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シナリオ詳細

神声偽典デリゲネゴス

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●異端審問リシア支部通達資料より抜粋
 『デリゲネゴス』の発生が確認された。
 スナーフ神父はデリートプロトコル・グノウを発令。
 異端審問リシア支部にて緊急招集が開かれ区画を強制的に封鎖した。
 魔の呪いが蔓延しているというカバーシナリオを用い民間人の立ち入りを禁止し、審問を理由に各家庭を捜索。対象物を発見し次第報告せよ。
 発見した場合は接触、または黙読、または音読、または10分以上の目視を禁止する。
 ステージ2に進行していた場合はただちに分離処理を行ない、対抗魔術処理を施した審問官2名同伴のもと焼却処理を行なうこと。
 ステージ3に進行していた場合は分離処理が不可能であるため、一括終了手続きを行なうこと。
 当該報告書は第三十三閲覧禁止書庫へ提出せよ。報告書の途中閲覧、複製、流出は極罪とする。

●汝、神の声を聞いたか。それは本当に神の声だったのか。
「ややこしい話になるかも知れない。先に要約をしておこうね」
 『黒猫の』ショウ(p3n000005)は薄暗い地下酒場のテーブルについて、一枚の依頼書と添付資料をそれぞれ広げ、あなたへと回した。
 酒場にはショウとあなた、そして仲間のイレギュラーズ、他にはカウンターで無表情なバーテンがなにをするでもなく虚空を見つめているのみで、不自然なほどひとけがなかった。
「これはある特定の人物を追跡、発見、そして抹殺してほしいという依頼だ。
 その上での注意事項はここに書いてある。よくよんで、取り扱いを決して間違わないように。
 特に、もつべき感情を間違わないように、気をつけてね」

 ――以下、添付資料の内容の一部である。

 禁書番号303ーA『デリゲネゴス』。
 デリゲネゴスは高さ257ミリ幅182ミリ頁数3216枚の書籍です。
 当書籍は第三十三閲覧禁止書庫に■■■■■して保管し、対抗魔術処理を施した僧侶2名以上による3交代制の監視を24時間行なってください。
 デリゲネゴスは■■■■■によって作成された聖書、あるいは経典、あるいはルールブックです。
 デリゲネゴスを一定時間閲覧した人間はこの書籍に対する理解を深めたいという欲求にとらわれ、周囲の制止を無視、または振り払ってページを読み進めようとします。
 このとき対象者は飢餓、睡眠、その他の不安症状を正常に自覚していますが、それらよりもページを読み進める行為を優先します。
 これをステージ1と呼称します。
 監視員または審問官がこの段階に入った場合ただちに戦闘不能状態にして拘束。12時間以内に祝福処理を行なってください。
 全てのページを読み切った人間はステージ2へと進行し、この書籍を複製、ないしは他人に読ませるという行為をステージ1と同質の強制力をもって実行しようとします。
 複製された書籍はデリゲネゴスと同等の性質をもつため、同一の処理を行なってください。
 監視員または審問官がステージ2へ進行した場合は分離処理と祝福処理、加えて聖別処理を行なってください。
 ステージ2を経て書籍の複製を一定数行なった対象者はステージ3へ進行します。
 ステージ3へ進行した人間はステージ2およびステージ1の対象者から強い信仰心を得るようになり、彼らに対して常識的ないしは良識的な行動をとるように要求します。

 ――資料はここで途切れている。

「僕らが追跡、抹殺するべき対象は……ここでいう『ステージ3』の人間、ってことになるね。
 素性は分かってる。『教会のシスター』トルニサ、『町の工房主』ケリスト、『新聞配達員』マグシンだ。
 彼らはそれぞれ森、谷、無人の村へと逃げ込んでいるらしい。
 他に人間らしい人間は立ち入らせていないから、相応の対策をとれば見つけることは難しくないはずだよ。
 そのあとは……わかるよね」
 ショウは資料をあなたへ突き出すと、コインを置いて席をたった。
「三箇所とも逃がすわけにはいかないから……メンバーは三つにわけた方がいいだろうね。振り分け方は、任せるよ」

GMコメント

【オーダー】
・成功条件:対象者3名の抹殺
・オプションA:????
・オプションB:????

