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シナリオ詳細

太陽クジラと囚われの少女

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●ある海難事件の顛末
 客船ハットタイクーン号転覆のニュースから一夜明けた港町で、シルクハットの紳士がチラシを配っていた。
 内容はフリーの依頼書。それも、『太陽クジラ』から娘を助け出してほしいというものであった。
 あなたはそれを受け取った、偶然のひとりである。

 港町のレストラン『ボンボヤージュ』。
 パプリカや温泉卵の乗ったチーズドリアやホタテとエビのパエリアが運ばれている店内に、偶然の八人……つまるところあなたとその話を聞いたイレギュラーズたちが集っていた。
 円形のテーブルを囲うように座る八人と、ひとり。チラシを配っていた紳士である。彼は自らをヴァナック・フューリーと名乗り、三枚の写真を提示した。
「集まってくれてありがとう。これが娘のセラ・フューリーだ」
 初対面の相手に娘を自慢しようというのではない。紳士の表情の弱り方から、誰もがそれを察するだろう。
「私たちは先日まで、客船ハットタイクーン号に乗っていた。
 安全性が高いことで有名な船で、娘とバカンスを過ごすつもりだったのだ」
 娘が幼いころに母(ヴァナックにとっての妻)が亡くなったことで父子家庭であった彼らの休日。それは『太陽クジラ』の発生によって崩壊した。

「恐ろしい姿だった。巨大な球体が海面に現われたかと思うと、口を開けて船体を半分、ばっくりと囓り取ってしまったのだ」
 当然ながら船は転覆。ヴァナックは命からがら逃げ出したが、あとになって娘のセラ・フューリーが逃げ出せていなかったことに気がついたという。
「間違いない。太陽クジラの中に呑まれてしまったんだ」
 もしあなたに海洋生物の知識があるなら知っているだろう。
 太陽クジラは図鑑に載るほど知名度のあるモンスターで、普段は海底で地熱を摂取しながら生きている静かな生物だ。
 しかし日に一度ほどの割合で海上を目指し、大型の生物を見つけるとそれを囓ることで栄養バランスを保つ。
 客船は航路を見誤ったことでこの浮上エリアを通ってしまい、さらに運悪く浮上のタイミングにぶつかってしまったのだ。
 だが図鑑にはこんなことも書いてある。
 太陽クジラが食べた生物を消化するには少なくとも三日を要することを。
 呑まれた船の半分はまだ太陽クジラの中にあり、おそらく乗客たちも救命ボートその他を駆使してなんとか生き延びている筈だということだ。
 太陽クジラ浮上のタイミングを狙い攻撃をしかけ、そして体内に閉じ込められているであろう人々をセラ・フューリーともども救出するのだ。

GMコメント

【オーダー】
 成功条件:セラ・フューリーの救出
 オプションA:太陽クジラの撃破
 オプションB:他の閉じ込められた乗客の救出する(およそ5人とみられている)
 オプションC:他の閉じ込められた乗客を置いていく
 オプションD:????と??する

【乗客たちを救出するには?】
 太陽クジラは食べたものを一度体内の保臓とよばれる場所に保存しておきます。
 これは巨大な袋状のプールになっていて、乗客たちはこのエリアに閉じ込められているものと思われます。
 脱出するには一度このエリアに突入し、内側から緊急排出弁を攻撃することでペッてさせる必要があるのです。

 具体的には、太陽クジラが口をあけたタイミングにあえて自ら飛び込み保臓へ突入。
 内側から接触できる『緊急排出弁』という器官に合計3000ダメージを与えることで排出を促すことが出来ます。(防御や回避は行なわれませんので、威力の100%分がそのまま入ると思ってください)
 保臓へ突入するまで、そして排出するまでの時間がおよそ1~2ターンかかるため『1~2ターン+3000ダメージをたたき出すまでのターン』の間突入したメンバーは戦闘から離脱することになります。
 残ったメンバーでも充分な対応ができるように配分しておきましょう。
 尚、この時のダメージその他は吸収されてしまうため太陽クジラ本体へは蓄積されません。

【太陽クジラと戦うには?】
 船に乗って目的のポイントを訪れ、太陽クジラが現われるのを待ちます。
 出現するであろう太陽クジラは1体のみ。
 このとき依頼人のヴァナック氏が中古船を囮にしてくれるため、皆さんの乗っている船が破壊される心配はありません。一度囓ると次に浮上するまで囓らないという習性があるためです。
 (救出役もこのとき囮の船に乗って保臓を目指します)

