉ざされた村
 窓の外におおきなつららがおりている。
 子供が杖にできるような大きさだ。
 大人たちはスコップで家の前に積もった雪をかき分け道を作るが、できたとて人がひとり通れる程度の小道である。
 振り返れば膝が埋まるほどの雪が降り積もり、今もまだ大粒の雪が降っている。
 地面は固く蓄積した氷ばかりとなり、都の商人たちは馬車を出すことを拒んだ。
「あと何日、食いつなげるかしら」
 頬まで覆う毛糸の帽子を深く被り、ある家の少女は顔を上げた。
 村の人々が持ち寄った食材は残り僅かだ。平等に配ってはいるが、いずれ底がつきる。
 誰かが助けてくれるだなんて、誰も思っていない。
「だってこんな村、誰も来やしないもの……」
 諦観の顔で、しかし目だけはどこか、助けを求めているようにも見えた。

●イレギュラーズという切り札
「やあ、運び屋の仕事を受けてみないかい?
 雪と氷で閉ざされちゃってる村があってね、秋の備蓄が獣にやられちゃったみたいで、冬をまともに越せないかもしれないって話さ。
 勿論慈善事業ってワケじゃないよ。治政目的で食料を届けたい貴族とこの機に乗じて貴族に売り込みたい商人によるウィンウィンな関係から生まれたお仕事さ。
 必要なのは、雪道を通り抜けられる屈強な運び屋チームだけ、ってわけだよ
 つまり……?」
 君が求められているってわけさ、と『黒猫の』ショウ(p3n000005)は道ばたで言った。

 依頼内容は物資の運搬だ。
 大量の食料と固形燃料。そして医薬品。
 冬を越すのに必要となる物資である。量が非常に多いため、二台の商用馬車を用いて運搬することになる。
「馬も馬車も借り物なので最低限の品質だけど、もし自前で用意できるならもっといい旅ができるだろうね。
 おっと……依頼の期間を話してなかった。
 雪道をゆっくりと越えて、時にはモンスターの発生地を通り抜けることもある。
 本来なら3日で済む道程だけど、今回はざっとみて5日から8日ってところかな。
 勿論、早いにこしたことはないと思うよ? 荷を減らさず、そしてちゃんとたどり着けるならね」

 難しいのは寒さとモンスターへの対策、そして長旅への精神的な負担だ。
 暖かさを保つ工夫や、長旅のストレスを和らげる工夫、欲を言えば楽しく快適に過ごせる工夫があればステキな旅になるはずだ。
 勿論、モンスターを追い払える戦闘力だって必要になる。
「興味がわいて、お金も欲しくなって、ついでに準備も出来たらこの酒場に行ってよ。みんなが待ってるだろうからさ」
 ショウは酒場の名前や地図を書いたカードを手渡すと、あなたに背を向け後ろ手を振った。
 あなたは……。

GMコメント

 寒い季節が続きますね、プレイヤーの皆様。お風邪など召されておりませんでしょうか。
 日本でも特に雪の多い土地になりますと、たとえトラックであろうともまともに運行ができなくなるようで、スーパーマーケットの野菜売り場ががらんとしているなんてこともございます。
 これが幻想(レガド・イルシオン)ともなると、都から離れた寒村が孤立するなんてこともあるでしょう。
 そして特別な人手が必要になるのです。
 そう、イレギュラーズ(PC)たちの手が。

【依頼内容】
 『スライディバー村へ物資を届けること』
 依頼主からの日数指定はありませんが、できるだけ早く確実に届けられれば村人に喜ばれるでしょう。
 逆に10日を超えるほどの長期間になってしまうと、村の物資がつきて飢えたり病気になったりする人が出てきてしまいます。

【道程】
 スライディバー村は幻想の北東に位置する雪の多い村です。
 とても安全なルートを夏期に通るなら2~3日で済むのですが、雪が多い季節はそのルートが氷や数メートル級の雪に覆われて通行できず、少々危険で遠回りなルートを必要とします。
 どの辺りが危険なのかをピンポイントでご説明しましょう。