 このシナリオはメンバーを3つに分ける必要があります。
 捜索における得意不得意、レベル等による戦力バランス、イレギュラーズ同士の相性などを考えて振り分け方を相談してみましょう。
 どうしても決まらなかった場合や困った場合は『おまかせ』としてください。オート編成がなされます。

●『教会のシスター』トルニサ
・探索パート:森
 教会の奥にひろがるうっそうとしげる森。
 薄暗く、獣も多い森にトルニサは逃げ込みました。
 イレギュラーズたちが突入する時刻は、逃げ込んでさほど時間はたっておらず、適切に捜索すれば追いつくことができるでしょう。
 ただしこちらの気配を感知すれば逃げ出してしまうため、素早く追いつくか回り込むといった方法が必要になります。

・戦闘パート
 トルニサは回復能力と神秘攻撃力に優れていますが、耐久力がやや低いようです。

●『町の工房主』ケリスト
・探索パート:谷
 見通しの良い谷です。このパートに関しては捜索技術自体が必要ありません。
 ただしケリストは工房で使っていた馬力のある馬車に乗り逃走しています。
 こちらも軍馬その他を使い追いつく必要があるでしょう。

・戦闘パート
 馬車、または馬にのって逃げ続けるケリストに追いすがり、戦闘を続けることになります。
 ケリストはマジックライフルの扱いに長け、防御障壁を展開します。
 攻防バランスが良く、戦闘もすこしだけ難易度があがるでしょう。

●『新聞配達員』マグシン
・探索パート:無人の村
 異端審問官たちによって住民の避難その他が完了した村にマグシンが隠れています。
 村ではプライバシー的観点と宗教的理由から各家々が透視防止処理、および感情遮断処理を施しています。
 マグシンはそのうえ気配遮断能力を用いて息を潜めていますが、適切な捜索方法をとれば発見することが可能でしょう。

・戦闘パート
 発見された場合、マグシンは足が速く飛行能力があるため、家々を跳ね回って逃げはじめるでしょう。(高高度飛行はほぼ自殺行為であるため恐らくしないでしょう)
 建物の間を飛び回ったり壁をすり抜けたり、もしくは高い機動力で回り込んだりといった形で彼を足止めする必要があります。
 使用武器はピストルとナイフ。戦闘力自体はそれほど高くはありません。

【アドリブ度】
 ロールプレイをよりお楽しみいただくため、リプレイにはキャラクターのアドリブ描写を用いることがございます。
 プレイングやステータスシートに『アドリブ歓迎』『アドリブなし』といった形でお書きくだされば、度合いに応じて対応いたします。ぜひぜひご利用くださいませ。

  • 神声偽典デリゲネゴス完了
  • GM名黒筆墨汁
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2019年02月15日 21時55分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

リノ・ガルシア(p3p000675)
宵歩
リカ・サキュバス(p3p001254)
瘴気の王
イグナート・エゴロヴィチ・レスキン(p3p002377)
黒撃
コゼット(p3p002755)
ひだまりうさぎ
メル・ラーテ(p3p004228)
火砲少女
酒々井 千歳(p3p006382)
行く先知らず
ウィリアム・ハーヴェイ・ウォルターズ(p3p006562)
奈落の虹
鞍馬 征斗(p3p006903)
天京の志士

リプレイ

●神の声を、誰が聞いたのか
「偽典……か」
 『行く先知らず』酒々井 千歳(p3p006382)は塗りつぶしだらけの資料の束をめくりながら独り言のように呟いた。
「神の持ち物として相応しくなかったが故か、或いは本物が何処かにあるのか……神の持ち物として相応しくなかったが故か。それとも或いは本物が何処かにあるのか」
 放っておいたら面倒な宗教の一つ二つ生えても不思議じゃなさそうだ、と考えた所で、この事件を収集しているのが異端審問官であることに思い至った。
「なるほど、もう生えていたのか」
 カルト宗教、という言葉を地球世界のそれも日本一般社会で用いるとテロや催眠、洗脳や犯罪といった印象を結びつけられやすい。というのも、カルトという単語が『悪しきもの』『過激なもの』というスラングとして一般定着したがゆえである。
 宗教用語におけるカルトとは信仰の多様化によって生まれるあれこれを指すが、今回この単語の正当性は横におくこととしよう。
 少なくとも一つのコミュニティが一冊の本によって宗教化し、それが一度破壊されたのである。
「それにしても『抹殺』とは穏やかじゃないなあ。政府が特別対策をとってるから不思議じゃないけど……仕方ないのかな」
 腕組みをして封鎖エリアの内側へと入っていく『天京の志士』鞍馬 征斗(p3p006903)。
 封鎖にあたっている異端審問官たちは覆面をし、武器を手に微動だにしていない。
 『火砲少女』メル・ラーテ(p3p004228)は話が聞こえないほど遠ざかってから、その様子を振り返った。
「キナくせえな……報酬分はきっちり働くが……」
 ラーテはちらりと、追加ボーナスを得る方法について考えた。
 まず思いついたのが抹殺した対象から何らかの方法で情報を抽出して売るというものだが……。
 依頼内容に捕縛や情報の獲得が入っていないことと、ここまで人員をさいてコミュニティに様々な処理を施していることからして抹殺対象の情報に金銭的価値は既にないだろう、と思い至った。
「世の中甘かねえか。昨日より今。ありもしない札束より目の前のコイン、ってな」
 『堅実な仕事』ってやつをやってやりますか。と。

