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シナリオ詳細

十二年に一度の祭礼

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●十二年に一度の祭礼
 幻想東部、エーバー村は一種の異様な空気に包まれていた。
 青年から荘年までの男たちが猟銃を持ち、村の背後に迫る山の手前に集合する。彼らの視線は、腕を組んで立つ筋骨隆々の男に注がれていた。
「諸君! 十二年ぶりにこの日がきた!」
「おおー!」
 一月三日。ひどく冷える日だというのに、猟銃を持つ男たちは半袖かタンクトップ、あるいは半裸だった。
 しかし、吹く風を受け鳥肌を立てるような者はここにいない。
「山には猪どもがはびこっている! いいか! 大地への感謝をこめ! やつらを! 残らず!」
「狩るぞー!」
「古の盟約を果たすため! 男どもよ! 進め!」
 リーダー格の男の怒号に、男たちはさらに大きな声で応じる。雄叫びは空気どころか村を、山さえも震わせるようだった。
「しかぁし! 今回、猪どもはなぜか凶暴化している!」
「我々が毎年狩るからでは!」
「そうだァ!」
 がん、とリーダー格の男が猟銃の先を地面に強く打ちつける。
 嫌な音が聞こえたが、誰も気にしなかった。
「我らの勇敢さをもってなお、敵わん可能性がある! ということで今回は助っ人を用意した!」
「おおおお!」
「ロォォォレットの皆様だ!」
「おおおお!!??」
 驚愕と動揺が男たちの間に広がる。
 どうぞ前へ、とリーダー格の男に手振りで促され、木陰に隠れていた特異運命座標たちは一同の前に出た。

●さかのぼること少し前
「みなさん、猪鍋を食べたくはありませんか?」
 新年になり三日目を迎えた早朝、『新米情報屋』ユリーカ・ユリカ(p3n000003)は真剣な表情でそう言った。
「とれたての猪のお肉と、新鮮な冬野菜で作る猪鍋なのです。絶対においしいのです」
 まぁおいしそうではあるけれど、と特異運命座標たちは顔を見あわせる。ユリーカは大きく頷いた。
「エーバー村で十二年に一度の猪狩りが行われるのです。今年は猪が凶暴化しているらしく、助けを求められたのです」
「どうして十二年に一度なんだ?」
 片手を挙げた特異運命座標の疑問に、ユリーカは「いい質問なのです」と応じる。
「そういう伝承があるそうなのです。十二年に一度、エーバー村の人々は猪を狩って、おいしいお肉や立派な毛皮をいただくのです。その代わり、普段は山を荒らさず、山の動物たちに優しくするのです」
 そういう取り決めが、かつて村人と山を守る気高く神聖な生き物の間に交わされたらしい。
 ゆえに村人たちは十二年に一度、猟銃を手に山に分け入り、猪を狩って感謝を胸にその肉を食らう。
「我々が参加してもいいのだろうか……」
「村長さん直々の要請なのです。問題ないのです」
 伝承の中に、外部の者の力を絶対に借りてはならない、だとか、猪肉をよそへやってはならない、という掟はない。
 ただ、必要がないため今まではそうしなかったというだけだ。
 しかし今回は事情が違う。
「村の方々が怪我をするのは、猪狩りの恒例だからいいそうなのです。でも死ぬのは困るのです。猪鍋を食べるまでが祭事ですので、一匹も狩れないのはもっと困るのです!」
「人を殺しそうなほど、猪たちは凶暴化しているのか」
「人間どもの伝承なんか知ったことか! 返り討ちにして生きてやるわ! ってことなのかなぁ」
 十二年に一度とはいえ、乱獲に猪たちはお怒りなのかもしれない。
 彼らにとって伝承とは所詮、人間が決めたおとぎ話にすぎないのだろう。
「というわけで、猪狩りに協力してほしいのです。でも猪を全滅させてはならないのです。一匹もいなくなると、十二年後の猪狩りができないかもしれないのです」
 それと、とユリーカは目を輝かせる。
「猪肉、ボクにも持ってきてほしいのです。食べたいのですー!」
 はいはい、と特異運命座標たちは現場に向かうことにした。

