シナリオ詳細
ミルキーガーデンのホワイト・コーラス
オープニング
●冬を春にかえる物語
青雲と陽光。白い花畑を歩く、耳の長い女。
足下にぽわぽわとゆれる丸い花々は絨毯のように一面を白く埋め、綿毛を舞い上げていく。
風もなく、むしろ冷たい雪が積もっている季節だというのに、綿毛は高く飛び上がった。
空でぱちぱちとはじけた綿毛が暖かい空気に変わり、花園へと降ってゆく。
雪は溶け、女たちは毛皮のコートを脱ぎ捨てた。
歌は高らかに、綿毛と共に空へと舞い上がってゆく。
ある幻想種(ハーモニア)たちの隠れ里、ミルキーガーデンに見られる二月の祭事である。
大樹ファルカウを崇め閉じた暮らしをする深緑(アルティオ=エルム)に代表されるように、幻想種(ハーモニア)には樹木や草花へ他種族にはない特別な価値観を持つことがある。
そのひとつの例として、深緑からは遠く離れた森中、ハーモニアたちの隠れ里の話をしよう。
冬には白くて丸い花の咲くこの里、ミルキーガーデン。
造形の通りにミルキーボールと呼ばれるこの花は里の象徴であり、里の住民でもあった。
僅か十棟前後の家々の集まった、集落とも呼ぶべきこの里は、ハーモニアのすみかであると同時にミルキーボールのすみかでもあるのだ。
ハーモニアたちはミルキーボールと共に四季を越していく。
春には受粉を、夏には避暑を。ハーモニアたちはミルキーボールを守り、育てていく。
その見返りとしてミルキーボールは秋に栄養価の高い実をつけ、冬には春のごとき暖かさをもたらしてくれる。
里のハーモニアとミルキーボールは共に支え合って暮らしていた。
――そんな里に、ある日危機が訪れた。
「司祭様、司祭様! 大変でございます!」
小さな催事場の扉を開き、金髪のハーモニアが飛び込んでくる。髪を乱し、見るからに慌てていた。
見るからに妙齢の、しかし大きな司祭の帽子を被ったハーモニアが振り返る。
「お行儀が悪いですよ。雪融祭の準備にかからねばならない時に……」
「そ、それどころではございませんわ! グリポサが現われたのです!」
「グリポサ・バンディットが?」
司祭の手から、水やり器が転げ落ちる。
たちまち村は大騒ぎになった。
数少ないハーモニアたちは慌てふためき、とるものもとりあえず催事場へと詰めかけた。
「グリポサ山賊(バンディット)といえば東の村を焼き払ったというあの!?」
「どうしましょう。おしまいだわ、里を捨てなければ」
「スノーボールたちはどうするんだい、我々が居なければあの子たちは枯れてしまう」
「雪融祭がまだ途中だというのに、こんなことって」
「近くの貴族に助けを求めましょうか」
「いけません。どんな弱みにつけ込まれるか」
「けれど中立を保ってくれる他種族などいましょうか」
「それでいて戦う力を持っている方なんて」
「待ってくださいまし、私噂に聞いたことがございます。なんでも大樹ファルカウの前で宴会を開いてご好意を貰った方々がいらっしゃるとか。名はたしか――」
●かくしてギルド・ローレットへ
「山賊退治はお得意? ハーモニアの隠れ里から依頼があったのよ」
『色彩の魔女』プルー・ビビットカラー(p3n000004)がそう語ったのはギルド・ローレットの一角。
生クリームをたっぷり乗せたクランベリーパイを切り分けていた時だった。
ハーモニアの隠れ里がひとつ、ミルキーガーデン。
森の中にひっそりと存在するその小さな集落が、グリポサ・バンディットという山賊たちに襲われつつあるのだ。
里が見つかるのも時間の問題。ミルキーガーデンの住民たちはすがるような思いでローレットへと山賊退治の依頼を託したという。
「グリポサ・バンディットはグリポサというブルーブラッドからなる山賊集団よ。
村を襲って略奪をしたり、時として山に火を放つようなこともあると聞くわ。
自然を愛しひっそりとくらすミルキーガーデンの人々にとっては天敵ね」
紅茶のカップをくるりと回して、プルーは首を振った。
「彼らはまだ森の中で迷っている筈。これを見つけて、森の中で倒すのよ。
隠れ里の場所を知られるのもよくないわね」
山賊たちの戦闘力はそれほどではないが、里を見つけられてしまう前に彼らを発見し、そして倒さねばならない。
