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シナリオ詳細

<泡渦の舞踏(外伝)>古都への乱入者

完了

参加者 : 10 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●海洋の泡渦
 突如として海中の古代都市『ウェルテクス』の上に現れた大渦。魔種チェネレントラの生み出せしその災禍を取り巻くように、『色欲』と『嫉妬』の魔種らが“その時”を待ちわびている。
 彼女らが望むのは背徳。胸の内にあるものは渇望。それを満たせるのは今はただひとつ――ローレットの特異運命座標たちだけなのだ。
 だから彼女らは、近づいてくる小さな船を見た途端、失望と怒りに駆られるのだった。
「ここに、『強欲』の出る幕はないわ――!」
 1体の魔種の叫びとともに、配下の魔物や死者たちが、こぞって船へと襲いかかってゆく。けれども彼らは瞬く間に、次々に眉間に銃弾を浴びては海の底へと沈む……。

「まあ、まあ、待ってくれよ!」
 船上の海賊は海に向かって、甲高い、ひょうきんそうな声で呼びかけた。
「俺様は、兄弟に言われるとおりにしただけなんだ! お姉さん方だって、こんな処で戦いたくなんてないだろ?」
 海賊の名はスクイッド・クラケーン。かつてはローレットの特異運命座標であった魔種オクト・クラケーン(p3p000658)の義兄弟であり……彼を『強欲』へと誘った張本人だ。
「お姉さん方が何をしたいのかは俺様にはよく解らないんだが、兄弟によれば、天才の俺様がいればお姉さん方の力になれるらしいんだ! そうすれば俺様たちはお姉さん方に恩を売れて、ゆくゆくは『絶望の青』の先に行くための戦力になってくれるかも、って兄弟が……あ、しまった! コイツは俺様と兄弟だけの秘密だったんだ!」
 ……どうやら裏はありそうな協力者ではあるが、スクイッドは実力の上では申し分ないことを証明してみせた。ならばこの泡渦の舞踏、不躾な烏賊海賊にも踊っていただこうかしら? どうやら、こちらを裏切るほどの知能はないみたいだし。

●ローレットにて
「オクトさんを反転させた魔種、スクイッドさんがまた現れたのです!」
 幻想楽団『シルク・ド・マントゥール』が討たれ、逃げのびたチェネレントラが復讐劇の舞台を整えた『海洋』。そこにスクイッドが加わっているという情報を、『新米情報屋』ユリーカ・ユリカ(p3n000003)は掴んでいた。
「スクイッドさんは今回の戦いに協力することで、他の魔種たちと自分たち蛸髭海賊団との同盟を結ぼうとしているらしいのです。正直、蛸髭海賊団は勢力としては今のところ弱小なのですが……同盟によって勢力が拡大してしまうと、困ってしまうのです」
 なのでこの場でスクイッドを撃退し、魔種の中での蛸髭海賊団の名声を落とす。こうして魔種勢力同士の同盟を未然に防いでほしいというのが、今回のローレットから特異運命座標らへの依頼だった。
 もちろん、六丁拳銃を使いこなすスクイッドは強力な敵だ。その上周囲には魔物たちもおり、ギリギリの勝利になれば特異運命座標たちは、依頼を達成できたとしても戻れないかもしれない。
 が……それに関してはスクイッド自身も同じ条件なのだ。彼は最後まで戦うことは避け、ある程度の余力を残したままで撤退するだろう。その場合もやはり特異運命座標たちの勝利だが、もしもスクイッドを倒すことができれば、そのほうがより良いのは当然。
 ただし、それが実現できる可能性は、おそらく非常に低いだろう。
 なのでユリーカは念を押すのだ。
「スクイッドさんを倒せるかもしれない時には、自分たちの帰り道の安全以外、他のことには気を取られずに遂行してほしいのです」
 他のこととは、たとえば「ここで俺様を倒せば兄弟を救うチャンスは完全になくなるぞ」と自分を人質にされる、など。けれども魔種から純種に戻った例なんて、元々確かめられてはいないのだ。

GMコメント

 るうでございます。本シナリオは<泡渦の舞踏>に関するシナリオの1つではありますが、直接本編には関わらない外伝的なストーリーとなります。とはいえ、本シナリオの結末が将来的に影響を及ぼす可能性はございますので、奮ってご参加ください。