GMコメント

 はじめまして、あるいはお久しぶりです。あいきとうかと申します。
 あけましておめでとうございます。亥年ですね。

●目標
 凶暴化した猪を10体、討伐する。

●失敗条件
・村人が3人以上死亡
・目標を達成できない
 ひとつでもあてはまると失敗です。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はAです。
 想定外の事態は絶対に起こりません。

●ロケーション
 現場に到着するのは昼頃です。

 木々が乱立する山の中です。崖になっているところもあります。
 常緑樹が生い茂っているため、冬とはいえ枝葉があります。
 樹木はいずれも立派で、木の根が地表に現れていたりもします。
 日ごろめったに人の手が入らないため、雑草も伸び放題です。

●村人
 戦闘力はありませんが、筋力だけはあるので死亡した猪を運ぶことは可能です。
 繰り返しますが、戦闘力はありません。猟銃は撃ちますがほぼ外します。

 あちらこちらで猪たちと戦闘していますが、たいてい返り討ちにあいかけています。
 場合によっては瀕死になっている者もいます。

 村人は必ず二人一組で行動します。
 また、山はそれなりに広いですが、村人たちは村から大きく離れた場所(村から見て山の裏側にあたる場所など)までは移動しません。

●敵
 凶暴化した猪たち。体長2メートル。
 村人が弱いということに早々に気がついたため、村人を積極的に襲う。
 村人がいない場合は弱っている者から襲う。知性は高くない。
 味方を庇ったりもしない。

 嗅覚が非常に鋭く、巨体のわりに俊敏な動きをする。
 体力が高い。

『凶暴猪』×10
・猪突猛進:物遠単…なにかにぶつかるまで走る【飛】
・牙で裂く:物近単…鋭い牙で引き裂く。ただしこれができるのは雄猪(5体)のみ
・噛みつく:物至単…鋭い歯で噛みついてくる
・戦闘続行:物自単…根性で体力をわずかに回復する

●その他
 猪討伐が終わると村で猪鍋会が始まります。
 
 よろしくお願いします!

  • 十二年に一度の祭礼 完了
  • GM名あいきとうか
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2019年01月16日 21時25分
  • 参加人数 8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

善と悪を敷く 天鍵の 女王(p3p000665)
レジーナ・カームバンクル
ユーリエ・シュトラール(p3p001160)
愛の吸血鬼
ヨルムンガンド(p3p002370)
暴食の守護竜
酒々井 千歳(p3p006382)
行く先知らず
藤堂 夕(p3p006645)
圧倒的順応力
リペア・グラディウス(p3p006650)
暴食の剣
湖宝 卵丸(p3p006737)
湖賊
ジョージ・ジョンソン(p3p006892)
特異運命座標

