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シナリオ詳細

没落貴族と正義の劔

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 荘厳なる聖都フォン・ルーベルグ。白き都の騎士詰め所にて、イレギュラーズを待ち構えていたのはふわりとした金の巻き毛の少女であった。
「よくぞ、参られた」
 可憐なる朱色の瞳は熱意に燃え『ギルド・ローレット』より招いた賓客を丁重に扱う様にと、まるで『躾けの厳しい継母にでも言いつけられた』かのような動きを見せる彼女は一層深く礼をする。
「私はイル・フロッタ。この『正義の都』の聖騎士団の騎士見習いだ。
 まだ騎士として認められぬ故、御客人に無礼を働くやもしれない。予め、断っておこうと――」
「イル」
 徐々に弱弱しくなる声音。騎士見習いだという乙女は頭を垂れた儘、石の様に固まり「はい」とか細く声を返す。
「失礼、特異運命座標殿。彼女では出迎えは荷が重かったようだ。
 わざわざ、このような場所まで足を運んで頂いておいて、この無礼。申し訳ない」
 イルの背後より姿を見せたのは黒髪の青年だった。聡明な光を湛えた瞳は特異運命座標を値踏みする様にじろりと向けられる――天義に置いて神が絶対である以上、『寄せ集め(ローレット)』は依頼するに値するのかといった風でもある。
「……気を悪くさせたならば申し訳ない。私はリンツァトルテ・コンフィズリー。
 聖騎士団の一員だ。レオパル団長より皆の事は聞き及んでいる。此度も、宜しく頼む」
 淡々と告げる彼に釣られた様にイルはうんうんと大仰に頷いた。
 レオパル・ド・ティゲール――天義の聖騎士団の団長にして絶対的なる『正義の使徒』である彼と言葉を交わせるのならばリンツァトルテという青年は『それなり』なのであろうか。
 しかし、彼の風貌はそうは見えない。この騎士団の詰め所にいても彼は邪険に扱われるかのような、遠巻きで見られるかのような雰囲気を醸し出している。
「もう聞いているかと思うが、改めて説明させてもらう。
 私からの依頼は『背信』の疑い掛かるある司教の捕縛と彼と手を組んで活動していると思われる盗賊団の対応だ」
 聖都より離れた場所に位置すると村の司教は神の為と声高に言いながら、盗賊団に村々を襲わせているのだそうだ。
「……神への聖なる供物は他人より強奪してよいものではないのに」
 低く唸る様に言ったイルの言葉にリンツァトルテは頷いた。

 曰く――神への供物とし金品を寄越せと盗賊団は近隣を荒らしている。

「我らが『神』がその様な事を言う訳がない」
 憤慨するイルへとリンツァトルテは無言のまま頷き、彼女を諫める。
 今、ここで感情を露わとしても得るものはないと窘める様に言うその様子は乙女の教育係と呼ぶに相応しいようにも思えた。
「……申し訳ございません」
「構わない――イルが言う通り、騎士団では『神の言葉を騙り金品を強奪している』のではないかと疑っている。勿論、日中堂々と彼の許へ行けど、信心深い使徒として騎士団の前に顔を出すだろう」
 だからこそ、特異運命座標の出番なのだという。
 聖騎士団の一員ではない皆が『盗賊団』の新入りとして司教に近づき、その真意を確かめる。そして、盗賊団の活動を阻害し、盗賊団の捕縛を行う。
 正しく、『顔が割れていないからこそできる』行動だ。
「無用な『断罪』は行わないでくれ。我々とて、被害を出したいわけではない」
 リンツァトルテの言葉にイレギュラーズ達はゆっくりと頷く。
『背信』の疑いある者をその場で断罪しろという天義の依頼は噂にはよく聞いているとリンツァトルテは付け加えた。
 これは聖騎士団からの依頼だ。背信の嫌疑が掛かるものは引き渡してくれればそれでよい――断罪が必要であるかはそこからの話なのだから。
「――……よかった」
 ぼそり、と呟かれた乙女の言葉は酷く『寄せ集め(ローレット)』の者たちに似ていた。
 正義の遂行が為の断罪に可憐なる乙女は忌避感を感じているのだろう。それが己が未熟なためだと己に言い聞かせながら。
「さて、早速行こうじゃないか」
 胸を張り、笑みを溢した『見習い騎士』イル・フロッタ。
 何所か不安要素である彼女だが、騎士となるべく懸命であることは伺える。
「我々は『正義が為に』! ――ふふ、先輩方。ご教授頼むぞ」