 太陽クジラとの戦闘時は船を用います。
・メンバーの誰かがアイテム『小型船』を持っている場合これを使用することで乗員の戦闘力に補正がかかります。
・小型船の操縦と戦闘は若干のペナルティつきで同時に行なえるものとし、『操船技術』をもっている場合はその際のペナルティを無効化します。
・小型船の操縦は必ずアイテムを装備しているPCが行なってください。
・操縦者が戦闘不能になった場合、最低限の操縦は継続できるが戦闘は継続できないものとして判定します。(交代は不要です)
・この戦闘に投入できる小型船の数は3隻までとします。(囮の中古船は含みません)

 太陽クジラは戦闘を仕掛けなくてはすぐに海底へ戻ってしまい、救出が不可能になってしまいます。
 なので最低でも救出対象が排出するまでは戦闘を続けましょう。
・太陽クジラは高HP、高神秘攻撃力、高特殊抵抗、高EXA、高CTという特徴を持ちます。
・パッシブ効果に【棘】【火炎無効】【怒り無効】を持ちます。
・戦闘に入った場合『熱光線(神中ラ【業炎】【連】高CT補正)』『突進(神近域【体勢不利】)』といった攻撃を行ないます。

【アドリブ度】
 ロールプレイをよりお楽しみいただくため、リプレイにはキャラクターのアドリブ描写を用いることがございます。
 プレイングやステータスシートに『アドリブ歓迎』『アドリブなし』といった形でお書きくだされば、度合いに応じて対応いたします。ぜひぜひご利用くださいませ。

  • 太陽クジラと囚われの少女完了
  • GM名黒筆墨汁
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2019年04月13日 21時30分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

十夜 縁(p3p000099)
幻蒼海龍
亘理 義弘(p3p000398)
侠骨の拳
ティア・マヤ・ラグレン(p3p000593)
穢翼の死神
カイト・シャルラハ(p3p000684)
風読禽
リリー・シャルラハ(p3p000955)
自在の名手
寒櫻院・史之(p3p002233)
冬結
マリナ(p3p003552)
マリンエクスプローラー
アルク・テンペリオン(p3p007030)
蒐集氷精

リプレイ

●太陽クジラの海
 ウミネコの声もしなくなった水平線のどこか。
 波の上がり下がりに身を任せながら、船上の手すりによりかかる『水底の冷笑』十夜 縁(p3p000099)。
(あのクジラのお食事タイムに出くわしちまうとは、つくづく運のねぇ船だことで。
 不幸な事故だと思って諦めろ……と言いてぇ所だが、そうなると今度はあいつを討伐するだの何だので、余計に騒がしくなりそうだ)
 依頼人ヴァナック・フューリーの話を思い出す。
 客船に乗った娘を救出するという依頼だが、そのためにはまず三つの段階が必要になる。
 まず太陽クジラが再び浮上するのを待つこと。
 チャンスは日に一回あるかどうかというところだが、客船ハットタイクーン号が削り取られてから数十時間が経過している今、二度目三度目のチャンスを待つわけにはいかない。
 水面に現われた段階で攻撃をしかけ、太陽クジラの迎撃本能を刺激させるのだ。
 その際、『最も食べやすい位置』に船を仕掛け、太陽クジラの体内へと意図的に仲間を侵入させる。
 内側からの攻撃で一度保臓から客船の一部および当時の乗客たちをはき出させ、その中から依頼の救出対象であるセラ・フューリーを保護すれば依頼完了だ。
「ついでと言ってはなんだけど、一緒に閉じ込められてる人たちも救出してあげよう。そうなれば、太陽クジラも倒す必要は無いよね」
 同じく手すりに寄りかかる『女王忠節』秋宮・史之(p3p002233)。
 囮にするはずの中古船がぷかぷかと浮く光景。水平線の遠さも相まって釣りの浮き具に見えてくる。
「今回はくじらに呑まれた人達の救出なんだね」
『呑まれた者もくじらも災難だな』
「運が悪かったとしか言えないけど、依頼だからしっかりと救出しなきゃね」
 すぐそばを通る船から、同じ光景を見る『穢翼の回復術師』ティア・マヤ・ラグレン(p3p000593)。
 周囲の空気が徐々に変わり始めているのが、わかるだろうか。

