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シナリオ詳細

シェット村防衛戦

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●シェット村の人災
 初冬。
 幻想内のとある平和な農村は、今日も一日、平和である――はずだった。
「まぁ、どうしたんだい!?」
「あんた、向こうの村の……」
「そん、村長に、会わせてくれ……。伝えねぇとならねぇことがある……」
 服の端を焦がし、頬や両手を煤で汚した青年は、よく見るとあちらこちらに細かな傷ををつけていた。
 獣除けの柵に囲まれた村の出入り口で両手と両ひざをついた青年と、各々の顔を村人たちは見比べる。やがて村一番の力持ちである男が、息も絶え絶えな青年を担いで村長の家まで運んで行った。
 騒ぎを聞きつけた村人たちが、心配そうに村長宅の窓や扉から中をうかがう。治療の間さえ惜しんで、青年は上座に座る高齢の村長に話し始めた。
「俺の村が襲撃を受けた」
「魔物か?」
「違う、アッシェンベルト子爵の私兵団を名乗るやつらだ」
「……知らん名だな」
「俺だって聞いたことない」
 そもそも、青年が住んでいた村もこの村も、幻想の王都より隣接している海洋の方がまだ近い、というほど辺鄙なところにあるのだ。
 幻想に住まう貴族の名前など、ほとんど知らない。
「子爵の私兵がなぜ村を」
「貿易のための道がどうとか言ってたが、全く分からん」
「ふむ」
 焦燥にかられ、額に汗を浮かべる村長にも分からない。そのための道ならすでに別にあるのだ。それも、国が整備した大きなものが。
 それに、道を作りたいなら話しあいの場を設ければいい。青年の姿を見れば、村がどのような結末を迎えたのかは、聞くまでもなく理解してしまえた。
「弱者をいたぶろうって腹だ」
 感情を無理に押し殺した声で青年は言い、テーブルを叩く。
「あいつら、楽しんでやがった。俺たちを追い回して殺して火を放って……。笑いながらやってやがったんだ」
「子爵の私兵が、か」
 この国が腐りきっていることくらいは知っている。子爵の意向なのかどうかはともかくとして、私兵たちが大雑把な理由をつけて蛮族まがいな暴挙に及ぶことも、ないとは言い切れない。
「次に狙われるとしたらこの村だ。早く逃げてくれ」
「村を捨ててか?」
「命を捨てるのとどっちがいい!?」
 咆哮する青年に村長は口を閉ざした。
 彼の言い分は分かる。しかし、ここは村長が、村人たちが、生まれ育った場所なのだ。
 決して裕福ではないが、四季をすごし、ときには潮風も海洋から遠く香ってきた、故郷なのだ。
 生命は何物にも代えがたい。分かってはいても、そうやすやすと決断できることではない。
「ローレットには頼めないのか?」
 部屋の隅で静観していた、村一番の力持ちの男が、不意に口を開いた。
「あそこは中立だと聞いたことがある。急ぎ駆けつけてもらって、私兵団を追い払ってはもらえないか?」
「……間にあうのか?」
「頼んでみる価値はある」
 村長は、青ざめて固唾をのんでいる村人たちの顔を見回す。大人の話しあいに興味がない子どもたちが、外で遊ぶ元気な声が聞こえてきた。
 悩むまでもない。他に打つ手はないのだ。

●刃となれ、盾となれ
「アッシェンベルト子爵の私兵たちが村を荒らしているそうなのです! 子爵は知らんぷりを決めこんでいるのです」
 息を切らして駆けこんできた『新米情報屋』ユリーカ・ユリカ(p3n000003)が、机上に地図を開きながら口早に説明する。
 赤色のペンを持ち、手元の資料と地図を見比べ、海洋に程近い位置に丸を描いた。
「現場はここなのです。まだたぶん次の村は襲われていないのです。でも時間の問題なのです!」
 私兵団の勢力と、子爵の関与について大急ぎで調べてきた少女は、特異運命座標たちを大きな目で見つめる。
「村の方々は戦いの邪魔にならないように、避難を行っているのです。でもあまり早くは移動できないのです」
 武力を持たない村人たちは、今現在も女子どもや老人たちから避難を行っている。しかし、私兵たちの到着が早いか、全員の避難が早いかは、微妙なところだ。
 村を出たくないと、駄々をこねる者たちもいるのが原因らしい。
「とにかく一刻の猶予もないのです。さっと行ってばっと倒してほしいのです!」
 これ以上の暴虐を、許してはならない。