●魔種『スクイッド・クラケーン』
 両手と触手に握った6丁の拳銃(射程:中)と高いEXAによる最大6回攻撃が脅威です。1発1発に特殊な能力はありませんが、6発を集中させたり分散させたりすることにより、多彩な攻撃をくり広げます。
 先日現れた際には麻痺や呪縛で攻撃を封じられかけたため、麻痺・呪縛・石化に耐性を与える指輪を装備しました。

●戦場等について
 チェネレントラが発生させた大渦の周囲に浮かぶ、奪った商船の上が戦場となります(スケルトンたちが操船していますが、彼らは戦闘には参加しません)。全長約30m。
 皆様が撤退する際の魔物等との戦闘は、リプレイには描写しませんしプレイングも必要ありません。粛々と結果だけに反映いたします。

●Danger!
 当シナリオにはパンドラ残量に拠らない死亡判定がありえます。
 あらかじめご了承の上、参加するようにお願いいたします。

  • <泡渦の舞踏(外伝)>古都への乱入者完了
  • GM名るう
  • 種別通常
  • 難易度HARD
  • 冒険終了日時2019年02月02日 22時05分
  • 参加人数10/10人
  • 相談6日
  • 参加費100RC

参加者 : 10 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(10人)

ヘイゼル・ゴルトブーツ(p3p000149)
旅人自称者
ポテト=アークライト(p3p000294)
優心の恩寵
郷田 貴道(p3p000401)
竜拳
巡離 リンネ(p3p000412)
魂の牧童
七鳥・天十里(p3p001668)
リーゼロッテ=ブロスフェルト(p3p003929)
リトルリトルウィッチ
黒星 一晃(p3p004679)
黒一閃
ヴィマラ(p3p005079)
ラスト・スカベンジャー
藤堂 夕(p3p006645)
小さな太陽
プラック・クラケーン(p3p006804)
昔日の青年

