シナリオ詳細
バンディット・ゲイム
オープニング
●イリーガル・パンデミック
現代地球で言う所のアメリカの犯罪学者ジョージ・ケリング等が西暦1982年に発表した割れ窓理論は、至極大雑把に纏めてしまえば『反社会的な行動の痕跡を放置することは、モラルの低下を拡大させる』というものである。要するにその名称通り、建物の割れた窓を放置していれば、それに関わる人々のモラルを低下させ、やがて建物自体を駄目にしてしまう可能性が高くなる、といった具合である。
ヒトは匿名性が高くなり、責任の分散化が行われる程に非合理的かつ非モラル的な行動に躊躇を失い、没個性化する……しかもそれは感染しがちである。
そして、こういった話は実検証(フィールドワーク)の行われた現代地球の社会のみに適用される話では無い。物語がその舞台を移したとしても、ほぼ同等の知能を持ち、似たような社会を構築しているこの『混沌』においても十分通用する話だ。
人間の情動というものは、実は古来から余り変わっては居ない。高度な教育や、それによって培われた社会を保つ為の理性、そして衣食住足りて礼節を知る……現代地球においてはある程度達成された『素晴らしい人類の進歩』はむしろこの世界に足りないものだ。
――非常に長くなった前置きを反省しよう。
混沌は、いや。より限定的に言うならば幻想は。
社会自体が割れた窓を放置した建物のようなものだ。
こんな場所で、どうして非モラル的感染者の増大を防げるものだろうか?
●無法の遊戯
「……まぁ、こんな世の中です。『そういう連中』が増えるのは道理ですが」
『遊楽伯爵』ガブリエル・ロウ・バルツァーレクは深い溜息と共に重く言葉を吐き出した。
「私の知り得る限り、何時の世にも盗賊連中が絶えた事はありませんが……
この十数年を見る限りでも、現在の治安は最悪です。
交易路を行く商人は狙われ、旅人は息を潜めて街道を行く。
時に防備を固めた貴族の荷物まで襲われるのですから……末期的状況です」
幻想は元々商売の盛んな交易の要衝であるという。往時は商人の意気も盛んで、人の流れ、モノの流れ、金の流れ……どれをとっても七大国の中でも上位に位置していた過去がある。
しかしながら、長年続いた政治の乱れ、人々の生活の乱れ――言い換えれば『割れた窓』の放置・加速はこの国の血管をズタズタに傷付け、『血』の流れを悪くしてしまったという。
「今回の仕事は我が所領の安全を脅かす『幻想黒翼天使』の壊滅です。
彼等は最近台頭してきた盗賊団ですが、若者を中心としている事もあり、これ以上大きな罪を重ねる前に対処出来れば極刑を免れる事も出来ると考えています。
……彼等も、バルツァーレク領の民なのですから」
ガブリエルの人道派らしい発言は幻想貴族らしからぬものだ。
商人ギルドに影響力を持ち、国を憂うまっとうな貴族の筆頭とも言えるこのガブリルエルの心労はそれは大きなものになっている事だろう。政治的にも、心理的にも。
「実を言えば、特にこの所の盗賊連中の動向は活発化の一途を辿っているのです。
やり方はどんどん荒っぽくなっているし、本来はライバル同士の盗賊団同士で幾らかの連携を取るような場合も。集散離合を繰り返し、小規模に乱立していたイリーガルな勢力が纏まろうという動きが見えるのです」
ガブリエルの言葉にイレギュラーズは苦笑した。
盗賊という連中は『弱い者に強い』連中であって、そう強力な敵では無い。だが、幾ら潰しても数だけは沸いて出る連中が組織を形成すれば話は別になるかも知れない。
「でも、あんな奴等が良く纏まろうなんて考えだしたな」
イレギュラーズの疑問はもっともだろう。
社会性が極端に低いから盗賊だの山賊に身をやつすのだ。意識だけは一丁前なお山の大将が他者の軍門に降るなんて事は、中々難しい事に思える。
「それは……」
ガブリエルの表情は今日で一番浮かないものになっていた。
「彼等は弱い者には強く、強い者には従順だという事でしょう。
……不確定な情報です。関連性は不明です。
故に、これは話半分に聞いて頂きたいのですが。
