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シナリオ詳細

<常夜の呪い>あなたをみている

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●心残り・後悔・吐き出せぬ想い・陰鬱・懺悔
 夢と言うモノは必ずしも心地が良いとは限らない。
「ぅぅ……ぅああ……」
 女は神に背きし者を討ってきた。
 闇に紛れてその背を襲う。輝かしき天の下で死なせはしない。闇に浸かりし者は闇の中で死ね。
 天誅。神罰。執行。断罪……明らかなる大罪人達ばかり討ってきた。法と天を逃れんとする悪辣者共。あるいは天義に害を成さんとする『外』の連中――
 だが。
 たった一度、もしかしたらと『疑った』事がある。
「や、やめろ……私を見るな……!」
 同じ年の頃の女を殺した。
 それは『外』なる者。天義の内を探らんとする外の刺客――とされていたが。
 そんな匂いがしなかった。殺した時、手に持っていたのは機密文書ではなく想い人への手紙。
 あれは偽装だったのか、内容が実は暗号化されたモノだったのか、それともまさか外の者だという情報が間違っていたのか……今となっては分からない。確認しようがない。そうだ、ならば私は正しかったのだと思うしか、ないのに。
 夢を見る。夢を見る。あの日の女が見てくる夢を。
 夢を見る。夢を見る。今まで殺してきた者達が見てくる夢を。
 もしかしたら違ったのか? お前もお前もお前もお前も――埋め尽くされる瞳が心を蝕む。

 止めろ見るな! 私を見るなッ!! 私は、私は悪くない!!

●ブリーフィング
 諸君は『常夜の呪い』という言葉をご存じだろうか? 単純に言えば天義で起こっている事件なのだが。
「一つの建物から大体村ぐらいまで……規模はある程度異なるが『夜色の霧』が突如として発生し、囚われた人々は目覚める事の無い眠りについてしまう――そんな事件がまた一つ天義の街で起こったんだ」
 言うはギルオス・ホリス(p3n000016)だ。広げる地図は天義のとある村、の一区画。
 ここにドーム状の『霧』が発生したという。天義の騎士が駆けつけ、すぐさま事の調査が行われたが――そのドームの内部にあったのは『街』だとか。
「どうも内部は異質化しているらしいね。何件か家があった筈の区画には、石畳の地上に建物が何軒も並んでいる……正しく街『風』の光景が広がっていたらしいよ」
「その情報がもたらされた、と言う事は内外への出入りに特に問題はない?」
「ああ。行って帰って来る事は問題なく出来る。問題は……内部にいる魔物だ」
 その魔物の名を『スリーパー』と言う。『常夜の呪い』にかかった土地に居座り、侵入者を迎撃する構えを見せているのだとか。まず間違いなくこのスリーパーこそがこの区画の主だろう。排除する事が出来ればここの呪いは解除できる筈だ。
「ただちょっと面倒な個体でね……これは調査に入った騎士達からの情報なんだが」
 どうもそのスリーパー、配下の数を増やすらしい。
 正確には分身とも言える個体を生み出す様なのだが、そいつらは陰に紛れ街に紛れ奇襲を仕掛けて来る。何体か撃破しながら本体の場所まで騎士達も進んだのだが、数人だけでは押し切れずやむなく撤退し、ローレットに話が回ってきたという訳だ。闘った個体数からして、無尽蔵・無制限に増えている訳ではなさそうなのだが……
「この事件は近隣でも幾つか起こっていてね……騎士団の手も足りていないみたいなんだ」
「成程……騎士団の助力は見込めないか。分かった、他に気を付ける事は?」
「……うーん、これは強いて言えば、なんだけど」
 一息。
「街の中に入ると、住民らしき存在がいる。ああ幻影だよ。攻撃はしてこないしスリーパーでもなくて、何かと言うとオブジェクト……に近いんだけどね。彼らが見てくるそうなんだ」
「何を?」
「君達をだよ」
 無数の幻影の無数の視線が君達に向く。塗りつぶさんばかりの瞳が君達を捉える。
 見逃さないといわんばかりに。私達は見ているとばかりに。
 あなたをみている。