 『雨宿りの』雨宮 利香(p3p001254)にとって他人事ではない。
 彼女に寄生した宝石『夢魔』が仮に複製、感染、そして爆発的な規模拡大をするものであったなら、今頃似たような対応をとられていたかもしれない。
 人類文明を破壊しうる存在。いわゆる『世界の敵』と言われるものである。
「ほっとくわけにはいきませんよ。こんなの、まるで反転現象じゃないですか」
 自分で言っておいて、もしかしたら的を射た考えなのでは……と片眉が上がる。
「まあ、書いてある内容は気になるけどね。書物はあくまで書物。支配されちゃうのは嫌だなあ」
 そんな風に言いながら、『寝湯マイスター』ウィリアム・ハーヴェイ・ウォルターズ(p3p006562)はアルティオ=エルムで書かれたらしい本をぱたりと閉じた。
「支配された人はお気の毒だけど、これも契約だからね」
「けど、三千ページも、あったら、疲れちゃうね。とっても、あぶない本……」
 呼吸を整える『孤兎』コゼット(p3p002755)。
 本がコミュニティを支配する。
 それは一体どんな状態なのだろうか。
 本とひとくちに述べるとファンタジーだが、『情報』と置き換えるとピンとくるものがある。
 生活よりも優先して摂取したかる情報。情報の複製と拡散。情報拡散者への崇拝と、非拡散対象への道徳的行動の強要。行き着く先は本質を喪ったディストピアである。
 おそらくはあらゆる世界のあらゆる文明で発生した、文明自滅リスクのひとつである。
 いわゆる『文明に作用する呪い』なのだ。
「恋の虜になるならともかく、本の虜だなんて。ゾッとしちゃうわァ」
 そんな風に言いながらも、『宵歩』リノ・ガルシア(p3p000675)は靴紐をしっかりと結び治し、ダガーをさしたベルトの金具を点検していた。
 主義や感情を肉体動作と切り離す。訓練された人間が可能とする、傭兵の技術である。
 一方で『無影拳』イグナート・エゴロヴィチ・レスキン(p3p002377)は感情に対して素直に、同時に技術に対して実直に、自らの気を清くコントロールしていた。
「オタガイにケントウを祈るってことで……ガンバッテ行こう!」

●迷いなき森のとてもとてもとても善良なシスター
「教えてくれるかい? 君たちについた足跡を」
 ウィリアムは深く囁きかけるかのように、森の草花と意思の疎通を図っていた。
 草花が放つ意志は微々たるものだが、草花自体を深く理解し観察することで、ウィリアムは彼らに残った『痕跡』を見いだしていた。
 例えるなら足跡。
 歩いた人間の靴の形や体重や、移動する速度や時間が、草花の観察と疎通によって伝わってくる。
 ましてついさっき森に入った女性の痕跡を見つけるのは、ウィリアムにとって難しいことではない。
「相手は思考停止状態だ。おそらくこの先もまっすぐ進んでいくだろうね」
 屈み込んで言うウィリアムに対して、リノとイグナートはそれぞれ頷きあい、ハンドサインを出し合ってそれぞれ左右に分かれて移動し始めた。
 ネコのように素早く木を上り、太い枝と枝の間を小鳥のごとくわずかな音だけをたてて飛び渡っていくリノ。
 一方のイグナートは上半身を全く動かさない不思議な歩法でもって、よほど耳のいい者でないと気づけない程度の静粛性で走行しはじめる。
 回り込みを二人に任せ、ウィリアムは追跡の速度をあげた。
 相手がウィリアムの気配に気づいて走る速度を上げる。
 リノが鋭く耳をすませば、曲がるべきか隠れるべきか迷っている足取りが音から把握できた。
「ザンネン。鬼ごっこはおしまいだよ」
 前方へと回り込み、立ち塞がるイグナート。
 桃色髪のシスターは、金色の装丁が施された本を抱えてイグナートをにらみ付けた。
「そこを通しなさい。私は生き延びなければならないのです」
「そういうわけにもいかないんだ」
 追いついてきたウィリアム。
 シスターは見たことも無い短縮詠唱を行なうと、光の剣を生み出した。
「通さないのなら、押し通るしかありません。神の名の下に……!」
 剣の突き。刀身が延長されるという奇妙な突きが、イグナートの腹を貫く。
 彼さえ突破すれば逃げ切れると踏んだのだろうか。
 その判断の甘さを、リノは見逃さない。
 枝から飛び、真上をとったリノは、シスターの両耳を塞ぐように両手で頭部を掴み――彼女を中心に宙返り半ひねりをかけた。
 あらぬ方向に曲がる首。
 咄嗟に治癒の力を行使するシスターだが、イグナートの拳がシスターの顎をとらえた。
 頭部を激しく揺らされ、気を失うシスター。
 倒れたところへ、ウィリアムは念入りに破壊の魔術を打ち込んだ。
「ごめんね。抹殺が条件なんだ」

