PandoraPartyProject

シナリオ詳細

<ゲノム解析>ペイシェント・ケース

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

 真っ昼間からローレットギルドにて騒がしいやり取りが行われた後、学者然とした若年の女性はギルドの受付で一通りの処理を終えてから、改めてイレギュラーズに向き直った。
「イレギュラーズの皆様! 御初にお目に掛かります! 私の名はマジョリーと申します!! 生物学者の道を専攻していまして――」
 彼女はやたらハッキリとした早口で自分の身の上を説明する。自分はこの件を率先して研究している学者集団『プロテオミクス』の一人で、聡明な貴族らの庇護の元に活動している。気軽にマジョリーと呼んで欲しいとか、幻想蜂起から貴方達に憧れていただとか……
「……まぁ、私事はさておき!」
 彼女はそんな風に話を切り替える。マジョリーという女学者は出来るだけ真面目な面持ちで依頼の内容について説明を始めた。少し前に起きた『ゾンビ病』事件の話だ。
 幻想にて街の区画一つを滅ぼす程のバイオハザードが発生したのは記憶に新しい。「王都の中心街の要人らや、あるいは北部戦線の様な大戦の最中に兵士にでも蔓延していたらもっと取り返しの付かない事になっていたかもしれない」と、彼女は仰々しい身振り手振りを交えて語る。
「その最悪の事態を避ける為に、抗体や特効薬を作る為に検体を得る必要があるわ。検体を得る必要性については、この一連で発生したモンスター全てに言える事だけれど……」
 しかし検体を得るとはいっても、それは難しいのではなかろうか。被害が広がらない様にあの地域は安全が確証されるまで厳重に封鎖・検疫がなされているとの事だが。
「そこよ。既に運び出された焼け焦げたり、腐りかけたりした死体からそれを得ようとするのは不毛の事。けれど幸か不幸か、バイオハザードを生き延びた猫や犬があの区画の下水道に逃げ込んでそのまま住み着いているという情報があるのよ。しかも、感染した末期のヤツがね」
 現在、その封鎖と検疫を担当している兵士達がそれらの掃討処理を行っているという。現状、その討伐だけなら彼らでも何とかなっているとの事だが……問題は疫病に対しての恐怖感から兵士はすぐにその死体を焼却してしまい、それらから抗体を得る事は不可能だという。
 つまりは再び街へ向かい、その兵士達より先んじて下水道に住み着いた動物からサンプルを手に入れればいいという事だろう。それに加え、生かして捕獲するのが理想だと彼女は語る。
「この件に限らず私達学者団の依頼を請け負ってくれたら、正式な報酬の他に一連の事件ついて此方が知り得た情報はローレットへ積極的に提供します。持ちつ、持たれつつ。どうでしょう? 悪くない話かと」
 そう言って、彼女は少しばかり得意げな顔を浮かべた。

GMコメント

 お久しぶりです。稗田ケロ子です。
 今回は以前の依頼で疫病が蔓延した場所の地下にある下水道にて、動物の検体を入手してくるシナリオです。依頼の経緯については以下をどうぞ。
――――
<悪性ゲノム>バイオハザード・エピデミック
https://rev1.reversion.jp/scenario/detail/1084
――――
●成功条件
・『感染した動物を討伐し、その死体を3つ以上手に入れる』
・『感染した動物を少なくとも1体は【不殺】で倒す』
 依頼の成功には両方達成する必要があります。

・環境情報
 幻想にある街の区画、その地下に張り巡らされていた下水道。
 内部は中規模の迷路状であり、その構造情報は依頼開始の時点では得られていない。目標の捜索に役立つスキルやプレイングがあればスムーズに進む事でしょう。

 封鎖・検疫の兵士達である程度対処出来ている事から分かる通り、感染した動物達の強さ対処に困る程ではありません。それよりも厄介な問題は彼らが封鎖を徹底した上で動物の死体を率先して焼却処理し、また今回の件について兵士達から「感染を広げかねない行為」と許可を取るのが難航している事です。
 もしも話術に長けたイレギュラーズが居るならば、交渉に介入する事で許可を得られるかもしれません。その際は下水道に関しての目撃情報や、何かしら望む物資などの協力も得られる事でしょう。
 万が一許可が取れなかった際は、何らかの形で無断調査を行う必要性があります。