数ヶ月前にラサ地方から、一人の盗賊がレガド・イルシオンに侵入したという噂があります。
『赤犬』と『凶(マガキ)』の共同作戦で掃討された悪名高き大盗賊団『砂蠍』の頭目です。彼の名は――」
- バンディット・ゲイム完了
- GM名YAMIDEITEI
- 種別通常
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2018年02月19日 21時10分
- 参加人数8/8人
- 相談5日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
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参加者一覧(8人)
リプレイ
●StageⅠ
元々、不具合だらけなのだ。世界等というものは。
神ならぬ人に楽園は造れず。御伽噺がヒトを楽園から追いやったその時から――物語の不出来は決まっている。
つまる所、失楽園だ。謙虚に並を望んだ所で、それ以下の『くじ』を引くのも――何の不思議も無い。
「どの世界にもいるものね、社会性が著しく欠落した連中は」
薄い唇に大した感慨も乗せず。
「若気の至りも、度が過ぎれば歯止めが利かなくなってしまう――事が大きくならない内に、片付けておく必要がありそうね」
赤い瞳にも、その声色にも強い熱は篭もらず。
溜息を吐くように呟いた『赫き深淵の魔女』ミスティカ(p3p001111)の言葉に『路傍の鉄』カザン・ストーオーディン(p3p001156)が相槌を打った。
「これが幻想の日常と言っても、ねえ」
成る程、彼女等のやり取りは全く現状を表したものであった。
人間は知性と自制心で高度な社会を築いたが、中には社会のくびきの中では生き難い者も居る。
持って生まれた性質によるものか。それとも当の社会が悪いのか。卵が先か鶏が先か――考えるのは愚かかも知れないが、結果として社会から脱落した連中は時に暴力的な手段を以ってそうでない人間を害する事がある。現代地球と呼ばれる極めて高度に安定した社会であったとしてもそういうケースはゼロではないのだから、カザンの言う政情不安著しく、人々が生活に困る『澱みの』幻想の姿たるやまさに惨状だ。そこにミスティカが口にした若気の至りも加われば当然と呼ぶしかない状況なのかも知れないが。
だが、それでも『何とか出来る内に何かしなければならない』のも事実である。
「……それでも、まだ好き勝手できると、思わせるつもりはない」
「バッドボーイズ……彼らも根からの悪では無いだろう。故に見過ごす訳にはいかぬ、彼らの為にも!」
嫌気が差す程に現状に納得しながらも高潔に言ったカザンに『アイアムゴッド』御堂・D・豪斗(p3p001181)が頷いた。
「そして彼らの被害を受けた人々の為に――ゴッドはアガペの拳を以てユー達を善きロードへと導こう!」
何とも独特な豪斗の物言いにカザンは「何だそれ」と軽く笑った。
今回、八人のイレギュラーズが請け負った仕事は『遊楽伯爵』ガブリエルからの依頼である。
領内交易路を荒らし回る盗賊団『幻想黒翼天使』の対処を命じられたパーティは彼等の根城とされる廃工場を目指していた。伯爵のオーダーは彼等の盗賊団の壊滅と構成員の捕縛。幻想貴族には珍しい穏健派で人格者である彼は年若いメンバーで構成される盗賊達に更正を期待しているらしい。
「まぁ、これも仕事よね。良い結果になれば良いのだけど――」
『一刀繚乱』九重 竜胆(p3p002735)の言葉に「うむ」と『GORILLA』ローラント・ガリラベルク(p3p001213)が頷いた。
ローラントの姿は何処からどう見ても完膚なきまでにゴリラなのだが、特別な思慮深さと知慧、そして威厳を感じさせる彼の雰囲気は森の賢人といった風だ。
「幸いに、強襲の為に必要であろう情報は十分に得られた。
彼等がどういう結末を辿るにせよ、まずは私達がこの仕事を見事果たさねばならぬのは変わらないからな――」
「――そうね。しっかり、片付けないと」