●町で人気のまったく一切なんの非の打ち所がない工房主
「こいつに乗るのは久々だ……な!」
 軍馬に鞭をうち、メルは走行速度をあげる。
 天幕のついた馬車を揺らし平たい谷を走る工房主ケリストを追いかけるためだ。
 既に馬車の姿は見えている。同時に相手もこちらの接近を把握しているのだろう。馬車の速度を上げている音と声がした。
「逃がすかよ!」
 メルは保持していた狙撃銃を両手持ちで構えた。
 馬上からの射撃はバランスが非常に悪い。
 が、相手の頭を正確に破裂させようというわけじゃない。
「どっかに当たりゃあ十分だ!」
 メルは馬車の車体めがけて狙撃銃を乱射した。
 ばすんと音を立て、天幕と柱が吹き飛んでいく。
「速度をあげてくださいっ」
 利香が跨がっていたHMKLB-PMの頭を軽く叩くと、HMKLB-PMはゴーグル部分を発光させた走行速度を引き上げた。引き上げつつそっと利香の脇の臭いをかぎはじめた。
「ちょっと、なにしはじめるんですか! いいから急いで! あっでも速度変わらない!? なんで!?」
 不思議な姿勢のままスピードをあげるメカ。
 ぐんぐんと馬車に追いつき、ついには横に並ぶまでになった。
 ケリストは御者席から立ち上がり、黄金の短剣を引き抜いた。
 本が大量に積み込まれた馬車へと利香は派手に飛び移り、本を踏みつけにしながらも夢魔剣グラムを鞘から引き抜く。
 剣がぶつかりあう衝撃。大きく揺れる馬車。
 パカダクラの速度をあげて馬車においついてきた千歳が、利香と一瞬だけアイコンタクトをとった。
「余り悠長に事を構えている気もないからね、短時間で勝負をつける!」
 抜いた刀がきらめき、ケリストの馬と馬車の間を繋ぐ器具を無理矢理に切断した。
 大きく傾き、そのまま横転する馬車。
 ケリストはギリギリで馬車から飛び、馬へとしがみつくように飛び乗った。
 一方でHMKLB-PMから安全ワイヤーで巻き取られ馬体(?)にしがみつく利香。
 なんとか馬の上で体勢を整えたケリストめがけ、千歳は馬上から連続の斬撃を放つ。
 ケリストの懐にあった本が黄金の輝きを放ち、ケリストは歯を食いしばりながらも振り向いて短剣を振り込む。
 千歳の飛ばした飛翔斬は破壊され、ガラス片のように散っていく。
 が、その攻撃自体が勝利への道筋であった。
「ようやく慣れてきた」
 メルは上唇を小さく舐め、トリガーを引く。
 その途端、ケリストの右腕が付け根からもぎ取れ、回転しながら飛んでいった。
 大きく身を傾け、馬から転げ落ちるケリスト。
 なおも這いずって逃げようとする彼の上に、利香が派手に飛びかかった。
 着地と同時に剣を相手の肉体に突き立てる。
「――滅衝波!」
 土まで届いた刀身に自らの魔力衝撃を流し込んだ途端、行き場を失った衝撃がケリストの肉体をバラバラに破裂させた。

