シナリオ詳細
さよならドレッシー
オープニング
●砂浜で見つけた
ママはあたしに、「海に近寄っちゃだめよ」、って言う。
あたしは海が好きだし、ママも海が好きだった。
けど、ママはもう海を見ない。
パパは海洋の海で、漁師をしていた。
でも、いつかの大渦に巻き込まれて、パパは帰ってこなかった。
それから、ママは海が嫌い。
海を見たくなくて、幻想に引っ越した。
でも、あたしは海が好き。
海に沈む夕日も、真っ暗な闇も。
すべてをくれる海が好き。
何も返してくれない海が好き。
ママもほんとは好きなんじゃないかな。
そうじゃなかったら、きっと、もっと海のないところに引っ越したはずだ。
あたしはたまに、言いつけを破って海に行く。
海についたら泳いでやろうかと思ってたけど、打ち寄せる波が怖かった。
今もまた、渦が出たらしい。
ここからは遠いところだけれど……。でもやっぱり、怖かった。
水に入らずに、海岸で貝殻を集めていたら、そうしたら、大きな生き物が……派手な、首の長いオットセイみたいな、奇妙な生き物が、岩に引っかかっていた。
どうやら、ケガをしているみたい。
●秘密の友達
「海洋で、また渦が出たそうですね……」
疲れ切った様子の女性は、しめ切った窓の外を気にした。
「いえ、すみません。イレギュラーズの皆様も大変でしょう。私も前の騒動で、夫を亡くしていまして……。私が皆さんを呼んだのは……娘の、リーザのことについてなんです」
母親曰く、リーザは海で奇妙な生物を見つけ、世話をしているのだということだ。
「こちらの漁師さんのお話ですと、おそらく、海洋の方から流されてきた希少種だという話です。けれど、今、珍しい生き物はあまり……歓迎されたものではありません。特に今の状況では」
悪性ゲノムの一連の騒動は、イレギュラーズも知るところである。
「その、生き物は……リーザにとても懐いていますし、リーザもまた慕っているようです。けれど、あまり親しくなるのはよいことではありません。このままでは……きっと、良くないことが起こると思います」
母親はイレギュラーズたちの顔をまっすぐに見た。
「どうか、正しい別れを」
- さよならドレッシー完了
- GM名布川
- 種別通常
- 難易度EASY
- 冒険終了日時2019年02月13日 21時35分
- 参加人数8/8人
- 相談7日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
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参加者一覧(8人)
リプレイ
●さようならのために
「このままじゃ、二人とも、悲しい……?」
『星頌花』シュテルン(p3p006791)の言葉はゆっくりと紡がれる。
「とても、辛い、だけど……離れるしなきゃ、なだね……」
「本当は2人を引き離したくなんかないけど……状況が状況だし、本当だったら海で暮らすドレッシーが街の側にずっといて良いのかも解らないもんね」
『青き鼓動』シャルレィス・スクァリオ(p3p000332)は頷いた。
「それに……二人とも其々ちょっとだけ勇気が必要なんじゃないかな」
「ドレッシーをうみへかえせばいいんだよね、わかった」
ふと、どこからか声。
『小さな騎兵』リトル・リリー(p3p000955) は一行を横切り、目線が届くようにとテーブルへと腰かけ直す。
「別れは悲しいものだよね。それが一番の仲良しであればなおさらだ」
『寝湯マイスター』ウィリアム・ハーヴェイ・ウォルターズ(p3p006562)は見た目とは裏腹、長きを生きるハーモニアだ。人よりも多くの別れがあったことだろう。
「良くない結果になる前に、せめて少しでも良い形で二人がお別れできるように頑張ろう!」
「おー! がんばろーね!」
『エンジェルいわし』アンジュ・サルディーネ(p3p006960)は、エルキュールと元気よく飛び跳ねた。
「巡り合わせが悪かった、か」
マヌカ(p3p001541) は思慮深く目を伏せる。
「恐れという感情は一番厄介なものでござる。容易く目を曇らせ、過ちを起こさせる」