GMコメント

 はじめまして、あるいはお久しぶりです。あいきとうかと申します。
 弱い者いじめはいけません。

●目標
 アッシェンベルト子爵の私兵団を撤退させる、もしくは討伐する。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はAです。
 想定外の事態は絶対に起こりません。

●ロケーション
 現場に到着するのは昼頃です。

 周囲は平原になっています。遠くに焼き落とされた村(青年が住んでいた村)が見えます。
 皆様が現場に到着するのとほとんど同時に、道草していた私兵団が村にやってきます。
 シェット村を背にかばった状態で戦闘が始まります。
 村人たちは裏手から避難を続けていますが、遅々とした速度です。村内が戦場になった場合は、村人たちと遭遇したり、私兵たちが村人を見つけてしまったりする場合があります。

 ただし、村人が10人程度犠牲になっても依頼は失敗になりません。

●アッシェンベルト子爵の私兵団
 兵士10人と指揮官1人からなる私兵団です。戦闘には慣れているようです。
 貿易のための道を作るので邪魔になる村は焼く、という理由でこの近辺の村を襲っていました。
 子爵は「あいつらが勝手にやってるだけでしょ知らない知らない」とへらへらしていたそうです。私兵団は焼き落とした村の女性をさらって子爵に献上している、という噂もあります。

『指揮官』×1
 人間種の男性。身長190センチほどで、筋肉質。子爵家の家紋が描かれた白い鎧をまとい、剣と盾を装備している。
 近距離、至近距離での戦闘を行う。

『剣兵』×6
 人間種の男たち。身長は170から180前後といったところ。子爵家の家紋が描かれた白い鎧をまとい、剣と盾を装備している。
 近距離、至近距離での戦闘を行う。
 また、指揮官を守るように立ちはだかる。

『弓兵』×2
 弓を扱う人間種の女性2人。矢筒に子爵家の家紋が描かれている。
 どちらも小柄。姉妹か双子らしく、似たような見た目をしている。また、どちらかが倒れるとひどく狼狽する。
 毒矢を主に飛ばしてくる。

『魔術兵』×2
 足止め、麻痺、回復などを担う少年のような見た目の人間種2人。白いローブに子爵家の家紋が描かれている。
 目が死んでいるが、魔術師としてはそこそこの手練れ。指揮官の両側に寄り添うように立っていることが多い。
 体力が低く、過酷な労働環境に肉体の限界を迎えかけている。

 それでは、よろしくお願いします!

  • シェット村防衛戦完了
  • GM名あいきとうか
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2018年12月27日 21時40分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

リゲル=アークライト(p3p000442)
白獅子剛剣
エクスマリア=カリブルヌス(p3p000787)
愛娘
ムスティスラーフ・バイルシュタイン(p3p001619)
黒武護
セシリア・アーデット(p3p002242)
治癒士
ミルヴィ=カーソン(p3p005047)
剣閃飛鳥
ケドウィン(p3p006698)
不死身のやられ役
フィン・キーラン(p3p006738)
しがない商人
ラティーシャ(p3p006825)