 一方。囮の中古船に乗り込んでいるのは『マリンエクスプローラー』マリナ(p3p003552)とその仲間たちである。
 図鑑を開いて太陽クジラの絵を観察するマリナ。
「こんだけデカいと体内に別の生物が住んでたりしそうですね」
「まあ、人体にもそれなりに生物が住んでるって話だしな」
 『義に篤く』亘理 義弘(p3p000398)は握力鍛錬バーを握ったり開いたりしながら話に応じていた。
 強く握りしめ、金具の元に戻る力を圧殺していく義弘。
「とはいえ、腹ンなかで例の乗客たちを暮らさせるわけにはいかねえだろう。ひとまず腹ン中まで行って、連れ出す準備を進めねえとな」
「まさかくじらさんのなかにいくなんて……ちょっとわくわくするよねっ、きちょーというか、なんというか!」
 船の手すりに腰掛けた『小さな騎兵』リトル・リリー(p3p000955)はなんだか楽しそうだ。

 中古船にのったリリーたちが船を餌に太陽クジラの腹の中へと入る間、再び海底に戻ってしまわないように攻撃を仕掛けるのが周囲に展開している仲間たちである。
「クジラ……これがクジラなのか? ほとんど球体のようだが」
 図鑑を開いて首を傾げる『今はただの氷精』アルク・テンペリオン(p3p007030)。
 別のクジラの項目を見てみると、どうも魚のような形状をしている。
 比較対象として描かれている人間の小ささに再び首を傾げ、『風読禽』カイト・シャルラハ(p3p000684)へと振り返る。
「太陽クジラもクジラということでいいのか? 魚……なんだろうか?」
「クジラは山羊や牛と同じで哺乳類。太陽クジラは……あれ? なんだったか? そういえば生体がよくわからないな。多分哺乳類だと思ってるんだが」
 カイトは船の舵をとりながら斜め上の空を見やった。
「まあ実物を見ればわかるだろう。ほら、そろそろ上がってくるぞ」
 周囲の水温と気温が急速に変化し始めたことを受けて、カイトは目つきを鋭くした。

 どうん、という猛烈な音がした。
 もしリリーたちの乗る中古船を遠く真上から俯瞰するものがあったなら、青くすんだ海に真っ赤な球体が猛烈に浮き上がり、そして黒い闇を開いて船を飲み込んださまを見ることが出来ただろう。
「う、うぅわ……!」
 圧倒的な光景。
 まるで赤く燃えた海が盛り上がり、小さな中古船を砕きながら頬張ったのである。
「総員攻撃だ! 太陽クジラを潜らせるな!」
 誰より早く反応したカイトが火の粉のように羽根を散らし、太陽クジラへと発射する。
 攻撃に反応した太陽クジラは自衛のために海上に8割ほどを浮き上がらせ、燃えさかる炎のような体表から上空へ向けて熱のラインを発射した。
 おかしな軌道を描いて曲がるラインが、周囲の海へとざくざく突き刺さっていく。
 さあ、戦いの始まりだ。

