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シナリオ詳細

リンド工房譚 ~ヌヌイ、霊樹の森へ行く~

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●リンド工房の師弟
 多くのイレギュラーズが出入りするギルド・ローレットの前を、一組の師弟が歩いていく。
 二人はちょうど、製作した武器や防具をショップへ納品した帰りで。
「すごいねえ、親方。あれ全部、冒険に行くひとたちでしょう? 今回納品した道具だけで、足りるかなあ?」
 弟子の少女――ヌヌイ・ヤシロが、ぽかんと口を開けて立ちどまり。
 師匠の女――オト・リンドは、「フン」と鼻を鳴らし、切れ長の眼をローレットに向ける。
「当然、あたしたち以外の工房にも仕事が舞い込んでるだろうさ。……とはいえ、ウチはこの春で引退する職人も多い。商機を逃すのも惜しいし、もっと人手が欲しいところだが」
 そうして、じっと、傍らに立つ弟子を見やって。
「ヌヌイ。おまえ、そろそろ何か作ってみるかい?」

●『新米職人』ヌヌイ・ヤシロ
「――というワケだから。案内を頼むよ、ユリーカ」
 長身の女から依頼書を預かり、『新米情報屋』ユリーカ・ユリカ(p3n000003)がぴょこんと手をあげる。
「おまかせくださいなのです! イレギュラーズのみなさーん! お仕事をお願いしたいのです!」
 呼びかけにある程度の人数が集まったところで、傍らに立つ師弟を紹介する。
「こちらは、今回の依頼人。武器・防具作りを担う職人集団【リンド工房】を束ねる女職人オト・リンドさんと」
「弟子の、ヌヌイ・ヤシロ。と、いいます」
 歳はユリーカと同じ、十五歳。
 ショップに出入りする少女の事はユリーカも見知っていて、同じ『新米』として、互いに親近感があるらしい。
 にこにこと笑み交わす少女たちをよそに、オトが説明を続ける。
「このところのローレットの活躍で、ショップからの注文がひっきりなし。今のメンツじゃ手が足りないから、本格的にヌヌイを仕込もうと思ってね。あんたらには、このコの素材集めにつきあってほしいのさ」

 工房には専門の護衛士もいるが、すでに他の職人と組んで仕事に出ているため、ヌヌイについて行ける者がいないらしい。
 あとは自分の口で説明しなと、師匠にせっつかれ。
 教わったことを思い出すように、ヌヌイが依頼内容を棒読みする。
「ええーっと。行く先は、幻想バルツァーレク領にある『霊樹の森』です。ノービスワンドとか、ノービススタッフの素材になる木がいっぱいあるところで……」
 そこへ行くまでの護衛が必要なのかと問えば、そうではないらしい。
「『霊樹の森』は、妖精たちの領域なんです。木の枝は頼めばわけてくれるんですけど――」
「やつら、度が過ぎるほどの悪戯好きでね。丸腰で行こうものなら、永遠に森の中を彷徨うハメになる」
 こんなぼんやりした小娘、簡単に悪戯の餌食になっちまうだろうさと、オトが肩をすくめて。
「そこで! イレギュラーズのみなさんに、『森内の道案内』と『素材集め中の悪戯の警戒』を頼みたいそうなのです!」
 今後も素材を手に入れる必要があるため、妖精とは友好関係を保たねばならない。
 よって、『森での戦闘は厳禁』。
 どうにかして、悪戯をかわしたり、悪戯につきあったりして、やり過ごして欲しいという。
「森には、夜になると強力なアンデッドが徘徊する。今のあんたらにゃ手に負えない相手だ。夕刻までには森を出て、夜には工房へ送り届けておくれ」
 どうだい、難しい依頼じゃないだろうと、オトが告げて。
「わたし、枝拾いしかできませんけど……。よろしくおねがいします~」
 ヌヌイはひょこんと頭をさげ、手にしていた森までの地図を、イレギュラーズに配って回った。

