シナリオ詳細
なんて素敵な初夢でしょう!
オープニング
●初夢を見るために
幻想のとある町で、男が枕を売っていた。
寝具店で、ではない。露店だ。雪を避けるために天幕を張り、廃材を無理やり繋げたような台に枕を並べて、売っている。
「安いよ安いよー! 買って損はないよー!」
「兄ちゃん、なんだいこれ?」
「枕だよ! 初夢枕!」
にこにこと厚着の男は老人に応じた。
もう何時間も前からここで枕を売っている奇怪な男に、通行人たちは少なからず興味を抱いていたのだろう。老人が声をかけたことを皮切りとするように、ちらちらと横目で見て行きかうだけだった町人らが、ひとり、またひとりと足をとめる。
「はつゆめまくら?」
老人が舌足らずに繰り返す。もこもこに着膨れした男は、人のいい笑顔のまま大きく頷いた。
「そう! これを使って寝ると、絶対に初夢を見られるんだ!」
「ほう」
「それもとびっきり縁起のいいやつ!」
山とか鷹とかナスとか、扇とか煙草とか座頭とか。
そういう縁起のいいものをいっぺんに見ることだってできるのだと、男は力説した。
「で、いくらなんだい?」
「それがなんとー」
明らかに信じていない老人に、ひそひそと男は値段を告げる。
カッと老人が目を見開いた。
「安い! 孫へのお年玉より安い!」
「でしょ? 挙句に寝心地もばっつぐーん!」
「買ったァ!」
「まいどありィ!」
ひとりが買うと、安さと誇大すぎて信じる気も失せる広告に失笑した人々が、ひとつ、またひとつと購入していく。
新しい枕で新年を迎えるのも悪くない。そんな思いもどこかにあったのだろう。
そして、翌日。
男から買った枕を使って眠った人々は、目を覚まさなかった。
●夢は朝になれば消えるもの
「とある町で、町人の半分以上が眠ったままになる事件が発生したのです!」
年の瀬の某日、『新米情報屋』ユリーカ・ユリカ(p3n000003)はいつもの場所でそう言った。
「眠ったまま?」
「そうなのです。目覚めないのです。犯人は枕を売った商人、というか魔術師なのです!」
「つまり、その魔術師を捕まえて、魔術を解くように物理的に説得したらいいんだな?」
「話が早すぎるのです!」
血気盛んな特異運命座標がやる気に満ちているのは、きっとシャイネン・ナハトを平和に過ごした反動のようなものなのだろう。
たっぷり休んだ後はしっかり体を動かしたくなる、という筋肉的精神なのだ。
「ボクが集めた情報によると、魔術師はいい夢見れてるならいいじゃん! と街角で叫んでいたとのことなのです。あと、真っ黒な影を従えているのです」
「全員殴ればいいんだな?」
「えと……はいなのです」
円満な解決も考えてほしいのです、と訴えることを諦めたユリーカは、真剣な表情で頷く。
「魔術師を説得したり物理的に理解させたりして、事件を解決してほしいのです!」
枕にかかった眠りの魔術を魔術師に解除させれば、無事に事件は解決する。
そこに至るまでの道のりは――自由だ。
- なんて素敵な初夢でしょう!完了
- GM名あいきとうか
- 種別通常
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2019年01月09日 22時10分
- 参加人数8/8人
- 相談7日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。
参加者一覧(8人)
リプレイ
●眠りと夢魔
鼻歌を歌いながら、スリリプは露店の商品台に頬杖をつく。
「初夢枕の売れ行きは好調! 町の人たちは眠ったまま起きてこないけど、それはそれ。いい夢をずっと見られるなら、幸せだ!」
広場に場所を移したのは、噂を聞いた他の町の人々もきてくれるに違いない、と考えたからだった。家々に囲まれた丸い広場は、町で一番、たくさんの人を収容できる。
「あっ」
こちらにくる見知らぬ七人組に、スリリプは背筋を正した。
「安眠できる枕がある、とは本当ですか?」
「はい!」
立ちどまった七人のうちのひとり、馬車を連れた旅人らしき少女が問う。その顔色は悪く、言葉の終わりにはけほけほと咳をした。
「私、悪い魔法使いに不眠の呪いをかけられ、それを解くために旅をしていまして……」
迫真の演技をする『黄金角嬢』金鯱 統(p3p006085)に、スリリプは真剣な顔で台に置いた枕のひとつを渡す。
「大変でしたね……。でもこの枕で眠ればもう大丈夫!」
「あの、私もよく眠れなくて。枕の噂を聞いてきたのですが」
「噂!」
弱々しく言った『穢翼の回復術師』ティア・マヤ・ラグレン(p3p000593)にスリリプは感動する。初夢枕はやはり、他の町でも噂になっていた!