●時間
 たとえば世界に、半径20メートルにわたって無差別に熱光線を乱射するうえに自由に動き回ることのできる巨大な球体があったとして、有効にダメージを制御する方法は一つだ。
「周回しろ! 太陽クジラを中心に船をぐるぐる回し続けるんだ!」
 鷹のような鋭さと暁のような赤さを備えた船、紅鷹丸。
 それを先頭にした三隻の小型船が太陽クジラを中心とした半径30メートルラインをおおまかにぐるぐると等間隔に回り続けている。
「砲撃準備!」
「砲撃? 射撃じゃなくてか?」
 舵をしっかりと握りながら翼を広げるカイト。
 台の上から手を翳していたアルクはちらりと彼のほうを見てから、明後日の方向をむいてこくりと頷いた。
「なるほど、たしかに」
 アルクは氷の鳥籠を手に取ると、頭の高さへと振りかざした。
 がらんと鳴り響く鳥籠の音は、氷の精霊が踊った音だ。
 巻き起こる急速な気圧変化と氷の粒の摩擦がばちばちとスパークを引き起こしていく。
 雷の原理を知っているか。激しい上昇気流と雲内の氷塊の摩擦による静電気は地表との間に電圧を生み、あの恐ろしい稲光と雷鳴という結果をもたらすのだ。今回も、それは同様である。
「撃て!」
 カイトの放つ熱風とアルクの冷気はあわさって、一つの赤い雷撃となって太陽クジラへ直撃した。
 ごうごうという暴風にも似た音が、太陽クジラが抱く怒りの感情を思わせる。
「近くで見ると益々でっかいねぇ。……間違っても食われたくはねぇモンだ」
 カイトの船を狙って突進しようとする太陽クジラを遮るには、すぐ後ろを走る十夜の船でぶつかるのが適切だ。それゆえの周回軌道である。
(おっさんのゆるーい日常のために、働くとするかねぇ)
 大きく舵を切り、太陽クジラに船体を思い切り叩き付ける十夜。
「そのまま船で横をすり抜けて。一撃叩き込みます!」
 史之は腕時計の文字盤をひねるように操作すると、船甲板上を豪快にダッシュ。
 木箱を階段に見立てて飛び上がると、空中で指輪型デバイスに情報を入力。
 シールドを自らの周囲全面に展開させた。
 巨大な球体に衝突する小さな球体。
 しかし太陽クジラの動きを妨げるには充分な摩擦と抵抗であった。
 ごう、という嵐のような発熱によって弾かれた史之は一度宙を舞い、再び十夜の船甲板上へと落ちた。
「全く、海の上だと使いづらい。落ちそうだ」
 甲板に落ちる寸前のタイミングでシールドを板状に縮小。ごろごろと転がってからずれかけた眼鏡の位置を直した。
「船を離して」
 追撃を仕掛けようとした太陽クジラに、反対側から穢翼・白夜による射撃を浴びせるティア。
「もう一週……」
 次なる攻撃に迷うかのような動きを見せる太陽クジラ。
 ティアはその様子を確認しながら、再び周回軌道へと戻っていった。
 この攻撃と回復をしばらくの間続けなくてはならない。
 少なくとも、太陽クジラの中に入り込んだ仲間たちがセラ・フューリーをつれて外に出てくるまでの間に。

「ウォータースライダーですね……」
 乗った船は沈まないという伝説(ないしは能力)をもつマリナが、転覆した船の上でぐったりとのびていた。
 乗っていた中古船はシルエットを大きく損ない、水上に浮いているのがおかしいくらいの壊れかたをしていた。
 実際今もずぶずぶと沈んでいるのだが、完全に沈みきっていないのは船のあちこちに溶接した浮き具のせいだろう。食べさせることがわかっていたために、それ用の改造を施していたのだ。むろん船としての機能は大きく失われたわけだが。
「う……思ったよりも……激しい移動だったな」
 リリーが目を回さないように抱えていた義弘も、立ち上がろうとしてぐらりとよろめいた。
 太陽クジラに船を囓られた後、彼らはなんともいえないぐねぐねとした通路を通って広くて暗い空間へとたどり着いた。
 上下左右に激しく揺さぶられた後のことである。頭からびっしょりと海水を被り、ライフジャケットがなければ今頃深く沈んでいたことだろう。
「誰か、灯りになるものはあるか。カンテラが水にやられて使い物にならねえ」
 リリーはぷるぷると首を振っている。
「まずはいきてるひとをかくにんしなきゃ。ぼーとはあるんだよね? みんなのれてるのかな……?
 いないひとがいたりしたらこまるけど……そのときはさがすしかないねっ」
 リリーの言うとおり、まずはこの広くて暗い空間の中で特定の人物を探さねばならない。
「セラさーん! セラ・フューリーさーん! お父さんから依頼されて助けにきましたよー」
 マリナが大声手呼びかけてみる。
 すると、真っ暗な空間の中にぽっと光がともった。
「ここです」
 見れば、救命ボートに身を寄せ合うようにして集まった数人が、こちらに光を振っていた。