GMコメント

こんにちは、西方稔(にしかた・みのる)です。

幻想バルツァーレク領、『霊樹の森』にて。
新米職人の素材集めを護衛する依頼です。

リプレイは森にたどり着いたところから開始。
描写時間帯はすべて日中となります。


●依頼達成条件
・『新米職人』ヌヌイ・ヤシロが、
 夜になる前に霊樹の枝×10を集めて工房に帰還する。


●霊樹の森
霊樹が多くある神聖な森で、妖精の棲み家となっている。
妖精たちは森にひとの手が入ることを嫌うため、森内部の地図は存在しない。
(地図を作ろうとするたびに、妨害してきたようです)
起伏が殆どなく、似たような景色が続くため、昼間でも方向感覚を失いやすい地形。

●森の妖精たち(多数)
霊樹を棲み家とする、悪戯好きな妖精たち。
人間種の幼児に似た姿で現れるが、体長30cmほどと小柄で、性格は老獪。
森から出られないよう迷わせたり、群がったりまとわりついて作業の邪魔をしたりする。
好奇心旺盛で、面白そうなこと、楽しそうなことが大好き。

●『新米職人』ヌヌイ・ヤシロ
十五歳の武器・防具職人レベル1。
職人への第一歩として、今回初めて、自ら素材集めをすることになった。
危機感に乏しくぼんやりしており、妖精が好んで悪戯を仕掛けそうなタイプ。


それでは、よろしくお願いします。

  • リンド工房譚 ~ヌヌイ、霊樹の森へ行く~Lv:2以下完了
  • GM名西方稔
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2018年02月22日 21時15分
  • 参加人数8/8人
  • 相談6日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

十夜 縁(p3p000099)
幻蒼海龍
アクセル・ソート・エクシル(p3p000649)
灰雪に舞う翼
冬葵 D 悠凪(p3p000885)
氷晶の盾
真白 純白(p3p001691)
特異運命座標
神巫 聖夜(p3p002789)
レウルィア・メディクス(p3p002910)
ルゥネマリィ
朝比奈 愛莉(p3p003480)
砂糖菓子の冠
妖樹(p3p004184)
彷徨う銀狐

リプレイ

●ヌヌイ、霊樹の森へ行く
 準備を整えた一行は、ローレットからバルツァーレク領へ。
 そこから、一路『霊樹の森』へと向かう。
「ヌヌイさんも職人さんなんですね……! 私も物作りする人間なので、応援したくなっちゃいます……! 一緒に頑張っていきましょう……♪」
 道すがらかけられた『混沌に救われた』朝比奈 愛莉(p3p003480)の言葉に、
「一人前になるのも大変だねぇ、わざわざ厄介事に飛びこんでいかなきゃならねぇなんてよ」
 笑いあう少女たちを見やりながら、『本心は水の底』十夜 縁(p3p000099)が気だるげに嘆息ひとつ。
「それにしても、悪戯妖精の森で枝拾い……ファンタジーというか、メルヘンというか。異世界に来たことを改めて実感するな」
 親戚のチビっ子を相手をするようなものだと思えば、炎吐く虎を相手するよりは気楽でいいと、『白虎』真白 純白(p3p001691)は考えるものの。
 眼前に見えはじめた森は想像以上に広大で、どの木々もどっしりと太く高く、大きなものが多い。
「妖精さんの悪戯。一体、どんなものなのでしょうか……? 少しだけ、気になります……です」
「今後の素材集めのこともありますし、妖精さん達とも仲良くしたい所……。ここは穏便に、友好な関係を維持したいですね」
 『ルゥネマリィ』レウルィア・メディクス(p3p002910)の言葉に、『始祖』神巫 聖夜(p3p002789)が頷き、決意を新たにする。
「依頼失敗にはしたくないし、しっかりと護衛しようか。それと、枝集めのお手伝いだね。ヌヌイが頑張れるように、ちゃんとお手伝いしなきゃね」
 ゆらりと尻尾を揺らした『彷徨う銀狐』妖樹(p3p004184)に続き、
「妖精たちの気を引くことがメインになりそうですね。頑張っていきましょう」
 『探求者』冬葵 D 悠凪(p3p000885)も、ぐっと拳を固めて意気込む。
「ヌヌイさん! オイラたちも全力で頑張るけど、なにがあっても、悪戯には負けちゃダメだよ!」
 『空歌う笛の音』アクセル・ソート・エクシル(p3p000649)の力強い励ましに、
「はい! 心はバッキバキに折れても、枝だけは折らずに持ち帰れるよう、頑張ります!!」
 気合十分、森へと足を踏み出した。