「どうぞ! この枕があればぐっすりですよ!」
「わ、私も、いい夢を見せてくれる偉大な魔術師さんの話を聞いて、はるばるやってきました……!」
「なんと!」
「私、トラウマや悪夢ばかり見るので……。いい夢を見たくて……」
本当に見た悪夢の数々を思い出し、虚ろな目になった『Life is fragile』鴉羽・九鬼(p3p006158)に、スリリプは枕を差し出す。
「そんなあなたにも、この枕!」
「この枕を使えば、本当に悪夢を見ず、幸せな夢をたくさん見られるのですか?」
「もちろん! ずっと幸せな夢を見られますよ!」
柔らかな声で問う『自称・旅人』ヘイゼル・ゴルトブーツ(p3p000149)に、スリリプは大きく頷いた。
「よさそうな枕だ。リゲル、どうかな」
「ああ、噂通りだね」
カップルを装う『優心の恩寵』ポテト チップ(p3p000294)と『死力の聖剣』リゲル=アークライト(p3p000442)も、台に並ぶ枕を見下ろす。
「お二人も眠れないんですか? いい枕ですよ、絶対に幸せな夢を見られます!」
気分が最高潮になっているスリリプは、ポテトとリゲルにも枕を渡した。
どうだ、とリゲルが視線でポテトに問う。
この枕自体は普通らしい、とポテトはやはり視線で答えた。
声もテレパスもなく会話する二人を、背後に立つ『Hi-ord Wavered』ルア=フォス=ニア(p3p004868)はあくびをしながら見る。
「リア充じゃな……」
「クウン」
今でこそ状況を考えて「装っている」が、ポテトとリゲルは実際にフィアンセだ。
ルアの傍らに行儀よく座っている白銀の大型犬が、いいことだね、とでも言うように小さく鳴いた。
「そこの犬を連れたお嬢さんも枕をお求めでしょう!」
「ん? あー、そうじゃな、年末じゃからと遊びすぎたのぅ。ねむひ……ふあ」
さり気なく周囲を警戒するルアに、そうでしょうとも、とスリリプは訳知り顔で頷きながら、枕を手渡す。
服装こそ異なるが、一見すれば武器を持っていない七人をスリリプは警戒していない。それどころか、枕を売れて大満足、といった様子だった。
「ところで大魔術師」
「だぁい魔術師なんてそんなそんなぁ。気軽に眠りの魔術師スリリプと呼んでください」
でへでへと照れたスリリプがキメ顔で言う。ポテトは気にせず、続けた。
「ここで枕を買い、使用した人は目覚めなくなるという噂だが、話を聞かせてもらえないか?」
「……ん?」
スリリプの笑顔が凍りつく。
「町の方々に術をかけましたね?」
ヘイゼルに指摘され、スリリプはひゅっと息を吸った。
「夢魔!」
「逃がしませ……、っ!」
統が端に足をかけたばかりの台が、大きく揺らぐ。
反射的に宙返りをしながら後方に退いた彼女を含むイレギュラーズたちの前で、簡素な露店が下から吹き飛ばされた。
スリリプの足元から生じた黒いもやの塊が形を成す。広場の隅で露店だった木材や、買い手がついていなかった枕が騒々しく落下し散乱した。
「追います」
「祝福よ」
逃げるスリリプを統は追うことにする。
すかさずポテトが彼女にブレッシングウィスパーを付与し、戦場となる広場全体に保護結界を張り巡らせた。
「徹夜の連戦にも慣れている! できるものなら眠らせてみろ!」
凛した声で言い放つリゲルに、統の行く手を阻もうとしていた夢魔たちが反応した。
「キイイ!」
クロスボウのような武器を持つ夢魔のうちの一体が、黒いもやでできた体を震わせる。
直後、リゲルががくりと膝をついた。小さな鎌を持つ夢魔のうちの一体がリゲルに接近する。
「起きてください」
しかしヘイゼルが超分析でリゲルを起こす方が早かった。
夢狩りをかわされた夢魔が鎌での通常攻撃に切り替え、リゲルを襲う。彼はそれを紙一重でかわした。
「いくよ、イン……! 人は斬らないからね……!」
『……まぁいい、斬ったことのない、面白そうな相手だしな』