盗賊団のアジトが廃工場である事を確認したローラント、竜胆、カザン、『鉄帝軍人』ハイデマリー・フォン・ヴァイセンブルク(p3p000497)等は事前の聞き込みでその大体の構造を把握し、パーティに伝えていた。
『今現在の廃工場』がどういう状態を保っているかまでは分からなかったが、大まかな部分は変わるまい。
交易路――出没エリア――での迎撃とアジトの強襲の内、パーティが後者を選んだのは動きや情報の把握がしやすいかどうかも大きい。
「ワタシとしては、あくまで為すべきを為すだけ――であります」
「この名うての傭兵、グドルフさまに任せとけ。
とは言え、おれ一人が大活躍しちゃあ立つ瀬ねえだろ。おめえさんらにも、しっかり活躍の場をやるからよ。ゲハハハ!」
「うん。連中も簡単にはいかないだろうけど……」
軍人然としたハイデマリーの簡潔で規律めいた言葉、更に続いた『独りぼっち山賊』グドルフ・ボイデル(p3p000694)の此方は豪放磊落(やとうのおやぶん)としか言いようのないビジュアルから繰り出される豪気な台詞に応じた『ちょーハンパない』アクア・サンシャイン(p3p000041)の表情が対照的に若干の曇りを見せているのは、歯切れの悪い言葉の先が原因である。
「キング・スコルピオ、ね」
彼女が口にしたのはガブリエルが依頼の最後に付け足した砂漠の大盗賊の名前である。
ラサ地方に悪名を馳せた大盗賊団『砂蠍』の頭目は、『赤犬の群れ』と『凶』の討伐作戦を逃げ延び、幻想に侵入したとの噂があるとの事だ。『砂蠍』自体はラサで壊滅した為、組織立った危険性は無いと考えられるが、幻想の盗賊達が活発化の兆しを見せているのは彼の影響である可能性があるのも事実である。
(『赤犬の群』と『凶』を相手にして、生き残ったそうね。
上手く逃げおおせた……それとも、その場にはいなかった? 内通者がいた……は、考えすぎかしらね)
形の良い眉を顰めてそんな風に思考を巡らせたアクアは不意にぶんぶんと首を振った。
その辺りは本人にでも聞かなければまず答えは出まい。仮に本人に尋ねても答えるかは分からないし、そもそも会いたい人間でも無いのだが。
そんな噂等、間違いであってくれた方が良いに決まっている。世の中はまぁ――大抵不出来な方向に転がるものではあるけれど。
実際の所、彼我の戦力は人数差も考えればそう楽観出来る程の差は無い。
まずは予定通り彼等を制圧せしめ――全てはそれからだ。
アクアやカザン、ローラント、竜胆等はキング・スコルピオの噂にも興味があったが、それも仕事の後の話になる。
(はてさて……)
ミスティカはバルツァーレク領の曇り空を何となく見上げて心の中だけで呟いた。
(『どちら』が良いのやら。まぁ、その場にいなければ、それに越した事はないのだけれど――)
●StageⅡ
「まぁ、話に聞いていた通りでありますな」
意図的に低くトーンを抑えたハイデマリーの言葉にパーティの面々は頷いた。
「数は十八。流石にその辺りは伯爵の情報も正確だったと言えるでしょう。
加えて報告するならば、工場の作りも『当時』と変わっていないようであります。
遮蔽物等はさて置いて、広々とした空間が広がる――戦い易い局面でありますな。
ワタシ達は先の情報収集の通りに行動出来る、と考えて良さそうであります」
ハイデマリーの――パーティの視線の先には『幻想黒翼天使』の拠点たる廃工場が佇んでいた。
歩哨の類は立っておらず、周囲を強く警戒している様子は無さそうである。
余り近付かず、気付かれないように屋内の様子を探るのは通常難しいが――その難題はハイデマリーの異能がいとも簡単に片付けている。
透視の力を持つ彼女は薄い工場の壁等ものともせず、内部の状況を把握していた。
「連中は拠点内に散っているようであります。強襲をかけたとしても即座の効率的な迎撃は出来ますまい」
「うむ、これは好都合だ」
ハイデマリーの的確な言葉に同意見だ、とローラントが頷いた。
情報は武器で、正確な情報はより確実な分析をもたらす。
