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シナリオ詳細

春の禍

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●春眠暁を覚えず。けれど冬眠は終わった。
 幻想の片田舎にあるある山村。村の脇には清流が流れ、水車小屋が設置されていて日々小麦などがひかれている。
 村の裏から徐々に勾配を増していく傾斜の先には山があって、季節折々に恵みをもたらしてくれた。
 畑では春野菜を収穫したり、これから植える時期の野菜を植えたり。
 家畜小屋では子牛や子豚、子羊に子山羊が生まれて女子供は乳しぼりや毛刈りや子供たちの世話で忙しい。
 長く厳しい冬が終わり、命がやってくる季節。雪崩や鉄砲水の心配も少なくなってきて、忙しいながらも村人たちは充実した日々を過ごすはずだった。
「うわぁぁぁ! また魔獣が出たぞ!」
「家畜小屋がやられた!」
「こっちは作り直した畝を踏み荒らされた!」
 冬眠を終えた動物たちが空腹で彷徨い出て、山菜取りに訪れた村人が怪我をすることはよくあったが、今回現れたのは魔獣。しかも里に下りてきて悪さをする。
 今まで駄目にされた畑の所有者は八人にのぼり、家畜小屋が五棟と民家が四軒、巻き添えで倒壊している。
 被害にあった人たちは知り合いの家や家畜小屋に居候させてもらっているが魔獣をどうにかしない限りこの村に安寧とした日々は戻ってこない。
「ローレットに……ローレットに使者を出すんだ。このままじゃ村が全滅する!」

●魔獣退治
「皆さん、集まってほしいのです。幻想の村から救助の依頼が届きました。イノシシに似た魔獣が畑や村を荒らしまわっているそうなのです」
『新米情報屋』ユリーカ・ユリカ(p3n000003)は痛ましそうな顔でローレットに集まっていた冒険者たちに声をかける。
「頭頂部に二本の角、口元にマンモスのような牙、大きさは普通のイノシシの三倍くらいある魔獣が五頭、冬眠の空腹からか村の畑を襲っているのです」
 攻撃方法は角で刺し貫くようにする頭突き、牙を振りかざした薙ぎ払い、そして圧倒的な質量による押しつぶし。
「柵や罠は、壊してしまうそうなのです。落とし穴も試したそうなんですけどベテランの猟師の方がつくっても些細な地面の違いから気付かれてしまうとおっしゃっていました。襲撃は午前と夕方。退治は明りで警戒されそうなのと、ものが見えにくくなるから夕方より午前を推奨するのです」
 それから、これはボクからの個人的なお願いなのですが、とユリーカはそっと付け加えるように『お願い』を口にした。
「駄目になった畑とか、家とか、家畜小屋とか、あと水車小屋も破壊されたそうなのですけど……修復とかを、手伝ってあげてほしいのです。春先はいろいろ忙しいので、多分手が足りていないと思うのです」
 魔獣の肉が食べられるかどうかは定かではないが、皮や角、牙は加工すれば使うことができるだろう。そういった方法で出費を埋める手伝いをしても喜ばれるのではないだろうか。
「それまでの収穫で次の冬を超えられる生存者の数が決まるような厳しい生活です、どうか一刻も早く魔獣の討伐を済ませて、村人さんを安心させてほしいのです」
 よろしくお願いします、とユリーカは頭を下げたのだった。

GMコメント

魔獣の討伐と村の復興支援が成功条件となります。

魔獣
攻撃方法はオープニングに記載されている通り、頭突き(角あり)、牙を使っての薙ぎ払い、転んだ相手を押しつぶす、になります。
猪と違って泥を浴びたりはしないようです。
また、罠の類はかなりの確率で看破しますが、食欲がすさまじいため野菜に見せかけた作り物などには比較的引っかかりやすいです(そういった餌を使用する場合、また戦場用として駄目になった畑を貸してもらえます)
村人たちも戦力にはなりませんが細かい備品の調達などに協力してくれます。
魔獣が現れるのは午前十時ころと夕方五時過ぎ。
野生の生き物同様火などを警戒することと、村の復興支援があるので午前中に討伐するのがいいでしょう(戦闘パートから復興支援パートになる流れです)
●情報精度
 このシナリオの情報精度はAです。
 想定外の事態は絶対に起こりません。