GMコメント

■勝利条件
 スリーパー(本体)の撃破。

■戦場
 天義風の街。
 空は暗黒に包まれており月もないが何故か『薄暗い』程度の視界は望める。
 内部は実在しない街であり道も変な形で入り組んでいたり、妙に高い建物が並んでいたりと、とても現実の空間ではない様子を伺わせる。区画中央に教会があり、ここに討伐目標の『スリーパー』が存在している。

■街人
 街には触れる事の出来ない半透明上の人間らしき幻影が無数に存在しており、歩き回っている。足音もあり匂いもあり生きているかのようだが意思はなく、向こうから攻撃してくることも無い。彼らはただ無言で『貴方達』を見てくる。

 多数の視線を感じれば『貴方』の心に不安という感情が生まれるかもしれない。

 それは過去に犯した罪を想起させる事だったり、自身が負い目に感じている事を想起させる事だったり……しかしこれらの視線に特殊な力は無い。ただの気のせいだ。それでももしかすると集中が乱れてしまうかもしれない。勿論、それは人によるが――

 貴方は他人に視線を向けられる様な過去がありますか?

■スリーパー(本体)×1
 黒衣を身にまとった暗殺者・もしくは断罪者風のスリーパー。
 大剣を構えており、近接戦闘を主として行う事が予想される。
 パッシヴとして再生と充填のスキルを所持している模様。

 空間内ではこのスリーパーと全く同外見の個体が多数確認されているが、実際は「一体のスリーパー」が「多数の分身」を召喚している形である。最大召喚数には限りがあると天義の騎士達は戦った感触から踏んでいるが、具体数は不明。
 分身個体の情報は以下の通り。

■スリーパー(分身)×4(シナリオスタート時点)
 本体の『HP・EP』を一定数消費。
 消費した数値分をHP・EPとして街のどこかに生み出される分身個体。
 これらは『HPとEP・分身作成スキル以外は本体を全てコピー』した性能である。HPとEPの『一定数』の具体的数値は不明だが、長期戦に耐えられる程高くはない。かといってHP・EP1と言う程極端に低い訳でもない。
 一度生み出された個体が本体に戻る事は無い。

 本体は分身体の残存数を常に把握出来る。分身体はそれぞれ独立した個々の存在であり、分身体同士の危機は分からない。ただし本体に危機が迫る(戦闘開始)は察知可能。これ以外の情報共有機能は存在しない。

 本体は常に教会にいて動く事は無いが、分身体は街の中を巡回している。
 人(?)影に紛れて奇襲を行ってくることが想定される。

 本体を倒した場合、同時に分身体は全て消滅する。

  • <常夜の呪い>あなたをみている完了
  • GM名茶零四
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2019年04月17日 22時10分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

レイヴン・ミスト・ポルードイ(p3p000066)
騎兵隊一番翼
如月 ユウ(p3p000205)
浄謐たるセルリアン・ブルー
リュグナー(p3p000614)
虚言の境界
鬼桜 雪之丞(p3p002312)
白秘夜叉
リジア(p3p002864)
祈り
リーゼロッテ=ブロスフェルト(p3p003929)
リトルリトルウィッチ
フィーゼ・クロイツ(p3p004320)
穿天の魔槍姫
サクラ(p3p005004)
聖奠聖騎士