リプレイ

●サーチ&ハンティング
 狩るべき猪の数は合計十体。その数以上の猪が生息しているが、他は相手にしなくていい。
「必要数の猪が集まったら、合図をしてもらえませんか?」
「分かったよ。村に残ってる全部の猟銃で、一斉に発砲すれば聞こえるね?」
 村長の妻が快く請け負った。
 その様子を思い出しながら、『圧倒的順応力』藤堂 夕(p3p006645)は『湖賊』湖宝 卵丸(p3p006737)とともに森の中を進む。
 耳を澄ませて歩む二人が、ほとんど同時に鳥の羽音を聞きとった。
「ピィ!」
 野鳥に見えるこの鳥は、夕が事前に放った使い魔の片割れだ。負傷している村人や、村人を襲う猪を発見したら教えるように、と命令を与えてある。
「あっちみたいだね……。行こう、夕!」
「はい!」
 最短距離で鳥を追うため、卵丸はジェットパックで眼前の低い崖を上がる。
 夕は手近に落ちていた木の棒を掴み、力をこめた。木の棒を媒体として発現した飛行能力により、ふわりと少女の身体が浮き上がる。
「だれかぁっ!」
「いました!」
「夕、村人さんたちの保護お願い!」
「はいっ」
 二人が登ってきたのとは逆側の岩壁に、上半身裸の男が二人、貼りついていた。
 登ろうとあがいているが、足元の岩壁に頭を打ちつけている巨大な猪に恐れるあまり、少し上がってはずるりと下がるのを繰り返している。
「こんなに怖いとか、聞いてねぇよぉ!」
 今にも泣き出しそうな村人二人は見るからにまだ若かった。今年初めて参加するのかもしれない。
 彼らを横目に、卵丸はためらいなく崖を飛び降りる。
「正義の海賊、卵丸惨状! さぁ、お前の相手は、卵丸たちだ!」
 実は海に行ったことはない、というのは秘密だ。
「ブモオ!」
「うわっ」
 鳴いた猪が卵丸に牙を突き刺そうと頭を振る。しかし猪の攻撃は外れ、岩肌を削った。
 助けがきたことに安堵していた村人たちが、また悲鳴を上げる。
「早くこちらに!」
「あ、ああ!」
 崖から身を乗り出した夕は、二人に手を差し出した。
 三人の姿を横目に確認しながら、卵丸は自らの敏捷性を向上させつつ、二本の得物を抜く。
「はぁぁっ!」
 裂帛の声をひとつ。鋭く踏みこんだ卵丸が巨大猪の皮を斬る。
「ブモオオ!」
「いっ、たい!」
「飛んで!」
 卵丸に噛みついた猪に、夕が召喚した刃が殺到した。彼女の側には、救出された村人二人の姿がある。
 不安そうな二人に、卵丸はにこりと微笑んだ。
「もう大丈夫だよ」
「ええ、あとは私たちに任せてください」
 次の攻撃の用意をしながら、崖から下りた夕も村人たちに大きく頷く。
「ブモォ……」
 バキン、と猪の足が猟銃を踏み折った。卵丸と夕は怯まず、狩りを始める。

「いたわ」
「ん……、聞こえた……」
 放っておいた『レジーナ・カームバンクル』善と悪を敷く 天鍵の 女王(p3p000665)の鳥型の使い魔が、村人の発見を旋回して報せる。
 同時に『暴食の剣』リペア・グラディウス(p3p006650)はその優れた聴力で人の声を聞きとった。
 正しくは、悲鳴だ。
「とっとと片づけましょう」
「ん……」
 レジーナの言葉に、リペアは無表情のまま、ぼんやりと首を縦に振った。
「うわぁぁっ」
 猟銃を手放し、猪に追い回されている村人二人を発見した直後、リペアが剣を抜く。
「じゃあ、グラトニー……。食事の時間だよ」
 小さく呟き、そのまま猪と村人二人の間に躍り出る。急停止しなかった猪の鼻先に強烈な一撃が叩きこまれた。
「ブモォ!」
 猪の前足が浮く。
「切り裂きなさい」
 レジーナの足元から浮かび上がった豪奢な長剣が射出される。猪が再び悲鳴を上げ、尻もちをついた村人たちはポカンとしていた。
「ぼんやりしてないで、こっちにきなさい!」
「巻きこむ……、から……」
 今回は人間を食べてはいけない、と言われているリペアが、少し残念そうにつけたす。
 猪に片腕を噛まれた彼女は、痛がる素振りもなく、魔剣の先を猪の目に突き刺そうとした。巨大な獣は素早く離れる。
「ひえぇっ」
 血を流しながらも戦意を失わない猪と、後ろにかばう者などいないかのように暴れるリペア、再び武器を飛ばすレジーナに情けない声を上げながら、村人たちは這うように動き出した。
「すぐに終わらせるわ。おとなしくしていなさい」
「あっ、倒した猪は私のだからね! 横取りしたら怒っちゃうから」
「猪鍋にしてみんなでたくさん食べるって、説明したでしょう」
「食べる……」
 村人であろうと殺しかねなかったリペアが、無表情の中にかすかな幸福感と狂気を覗かせる。
「魂まで、食べるね……」
「ブモォ!」
 唇を舐めたリペアの一撃をかわし、猪が離れた位置まで駆けた。
 反転。リペアに向かって突進してくる。
「……っ」
「リペア!」
 回避しきれなかったリペアが吹き飛ばされた。空中で体をひねったリペアは着地し、木の幹に背中がつく前に土を削りながら停止する。
「ん……、平気……」
 ゆらりと立ち上がったリペアが疾駆。傷だらけの猪を斬る。
 小さく安堵しながら、レジーナはリペアがつけた傷に重なるよう、狙いを定めて召喚した武器を射出した。