●妖精たちの棲み家
「『霊樹の枝』、すこしわけてくーださーいなー!」
 呼びかけるヌヌイに続き、イレギュラーズたちも森を進んでいく。
 とはいえ、挨拶をしたからと言って妖精が姿を見せるわけではないらしい。
 一同はヌヌイとともに、素材となる木を探し歩くしかなかった。
 『霊樹の森』は、妖精たちの棲み家である。
 いうなれば、妖精の集合住宅に踏みこむようなものだ。
 そう考えれば、森へ入るために挨拶をするのも、枝を持ち帰るのに断りを入れるのも頷ける話ではある。
 そして、礼儀正しくしていればたいていの者の出入りは許されるが、森に手を入れるようなことは許されていない。
 よって、森の内部をつまびらかにするような地図の存在も、妖精の怒りをかうとして作られていなかった。
 バベル的に言うなら、『妖精たちのプライバシー保護のため』である。
「地図は無いですし……。足元にも、気を付けないといけませんね」
 大きくうねる木の根をまたぎ、愛莉が注意を促すのへ、
「こっちの道は、まだ歩きやすそうだよ」
 狐である妖樹が、先行して足場を確かめていく。
「みなさんとはぐれないよう、気をつけます……です」
 レウルィアも、仲間たちの様子を随時確認しながら、遅れないようにと進んでいく。
 心配なのは、帰り道のことだ。
「ダメ元ですけれど。道標として、枝に『赤い糸』を括り付けておきますね」
 持参した赤い糸を、聖夜が枝に蝶結びにしていく。
 結び目に小さな糸の切れ端を絡ませておくことで、悪戯された時に目星を付けられるという仕掛けだ。
「道案内については、アタシじゃ思いつかないからな……。満足した妖精が教えてくれないかな」
 紙と書く物を手にマッピングをするべく純白が辺りを見渡すも、行けども行けども、似たような景色が続くばかり。
「もしもの時の帰り道は、オイラが森の上を飛んで道案内するよ!」
 森の上を飛んでいけばなんとかなるのでは、とアクセルもあらゆる道具を持参し、対策を練ってきている。
「それにしても。なぜ妖精は、姿を現さないんだ?」
 縁がいぶかった、その時だった。
 ――パキッ。
 微かな音が響き一同が振りかえる。
 視線の先に居たのは、悠凪だった。
「あ、今のは。帰り道を覚えられるようにしておきたかったので」
 帰路の目印になればと、手近な枝を折ったのだ。
「あ、それは――」
『見たワ』
『見たわヨ』
 ヌヌイが言い終えるより早く、イレギュラーズの眼前に二体の妖精が姿を現した。
 体長は30cmほど。
 純白のワンピースに、金色の巻き毛。
 双子のようによりそう姿は人形のよう愛らしかったが、硝子玉のように澄んだ瞳は、かけらも笑ってはいない。
『枝はあげル』
『でも、枝を折ったのは許さなイ』
『この先の霊樹から、枝をもらうといイ』
『でも、おまえたちは帰さなイ』
 告げると同時に、聖夜の括りつけていた赤い糸が一斉に燃えあがった。
 森に入ってから付けていた糸を、すべて灰にしたらしい。
「……なるほど、これはたちが悪い」
 うめいた純白が描いていた地図も、一瞬で炭化した。
 姿を現さなかったのは、姿を隠して様子を見ていたからだったのだ。
「私のせいで、すいません……!」
 自分の行動が引きがねになってしまったと悠凪が謝罪するも、
「アタシの地図も燃やされたから、アンタのせいだけじゃないと思うよ」
 純白も困惑したように自分の髪を撫でる。
「大丈夫ですっ! たぶん!」
 やけに力強く声をあげたのは、ヌヌイだった。
「なにか、根拠でもあるんですか……?」
 問いかける愛莉に、新米職人は言った。
「こういうの、素材集めあるある話のひとつなんですよー。うちの工房にも、20年くらい足止めされた先輩職人がいまして」
 最終的にはちゃんと帰ってきましたから!と、笑う少女を見やって。
 イレギュラーズたちは、女職人が少女の育成をためらっていた気持ちが、なんとなく、わかったような気がした。