リプレイ

●スクイッド、再び
 チェネレントラの大渦を背に、その男は気さくに片手を挙げてみせた。
「よう」
 その姿が10年前の記憶にある“叔父さん”と変わらぬようでいることが、『幸運と勇気』プラック・クラケーン(p3p006804)の中の苛立ちを募らせる。いつか戻るとの約束を、片時も忘れずに愛しつづけた母を、スクイッドは父、オクトに踏みにじらせたのだ――彼を、魔種として二度と戻らぬところに遣ってしまうという形で。
「にししし! もしかしてお前、あの時のガキんちょか!」
「五月蝿ぇ! 覚えてろなんて言ったつもりはねぇ!!」
 反射的に殴りかかった拳は空を切り、スクイッドの後ろのマストに凹みを生んだ。「怒ってるのか?」と訊くスクイッドに……けれども応えるのは『墨染鴉』黒星 一晃(p3p004679)の剣だ。
「貴様に因縁がある者からすれば、怒りのひとつも沸いているだろうな、海賊よ」
 求めることを止められぬ『強欲』の魔種が、求められる側に回るとは皮肉なものだ。しかし……一晃の振るう刀の前には、恨みも、因縁も関係がない。ただ失われた記憶に導かれるままに、墨染烏こと黒星 一晃、一筋の光と成りて強欲なる海賊を斬り捨てるのみ。
 船の舳先に立った一晃から、甲板の中央のスクイッドまで。渾身で刀を振り下ろしたのみで、衝撃波は違わず触手に切れこみを作った。痛ぇ、と騒ぐ海賊に対し……さらに襲いかかるは赤の彩り!
 『魂の牧童』巡離 リンネ(p3p000412)の顔は赤く輝き、憤怒とも歓喜ともつかない興奮を映し出していた。ああ、確かに因縁のある者たちにとっては因縁のある海賊は、再び特異運命座標らの前に現れたのだ。
「でも、だからなんだと言えば、魔種が1匹増えただけなんだけどね」
 そう嘯いてはみせるリンネだが……彼女とて、同僚を連れてゆかれたという程度の因縁はあるに違いあるまい。だから……。
「……少しぐらいの恨み言は……言っても許されるんじゃないかな? ねえ?」
「にしししし、俺様、もしかして結構恨まれてたりしてな!」
 愉快げに目許を歪ませてとび跳ね逃げるスクイッドはきっと、自らがその強欲で、どれほどのものを奪ったのかなど気づいていないのであろう。確かに『ピオニー・パープルの魔女』リーゼロッテ=ブロスフェルト(p3p003929)のように、彼が“呼んだ”兄弟との面識はない者もいる。ただ、同じローレットの特異運命座標だと知っているだけだ。……が。
 こんな時に限って、そんな奴が堂々と邪魔してくるのはムカつく。
 羽ペンに魔力を篭めたなら、ペンは巨人王スルトの魔法陣を描く。すると陣からは炎が浮かび、かの王の力の片鱗を浮かびあがらせる。
 それは剣だ。この大きな船すらも窮屈に映る、偉大なる王の炎の剣だ!
「香ばしく焼いてスルメにしてあげるのよ!!」
「にししっ! 俺様の髭は旨いけど、今は食べさせるワケにもいかなくてな!」
 マストが燃えあがる。ちりちりと焦がされるスクイッドの触腕は……けれども焼けて失せたりはしない。それどころか鞭のようにしなやかにたわみ、目も留まらぬ速さで懐の六丁拳銃を抜く!
「きっと、まだ様子を伺ってる奴らが危なさそうだなぁ!」
 まずは、各自の力量を測る目的の分散射撃。肩を抉るかのような衝撃に、『圧倒的順応力』藤堂 夕(p3p006645)の口許が苦しそうに歪む。
 たった1発受けただけでもこれだ。6発全部受けてしまったら――最悪の想像が頭をよぎる。
 ……が、みんなも傷ついてる中で自分だけ弱音を吐いちゃ、日本のお母さんに顔向けできない。たとえ自分が傷ついたとしても、今はもっと護るべき人がいる。だからぐっと唇を噛みしめて、とり出した魔法の絆創膏を『リローテッド・マグナム』郷田 貴道(p3p000401)の立派で頼もしい筋肉にぺたり!
「HAHAHA! こうも期待を託されちゃ、結果を出さなきゃボクサーの名がすたる」
 貴道の筋肉が盛りあがった。ファイティングポーズを取ったまま、彼は人差し指をくいくいと曲げる。
「悪いが、こいつもお仕事なんでな! 潔く砕け散りやがれ! そしたらタレでじっくり焼きあげて、屋台に並べて1本100Gで売ってやろうかぁHAHAHA!」
「お前、俺様の旨さが解ってないな! 1億万Gでも安いもんだぜ!」
 そんな面白やり取りはどこか魔種らしくないように、『自称・旅人』ヘイゼル・ゴルトブーツ(p3p000149)には思えるけれど。だが……ここで魔種同士の同盟を拡げられるわけにはゆかない。その同盟の先にかつて見知ったオクトの悲願、『絶望の青』の先があるのだとしても!
 拳と拳銃で打ちあうスクイッドの後ろに、幽霊のごとく不意に現れたヘイゼルの顔。ぎょっとしてふり返るスクイッドをまるで包みこむかのように、真っ赤な魔力の糸が広がってゆく。
 絡まった糸。そこから生命力を引きずり出すかのように、糸は海賊の髭を締めつけて……。
 苦しみ悶える海賊は、逃れんとして足を横に踏みだそうとした。けれどもその足は何か半透明なモノに掴まれ、危うく転倒しかけるばかり!
「何だコレ!? 兄弟! 何だかヘンな奴が……って、そうだった、今日は兄弟とは別行動してたんだっけな!」
 スクイッドはそんな事を喚いてみせたが、あたかもそれを宥めるかのように、『スカベンジャー』ヴィマラ(p3p005079)の声がかけられた。
「へっへっへ、まー今回も聞いてきなよ、今日はね、いい感じに歌えそうなんだ」
 何故ならこの船を漕ぐ骸骨たちをはじめ、今日の海は死者たちで騒がしいからだ。こんな時、海種のネクロマンサーは踊りつつ歌う。助けを求めよ、そして自らを慰めよ……。
 死者が慰められるのであれば、生者もまた慰められねばならなかった。けれども夕の絆創膏だけでは、叫び、怒りながらひたすらバラ撒きつづけられる銃弾の前には足りぬと、『優心の恩寵』ポテト チップ(p3p000294)は知っている……だから。
 祝福の囁きと癒しの力が、ポテトの中から紡がれる。オクトの仇、とまでは言わずとも、魔種の企みを見すごすわけにはゆかない。本来は植物たちのために注ぐ癒しの力は、今は仲間たちを助けるために注がれてゆく。
 けれども、どれほど費やしたとしても、ポテトの力は枯渇はしなかった。何故ならポテトは植物の精……人々や動物たちに恵みをもたらす者なのだから。
 生きよ、そして魔に克ってみせよ。そして最後には皆で、ここから無事に帰るのだ!
 だが……ごう。また貴道の筋肉に、6つの穴が作られた。いかに鋼の肉体ありとて、苛烈な六丁拳銃は、夕とポテトがいる上に、リンネまで加わったとしてもなお抗いがたし。
 だとしても悪意ある者の拳銃に、七鳥・天十里(p3p001668)と彼(長くふわふわした黒髪とキラキラとした笑顔で間違えてはいけない、天十里はれっきとした男の子だ)の拳銃は負けるのか? 否、彼の『夕暮れ』と『チープ・ブック』は、2丁だけだからといってあの6丁に負けたりはしない!
「僕の銃と心の光を、目に焼きつけろ!!」