森林内におけるなにかしらの捜索能力があるとよいだろう。
「もししっかりと山賊たちを追い払えたなら、ハーモニアたちは里のお祭りに招くことも考えているそうよ。冬のお祭りを見せるんですって。
あのミルキーガーデンが外の人を招くなんて滅多にあることじゃないわ。
もしお祭りを見られることがあったら、ぜひお土産話にして頂戴。楽しみにしてるわね」
- ミルキーガーデンのホワイト・コーラス完了
- GM名黒筆墨汁
- 種別通常
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2018年02月16日 23時45分
- 参加人数8/8人
- 相談7日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
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参加者一覧(8人)
リプレイ
●深き森に隠されて
ハーモニアたちがくらす森は侵入者を拒むかのように深く、どこか薄暗い。
森に立ち入ることすら躊躇させるような、暗い海に潜るかのような気持ちを侵入者たちにもたせた。
だがそれは、先に隠れ里『ミルキーガーデン』があることを知らなければの話である。
『灰燼』グレイ=アッシュ(p3p000901)は大きなつば広帽子の先端を杖でくいっとあげると、豊かに生い茂った森の空気を吸い込んだ。
「依頼の後にはハーモニアたちの歌とミルキーボールに囲まれて疲れを癒やし、そこに美味しいケーキが待っている……。いやぁ、やる気が滾るね!」
先に待つのがよきことと知れば、森の暗さは緑の深さ故と気づけるし、木々に深くついたぽこぽこが食用可能なキノコ群だとわかる。
きわめて清らかに澄んだ空気と、深く栄養をたくわえた土。虫や小動物たちは潤沢なサイクルを築き、雪降る冬ですら動物たちを殺せない。
深く呼吸を整える『メイドロボ騎士』メートヒェン・メヒャーニク(p3p000917)。
「ハーモニアのお祭りに招待して貰えるなんてそうあるものじゃないからね」
「ハーモニアの隠れ里……きっとほわほわしててとろんとしてて、いいところなんだよね……」
頬に手を当て、うっとりとする『Artifacter』ユーリエ・シュトラール(p3p001160)。
「きっちり盗賊退治をしてお、祭りを楽しませて貰おうか」
「ですねっ」
『夢色観光旅行』レスト・リゾート(p3p003959)はそんな彼女たちに頷いて、さしていた日傘をぱたんと畳んだ。
「同じハーモニアが困ってるんだもの、早く安心させてあげたいわね~」
豊かな森でひっそりとくらすハーモニアたち。
それを脅かすバンディット。
これが仮に討伐依頼でなかったとしても、彼らの中でやるべきことはハッキリしていた。
「ナワバリは大事だよ。ハーモニアたちの住処を守らなきゃね」
棒状の武器を肩に担ぎ、森に踏みいる『砂の仔』ジュア(p3p000024)。
あとに続いた『駆け出し冒険者』シャルレィス・スクァリオ(p3p000332)も、胸一杯に息を吸い込んで決意高く目を光らせた。
「山賊なんかに村を滅茶苦茶にされてたまるもんか。絶対守って、みんなでお祭りを楽しむよ!」
「うん。がんばろうね」
ジュアたちは頷き合い、そしてそれぞれの担当方面へと分かれていく。
それぞれについて行くべき『屍の死霊魔術師』ジーク・N・ナヴラス(p3p000582)と『誰ガ為』佐山・勇司(p3p001514)がちらりと顔を見合わせた。
「バンディットを見つけても、できるだけ殺さないようにしよう。祭りがあるなら、血生臭いのは遠慮したいかんな」
「…………」
「分かってる。俺が嫌なだけだ。人を助けたいと思って剣を振り、人に刃を向ける。難しいな、ホント」
何を言われたわけでもないのに小さく首を振る勇司。ジークは僅かな沈黙をはさんで……。
「かの里に、賊なんて野蛮な存在は必要ない。村や山を燃やす輩なら尚更ね」
骸骨そのものといったジークが目の奥をきらりと光らせる。
一方で真っ黒い鎧に包まれた勇司もアイシールドの奥をきらりと光らせた。