リプレイ


 駆け抜ける――存在せぬどこぞの街を。
 狙うは一点中心部。あまり余計なモノに構う暇はない……が。
「……妙に落ち着かぬな。直接的な害を齎すモノでないとはいえ、これ程の視線は」
『虚言の境界』リュグナー(p3p000614)が感じるは無数の視線、視線、視線――
 直接的に何かされている訳でないのに、内から湧き上がってくるモノがある。ただ見られているという事。十も二十も超える圧から齎されるは不安か、或いは。
「恐怖、か? ――いや、分からぬ。だが決して良い気がしないのは確かだ」
「はぁ……そうね。これ、落ち着かないというか……何だか嫌な感じがするというか……」
 同時、『浄謐たるセルリアン・ブルー』如月 ユウ(p3p000205)も似たような念を抱いていた。害はない。事前情報通りであり、無視しても良いモノだと分かってはいるのだが。
「やっぱりなんとなく刺さるモノがある様なこの感じ……気分がいいものじゃないわね……」
 いけない、集中力が乱れていると顔を振る。誰に見られているからと言って恥じる様な事をした覚えはないのだ。常に迷わず、まっすぐと進めばいいと。
「ふむ……だが些か試してみるか。これだけ見られているのならば……」
 リュグナーは言う。逆にこちらが『見る』事も出来るのだと。
 取るは包帯。露わになる黄金色の輝き。稼働するギフト――無論、幻影はただのオブジェ。通じる筈はない……が、その幻影らに紛れて『奴ら』がいるのならば話は別。反応の得られる誤情報を埋め込めれば万々歳だ。五秒目を合わせる必要がある故難度は高いが、何もしないよりは――と思っていれば。
「……待て、近いぞ」
 瞬間。進んでいた『Esc-key』リジア(p3p002864)が皆を手で制する。
 近い――数多の聞こえる足音の中からほんの少し種類の違う音が聞こえる。『忍ぶ』様な。
 些か『それ』の気配を感じようと注視していたからこそ気付けた。足音だけを捉えようとすれば周囲の雑多に紛れていたろう。異なる衣擦れ。擦る様な金属音――
 剣閃が瞬いた。
「ふッ!」
 人影の奥から放たれた一撃。割り込むは『朱鬼』鬼桜 雪之丞(p3p002312)。
 短い呼吸音と共に差し込む魔刀が激しくも短い衝突音を生み出す。リジアと同じくハイセンスを有する彼女であればこそ『奴』の気配にも一早く気付けた次第だ。姿は違うが、数多の人影に紛れんとする『奴ら』は注意を点で見なければ見逃してしまうかもしれない。
 二・三の撃が更に続く。動くそれぞれ。追う視線――どう動いてもこちらを見て来るが。
「既視感、でしょうかねこれは」
 雪之丞は剣撃を捌きながら視線の波に言葉を零す。
 思い起こすは、いつぞやの陰陽師共だ。恐怖。畏怖。恨み辛み。鬼よ、鬼ぞ。奴は鬼ぞ、都に害成す妖ぞと。幾千も浴びた事のある取るに足りぬ――奇異の視線。鬼桜の鬼と幾度呼ばれた事か。
 あまりに多すぎた。今更繰り返されようと、心乱れるような光景ではない。