連れ戻されてくる予定のスリリプまで斬りかけない人魂に、夢魔たちと距離をとった九鬼が話しかけ、大太刀の柄に手をかける。
「はぁっ!」
武装の透明化を解除。大太刀がその威容を見せると同時に、放たれた二連の太刀風が鎌を持つ夢魔の一体を切り裂く。
「キイイ!」
九鬼に近づいてきたその夢魔に、今度は死霊弓が直撃した。
「あっちは大丈夫かな」
『眠らされなければ出し抜かれまい。頭の悪そうな男だったからな』
十字架に宿った魂の淡々とした推測に、ティアはわずかに苦笑して二条目の死霊弓を放つ。
「キイイ!」
「ま、こうなるのじゃな」
両手に一丁ずつ銃を持つルアが大型犬に話しかけ、口の端を上げる。
照準を定め、引き金を引いた。
「キイ!」
「夢魔は夢魔らしく、夢の中にでも引きこもっておれ。現実に出てくるでないわ!」
紅色の雷が夢魔たちを貫く。
放電が収まったのを見計らい、痺れている夢魔たちにリゲルが流星のような銀の一閃を放った。ポテトは敵を惹きつける彼に、祝福を授ける。
「背中は任せた」
「任せてくれ」
剣を構えるリゲルに頷き、ポテトは自らにもブレッシングウィスパーをかけた。
「予想通り、こっちにくるわね」
広場に程近い、狭い道の中心で『不屈の紫銀』ルーミニス・アルトリウス(p3p002760)は閉じていた目を開く。
「逃走手段になりそうなものはなかった?」
「ワウ!」
「じゃ、持ち場について」
「ウゥ」
「ちょっと面倒そうにしないで! 合図で紐を引くだけなんだから! 大丈夫よ、絶対にうまくいくわ。胡乱な目をしない!」
周辺の探索を行っていた白銀の大型犬が、主人をからかって満足したように持ち場につく。ルーミニスは前を見据え、もう、と腕を組んだ。
ルアの側にいた白銀の大型犬は、彼女の召喚獣だ。ルーミニスの背後に一体、前方の家と家の隙間にも一体、配置している。
特徴はその雄々しい美しさ、だけでなく、一体だけならルーミニスと五感が共有できる、という点にもあった。
「統もきてるのね。ま、二人いれば確実に捕まえられるでしょ。……そろそろくるわよ。準備、いい?」
「ワウ!」
「よし! 見えてきたわよ!」
前の方からローブ姿の男が全力で走ってくる。スリリプだ。その少し後ろに、小柄な少女が見え隠れしている。
「げ! まだいる!」
「アンタが魔術師ね! いい夢見れる枕の!」
「そうだべはっ!」
スリリプが言い切る前にルーミニスが指笛をピィと吹いて合図した。
彼女の前方で粗末な街灯の根元にくくりつけた縄の片端を咥えていた犬が、それをぐっと引く。
道を横切るようにぴんと張った縄にスリリプが足をとられ、顔面から転んだ。
しかし大急ぎで起き上がり、ルーミニスに睡眠の魔術をしかける。
「う……」
「ワウ!」
「寝てないわよ!」
寝るなよ、と吼えられ、よろめいたルーミニスは踏ん張って応じた。
「うえっ、寝な」
「アタシがとっておきの、いい夢を見せてあげるわ!」
「おぐぅっ」
青ざめながらもルーミニスの隣を走り抜けようとしていた男の腹に、鋭い回し蹴りが直撃する。
もんどりうってきた道を転がったスリリプは、しぶとかった。
ふらふらと立ち上がり、こちらがだめならあちら、とばかりに身を反転させ、
「ひ」
「そっちに行けるわけないでしょ」
ふふん、とルーミニスが鼻を鳴らすより先に。
統が地を蹴り、跳躍する。日差しが遮られ、スリリプの体に影がかかった。
少女は両手で枕を広げている。呆然としたスリリプの顔面に、その枕のちょうど真ん中が直撃。小柄とはいえ人ひとりの体重を受けとめきれなかったスリリプが、頭から転倒した。
「うぶふっ!」
スリリプが売っていた枕で彼の顔を圧迫しながら、統は抵抗のため振り回されると予測して左腕の肘を膝で踏む。右腕は主より先に状況を把握した大型犬の一体が封じた。
「んむぶぶっ! んむ! ぶ……」