BS【ゾンビ病】
 ゾンビ病は便宜上の名前であり、変則的な【呪い】【苦鳴】【混乱】の複合BS。症状は進行順に目眩(【呪い】)⇒発熱⇒激痛と嘔吐(【苦鳴】)、そして最終的に重篤な錯乱(【混乱】)。
 今回の討伐対象は全て末期まで感染しています。

●NPC情報
マジョリー:
 Lv1相当の戦闘力と不殺の攻撃手段を持っています。感染拡大の予防の為にと、一応の治療手段(BS回復)を持って同行を所望しています。
 イレギュラーズ側に不殺要員・BS回復要員が不在の時に役立つかもしれません。

●エネミー情報
犬・猫などの感染した動物
 元々は住民のペット、あるいは野良であった動物が区画焼却の際に下水道へ逃げ込んで生き残った様です。
 感染は末期まで進んでおり、相互に食い合い、衰弱し、結果その数を減らして兵士達が対処出来るまで弱っています。
 一番の問題点は迷路状の下水道から決して多くはない彼らを見つけられるかどうかでしょう。

ひっかく・噛み付く:近単・低威力・BS【ゾンビ病】

●情報精度
 このシナリオの情報精度はAです。
 想定外の事態は絶対に起こりません。

  • <ゲノム解析>ペイシェント・ケース完了
  • GM名稗田 ケロ子
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2019年02月02日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

ヴェノム・カーネイジ(p3p000285)
大悪食
デイジー・リトルリトル・クラーク(p3p000370)
共にあれ
那木口・葵(p3p000514)
布合わせ
アレフ(p3p000794)
純なる気配
パティ・ポップ(p3p001367)
ドブネズミ行進曲
アマリリス(p3p004731)
倖せ者の花束
アクセル・オーストレーム(p3p004765)
闇医者
茶屋ヶ坂 戦神 秋奈(p3p006862)
音呂木の蛇巫女