戦略にしても、戦術にしても――ハイデマリーはその有用性を誰よりも理解する者だ。
競い合う彼我を戦力として比較する場合、まず分析するべきはストロングポイントとウィークポイントになる。
今回の依頼で明確にパーティが有利と呼べる強みは『まず自身等が強襲を行う側である』というアドバンテージ。
そして『単体比較した時の力が上回っている』という事実である。
前者は攻撃のタイミング、気構え等を一方的に優位に取る事が出来、後者は直接対決の優劣に加え、継戦能力を維持しやすい意味でも有効だ。
翻って。不利が何かと考えれば、それは勿論数の差である。
八人の味方戦力に比して敵の数は十八名。一人一人の強さは然程でなくとも、有利な時に調子に乗って強くなる連中だから甘くは見れない。
「手筈通りに……出来るだけ壁や障害物の位置は意識して」
「おう、塩梅は分かってるぜ。そろそろ――暴れる時間だな」
カザンの言葉に、野太い笑みを口元に貼り付けたグドルフが腕をぶす。
『相変わらずどちらが賊か分からない』迫力だが、そんな彼の姿は戦いとなれば頼りになるのも事実である。
パーティはこの後、一塊となってアジトを強襲し、可及的速やかに全体を制圧を狙うという寸法だ。
ゆっくりと慎重に――気付かれぬようにアジトへ接近し、
「バッドボーイズが油断していて、連携が難しい状況(いま)が理想である! さて、アサルト……強襲だ!」
豪斗の言葉にパーティが一斉に動き出す。力を放つようにその正面入口を蹴破った。
「おらあ、ガキども! その腐った根性、おれが鍛え直してやるぜ!」
怒号めいたグドルフのその声が俄かに戦場と変わった廃工場の空気を震わせた。
最初から敵の位置は分かっていたのだ。最短距離で間合いを詰めた彼の拳は強かに手近な盗賊の顔面を捉えている。
「ゲハハハ! お仕置きにゃ――ちょいと力を入れ過ぎちまったか?」
「特攻のマサが――!」
「何だ!?」
「敵か?」
「上等だ、この野郎――!」
小細工を打つような局面ではない。真っ直ぐいってぶっ飛ばす――シンプルだが無駄のないスタートは、油断し切っていた黒衣の盗賊達を慌てさせた。
……反応こそ様々だが、たしかに混乱しているのは間違いない。
至極分かり易いグドルフの名刺代わりの一撃の間にも状況は動いている。
一塊に現場へ踏み込んだパーティは盗賊連中が状況を完全に理解する前に己が動きを定めていた。
「後方のセイフティは重要。ロングレンジアタッカーの戦いやすい状況を半円状に前衛で作り出すが基本である!
広げすぎて孤立した状況にならぬよう気を付けるのだぞ!」
成る程、豪斗の言葉は理に叶っている。
即ちそれは敵の数を十二分に発揮させない為の戦いの工夫、陣形の形成である。
入り口近い壁を背に半円の陣形を形成し、比較的打たれ強いものを前に出せば敵は数を生かしにくくなる。
パーティ側の遠距離攻撃力も十分に、そして効率的に発揮しやすくなるという訳だ。
「堕ちた天使に翼は不要――」
赤い目を細めたミスティカのグリモワールが神秘を紡ぐ。
か弱き少女の器、その額に輝く殺戮の魔女こそ――黒翼の天使に告死する『始まり』だ。
魂魄遣い(ネクロマンサー)はその身に赤き神秘を纏い、容赦無き術式で敵を撃つ。
「――その自惚れた自尊心、もぎ取らせてもらうわよ」
「そうね」
ミスティカの術式に応じるように指先に焔を宿したのはアクアである。
「時に戦いは拙速を尊ぶ。バカ相手だと思って痛い目を見たら――そっちの方がよっぽどだわ。
だから、取り敢えず――羽を毟られたら、素直にこんがり焼かれちゃいなさい!」
間合いを染める熱量はこれもまた『始まりの赤』である。
「次、任せたわ――」
「――九重竜胆、此処に推参! ――何てね?」
グドルフの豪快な一撃、華麗に術を紡いだ二人に続き、次なる一手を勤めるのは――名乗りも華やかなりし、麗しき少女(※重要)剣士、竜胆だ。
嘘も言い続ければ本当になると知っている。だから彼女は美少女である。何がどうあれ美少女で、間違いなく掛け値なく何の問題も無く美少女だ。水着着てね!
