PandoraPartyProject

シナリオ詳細

血涙パノプリア

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


「必ず戻ってくるから」
 彼は、そう言って私に庭で咲き誇るデンドロビウムを手折り、髪に飾ってくれた。
「ねえ、よりにもよってデンドロビウム? 花言葉は『わがままな美人』なのよ? 早くかえってきてっていうの、私わがまま言ってる?」
「美人は否定しないんだ?」
「当たり前でしょ!」
 スカートを翻しながら、くるりと廻ってみせると、彼はそんな私を抱きしめた。
「ちょっと……!」
 突然の大胆な行動に頬が染まり、顔が熱くなる。動悸が激しくなる。
「鎧のまま抱きしめないでよ、痛い」
 鎧越しに私のこの心臓の高鳴りは察知されてはいないだろうか? 照れ隠しに文句を言ってみる。
「ごめん! 悪い! あのさ、帰ってきたら……いや、うん、これは帰ってきてから言うべきだ」
「なによ、言いたいことがあるならいっておきなさいよ」
「じゃあ、行ってくる。必ず、帰ってくるから」
「もう、なによ! ばーか! 早く帰ってこないと、大変なことになるかもしれないわよ」
 そういって、私もまた彼のようにデンドロビウムを手折り、彼のカバンに飾る。私が一番大好きな花。私の代わりに彼を守ってくれますようにと。
 私は、怪物退治に向かう彼に大きく手を振って送り出す。風がびゅうと吹いて、髪に飾られた黄色のデンドロビウムが花びらを散らせながら冬の白く高い空に舞い上がった。
 神様、お願いします。私は両手を組み何処かにいる神様に祈る。彼が無事に帰ってきますように。

 ――その願い果敢なく、季節が一巡りしても彼が帰ってくることはなかった。
 窓の外のデンドロビウムは冬の風をうけ、花びらを高い空へ巻き上げていく。
 

「というわけで、今日も依頼なのですよー!」
 『新米情報屋』ユリーカ・ユリカ(p3n000003)が元気な声で、手持ちのメモ帳をペラペラと捲りながら、ローレットに舞い込んだ依頼を読み上げる。
「鎧の化物がでるらしいです。がっしゃがっしゃ!」
 両手をわきわきとさせながら怖い顔をしているつもりなのだろうが、迫力というものは存在していなかった。
「情報筋では、鎧は血の涙を流しながら歩いているようです。なんらかの未練があるんでしょうかねぇ? 目的地はあるみたいで、まっすぐに向かっていく場所はわかっているのです。それだけなら良いんですけど、その血の涙につられたのか、多くの悪霊を引き連れてがっしゃがっしゃと歩いてきてまして……被害者も、出ているようです」
 これ以上鎧が被害者を出さないように、退治をしてほしいという、ごくごく単純な依頼だ。
「なんだかその鎧さんにも事情はあるような雰囲気ですけどねー。今から村にむかってもらえば、鎧さんを村の前で向かえ撃つことは可能なのです! みなさんよろしくなのです!」


『■■■――っ! 俺は、お前のことが――……』
 ぽたり、ぽたりと血の涙が石畳の街道に落ちていく。その涙に誘われるように亡霊たちがさながら百鬼夜行のように連なっていく。
『伝える、前に、死ねない――……』
 結論を言おう。魔物退治に向かった青年はその道程で死亡した。未練を残したまま、心残りのあるままに。
 故に彼は黄泉帰ってしまった。愛する少女に思いを伝えたいと。
 願いは妄執に変わり、祈りは呪いに変わった。
 ――鎧は歩く。彼女の元に。――鎧は向かう。故郷の街に。
 だが、死人返りの鎧は既に悪しきものに変わり果てている。吠えた野犬はグシャリと、潰した。叫ぶ人間は剣で貫いた。その見知らぬ誰かはついて来る亡霊の仲間入りをしているだろう。
『まっていてくれ、■■■、約束を、果たそう』
 鎧の手には、枯れてしまった花が握られていた。

GMコメント

 お世話になっています。鉄瓶ぬめぬめです。
 約束はとこしえに。
 ちなみにガーベラテトラすきです。紅くてかっこいいですよね!
 それはともかくとして、鎧のアンデットの退治をお願いします。
 心情よりの戦闘依頼になります。