リプレイ

●会敵
 特異運命座標たちがシェット村に到着し、間もなく。
 獣除けの柵に囲まれた村の出入り口を背にする彼らに向かってくる影が見えた。
 白い甲冑。後ろに続く者たちもまた、白を基調とした服装に身を包んでいる。前を固める剣兵が六人。その後ろに弓兵が二人。最後尾は、指揮官らしきひときわ大柄な剣兵と、その両脇を固める杖を持った青ざめた顔の魔術師二人。
 一団が足をとめた。両陣営とも、すでに互いの顔を認識できる距離だ。
「そこを退け」
「アッシェンベルト子爵の私兵団の皆様とお見受けいたします」
「分かっているなら去れ」
 穏やかに確認した『しがない商人』フィン・キーラン(p3p006738)の言葉に、指揮官が面倒くさそうに返す。
「我らは新たな貿易路を作れという子爵の命により、ここに至った。貴様らが何者かは知らんが、邪魔をするなら斬り捨てるぞ」
 子爵の私兵たちが戦闘態勢に入る。
 ひときわ強く血のにおいが香った気がして、『治癒士』セシリア・アーデット(p3p002242)は可愛らしい顔に嫌悪をにじませた。
「そう言って、村を襲って、抵抗できない人たちを……!」
「ふん。立ち退きを拒否するがゆえ、相応の処罰を与えただけのこと」
 指揮官に悪びれた様子はない。
 剣兵らは下卑た笑みを薄く浮かべ、弓兵たちは目を背けた。魔術兵たちは長い杖に寄りかかるように立っている。
「とある方の命により、貴方たちを討伐しにはせ参じた」
 凛とした『死力の聖剣』リゲル=アークライト(p3p000442)の声が、緊張感と闘気が膨れ上がる平原に響く。
「ここで剣をおさめるならば、命まではとらない。人として恥ずべき行為は、悔い改めるんだ」
「恥ずべきィ?」
 煽るような口調で繰り返した指揮官が、ゲラゲラと笑声を上げる。
「者ども、かかれ! この無法者どもに誰が正しいか、教えてやるといい!」

●シェット村防衛戦
「無力な人たちを襲うのが、正しいだってェ!?」
 紫の瞳にこぼれんばかりの怒りを宿し、『寄り添う風』ミルヴィ=カーソン(p3p005047)は吼える。
「そんなこと、あるはずない。もう誰も殺させないよ」
 脳裏をよぎった過去が胸にもたらす激し痛みを、『髭の人』ムスティスラーフ・バイルシュタイン(p3p001619)は堪えた。
 剣兵たちが特異運命座標たちに向かってくる。騎獣へラオスに乗るミルヴィがためらいなく突進。
「アタシが相手になるよ」
 へラオスから飛び降りた彼女の、魔性の瞳に覗きこまれた剣兵の半数が魅入られた。さらにミルヴィは極薄の反射結界を自らの周囲に展開する。
「かかってきな!」
 彼女が剣兵を引きつけたことにより、手薄になった人垣をリゲルが駆け抜けた。弓兵が矢を射るが、紙一重でかわす。
「小僧が!」
「貴方に、正しさを語る資格はない!」
「ぬぅっ!」
 流星のごとき真一文字の一閃。銀の軌跡を描く重い一撃を、指揮官と魔術兵たちが食らった。すぐさま魔術兵たちが治癒を行おうとして。
 ちょうど、指揮官の左側に控えていた魔術兵が気づいた。
「ひっ、ちょっとまっ」
「君たちは、そうやって助けを乞う村人に、なにをしたの?」
 回りこんでいたムスティスラーフが感情を押し殺した声で言い、大きく息を吸う。魔術兵の顔が引きつった。
「うああっ!」
 ムスティスラーフの口から吐き出された緑の閃光が、二人の魔術兵と指揮官を串刺しにするように放たれる。
「ふぎゃ……」
「小癪なァ!」
「させない」
 指揮官が振り下ろした剣を、リゲルが盾で受けた。

 魔術兵のうち、ひとりは完全に気を失っているのか、倒れ伏したまま動かない。ムスティスラーフは足元の、かろうじて意識を保っている魔術兵を見下ろした。
「う……、しにたくない……」
 彼らに蹂躙された村の者たちも、きっと同じ言葉を何度も口にしただろう。
 最初から疲れた顔をしていた魔術兵たちも、手を下したに違いない。たとえ嫌々であっても、無辜の民を殺めたことは事実だ。
 はらわたが煮えくり返る。怒りで白く染まりそうになる思考を、ムスティスラーフは落ち着けた。
「ころさ……ないで……」
「殺さない」
 感情を押し殺し、輝煌枝の男は答える。
「こんなことをする君たちは、殺したいほど憎いさ。けど、殺したら君たちと同じになる。……逃げなよ」
 戦意を失い、這うように移動を始めた魔術兵を、ムスティスラーフは視界から外した。