――閑話休題。
「空耳が」
僅かに冗句めいた彼女はグドルフとは又別の対象に素早い身のこなしから斬りかかる。
一刀両断ならぬ――『二刀両断』は、流麗に閃く刃の風のようである。
「ちくしょ――って、えええ……!?」
仲間を激しく抉られ、声をあげかけた盗賊が目にしたのは隆々たるその肉体を更にパンプアップしてみせたゴリラ――もといローラントだった。
「ここは止めさせて貰おう」
威厳あるその言葉と共に丸太のような腕が振るわれる。
前衛に立ち、すかさず敵を阻む彼の動きはパーティの想定通り。
状況をようやく理解した盗賊達は強襲してきた『敵』に迎撃の構えを取らんとしているが、未だその動きは散漫なものだ。
彼等に優秀な指揮系統があったならば、混乱を早く収め、状況を立て直し――『一人の敵を集中的に攻撃し始めた』かも知れない。
だが、取り敢えず得物を手にして各々が勝手に的と定めた敵を狙い始めるという攻勢は、非効率的と言わざるを得まい。
反撃に出る盗賊達にパーティは幾らかの傷を負ったが、継戦に支障の出るようなものでは無かった。
「バッドボーイズを――少々諫めねばなるまいな!」
戦いの局面においても慈悲深く善良な豪斗の長い足が得物を振りかぶりかけた盗賊の一人の腹に突き刺さった。
ガブリエルの依頼もさる事ながらあくまで『諌める』彼の一撃は誰かの命を奪おうとするものではない。
「息の根が止まる前に、そこに倒れておくといい」
得物の大振りを身を翻して避けたカザンが、隙を見せた敵に格闘術式の一撃を叩き込む。
(調子に乗らせず、かつ数を減らしていくことが重要だ――)
ちらりと周囲を確認したカザンが小さく頷いた。全体の作戦は『まず調子に乗った敵を減らし』『そして敵自体の数を減らしていく』ものだ。
何れ彼等もある程度連携を意識して戦い始めるだろうが――そうなるまでにペース良く削っていけば、戦いの有利は揺らぐまい。
「おいおい、さっきまでの威勢はどこ行った!?」
煽るグドルフは『こんな風』でいながらも――仲間を癒す術をも持ち合わせる。
実際の所、敵戦力は小さくは無いのだ。
だが、盗賊達には芯が無く、グドルフには、特異運命座標達には揺らがない強い意志があった。
それは彼等が元々持ち合わせた資質か、それとも救世主の運命さえ背負わされたが故の必然か。
答えは分からねど、最大の戦力差は、その意識。違いすぎる遂行力――
「オールグリーン、でありますな」
――ハイデマリーのスナイパーアイは敵の乱れを見逃すまい。
戦場の彼女のその役割は眼である。そして鋭い牙である。咆哮(じゅうせい)を上げたライフルが盗賊の一人を打ち倒す。
パーティの攻勢が再び始まる。
ローラントの拳が盗賊を捉え、仲間を守らんとするマークが敵の動きを阻んで見せた。
「……こ、こいつ等、強ぇ!」
否、実際の所を言えば――恐らくそれは強さ云々の問題ではない。
「全ての生命は、命を紡ぐ『権利』と命を繋ぐ『義務』を持つ。それは、君達とて同じ事」
ローラントの厳かな言葉に盗賊は息を呑んだ。
「無闇に死を、罪を選ぶな。その若い身命を――大切にする事だ」
『まともにやれば』少なからずイレギュラーズを苦しめたかも知れない『幻想黒翼天使』達は、どうやらその力を発揮出来そうに無かった。
●StageⅢ
「運が良かったわね、貴方達。心優しいご領主様に感謝なさい。この場の命『だけ』は保証してあげるから」
冷然と響くミスティカの言葉に盗賊達は項垂れた。
盗賊達が戦意を喪失し、降伏したのは比較的短い戦いの後だった。
元々強気な時は強気だが、傷付くと大人しくなるような連中である。
年若く、そこまで大きな罪を重ねていないという事――そして領主ガブリエルの名声も多少はプラスに働いたのかも知れないが。