■ □ ■ □
MSより。
お久しぶりです、または初めまして。しばらく休止していましたがまたこちらでも筆を執らせていただくことになりました、秋月雅哉です。
以前イノシシを倒して食おう、というシナリオを出した気がしますが今回の魔獣はギフトなどで何でも食べられる人以外はお腹を猛烈に壊しますのでご注意ください。
角と牙と毛皮は利用できます。
まだまだ未熟ですがよろしくお願いいたします。

  • 春の禍完了
  • GM名黒筆墨汁
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2019年05月11日 22時20分
  • 参加人数8/8人
  • 相談4日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

ラダ・ジグリ(p3p000271)
灼けつく太陽
日向 葵(p3p000366)
紅眼のエースストライカー
ランドウェラ=ロード=ロウス(p3p000788)
黄昏夢廸
津久見・弥恵(p3p005208)
薔薇の舞踏
リナリナ(p3p006258)
ウィリアム・ハーヴェイ・ウォルターズ(p3p006562)
奈落の虹
ハッピー・クラッカー(p3p006706)
爆音クイックシルバー
アルク・テンペリオン(p3p007030)
蒐集氷精

リプレイ

●季節の横を歩く。春は立ち止まってくれない。
 野山を越える馬車の蹄。小石をはねる車輪の音が、スプリングごしに長いすに伝わった。
 『寝湯マイスター』ウィリアム・ハーヴェイ・ウォルターズ(p3p006562)は揺れる馬車と流れる車窓、そしてページをめくろうとする春風の中で、動物図鑑を開いていた。
「イノシシ型の魔獣(モンスター)が五体とは、随分だね。小さい村なら酷い被害が起きそうだ。村の人たちが安心して暮らせるように頑張ろう」
「どうして村に来ちゃったのかな? 今年は山のドングリ少なかったのかな?」
 横では椅子に座って(?)肩を左右にこっくりと揺らしていた『爆音クイックシルバー』ハッピー・クラッカー(p3p006706)が、こっくりした勢いのままウィリアムの図鑑を覗き込んだ。
「けど人里に来ちゃったならしかたないな。生存競争じゃ! 生命のことわりじゃー!」
 両手をグーにして突き上げるハッピー。
 モンスターの気持ちを考える優しさも大事だが、それ以前に優しさを与えられるだけの余裕を持たねばならない。
 『静謐なる射手』ラダ・ジグリ(p3p000271)は銃口を上にして抱えていたライフルの銃身をそっと撫で、そんなことわりを思い出していた。
「春に食料を蓄えられなければ冬を越せなくなる。大事な仕事だ。やれるだけのことは、やろう」
「やれるだけの、というのは……」
 きちんと膝を揃えて椅子に座っていた『銀月の舞姫』津久見・弥恵(p3p005208)と『原始力』リナリナ(p3p006258)が、ちらりとラダたちの方を見た。
 依頼内容は『モンスターの討伐』ではあるが、実際的に求められてた『村の復興作業』のことを示唆したものである。
「幸いにも、イレギュラーズは特技を持った連中揃いだ。津久見もそうだろう」
「そう、ですね」
 壊された村で何が出来るだろう。八人はそんな風に考えて、自分の能力や才能に振り返っていた。
 ぱたん、と本の閉じる音。ウィリアムは目を閉じて眉間をかるくもんだ。
「襲ってきたのがただのイノシシだったら、いい収入源になったのに。五頭だけでも狩猟成果としてはなかなかだ」
「確かに」
 承認経験の深いラダは深く頷いた。
「だが喰うだけが価値ではない」
「肥料にするとか、かな」
 『今はただの氷精』アルク・テンペリオン(p3p007030)は流れる精霊との会話を一度中断して、ラダたちの話題に混じってきた。
「そこらへんは詳しくないんだが、食べる以外に使い道があるのか?」
「一般的には毛皮や大きな骨、特に角が取引されることがあるな。加工の必要はあるが」
 『黄昏夢廸』ランドウェラ=ロード=ロウス(p3p000788)が右腕をゆっくりと撫でた。
「こういうとき、何でも食べられる身体だったらシンプルだったんだがなあ」
「そういうのはしょうがないっスよ。人間、手持ちのカードで勝負するもんっスから」
 『紅眼のエースストライカー』日向 葵(p3p000366)が膝の上で器用にサッカーボールをくるくると回しながら言った。
「例えばオレ、血ならいけるっス。吸血鬼なんで」
 世の中にここまで明るく『吸血鬼なんで』と言える者も珍しそうだが、葵はビッと親指を立てて笑った。
「けど美味しいかどうかは別物っスね。血抜きの時に味みときますか……」
「そろそろ到着するぞー!」
 ハッピーが馬車の窓から顔を出し、ばたばたと手を振った。
 村の外から商人以外が来るのが珍しいのか、子供たちが道の左右に集まって手を振りかえしてきた。
 そのなかに立つ老人が、深く頭を下げる。
 アルクが小首を傾げていると、横に座っていたランドウェラが『きっと村長だ』と教えてくれた。
 止まった馬車から下り、頭を下げる弥恵。
「このたびはローレットをご利用頂きありがとうございます。魔獣(モンスター)の討伐ということですが……」
「はい、遠いところ、ありがとうございます。ですがこんな有様でして……」
 ろくなお構いもできませんが、と村長を名乗る男は眉尻を下げた。
 小さく首を振る弥恵。
「構いませんよ。それより少しお願いが……」
 弥恵は荒らされて散った作物と、泥まみれになった布や枯れ木を指さした。