リプレイ

●勝ち取ってきた信用の賜物
「そ、そこを何とか……」
「駄目に決まっているだろうッ!!」
 目的地である区画の城壁前にて。年配の兵士の怒声が若き学者マジョリーに向けられる。彼女は検疫の責任者である兵長を相手に区画の調査を申し出た次第であるが、終始この様な調子で拒絶されており内容を伝える所の話ではなかった。
 兵長の視点からしてみれば、衣服にでも付着した正体不明の病原菌が王都に広まるなんて最悪の事態も考えられるのだから神経質になろうものだ。自分よりも若い――齢二十にも満たないであろう学者が寄越されたのだから尚更だ。
 それを理解してるのかしていないのか、気圧されて肩を縮こませているマジョリー。その仕草に苛立った様子で兵長は続けて罵声を浴びせようとした。
「危惧する事は御尤も。だが、特効薬の必要性も貴方なら分かっているだろう」
 『堕ちた光』アレフ(p3p000794)。彼はこの不毛なやり取りが続く前に、落ち着いた言葉で兵長を制止する。
 兵長は暫しマジョリーとアレフの顔を交互に見つめて、鬱屈とした感情を吐き出す様に溜息をついてからイレギュラーズと学者の主張を促す形で押し黙った。彼らが同席するのであれば、この若い学者を真っ向から拒絶するだけなのも不敬だと判断したのだろう。
「今後のぢ件を防ぐ意味で、ち体をちょ査ちゅるので、そこは譲って欲ちいでち」
 ひとまず『ドブネズミ行進曲』パティ・ポップ(p3p001367)が改めて要件を伝える。続けて、他のイレギュラーズが兵長へと説得を試みた。『布合わせ』那木口・葵(p3p000514)と『戦神』茶屋ヶ坂 戦神 秋奈(p3p006862)だ。
「薬を作るために病気を患っている検体が必要なのです。例えば蛇の毒も薬を作るためには毒そのものを使うそうですし、感染した動物を焼くだけでは原因などが分からないですよ」
「動物がどこか逃げ出してそこから大変なことになる事も考えられるし。ゾンビに背後から襲われたい?」
 葵の諭す言葉や秋奈の脅し文句にそれは然りと肯定する様に兵長は頷いた。その上で彼は反論を返す。
「だが貴方達が感染して外に持ち出す事が万が一にもあれば、今度こそ取り返しのつかない事になる可能性もありますぞ」
 イレギュラーズに向けられた兵長の顔はこの街で地獄を見てきた事を如実に表す鬼気迫るものであった。被害状況を考えれば無理もない。
 しかしながらその様子に物怖じせず、胸を張って前に歩み出てみせた少女が一人。『大いなる者』デイジー・リトルリトル・クラーク(p3p000370)。周囲の兵士達はざわめいたが、兵長は表情を変えて彼女を見つめ返した。
「心配するな。妾はあの疫病がどれだけ恐ろしいかこの身をもって心得ておる」
「……貴方は、以前に御助力いただいたイレギュラーズではありませんか。それに、先生も」
 デイジーを見るや、すかさず敬礼を返す兵長。傍らに居た『闇医者』アクセル・オーストレーム(p3p004765)に対しても同様の仕草を向けた。アクセル、デイジー。二人はゾンビ病が蔓延した際にこの区画に取り残された人達の救出作戦に赴いた事があるが、その際に顔を覚えてくれていたらしい。
 兵長の態度につれて、周囲の兵士達の見る目が変わるサマに機嫌を良くするデイジー。改めて、彼女達イレギュラーズが言うには専門家と連携し感染・拡大への予防に務め、また検体の捕獲に際しては一般人よりも抵抗力が高く、ゾンビ病への対策の準備を行っている自分達が担うと豪語する。
 兵長からしてみれば、いかにも地獄の惨状を知らぬ様な学者風情ならいざしらず。その地獄から市民を救い出した者やそれに同行するイレギュラーズが調査を申し出るのだから、それは大変頼もしい言葉であった。然らば、どうしたものかと少し考えた様に顎を撫でてから、聖衣を纏った女性――『戦花』アマリリス(p3p004731)に対して視線を向けた。
「貴方は治癒術士の類ですかな」
 その様に彼女へと問いかける。万が一彼らが感染した場合は貴方もそれは治せるか? 兵長の意図はそんなところであろう。それを察したアマリリスは静かに頷いた。
「治癒術でしたら心得ています」
 そして彼女は周囲の人間に聞かせる様に言葉を続ける。
「我々はこの事態を根本的に解決するためにこの先へ行きます。目先の駆除ではなく、長い目を見て原因を永遠に払拭するのが世界の為。どうぞここは一度、我々にお任せ頂きたい。貴方方も、事態を収拾したい気持ちは、きっと一緒なのだと信じております」
 人為的な原因。何者がこれを企てたのかを突き止める為にも、進まなければならない。
「……治療と予防の手段が拙い現状では、今後も確実に被害が広がっていく。今は抑えているように見えても、感染媒介が動物である以上、間違いなく今後も現れるであろう多くの罹患者を、見放す事なく全て治療できるようにしたい。その為に力を貸して欲しい」
 一番その焦燥感が強かったのはアクセルかもしれぬ。彼は兵長に対して頭を下げた。兵長はそれに慌てて言葉を返す。
「先生、頭をお上げ下さい」
 イレギュラーズが言わんとする事、そしてイレギュラーズが治療手段についても十分数と見てくれたのだろう。彼はこう述べる。
「どうぞ、侵入口は我々がお守りします。しかしお帰りの際は先生の教授の元、検査は受けてもらいますぞ」
 イレギュラーズ様が言われる様に背後からゾンビに襲われては敵いませぬからな。と、兵長は苦笑した。