●船上の激闘
「うわっ!? 俺様の銃が、突然ジャムっちまったよ兄弟!?」
 輝く光を纏った2発の銃弾が、敵の銃のうち2丁を掠めて飛んだ。肉体、精神、そして運命すらをも蝕む銃弾に当てられて、スクイッドは銃を撃つ傍らで別の銃を整備する羽目になりてんてこ舞いだ……もちろん、避けるほうにも身など入りやしない。
「オラァ! 踊ってるヒマがあるんなら、糞親父の居場所を吐けやゴラァ!」
「ひえっ、俺様と一緒に来れば、幾らでも兄弟のところに案内するぜガキんちょ……痛ぇ!?」
 プラックの喧嘩殺法すら避けそこねた海賊。だが苦しんでいることは苦しんでいるのだろうが、どことなくおどけた感じは否めぬことが、目の前の不良少年の短気を誘う……。
「怒りに身を委ねるな、少年」
 それを諭した一晃は、いちど刀を腰の鞘に納め、無防備に目を閉じながら歩みを進めるのだった。意識を集中する先は柄を握る掌ただひとつ。そして抜く――敵が放つのが数多なる弾の雨ならば、俺は渾身の一閃にて貴様を断つ!
 幾本か顎の触手が千切れ飛び、海賊船の上空を舞った。あっ、と魔種は声を上げる……が、その時にはすでにリンネまで、拳を振りかぶってみせている!
「そこの人たちと比べれば、私の縁なんて大したことないのは知ってるけどね。ついでに、呼び声に応えることに決めたのは彼自身だ」
 でも……割りきれない心の中の何かを魂に乗せて、そのまま拳からスクイッドへとぶっ放す。彼が魔種としてしたことを考えたなら、ちょっとくらい八つ当たりしたって許されるはずだ。
 苛烈な攻撃を少しでも減らすため、海賊は銃を向ける先を探して視線を遣った。だが、すぐに貴道へと引き戻された。大柄で筋肉質な体に似合わぬ華麗なステップと挑発は、どうにも敵に無視しがたき威圧を与えつづける!
「おいおいおい、そんなに俺が兄弟と一緒になるのが憎いってのかよ!?」
「いいや、アイツがそうと決めたなら、俺からとやかく言うつもりはないさHAHAHA」
 貴道だって殴り殴られながら、勝利を渇望してきた人間だった。堅気ではないのは承知の上で……が、その道に誇りを持っている。
 オクトだって同じ思いで選んだはずだ。ならば……たとえ自身の肉体も精神も限界を迎えたとしても、戦うのは『ビジネス』以上でも以下でもない!
「じゃ、この後は退くまでが俺の仕事だ」
 最後の気力を失う前に半歩退がると、その隙間にヘイゼルの赤い糸が滑りこんでいった。敵に貴道を追わせない……今度はヘイゼルが攻撃をひき受ける番だ。
 白いブラウスに鮮血がほとばしったというのに、彼女の顔には穏やかな笑みが浮かびさえした。肺から血の泡とともに洩れる空気を、夕の投げた絆創膏を鷲掴んで当てて強引に止め、高らかに、彼女は周囲の魔物や魔種たちにも聞こえよがしに嗤う。
「六丁拳銃等と申しましても、所詮は大道芸でしたのです」
 だって、彼女はまだまだ生きているのだもの。彼女の躰に空いた穴は4つしかない……たとえ6丁の拳銃を握ったところで、それを使いこなせなくさせられている今は、ただの棍棒だ。