「そうさね。立場、ありし身……些か異なるだろうがワタシにとっても慣れたもの」
 同時。襲い掛かってきた『奴』に対し魔法陣を起動させるは――『風来の名門貴族』レイヴン・ミスト・ポルードイ(p3p000066)だ。視線など、貴族たる身ならば大なり小なり善なり悪なり向けられるモノ。ワタシらはその上で顔を使い分ける身であれば。
「この程度――そよ風にもならないよ」
 彼は変わらぬ。表情など動かない、いつも通りの在り様で。
 起動せし魔砦の巨蟹、振るう腕と沿って巨蟹の一撃が『奴』を捉えて薙ぎ払う。
「ふふん、確かにそうね! いやむしろこの未来の大魔女に注目するなんて見所のある住人達……いややっぱりもうちょっと感情を込めた目で見なさいよ――! 何その死んだ魚の目! 大魔女に対して失礼だとは思わないの!!」
 続く魔法陣。『ピオニー・パープルの魔女』リーゼロッテ=ブロスフェルト(p3p003929)だ。レイヴンの一撃に続いて奇怪な視線を向ける輩達諸共吹き飛ばそうとする。
 ええい、特にこう、確たる影響がないのだとしても死んだ魚の様な目が無数にあるのはなんとなく気になる。リーゼロッテは汗だくだくだくだ。気にしないようにと依頼に集中すれば、所詮オブジェと割り切れるので問題はないが……
「――と? やっぱりそう耐久は高くないようだね」
 そしてリーゼロッテの攻撃も命中した瞬間、消え失せた『奴』の姿を見て『黒曜魔弓の魔人』フィーゼ・クロイツ(p3p004320)は大弓の魔具の構えを解く。随分とあっさりしている。やはり分身は奇襲特化、と言う事か。
「しかし……ふふこの視線の感じ、懐かしいね。あの頃を思い出すよ……」
 それは力がまだ弱かった時代。『ここ』に来た時の、ではなく『嘗ての世界』での事。
 弱者であったが故にこそ蔑まれた。見下される視線、塵芥であるかの如く扱われた『嘗て』の時代……ああ懐かしい。上位の魔人へと昇華して久しく忘れていたが――背筋が振るえる。歓喜に満ちそうだ。
 だが疼きは抑えよう。こんな事を思い出させてくれたのならば……きっちりと礼をせねばならぬのだから。
 しかしこの街。この視線群……如何なる意味を持つのだろうかと『神無牡丹』サクラ(p3p005004)は思考する。
 夢は千変万化。幸せな夢を見る事も嫌な夢を見る事もあるだろう。もしかすれば……夜魔はそれを現実世界に拡大しているだけなのだろうか? 悪意や善意の概念はなく……偶々に今回が悪夢なだけで……
「……いずれにせよ、人に害を与えているのは確か、だね」
 真実が如何であれ、害を被っている人間がいるのは確実な事だ。目覚めぬ者がいる。
 ならば放ってはおけまい。己は天義の騎士――その見習いなれど。
「成すべき事を見誤る程、未熟であるつもりはない……!」
 往くは教会。直行する。近付く足音には気を配って。
 一刻も早く事態を解決すべく――本体を討つ為に!