●包囲作戦
 ライトグリーンの鳥が木枝から飛び、大きく羽ばたきながら空高くで翼を広げた。
 滑空状態のままゆっくりと旋回を開始。
 旋回の中心点は村北側の林だった。
 ウィリアムは植物への知識から獣道を策定。モンスターが村へやってくるための道を予測し、接近を皆に知らせる役目を負っていた。
 小鳥が小さく鳴く。
 視界の共有を切って主観視点に集中し始めたウィリアムは、被っていた泥布の下から鏡をちらつかせた。
 同じく、あちこちの泥布から同じような光が帰ってくる。
 ややあって、イノシシ型のモンスターが林を抜け、村へとやってきた。
 大きさにしておよそ三倍。軽自動車くらいの物体が、一度に五体徐行速度で接近してくるさまが想像できようか。
 モンスターたちは畑の中央へと向かうと、作物を掘り出して食べ始めた。
 その時点でランドウェラが油を吸わせた松明に火をつけ、畑の周囲に巻いて置いた油布へ点火。
 日を上げた畑の様子に僅かな驚きを見せるモンスターたち。
 これらは全てモンスターを畑の中央へおびき寄せるための罠である。
 村人を避難させ、臭いの漏れにくい泥布で身を隠し、畑外周側の作物をあえて撤去し、中央を掘り返すように仕向けたのだ。
 炎を本能的に恐れるのか、僅かに中央へと寄っていくモンスターたち。
 とはいえ軽自動車サイズのイノシシである。放置すればすぐに駆け抜けてしまうだろう。
 泥布(内側は清潔な布との二重構造になっている)をはねのけ、弥恵が立ち上がった。
 助走をつけて炎の上を飛び越えると、モンスターたちの前へとあえて堂々と姿を見せた。
「月の舞姫、華拍子。天爛乙女の津久見弥恵参上です♪ 見惚れると怪我をしますよ魔獣さんっ」
 まるで誘うように手招きする弥恵。
 彼女の魅力にひかれたのか、それとも獣らしい本能か、はたまたモンスターらしい凶暴性ゆえか、頭二頭の巨大イノシシモンスターが弥恵めがけて同時に突撃を開始した。
 二台の軽自動車が一斉に突っ込んできた経験がおありの方は、そういないとは思うが、その場から飛び退かずにいるのはなかなか勇気のいることだ。
 が、弥恵はその場を動かなかった。
 なぜならば。
「ストッーーーープ!」
 横から割り込んだハッピーが両手を翳し、突撃するイノシシをそれぞれ手のひらで受け止めたのだ。
「ストップ・ザ・ネイティブイノシシ!」
 足もないのに踏ん張って、突撃する巨大イノシシの突進をぴったりと止めた。
 それでも尚ハッピーを突き飛ばそうと、イノシシたちは地面を猛烈にひっかいて力を加えた。
 しかしここは畑。
 つまりは桑で耕された柔らかい土である。
 一生懸命足を動かすほど足をとられ、動きは鈍くなっていくのだ。
 弥恵はそんなイノシシめがけ見えない糸を放つと、イノシシ二頭をひとまとめにするようにぐるぐると巻き付けていった。
 両手から伸びた糸を締め付けるように、引く。
 横向きに力を加えられたイノシシたちはお互いに頭をぶつけ――た次の瞬間、ライトニングの魔術が二頭の腹を貫いて走った。
 ウィリアムの放った魔術である。
「チャンスだよ。もう一発」
「分かった。距離を測って……」
 ウィリアムとイノシシたちを挟んだ対角線上に立ったアルクは目測で距離をはかると、イノシシだけを貫けるように氷の手裏剣を作成、投擲した。
 直接ぶつけるのが目的ではない。放物線を描いて地面に刺さった手裏剣と自らの間に激しい電流を引き起こし、イノシシたちを攻撃するのが目的だ。
 ズドンという激しい音。
 突撃を行なわなかったイノシシたちはその場から本能的に飛び退いたが、そんなイノシシの最後尾が突如転倒した。
 続いて銃声。足から激しく出血するイノシシ。
 近くの小屋の屋根に布を被って身を伏せていたラダが、レバー操作で空薬莢を排出。ライフル弾を装填すると、まるで電動ミシンのような正確かつ高速な操作でイノシシたちを射撃していった。
 散り始めるイノシシたち。
 炎よりも恐ろしいものを認識し、抵抗を始めたのだ。
 事ここに至っては炎の罠は用済みだが……地の利はまだ活かしておきたい。
「よ――っと!」
 助走をつけ、激しい跳躍をしかける葵。
 予め投げて置いたサッカーボールへむけ、オーバーヘッドシュートを打ち込んだ。
 赤いオーラを纏ったボールが恐ろしい回転をかけてイノシシへ直撃。
 一方の葵はしっかりと足から畑の外に着地し、戻ってきたボールを胸で受けた。
「フォワードを抜けてくる奴がいるっス!」
「ああ、任せろ」
 ランドウェラはあえて炎を抜けるようにゆっくりと歩くと、呪装された右腕を顔の前へと持って行く。
 突進をしかけるイノシシへ、右手、そして右手から伸びる爪の間から大きく目を見開いた。
 赤く燃える血のような目が、イノシシの眼に映り込む。
 ただそれだけでイノシシの身体が泥のように重くなり、足をもつれさせランドウェラの手前で転倒した。
「そうか……」
 ランドウェラは転倒したイノシシを見下ろし、目を細めた。
「恐怖しているのか。僕たちのことを」
 下ろした手に、黒い雷がはじける。