●モンスターの出るエリア
 ルートには『雪狼』というモンスターが出没するエリアがあります。
 彼らは鼻と耳がよく、何者かが通ると群れで攻撃してきます。
 目的は食糧確保。可能なら通る人を、そうでなくとも積荷を狙って奪おうとします。
 場は凍った雪道ですのでスピードがだせず、襲いかかってきたところを(馬車をとめて)そのまま迎え撃つ形になるでしょう。
 出没する数は不明ですが、個体ごとの戦闘力はやや低め。
 みんなで力を合わせて戦えばきっと積荷も守れるでしょう。

・雪狼
 冬になると雪に紛れて近づき獲物を狩ることからその名がついた。
 機動力・反応・命中に優れ、噛みつき(物近単【出血】)、遠吠え(回復10固定、次ターンに仲間を1~2体呼び寄せる)といったスキルを使う。

●雪の多い道を突き進む
 数メートル級の道を迂回したものの、50センチ程度の雪が積もったエリアが途中に存在します。
 馬車で無理矢理通るとどこかで埋まってしまうので、かき分けたりいっそ溶かしたりする必要があるでしょう。
 (尚、雪を熱で溶かすとしばらくして氷となり、帰路にて事故のもとになるおそれがあります)

●数日間の長旅
 寒い中、数日間の長旅を行ないます。
 旅を豊かにする工夫(食事や睡眠、娯楽など)があるとよいでしょう。
 逆に食事を粗末にしたり睡眠を削ったり、ストレスがたまる状況を放置したりするとコンディションを落とし、特別な能力でもない限りは各種判定に大きなペナルティがかかります。
 逆に快適に過ごすことができれば各種判定に大きなボーナスがつきます。

●物資や旅の設備
・レンタル馬車×二台:枠と幕で天井を覆った荷馬車です。大きく、物資を沢山積んでいます。これに加えて人を一台あたり3~4人乗せられます。
・レンタル馬×2頭:商人が日頃つかうお馬さんです。持久力があり馬車をぐいぐい引っ張ってくれますが、良くも悪くもノーマルな性能です。
・食料:7日ちょいはもつ食料が配られます。最低限の携帯食料なので、もしお料理が得意なら食材をいくらか積み込んで現地で料理をしても構いません。(積み込める荷には限りがあるので、内容は絞るひつようがあるでしょう)
・自主的な持ち込みアイテム:PCが自主的に持ち込めるアイテムは、馬車に全員分積める程度ならOKとします。
 今回は装備品になくても一応OKとしますが、装備品としてもっていれば判定にいい具合のボーナスをおつけします。

【アドリブ度】
 ロールプレイをよりお楽しみいただくため、リプレイにはキャラクターのアドリブ描写を用いることがございます。
 プレイングやステータスシートに『アドリブ歓迎』『アドリブなし』といった形でお書きくだされば、度合いに応じて対応いたします。ぜひぜひご利用くださいませ。

【相談会場】
 今回の相談会場は幻想王都の小さな酒場です。
 やや薄暗く、バーカウンターの裏でマスターがシェイカーを振っています。
 カクテルやウィスキー、お子様向けのジュースやミルクを扱っています。
 こちらで相談のロールプレイをお楽しみください。
(※相談の第一声は名前とスキル紹介ではなく、お店に入ってくるロールプレイとなるのです)

 では、まずはご注文をどうぞ。

  • 運び屋急募 幻想に雪はふるなり完了
  • GM名黒筆墨汁
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2018年02月18日 20時45分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

花房・てふ(p3p000003)
BBBA
レンジー(p3p000130)
帽子の中に夢が詰まってる
如月 ユウ(p3p000205)
浄謐たるセルリアン・ブルー
リノ・ガルシア(p3p000675)
宵歩
九鬼 我那覇(p3p001256)
三面六臂
ラァト フランセーズ デュテ(p3p002308)
紅茶卿
ぺリ子(p3p002675)
夜明けのハイペリオン
レイア・クニークルス(p3p003228)
いかさまうさぎ