 ・成功条件
 鎧の撃破と亡霊の撃破

 ・概要
 鎧は目的地に向かって歩いています。
 ご察しの通り、彼女のいる故郷の、彼女の家です。
 皆様は鎧がくるまでに村にはつけますので、彼の故郷で聞き込み捜査ができますし、もちろんせずに迎え撃っていただいても構いません。
 鎧は、現在妄執だけで動いています。亡霊がつきまとっているのも気づいていません。悪気なく故郷につれてきちゃいました。
 村に達したら、鎧と亡霊は暴れて甚大な被害が出るでしょう。
 ですが、なんらかの方法で、彼に正気を取り戻すことが成功したら、一時的に心を取り戻して、亡霊退治も手伝ってくれるでしょう。
 (その場合も最終的には鎧の撃破は必要です)
 彼女については、聞き込みをすればすぐに判明します。彼女の家にはデンドロビウムの花が植えてあります。
 彼女を戦場に連れて行く場合は相応のリスクが発生します。亡霊は鎧の無意識の執念によって、彼女を優先的に狙います。
 一般人ですのでダメージを少しでも負うと死んでしまいます。その場合でも鎧と亡霊を撃破すれば、成功判定になりますが、あまり後味はよくないかもしれません。


・敵さん 

 鎧
 動く鎧です。がっしゃがっしゃ。
 攻撃方法は範囲に及ぶ回転斬り、レンジ3まで貫く一撃、打ち下ろす単体攻撃。
 結構硬い目です。

 亡霊 × 10
 おばけ。ひゅーどろどろろ。鎧の周囲を漂っています。
 攻撃方法は行動不能を起こす単体取り付き。遠距離単体の恨みの魔弾。
 自分を犠牲にして鎧の体力を大きく回復させる回復手段

・ロケーション
 広さ、明るさ、足場の問題はありません。

 以上みなさんの素敵なプレイングをお待ちしています。

  • 血涙パノプリア完了
  • GM名鉄瓶ぬめぬめ
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2018年02月13日 21時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

クラリーチェ・カヴァッツァ(p3p000236)
安寧を願う者
クー=リトルリトル(p3p000927)
ルージュ・アルダンの勇気
ノイエ・シルフェストーク(p3p001207)
駆けだし治癒士
楔 アカツキ(p3p001209)
踏み出す一歩
祈祷 琴音(p3p001363)
特異運命座標
クィニー・ザルファー(p3p001779)
QZ
メルナ(p3p002292)
太陽は墜ちた
グリムペイン・ダカタール(p3p002887)
わるいおおかみさん

リプレイ


 かみさまが、もしこの世界におわしますならば――。
 
 『ねこだまりシスター』クラリーチェ・カヴァッツァ(p3p000236) は思う。シスターでありながら、神の証明を問うなどなんと不遜なことかと。事実本当に神を信じているものはどれほどいるのだろうか。それでも人は祈るのだ。いるのか定かではないかみにさいわいを。

「ごめんなぁ、ちょっと体調わるぅなって。お水を一杯いただけへんやろうか?」
 人好きのする笑顔でもって、『ルージュ・アルダンの勇気』クー=リトルリトル(p3p000927) は庭に黄色いデンドロビウムが咲く家のドアを叩く。