 本体は気付いていた。この領域への侵入者がいると。
 幾つか消える影の個数。増援をと生み出してはいるのだが――向こうの気付きも上手い様だ。消える速度の感覚から、手練れが来ているのだと切に感じて。
「感じたか? こちらの存在を」
 それはメッセージの様にも。無論、声が聞こえている訳ではない。しかしリュグナーは伝わるだろうと思考している。分身の数が減らした事が、直接本体へと伝播するのなら。
「再度、貴様の存在の消失をもって本体に伝えるがよい。我らは――」
 高速する魔の縄。放つ魔弾。消え失せる分身を見下ろして、彼は。

「――今すぐ『そこ』へ向かうとな」

 扉を破る。突入するイレギュラーズ達。
 飛び込んだリジアの目に映ったのは――教会最奥。十字架の下に座り込んでいた『奴』だ。間違いない、本体だろう。倒してきた分身とは纏っている気配が違う。
「目……か。生き物はそこでも大体感情を測れると聞くが……」
 しかし黒衣からこちらを――恐らく『見て』いるのだろうが。奴の『目』は見えない。
 ここまで数多の視線があった。しかしスリーパーには目が無いとはいかなる思惑なのだろうか。言葉に出したように、生き物は目と目で意思を伝えあい感情を測る事がある。ならば。
「……お前は、転じて。測られたくはない、と言う事か……?」
 黒衣は感情を押し込んでいるのやもしれぬと朧げながら推測して。放つは不可視の衝撃。無情の閃光。
 二段一対ここにあり――リジアにしては珍しく技『らしい』動きを見せ、立ち回る。
「やっと会えたね。さて、あれらがどういう意思の下だったかはともかく……御礼と行こう」
 次いでフィーゼだ。顕現せしは黒き槍。魔力の収束。
 あぁ『嘗て』を思い出させてくれたからだろうか。かの日々で得意とした投擲術の動きにもより一層の鮮明さがみられる。
「面白い趣向を凝らしてくれたみたいだから……こちらの趣向も受け取ってほしい、ね」
 言うなり射出。リジアの攻撃に合わせる形で防御の隙間を捉えて穿つ。
 さぁさぁまだだ。まだこれは始まったばかり。射抜くのはこれからだと――口端を上げて。
「全く、散々落ち着かない気分にさせてくれちゃって……だからと言って放っておくのも気分は悪いし、はぁ」
 教会内に生み出される冷気――ユウだ。ああ全く全く気分が悪い。
 ここに至るまでの道のりも。この事態そのものも全く――
「だからこそ、早く解決しないとね」
 放つ冷気。それは極寒を超えた絶対零度、氷像にせんとする如く。
 しかし攻撃にばかり集中するわけにはいかない。今はまだ、回復の必要がない故攻撃に回ったが、戦闘が激化すれば重要になってくるのは回復だ。自分を二番目に、敵の注意を引いてくれる者を優先しようと周囲の警戒と観察も怠らなければ。
「ッ、来た!」
 瞬間、サクラの声が響き渡る――と同時。本体の危険を察したか、急速なる勢いで教会に近付く影があった。分身体だ。即座に対処の一歩へ往く。超聴力があったからこそ早期に気付く事の出来た彼女は己が聖刀を抜いて。
「私は天義の騎士見習いサクラ――ここは通さない!」
 名乗る一喝。輝く刀身。あぁ眩しいぞなんだその光は。我らを映すな小娘が。
 大剣が振るわれる。重い一閃。受け太刀、噛み締める奥歯と共に衝撃に耐える。
 絶対に通さない通せない。引き付けている間はそれだけ仲間が攻撃しやすいのだから。
「全く、大剣とか使ってる割に分身とは器用なやつなのよ……」
 常に使い続けているエネミーサーチが敵影を捉える。何体か倒してはきたが、まだ存在していたのだろう。エネミーサーチの圏内に入って来る新たな敵の数がある。大剣などと一撃を優先してそうな割に細かい技術にも優れる奴だ。されど。
「こんな街にいるだけあってしけた顔をしてるのね。そんなんじゃ大魔女にはなれないわよ!」
 己が頭上に顕現させる炎の剣。それはかの伝説、かの巨人王のレーヴァテイン。
「輝きと共に破滅をもたらせ――炎王の魔剣ッ!」
 紡がれる言葉と共に本体へと放つ剣撃の魔術。凄まじい衝撃が本体を襲う。
「やれ。君がここの主かな、視線だらけの領域など面白い場所を作ったものだ」
 同時、レイヴンも再び巨蟹の魔法陣を紡ぎ出す。立ち位置は彼にも、入り口側も捉えられるような距離を保ちつつ。あらゆる方向に対処せんとする動きだ。分身体を警戒しながら攻撃を放って。これは、とてもたまらぬ連続的な攻撃だ――
「……!」
 それでも勿論、ただやられるだけの『奴』ではない。
 構える武器。跳躍する動き。まずは一人ずつ片付けんとすべく攻撃を放って。
「常夜の呪い……それは人の強い感情や想いに反応しているのでしょうか」
 そこへ雪之丞が往く。霊気籠めし一叩き、鈴の音響くは耳より脳へ。
 スリーパーはもしや眠る本人と繋がる何かでは? そう思考し、故にこそ。
「余程、視線に責められ、恨まれる覚えがあるのですね――」
 発する言は挑発の類。寄こされる視線。放つ凍狼、割り込む大剣。防御される、その上から。
「見苦しい」
 本命を放つ。防御した、と思考させた上での更なる一撃。地を砕かんとする程に脚に力を。勢いはない。ただ元から内に宿っている力のみで防御を突き破る、速ではなく剛の一閃。凍狼を止めた大剣の上から圧し潰す。
 奪っておきながら苛まれるとは見苦しい。
 奪う者は傲慢でなければならぬ。覚悟を決めておかねばならぬのだと。
「……!」
 態勢を立て直す本体。分身を造る為の体力と精神の回復力を――己が為だけに回して。
 集っていた。集っていた。残存の分身体達と、幽体が如き住人達の視線も。