●妖精とあそぼ!
 帰り道の算段はつかなくなった。
 かといって、立ち尽くしているわけにもいかない。
 ひとまず枝を集めようと、一同は前向きに考えて。
「さっきの妖精たちが言っていたのは、この木じゃないかな」
 身軽な妖樹が先行し、手招いたのはひときわ大きな霊樹のある場所だった。
 伸びた枝は天蓋のように頭上を覆っており、地表にはいくらか枝が落ちているのが見える。
 素材集めの準備を始めたヌヌイを横目に、イレギュラーズたちは顔を見合わせ、頷きあった。
 霊樹の周りや枝の影に、妖精たちが姿を潜めているのが見えたからだ。
「ヌヌイ。アタシも手伝うよ。どんな枝を探したらいいんだ?」
「僕も手伝うよ。手が多い方が、作業が早く済むだろうしね」
 純白、妖樹の申し出に、ヌヌイが「いいんですか~!」と顔を輝かせる。
「太さとか、長さとか、色々あつめて選別したいので。とにかく、数です! 数をそろえていただけると助かりますっ!」
「手あたりしだい拾えばいいってことか。それなら、俺も手伝うぜ」
 さりげなくヌヌイをかばうよう位置どった縁が加わり、4人が霊樹の周りを歩き回る。
 すると、興味をもった妖精たちが、少しづつ近づいてきた。
『ごらんよ。あの職人、まだ子どもだヨ』
『周りにいるのはいれぎゅらーズ』
『ひよことひよこが、一緒になってお仕事ですっテ』
『まーかわいイ!』
 ケタケタと好き放題におしゃべりをして、4人の気を散らそうとし始める。
 そこへ、
「さあさあ、楽しいことがはじまるよー!」
 周囲に楽器をひろげたアクセルが声を張りあげ、リュートを手にポロロンと弦をつま弾く。
 興味をもった妖精数体が、ふわりと周囲に飛んでいく。
 『歌唱』『扇動』『カリスマ』を使用し悠凪も歌い始めれば、レウルィアも声をあわせ、続いた。
「尻尾……とか。触るのも、大丈夫……です」
 歌にあわせて尻尾を振れば、妖精一体が飛びついて。
 演奏に興味をもった妖精には、アクセルが持ってきていたほかの楽器を手渡した。
「何人かで、一つの楽器を演奏してみない?」
 演奏の指導をしながら、一緒になってわいわい楽しんだ。
 その場を離れようとする妖精に対しては、愛莉が歌いながら、足止めを試みる。
「いいですか、よ~く見ていてくださいね……!」
 注意をひいておいて、『こんなこともあろうかと!』で、飛び出すバネ式の玩具をとり出して見せたり。
「ほかのひとにくっつくのって、楽しいんですか……?」
 腕や頭にまとわりつく妖精たちを真似して、キャーキャー喜ぶ妖精たちを抱きしめてまわる。
 それでも邪魔をしようとする妖精たちに対しては、聖夜がアプローチを試みた。
 ギフト『黒豊穣女神之神手』を使い、腎兪(じんゆ)と呼ばれる背部の点穴から、12本の触手を出現させて。
 おもむろにやって見せたのは、華麗な触手さばきによる、あやとりだった。
 瞬時に編みあげたスパイダー・ベイビー――ヨーヨーの技(の紐部分のみ)をドヤ顔で披露する。
 要するに、蜘蛛の巣状に見えるあやとりのスゴイ技を見せつけたのである。
『も、もういっかイ!』
『今度はゆっくリ!』
 あやとりをする一方、別の触手二本を使って枝拾いも同時進行。
 さらには『銀河』や『ヒトデ』といったコンボを決め、ついには妖精たちから拍手喝さいを浴びるまでに!