 一行は村にたどり着くと、村長の家に向かい、聞き込みをはじめた。ユリーカの言っていた『事情』を聞くためにだ。そもそもにおいて、この依頼は目的地と推測される村からの依頼だ。彼らは快く迎えられ村の代表と話をすることができた。
 『特異運命座標』楔 アカツキ(p3p001209) がローレットから派遣された者であることを伝え、聞き込み捜査の許諾を求めればすぐに快諾され、件の彼女の情報も難なく手に入れることもできた。いわく、鎧の正体は予想はできるが、彼女には伝えていないとの返答であった。
 警備のもの以外の自宅待機については快く受け入れられた。アカツキが警備の手伝いを進言すれば、大歓迎で迎えられ、もの見台の使用もすぐに許可された。
「何を思い、何をなそうとするのか……死して尽きることのない執念か……」
「死んだからこそ、なんだろうさ」
 おそらく鎧が来るであろう方角を物見台で油断なく見つめながらアカツキが呟けば、一通り村を回り、彼女の噂を『識り』裏付けをとってきた『わるいおおかみさん』グリムペイン・ダカタール(p3p002887) がそれに答える。
「裏付けはとってきたよ。鎧の男はあのお嬢さん――セシルの恋人のアラドってことだな。彼女と結婚する前に、男として錦を飾りたかったんだろうな。まるで桃太郎の凱旋譚のように。けなげなお姫様は桃太郎の帰りを待ってたのに、当の桃太郎は犬も殺して、人も殺して帰ってくる。――それはもはや、鬼だよ」
 同じ方向をさみし気な瞳で見つめるグリムペインをアカツキは一瞥し、鬼か、と呟いた。
「主人公が脚光を浴びるのは物語の常ではあるが……その裏側で失った命もまた尊いものであるのだけどね」

「そうそう、私たちが何とかするからあなたたちはまかせてくれたらいいわよぅ」
 『とにかく酒が飲みたい』祈祷 琴音(p3p001363) は酒場で男たちとエールを酌み交わしながら、任せなさいと胸を張ればヒューッっと口笛が吹かれる。その中には少々助平な揶揄の声や視線も混じっているが琴音は意にも介さない。
「あんたらの邪魔はしないよ。何か手伝うことがあればいっとくれ。この村で戦えるのはアイツくらいだったからな。情けないっちゃそのとおりなんだけどなあ」
「適材適所よぅ。成功したら、あそこにおいてあるのとっときのお酒でしょ? あれをおごって頂戴」
「ははっ、目ざといなあ。うちの酒場でも最高級なんだぜ? わかった、約束するよ」

「そうなのね。そんな怖いのがこの村に向かっているのね」
 彼女――セシルの家に向かった、クーと『見習い治癒士』ノイエ・シルフェストーク(p3p001207)、クラリーチェは結論から言うと、快く迎えられ、果実を絞ったジュースをふるまわれた。鎧の男が彼女の恋人であることを明かさないように、彼女らは世間話を装い聞き込みを始め、ノイエは彼女の一挙一動を見逃さないように見つめる。
 クラリーチェが、デンドロビウムを一枝欲しいといえば、それもまた快諾し「一番きれいに咲いているところよ。私の一番大好きな花なの。大切にしてね」と手折った花を渡された。
 セシルは彼女らにに問われた恋人の話をする。幸せそうに語りつつも帰らぬ恋人に心を痛めているその様子にクーは思う。
(愛も恋もまだうちは知らんけど……恋っていうものはあない熱ぅて、苦しいもんなんやな)
 きっと自分はセシルの想いの半分も理解してはいないのだろう。でも心にちくちくする感じは理解ができる。
「あの、私たちはいろいろな土地で、活動しています。だから、もしかするといつか恋人さんに出会えるかもしれません。その時にあなたの言葉を伝えますよ」
 ノイエが提案すればセシルは嬉しそうに答える。
「ありがとう、親切な旅人さん。じゃあ、伝言をお願いするわ。えっとね――」


 『QZ』クィニー・ザルファー(p3p001779)、 『兄の影を纏う者』メルナ(p3p002292)は村人たちからセシルとアラドに関する聞き込みを終え、合流して情報交換をしているところに、クーとノイエ、クラリーチェもまた合流する。
 ノイエは「私が嘘つきになります」と、セシルの姿に変装することを提案する。確かに観察した甲斐もあり、演技力も相まってある程度似てはいるが、あくまでも変装というスキルは自分を自分だと気づかせないように偽装するというスキルであって、自分が他人そっくりに偽装するスキルではない。知るものがみれば違うということはすぐに看破できることだろう。それに、よしんば偽装できたとしても亡霊からの集中攻撃を受けてしまえば、危険極まりないという理由で変装は見送ることになった。
「……本当は鎧を――アラドさんを倒す前に一目でもセシルさんの姿をみせてあげたかったのですが……」
「ノイエちゃんは優しい子なんだね。だけど、ごめんね」
 沈むノイエの背をクィニーが叩けばノイエははい、と返事した。クィニーだって同じ気持ちだった。だからこそわかる。ノイエの気持ちが。