 畏怖された覚えがあった。サクラは、幼い頃にそういった『視線』を受けた事がある。
 月光の騎士……ゲツガ、己が祖父は苛烈な所がある。故にこそ尊敬されるし、故にこそ恐れられ。だからこそ見られた『月光の孫娘』だと。大人にも、同い年の子供達にも。
「ッ、う!」
 分身体が二体になってから厳しい。攻撃の能力は変わっていない故にだろう。時折捌き切れぬ鋭い剣が、己が身体に負傷を増やしていく。同時、集っているのは街の住人もだ。無数の視線が再び捉えて来る。されば思い出す『サクラ』ではなく『月光の者』として見られ、避けられた――あの日々を。
「……だけど」
 刀を握りしめる。だけど、今は違うのだと。
 過去の傷は痛む。あの日の視線は己が内に残っている。それでも、それだけではないのだ。ここまでに培ってきた日々は。得たモノは。守りたいものが出来、誇りに思う家族がいて!
「迷いはない! 私は――」
 見習いでも天義の騎士だッ!
 身に傷は増えれども、折れる事はない。刀の輝きは呼応し尚も衰えぬ。そしてそんな輝きを援護するかの如く、ユウの癒しの術が彼女を包むのだ。
「精霊たちがいれば、もう少し周囲の状況も掴めたと思うんだけどね――」
 元素支配の才知が彼女の精神力を常に回復し続ける。
 故に消費の激しい回復術もかなりの数を放てるのだが……しかし居てくれればありがたかった精霊がこの空間には居なかったのが残念だ。協力を頼めれば外の様子も、己が視界だけに頼らずとも精密に把握出来たかもしれぬのだが。
「まぁ特殊な空間だ仕方があるまい……それより、この教会を包む様に住人たちが集まってきたようだ。この眉間にシワが寄らぬ内に、そろそろ依頼を済ませるとしよう」
「野次馬の様な、そうでないような……侵入せし者を見て如何なる意味があるのでしょうね」
 リュグナーが放つは蛇だ。彼の影から無数の赤黒い蛇が顕現する。狙う本体、束縛出来れば――次いで精神力を弾丸に、強大な一撃を射出せんとして。
 そして雪之丞は鈴の音を鳴らして再度己に注意を引かんとする。横目には、集う住民らの視線を見るが……本当にどういう行動原理なのだろうか。いや、特異なる空間の特異なる事情を深く考えても仕方ないが。
「大魔女だからね、注目されるのは不満じゃないわよ。ふふん……!!」
 そういうリーゼロッテだが――実の所、些か影響を受けていないわけではない。
 背に受ける視線。思い起こすは……親の期待から逃げて魔術の道を選んだあの選択である。期待されたのは魔女などと言う道では無い。きっと綺麗な服を着て、身を正して……そんな事を期待されていたのだろう。期待から逃げたのは、ちょっと申し訳なく思っている。
「でも、後悔は一片もないわ」
 空に描く。己が羽ペンで、魔法陣を。
 例え他人からどんな目で見られようと――私は私を信じているから。
 いつだって胸を張って宣言するのだ。魔術の深淵の扉は、誰にでも開いているから。
「――わたしは、未来の大魔女だって!」
 再び展開せし炎王の一閃。切り開くは己が未来。見えているのは希望だけ!
 どんな視線にも負けはせぬと炎は総てを照らして。
「……さて。夢の世。夢の住人。夢の断罪人……いずれも幻想、だな」
 炎に包まれる本体。されどまだ倒れていない。跳躍し、剣檄を放ちながら抵抗する。
 それはまるで夢を覚ませない為であるかの如く――だからリジアは。
「……夢は幻想であるべきだ。具現するべきではない……故に、在るべき場所で眠るがいい」
 先周る。展開せし、四つの翼。それは破壊と言う概念を宿したリジアの技術。
 逃さぬ。豪速の四閃は本体を捉えて守りごと砕く。もう終わるべきだとそう言う様で。
「んふふ……どうしたのかな。遊ぶ余裕がもうないのかな――残念だね」
 フィーゼは言う。黒槍を次々と構えながら、本体に常に狙いを絞りながら敵の様子を見定めて。
 ああならばそろそろ約束だ。言ったろう? 『懐かしい』ものを思い出させてくれたから。
「――全力で射抜いてあげる」
 その背を穿つ。フィーゼはここに至るまでに、魔血の記憶から辿った戦闘技術――つまるところ、奇襲に対する耐性で分身体からの被害も少なかったが故に余力、まごう事無き『全力』を持って奴に一撃を。もはやそうそう持つまい。
「いやはや。ま、面白い場所ではあったよ。些か『家』にいたような感覚だった」
 風来の以前をレイヴンは思い浮かべる。海洋の一角。腹芸にポーカーフェイス、あの時代。

 ――あら、私を呼び出すなんて手詰まり?

「ええ、なので貴女の力をお借りしたい」
 起動せよ、起動せよ、紫苑の君。源より分けられし影打ち。汝は何人にも止められず。
 魔法陣『紫苑の君』一撃の名をグラディウス。その様は――遠き星、明けの明星の如く。

「――!!」

 教会内で炸裂する。
 断罪者が如き『奴』を撃ち抜いて、そのまま教会最奥、十字架すら砕くのだ。偽りは滅びる。幻想は幻想に。空想は空想に。開けない夜などどこにもないのだから。常夜の空間も、偽りの主を滅ぼせば――また明ける。
「……悪い夢は、これで終わりです」
 微かに呟く雪之丞。見れば住人達も消えて行っている。砂の如く、常夜が解除されるに従って。

 悪い夢は終わった――少なくとも、この場の夢は確かに今潰えたのだ。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

 常夜は晴れました――お疲れさまでした。

 視線に対し、様々な心情がありました。慣れた者、過去に想いを馳せる者……

 その感情の一端、表現できていますと幸いです。
 ご参加誠にありがとうございました!

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