●命は火。やがて消えるもの。
 畑中央で始まった戦いは、徐々に林側へとシフトしていった。
 そちら側を担当していたウィリアムを突破しようと、炎を無理矢理駆け抜けてイノシシたちが突進するようになっていったのだ。
「悪いね。帰すわけにはいかないんだ」
 ここで逃せばまた村が襲われ、冬を越せなくなってしまうだろう。
 まして手負いのイノシシは凶暴性が増すともいう。モンスターの彼らにその傾向があるかはわからないが、少なくともここで全て倒さなければ安全を守れない。
 ウィリアムはパチンと指を鳴らして水の球を作り出すと、突進してくるイノシシたちめがけて指を振った。
 はじけた水が超高速で飛び、イノシシたちにぶつかっていく。
 たかが水鉄砲と侮ってはならない。ウォーターカッターの原理で肉体を破壊されたイノシシたちは目を見開き、死にものぐるいで突撃を続ける。
 そんなイノシシたちを、ラダはスコープの中に納めていた。
 コンマ一秒の未来をスコープの中に幻視して引き金をひく。
 銃口から飛び出たライフル弾頭には植物のツタめいた螺旋の彫刻がなされていた。筒のラインにそってよく回るため、そして――。
 スローに引き延ばされた風景の中で、わずかに遅れてイノシシの頭をライフル弾がめり込み、掘り進み、抜け、更にもう一頭の頭へと深くめり込んで止まった。
 斜めに転がるように、ウィリアムの前に倒れるイノシシたち。
 重ねていうが、軽自動車並みの大きさの動物がまとめて倒れるさまは、なかなかに圧巻であった。