 三人の剣兵をミルヴィが引き受け、指揮官と魔術兵と弓兵の片方、それに剣兵二人をリゲルとムスティスラーフが相手どる。
「お前さんの相手は俺だ」
「くっ!」
 片手剣を振るい、『アウトロー』ケドウィン(p3p006698)は剣兵に斬りかかった。切っ先が触れた瞬間、敵の体が炎に包まれる。
「舐めた真似しやがって!」
「あぁ? それはお前さんたちの方だろ?」
 刺突を受けておきながら顔色一つ変えず、ケドウィンは虚空で片手を握り、開いた。
 いつの間に現れたのか、その手には黄金の林檎がのっている。
「地上げのやり方がなっちゃいない。俺が暴力沙汰のなんたるかを教育してやるぜ」
「くたばれ!」
「どこ狙ってんだァ!?」
 がり、と林檎をかじったケドウィンが振り下ろされた剣をかわし、剣兵の手甲の隙間に剣先を突き刺した。刃は再び炎を吹く。
「ぎゃあ!」
「っらァ!」
 口元に笑みを刻みながら、ケドウィンは剣を振るう。火炎を帯びながらも剣兵はそれをどうにか盾で受けとめる。
「そうだ。本気でかかってこい」
 その上でお前を沈めてやると、挑発する男の目は語っていた。

 開戦直後、スイッチマニューバを自らに使用したフィンは、大戦斧を片手に疾駆する。
「近づくな!」
「困りますねぇ。わたくし、接近戦向きでして」
 弓兵が毒をまとわせた一撃を放つ。それを難なくかわし、自らの間合いに敵を捕らえた。
「容赦などはご不要ですね?」
「ぎゃっ!」
 無数の瞬きが弓兵を襲う。衣服の一部を燃やされ、視界まで一時的に奪われた彼女に、フィンはさらに接近。魔力をこめた大戦斧を振るう。
「ああ、逃げられては困ります」
 距離をとろうと後退した弓兵を、フィンは穏やかさを崩さないまま追った。
「この……っ!」
 近距離からの射撃。フィンの肩に矢が刺さるが、細身の男は痛がるどころか、笑みに困惑をわずかに混ぜただけだった。
「毒が!」
「あいにくと、効かない体質でして」
 歯噛みする弓兵に、フィンは二度目のファイアフライを見舞った。

 村を守る最後の砦のように、最後尾を陣取るラティーシャ(p3p006825)は、ケドウィンと剣を交えている兵士に魔力を放出する。
 火炎に焼かれる剣兵から、不意にケドウィンが距離をとり、ラティーシャの方を一瞬だけ向いた。
「なに? ……ああ」
 分かったよ、とラティーシャは頷くことで応じる。ケドウィンが素早く剣兵の背に回りこみ、その体を蹴り飛ばした。
 そのまま、彼は激戦区である指揮官の側に駆けて行く。正確には、そのすぐ近くで倒れる魔術兵に。
 あのままでは戦いに紛れて踏みつぶされかねないと案じたのだろう。
「ラティーシャさん」
 傍らにいるセシリアをちらりと見て、ラティーシャはかすかに笑んだ。
「大丈夫よ。補助、お願い」
「うん、任せて」
 主にミルヴィを常にハイ・ヒールの範囲に捉え、その上で仲間たちの様子をしっかりと観察しているセシリアが、大きく首を縦に振る。
 弱った剣兵は、ケドウィンの狙い通り、彼女たちの方に駆けてきた。
「魔術師ならやれると思った? それとも、弱そうな女なら倒せると?」
 小柄で華奢な美貌の少女は、無造作といえるほど気負った様子もなく、氷の魔剣を携える。
「私は確かに術者。でも、魔剣士」
「どけぇっ!」
「首輪のついていない獣に、優しくするつもりはないよ」
 剣兵が振り下ろした刃を悠然と受け流し、ラティーシャは炎上する鎧に魔力を乗せた一撃を見舞った。