●追想
「相変わらず下水の匂いはキツいッス」
「これじゃあ、ぬいぐるみも汚れちゃいますね」
 愚痴っぽく呟きながら下水道を進む『爆弾』ヴェノム・カーネイジ(p3p000285)と葵。イレギュラーズは三班に別れ調査する事になり、離れた位置で感染した動物を探している最中だ。
 地上が廃墟と化しているのだから予想はしていたが、その下部にある下水道はだいぶ閑散としていた。葵のぬいぐるみを使った捜索でも今のところは鼠の類も見当たらない。あったとしても、もはや何の動物であったか分からない骨ばかり転がっている。ヴェノムの嗅覚をもってしても悪臭ばかり鼻(腕?)についた。
「衰弱した子は当に食い荒らされたか、はたまた兵士さん達が焼却してしまったんでしょうね。貴重な検体なのだから、少しでも残っているといいんですが……」
 彼女達につられ、残念そうに語る学者マジョリーである。まぁそんな厄介な疫病を持った動物が地下に犇めいていても困るのだが。
「……何か目的が見えないスよね。”出来るからしてみた”って感じで」
「私にも理解し難いです」
 一連の事件を思い返したのか、そう言葉を漏らすヴェノムと葵。
「何がですか?」
 その様子を見て不思議そうにするマジョリー。それに対して、ヴェノムは気にするなと言いたげに笑った。
「コッチの話ッス。ところで時にゲノムっぱい先輩。ぱんつ何色すか?」
「え、色ですか? ブラッ」
「ま、冗談はさておき」
 平然と答えようとする学者をスルーして、下水の地面に目を向けるヴェノム。視線の先にあるのは小動物の糞尿であった。狩猟の知識を得ていたヴェノムの判断では、それは比較的真新しいものである。
「小型の肉食獣。まぁ、猫でしょうね。この状態からして、ふつーの動物なら病気が治るまで狭い場所に隠れ潜むところッスが……」
 イレギュラーズ二人は、周囲を見回した。張り巡らされた下水管。その口は子供の頭が通るか通らないかの狭さであろう。ヴェノムはそれらの様子を見ていたかと思うと、その一つを無言で指し示す。葵はそれを受けてこれも無言で頷いて、練達上位式を仕込んだぬいぐるみを近づかせる。
 イレギュラーズ様は何をしているのだろうとその下水管を覗き込もうとするマジョリーであったが、先んじて近寄っていた葵のぬいぐるみが突如として大きく仰け反り、布地が裂けた。
「キャアッ!!」
「――ゾンビ病という名に偽り無し、ッスね。まぁ気味の悪い鼠よりマシですが」
 驚きのあまり尻もちを付く学者と、即座に戦闘の構えを取る葵とヴェノム。下水管から飛び出して来たのは、ずたぼろの汚い雑巾と見紛う、弱り果てていても、自分達の首筋に牙を突き立てようとするけだものと化している”猫だったもの”だ。
 これが、この一連の事件が何者かの手によって幻想で大々的に行われている事ならば、やはり自分達には理解し難い。二人は改めてそう思うのである。

●帰還組
「ちゃけび声が聞こえたでち」
「おそらくあの学者であろう」
 兵士達から献上された地図と現在地を照らし合わせながら下水道を進むデイジーとパティ、そしてアクセル。彼女達はどうにも多めに兵士達の援助を受けられて地図や情報などの物持ちが良い。
 その恩恵は他の班も同様なのだが、ひとえに上手く兵士達を説き伏せられたイレギュラーズの成果であったともいえる。
「あの兵士達、妾にめろめろであったのぅ」
「成果を持って帰って、報いなければな……」
「目撃ぢょうほうも詳ちくおちえてくれたから、きっとちゅぐ終わるでち」
 アクセルとパティ、彼らとしては一連の事件の被害者に思う所があったのか少し複雑な表情を取っていた。考える事はそれぞれ違うが、少なくともこの件は解決はせねばならないと二人は強く認識している。
 さて、この班の場合は捜索に対してはパティの感覚こそが頼りである。パティは鼻をひくひくと鳴らして、動物特有の匂いを嗅ぎ分けようとする。下水の悪臭の中ではそれは少々難儀であった。代わりに彼女の耳は遠くから喧騒を感じ取った。
 どうやら、動物同士が少し先に行った通路で諍いを起こしているらしい。音の数からして二匹ほどか。
「このちゃきにいまちゅ」
「すぐに向かおう」
 パティの言葉にアクセルとデイジーは頷き、その場に急ぎ向かおう事にした。