リプレイ

●幻想に雪はふるなり
 酒場の軒先に太いつららが下がっている。
 うっすらと残った雪が路肩に積まれ、みな足下をみながら歩いている。
 普段多く行き交うはずの馬車はまばらだ。ここは幻想の北。まだ雪の多い地域である。
 凍った路面に車輪を走らせることを彼らは嫌うのだ。
「孤立した村への荷物の運送ね……」
「雪と氷に閉ざされた村とは幻想的な響きもあるが、当事者となればそれはつらいのであろうな」
 『浄謐たるセルリアン・ブルー』如月 ユウ(p3p000205)と『三面六臂』九鬼 我那覇(p3p001256)は防寒着をきて馬車の前に立っていた。
 運送する積荷を確認するためである。
 空いたスペースに薪を積み込む我那覇。それを手伝いながら、ユウは肌で感じる空気の冷たさにちいさく震えた。吐く息は当然のように白い。
「今の私じゃきちんと対策しないと、体への影響が大きそうよね。はあ……ままならないものね」
「馬車にはまだ余裕があるのである」
 我那覇がくるりと振り返って皆を見た。
 大きな荷物を抱え、よたよたとやってくる『大賢者』レンジー(p3p000130)。
 それは? と尋ねるとレンジーは馬車をひく馬を指さした。
「寒い夜に休憩するなら、この子たちにも毛布が必要だと思ってね。しかし、重すぎるようなら……おっとと」
 そのまますてんと倒れそうになった所を、後ろからやってきた『いかさまうさぎ』レイア・クニークルス(p3p003228)が両手で支えた。背丈のせいか、随分と安定したようだ。レンジーから受け取った(というか引っこ抜いた)毛布を荷台に載せると、レイアは自分のアタッシュケースをその上に置いた。それほど大きくない革製のケースだ。
 つま先立ちで覗き込むレンジー。
「なんだい? それは」
「ちょっとしたお遊び道具ですよっ。そっちは?」
 手をぐーぱーして見せるレイア。彼女の視線を受けてレンジーは別の鞄を翳した。
「こちらも似たようなものかな。本に、甘い物に、良さそうな茶葉だ」
「茶葉!」
 背後にいきなり現われた『紅茶卿』ラァト フランセーズ デュテ(p3p002308)が両腕を掲げた。驚いて帽子がずれるレンジー。
「素晴らしい。ひとついいかな?」
 茶葉の入った箱を少し開けてかおりを確かめると、ラァトはいいものを持ってきたなあという顔で目を閉じた。
「人にとって備えのない冬は余りに長く辛いだろうが、紅茶はそんな身も心も癒やしてくれる。早く届けてあげたいものだ。どれ、この葉は預かっておいていいかな? 上手に淹れられると約束するよ」
 ラァトが小首を傾げてみると、レンジーもまた小首を傾げて返した。願ってもない、わたしは知識先行型なんでね……といったところだ。
「やぁん、寒ぅい。みんなよくそんな装備で平気ねぇ」
 酒場から出てきた『宵歩』リノ・ガルシア(p3p000675)が身を抱えるようにぷるぷるとしていた。その割には冗談みたいに笑っている。
 同じく酒場から出てくる『BBBA』花房・てふ(p3p000003)。
「冬は寒いもんさ。で、その手にあるものは寒さ対策ってわけかい?」
 リノの手には酒瓶と冒険用の干し肉。背中には機能性のいい寝袋を背負っている。
 酒瓶にぴとっと頬をつけるリノ。
「雪国にウォッカはつきものっていうでしょ。あとでご一緒する?」
「呑みたいだけだろうに。あれだけ呑んでまだ足りないかね」
 深い渋みのある顔で笑うてふ。
 荷物を一通り積み込むと、馬車の荷台へと乗り込んだ。
「雪に閉ざされるってだけでも大変なのに、その上蓄えまでやられるたァ、ツイてない村もあったもんだね。けど、『かつて不運な村が有った』で終わらせやしないさ」
 てふの言葉に、リノやレンジーたちも無言で頷いた。
「そーともー!」
 積み重なった毛布の中からぼふっと飛び出してくる『高みへ導くハイペリオン』ぺリ子(p3p002675)。
「飢えたり病気になったりする辛さは、ボク知ってるんだ。だからみんな、がんばろー!」
 両手をグーにして突き上げるぺリ子。
 彼女の元気に押されるかのように馬車は進み始めた。
 雪はまだ、はらはらと降っている。
 八人のイレギュラーズたちはそれぞれの馬車に乗り込んで、まだ見ぬ村を目指した。