●太陽クジラの生態
「……っ!」
 激しい衝撃に船が揺れ、ティアは大きく吹き飛ばされた。
 甲板を転がる。船は45度ほど傾き、ティアは手すりに激しく身体を打ち付けられる。
 短尺の詠唱による治癒魔術を自らに施すも、続けて打ち込まれる熱光線が甲板やあたりの海へと突き刺さっていった。
「先に離脱するね。皆をよろしく」
 ティアは這うように舵へたどり着くと、船を操作して太陽クジラから離れる進路をとった。
 追撃をはかる太陽クジラを阻むように船体を割りこませる十夜。
 船の端では史之がシールドを最大サイズまで展開して、攻撃を防いでいた。
「こりゃおっかない」
「皆が帰ってくるまでの辛抱です! 十夜さん、踏ん張って!」
「かよわいおっさんに無茶を言うねぇ」
 苦笑する十夜。歯を食いしばる史之。

 一方その頃太陽クジラの保臓では、『XLINE/アルラトゥ』によって緊急排出弁に攻撃を仕掛けるリトルの姿があった。
「つぎはイーヴィルクローをたたきこむよ!」
「皆さん、暫くつかまっててくだせー。弁が開いたら一気にはき出されますからねー」
 アンカーを結びつけたロープを頭上でぐるぐると回すマリナ。
「せーのっ!」
 豪快に叩き付けたアンカーが、緊急排出弁へと叩き付けられる。
 生物の反射的反応として、特定の部位がダメージを検知すると臓器の中身をはき出そうと試みる。
「下がってな、巻き込まれたら痛えぜ」
 あたりに散らばった木材を担ぐと、義弘は助走をつけて飛んだ。緊急排出弁へ、木材を思い切り叩き付ける。
 ごうん、と激しく保臓が波打つように動いた。
「もう一発だ! 全力で叩き込め!」

 決壊。という言葉が正しいのだろうか。
 それまで激しく戦闘行為を行なっていた太陽クジラがぐわんと口を開いたかと思うと、大量の海水と共に無数のがれきや船の残骸、そして救命ボートにしがみついた人々とリリーたちをいっぺんにはき出したのである。
 全てはき出したあと、どこか苦しそうにもごもごと動く太陽クジラ。
 その怒りは簡単には収まらないもののようで、リリーたちへと突進し始めた。
「リリー! 船へ乗り込め!」
 リリーやその仲間たちへ船からロープを投げるカイト。
 せまる太陽クジラ。
 マリナや義弘たちは助け出した人々を抱え、カイトの船へと急いで逃げ込んだ。
「たすけるためとはいえ、きずつけちゃったことにはかわりないし、ごめんなさいしないとね」
 振り返るリリー。
「我々が縄張りに入り込んだのも悪いので……倒すのも少々心苦しいですしね」
「ああ。クジラは倒す必要はねぇ。俺達が逃げ延びるまで、もってくれりゃいいからよ」
 マリナと義弘はそういって、カイトのほうを見た。
 カイトはその言葉に頷いて、船を太陽クジラから逃げるルートに乗せた。
「今回はただの事故、むしろ道を間違えた船乗りが悪いんだろうしな。これ以上の戦闘はなしだ。アルク、あれは持ってきてるか?」
「あれ……ああ、魚か」
 アルクは大きな魚をどこからともなく取り出すと、追いかけてくる太陽クジラめがけて放り投げた。
「これは詫びだ。せめてこいつを食べて落ち着いてくれ」
 (言語の理解できる人間が相手だったと仮定しても)さっきまでばちばちに殴り合っていた相手が急に大人しくはなってくれないものである。
 しかし間をとり、冷却期間をおくことで、関係を一度リセットすることは可能だ。
 十夜と史之が合図として手を振ってくる。ティアは既に無事に戦線を離脱したようだ。
 全速力で逃げる船を、太陽クジラはいつまでも追いかけなかった。
 途中で再び海中へと沈み、周囲を覆っていた熱や粗い波も落ち着いていく。
「何度もこのような形で会うことが無い様に願うばかり、か」
「クジラくん、痛い思いをさせてごめんねー!」
 史之は沈み行く太陽クジラに手を振った。

 船は海域を遠ざかり、港へと近づいていく。
 あの戦いが嘘だったかのように、平和な空気が流れていた。
 依頼されたセラ・フューリーにくわえて一緒に閉じ込められていた乗客たちも救出できた。きっとフューリー親子のように、それぞれの家族と再会を喜ぶことだろう。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

 ――mission complete!
 ――good end!

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