 海原に漂う霊たちの囁きが、次第にスクイッドに対する失望へと変化していった。そんな聴衆たちの変わり目に敏感に、ヴィマラの歌と踊りもまた彩りを変える。
 それは、まるで絶叫だった。彼女の中に宿る死霊らがその叫びに合わせてとび出してきて、呪詛と憎しみをスクイッドに向けている……そしてその霊たちに唱和して、周囲からも次々に叫びが上がる。
「……いやいや、俺は兄弟のためにも、まだまだ帰るわけにはいかないんだ!」
 首を振って拒否した海賊だったが、その脇腹を、心火の銃弾が貫いていった。
(そうだ……僕は、この力のために戦ってきたんだ)
 その力とは、悪を討つための心の中の光。何もかもが狂ってゆく世界の中で天十里が欲した力が、この世界でようやく手に入るだなんて。
 たった2つでしかないはずの銃が、6丁を持つはずの敵を苛んでゆく。まだ倒せない……けれどもその光は着実に、魔種の体を蝕みつづける……が!

●消耗戦
 自らの中で次第に祝福の力が萎んでゆくのを、その時ポテトはありありと感じていた。おそらく、夕への祝福も終わりつつあるはずだ。
 もちろん、もう一度祝福すればいいのではあろう。その祝福で力を失ってしまうほど、樹精の恵みの底は浅くない。
 が……そのために癒しの力を振るえなくなる時間が最もおそろしい。それは彼女の無尽蔵の癒しが、一時的でも喪われることなのだから。
「ごめん……ちょっとの間、私抜きでも耐えて……!」
「このわたしがいる限り、もちろん、それくらいのことなんてお安い御用よ!」
 もう幾度めかになる巨人王の炎の招来を一時止め、リーゼロッテがとび出していった。彼女は偉大な魔女の弟子。こんなお邪魔虫なんかに撃たれた程度じゃ、決して負ける気なんてしない。
 まあ、実際に撃たれた後には涙目になって、啖呵を切ったことを後悔はするわけだけれど。けれども勢い任せの自己犠牲の甲斐あって、夕の中に再び活力の祝福が宿る!
「きさまー! 麻痺無効アイテムなんて卑怯なものを持ってるせいで、こっちは大変な目に遭ってるんだぞー!」
「にししししっ! どうだ、羨ましいだろ!! 兄弟がわざわざ俺様のために奪ってきてくれたんだぜ!」
 ほとんどデレデレに近い嬉しそうな顔を浮かべたスクイッドの拳が上がり、顔の横で自慢げに指輪をちらつかせてみせた。
「今だ!!」
 そんな夕の号令に合わせて、澄みわたった斬撃を披露してみせた一晃。表情を変えることなきその顔は、その瞬間も決して変わりはしない……けれども額に浮かぶ脂汗は、先ほどスクイッドの顎の触手をむしり取った斬撃を、今では疲労のあまり打てなくなっているという様子を物語っている。
 が……だとしても一晃の意志はとうに伝わった。すなわち……渾身の刃は無数の弾丸にも劣らぬのだ、と。夕としてはあの斬撃で敵の腕ごと指輪を斬り落として貰いたかったに違いあるまいが、今となってはそんな小細工など弄するまでもない。

「な、なぁ……お前たち本当に俺様を殺すつもりか? 兄弟の居場所も判らなくなるし、そしたら兄弟は二度とお前たちの許へは戻ってこないんだぜ!?」
 スクイッドがそんな泣き落としをしはじめたのが、彼の敗色を物語っていた。ああ。確かに糞親父の居場所は訊かなくちゃならないし、それを殴って連れ戻したければ、そこにスクイッドがいなければダメだってことは10年前に会ったきりのプラックにだって解る。
「だけどよ……」
 だから、拳を握った。
「……糞親父の前に、テメェで試させてくれや。テメェを殴って戻せなきゃ、糞親父だって戻せねぇだろ」
「ひぇっ」
 魔種の愉快な瞳に怯えが宿っても、プラックはスクイッドをぶん殴る! 何度も、何度も!! それを魔種は銃で撃ってでもひき剥がそうとするが……その指をヘイゼルの糸がねじ曲げ、再び疲労をとり除いた貴道の胸板が阻む!
「来やがれ! 今更俺を撃ったところで何の意味もないがなHAHAHA!」
「無意味が厭なら私を撃って下さっても構わないのですよ? その六丁拳銃、受けきってみせませう」
「うぉぉぉん! 助けてくれよ兄弟!!」