「はー、いいな。楽しそうだなあ~」
 羨ましそうにヌヌイが零せば、
「アンタは枝拾い」
「頑張って」
 ともに枝を探す、純白と妖樹の声が飛ぶ。
「綺麗な歌を聞きながらの仕事ってのは、いいモンだ」
 微笑ましい光景を見守りながら、縁は思案していた。
 ――頼めば木の枝をわけてくれる癖に、悪戯をしたり、迷わせる。
 ――それは、すぐ帰られたら寂しいという、彼らなりの意思表示なのではないか。
 ものは試しだ。
「なぁ、お前さん方。ひょっとして、遊び相手が欲しいんじゃねぇのかい?」
 突然話しかけられた妖精たちは、
『あたしたち、子どもじゃないんだかラ!』
『もう大人なのヨ!』
 矢継ぎ早に告げる妖精たちに、縁は続ける。
「どうだい、ここは一つ、取引しねぇか。あの嬢ちゃんの仕事を手伝ってくれたら、晴れて夜まで自由時間だ。集め終わるのが早けりゃ、その分たっぷり遊べるぜ?」
『時間なんテ』
『ねーエ』
 と、顔を見合わせる。
 悠久の時を生きる彼らにしてみれば、一日待つくらい、どうということはない。
 彼らの気のすむまで、イレギュラーズたちを森に閉じこめればいいだけの話だ。
「それじゃあ、こういうのはどうかな?」
 ふいにやってきた妖樹が、瞬きする間に、尻尾の数を九本に増やして見せて。
『!?』
 驚く一体と、飛びつこうとする一体。
 その突撃をひらりとかわし、妖樹が気配を消してちょっかいをかけたりしながら、二体を遠くへ連れ出していく。
「鬼ごっこは勘弁してくれ、おっさんの歳じゃキツい」
 後は任せたと縁が声をかければ、妖樹が尻尾のひとつを振って応えて。
 純白は、ヌヌイの手や頭にのしかかろうとする妖精たちを逐一引き剥がしながら、おもむろに話しかけた。
「妖精の世界とか生活ってのも、気になるんだ。名前とかあるのか?」
 次々と髪の色を変える純白が面白いと、肩に乗った妖精が笑う。
『名前あるヨー』
「へー。オマエはなんていうんだ?」
『天蓋樹の末葉ののんびり』
「……は? ふーん?」
 聞けば、住んでいる樹木の特徴を示す冠名に、棲み家としている枝葉や性格を組みあわて呼ぶらしい。
 そうこうしているうちに。
「ひー、ふー、みー、よー……。あっ! 十本! 十本あつまりました~!」
 ヌヌイが万歳したところへ、飛びつこうとした妖精たちを縁がキャッチする。
「よし。それじゃあ、早いところ帰り道を探さないとな」
 仲間たちを集め、急ぎ出発しようとしたところで、
『枝はあげル』
『でも、帰さないっていっタ』
 疾風とともに一同の前に現れたのは、一番最初に姿を見せた、巻き毛の妖精たちだった。


 それまでイレギュラーズと遊んでいた妖精たちが、二体の妖精を見て蜘蛛の子を散らすように姿をくらましていく。
 純白と遊んでいた『天蓋樹の末葉ののんびり』も身を震わせ、その背に隠れて。
 問えば、あのふたりは『長老樹の天枝の双子』であるという。
 他の妖精とは違う気配に、イレギュラーズたちがヌヌイを守るように囲み、対峙する。
 せめて帰り道の方角だけでも確かめようと、アクセルがこっそり飛び立とうとするも、
『ごめんネー』
『双子こわいんダ』
 妖精たちが束になってアクセルにしがみつき、飛ぶのを許さない。
「く~! オイラが森の上まで飛べれば、どこにいるかだけでもわかるのに……!」
 陽光の降りそそぐ方角からなんとなくの方位はわかるが、森の広さがわからない今、やみくもに歩き回るのは得策ではない。
 どうしたものかと思案していると、先ほど一緒に遊んでいた妖精が、ぽとりと愛莉の頭の上に落ちてきて、言った。
『いいにおいすル』
「いい匂い、ですか……? あ!」
 ポンと拳を打ちあわせ、愛莉が荷物からとり出したのは。
「いざという時や、帰る際に妖精さんに渡そうかな……と! お菓子を作ってきていたんです!」
 袋一杯のお菓子を見せれば、キャーッという歓声とともに、隠れていた妖精たちが集まってきた。
『ちょうだイ!』
『ちょうだーイ!』
 群がる妖精たちを見やって、悠凪、レウルィア、聖夜が感心したように呟く。
「お菓子、大好きだったんですね……」
「妖精さん、みんな夢中……です」
「人心を掌握するには、まず胃袋からって言いますもんね!」
「妖精は、人じゃないけどね」
 妖樹のツッコミをよそに、縁が愛莉からお菓子をふたつ受け取り、双子の前にさしだす。
「ほらよ。お前さん方にも」
 しかし、双子はどちらも手を伸ばそうとせずに、頬をふくらませるばかりで。
『いらないワ』
『いらないヨ』
『だけど。またそれを持ってくるというのなラ』
『森から出してあげてもいイ』
「もちろんです……!」
 愛莉は、ふたつ返事で約束した。
「今度来る時は、妖精さんたちが好きなお菓子をお土産に作ってきますよ! 約束なのです……♪」
 ヌヌイがうんうんと頷き、お菓子で悪戯が回避できるなら工房のみんなも助かるよーと笑う。
『妖精との約束はぜったイ』
『破ったら、今度こそ永遠に森のなカ』
 それだけを告げると、双子は風にのって、ふいに姿を消した。
「あ。帰り道を聞きそびれたんじゃないのか?」
 純白が声をあげれば、お菓子を頬張っていた『天蓋樹の末葉ののんびり』がひょーんと上空に飛びあがった。
『双子はだいえっと中だかラ』
『ぼくらが送るヨ』
『おいしいもののおれイ』
『さあさあ、音楽をかなでテ!』
 妖精たちに促され、アクセルが再びリュートを奏ではじめる。
 大地の上、中空、天上と、輪になって踊る妖精たちが三重になってイレギュラーズを囲み、踊って。
『おかえりは、森のそト』
『またきてネ』
『あそぼうネ!』
『おいしいの、もってきてネー』
 ばいばーいと手を振る妖精たちに手を振った瞬間。
 一同の視界は、光に包まれた。

