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シナリオ詳細

貴族令嬢は冒険がしたい!

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●冒険心
 「あはは! とうっ、えい! ふふふ、クワイタス! こっちよ!」
 白いワンピースを着た七歳ぐらいの可憐な少女が、美しく長い金髪を靡かせながら、木の棒片手に花畑を走る。
「ああっ、お待ち下さいリュミナお嬢様。そのように走っては転んでしまいます!」
 クワイタスと呼ばれた執事が困り果てた表情を浮かべながら少女を追う。
「平気よ、クワイタス。このまま街道のはずれの森に行って魔物を退治しましょう! 低級な魔物なら私が倒してみせるわ! きっと素敵な冒険になるに違いないもの!」
 やっと少女――リュミナに追いついたクワイタスは優しくその小さな両肩を掴み首を振った。
「いけません、リュミナお嬢様。低級な魔物と言っても恐ろしいものです。どうかその武器をお仕舞いになってお家へ帰りましょう」
「ふん、クワイタスはいつもそう。そう言って私をあの退屈な家に閉じ込めて置くつもりなのだわ。お父様のように。でもダメ、私は自由な冒険がしたんですもの、家に閉じこもっているなんてごめんだわ」
「やれやれ、お嬢様の冒険心には頭があがりません。……でしたら後十年、心身ともに立派になってからご自由にされればよろしいでしょう」
 クワイタスは十年も経てば立派な淑女となりこの小さな娘の冒険心も薄れて行くだろうと考え、思わずそう口にしてしまった。
「十年……長いけど、いいわ。あなたがそういうんですもの聞いてあげる」
 そう言ってリュミナは手にした木の棒を放り捨てると家路へと向け足を進めた。
 胸を撫で下ろすクワイタスは小さな少女に寄り添うように共に帰路へと付くのだった。

 ――そして十年後。
「さぁ、クワイタス! 約束の十年が経ちましたわ。いよいよ私の初陣のときですの! 準備なさい!!」
 美しく成長した少女はトレードマークの金髪を靡かせ自信に満ちあふれた出で立ちでクワイタスへと声をあげた。
 そう、少女の冒険心は尽きる事無く、増大し続けていたのだ。
 困り果てたクワイタスは眉根をよせながら、この貴族令嬢をどう諭せばいいのか思案の沼へと足を踏み入れるのだった。

●執事の依頼
「と、いうことでありまして、私が仕えるリュミナ・ミッターマイヤお嬢様の護衛をお願いしたいのです」
 ギルド・ローレットに顔をだしたミッターマイヤ家に仕える執事長クワイタスは、困り果てたように眉根を寄せながら話を切り出した。
「ミッターマイヤ家はアーベントロート領内の一貴族で、リュミナさんというのはそこのご令嬢になるのです。特に武芸に秀でているわけでもなく普通のお嬢様という感じなのですよ」
 資料をまとめてある羊皮紙を読み上げる情報屋の『新米情報屋』ユリーカ・ユリカ(p3n000003)はそう言うと話を続ける。
「依頼はアーベントロート領の南にある森で行う予定の魔物退治に護衛として同行すること、でいいのですよね?」
「はい、そして可能であれば冒険や魔物退治がいかに危険なものなのかというのを、実際に戦いながら諭してあげてほしいのです」
 クワイタスはほとほと困り果てたように頭を下げる。
「私の言葉はもう耳には届かないようでして、実際に戦い傷つく人達から、いかにリュミナお嬢様が戦いに向いていないかを諭してもらえれば納得して頂けるのではないかと考えているのです」
 クワイタスがいうにはリュミナはまともに剣も振る事ができない細腕らしい。しかし格好いいからという理由で愛剣を手放す事はないという。
 十年以上ものあいだリュミナに付き添いその溢れる冒険心を留めてきたクワイタスの心労が伺える。
「当然ながら依頼は護衛が優先なのです。リュミナさんにはできるだけ傷をつけないように皆さんには守ってあげてほしいのです」
「リュミナお嬢様は猪突猛進なところがありまして、放っておけば勝手に突撃を繰り返してしまうでしょう。この際目を瞑りますので強く緊張感を持った指示をだして頂ければと思います」
 しっかりとした指示がなければ勝手に動き出してしまう、とはいえ後ろで見させて置くのも我慢できずに飛び出しそうだとクワイタスは言った。
「今回依頼で行く森の奥には、根城にしているゴブリン達が五体いるのを確認しているのです。近隣に悪さをしているので丁度良い討伐相手なのです」
 できれば全員討伐してしまいたいが、不運にもゴブリン優勢となるようであれば撤退も必要だとユリーカは言う。あくまで依頼はリュミナの護衛であり、リュミナさえ無事ならば森の奥へ行って、冒険の危険さを説いて、帰ってくるだけでも良いのだ。
「私共の育て方が甘く少々高飛車な面もありまして、皆様にはご迷惑をおかけするかもしれませんが、何卒、お嬢様を宜しくお願い致します」
 粛々と白髪に染まる頭を下げるクワイタスはユリーカと共に特異運命座標達を送り出すのだった。