しばらくじたばたと暴れていたスリリプが、ぐったりとおとなしくなる。
満足げに統が離れ、ルーミニスははっとした。
「死んでない!?」
「大丈夫、加減は知っています」
「……ほんと、生きてるわ」
脈と呼吸を確認し、ルーミニスは安堵の息をつく。
「あちらに合流しましょう」
「そうね。……HMKLB-PM!」
移動と第二の罠のために隠してあったHMKLB-PMをルーミニスが呼び、スリリプをその背に、投げるように乗せた。
大太刀を細腕で軽々と振るっていた九鬼が、夢落ちを受けてすやっと元気よく眠りに落ちる。
すかさず鎌を持つ夢魔が接近、九鬼の頭にそれを振り下ろす仕草をした。
「う、く……っ!」
びくん、と体を震わせた九鬼が目を覚まし、距離をとる。
「けっこう痛いですね、これ……!」
肉体に与えられる痛みとは異なる、例えるなら神経に直接触れられたような鋭い激痛。
「厄介ね」
ティアのライトヒールが九鬼の痛みを癒した。中距離型の夢魔が放った矢を、浅く頷いた九鬼が大太刀で斬り払う。
眠ったリゲルに放たれた夢狩りを、ポテトが庇うことで防いだ。
「私が守る」
「キイ!」
鎌による一撃を受けながらも、ポテトは決して退こうとはしなかった。
「さあ、お目覚めください」
別の夢魔に絡まれつつ、ヘイゼルが超分析による起床を促す。倒れていたリゲルが、剣を握った。
「ポテト!」
「ああ」
立ち上がったリゲルとポテトが素早く位置を入れ替える。銀の軌跡を描きながら、リゲルの剣は夢魔を両断し、消滅させた。
「問題ない」
リゲルが言葉で案じるより先に言い、ポテトは彼に祝福をかけ直す。
「お二人のお帰りはもうすぐでしょうか」
眼前の夢魔と自身に赤い糸を結び、ヘイゼルが誰にともなく問いかける。
「キイイ!」
生命力を吸い上げられた鎌持ちの夢魔ががくがくと震え、消滅した。
傷を癒したヘイゼルは、眠っている者がいないか戦場を見回す。
「もうすぐじゃろ」
大型犬を従えたまま、ルアが何度目かの紅い放電を行った。夢魔たちは着実に消耗している。
こちらも余裕綽々ではないが。
「あっ!」
ぱっと九鬼が、広場に続く道のひとつに目を向けた。
地図を見た際に、スリリプはここに逃げるのでは、と予想していた道だ。
「スリリプさんにつけた、香水の匂いです……!」
枕を受けとった際にさり気なくつけた香水の芳香を、超嗅覚が感知した。
「遅くなりました」
「なに、準備運動が終わったところじゃ」
ルアに向けられた夢落ちを、滑りこんだ統が代わりに受け、弾く。
「私にはほぼ効かないと思ってください」
「アンタたち、これの見張り頼んだわよ!」
「ワウ!」
三頭の大型犬にHMKLB-PMとスリリプの見張りを任せ、ルーミニスは大戦斧を手にリゲルに群がる夢魔たちの背後を突く。
「そりゃぁっ!」
「キイイ!」
斧を旋回させることでできた暴風域が、夢魔たちにダメージを与えた。
「う……」
近くから聞こえたうめき声に、ティアは瞬く。
『効果範囲にいたのだろう』
「ああ、なるほど。おはようございます、おとなしくしててね」
「ここ……これ……」
夢魔たちとイレギュラーズが戦う現場を、HMKLB-PMから降りたスリリプはぽかんとしながら見た。
夢に落ちた者が起こされ、あるいは攻撃を受けて強制的に目覚める。鎌持ちの夢魔は残り三体、クロスボウ持ちの夢魔も残り三体になっていた。
「起きたようじゃな。さて」
ティアのシェルピアで目覚めたルアは、まだダメージを受けた様子がない鎌持ちの夢魔に精神嵐を引き起こさせながら、テレパスで語りかけた。
『おい、逃げようとしておるな?』
「ひっ」
じりじり後退していたスリリプが、何事かと肩を跳ねさせ、周りを見る。
『逃げようとしておるということは、叱られることをしたと認識しておるな? 汝、悪いことをしたという自覚があるなら、早めに謝るがいいぞ?』
「あ、謝るって……、だ、だって、ただ、いい夢をって」