 彼らが辿り着いたのは、決着が付いた直後であった。いかにも獰猛といった風に牙を剥き出した犬が、もう片方の瀕死の犬の頭を噛み砕こうとしている場面である。
 デイジーは生きたまま目標を捕らえようと、すかさずトーチャーを撃ち出す。
 対して目標は、危機を察知したのかそれを既の所で飛び退け、そのまま近接でナイフを抜こうとしていたパティの腕に噛み付いた。
「ぢゅうううッ!!?」
 パティは甲高い声をあげ、咄嗟にナイフを逆手に取り出して腕に噛み付いた犬を切り払う。
 元々弱っていたのであろう犬はその一撃で上顎を吹き飛ばされ、呆気なく死に絶えた。
「お、驚きまちた……」
 自分の腕を心配そうに見やるパティ。じゅくじゅくと嫌な感触が残っている。見た目、単なる噛み傷で大した事はないが……。
 アクセルはもう片方の瀕死の状態だった犬が事切れるのを看取ると遺体を回収するでもなく、すぐにパティの方に向かって噛み傷が付いたその腕を力強く握った。パティはそれに目を白黒させる。
「……今すぐに応急処置をするぞ」
 冷静と思える彼が、何処か有無を言わさぬ雰囲気を感じ取らせた。
「まぁ致し方無しであるのぅ」
 デイジーも、治療が無事に終わるまでその一部始終を眺める。
 傷の具合は大した事は無い。しかし放置しておけば、この仕事に集まったイレギュラーズの戦力さえも容易に瓦解を招きかねない。これはそんな病気なのだ。全班に応急処置の手段が行き届いているのは、非常に上策であったと言える。
 ――もう、あんな光景は見るものか。
 アクセルはパティの腕を治療しながらも、脳裏に思い出される地獄の光景に沈鬱な感情を抱くのであった。

●捜索難航中
「見つからないですね……」
 こちらはアレフ、秋奈、アマリリスの班。
 秋奈の捜索能力と地図を宛に下水道の中を彷徨っている。兵士達の証言からしてこの辺りに居るはずなのだが……運が悪い事に、検体は見つからなかった。
 アレフは他の班の様子も耳にしていたのだろうか、今の状況を考えて少し難しい顔をする。
「まずいなこれは」
「ソーナノ?」
 先陣を切っていた秋奈はアレフの言葉に振り返る。
「そもそも感染源の動物を複数見つけられるとは限らない、ともすれば限界まで探してもダメな可能性も有る訳だからな」
 それを聞いてアマリリスの顔色が曇った。内心、ひとつと言わず多く持って帰りたかった所ではあるが、足りなかったのでは意味が無い。
 何か手立てはないだろうかと二人が悩んでいる最中、秋奈は何か思いついたかの様なにんまり顔を浮かべた。
「じゃあ、逆に音を出してみるってのはどう? 名乗り口上あげてみたりさ」
「音をわざと出すのですか?」
 不可思議そうにするアマリリス。相手が相手なので音を出さない様に忍び歩きをしていた次第だったが。
「新鮮な肉が来たんですもの、襲わずにいはいられないはずよ」
 要は自分達の存在を知らせてやるという事か。
 秋奈は下水道内で音が大きく鳴り響く様に、傍らにあった金属製の排水管へ刀の峰を打ち鳴らして名乗り口上をあげようと口を開く。
「遠からん者は音に聞――」
「来るぞ」
 口上の途中、アレフが後ろに忍び寄って来た動物の微かな足音に気づいて振り返って、魔術書を構える。アマリリスと秋奈も、同じ方向に慌てて振り向いた。
 二十数秒して、闇の中から動物のギラついた目が確認出来るや、秋奈は前線に歩み出て、改めて名乗りをあげる。
「戦神が一騎、茶屋ヶ坂アキナ! 有象無象が赦しても、私の緋剣は赦しはしないわ!」
 カンテラの光に照らし出されたそれは、一瞬猫か犬か判断付かぬほど顔面に傷を負った獣である。相手は秋奈の名乗りを威嚇の一種と見たのか、迷わず秋奈に向けて崩れかけた牙を剥き出す。明らかに例の疫病を患っている。
「気をつけて下さい。普通の疫病より厄介だと聞きます」
 アマリリスは秋奈の後ろに控えながら、警告を発する。
「でも私はゾンビ病になったりなんかしないわ!」
 秋奈は無駄にキリっとした表情を取った。
 先手を取ったのは獣の方である。いきり立った様子で、秋奈の脚部に食らいつこうと焼き栗が弾ける様に飛びかかった。
 秋奈はそれを読み切っていた様に躱し、そのまま相手を体術で組み伏せようとする。しかし獣に対して関節を完全に決めようとする直前で、獣は死に物狂いで秋奈の腕を噛み付こうと頭を振った。
 あ、まずい。こりゃ一回は噛まれる? 秋奈が心の中でそう覚悟した辺りで、不殺の術式が獣の頭部に打ち込まれた。牙は秋奈の腕に達する事はなく、犬は昏倒してしまう。
「無茶をするな。君は」
 対象が沈黙したとみて、構えていた魔術書を下げるアレフ。どうやら彼が威嚇術を放ってくれたらしい。アマリリスもそれを見て安堵する。
「仲間がいるんだから、早々ゾンビ病になったりなんかしないわよ」
 秋奈は捕らえた獣を縄で縛り、軽い調子で笑ってみせた。