 赤いマントが躍るように翻る。
 妖剣イシュラークが敵の腹部を切り裂く。暁の饗宴を行ったことによる生命力の消費は、すでにセシリアに癒されていた。
「この……っ!」
 斬撃を受け、反撃。返す刃でさらに斬りかかる。儀礼曲刀による衰退の呪いがかかったのを見計らい、熱狂的なまでの剣舞を見舞った。
「ぐぅっ!」
「痛い思いして、死んだ人もいて!」
 ようやく剣兵のひとりが膝をつく。残りは二人。想像よりもミルヴィが戦えることに怯んだのか、剣を手に距離を測っている。
 自分を囲む全員に、彼女は叫んだ。
 思い出されるのは蠍との死闘。ようやく国が平和な方に傾くと思ったら、この蛮行の報せが飛んできた。
 助けてくれと泣く人たちが、まだまだいるのだと。悪は際限なく噴き出るのだと、知らされた。
 戦う力のない村の人々の穏やかな生活を、笑いながら奪うなんて。
「ヘラヘラヘラヘラと……、楽しんでンじゃないよ!」
「とうてい、許せない」
 自分の思いを代弁した、自分ではない無機質な声。
「ぐあっ!」
 立ち上がろうとしていた剣兵が、見えざる糸に拘束されそのまま気を失う。さらに、呆然としている剣兵のひとりが地面から突き上がった土塊の巨大なこぶしに殴られた。
「ぎゃっ!」
「民を守るべき騎士が略奪とは、嘆かわしい、な」
「エクスマリア……!」
「遅れた。すまない」
 髪を手足の代わりとして動かす『神話殺しの御伽噺』エクスマリア=カリブルヌス(p3p000787)がゆるりと瞬く。ミルヴィは口の端を上げた。
「なァに、気にするほどじゃないサ。村の人たちは?」
「戦域になりうるところからは、避難完了」
「上等」
 村に着いてすぐ、エクスマリアは万が一、兵士たちが村に侵入した場合、戦場になりそうな場所に人がいないか、入念に確認して回ることにしたのだ。
 そして先ほど、村のこちら側半分にいたすべての人を、比較的安全といえる位置まで誘導してきた。
「この先は、マリアも戦う」
 ざわりとエクスマリアの髪が、炎のように揺れる。
「無辜の民が受けた痛みを、知れ」
 表情をわずかに変えることなく。
 しかし、少女は確かに、怒っていた。

 村民の避難を手伝ったエクスマリアの、戦場での役目は遊撃だ。敵をかく乱し、連携を崩す。
 次に厄介なのは逃げながら攻撃を繰り返している弓兵だと判断し、横手から不可視の糸を放つ。
 ヒュウ、とケドウィンが口笛を吹いた。
「助かるぜ」
 気絶した魔術兵を安全域まで素早く運び、戻ってきたケドウィンにエクスマリアは浅く頷く。
 自身の間合いであり、敵に不利な間合いである至近距離に潜りこんだケドウィンと弓兵が戦闘を始める。毒矢による消耗が見られる彼に、エクスマリアはハイ・ヒールを贈った。
「次」
 戦場はいまだ、混沌としている。

 セシリアは村を横目で見る。
 最初に念のため保護結界をかけた村に、侵入した兵士はいないとエネミーサーチが告げている。念のため自らにかけた祝福は、まだ途切れていない。
「速攻で片をつける」
 ここに至るまでに、みんなで決めた作戦を小声で口にして、魔導書を握る。
「きちんと罪を償ってもらうよ」
 敵を引きつけている仲間たちに、ハイ・ヒールをかけていく。続々と倒されていく敵にも注意を払った。
 無理に生け捕りにするつもりはないが、できれば全員、存命のまま贖罪させたい。
「みんな、頑張って……!」
 癒しの力に願いをこめる。