GMコメント

 こんにちは。澤見夜行(さわみ・やこう)です。
 このたびは、ご参加頂きありがとうございます。
 依頼の補足情報を下記に纏めておきますので、ご覧下さい。

●依頼達成条件
 ・リュミナ・ミッターマイヤが無傷または軽傷であること(重傷と死亡は失敗となります)
 ・ゴブリン五体の討伐、または戦闘後に撤退。

●情報確度
 Aです。想定外の事態は絶対に起きません。

●ゴブリン
 五体居ます。戦闘能力は低いですが、連携行動を行ってきます。敏捷性は低いタイプです。
 全員短剣か弓で武装しています。短剣三、弓二の割合です。

●戦闘地域
 街道からはずれた広い森の中です。人通りは少なく、一般人が巻き込まれる心配はありません。
 木々が生えており戦闘に活用することは可能です。その他目に付く障害物はなく戦闘に支障はでないでしょう。

●リュミナ・ミッターマイヤについて
 ミッターマイヤ家の次女。貴族令嬢として厳粛に育てられたはずが、幼い頃より人一倍溢れる冒険心を隠す事無く持ち続けていた。
 魔物を倒し名を上げることに興味があり、どこから耳にしたのか危険な洞窟に潜り財宝を得ることに夢見がち。
 今日もその細腕で無骨なショートソードをふらふらと振り回しながら、隙あらば家を飛び出し冒険者になろうと画策中。
 性格は高飛車で自信家。けれど経験者には従うべきということを理解しており、柔軟な対応力はあります。
 今回の依頼に先立ってフルプレートの鎧(うごけない)とグレートソード(持ちあがらない)を用意しました。 

 皆様の素晴らしいプレイングをお待ちしています。
 宜しくお願いいたします。

  • 貴族令嬢は冒険がしたい!完了
  • GM名澤見夜行
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2018年02月19日 21時10分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

ウィリア・ウィスプール(p3p000384)
彷徨たる鬼火
四矢・らむね(p3p000399)
永遠の17歳
巡離 リンネ(p3p000412)
魂の牧童
リリル・ラーライル(p3p000452)
暴走お嬢様
クローディオ(p3p000997)
クロジンデ・エーベルヴァイン(p3p001736)
受付嬢(休息)
ミリアム(p3p004121)
迷子の迷子の錬金術師
アイリス(p3p004232)
呪歌謡い