●合流
「よしよし、こら。暴れないの」
 一方葵達の班は、遭遇した感染動物を難なく捕まえる事が出来た。哀れ、ラッピングもとい簀巻き状態で捕らえられるにゃんこ。
「一般人寄りの兵士達が対処出来るっていうんだから、意識しとけば捕縛は容易ッス」
 この分なら仲間達も戦闘に関しては問題あるまい。

 しばし捜索を続けこれ以上感染動物が見つかる気配が無いと判断したヴェノム達は、一時状況確認の為に一度仲間と合流する事にした。仲間達も同様に判断した様で、入り口の地点近くで皆と合流する。
「素晴らしい」
 マジョリーは皆の抱えているものを見て感嘆の声をあげる。最終的な結果として、死体が三体。生体が二体と達成の目標は上回った。
「ところでマジョリー、あなたこれで風邪薬でも作るの?」
「無論、そのつもりです! それ以外にも、私は原因を突き止める為に幻想中の変異生物を調査するつもりです」
「奇遇ですね。私も感染の拡大を防ぐ一方で原因を突き止めるつもりでしたから。機会があればご一緒致しましょう」
 アマリリスの言葉も聞いて尚更、マジョリーはとても機嫌を良さそうに振る舞う。
「やはり、イレギュラーズ様は私達の見込んだ通りです。情報についても約束通り提供させていただきますし、報酬についても色を――」

「それについて物は相談なんですが」
 つらつらと楽しそうに話す学者に対して、ヴェノムは提案を持ちかけた。笑顔のままどうぞと促す学者。
「検体の内、一体を此方に分けてもらえないデショーか。此方でも別口を探して、この件を追求したいッス」
 中々に挑戦的な提案だった。受け取り方によっては、学者達を信用し切った訳ではないという表明でもある。
 ヴェノムの言葉を聞いて、若き学者は返答を選ぶ様に口に手を当てた。暫しして、ヴェノムの提案に笑んで答える。
「よろしいでしょう。お互い歩み寄らなければ、信頼というものは生まれません。尊敬するイレギュラーズ様の為ですもの。その提案、快く受け入れます」
 そういって、彼女は生きた検体が包まれた一つを手渡した。
「そちらでも何か分かった事がありましたら、是非とも我々にも」
 若き学者マジョリー、目的を果たした彼女は一足先に入り口へ向かう。その後ろで、彼女に気づかれない様にヴェノムはアレフと顔を見合わせた。
「……”嘘は”ついてなかったな」
「あの答え方なら、でしょうね」
 この学者ら、どんな集団であるにしても一筋縄ではいかない様子であると二人は感じ取った。

成否

成功

MVP

ヴェノム・カーネイジ(p3p000285)
大悪食

状態異常

なし

あとがき

 第二ステージ開幕依頼。お疲れ様でした。無事成功、おめでとうございます。
 マジョリーさんについては「また後日、依頼を持って来ます」と笑顔で立ち去って行きました。これからもこの学者達に出会う事があると思います。
 
 ヴェノムさんについては複数箇所で効果的だったプレイングだった為、MVPを。
 検体については別口の学者辺りに渡したという扱いで進行させていただきます。

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