 一方こちらは葵。
 先程のイノシシとは違って、村方向へと逃げようとするイノシシたちを対応していた。
 逃げ帰るという考えも捨て、半狂乱になって暴れようとしている個体のようだ。
「しょうがないっスね。弥恵、センターフォワードまかせるっス!」
 サッカーボールを胸でトスしてから蹴り込む葵。
 急速な横回転をかけたボールは奇妙なカーブを描いてイノシシの顔面に激突。
 跳ねたボールが高く上がった所で、弥恵は跳躍と回転をかけてボールをキック。
 柔軟な関節運動から放たれた空中ハイキックがボールに伝わり、イノシシの頭部へめり込むようにぶつかった。
 もう一度はねたボールを、真上へと大跳躍していた葵がオーバーヘッドシュートの要領で真下へと打ち返した。
 ボールがイノシシの胴体を激しく打ち、イノシシはよろめくように転倒した。
 その上へと器用に着地する弥恵。両手をY字に上げたまま、小首を傾げた。
「ええと……センターフォワードって、こういうのでしたっけ」
「こういうのっス!」
 葵は爽やかに親指を立てた。

「うおー! イノシシはやい! やばいはやい!」
 ハッピーは両手をばんざいの姿勢にしたまま猛烈に畑外周を走り回っていた。
 それを猛烈に追いかけ回すイノシシ。
 が、なにも無駄に走り回っているわけではない。
 ハッピーが駆け抜けた(?)直後、アルクがしこんでおいた氷の鎖をきゅっと引いた。
 転ばせ縄の要領でひっかかったイノシシの前足に、アルクは鎖の構造を瞬時に変えて絡みつかせる。
 強く引っ張り、動きを乱れさせた。
「重い、なっ……」
 イノシシの重量と突進の勢いに引っ張られそうになるが、くるりと反転したハッピーが両手をメガホンのように口元にあてて激しい叫びを浴びせた。
 音の波を制御してイノシシだけを対象にした轟音は、よろめいたイノシシを直撃した。
 まるで大きなバットで打たれたかのように飛んでいくイノシシ。
 ハッピーのもつ命中値の不安(【飛】の発動条件であるクリーンヒットに対する不安)をアルクのフロストチェインによる氷結効果で補った形である。
 飛んでいったイノシシはまた別のイノシシに激突。
 ドミノ倒し的に転倒したイノシシの腹に、ランドウェラが爪を突き立てた。
「悪いな。狩られる側だ、今回は」
 ランドウェラの突き立てた爪が黒い稲妻を生み、ぶつかってきたイノシシを巻き込んで暴れた。
 イノシシたちはおおきくびくんとけいれんした後、表面の焦げあとから煙をあげて動かなくなった。