『武者ガエル』河津 下呂左衛門(p3p001569)は息をついた。
「ああ。恐怖の感情ってのは理屈ではない故に、彼らの怯えも理解できるのだよ。元居た世界でも必要以上に闇に怯え、明かりを求めた者も少なくなかった」
「不幸な結末だけは避けたいでござるな」
「そうですね……ローレットとして、何とかしてあげたいです」
結末は、できれば笑顔で終わらせたい。『召剣士』パーシャ・トラフキン(p3p006384)は思った。
●ふれあい
「こんにちは~、リーザ! アンジュだよ。一緒に遊ぼうよ!」
やってきた訪問者に、リーザは目を瞬かせる。
「エンジェルいわしごっこする? しない? 興味ある? ん~? ふふふっ」
「え、えんじぇる……?」
アンジュはぱっと笑顔を浮かべる。
「こんにちは、リーザちゃん。驚かせちゃったかな?」
パーシャは優しく目線を合わせる。
「私はパーシャ。リーザちゃんのお母さんにお願いされて少しの間、あなたを守るためにやってきました」
「そうそう! そんな感じ! ほらっ、見て。この子はねえ、エンジェルいわしだよ。見た事ない?」
リーザはアンジュとパーシャを交互に眺めて、それから噴き出した。
「エルキュールっていうんだよー! かわいいよね! 一日中見てても飽きないの! さわってみる? あたたかいよ」
「ほんとだ……」
「でしょ!?」
「最近怖い噂、聞くでしょう? でも、安心してね」
パーシャの声色は、とてもやさしい。
大人が来たら、「帰せ」と言われる。
だから、リーザは誰にも教えないつもりだった。
けれど……。
「あのね、お友達……紹介するね」
リーザは屈託なく巨大な生き物に駆け寄っていく。その光景は一見、ほほえましいものではあるが……。
「本当はいつまでも一緒にいられるように応援してあげたいけれど、事情が事情だけに難しい……」
ウィリアムは眩しそうに水しぶきに目を細めた。
「うむ……」
「浮世は面白いけど、ままならないものだね。せめて少しでも良い別れになるよう頑張るよ」
リーザが仲間に海を案内する間に、リリーはゆっくりとドレッシーへと向かう。ドレッシーは不思議とリリーを警戒しない。
「リリーがつかえるのは、ふたつ。ちょうきょうとかいわ」
水をはねて遊んでいたドレッシーは、きりとしてリリーを見返した。リリーはそっと小さな手で頭を撫でる。
「……ドレッシーもリーザも、こりつしてたんだよね。かわいそうに……なら、リリーたちでまもってあげなきゃ。そして、みんなのもとにかえさなきゃ」
ドレッシーの返事は小さい。
「歌うの、怖い? ……歌うの、怖くないよ! とっても、楽しい、こと! シュテ、誰かの為に、歌う唄、好き!」
シュテルンは高台に進み出て、海へ向かって歌ってみせた。
ドレッシーはただ耳を傾けている。シュテルンは、振り返って小首をかしげる。
「ドレッシー、にも、歌う、好きになって、ほしーな!」
とても微笑ましい光景だ。
けれど、遠くでは。住民たちが、険しい顔つきでこちらを見ていた。
●時間をください
住民たちが不安に思う気持ちもわかる。
ウィリアムは、ファミリア―を通じて浜辺の様子を知る。
時間が必要だ。
「キューちゃんが歌えるようになるまで時間を稼ぐとして……1週間、いや3日かな。村人には3日待ってもらおう」
「それがいいだろう」
「そうだね」
マヌカとシャルレィスが同意する。
「あいわかった。拙者は、ドレッシーについての情報を集めてこよう」
下呂左衛門は、古びた小屋を尋ねた。引退した漁師が釣りをしている。
「経験のある漁師であれば、ドレッシーという生き物を見たことがあると……」
「んだなあ」
漁師は懐かしそうな表情を浮かべる。
「どうか、悪性ゲノムに感染しているわけではないという事を証言して貰いたい。見返りは少ないかもしれんが、幼子(おさなご)と小さな生き物の絆が懸かっている」
「けどなあ、海の連中、どうにも迷信深いやつらで……」
「どうか、この通り」
頭を下げる下呂左衛門の様子に、漁師は驚いた。
「あんた、依頼っつっても、そこまでする義理はねぇべ? 変わったやつだなあ……」