リプレイ

●いざ冒険へ
 貴族令嬢リュミナ・ミッターマイヤはそこにいた。
 依頼を受けた特異運命座標(イレギュラーズ)達が待ち合わせの村へと辿り着くと、一際場違いの格好でリュミナは待ちぼうけていたのだ。
 フルプレートの鎧に全身を包み、背丈はあるグレートソードを引き摺っている。これにはイレギュラーズ達も皆呆れかえる。どこから得た知識なのかはわからないが、そんな格好では満足に動く事も出来ないだろう。
 先が思いやられる。依頼を受けた八人の胸中は皆同じだった。
 リュミナがこちらに気づく。執事長のクワイタスから聞いていたのだろう、こちらに来ようと動き出そうとして、こけた。それはもう盛大に。
「あーあ」
 見事な転びっぷりにイレギュラーズ達の口が開く。
「大丈夫ですか?」
 『流浪楽師』アイリス(p3p004232)が駆け寄り声をかける。
「あ、あら。これは失礼。だ、大丈夫ですわ、これくらい、すぐに……」
 そう言って起き上がろうとするリュミナだが、鎧が重すぎて起き上がる事ができない。ジタバタと藻掻く様は裏返った亀のようだ。
「仕方ないね……起こすの手伝おうか」
 クローディオ(p3p000997)が仲間達に声をかけ、リュミナを抱え起こす。
 そうしてやっとのことで起き上がったリュミナは、ヘルムを脱ぎ顔を見せる。さっきまで転んで動けなかったというのにやたら良い笑顔(汗だくだが)でイレギュラーズ達に挨拶した。
「リュミナ・ミッターマイヤですの! 本日は私の冒険に付き合って頂けると言う事で、心強い仲間を得られて嬉しい限りですわ! えーと……」
 そこでイレギュラーズ達は一人ずつ名乗り自己紹介を終えた。
「それでは早速参りましょうか! 街道をはずれた森に入って魔物退治だなんてワクワクしますわね!」
「いやいや、その前に……」
 と、イレギュラーズ達は装備に突っ込みをいれる。
「あ、あら? これではダメですの? ドラゴンの炎にすら耐えるという一品ですのに」
 貴方は一体何と戦うつもりなのですか……? イレギュラーズ達は頭を抱える。
「立派な装備も、いいけど……動けないのは、きっと……危ないですよ」
 『彷徨たる鬼火』ウィリア・ウィスプール(p3p000384)が静かにリュミナを諭すと、『迷子の迷子の錬金術師』ミリアム(p3p004121)も後に続く。
「冒険は慣れた装備で臨むのが一番。優れた装備を用意しても、力が出し切れなければ自分にとって最良の装備とは言えないよ。まずは着て歩き、振って戦えるかを試してみるべきかも。無理なら、より行動の支障にならず、使い慣れた装備を選び直すのが定石だと思うんだ」
「慣れてない装備だとそれだけで命取りだからね」クローディオが相槌を打つ。
「今回戦うことになるゴブリンは低級とはいえ、素早く恐ろしい魔物です。動けなくては的になってしまいますし、命を失う危険だってあるんですよ。ご自身にあった装備になさってください」
 アイリスがそういうと、リュミナは少し思案し、不承不承に頷いた。
「仕方ありませんわね。冒険者の先輩である皆さんが言うのであれば、そうなのでしょう。いいですわ、いつもの装備があります。それに着替えてきますわ」
 そういうとリュミナは宿へと向かった。牛歩なその動きを見たイレギュラーズ達は、これはしばらくかかるな、と天を仰ぐのだった――。

 一刻の後、リュミナは愛用のショートソードに軽装の出で立ちで舞い戻ってきた。
「本当にこんな格好でよろしいのですの? これではちょっとしたことで怪我をしてしまいますわ」
 などと、どこか心配そうに言うリュミナ。
「いやいやー、冒険とは危険がつきものだよー。怪我だってするし」
 『Esper Gift』クロジンデ・エーベルヴァイン(p3p001736)がハッキリとそう言うが、リュミナは「そういうものですか」と軽い返事を返すのであった。
「では、気を取り直してさっそく参りますわよ! 目指すは南の森の奥地。魔物の巣窟! 魔物退治に出発ですわ!」
 貴族令嬢とは思えないほど活発なリュミナは先行して走り出す。
 この後に待つめんどくさそうな事態を予想しながら小さな溜息を漏らすイレギュラーズ達は、一人駆け出すリュミナの後を追いかけるのだった。