「が……っ!」
 フィンの大戦斧が弓兵を打ち据えた。
 がくりと膝をついた彼女がそのまま気を失う。直後、悲鳴が戦場の空気を引き裂いた。
「トゥリ!」
 ケドウィンと戦っていたもうひとりの弓兵が全力で駆けてくる。ケドウィンはなにかを察したような表情を一瞬だけ浮かべ、深追いはせず、リゲルに斬りかかっていた剣兵に標的を変更した。
「いや、いやよ! 死なないで!」
 弓兵の片割れはトゥリと呼んだ女に覆いかぶさるようにして、半狂乱で泣き喚く。剣兵の一閃をかわしたリゲルの声が響いた。
「戦意がなければ殺しはしない! 身内を庇い、伏せていろ!」
「ひ……っ」
 泣き濡れた目で弓兵がリゲルとフィンを見比べる。斧を下ろした商人は、温和に微笑んだ。
「はい。ここで退いてくださるなら、お二人の命はいただきません。今後の貴方たち二人の安全も保障しましょう」
「う……、ほんとに……?」
「前例があちらに」
 すっとフィンの手が戦場からやや離れた位置を示す。二人の魔術兵がぐったりと倒れていた。
「いかがです?」
 その申し出を断るという考えは、弓兵になかった。
「よろしい。ではあのあたりで待機していてください。戦いが落ち着けば、回復も行いましょう。そちらの魔術兵さんたちは、もうその気力もないようですから」
 こくこくと何度も頷く弓兵の背を、フィンはそっと押す。
 片割れを抱えた彼女は、転びそうになりながら戦線から離脱した。

 少女の武器はすべて、氷の魔剣と化す。
 初冬の空気をさらに凍てつかせる零度の斬撃が、瀕死の剣兵に命中する。
 背中から倒れた剣兵の指先が、手からこぼれた剣の柄を握ろうとしているのを目の端に捉えながら、ラティーシャは切っ先を彼の喉元に向けた。
「剣を引く気はない? 子爵に貢いだ女性を解放して、二度と悪さをしないなら、生きれる、よ?」
 跳ねる呼吸をなだめ、ラティーシャは交渉を仕掛ける。セシリアのハイ・ヒールが、痛みを和らげてくれた。
「く……っ!」
「殺されたいなら、いいけど?」
 剣兵はしばらく沈黙していたが、やがて体の力を抜いた。
「回復はまだいいよね」
「ん。元気になって、余計なことされても困るから」
 死にはしないだろう。
 剣兵を一瞥してラティーシャは前方を見据え、魔力放出を行った。

 視界が揺れる、と思ったら手足に地面の感触を覚えた。
 ああ、さすがにちょっときついかな、とミルヴィは肩で息をする。
「でもサ……、ここで終わりなンて、そりャないよ……」
「そうだよ、終わりじゃない!」
「ぐああっ!」
 真横に感じていた敵の気配がひとつ、どさりという音とともに消えた。続いてミルヴィの傷が癒えていく。
 黎明の銘を持つ剣を手に、ミルヴィは再び立ち上がりつつ、倒れた剣兵の様子を目視で確認する。死んではいないようだ。
「まだ戦えるかな?」
「もちろン」
 機動力を生かして告死とハイ・ヒールをかけにきてくれたムスティスラーフに不敵な笑みを返し、ミルヴィはたじろぐ剣兵に斬りかかった。