『なぁに、汝の力は本物じゃ。そのよき力、もっとマシなことに使うてみぃ』
「マシなこと……」
スリリプはただ、いい夢を長く見てほしかっただけだ。
しかし、結果として町人は数日たっても目覚めず、これからもずっと眠ったままかもしれない。イレギュラーズはスリリプが呼んだ夢魔に傷つけられている。
これは本当に、自分が望んで結果だろうか。
「うぅ……」
「降伏するなら痛いことはしない!」
「逃げると、痛いことをすることになります……! したくないですけど……!」
流星剣を放ったリゲルと、ルアにTiVを叩きこまれた夢魔に夢想剣【神立】を放って消滅させた九鬼が、視界の端にスリリプを捕らえて言う。
「痛いことは……嫌だし……」
ちょっと罪悪感がある気がしないでもない。しんとした町を想うと、幸せな夢を見ていてほしいと思う一方で、起きてほしいともほんの少し思う。
なにより、イレギュラーズたちは話せば分かってくれる気がした。主に、スリリプの今後の処遇について。
よし、とスリリプは決意する。
「夢魔たち! 休戦! ちょっと話しあおう!」
ぴたりと夢魔たちの動きがとまり。
「キイイイイイ!」
「なんでぇ!」
次の瞬間、黒いもやたちはいっせいに、敵意をもってスリリプに襲いかかった。
「そうじゃなかろう!?」
「馬鹿ね、アイツ!」
ルアが叫び、ルーミニスが断定する。
「あわわわ」
「スリリプさんを殺させるわけにはいかない!」
「おとなしくしていてくれれば、それでよかったのですが」
移動を始めた夢魔の背に九鬼が連撃を仕掛ける。リゲルと統は素早く移動し、スリリプの盾になった。
「無茶をする」
「いっそ眠っていてくれてもいいですけど」
「その間に受ける攻撃、痛いですからね……」
リゲルに与えられかけた眠りを退け、攻撃を受けた統をポテトが癒す。ヘイゼルは夢狩りより早くルーミニスを起こし、ティアが死霊弓を炸裂させた。
●おはよう!
夢魔がいなくなった広場で、スリリプは正座していた。
ティアとポテトがイレギュラーズの傷を癒していく。スリリプの後頭部のこぶは、罰のひとつとして放置することになった。
改めて、と九鬼が口を開く。
「どうしてこんなことを?」
「……みんながぐっすり、素敵な初夢を見れたらいいなって……」
「寝たまま目覚めない、というのは、意図的に行ったことですか?」
統の声にスリリプは力なく首を左右に振った。
「偶然なんですけど、まぁそれはそれでいいかなって」
「よくないじゃろ」
ルアの冷静な突っこみに、スリリプはうっと詰まる。
「でも、幸せな夢なら」
「あのねぇ。夢を見てるだけじゃなにも変わらないの。幸せだろうと不幸せだろうと、長すぎる夢はただの迷惑よ」
ましてそれが、独善により与えられたものなら。
呆れた様子のルーミニスに、スリリプはうなだれた。
「でも、たくさんの人を長く眠らせることができる力は、使い道もあると思うの。せっかくだし、不眠症の治療とかやってみればいいんじゃないかな」
「夜は安眠、朝は爽やかに起きられる枕の開発もどうでしょう?」
ティアとリゲルの穏やかな提案に、魔術師は光明を見出した思いで顔を上げる。
それに、とリゲルは口元に笑みを浮かんだまま続けた。
「日中に身体を徹底的に動かせば、安眠できますよ。スリリプさん、物理で! 修行しましょう! つきあいますよ!」
「いや運動はちょっと」
嫌な予感にスリリプは首を左右に大きく振る。
助けてくれそうな人をとっさに探した魔術師と、ヘイゼルの視線が交わった。彼女は優しく、諭すような声を放つ。
「その力の使い道は、牢内で検討していただくとして」
牢、という単語にスリリプが肩を震わせる。ヘイゼルは気に留めなかった。
「私たちは今回、眠ったまま起きないという町人たちを目覚めさせにきたのですよ。ですので、それが達成されるのでしたら、スリリプさんがどうであろうと気にはしないのです。……ええ、どうであろうと」