「ねぇ、貴方達」
竜胆の言葉に盗賊達は面を上げた。
「――キング・スコルピオって知ってる?」
問いへのざわめきは殆ど答えのようなものだった。
「あらあら」
「知っているようで――ありますな」
「尋問するまでもない」反応に嘆息したのはハイデマリー。
実際の所、彼等の『親分』では無いのかも知れないが、豪斗の言う通り。悪い影響があったのは間違いなかろう。
「……傘下に入りたい、とは言った」
盗賊の一人が重い口を開いた。
「キング――の子分だっていう男と話して、そしたら……テストだって。それで俺達は……」
顔を見合わせたイレギュラーズが一つ頷く。
少なくとも今の幻想に『キング・スコルピオを名乗る何者か』がその触手を伸ばし始めているのは間違いない。
「ゴッドは世に思う事はあれど口を出す事は少ない! しかし、チャイルドを悪のロードへ誘う事! それは許し難き事!」
豪斗の言葉に「反省してます」と盗賊達が頭を下げた。
殺気を発さず、相手を制圧せしめた彼の人徳はロクデナシにも多少は響いたという事だろう。
「普通に考えれば、盗賊として、ターゲットにしたってところなんでしょうけど……
『幻想』にそんなに価値のある物ってある? 何を……どこを狙って来たのかしら……生き物、って事もあるかしらね」
首を捻るアクア。
「力で弱者を従わせて更なる力を得、盗賊達の理想郷でも創る心算なのかしら」
「まだるっこいしい野郎だぜ」
「余り、捨て置ける事ではないな」
ミスティカの言葉をグドルフは鼻で笑い、一方のローラントは噛みしめる。
「配下を失った落ち目の盗賊――そう聞いたけどね」
溜息を吐いたカザンはこれからの事を考えた。
彼(キング・スコルピオ)に纏わる事件はまだ続くだろう――今回出会わなかった事は恐らく『幸運』。
「なるようにしか、ならない――ね」
竜胆とて、ケセラセラに命運を預けるのはぞっとしないが――イレギュラーズは間違いなく、もっと、もっと忙しくなるだろう。
成否
成功
MVP
なし
状態異常
なし
あとがき
YAMIDEITEIです。
特に問題なく十分だったと思います。
ちょい字数オーバーフローしました。
順調に書きすぎ症候群発症しています。
あ、あと称号出しておきます。お遊びですが。
シナリオ、お疲れ様でした。
GMコメント
YAMIDEITEIです。
もう一本位出しておきます。
以下詳細。
●依頼達成条件
・盗賊団『幻想黒翼天使』の壊滅
※ちなみにげんそうルシファーと読みます。
依頼人のガブリエルは彼等の生け捕りを所望しています。
裁判にかけ、更正を促す心算のようです。
●幻想黒翼天使
バルツァーレク領の交易路を最近荒らしている盗賊団。
本件の直接的依頼対象は彼等で、オーダーは壊滅する事です。
『特攻服』と呼ばれる華美な統一衣装を纏う盗賊団で若者を中心に構成されています。
人数は十八名。気性が荒く、全員がHPが全快の時にオラつく……じゃない、強くなるスキルを有します。物理攻撃が得意で、近接武器を中心にめいめいに武装しています。
彼等が良く出没する交易路で迎撃するか、彼等のアジト(廃工場)を強襲するか、どちらかが良いとガブリエルは言っています。
数の差を含めると割と強敵と言えるので注意して下さい。
●彼の名は。
キング・スコルピオ。
盗賊団『砂蠍』の頭目で生死不明。
全身に入れ墨を入れた凶相の男。精悍なスキンヘッドの格闘家(との事)。
『赤犬の群』、『凶(マガキ)』の合同作戦でラサの『砂蠍』は壊滅しましたが、彼の首は挙がっていません。
情報精度はAです。
以上、宜しくお願いします。
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