 茶色だった髪が銀に代わり、毛先がほのかに赤く染まる。腰から吸血鬼の羽を生やした『愛の吸血鬼』ユーリエ・シュトラール(p3p001160)は、さらに蝙蝠を一匹、召喚して、監視役を命じた。
「行きましょう、酒々井さん」
「そうだね」
 隣で変貌を遂げた小柄な少女に頷き、『行く先知らず』酒々井 千歳(p3p006382)は耳を澄ませながら歩き出す。
 仲間たちの声、戦闘音。木々のざわめき。
 悲鳴。
「いた」
「キィ!」
 保護結界を張りつつ、足元の葉や小枝を散らし、細い帰り道を作りながら歩いていたユーリエの頭上で蝙蝠が鳴いた。使い魔は音源に向かって羽ばたいていく。
 助けを求める声を聴いた千歳は頷き、方向はあっていると示す。
「私が猪を引きつけますっ」
「村人の保護は任せて」
 邪魔な枝葉を掻き分けて進むと、太い木の幹にしがみついている二人の村人と、木に体をぶつけている猪が見えた。
「今、助けます!」
 ユーリエが生成した暗い霧が、上半身裸の男二人を落とすか木を倒そうとしていた猪を包む。
「ブモォォ!」
 強迫観念を植えつけられた猪がユーリエに向かって突進した。少女は横に跳び、それを回避する。
「なかなか苦労されているみたいですね。これ以上は危険です、あとは俺たちに任せて」
「助かった……」
「怪我はありませんか?」
「ああ、銃は壊されたけどな……」
 弱り切った表情の男たちが、慎重に木から下りた。千歳は二人を背に庇う形で、剣を抜く。
「お二人は安全な場所にいてください!」
 ユーリエが持つ妖刀が赤黒い妖気をまとう。斬りつけられた猪は、傷口の深さのわりに多く血を流していた。
「ブモオ!」
「ハッ!」
 痛みに暴れる猪に接近した千歳が一閃。頭を振った猪の牙が、ユーリエに直撃する。
「シュトラールさん……!」
「大丈夫です」
 痛みを堪えてユーリエはさらに斬りこむ。妖気をまとった刀身は猪の血を吸い上げ、ユーリエの力に変換した。痛みが和らぐ。
「早く終わらせよう」
「はい!」
 噛みついてきた猪をかわし、ユーリエは妖刀を振るう。深く踏みこんだ千歳が、半回転して攻撃しようとした猪の鼻先を縦に深く斬った。
「ブモオオ!」
 怒気に満ちた絶叫を聞きながら、千歳は超聴力を活用して周囲の音を拾うことも忘れない。
 今のところ、他の村人の悲鳴は聞こえてこない。背後の二人は猪肉を持ち帰りたいのか、その場から動いていない。
「猪を持ち帰るときは、私たちが通ってきた道を使っていただきましょう」
「そうだね」
 視線を交わらせて頷きあい、二人は猪に刃を向けた。