 カーン、カーン、カーンと物見台の警報音が村に響く。グリムペインとアカツキが鎧を発見した合図だ。
 メルナはその戦闘の予感にびくりと体を震わす。
(大丈夫、大丈夫だから。怖くない。きっと、前回よりも上手くやれる……やってみせる……!)
 月は太陽に憧れる。中天に輝く光にならんと。メルナの恐怖心が薄まっていく。そうだ。やれるはずだ。
 彼女らは打ち合わせておいた、迎撃ポイントに向かう。その道中ですれ違った村人には自宅待機を指示すれば、頑張ってと声がかかった。

 ぽたりぽたりと血涙を流しながら亡霊を連れた鎧が、ゆっくりと村に向かってくる。重く澱んだ亡霊の声なき声が周囲の空気を重くしている。
「主人公のお出ましだ。しかして我らは何者か」
 願わくばヒーローでありたいものだがとグリムペインは思う。
「被害をだした時点でただの害のある化物よぉ。こいつに殺された者のほうがよっぽど哀れだわぁ」
 琴音が吐き捨てるように言う。さっさと終わらせてお酒のみたいわぁ……と呟く声は艶っぽい。
(私にも恋人はいる、気持ちは解る。この鎧を責めることはできない)
「QZさん、よろしいですか?」
 思索にふけるクィニーにクラリーチェが声をかける。
「うん、よろしくね。クラリーチェちゃん。ーーさっさと終わらせようか」
 クラリーチェの言葉をきっかけに連携力を高めたクィニーはいつもの前口上を述べる。だがその声にいつもの覇気はない。迷っているのだ。もし、目の前の鎧が恋人であれば、私は戦えるのだろうか? よぎる思いを振り切り、それでも、今は……この悲劇を私たちの手で終わらせないと、と思いなおし、鎧をマークせんがために、防御重視の構えに切り替え前にでる。
「貴方には、会いたい人がいたはず。その方のお名前を、覚えていますか? 自分の名前を、覚えていますか? その花は、誰のためのものですか?」
 クラリーチェは問いかける。――知らないまま終わることが鎧にとっては幸せなのかもしれない。それでも、あえて苦しい道を選んだ仲間たちのために――問いかけながら空気中の神秘を集め融和していき、手前にいる亡霊に対して魔力を炸裂させれば、その余韻を切り裂くように飛び出したアカツキの蹴撃が亡霊を切り裂く。
「貴様はただ生にしがみつき、ここまで着たのか? 違うだろう……!!」
 守り人は叫ぶ。
「例え自分を失っても果たすべき事があるからこそ、帰ってきたのでは無いのか!?」
「あ、あ、あ、■■■――」
 その叫びに呼応するように鎧が剣を振り上げ、マークするクィニーごとアカツキに向かい衝撃波を放つ。
「ぐっ……!」
 アカツキの周囲の亡霊もまたその衝撃波に巻き込まれダメージをうけ、声なき声が響く。
「あらん、敵味方関係なしってことねぇ。ますます化け物だわぁ」
 如才なく琴音はダメージを受けていた個体に肉薄し、斧を振り抜けばその存在が薄まり、波状的にメルナも飛びこみ至近距離から剣を突き刺せば断末魔の響きをあげ消滅した。
「ごめんね、帰らせてあげることはできない。だけど私たちにできることはあるはずだから……! お願い! 心を取り戻して!」
「癒しの力よ!」
 傷ついたアカツキをノイエが癒し、クーが宝珠から魔弾を打ち出す。
 マークを抜けた亡霊がノイエを狙い足元から螺旋を描き、彼女を呪縛した。
「キャッ!」
「おっと、そうはいかせないよ、青き小鳥は手の中に。真実は見えずともそこにある!」
 グリムペインの衝撃の青が亡霊を吹き飛ばし、ノイエが開放される。
「あ、ありがとうございます!」