まだ町人たちは眠ったままだ。スリリプはさり気なく、眠りの解除を先送りにしていた。
「ところで……、これは確かな筋からの情報なのですが。この手の魔術というのは、わざわざ解除しませんでも、術者がいなくなれば、自然と解けるようなのです」
ええ、これはとてもとても、確かな筋からの情報なのですよ。
優しい声のまま、ヘイゼルは囁く。指先は刃を仕込んだマントの裾をつまんでいた。
「私たちとてお前を殺したくない。すぐに町の人たちを目覚めさせてくれないか?」
脅迫を含まないポテトにも説得されたスリリプが、葛藤するように顔をゆがませる。
やがて、観念したように体の力を抜いた。
「起こします……」
「素直ですね」
「よかったのぅ、永眠は免れたぞ」
少し惜しそうに統が言い、ルアが揶揄する。
「あの、普通にいい夢を見られる枕ができたら、ください……! 悪夢は本当に見るので……!」
疲労が全くとれない夢の数々を思い出し、九鬼は涙目で頼んだ。
成否
成功
MVP
状態異常
なし
あとがき
お疲れさまでした。
このあと町人たちは無事に目覚め、初夢枕はすべて回収されました。
捕縛されたスリリプはこってり絞られたのち、新しい枕の開発に着手したようです。
今度は「夜はぐっすり、朝はさっぱり」を目指しているのだとか。
ご参加ありがとうございました。いい夢を!
GMコメント
はじめまして、あるいはお久しぶりです。あいきとうかと申します。
あけましておめでとうございます(まだ年内)。
●目標
魔術師スリリプに町人たちを目覚めさせる。
スリリプが死亡した場合も魔術が解除され、町人たちは目覚めます。
●情報精度
このシナリオの情報精度はAです。
想定外の事態は絶対に起こりません。
●ロケーション
現場に到着するのは昼頃です。
戦闘する場合でも説得する場合でも、場所は町内になります。
煉瓦造りの素朴な家が立ち並ぶ小さな町です。広場や町民館などがあります。
市街地はありますが、商店の二階に住んでいるという人々も少なくありません。
どこで戦闘するにしても、建物を破壊すると中にいる人に被害が及ぶ可能性があります。
半数以上の町人が寝ていますが、起きている人もいます。
●敵
枕売りこと魔術師スリリプと、黒い影こと夢魔たち。
夢魔はスリリプが生み出したものですが、数を増やすことはできないようです。
また、スリリプが夢魔を完全に制御できているかというと、そういうわけでもないようです。
『近接型夢魔』×6
小さな鎌のような武器を持った1メートルほどの黒い影。
ふよふよと浮遊している。
・格闘:物至単にダメージ。対象が眠っていない場合のみ使用
・夢狩り:睡眠状態の単体に物理ダメージ。ただし対象は眠りから覚める
『中距離型夢魔』×4
クロスボウのような武器を持った1メートルほどの黒い影。
ふよふよと浮遊している。
・格闘:物中単にダメージ。対象が眠っていない場合のみ使用
・夢落ち:対象を眠らせる
睡眠状態になった対象は、ダメージを受けるかBS解除で目覚める。
『魔術師スリリプ』
生物に夢を見せることを得意とする魔術師。初夢枕を作った男。
「いい夢を見続けられるとか幸せじゃない? まだ新年じゃないけど、細かいことは気にしない!」
とドヤ顔をしている。
特異運命座標を見ると叱られると察して全力で逃げようとする。気が弱い。
・夢落ち:対象を眠らせる
・夢狩り:睡眠状態にある単体に物理ダメージ。ただし対象は眠りから覚める
・夢魔補強:夢魔の体力をわずかに回復する
・夢魔説得:夢魔を説得する。九割以上の確率で失敗する【怒り】
眠ったり眠らなかったりしつつ、事件を解決してください。
よろしくお願いします!
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