 簡易的に山の神に祈りを捧げ、『聡慧のラピスラズリ』ヨルムンガンド(p3p002370)と彼女に倣った『特異運命座標』ジョージ・ジョンソン(p3p006892)は森に入る。
 途中、通りすがりの野犬に協力を頼んだヨルムンガンドは、その首にメモ書きを紐に通したものを結んだ。
「人を見つけたらこれを見せて、吼えてくれ。頼んだぞ」
「村の方々、狼煙を上げてくれていますね」
 目の上に手で庇を作り、常緑樹の枝葉に見え隠れする赤色の煙をジョージは確認する。
「ああ、これで助けられた者たちが迷子になることもないだろう」
 野犬を見送ったヨルムンガンドもそれを視認した。さらに、十体の猪が村に届けば猟銃が撃ち鳴らされる手はずになっている。
「よし。私たちも行こう」
「はい!」
 しばらく進んだところで、助けを呼ぶ声を聞きとったジョージがはっと顔を上げた。
「ヨルムンガンドさん、反応です。前方から……、近づいてきます!」
「見えた!」
「ああああっ!」
 必死の形相で上半身裸の男二人が駆けてくる。ひとりは小脇に野犬を抱えていた。
 疾駆したヨルムンガンドは、二人とすれ違う形で突っこんでくる猪の前に立つ。
「ぐ……っ!」
 突撃され、吹き飛ばされそうになったがどうにか堪えた。
「暴食の竜が、古の盟約に基づき、君の命を頂戴する……!」
「ブモオオ!」
 秘められた竜の力を開放し、ヨルムンガンドは猪に夜色の炎を吹きかける。
「もう大丈夫ですよ」
 つんのめるように立ちどまろうとして、結局転んだ村人たちにジョージは優しく声をかけた。村人は慌てたように野犬を差し出す。
「ローレットの助っ人さんだよな? この犬、俺と猪の間に入ってくれて、怪我して」
「死んでねぇよな!?」
「大丈夫です。……お二人はご無事のようですね。よかった」
 回復効果のある薬を用い、ジョージは首にヨルムンガンドの伝言をつけた野犬の傷を回復する。
「安全なところにいてください」
「猪の運搬だよな、手伝うぜ!」
「任せてくれ!」
「よろしくお願いします」
 木陰に退避した二人と村人に抱かれて眠っている野犬に微笑み、ジョージはヨルムンガンドに視線を移す。
「こちらは大丈夫です、ヨルムンガンドさん」
「ヨルでいい、ぞぉっ!」
 噛みつきをかわし、さらに相手の力を利用して、おのれの膂力も加えてカウンターを放つ。鼻先を殴られた猪が体を痺れさせた。
「ブモオ!」
 夜色の炎に身を苛まれながら、猪が大音声を放つ。
「争いごとは……、好きではないですが」
 仕方ない、とジョージは呪符に力を注いだ。