ジークは彼の肩をぽんと叩き、シャルレイスを追って歩いて行った。
そして勇司もまた、ジュアを追って歩き出す。
●森の声を知ったなら、森は君の手のひらとおなじ
しめった土を踏む靴。
広がったスカートが草を撫でる。
メートヒェンは右へ左へ視線を巡らせながら深い森の中をゆく。
静かな森ではあるが、耳をすませば無数の動物たちの音に満ちていた。こんな場所に紛れ込んだ人間を探し出すのは簡単ではないだろう。
木々の間を抜けて枝にとまった小鳥に目をやる。
丁度いいねとグレイが歩み寄り、小鳥にわかるように問いかけた。
『見慣れない人物、具体的にはブルーブラッドの山賊なんだけど見かけていないかなぁ』
小鳥はぴいぴいと何かを言って、その場からパッと飛び立った。
すぐに言ってしまったのかと思ったが、レストの頭上をくるりと旋回すると翳した指の上にとまった。
「小鳥ちゃん、よろしくお願いするわね~」
レストが手を空に掲げれば、彼女と五感を共有させた小鳥が空へと飛んだ。
木の枝を抜け、隙間を惜しむように広がった葉を突き抜け、勢いよく森の上空へと飛び出していく。
グレイも同じことを聞いていたが、小鳥によれば北のほうに知らない獣がいると鳥たちの噂が伝わってきたという。
様子を見るべく一度くるりと回ってみれば、噂通り森の北側がすこしだけ騒がしい。
葉に埋もれて中身は見えないが、あちこちで鳥が逃げるように飛んでいるのだ。
きっと乱暴に散策する人間が紛れ込んでいるのだろう。
レストたちは鳥を安全なところに逃がしてあげつつ、怪しいところへと近づいていった。
すると、乱暴に切られた植物のツタとみつけた。
レストは日傘の柄でコンコンと木をノックして、何があったのと聞いてみた。
うんうんと何度か頷いて……。
「そう、わかったわ~。あとはおばさんに任せてね~」
にっこりと木にほほえみかけた。
視点を一度森の上に抜け、そこからやや西側へと飛んでみよう。太陽を求めて広がる葉を抜け視点を地に下ろせば、二人組のブルーブラッドが歩いているのが分かるだろう。
黒いイノシシ系の二人組はかたや蛮刀、かたやウッドストックの猟銃をもって森を進んでいた。
蛮刀のほうをジャクス、猟銃のほうをキリーという。
ジャクスはいらついたように樹木を切りつけ、舌打ちをしながら進んでいる。
「クソ、ほんとにこんな森に隠れ里なんてあるのかよ」
「そう言うな。見つけりゃ略奪し放題だ。なんでも冬でも暖かいんだとよ」
「そりゃいい。何をしてるか知らねえが、全部いただいちまおうぜ。でもって食いもんは――」
期限を取り戻したジャクスを遮るように、キリーが片手を翳した。
「待て、誰か近づいてくる。……早いぞ!」
耳をすますのも一瞬。すぐさま反転して猟銃を構えた。
さあお待ちかねだ。スコープ越しに見えたのはキラリと光る片目。靡く長髪。
前傾姿勢で全力走行するメイド、メートヒェンだ。
「人だ、ハーモニア――じゃねえ!」
射撃。
ライフル弾頭が回転して飛ぶ。
着弾距離まで5メートルのところでメートヒェンはたんっと踏み込み、鋭い回し蹴りを繰り出した。
なんということだろうか。がきんという音と火花を残して弾頭は明後日の方向へ弾かれたではないか。
まずい、と思った時には眼前へと近づいている。
もう一発だ。キリーが放った弾は跳躍したメートヒェンに回避された。
メートヒェンは飛び込むように地に両手をつけると、両足から思い切り蹴りつける。
声をろくに出すことなく蹴り飛ばされ、樹幹に背をぶつけるキリー。
「慌てるんじゃねえ、二対一だぞ!」
蛮刀を振りかざすジャクス。彼の刀はメートヒェンへ届くより早く、明後日の方向から飛んできたマギシュートによって弾かれた。
「てめぇこそ焦るんじゃねえ、敵は一人じゃ――」
二人して魔術の飛んできた方向を見やれば、杖をついて魔術を唱えるグレイと、優雅に日傘をさしてふわふわと浮かぶレストがいた。
ぱたんと傘を閉じ、まるで銃口でもつきつけるように先端を向けるレスト。
「見つけたわ~。さぁ、おばさんと一緒に帰りましょうね~」
レストは頬に手を当て、傘の先端に魔術の光を集めた。
森の中で見つかったバンディットたちの抵抗など、どれほどの意味があろうか?