そろそろ、ドレッシーたちが見られる時期。
霧深い3日後が、ちょうどその可能性の高い日だ。
「かんぜんにかえすのはうたのきこえるみっかご……きりがふかくなるなら、こっちへかえれないぐらいにはなさないと」
リリーは目を伏せる。
「……でも、それまでなら、ごはんあげたり、ぼーるであそぶこともゆるしてくれるよね?」
「期間は3日間だ。安全は保障する」
マヌカは一つ一つ住居を回り、住民たちを説得する。
「あの生物に害は無いが……貴殿らが不安に思うのも無理は無い。しかし、貴殿らも……無理をしてまで手出しはしたくないだろう?」
「まあ、そりゃな……」
「仮にアレに危険が有るとしたら、それこそ我々の見ていない隙を狙って怒りを買ったりしてはいけないのだよ。安心すると良い。貴殿らの身の安全は我々が保障する」
「俺たちは関わりたくないだけだ……でもまあ、頑張ってくれ」
これで10件目。
マヌカは地図を確認し、次の場所を探す。
「反対する気持ちもわかるけど、3日間だけ、待ってくれないかな」
シャルレィスとウィリアムは漁師たちの会合にやってきた。
「ドレッシーは危険な生き物じゃない。きちんと話を聞けばわかるはずだ。何か危険があれば私達が必ず守るし、その場合は3日を待たずに対処する」
「しかし……」
「群れがすぐそこまで来てるんだ。責任をもって、イレギュラーズが預かる」
ウィリアムが進み出て、後押しする。
「村人の皆が無理をして、万が一を考えると僕達に任せた方が良いと思うよ。どうだろう?」
ウィリアムが目を見つめたのは、この場のリーダー格らしき男ではなく、老人だ。一番発言力がありそうなのは、押し黙ったこの老人だと直感した。
「『青き鼓動』と呼ばれておらんか?」
シャルレィスは頷く。
名声をひけらかすわけではないが、利用できるものは利用する。そういう心づもりだった。
荒事に慣れていて、今まで幾つも事件を解決したローレットのイレギュラーズ。効果は上々だった。
まずは信用だ。
シャルレィスが見回りと手伝いを申し出ると、漁師たちは驚いた表情を浮かべる。
「そこの人は、何か困ってるんじゃないかな?」
人助けセンサーが反応していた。
「網を引き揚げる人手が足りなくてな。その義理はない」
「ううん、手伝うよ」
●練習
「すこしずつかえすことをかんがえないとね」
二日目になった。
幾度かの試行の末、ドレッシーが、シュテルンにつられて少し歌った。リリーとシュテルンは顔を見合わせる。
「うみのむこうのなかまたちのことや、うまくうたをうたうこと……あそびながら、いろいろとおしえていくんだ」
だけれど、まだまだ声は小さい。
「海の怖い怖い、シュテも、戦った事、ある……シュテも、とても、怖い、だった」
「うん、みんな、こわいんだよ」
「でもね、帰れない、悲しい、だよ?」
「うまくうたえないなら、れんしゅうすればいいし」
「また怖い目、遭ったら、シュテ、メッメッしてあげる!」
か細く。か細くではあるけれども、小さく紡がれていく。
●子どもたちと
「ねぇ、一緒に遊ばない?」
「いいね!」
リーザが返事をする前に、アンジュが同意してしまう。リーザは目を泳がせる。
「じゃあ、キューちゃんを……」
「あ、リーザだ!」
近所の子どもたちが姿を現す。
「ローレットの人が遊んでくれるんだって! 一緒に行こ」
リーザを元気づけるように、シャルレィスは優しく頭を撫でた。
「面白い遊び、知ってるんだ。カッコいいポーズ縛りのだるまさんがころんだとかやってみない?」
全身でポーズを決めて、耐えられずに転んでくすくす笑う。
「おっと、まだまだだね! 見てて!」
シャルレィスが繰り出した美しい剣技、からのぴたりとした制止に、子どもたちは大きくわいた。
「あっ、動いた」
「エルキュールはノーカン!」
「動いた動いた!」
子どもたちは……鬼役ですら、我を忘れてイレギュラーズの動きを見守っている。最初はぎこちなかったリーザも、最後には笑顔を見せた。
ウィリアムはファミリア―を通じて、海の様子を見ていた。
(うたえるようになったかな?)