●烏賊海賊、海に消ゆ
 海賊は闇雲に銃弾をばら撒きつづけるが、3人に重ねられてゆく傷は、ポテトや夕の力で回復し、あるいは足りない分も気力で耐えられてゆく。彼らの体の上でどんどん積み重なってゆく、植物の薬効をふんだんにとり入れた絆創膏は、彼らの命を守りきったという2人の誇りの証だ。
「まあでも……正直そろそろ無理はやめてくれないと、私たちがここから帰れなくなりそうなんだけどね」
 倒すだけならきっと倒せる。リンネの戦略眼はそう囁いている。
 が……それだけじゃ何もかも万々歳にはならないことも、彼女は――そして誰もがよく知っていた。
(魔物や魔種に囲まれているにも等しいこの状況で、もしも脱落者が出てしまうなら……)
 その先の想像を打ち切って、奇跡に頼らねばならぬ未来を否定する夕。
(私は必ず帰ると約束したんだ。こんなところで斃れるわけにはいかない)
 この世界に来て初めて知った恋人の、銀の髪、サファイアの瞳、爽やかな声を脳裏に浮かべ、決意を新たにするポテト。そんな仲間たちの想いがある以上、リンネだって皆を守らなくちゃいけない!
「守れ!」
 単純で力強い命令に呼応したさまざまな召喚物が、仲間たちを死なせぬため敵の前へととび出していった。
「これ以上、あんたみたいな頼りないやつと戦ってなんてられないの。いい加減正気に戻って出直してきなさい!」
 リーゼロッテもまた巨人の炎の招来を再開し、逃げなければ本当に焼きスルメになってしまうぞと脅しをかける。
 もう、限界だった。『絶望の青』に向かうために協力者を見つけるはずが、その前に自分の命まで危ないだなんて。いかに頭のお気楽なスクイッドにだって、今更特異運命座標らに頭を下げて仲間になって貰おうとしたところで、たとえばリーゼロッテなら「行くならローレットの人たちと行くわ」と答えるだろうことは目に見えている。
「せ、戦略的撤退だー! ……この言葉使ってみたかったんだよなぁ兄弟!」
 そんな捨て台詞を残し、足元の霊たちをひきずったまま舷縁へと逃げだしてゆくスクイッドに対し、「つまんねー腐り方すんじゃねーぞスクイッドちゃん! 今度はオクトちゃんも一緒に遊ぼーゼ!」などと呼びかけたヴィマラ。その声が届いていたのかまでは知らないが、特異運命座標たちが誰ひとり、彼女の回収すべき魂にならなかったということだけは確かであろう。

 そのまま、魔種は海へととび込んでゆく。天十里がその後を追いかけ波間を覗けば、必死に泳いで逃げてゆくスクイッドの姿が見える。
 2発、新たな銃声が響いた。『夕暮れ』と『チープ・ブック』からの1つずつの弾丸は、違うことなくその背に当たる。

 青い血が辺りに広がって、そしてスクイッドの体は波の下に沈む。
 凶暴な歯を持つ魔物たちの目がそちらに向いて、殺到していっている隙に、特異運命座標たちもこの骸骨船員だらけの船を後にするのだ……。

成否

成功

MVP

七鳥・天十里(p3p001668)

状態異常

なし

あとがき

 皆様の作戦、そして想い。しかと見届けました。その結果が今回のリプレイとなります。
 蛸髭海賊団とチェネレントラらの魔種同盟は成らず、スクイッドは魔物たちの群れに呑まれました。皆様もその隙を突き、ほぼ無事に脱出を遂げております。

 が……それを知った魔種オクト・クラケーンはどのように動くのでしょうか? まだ確かなことは言えませんが、彼が『絶望の青』到達を諦めることはないに違いありません。
 皆様がその時に備えてくださることを、私は強く信じております。

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