●初めての戦い
 街道外れの森に入ってしばしの後、緊張の糸が緩んだリュミナがイレギュラーズ達に話しかける。
「そういえば、女性の方が多いようですけれど、冒険者は女性も多いものなのかしら?」
「ふっふーん、お嬢様。今回の依頼に女性ばかり集まって、もしかして私もバリバリ冒険できるのでは……? とか思ってません!? こう見えても我々! 歴戦の猛者ですので! 侮らないで頂きたい!」
「そ、そうですわよね、皆さんお強そうですもの」
「そりゃそうです。こうして護衛できるほどの実力を付けるためにもたくさんの努力をしたのです! いいですか、先輩冒険者の言う事はしっかり聞くんですよ!?」
 冒険回数一回の『永遠の17歳』四矢・らむね(p3p000399)が先輩風を吹かせて言う。そして歳のことを聞かれて悔しそうに顔を歪ませた。
「え、私が同い年なのに経験豊富そう!? ハハ、そッスね……くそぅ! その目で私を見ないでください!!」
 憧れとともに強い自信を湛えるリュミナの瞳に、かつていた後輩アイドルの瞳を思い出し、重ねて悔しそうにするらむね。
 和やかな世間話のついでに、『魂の牧童』巡離 リンネ(p3p000412)が茶化すようにリュミナに言う。
「今回の仕事はよく覚えておくようにねー、きっとお嬢様にとって大切な何かがあるはずさ」
 自身満々に頷くリュミナ。きっと初めての冒険が大成功に終わると信じて疑わないのだろう。
 いかにもニュービーって顔をしつつ、自分の仕事を淡々とこなすのはクロジンデだ。植物と意志を交わしながら超視力で周囲の警戒を行う。複雑な森の地形もしっかりと瞬間記憶していた。
 最低限これくらいはできないとね、とリュミナへ当てつけるように言うと、リュミナは大層感心したように頷いていた。
「静かに……いました」
 ウィリアが木陰から指さすと、その先にこの森を根城にするゴブリン達がいるのが見えた。数は五体。暢気に過ごしているのが見える。
「あ、あれが魔物ですの……ゴブリンという奴ですわよね。うぅ、醜悪ですわ」
「まだこっちには気づいてないですわね。それじゃ奇襲といこうかしら。リュミナさんは前衛として最前線で戦ってもらいますわ。わたくし達の邪魔をしなければ好きにしていいですわ」
「ぜ、前衛、と、突撃ですわね。ま、任されましたわ。突撃……突撃……」
 さすがのリュミナも初めての戦闘を前に緊張しているのがわかる。怪しげに言葉を繰り返している様は若干不安がよぎるが、なんとかするしかないだろう。
「リュミナちゃんは落ち着いて、僕の近くで立ち回るようにね。一人で深追いしないこと。陣形が崩れたら集中攻撃されて総崩れになることも有るからね」
 クローディオが極めて冷静にそう言い含めると、リュミナは何度も首を縦に振るう。
「突撃、突撃……わ、わかりましたわ」
「それじゃ、いくよ」
 イレギュラーズ達は気づかれないように陣形を組ながら、ゴブリン達へと奇襲をかける。狙いは弓持ちだ。
 経験豊富なミリアムを中心に、遠距離攻撃ができるメンバーが一斉に遠距離術式を放つ。
 放たれた魔力の塊は、寝こけている弓持ちゴブリンへ直撃し、断末魔の悲鳴を上げさせる事なくその命を絶った。
 同時に木陰から飛び出すイレギュラーズ達。ゴブリン達も瞬時に武器をとり臨戦態勢となる。
「突撃、突撃ですわー!」
 イレギュラーズが飛び出すのと同時、リュミナが奇声をあげながらゴブリン達に一人突撃を敢行する。愛用のショートソードをふらふらと振り回しながらゴブリン達に斬ってかかる。
 素人丸出しのその剣戟は、しかし予測不能の太刀筋となってゴブリンの肌を浅く傷つける。