「貴方がセシルさんに渡したいのは、その剣ではなくその手に持った花でしょう! このまま貴方が彼女に会いに行けば、彼女は貴方の愛を感じる間もなく死んでしまう! 少なくとも貴方の周りの亡霊が彼女を殺してしまう、そんなのいやでしょう! アラドさん!」
 至近距離でクィニーが絞り出すような声で、恋人たちの名を呼ぶ。
「せ、セシ……■」
 鎧の動きがそれに反応して鈍くなる。
「そうです、思い出してください。あなたの愛する人の名前を。あなたの幸せの記憶を……!」
 クラリーチェが花を掲げれば、それを狙うように亡霊が呪いの魔弾で撃ち落とす。黄色の花びらが、空に舞い上がり青い空に吸い込まれる、どこかでみた光景に鎧の動きが止まる。
 それをみたクーは、攻撃をやめると記憶に焼き付けた、彼の懐かしい故郷と、デンドロビウムの花畑を投影した。たった60秒のその光景が齎すものが何かはわからない。それでも、もう戻れない故郷を見せてあげたかったのだ。
 亡霊の魔弾がクーのほほをかすめ、ほほが痛むが、強く強く記憶した光景を思う。
「お願いや、思い出してぇな!」
「セシル……セシル……俺は……そうだ、俺は彼女に会いたい」
 鎧の攻撃の手が止まった。
「そうや、セシルさんや! あの人もあんたが早く帰ってきて欲しい、いうてた! 内緒やけど愛してるっていうてた!」
 だけど、だけどだけど、それはかなえることはできない願いだ。クーは唇を噛み締める。
「ねぇ、戻ってよ……あの人の待つ貴方に戻って……! せめて……最後の言葉くらい、伝えさせてよ!!」
 メルナもまた、亡霊の呪いの弾丸をその身に受けながら、声の限りに叫ぶ。
「例え自分を失っても果たすべき事があるからこそ、帰ってきたのだろう……。ならば思い出せ」
「そうだ……俺は戦いのさなか、命を落とした。セシルに、結婚してほしいと伝えることは、できないと絶望したとき……あの嘘つきの道化師に唆されて……そして、故郷への道を歩いていた」
 アカツキの言葉を聞いた鎧は手に持った剣を取り落とし、断片化され引き裂かれた記憶を取り戻していく。
「残念ながらあなたはもう死んでいるのよぅ。この亡霊もあなたの仕業でしょう?」
 琴音はただ、淡々と亡霊を屠り、消滅させていきながらもうどうすることもできない事実を指摘する。
「そうか……これは俺の無念が拾い上げた残り滓なんだな。迷惑をかけた」
 言って取り落とした剣を拾い上げると、鎧は残る亡霊を切り捨てる。
「話が早いと助かるよ。まずは亡霊を片付けたいのだが、手伝ってくれるかい?」
 グリムペインが問いかければ鎧は「承知」と短い返事を返して、己を取り囲む亡霊に向かう。
 鎧の助力もあり、声なき怨嗟の声を上げる亡霊は、一体、また一体と数を減らしていった。
「なあ、やはり俺はセシルにはもう会えないのだろうか?」
 亡霊を倒し終えた一行に向かい鎧は未練を告げる。
「ごめんなさい。その代わり、あなたの言葉は必ず彼女に届けるから……あなたたちの大切な花に誓って」
 鎧は自分の手に持っていた枯れたデンドロビウムを今思い出したかのように見つめる。
「かならず、つたえるから。アラド、あなたの心を教えて」
 せめてもと、ノイエはセシルの口調をまねて鎧に呼びかけ手を伸ばす。
「ああ、セシルはいつだってそんな風に話していた」
 おりしもセシルとノイエの髪の色は同じだ。鎧はノイエを通じてセシルを見ているのだろう。まるで宝物に触るかのように、懐かしがるかのように優しく、伸ばされたノイエの手に指先を触れさせた。
「そもそも、死んだ人間がメッセージを残すことができるだけでも奇跡なのだろうな。ありがとう、旅の人たち。セシルに愛していた。君は幸せになってくれと伝えてほしい」
「それだけでよろしいのですか?」
 クラリーチェが尋ねる。
「ああ、それ以上を求めることはできないさ。俺はもう死んでいる。過去の残滓だ。」
「あなたの魂が、安らかな場所へたどり着けるよう。いつか時が巡り、貴方の想い人に再び会えるよう」
 鎧は既に生命の円環から外れている。もう、愛しい人と歩む未来はない。だからこそ願う。新しい生命として、再び紡がれる運命が彼女とまた交わらんことを。
 おくりびとは祈る。もしも、神がいるならば。
 ノイエは触れられた手を握り返した。
「あなたの想い確かに受け取ったわ。とても、頑張ったのね、もう疲れたでしょう? ゆっくり休んでね……」
「ああ、お嬢さんありがとう。最後にセシルに会えたような気がして嬉しかったよ」
 がしゃり、がしゃりと鎧は足元から崩れ去っていく。
「介錯はひつようか?」アカツキの目がそれを告げれば、鎧は頷く。アカツキの鉄甲から繰り出す一撃が鎧の胴体を貫くと、そのまま鎧は粒子に戻り風に溶けた。
「あっ!」
 クィニーは慌てて、その手から落ちた枯れたデンドロビウムの花を拾い上げると大切に胸元に抱く。
「クィニーさん、よろしいですか?」
 クラリーチェはこれ以上壊さぬようにと、花をエンバーミングした。既に枯れて乾燥しているそれに必要はなかったがそれでもたった今こぼれ落ちた鎧の思いをセシルに届けんがためにと思ったのだ。
「早くかえりましょうよぅ」
 琴音が一同を急かす。今はいち早く約束のお酒が飲みたかった。
「っ……大丈夫……痛くない、怖くない……大丈夫……………伝えに、行かなきゃ。あの女性に……鎧さんの事を、全部。あの人には、知る権利があるんだ」
 戦闘が終わり、太陽は月に戻る。戦いにたいする恐怖がメルナに一気に襲い掛かる。それでもやらなくてはいけないことがある。それまでは恐怖に屈するわけにはいかない。
「自分の居ない場所で、自分の知らない内に、自分の大切な人が死ぬのは、とても……とても辛いって、知ってるけど何も知らないよりは……きっとマシなはずだから」
 想うのは兄の影。分たれる恐怖は知っている。私は今から残酷なことをするのだろう。知らないほうが幸せかもしれない。だがメルナはそうではなかった。知らないなんて、知らないことなんて、嫌だ。だから、だから……。
 