小さな声が聞こえてきた。おそらくはドレッシーの。
●母と子
「あの子が人と笑っているの、本当に久しぶりです」
マヌカは、リーザの母親の下を訪れていた。
「ありがたいことに、近所の皆さんが少し優しくなって……本当に3日で出ていくのか、と念を押されたりもするんですけれど、……温かいんですよ。あの人たちも、リーザを心配しているように思えるんです」
「……まぁ、依頼の話では無いのだが……貴殿はもう少し娘と向き合ってあげるべきなのだよ」
不意を突かれたように、リーザの母親はマヌカを見返す。
「そして貴殿自身も、前を向くべきだ。死した夫を忘れろという事ではない……貴殿は守る必要が有るのだ。今回は運が良かったが……一歩間違えば、貴殿が目を逸らしている時に娘すら失っていたかもしれない」
マヌカの言葉は淡々としていた。責めるようなものではない。
慎重に言葉を選び、伝えようとしていることが分かった。
「我々とて全ての悲劇に対応できるわけではない。貴殿が守る必要が有るのだ。最も彼女の近くにいる貴殿が……死した彼との最後の宝物を」
「……ありがとう、ございます」
母親は不自然に台所に茶器を片付けに立った。
「ほんとうに娘の……いえ、私たちのことを考えてくれているのですね。私はローレットに依頼を出して……そして、受けていただいたのがあなたたちでよかったと思っています」
●聞かせて欲しい
「そろそろキューちゃんのところ、いかなきゃ」
「待って」
パーシャがリーザを呼び止める。深刻な様子に、リーザは身構えた。
「ごめんね。実は少し、嘘をつきました。私たちはドレッシーさんを海に帰す為に、呼ばれたの」
「え?」
「ここにずっといたら、このドレッシーさんは、きっと二度と家族の元へ帰れない。リーザちゃんにはお母さんもいる。これからお友達も作れるよ」
パーシャの言葉はきっぱりと響いた。
「でもこのドレッシーさんには今、リーザちゃんしかいないから。それじゃ、きっとお互い幸せにはなれないよ」
「やだ……」
「明日、群れが来るんだって。それがきっと、最後のチャンス。返して、あげよう?」
「やだよ!」
リーザは駆けだしていった。
「やっぱり待てない! 今すぐ出て行ってもらおうじゃないか」
揉める住民に、リーザはどうすることもできず立ちすくんだ。
「いや、でも、イレギュラーズの人たちは大丈夫って言ってるし」
声の大きな男は、周りの態度に驚いた。数日までは、仲間もかなり不安がっていたのに。
「でも、なにかあったらどうするんだよ!」
男は石を握る。
リーザは悟った。
こういうとき、自分はなにもできない。パーシャの言うことは、本当だから。
「待たれよ」
下呂左衛門が仁王立ちする。
「見た目で言うならば拙者とて化け物でござろう。ほれ、投げるのならば拙者に石を投げるといい」
「何?」
「それとも何か? 自分より弱そうな相手にしか強気には出れぬか? 心配せずとも丸腰でござるよ。さあ、さあ!」
石が投げられた。
勢いのまま、おそらくロクに狙いのつけられてない石は偶然に当たった。微動だにしない。ただ、じっと目線で訴えている。
「失敗したら、どうする」
「女子供が居る手前、血生臭い事を避けているだけで……私の任務はドレッシーを排除すること……手段は問わず、なのだよ」