●雪ってやつはこれだから……!
 希望の未来に向かってレディーゴー的なことを言った直後で申し訳ないが、彼らの馬車はいきなり止まることになった。
「寄る年波にゃあなっかなか勝てないもんだね……クッ肩と腰が……!」
 雪かき用のスコップを杖のようについて、てふは腰を曲げてゼーヒー言っていた。
 目の前には膝が埋まるほどの雪道。
 膝どころか馬車ごと埋まりそうな道をよけてもコレだ。見渡す限り綺麗に雪の平地が広がっているものだから、それを片っ端からかき分けて進まねばならない。
 ……とはいっても全部が全部じゃない。馬が進めるならなんとかなる。
「そう。雪は必要なだけどければいいんだ。だから最小限の労力で進むことができる」
 目をキランとさせたレンジー……は馬車の荷台で毛布に沈んでいた。
 掲げた手がプルプルしている。
「とはいえ……雪はやっぱり重たいねぇ……」
 そんな二人を脇に見て、リノはせっせと雪を道の端に投げるように掘っていく。
 寒さのせいで額に汗はかかないけれど、身体はずいぶんとぽかぽかしてきたようだ。
 防寒着で守った胸元をタオルでぬぐいつつ顔を上げる。
「小さい子(?)とお年寄りには酷な作業だったかしら」
「私にも充分酷だがね……」
 一生懸命雪を放り投げていたラァトもなかなかへばってきたようで、用意していたアイスティーをごくごくと飲み干している。
 戦闘とはまたちがう、地味だがキツい肉体労働だ。
 ぱっと見た限り細身の女性ばかりだ。これでは肉体労働はキツいのでは……と思ってふと見ると。
「……」
 レイアが黙々と雪をどかしていた。
 雪かきマシーンになりきっているのか、凍り付いた真顔で一定のリズムを刻んでいる。
 育ちのタフさゆえか、過酷な環境への耐性があるようだ。普段(リノとは別の方面で)セクシーでキャッチーな格好をしているレイアがこういう顔をしていると、誰にでも苦労はあるんだなあという気持ちになるものだ。
 その一方。
「うおー! ゆきー!」
「がんばるである。まかせるである」
 ペリ子と我那覇が先陣をきって雪をがしがし放り投げていた。
 我那覇の手際もさることながら、ぺリ子の火の玉みたいな元気さは見ていてちょっと元気が出る。ギフト能力以前に、ペリ子にはそういうところがあるようだ。
 漫画みたいにぎゅんぎゅん動くペリ子たち。
「困ってる皆が待ってるもんね! がんばるよー!」
「そうね……」
 そんな仲間たちにちょこちょこやる気を貰いつつ、ユウは馬車の荷台を押した。
「なるべく早く行くようにするから私達が行くまで何とか持ちこたえてなさいよ」
 ごとんと音を立て、馬車は再び走り出す。

●夜が長いのはだれのせい?
 雪の深い道を抜け、街道をことことと進む二台の馬車。
 先頭をゆく馬車には小さなカンテラがさがり、御者席に座ったリノがナイフに研ぎ石をかけていた。
 片目を瞑って根元から刃筋を覗くように翳すと、傍らに置いた酒瓶を掴んでぐっとあおる。
 ついでに干し肉をひと囓りして、もぐもぐやりながら作業を続けていく。
「こんな夜なのに、よく見えるものだね」
 暖かい紅茶を鉄のカップに入れ、後ろから差し出すラァト。
 リノは紅茶に口をつけると、ぴんと眉を上げた。
「あら、アリガト……これって?」
「紅茶にブランデーを入れてみました」
 お好きでしょう? とラァトはシニカルに小首を傾げてみせた。
 ラァトは後ろへ戻ると、立てかけていたリュートを手に取った。
 ぽろろんと弦をつま弾き、ゆったりとした音楽を奏で始める。
 リノはその演奏に耳を傾けながら、リラックスした気持ちで夜の見張りを続けた。