GMコメント

 夏あかねです。
 正義のために。

●依頼達成条件
 1.司教『バドワーク』が『悪』である場合は騎士団詰め所への連行
 表向きは『神の言葉を遂行する使徒』たる彼に『背信』の疑いがかかった場合は連行してください。
 盗賊団の新入りとして皆さんは入り込み、彼を見定める必要があります。

 2.盗賊団の捕縛(生死は問いません)
 金品を強奪する盗賊団の働きは正義の使徒として許せぬことです。
 特にイルは彼らの行いを許すまじとしているようです。

●司教『バドワーク』
 聖都より離れた場所に位置する農村の司教。盗賊団を『信奉者』と呼び、金品を神々へと捧げるために集めているようです。
 強奪しているという通報が騎士団に入った事で調査対象となりました。
 村の聖堂に居る際は心優しい司教ですが、夕刻になると盗賊団(信奉者)の許へと足を運ぶようです。

●盗賊団(信奉者)
 行いはまさに盗賊団であるためリンツァトルテはそう称しました。
 荒くれ物ばかり集まった10人ほどの集団です。村の端に位置する廃屋を根城としているようです
「神様の声に導かれて」が彼らの中での合言葉のようです。仲間に入れて欲しいと告げれば簡単に承諾してくれることでしょう。
 司教の言葉を聞いて新たな村に金品を強奪する予定が今夜もあるようですが……。

●リンツァトルテ・コンフィズリー
 聖騎士団の団員。天義出身者ならば聞いた事があるのではないでしょうか……?
 名門『コンフィズリー家』が前当主クラフティ卿が正義に疑問を持ち異を唱えた事で没落したと言う事を……。その現当主たる青年です。
 依頼人です。『正義』たらんとする為、視野狭窄の気が強いようです。

●イル・フロッタ
 皆さんと共に盗賊を捕らえんとする騎士見習い。リンツァトルテについて回っている少女です。父が旅人であった事で、天義にある『正義の遂行』に忌避感があるのかと己の生まれを疎ましく思う反面、勤勉に努力すれば諸先輩と同じく『断罪』『正義の遂行』を行えるのではないかと考えています。
 指示があれば従います。基本的には軽やかに動くアタッカーと考えてください。
 放置しておけば正義に関して強い意志がありますので何かしらかアクションを行うかもしれません(リンツァトルテは『手がかかる』と再三言っていました)

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

どうぞ、よろしくお願いいたします。

  • 没落貴族と正義の劔 完了
  • GM名夏あかね
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2018年12月25日 22時00分
  • 参加人数 8/8人
  • 相談6日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

刀根・白盾・灰(p3p001260)
屑鉄卿
ヴィクター・ランバート(p3p002402)
殲機
ミニュイ・ラ・シュエット(p3p002537)
応報の翼
クローネ・グラウヴォルケ(p3p002573)
傷だらけのコンダクター
コーデリア・ハーグリーブス(p3p006255)
信仰者
レイス・ヒューリーハート(p3p006294)
復讐鬼
コロナ(p3p006487)
ホワイトウィドウ
ウィリアム・ハーヴェイ・ウォルターズ(p3p006562)
特異運命座標