よろめいたキリーの頭を傘の柄コツンと叩くレスト。星型の魔力が飛んで、キリーは目を回して倒れた。
その一方ではメートヒェンがジャクスにハイキックを浴びせて気絶させている。
グレイが彼らを適当に拘束すると、メートヒェンが後は任せてくれと言って二人を担ぎ上げた。
山賊を山賊担ぎにするというのもおかしな話だが……。
「女性に重いものを持たせるのもよろしくないよ。ほら、一人かしてごらん?」
そんな風に言ってグレイが手を翳した。メートヒェンが暫く黙ったあと、ぽんと片方を投げるように渡した。
グレイは両手でキャッチしそこねて相手を地面にドスンと落とした。
●右の胸に勇気を、左の胸に正義を
手を地面にあてて注意深く観察するユーリエ。
顔を上げて片目を隠すようにして見回すと、何度かこくこくと頷いた。
「多分だけど……この先にいるのがバンディットで間違いないみたい」
バンディットたちはどうやら襲う側の余裕と侮りゆえに痕跡を消すということをせず、堂々と土に足跡を残し、草を切って進んでいたようだ。
ユーリエはそれをしっかりと見つけ、温度視覚でもってバンディットらしき影を追っていた。
腰ベルトにくっつけたホルスターから赤く光る拳銃を抜くと同じく周囲を観察していたジュアと勇司に呼びかけた。
「急げば追いつけると思う。行ける?」
「勿論だ。切り込み隊長はやらせてもらうぜ」
両手剣をぎゅっと握りしめる勇司。
鎧姿のまま勢いよく走り始めた。
ここまでくればもはや逃がすことは無い。
勇司はしっかりと相手の気配を掴み、突撃の構えをとる。
「誰だ!」
大きな棍棒を武器にする茶色い毛皮のイノシシ系ブルーブラッドが振り返った。
彼をジャクソン、猟銃を担いでいるもう一人をキッサという。
「ジャクソン、こいつは――」
「分かってる。ぶっ殺せばいいんだろォ!」
棍棒を繰り出してくるジャクソン。
勇司はアイシールドの奥でギラリとなにかを光らせた。
それは瞳の輝きであり、彼自身の魂の輝きでもあった。
その光は彼を大きく包み込み、黒く輝く全身鎧となった。
棍棒と剣がぶつかり合い、反動で互いによろめく。
「ヘッ、ハーモニアちゃんたちの助っ人ってか? 悪いが奴らは俺の獲物なんだよ。想像してみな、俺が奴らをしゃぶりつくすところをよ!」
「――」
勇司の光が強まった。
再びの打ち合い。よろめいたのはジャクソンの側だけだ。
「アンタは」
踏み込み、再びの打撃。
今度もよろめいたのはジャクソンだけだ。
数歩後じさりして、ジャクソンは不思議なものを見る目で勇司を見た。
「アンタは、『いかにも』すぎるな」
勇司の目が見ているものが、理解できなかったからだ。
物陰から飛び出すジュア。
ジャクソンの背後をとった彼はグレイブを思い切り叩き付けると、ジャクソンの身体を無理矢理宙に浮かべた。
普段とろんとしたジュアの目に、乾いた鋭さが宿った。
ぐるん、とグレイブを回し、再びの打撃。
野球選手のフルスイングのごとく繰り出した勇司の剣とサンドするように、ジャクソンへと炸裂した。
呻いて棍棒を取り落とすジャクソン。
ジュアはもう充分だと息をついて、ジャクソンの顔面に拳を叩き込んでやった。
目を回して倒れるジャクソン。
そんな彼らに背を向けて走る者がいた。キッサである。
「逃げる気だ――ユーリエ!」
ジュアが呼びかけると、木の枝の上に立っていたユーリエが無言で応えた。
赤く光る拳銃を構え、撃つ。
発射された弾頭は隣の木の枝数センチ下をかすめ、葉と葉の間を抜け、飛ぶ蝶にも触れることなく、逃げ走るキッサの足に着弾した。
ぐわっと声を上げて転倒するキッサ。
キッサは舌打ちして猟銃を構えて撃つが、先んじてユーリアは枝から飛び降りて着地。両手でしっかりと拳銃をもって狙いをつけ、連射しながら距離を詰めていく。
キッサが次なる射撃を始めるより早く距離を詰めると、銃身を蹴りつけて狙いを無理矢理外させ、魔力を込めた銃のグリップで殴りつけて倒した。
ジャクソンを背にかついでやってくるジュア。
「殺さずに済んだの?」
「そうみたいです」