 ラァトの演奏に乗せられるようにアタッシュケースを引き寄せるレイア。
「そうだ。カードゲームでもしてみます? ダイスやコインなんかもありますよ」
 ケースを開いて綺麗なトランプカードを取り出すと、レイアは慣れた手つきでカードシャッフルを始めた。
 具体的にいうとオーバーハンド→ハンドリフル→ウォーターフォールである。なんだかもう手品みたいなシャッフルをするものだからペリ子がかぶりつきで観察し始める。
「やろうやろう! ボク、ババ抜き最強だよ!」
「ほう? 最強かい」
 縁によりかかって目を閉じていたてふが片目を開ける。
「前にやった時は『ほんとうにやるやつはじめてみた』って言われたよ!」
「ほう……」
 なんだか本人のなかで意味が変わっていそうな言葉だ。
 が、百聞は一見にしかず。てふは勝負に乗ってみることにした。
 ではいきますよーといってカードを片手で器用に弾いて素早く分割していく。
 ――それから数分後。
「こっちかな」
「ひいっ……!」
「こっち?」
「ほっ……」
 絶望と希望の表情をいったりきたりするペリ子。てふは二枚のカードを左右にいったりきたりしながらペリ子スイッチを楽しんでいた。
「うん、ほんとうにやるやつ初めて見たよ」
「勝負以上におもしろいことになってきましたねえ」
 レイアはカジノコインをケースから取り出すと、指の上でくるくる回して見せた。
「お金かけてポーカーでもしてみます?」
「ぽーかー!? ボク最強だよ!」
「やめときな! 死ぬよ!」
 その後、無課金ポーカーで遊んだところペリ子が謎のラックで馬鹿勝ちした。大盛り上がりで大満足のぺリ子が寝袋に入ってスヤァした後、てふはレイアの肘を小突いてこう言った。
「あんた、イイ悪党だね」
「なんのお話でしょう?」
 レイアは服の下に入ったカードを放出して、ぺろりと舌を出した。

 馬車の上を太陽が昇り、過ぎていき、また登っては過ぎていく。
 日のある道をたかたかと進む馬車の御者席には我那覇。
 その後ろではレンジーとユウが向かい合って座っていた。
 気分のスッキリとする香りが満ち、紅茶が小さく湯気をあげる。
 冷めつつある紅茶ののこりを飲み干して、レンジーとユウは同時に本をぱたんと閉じた。
 二人は向かいの顔と本を交互にみやり同時にスッと差し出して交換した。
 その時である。ユウが耳をぴくりと動かした。
「皆」
 御者席の我那覇がよく通るように声を発する。
「雪狼である」
「やれやれ、もう来たのか。次の本が読めると思ったのに」
 とまる馬車。
 獣の威嚇する声が囲んでいるのがわかる。
 レンジーはそばにおいた帽子をスッとかぶり、別の本を手にとって立ち上がった。