リプレイ


 ♪――

 鼻歌交じりに進む『見習い騎士』イル・フロッタの傍らで『ホワイトウィドウ』コロナ(p3p006487)は悩まし気に呟いた。
「神への供物を奪い取る司教様ですか……。盗品を捧げられて神がお喜びになるとでも思っているのでしょうか」
「うむ。その通りだ。神は盗品を捧げられて決して喜ぶことはない!」
 コロナの言葉に大仰と称せるほどに頷いたイル。彼女と共に『掲げられた使命』を胸に宿した『殲機』ヴィクター・ランバート(p3p002402)は正義という言葉を反芻する。
「曖昧なものを掲げる者は困難を要するものである。しかしそれは上に立つ者が負うべき責務。
 上に立つ者がそぐわぬ行動を成している時、結果は時に残酷なものを運んでくる事は彼等も知って居よう」
 うむうむと頷くイル。ヴィクターは『揺らぎ』を感じさせないかの様に淡々と希薄に告げた。
「尚、この場合のそぐう行動とは、正しさではない。そして正しさと立場は時に相反する事もある。
 本機を扱うオーナーにはよくよく考えた行動を成してほしいと希望する」
「正しさと立場が相反する――」
 神妙な表情を浮かべるイルに『特異運命座標』ウィリアム・ハーヴェイ・ウォルターズ(p3p006562)は「何とも複雑なものだね」と静かに告げる。
「正義の使者と呼ぶべきか、それとも断罪すべき罪人であるか。さて……」
「その調査をせよ――ということですが。さて、此度の司教は真に『悪』であるのか……確かめましょう」
 悪は断罪されるべき。それが天義という国民性であり、天義の掲げる正義なのだと『信仰者』コーデリア・ハーグリーブス(p3p006255)はよくよく理解していた。
「……正義を信じる為には盲目であれ、神を信じるなら恐怖せよ……。
 ……結局は正義も神も自分勝手ッスよ……裏を返せば不正義も悪魔を作るのだって自分次第だ」
『傷だらけのコンダクター』クローネ・グラウヴォルケ(p3p002573)の溜息交じりに告げられたその一言に、イルは「不正義」と不安げに小さく呟いた。
「そうですね……うむうむ、正義も不正義も『様々』ですからなぁ……」
『屑鉄卿』刀根・白盾・灰(p3p001260)は司教『バドワーク』の聖堂がある農村の外から周囲をぐるりと見回した。
「神への供物として民衆から略奪を! いやぁ……悪い事考えますな!
 市民からも慕われているそうですし、多分改心も早いでしょう。上手くやらねば!」
「あ、ああ……! きっと――きっとそうだな」
 改心してくれたら無意味な断罪は必要あるまいとイルはへらりと灰へと微笑む。その表情を見れば幼ささえも感じさせる彼女だが、天義に住まう以上は騎士となるべきと強く思う彼女に『応報の翼』ミニュイ・ラ・シュエット(p3p002537)は「コンフィズリーの。あなたのセンパイが『あのコンフィズリーの現当主』、なんだね?」と何所か詰まらなそうに言う。
「断罪された記録位なら見た事あるけど……なんだ、どこにでもいる聖騎士って感じだね。つまらない」
 それは『天義』の在り方を是とはしないミニュイの言葉だったのだろう。聖騎士と聖職者を嫌悪するミニュイを見遣りながら『復讐鬼』レイス・ヒューリーハート(p3p006294)は小さく鼻鳴らす。
(流石『コンフィズリー家』の現当主。『正義』に対して人一倍強いと見える。
 イルという見習い騎士も正義感が強い有望な騎士だろう……願わくば俺が行える『復讐』に相応しい『悪』であった欲しい)
 レイスやミニュイが言う『コンフィズリー家』。イルの先輩であるリンツァトルテという青年は不正義として断罪されたクラフティ卿の嫡男だ。名門である家を没落に追い込んだ父を毛嫌いし正義たらんとするリンツァトルテの視野狭窄ぶりは騎士団から特異運命座標を送り出す際にも感じられた。
「正義とはなんなのだろうな……?」
 イルは小さくぼやく。その言葉にコーデリアは目を伏せて「さあ、どうでしょう」とだけ返した。


 村の中を歩むイルはそれぞれの役割を果すべく散らばる特異運命座標に首を傾げる。
「イル様は私とですよ。見習いとはいえ騎士団所属、盗賊団に仮入団させるわけにもいきません」
 柔らかに告げたコロナにイルははっとした表情を浮かべ大きく頷いた。実の所、正式な騎士ではないイルは『暴走癖』がある。手柄を上げんと大声で騎士の何たるかを騒いだ際はリンツァトルテに拳骨を喰らったともイルは道中に『武勇伝の如く』コロナに告げていたのだ。
「あ、ああ、じゃあ、私は――」
「ギフトが切れますから、目は開けません。なので夕刻、聖堂が暗いなら日誌などは私が見つけますが、『文字』は貴女が読むのです。わかりましたか?」
 特異運命座標が世界から齎される『贈物』。コロナの聴覚は情報収集には打って付けだと告げられ、そして『文字』を任されたとイルが胸を張る。
 ……どうにも単純で『任務のためなら』扱いやすい少女であるのは確かなようだ。
 鼠が聖堂の中を走り回っている。進むレイスの背を眺めながら聖堂の椅子に腰かけたウィリアムは美しく光差すステンドグラスを眺める『ふり』を見せていた。
 コネクション、そしてカリスマを発揮したレイスは村の様子をぐるりと眺める。
 椅子に腰かけていたレイスが村人より耳にしたのは司教は誰よりも優しいのだという事だった。街に居るならず者たちにも施しを与えていると告げた村人が首を傾ぐ。
「神がそうせよとおっしゃったのかしら……? 少ないパンをならず者にもお渡ししているけれど――彼らが人殺しや罪を働いたとき、司教様はどうなさるのかしらね」
 囁く村人の声に耳を欹てたウィリアムが首を傾ぐ。レイスも『村人は司教がならず者に簡単な食事の支援をしている』事しか知らないのだと認識した。
 イルと共に往くコロナは村の青年が「司教様は羽振りがいいんだ」と喜びを感じさせる声で言った事が気にかかっていた。
「羽振りが良い――?」
「ああ。最近の司教様は村の商品を高値で買い取ってくださるんだ。まあ、聖堂にはそんなに金はないはずなんだがなぁ……」
 曖昧な表情を浮かべた青年にイルは「確かにその様な贅沢が出来ることもないだろうが……」とコロナを見遣る。
「一つ情報として得ておきましょう」
 囁くように言ったコロナは「金品はどなたかからの寄付でしょうか?」と青年に疑問の様に聞いたのだった。