マヌカははっきりと言った。
「おい! アニキ! 帰るのかよ」
「カエルさん、けが、してる?」
「大したことないでござる。それより、何がドレッシーにとって最も良い選択か、よく考えるでござる。己ではなく、相手を想って」
「……」
「お主は優しい子だ。そのまま真っ直ぐ育てよ。」
「このまま……?」
「ねえ」
アンジュがリーザに話しかける。
「アンジュはエンジェルいわしがだーいすき。リーザも、ドレッシー、大好きだよね?」
頷く。
「そうだよね。……でもね。二人はずっと一緒に居れないよ。なんでかわかる?」
首を横に振る。
「ドレッシーは、リーザには大きすぎるから。一緒に居る為の工夫や努力は、リーザには、きっと出来ない。だって、たくさんの周りの人たちに協力してもらわないとだめだもん。大きくて怖いものが襲ってきたとき、リーザはドレッシーを守れないよ」
頷く。
「でもね、群れの元へ返してあげたら、ここよりずっと安全なの。おねがい、わかって」
それには返事はなかった。
「お別れはつらいよね。せっかくの、大切な、お友達だもんね」
●別れの歌
3日目が来た。
イレギュラーズは、海岸に集まっていた。
「どのような結末が待ち構えているのでござろうな。後悔だけは残したくないものでござるが」
「……かえさなきゃいけない、ぜったいに。かえさなきゃ、またひどいめにドレッシーがあっちゃう。そのまえに、かえすんだ」
「くるとおもてた」
「うん」
母親と共にリーザがやってきた。泣いているが、表情は明るい。
「……離れていたって、友達はずっと友達だよ。それに……仲間たちと一緒に歌うキューちゃんに、いつか会えたら素敵だなって、思わない?」
「また会えるよ。きっと会える。僕がそうだったからね」
シャルレィスとウィリアムの言葉に、リーザは頷く。
「えがおでね。……かえってきちゃだめだよー! って」
「うん……」
「泣いちゃだめ。ダメだよ。笑ってお別れしないと。アンジュも、涙、溢れてくる、けど、笑うよ」
アンジュは涙ぐみながらも、お手本を見せた。
「リーザ、笑おうよ。アンジュもいっしょに、笑うから」
「うん!」
「哀しくなった時、寂しくなった時。この海に来て、歌おう。遠い海の上、ドレッシーさんも、歌を返してくれるから。きっと届くよ」
ドレッシーがやってきて、仲間に合流する。
「歌は上手くなくても、相手に伝えたい気持ち、伝える、大事。仲間のみんなも、きっと、答えてくれるわ!」
最初こそ頼りないか細い旋律。次第に強くまとまっていく。今まで聞いたことのないほどの大声だった。
エンジェルいわしが歌に乗り、思い思いに飛び跳ねている。
別の生き物なんだ。
幸せそうで、とてもきれいで。何を意味するか、分からない言葉……。
けれど、リーザは驚いた。隣で、全く同じ旋律が聞こえたのだから。
「そっと 目を閉じて
そっと 明星光る
そっと 時を重ねて
そっと 目を開けた
そっと 夜が見える
そっと 夢をかけてく
未来に見たあの輝いた星
いつかまた 会えるよと 笑ってくれた
朝を連れてきてくれるから
あなたの為 唄を歌ってあげる」
シュテルンの声は、どうしてこれほどまでに美しいのだろう?