ユーリエはリボルバー弾倉を開放して空薬莢を落とすと、広げた布袋で受け止めた。
ジュアに続いてやってくる勇司。彼は気絶したバンディット二人を確認して、どこか安堵したように見えた。
●魂の輝きと罪の濁り
むき出しの土、傷ついた木。
何かを目指して一直線に進む何者かの痕跡に触れ、シャルレィスは目を細めた。
「見つけたかな?」
「そうみたいだ」
対象はまるで里の位置を探り当てたかのように迷い無く進んでいる。
きっと里のハーモニアたちがこっそりと使っていた獣道を探り上げたのだろう。
ここまで探索能力に優れているということは、もしかして……。
「リーダーのグリポサ、かな」
「恐らくはね」
うん、と頷くジーク。
いつでも戦闘可能なように杖を握ると、目に見えない何かを探るようにして走り出した。
それを追って走るシャルレィス。
「この先だ」
先制できそうだ。
そう呟いたジークは杖の先端に青白い光を宿した。
ぶん、と振り回せば幻想的な軌跡をひき、ドクロのような幻影を生み出していく。
ジークが杖を突き出せば、ドクロの幻影が木々の間をうなぎように泳ぎ、その先にいるグリポサへと食らいついた。
「むっ――!」
それに気づき、反転して剣を繰り出すグリポサ。
ドクロの幻影はかき消したが、打ち込まれた魔力がグリポサをむしばみ始める。ざかざかと土や落ち葉を踏んで走るジーク。
その姿に舌打ちすると、剣を手に迎え撃つ構えをとった。
すぐさま無数のドクロを生み出して放つジーク。先程のものとはワケがちがう。呪詛をはらんだ魔力たちだ。
グリポサは、気弱なものなら腰を抜かして逃げそうなその光景を前にしてもひるむことなく突き進み、ジークへと斬りかかった。
が、それがジークに届くことはない。
「残念でした! ここまでだよ!」
横からさしこまれた剣。
ニッとわらうシャルレィス。
彼女の周囲を白いきらめきが包み込み、軽装は一瞬にして見事な戦装束へとチェンジした。
グリポサ蹴りつけて距離をとると、ジークへの道を塞ぐように剣を構えた。
眉をキッと釣り上げるグリポサ。
「女が……!」
剣を幾度も打ち合わせるグリポサとシャルレィス。
その隙を突くように繰り出されたジークの魔術がグリポサの背後に回り、肩口から食らいついた。
う、と呻いて動きを止めたその一瞬。シャルレィスは美しく走る剣でグリポサの剣を打ち上げた。
回転しながら飛び、高い木の枝に刺さる剣。
慌てて両手をあげるグリポサ。
「こ、殺さないでく――」
「殺さないよっ!」
剣の柄でずんと殴れば、グリポサは白目をむいてぶっ倒れた。
ジークは倒れたグリポサへかがみ込み、これでは霊魂に話を聞けないな……と呟いたが。
『もし、もし、あなたはローレットのお方でしょうか』
ジークが無言で顔を上げると、耳の長い女の霊が小さく会釈をしていた。
『森を蛮人の血で汚さなかったこと、感謝いたします』
「そうか、他の皆も……」
すっくと立ち上がると、女の霊は里へ招くかのように手を差し出した。
『どうぞお手を、あなたがたにはそれだけの誉れがありますわ』
●雪融祭(ホワイト・コーラス)
迎えもなしに里へたどり着いたイレギュラーズたちに、ミルキーガーデンの民たちは驚いた。
なにより驚いたのは、先祖代々使ってきた秘密の小道を正しく通ってきたことである。
木々の声を聞き共に生きる彼女たちは、小道を巧みに隠して外からの侵入を防いでいたというのだが……。
「そうでしたか。きっとそれは我々の祖霊でしょう。我々は森に生まれ森で死に、森を守るといいます」
里を守ってくれただけでなく、祖霊の導きも得た彼らを、ミルキーガーデンのハーモニアたちは歓迎した。
「うわぁ、うわぁ!」
笛の音、重なる歌声。ミルキーボールはぽわぽわと光を浮かべ、冷たい空気をたちまちに暖かく変えていく。
その様子を楽しげに見つめるシャルレィスやグレイたち。
「おばさんも歌ってみようかしら~?」
レストもつられて歌い出し、笑うハーモニアたちと手を取って踊り始めた。
そんな様子をスケッチしはじめるメートヒェン。
「幻想的な光景だね。プルー殿にもいいお土産話が出来そうだ」