●災害復興
「ぴーんぽーんぱーんぽーん!!!!ミ☆ わるいイノシシは退治しましたー! みんなー、もう大丈夫だよー!」
 高い所に登って、大声で呼びかけるハッピー。
 彼女(?)の声を聞いて最初に出てきたのは村の男たちだった。
「本当にやったのか?」
「すごいな……」
 軽自動車ばりの巨大なイノシシがあちこちに倒れているのを見て、村の男たちは家族を呼び出した。
 倒して終わりではない。村には人がいて、人には生活があって、生活には必要な設備が沢山ある。まずはそれらを立て直していかねばならなかった。
「ありがとうございます。報酬のほうは……」
「いいや、まだ終わってないよ」
 コインの入った布袋を手に現われた村長に手を翳し、ウィリアムは首を振った。
「壊れたっていう小屋や水車へ案内してくれるかな。それと材木も。修理をするよ」

 屋根やポールを伝って高所へ上り、風見鶏の修理をこなす葵。
 汗をぬぐい、ボトルのキャップを外して中身を飲み干した。
「うん。肉が食べられないのは本当らしいけど、血はいけるな」
 ふと見下ろすと、アルクやランドウェラたちが村の子供たちと共にイノシシの解体作業をこなしていた。
 勿論大きさと重さが大変なことになっているので、ランドウェラたちが手伝ったりロープを用いたてこの原理であれこれしていたが……。
「うまくできたな」
 アルクはため込んでいた焼き菓子や揚げ菓子を取り出すと、作業を終えた子供たちに配っていった。
 横で同じように金平糖を配っていたランドウェラへと振り返る。
「けど、食べられない獣をさばいてどうするんだ? 毛皮もずいぶん傷んでいるし」
 アルクの言うように、毛皮は戦闘の影響でえらく損傷していた。
 まるごと綺麗なままであれば好事家あたりに売れそうではあったが、このままでは村の防寒着にするのが精々だろう。
 ランドウェラは自分でも金平糖をつまみながら頷いた。
「大きな骨や角、牙あたりは別にして……細かい骨や肉を下降して肥料や家畜の餌にできる。食べられないなら食べられないなりに、利用の仕方はあるのさ」
「命は残さず使い切ろう、ってね!」
 あちこちの手伝いを追えたハッピーが手ぬぐいをもって現われる。
 修理作業を粗方おえたウィリアムも井戸から組んできた水をボトルに入れてやってきた。
「作業のほうはどう?」
「だいぶいいかな。そういえば、ラダは」
「私ならここだ」
 話をききつけて、ラダがのしのしと通りかかった。
 のしのしと、というのは荷車を引いて現われたがゆえである。
 ケンタウロス形態になり、本来馬車でひくはずの荷物を引っ張って現われたのだ。
「イノシシに荒らされると困るからな。安全な場所に保管していたものを取りに戻っていた」
 荷車の中にはあちこちの村から集めた復興支援物資が詰まっていた。
 清潔な布や日持ちする食料。衣類などである。まずはこれを使って急場をしのぎ、その間に冬に向けた設備を修復してくれということである。
「いつのまにそんなに」
「まあ……たまには商人らしく人助けがしてみたくなったのさ」
 割と省かれた話ではあるが、ラダは周辺地域の流通をよりよく回すことで資金を得、その資金をまたよりよく回すことで物資を得たのである。
 社会という流れがある限り、人間は割と無から有を作れるものだ。

 夜。
 酒場は一転して笑いと音楽に包まれていた。
 あれだけ荒れていた村は少しばかり綺麗になり、壊れたものも少しばかり直った。
 勿論完全復旧とはいかないが、確実に前に向いたのは確かだった。
 何より、村のムードが前向きになったことが大きい。
 そのムードの中心にあったのが、陽気なケルト音楽に合わせておどる弥恵だった。
 妖艶に、サービス多めに踊る弥恵の姿に、人々が手を叩く。
 夜は長く、春の陽気を思わせた。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

 代筆を担当しました、黒筆墨汁でございます。
 大変長らくリプレイをお待たせしましたことを前担当者に代わってお詫び申し上げます。

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