 一体目を倒し、二体目も倒し、次に見つけたのは二体の巨大猪だった。
「逃げてたら合流しちまって!」
 と混乱しながらも口々に説明する村人六名を背に庇い、ユーリエと千歳は剣を構える。
「みなさんは安全なところで隠れていてください!」
 暗黒を使用したユーリエに二体の猪が目を向ける。
「連戦か……」
 自身とユーリエの状況を考え、千歳はわずかに眉根を寄せた。
 二人ともすでに消耗しているのだ。しかし、負けるわけにも退くわけにもいかない。
「はぁっ!」
 意を決したユーリエが一体の猪に斬りかかる。千歳は彼女がつけた傷をさらに広げることを狙い、剣を振るった。
「ブモオ!」
「く……っ!」
「この……!」
 一体の猪が牙を振り上げ、もう一体がユーリエに噛みつく。膝をついたユーリエに追撃しようとしていた一体に、千歳が刃を振り下ろす。
 荒い呼吸を繰り返しながらも、ユーリエが立ち上がった。
「みなさんには……手を、出させません……」
 初めての猪鍋だ、絶対に食べたい、というのも、もちろんあるが。
 みんなの笑顔を願う少女は、力強く猪たちを見据える。千歳も一息で焦燥を落ち着かせ、傷が深い方の猪に斬りかかろうとした。
 そこに。
「卵丸、参上!」
「みなさんご無事で……ないですね!」
 背の高い草を蹴り倒す勢いで現れた卵丸と、その後ろから走ってきた夕がそれぞれ状況を素早く認識する。夕は深手を負っているユーリエにハイ・ヒールをかけた。
「お二人とも……!」
「加勢します!」
「こっちは任せて。そら! 卵丸様が相手をしてやるぞ!」
 卵丸も夕も連戦に加え足場の悪い森を歩き回ったため、決して無傷というわけではない。
 それでも、十分に心強い援軍だった。
「勝って、猪鍋を食べましょう」
「そうだね」
 決して油断しているわけではないが、心にできたわずかなゆとりがユーリエと千歳の口許にかすかな笑みを刻ませる。
「卵丸は別に! 猪鍋に釣られてきたわけじゃないからなっ!」
「湖宝さんも食べますよね?」
「食べるけど!」
 引きつけた一体の猪による噛みつきをかわし、卵丸は夕の問いに応じた。
「全員で猪鍋、ですよ!」
 SDVによる攻撃と自己回復を行うユーリエの言葉に、村人たちが歓声を上げる。
 危ないからちょっと静かにしていてほしいかな、と思いつつ、千歳はその声に力を貰ったような気がした。
「もうひと頑張り、だよ」
「ブモォ!」
 千歳が放った鋭い一撃に猪が倒れる。キィ、とユーリエの頭上で蝙蝠が鳴く。
「もう一体、きます!」

「ヨルムンガンドさん!」
 ふらついたヨルムンガンドは、悲鳴じみたジョージの声にどうにか踏みとどまった。
 三体目と遭遇して、横手から四体目に襲撃されたのがつい先ほどのことだ。四人の村人がジョージの後ろで心配そうに戦いを見守っている。
「大丈夫、だぁ……っ!」
 眼前には夜空に似た炎に包まれた巨大猪二体。苦戦中だが負ける気がしないのは、ヨルムンガンドがジョージの医術の腕を信じているためだ。
 それに、彼は必ず、村人のことを守ってくれる。
「く……っ」
 瀕死のヨルムンガンドに、ジョージはSPDによる回復を行う。ただでさえ心配性だというのに、目の前で仲間が傷つくことで、ジョージの胸の痛みは加速度的に増していた。
「ブモォ!」
「ぐ、うぅっ!」
 牙による攻撃を受けながらも、ヨルムンガンドは的確にブロッキングバッシュを叩きこむ。
 あることに気づいたジョージはとっさに彼女の名を呼んだ。
「ヨルさん!」
「おぉっ!?」
 頑ななほど丁寧にヨルムンガンドさんと口にしていたジョージの声に、夜竜の目が輝く。
「なんだぁ?」
「伏せてください!」
 ぼろぼろながらも上機嫌で応じたヨルムンガンドが反応するより早く、少し離れた位置から飛来したシンプルな長槍が、手傷を負っている猪の背に突き刺さった。
「ブモォ!」
「な……っ」
「……見つけた……」
 躍り出たビキニアーマー姿の女性、リペアが、さらに猪を斬る。
「全員、生きてるかしら?」
「レジーナ、リペア!」
 ヨルムンガンドに頷きで応じ、レジーナはジョージの隣に並ぶ。
「一応言っておくけど、あてる気はなかったのよ」
「はい。助太刀、ありがとうございます」
 分かっているとジョージが微笑み、レジーナは口の端を上げた。先ほどは豪速で迫る物体に驚き、思わず回避を促したのだ。
 仲間の武器だと判明した今、標的についての疑問など抱かない。
「回復、まだいけるかしら?」
「どうにか」
 底をつきそうだが、持ちこたえて見せる。
 覚悟をこめた応答にレジーナは満足そうに首を縦に振り、新たに大ぶりの剣を召喚した。
「ところで嫌な話だけれど!」
「なんだ!」
 ヨルムンガンドが痺れさせた猪に、すかさずリペアが斬りかかる。
「うーん、美味」
 倒れた猪の不可視の部分、すなわち魂をさり気なく食べながら、リペアは視線で続きを促した。
「もう一体、近いところにいるわ」
「村人もいます、追われているようです!」
 空を飛ぶ使い魔からの情報をレジーナが告げ、人助けセンサーに触れた救援要請をジョージが報告する。
「大変だなぁ……!」
「ふふ……」