●雪狼と自然の掟
 馬車の屋根に飛び乗り、長弓に矢をつがえるてふ。
 皺のよった目尻をきゅっと細くして矢の狙いをつける。
「出遅れてはいなさそうだ。数は?」
 下から顔を出したレンジーに『2匹』と小さく応えると、てふは遠くへと矢を放った。
 アオーンという遠吠えが続く。
「けど仲間を呼んでるね。急いで倒したほうがよさそうだ」
 次から次へ敵が増えてはキリがない。レンジーは本の表面をサッと撫でると、植物の種のようなものを手に取った。
「まずは動きを封じていこう」
 レンジーが放った種は雪狼の眼前で急速に芽吹き、長いツタを伸ばして顎や足へと絡みついていく。
 身動きがとれなくなった所で、てふが絶妙な位置へと矢を打ち込んでいく。
 その横を駆け抜け、馬車へ近づいてくる雪狼。
 放っておけば積荷や馬が襲われてしまうだろう。
「つまり、ボクの出番! ペリ子きーっく!」
 荷台から飛び出したペリ子が、近づく雪狼を蹴りつけた。
「ペリ子ぱーんち!」
 更に飛びかかる雪狼を殴りつける。
 そして横ピースした手を目元に翳すと、瞳に太陽の印を現わした。
「ペリ子びーっむ!」
「びーむ!?」
「でるのか!?」
 それぞれ振り返るリノと我那覇。
 ペリ子はそのままの姿勢で一秒ほど硬直し、小さく『あっ』と漏らした。
「でないや!」
 かわりのペリ子チョップで雪狼をはたきおとした。
 で、あろうな。という顔で杖を握り、コンビネーションアタックを仕掛けていく我那覇。
 我那覇はそのままの調子で自分にパワードレジストを付与すると、身体能力を活かしたコンビネーションで雪狼を戦闘不能にしていく。
 ひとつ遅れて馬車から飛び出してくるユウ。
 飛行能力で上をとると、魔力放出で接近する雪狼をはじき返した。
「馬車を守る必要がありそうね」
 ユウは飛行状態のまま馬車の上に陣取ると、ミスティックロアで攻撃力を高め、魔弾と魔力放出で雪狼の撃破を始めた。
 反対側では、ナイフを逆手に構えたリノとハルバートを引っ張り出してきたレイアが雪狼とにらみ合っている。
 雪狼は左右から時間差で飛びかかるように短くコンタクトをとると、まずはリノめがけて飛びかかった。
 リノは『歯をたてちゃだぇめ』と囁くと、防御用のマントを腕にぐるぐると巻いて噛みつきをガード。刃を身体にたてて引き裂いていく。
 一方でレイアは飛びかかる雪狼をハルバードスイングで打ち払い、流れるように地面に突き立て、ポールダンスもかくやというなめらかさで雪狼を蹴り飛ばした。
 それでも起き上がろうとする雪狼に手をかざし、威嚇術を打ち込むラァト。雪狼はぎゃんと声をあげ、そのままぐったりと動かなくなった。
 何匹かの雪狼が倒され、白い雪地を血で染めている。それを見て不利を悟ったのか、雪狼たちは悲鳴のような声を上げて逃げていった。
「なんとか撃退できたみたいね」
「この狼どうします? 食べたり出来ます?」
 雪狼を覗き込むレイアやリノたち。
 レンジーはちょこちょこと調べてみたが、難しい顔をして首を振った。
 食べられないことはないけれど、道具が少なくて難しそうなのだ。冬に強い雪狼の毛皮も防寒着の素材として貴重そうだが、処理するのに随分手間がかかってしまいそうだ。
 困っていると、ラァトがぽんと手を打った。
「うん、大丈夫そうだ。香草は持ってきているね? それとナイフを貸してもらえるかな」
 レンジーから香草を、リノからナイフをそれぞれ借りるとラァトは素晴らしい手際で雪狼をさくさくとさばいていった。
 そうしてできあがった可食部を血抜きのために干し、毛皮はお土産として袋に詰め、食べられないところは大地にかえるよう土に埋めた。
「今夜はステーキだ。期待していいですよ」
 準備を終えたラァトが、ウィンクをしたように見えた。

●いただきますが言えるように
 たき火。
 回る肉。
 油の落ちるぱちぱちという音。
 うまい具合にできあがった骨付き肉をとりあげて、ラァトはどうぞと差し出してきた。
 こんなものを前にして、目を輝かせないものがあろうか。
 ペリ子はわぁいと言ってかじりつき、レイアや我那覇までもどこか無邪気にかじりついた。
 その肉のなんと美味なことか……!

 流石にご飯が沢山あるということで、リノやてふやレンジー、ユウも一緒にご飯を食べることにした。沢山食べたし旅路も順調だ。八人はたき火を囲んで交代で睡眠をとることにした。
「偶には夜空を見るも悪くないわよ」
 ユウはそういって毛布にくるまっている。
 一方でてふは雪狼が狙ってくることを考えて罠を仕掛け、安全を確保していく。
 レンジーは休む馬に毛布をかけて、顔を撫でてやった。
「寒い中、お疲れ様。村まではあと少しだ」
 リノはそんな彼女たちにパチンとウィンクをして、たき火の前で鼻歌をうたいはじめた。
 輝かんばかりの星空の下、薪がぱちりと音をたてる。

●助けを求めたあなたのために
 早朝。
 いつものように雪かきに出たパン屋の男は遠くからやってくる馬車に目を疑った。
 目をこらし、それが物資を積んだ馬車だと分かると、スコップを放り出して走る。
 みんな、助けが来たぞ!
 その声に応じて家々を飛び出す人々。開く窓。
 村についた二台の馬車は、驚くような笑顔で迎えられた。
 運びきった八人のイレギュラーズたちはみなちょっぴり誇らしく、しかしこれで終わりではないぞとばかりに村の人々の手伝いに出て行く。
 それは春より先にやってきた『暖かいもの』のお話である。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

 おかえりなさいませ、イレギュラーズの皆様。
 皆様のおかげでスライディバー村の人々は冬のために飢えることなく、病に倒れることもなかったそうです。
 あれから沢山感謝されて村を出た皆様の馬車は物資を下ろして空っぽになりましたけれど、なぜだかぽかぽかと暖かい気持ちでいっぱいになったことでしょう。

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