「や、やりましたわ!」
 さらに深追いしようとするリュミナをウィリアが遮る。
「戦いは……皆で、協力です。一人で、逸っては……いけませんよ」
 リュミナへと反撃を加えようとするゴブリンの一撃を、距離をつめたクローディオがその身を盾に受け止める。短剣で切られた肌に血が滲む。
「あぁ……血が!」リュミナがクローディオを心配するように声を上げる。
「平気だよリュミナちゃん、それより落ち着いて僕と一緒に立ち回るようにね」
 念を押すようにクローディオが声をかける。リュミナはとにかく返事をするように頷いた。防御に意識をさいたクローディオは鉄壁の構えでリュミナを守ろうとその身を盾にし、手近なゴブリンをマークした。
 クロジンデは短剣持ちのゴブリンから十分な距離を取っていた。魔力を増幅し、遠距離術式の狙いを定める。
「自由にはさせないよー」
 仲間のマークがついていない短剣ゴブリンを狙って魔力を放つ。圧縮された魔力の塊がゴブリンの腹を打ち付け悶絶させた。
 リンネは仲間達の中心に位置し、仲間達を鼓舞する存在となる。
「大丈夫、私達が優勢だよー」
 前衛が相手をしているゴブリンを狙って、圧縮した魔力塊を放ちダメージを与えていく。いくつもの魔力塊を浴び、短剣ゴブリンが血を吹いて倒れた。
 弓持ちのゴブリンが、リュミナを狙い矢を射る。
 放たれた矢はリュミナをかばうクローディオの腕を斬り裂いて行く。噴き出る血がリュミナの服に返り飛ぶ。
「クローディオさんすぐに治療するからね!」
 らむねが短く詠唱すると、癒やしの光がクローディオを包み込む、見る間に塞がる傷跡。リュミナが感嘆の息をはいた。
「味方の負担が嵩む前に敵をやっつけるのが僕の役目だからね……手抜きはなしだ。全力で行くよ」
 ミリアムが魔力を増幅し、純粋な破壊力としての魔力を放出する。弓持ちのゴブリンへと放たれた魔力の奔流が直撃する。弓ゴブリンは為す術無く絶命するに至った。
「きゃ、きゃあああ」
 残る短剣ゴブリン二体が、同時に地を蹴り、素人同然の動きをするリュミナへと襲いかかる。一矢報いる気か、追い詰められたゴブリン達の凶刃は鋭い。
 だが、その動きに対応してリリルとクローディオが立ちふさがる。連携された動きにたいして、イレギュラーズ達もまた連携で対応していく。
 振りかざされた刃は、二人の肌を浅く切り裂くに留まった。鈍い痛みに歯を食いしばる。
「援護します」
 アイリスが遠距離に則した魔力塊を放ち短剣ゴブリンの体勢を崩す。
「もらいましたわ!」
 崩れた体勢のゴブリンにリリルがその手を伸ばす。接触した掌から魔力が流れ、生命の再生能力を逆転させ、命を奪う破壊の力となって襲いかかる。
 一瞬にして襲いかかったその衝撃にゴブリンは耐える事ができない。血と泡を吹きながらその命に終わりを告げた。
 残す一体へ向けウィリアが駆ける。霊体の両腕が炎を纏い、刃となってゴブリンに襲いかかる。
「炎で……灼き斬って、あげますよ」
 右腕を袈裟斬りに振るい、ゴブリンの濃緑の肌を切り裂くと続けざまに左腕を突き刺し、その心臓を停止させる。
 灼けるような臭いを放ちながら、ゴブリンはゆっくりと膝をつくと、そのまま倒れた。
「や、やりましたの……?」
 ブンブンと剣を振り回しているだけだったリュミナはそう言うと、腰を抜かすように膝を折った。
 そう大変ではない戦いであったが、無事に戦いきることができたことにホッとするイレギュラーズ達。
 そんな面々を見て、リュミナはどこか悔しそうに唇を咬むのだった――。