●みんな大好きで大好きで大好きな新聞配達員
 新聞配達員マグシンが隠れ潜んでいるという村は、不気味なほど静かだった。
 舌をつよく鋭く打つコォンという音だけが定期的に鳴る。
 コゼットが音の反響を確かめるために発しているものだ。
 古くは視覚障害者がよく使っていたという技術で、より聴覚を鋭敏にしたコゼットには建物の配置やその裏側までもが目で見る以上にわかった。
 デメリットがあるとすれば、こちらの接近にマグシンが気づきやすいということだが、むしろ気づいて動かれた方が見つけやすいという側面もある。
「どうかな?」
 征斗に言われて、コゼットは黒いウサギの耳をぴくぴくと震わせた。
「動きは、ないね。隠れてるみたい」
 音が何重かに遮断される場所に隠れているらしい。探す場所が限定されたのはとてもいい。
「ってことは、屋内だ。それに……」
 物音を外に漏らさないということは、こちらの接近に気づいているということでもある。
 ファミリアーによる監視か、それとも透視能力か、もしくはこちらの敵意を感知したか。いずれにせよ、こちらの存在は伝わっているということだ。
 なら。
 と、征斗はコゼットにアイコンタクトを送った。
 頷くコゼット。
 征斗は口元に手を当て、大声で叫んだ。
「マグシンを見つけた! マグシンを見つけた!」
 ブラフ。
 しかし、動揺を誘うには充分だ。
 ほんの僅かな、小さな音ではあるが、コゼットはその音を拾った。
 エコーロケーションによって把握した座標から特定。
「右奥から二番目の赤い屋根」
「任せて」
 征斗は紅葉型の燐気を周囲に散らすと、カッと赤く発光させた。
 走り出す征斗の前には壁。
 しかし壁に直接めりこむように身体が消え、減速しつつも屋内へ強制的に侵入した。
 開いたクローゼットから飛び出し、窓を乗り越えようとするマグシンと目が合う。
 野外に飛び出したところを、コゼットの蹴りが直撃した。
 着地に失敗し、転がるマグシン。
 素早く立ち上がって逃げだそうとした所に、コゼットは黒い氷の塊をシュートした。
 散らばった氷塊が刃のようにぶつかり、そして肉体に溶け込んでいく。
 血を流しながらも逃げ走るマグシンに対して、征斗が素早く前方へと回り込んだ。
「別に恨みはないけど……すまないが依頼なんでな、許しはせめて神に頼むよ」
「神などいない! この世界に神など――!」
 拳を握り、白く光らせるマグシン。
 殴りかかろうとする彼の拳を、あえてかわすことなく。
 征斗は手のひらに貼り付けるように纏った赤い燐気を掌底の要領で叩き込んだ。
 身体をおり、倒れ、転がるマグシン。
 征斗は小さなナイフを取り出すと。
 倒れたマグシンのマウントポジションをとり、襟首を掴む。
「ごめんね。無神論を聞くつもりはないんだ」
 首にナイフを走らせた。

●神声偽典デリゲネゴス
 後日談はない。
 いや、あってはいけないと言うべきだろうか。
「それにしても不気味な本ねぇ。誰が作ったのかしら」
「オソロシイ代物だよね。さっさとセンモン家に押し付けて片付けてもらおう」
「たしかに。異端審問官を呼びに行くね」
 イレギュラーズたちは賢明にも、本を布などで覆って直視しないようにしていた。
 燃やすことも、切り裂くことも、まして中身を読んだりこっそりと持ち帰るようなことは決してしなかった。
「魔法書物の類に興味が無いといえば嘘になりますが、生憎半分悪魔の身なので、聖典のお世話になるのはごめんです」
「俺も興味はあるけれど、好奇心が猫を殺すともいうからね」
「回収は依頼されてねえんだ。あとは任せようぜ」
 もし。
「あとは依頼主に報告して終わり、だね」
「勝手に処理するより専門の人にまかせたほうが、いいよね」
 だれか一人でも。
 あの本に触れ、開き、熟読していたのなら……。

「ステージ1および2対象者への祝福処理が完了しました」
「ステージ2対象者への分離処理を完了」
「ローレットから報告。ステージ3対象者への終了処理が完了しました」
「デリゲネゴスの回収および特別焼却処分を完了しました」
「彼らを祝福処理しますか?」
「必要ない」
「この情報をどこかに売る可能性は?」
「ギルド条約を無視するリスクを冒すほどのメリットはあるまい。彼らの知性を信じる」
「了解しました。特別退魔師団『ブックエンド』、工程を終了しました」
「デリートプロトコル・グノウを終了する。資料は第三十三閲覧禁止書庫へ保管。デリゲネゴス・ファーストへの監視マニュアルの修正を要求しろ。以上、解散」

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

 おかえりなさいませ、イレギュラーズの皆様。
 天義の異端審問会よりお礼の手紙と報酬が届いております。
 デリケートな仕事でしたが、無事にこなすことができたようですね。
 身の危険も少なく、とても素晴らしいことです。
 またのお越しを、お待ちしております。

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