 悪戦苦闘の果てにイレギュラーズが猪を狩り、次を探して歩き始めたころ。
 村から激しい銃声が聞こえ、狼煙がふっと掻き消えた。
 十分な数の猪が揃い、村人も全員、村に帰ってきたという合図だ。

●十二年に一度の祭礼
 イレギュラーズが帰ると、村の喧騒が一度静まり、弾けるように大きくなった。
 村人たちに歓迎されながら、それぞれ食器や飲み物を押しつけるように渡されたり、遠慮なく肩を叩かれて称えられたりする。
「先に届いた猪から順に料理したからね、あっちの鍋は食べられるよ」
「たんとお食べ!」
「助けてくれてありがとなぁ!」
 五つ並んだ寸胴のひとつに、さっそく向かったのはリペアだった。器に盛れるだけ盛ってもらい、食べ始める。
「私は暴食。もっとちょうだい」
 鍋ひとつあけてしまいそうなほど、すさまじい勢いだった。
「実はけっこう、楽しみにしていたんですよ」
「私もです。猪鍋、初めてなので!」
 村人や仲間たちの治療に回っていたジョージと夕も、できている鍋に近づいていく。
「私も初めてで……。おいしいですね!」
「ああ、おいしいなぁ……!」
 ユーリエは舌鼓を打ち、ヨルムンガンドも食材になった猪や守り神に感謝を捧げながら、おいしい肉を頬張った。
「十二年分の感謝と、今生きているという幸せに乾杯、かしらね」
「卵丸たちはお酒禁止だよ」
「えー、そんなぁ」
 猪たちは通常、山を下りてこないらしいが、今年は凶暴化している以上、例外があるかもしれないということで、イレギュラーズはジュースだ。
 残念そうに眉尻を下げたレジーナだったが、猪鍋のおいしさに表情はすぐ戻った。
「肉も野菜も新鮮ですごく美味しいね……。あっ、ユリーカの分、残って、ない」
 どんどんさばかれ、鍋に放りこまれていく猪肉を見て卵丸がしまったという顔をする。
「少しでも残っていないか、聞いてみるよ」
 肩を竦めた千歳は慣れた手つきで猪を解体する主婦らしき集団に近づく。途中、リーダー格の男を見つけ、そういえば、と思い出した。
「あの」
「おう、さっきはありがとなぁ!」
「いえ、ご無事でよかったです。ですが、次にお祭りをするときはなにかしらの技術を身につけないと、危ないですよ」
「だなぁ、今までは鍛えてりゃいけたんだがなぁ」
 力こぶを作ったリーダーが酒臭いため息を吐く。
「それはそれとして、おいしい猪肉、ごちそうさまです」
「腹いっぱい、食って行けよ!」
 今後の課題など忘れたように、男はばしばしと千歳の背を叩いた。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

お疲れさまでした。

十二年に一度の祭礼は無事に執り行われ、おいしそうなにおいと賑やかな笑い声が村を満たしました。
次はまた、十二年後。
それまで村人たちは山の神への感謝を忘れず、日々を慎ましく過ごすことでしょう。

寒い冬はまだ続きます。
おいしくて温かな料理をたくさん食べて乗り切ってください。
ご参加ありがとうございました!

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