●帰り道
 光の奔流が消えた後、イレギュラーズたちが立っていたのは、来た時に見た森の入り口だった。
 さきほどまでの賑やかさは、どこへやら。
 入り口からのぞく夕暮れの森は、ひっそりと静まり返っている。
「それじゃあ、帰りましょうか!」
 ヌヌイの言葉に、イレギュラーズたちもそろって歩き出した。

 『霊樹の枝』を抱えたヌヌイが、イレギュラーズとともに工房に戻るころには、すっかり夜の帳がおりていた。
「おかえり、ヌヌイ。ちゃんと素材を集められたようだね」
 出迎えたオトが枝を確認し、「よくやった」と弟子を労って。
「あんたらも。妖精やこのコの相手は大変だったろう、助かったよ」
 礼を告げ、ヌヌイに報酬と礼を告げるようにと言い渡す。
 貨幣袋とともに、ひとりひとりへ礼を告げたヌヌイは、最後に深く深くお辞儀をして。
「これで次の修業に移れます、本当にありがとうございました!」
 少女につられ、イレギュラーズたちにも笑顔がひろがる。
「妖精さんと友達になれるなら、また森に遊びに行ってみたいね」
 妖樹の言葉に、「わたしも、また妖樹さんとご一緒できたらうれしいです!」と、微笑み。
「素材集めの次は、杖作りですね。ヌヌイさんが手掛けた装備品が、私達の手に届く事になるのを楽しみにしていますね……!」
「いつか、ヌヌイさんの作った武器を、使いたいと思います……です」
「これからも、頑張ってくださいね」
 愛莉、レウルィア、悠凪の励ましに、三人の手をとったヌヌイが「うんうん、がんばるよ~!」と、応える。
「いい装備、沢山作ってくれや。期待してるぜ、嬢ちゃん?」
「お菓子作りの腕も、あげないとですかね」
「楽器もできるようになれば、もう森も怖くないかもねー!」
 縁、聖夜、アクセルの応援にも、「精進します!」と、威勢よく。
「アタシとしては、木刀も作ってくれるとありがたいんだよね」
 純白のリクエストには、「検討してみますっ!」と、ヌヌイが真面目な顔で頷いた。
「それじゃ。今後とも、『リンド工房』をごひいきに」
 オトが一礼し、ヌヌイとともに工房へ入って行く。
 8人は、師弟の姿が見えなくなるまで、見送って。
 任務完遂を報告するべく、ギルド・ローレットへ続く夜道を歩いた。

 新米職人の修業は始まったばかり。
 ヌヌイからの依頼はこれからも続く――。
 かも、しれない。


成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

任務遂行、おつかれさまでした。

それぞれの特技を生かした対応、妖精たちも楽しんだようです。

朝比奈 愛莉へ。
『長老樹の天枝の双子』より、約定の楔を与えます。

――【砂糖菓子の冠】。

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