ジュアやユーリエたちには沢山のハニーケーキやお茶が配られ、ほくほく顔で頬張っている。
ジークがふと問いかけた。里のミルキーボールをひと株もらえないだろうかと。
司祭のハーモニアは花も里の住民だからと断わりかけたが……。
「あら? ……そう、わかりました」
そばにある花に語りかけ、土ごとそっと持ち上げた。
「この子はあなたと外を見たいと言っております。どうかご一緒させてあげてくださいな」
歌と光。踊るハーモニアたち。
勇司はそんな光景を眺めながら、蜜のはいったお茶を飲み干した。
「この先、血を流す事になったとしても、こうして笑っていられる人の姿を見る事が出来るのなら、俺はきっと……」
今年もまた、ミルキーガーデンに暖かい冬がやってくる。
成否
成功
MVP
なし
状態異常
なし
あとがき
おかえりなさいませ、イレギュラーズの皆様。
此度の活躍、大変見事でございました。
探索能力のあるメンバーを振り分けつつ、お祭りの前だからとあえて殺さないように工夫し努力するそのお手際、里の皆も大変感心していたことでしょう。
そのせいでしょうか。皆様のよい噂が深緑(アルティオ=エルム)の人々にもそっと伝わっております。
GMコメント
お待ちしておりました、プレイヤーの皆様。
山賊退治はお得意なPCはいらっしゃいますか?
森の中での行軍は?
小動物を手なずけたり五感を共有したり、耳や鼻をきかせて探索する特技をお持ちですか?
そんなPCたちの能力が、この依頼ではきっと活かされることでしょう。
勿論、重要な戦闘要素もございますよ。
【依頼内容】
『グリポサ・バンディットの退治』
『ミルキーガーデンの場所を外に知らせないこと』
この二つが依頼主からのオーダーです。
もし首尾良くこなすことができれば、村のお祭りに招いてくれるといいます。
【ロケーション】
深い森の中です。
時間的にも日光は通っていますが、視界は通りづらくまっすぐ行軍するのも困難です。
ここにグリポサ・バンディットの集団が3グループに分かれて迷っています。
これらを発見、撃破することが必要となるでしょう。
参加メンバー8人一丸となって捜索してもよいですが、3グループすべてを見つける前に里にたどり着かれてしまっては大変です。
メンバーを2~3つに分けて探すのが、効率・安全性ともにオススメです。
どんな風にメンバーを分けるのかは、集まった人々の技能や個性、相性やその場のノリでお決めになってくださいませ。
【グリポサ・バンディット】
ブルーブラッドで構成された山賊です。
必然、超反射神経(不意打ち無効)をもっています。
リーダーのグリポサは探索能力に優れとても鼻が良いといいます。
山賊たちの詳細戦力は不明ですが、前衛型と後衛型が半々くらいだと言われています。
【雪融祭(ホワイト・コーラス)】
もし山賊退治をしっかりと成功させることができれば、ハーモニアたちはお祭りに招いてくれます。
お祭りは雪融祭といって、ミルキーボールに美しい歌を聴かせることで里の空気を春のように暖かくするというものです。
このお祭りによってハーモニアやミルキーボールは寒い冬を越しているのです。
喉によいと言われる甘い蜜酒や蜜のケーキが配られ、美しい風景を見ることができるでしょう。
【雑学】
・ミルキーボール
花。希少種。本来は高原にさく小さくて白い花だが、ミルキーガーデンのものだけが特別に大きく、栄養価の高い実をつけ、寒気を吸って暖気に変える特性をもつ。
これはミルキーガーデンのハーモニアたちがミルキーボールと心を通わせあい、花が本当の意味で仲間だと思っている証だという。
現にミルキーガーデンを出たミルキーボールはその特製をみせないらしい。
・蜜
ミルキーボールからとれる花蜜。
ほんわりと優しい甘さで、喉を潤し気分を軽くする効果がある。
大人向けのお酒や子供向けのジュース、ケーキなどに含んで使われる。
たまに市場に流され、里の経済源にもなっている。
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