 クィニーとメルナ、ノイエ、クラリーチェの4人は真実と鎧の言葉を告げ、遺品である花をセシルに渡すために再度彼女の家のドアを叩いた。
 クーも誘われてはいたのだが、部屋に入ることは拒んだ。
 ややあって、家の中から悲壮な泣き声が聞こえる。うちが今近づいたら、嫌な夢、みせてまう。せやけど、それ以上にあの泣き顔を見るのがいややったんかもしれへんね。締め付けられる胸の苦しさの意味はまだわからない。わからないからごまかすように足元の小石を蹴れば、小石は転がりデンドロビウムの花壇の縁石にかつんと当たる。
(知っとったんかな? あのお花の言葉のひとつには、おにあいのふたりって言葉もあるんやで)
 本当は一瞬でもいいから並んでいる二人の姿が見たかったのかもしれない。それは叶わなかったけれど。


 すべてが終わり、グリムペインは一人街道に佇む。片手には未完成の古びた本を開いて。
 ――彼の物語は一つの終わりを迎えた。それがハッピーエンドのピリオドか、バットエンドのピリオドかを決めるのは姫君の涙だ。だから、物語のバイプレイヤーでしかなかった彼らにもカーテンコールを送ろう。
 ――さあ、還りたまえ。名もなき亡霊たちよ。花びらが天国へ向かう道しるべとなるように。
 もう一方の手に持っていた黄色の花びらが風に舞う。その花びらが天に吸い込まれたのを見送るとグリムペインは本を閉じた。
 

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

 ご参加ありがとうございました。
 優しい気持ち。優しい思いが鎧の心をとりもどしました。この物語が皆様の心に何かをのこしたのであればGM冥利に尽きます。

PAGETOPPAGEBOTTOM