●憧れは形を変えて
「何もできませんでしたわ……」
 森の出口へと向かう最中。ずっと黙りこくって居たリュミナが小さく呟いた。
 見るからに落ち込んでいる。それでも慰めようとは思わなかった。冒険とはかくも厳しい物なのだと教えるための今回の冒険だ。
 落ち込むリュミナにらむねが口を開く。
「へいへい、どうですかお嬢様! 冒険って楽しいだけじゃないんですよ! 痛い、苦しい、汚い、危険な部分だってあるんです! ……芸能界もそうでした」
 遠い目をするらむねに、「芸能界?」と首を傾げるリュミナ。
「怖かった……ですか? これが……冒険につきものの、戦いです
冒険に出たいって……気持ちは、尊重します。でも……自由には、責任も……危険もあるって、覚えておいて……下さいね」
 ウィリアがリュミナに覚悟の必要性を説く。武器を持ち未知の場所へと足を踏み入れるということは、責任や危険に対峙する覚悟が必要なのだと。
 イレギュラーズ達は今回の依頼の本題へと入ろうとしていた。
「さて、ご覧の有様だけど。憧れと現実の差はこの通りなわけだよねー? お嬢様は憧れだけでここに来たのかな? それとも何か目標があったのかな? もし憧れならば今回のこれをしっかり心に刻んで考えなさい」
「私は……」
 リンネの言葉にリュミナは視線を落とす。小さい頃に憧れた冒険譚。それを読んだ時に感じた想いを満たすためだけの冒険だったのだろうか。リュミナは思考する。
「リュミナさまの今日の様子を見る限り、ゴブリン相手にまともに戦えない様ではすぐに命を落としますわ。命を粗末にするのは、今まで大事に育ててくれた両親やクワイタスさまに対して最大の裏切りなんじゃないんですの?」
「それは……」
「わたくしも同じような境遇にいて、両親や今までお世話になった人達を裏切って、全てを捨てる覚悟で家を飛び出したんですの。……この話と今日の出来事を冷静に思い返してみて、それでも自分の様な最低な人間――冒険者になりたいのか、考えてみるとよいですわ」
 リリルの言葉に、リュミナは自身の胸をギュッとつかむ。思い浮かぶのは両親やクワイタス、家の者の心配そうな顔だ。
 クローディオもリュミナへと言葉を投げかける。
「少なくとも、十年剣を振って今日の感じならやめておいた方が良いと思うよ……まぁ、冒険自体は否定しないけどね」
「冒険心を持つ貴族から大英雄が出ることだってあるし、僕も初めから否定するようなことをするつもりはないよ。ただ、問題は実際の冒険に身をおいても、続ける勇気が持てるかってことだと思うんだ。お嬢様としては今回戦ってどうだったかな? 同じことが護衛なしで出来るか一度考えてみるといいと思うよ」
 ミリアムの言葉を聞き黙ってしまうリュミナ。どこか居心地の悪い空気が出来上がってしまう。
 空気を変えるようにらむねが言葉を重ねた。
「でも学んだのは悪い部分ばっかりじゃないはずです……よね? 協力して戦う素晴らしさをお分かりいただけたはずです!」
 らむねの言葉にリュミナは頷く。リュミナはよくイレギュラーズ達を見ていた。役割を分担し、協力して戦う。リュミナのようなお荷物を抱えたまま、それでも的確に行動しゴブリン達を倒して見せたのだ。冒険者とはかくあるべきなのだと、リュミナは確かに感じていた。
 らむねの言葉にクローディオも頷く。
「僕らの戦いを見てもらえば分かっただろうけど、剣を振らずとも戦えるからさ」
「そうです、剣で戦うだけが冒険じゃないです。自分にできる事をよぉーく考えてみましょう! ……あれ、これ応援しちゃってます?」
 らむねが仲間を見渡しながら言うと、イレギュラーズ達は肩をすくめた。
「剣以外の方法……」その言葉にリュミナは自身の愛用している剣へと視線を移す。長年使ってきた剣だ。愛着がある。
「魔法を使って戦うとか、そういうのも格好良いと僕は思うよ。クワイタスさんも納得する戦闘技術を何か身に着けるといいんじゃないかな」
 あとはクワイタスがなんとかするだろうと言う思惑を持ちながら、元気づけるようにクローディオが言う。
「そう、そうですわよね」
 なにか納得するようにリュミナはこくこくと一人頷いていた。
「昔のエロい人曰くー『憧れは理解から最も遠い感情』っだってさー。今日一日冒険して見て憧れから変化があったならいいねー」
「領民を護る等の目標があるならば、貴族なのだから人を雇う手段だってある。その上でまだ冒険したいのならば、現実を見て力をつけてからにしなさい。それからならば冒険者はお嬢様を歓迎するよ」
 クロジンデとリンネの言葉はリュミナに届いただろうか。ショートソードへと視線を向けていたリュミナは何か覚悟を決めたように顔を上げた。
「皆さんの仰る事はわかりましたわ。私も自分がいかに剣を振るうに向いていないか漸く理解しましたの。けれど、同時に、心に消えずに残るこの冒険心も、また本物であったと確信しましたわ!」
 さきほどまで落ち込んでいたとは思えないほど目に力が宿る。
「私は剣を捨てます。けれど冒険は捨てない!」そう力強く宣言する。
「皆さんの戦いを見て思いました、私にあったできることがあるんじゃないかって。だから私はいろんな勉強をしますわ。剣だけじゃない、いろいろな戦い方、いろいろな技術を学んで、そうしてもう一度冒険にでますの。今度はお荷物にならないように。何年かかってもきっと成し遂げてみせますわ!」
 森の出口に到着すると同時にそう宣言するリュミナ。その宣言に、呆れながらもイレギュラーズ達は微笑んだ。
 憧れは目標に。可能性へと手を伸ばすその姿を、イレギュラーズ達は忘れないだろう。
 笑顔に戻ったお嬢様は村へと向けて駆けだした――。
 ――そして、変わらない冒険心を抱き続けたこのお嬢様が、長い年月の後に希代のマジックキャスターとなるのは、また別のお話――。

成否

成功

MVP

クローディオ(p3p000997)

状態異常

なし

あとがき

イレギュラーズの皆様お疲れ様でした。
冒険心を忘れることのできない貴族令嬢のリュミナお嬢様はこの後いろいろな経験を経ることでしょう。
それもこれも、イレギュラーズの皆様のおかげかもしれません。

またどこかでイレギュラーズとお嬢様が顔を合わせる機会があるかもしれませんね。
またの依頼参加をお待ちしております。

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