「ひとつ、問う」
 倒れまいと剣を支えにして、リゲルは苦鳴を堪え指揮官を見据える。
「いずれ子爵は貴方たちを切り捨てる。捨て駒としての薄っぺらい人生は、楽しいか?」
「違うな。我らがいずれ子爵を切り捨てるのだ。今は従う振りをしているだけのこと」
「……貴族の騎士でありながら、忠義の心すらないとは」
 道徳心さえ失ったような邪悪な振る舞い。どこまでも卑劣な精神。
 深く、リゲルは息を吐く。
「穏やかな生活を壊した貴方がたにも、貴方がたを制御できない子爵にも、罪を償っていただこう」
「貴様たちが生きていたらな!」
 瀕死のリゲルにいまだ戦意を失っていない指揮官が斬りかかる。
「マリアたちは死なない」
「お前さんたちを捕まえて帰るからな」
「チィッ!」
 リゲルと指揮官の間にケドウィンが割って入る。エクスマリアは一片たりとも絶望をその瞳に宿さなかったリゲルに、治癒を施した。
「さて、残るは君だけだよ」
 最後の剣兵をむっち砲で気絶させたムスティスラーフが目を細める。
「まだやるかい?」
 ミルヴィがにっこりと笑った。
 特異運命座標に囲まれているとさとった指揮官が、呆然と剣を下ろす。

●戦闘終了
「これでよし」
「こっちも終わった」
 手分けして重傷の兵士たちにハイ・ヒールをかけて回っていたセシリアとエクスマリアが頷きあう。一か所に固められた兵士たちの表情は、それぞれ異なっていた。
 剣兵たちは自分たちの処遇を危惧するように青ざめ。
 魔術兵二人は遭遇したころよりも顔色がよくなっているようで。
 弓兵二人はどこか安堵したように肩を寄せあい。
 指揮官は視線で特異運命座標たちを射殺さんばかりだったが、ケドウィンに睨み下ろされると目を泳がせた。
「子爵の屋敷にはさらわれた女性がいるのよね」
「はい」
 素直に頷いたのは弓兵のひとりだ。剣兵たちや指揮官に睨まれ、首を縮める。ラティーシャは無言の攻撃を咎めるように、魔剣を軽く振った。
「子爵にはその女性たちを解放してもらわないと」
「皆様が二度と悪さをできないよう、契約書を用意しておく必要もありますねぇ」
 激戦があったとは思えないほどおっとりと、フィンが提言する。
「家紋のある装備品を回収。悪事の証拠として使う」
「そうだね。ああ、抵抗したら……分かってるよね?」
 淡々としたエクスマリアの案にムスティスラーフが頷き、脅す。子爵の私兵たちが各々、深浅の差こそあれ首肯した。
「他、貴方がたや子爵の悪事について、情報があれば聞かせてほしい」
 差し出された魔術兵二人分のローブを受けとりつつ、リゲルが私兵たちを見回す。魔術兵と弓兵が諦め半分の視線で合意したのが分かった。
「お偉いさんにも証拠として提出させてもらうよ。働け王様!」
 矢筒を受けとったミルヴィが、冗談とも本気ともつかない口調で言う。
「俺の方にも分けてくれ。ダチコーとコネ使って、関係筋に働きかけるからよ。ローレットに隠れて再犯されると、こっちのメンツが立たねぇからしてよー。そこんとこ、お偉いさん方も分かってくれるよなぁ?」
 にんまりと笑ったケドウィンは、剣兵のひとりから鎧をはぎとった。
「きっちり型にはめて、後腐れのない裏社会ライフを満喫しようぜ」
 邪悪な囁きに剣兵が震える。
「これからは、誰かを守るために生きてね。……自分たちが犯した罪を、絶対に忘れないで」
 決して許されない罪を、償い続ける人生を。
 私兵たちと子爵に与えられる罰を想いながら、セシリアは息をついた。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

お疲れさまでした。

このあと証拠類はしかるべき機関に提出され、子爵は青ざめながら使用人として働かせていた女性たちの解放に応じました。
現時点での爵位の剥奪はかろうじて起こらなかったようですが、悪名はしっかり広まりましたので、子爵家の名前がなくなるのは時間の問題でしょう。
兵士たちはローレット監視の元、社会奉仕を義務付けられました。
地元のダチコーさんたちや各種コネクションのおかげもあり、悪さをすればローレットに即通報、という処遇を与えられたようです。

ご参加ありがとうございました。よいお年をお迎えください。
来年もよろしくお願いいたします!

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