一曲を歌い終えたシュテルンは、リーザに向き直る。
「この歌……キューちゃんに教えた、歌。この歌、あれば、きっと、リーザにも、どこかの海、から、答えてくれるわ!」
「うん……うん!」
リーザはぽろぽろと泣き出した。
どうしようもなく違っていて、でも通じ合えるのだとわかったから。
イレギュラーズが、優しく背中をさすってくれる。
「──いつか、リーザがもっともっと大きくなった時。会いに行こうよ。大きな船に乗って、この広い広い海を泳ぐ、ドレッシーにね」
「だから最初の一歩は、アンジュたち以外のお友達を作ること! 近くに住む子達に、声掛けに行こう。大丈夫、そばにいるよ」
「……大丈夫、私達、みんなリーザちゃんのお友達だよ。こんど、新しいお友達を紹介してもいい?」
リーザは笑顔を見せた。
成否
成功
MVP
状態異常
なし
あとがき
というわけで、ドレッシーは、無事に群れにかえることができました。
お疲れ様でした!
リーザも自分の判断で別れを選択することができたようです。
孤立しがちだった母娘も、次第に周囲に溶け込んでいけるでしょう。
いつかはまた道が交わる日も来るのでしょうか。その時には、きっと素敵な歌声が響き渡っているのでしょう。
機会がありましたら、また一緒に冒険いたしましょうね!
GMコメント
●目標
ドレッシーを海に帰す。
不思議な生物、ドレッシー。
リーザはドレッシーを帰したがりません。
また、リーザに助けられたドレッシーは人懐こく、あまりに懐きすぎると、放しても戻ってきてしまうかもしれません。その場合は依頼失敗です。
●ドレッシー(海洋の希少生物)
美しい青と赤の刺激的な斑点を持つ首の長い生物。
ヒレをもち、かすかにキュウキュウと鳴く。
人が数人乗れるくらいの大きさ。
リーザはキューちゃんと呼んでいる。
ボールを渡すと鼻先で打ち上げる。
会話はしないが、知能が高く、普段は臆病で人前に姿を現す生物ではない。
渦に巻き込まれて漂着し、ヒレを損傷していたが、リーザに手当を施された。
今はもう海辺でも見なくなった海洋の希少種。幻想に流れ着いてきたらしい。
【悪性ゲノムに感染していない、普通の生物】。だが、その外見と珍しさから、幻想の住民は不安にかられている。
(PL情報)
ドレッシーたちは歌声で意思疎通をしあうが、このドレッシーはうまく歌えないようだ。
そのせいか、仲間たちに入れてもらえず、孤立しがちだった。
このドレッシーは歌声により敵を引き付けてしまい、ケガを負ったため、大きな声で歌を歌うことを恐れている。
●リーザ
10歳の少女。
幻想に引っ越してきた海種。父親を亡くしふさぎ込んでいたが、ドレッシーと過ごすうちに笑顔を取り戻しつつある。
引っ越してきたばかりで、友達とはうまくしゃべれず、孤立しがち。
ドレッシーを唯一の友達と思っており、海に逃がすことを嫌がる。
●反対運動
悪性ゲノム騒動での被害を恐れる住民は、ドレッシーを不安に思っている。いかに理屈で説得しようとも、それは難しいものになるだろう。
先導している住民がいるようだ。
ドレッシーを追い出そうという動きが起きつつあり、場合によってはドレッシーは石を投げられることもある。
●タイムリミットとドレッシーの仲間たち
3日後に、海洋に近い海は霧深くなる。
ドレッシーの仲間たちは姿を見せないが、霧の向こうで歌を歌っている。ドレッシーを返すならばこの日がチャンスだろう。
それまでは……。一緒に過ごしてもいいのかもしれない。
●情報精度
このシナリオの情報精度はAです。
想定外の事態は絶対に起こりません。
ただし、ドレッシーが群れに復帰できない場合は失敗です。
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