「……潜入の際、分け前とか貰ったりしても良いんですかね? むしろ貰わなくては怪しまれるかも! あっ、これ冗談になりませんかね……?」
 冗談の様に言った灰は「イル殿が聞いていたら大騒ぎでしたな」と小さく笑う。
 彼女の正義たらんとする性格は実直であるが故に分かり易い。幼い子供の様に「それはダメだ」と騒ぐことが安易に想像できた。
 扱うオーナーには自身の取り扱いには気を付けて欲しいと言っていたヴィクターは『課せられたオーダー』に従うが如く盗賊団の根城たる荒れた場所をきょろりと見回す。
「……もし、司教が本当に神の声を聞いたと信じ、その忠実な使徒として略奪に及んでいたとしたら、どうするんだろうね?」
 ミニュイが小さく呟いた言葉にヴィクターは「オーナーはどの様に判断するか。本機はその判断に従うのみだ」と淡々と告げる。そうなのだ。ヴィクターがオーナーに従う様にこの国は神の詔に重きを置いている。
 司教が私利私欲のために動いていたならば『断罪』を。しかし、忠実なる使徒であった場合は聖騎士団は『理不尽な断罪を課す』のか、それとも――
「盗みを働いてもそれを是とする……実に都合がいい『神』を生み出したものっすね……」
 ミニュイの言を聴きながらクローネは静かに息を付く。凡庸なる人を演じる様にコーデリアは様々な思惑をその胸に秘めた仲間を見遣りながら静かに言った。

 ――神様の声に導かれて。

「お仲間か?」
 盗賊団の青年が囁く声がする。コーデリアは人好きする笑みをわざと浮かべ「ええ」と頷いた。
 ファミリアが廃屋を走り回る。クローネは壁に沿い「……ええ、私は信仰心に溢れた敬虔者ですとも……」と静かに頭を垂れる。
 口が酸っぱくなるような想いをさせながら合言葉を口にしたミニュイは彼らの様子から『あまりに疚しさを感じさせない』と感じていた。
「襲撃の計画は今回から参加しても良いの?」
「お仲間ってんならな」
 くつくつと喉鳴らして笑った盗賊にミニュイの表情が僅かに歪む。灰はその様子から襲撃に関しては罪を感じてはいないのだと認識した。
(非道であるかと言えば、悪党にしては余りにフランク過ぎる様子なんですよなあ……)
 灰の傍らでヴィクターは淡々とその言葉を聞いていた。襲撃の計画や彼らの語る夢物語。
 それは余りにもこどもの描いた落書きのように馬鹿らしく――そして、リンツァトルテ・コンフィズリーが聞けば神を愚弄していると良かったことだろう。


 集めた情報を手に、特異運命座標はバドワーク司教と相対していた。
 襲撃の計画は子供じみていた。まるでならず者を盗賊団を纏め上げ、遊ばせているかのような感覚さえミニュイや灰は覚えていた。彼らはならず者と称されたが敬虔なる神の使徒であることをクローネは『呆れながら』も感じ取っていた。
 寧ろ、『都合のいい神様』が盗みを是としたからこそ生きていけるという様な期待に満ち溢れた様子だとコーデリアは仲間に告げていた。
「御機嫌よう。バドワーク司教」
「御機嫌よう。ああ、生憎だが――今日のお祈りの時間は過ぎてしまった」
 バドワーク司教が人好きする笑みでウィリアムへと告げる。その傍らで、ミニュイは静かに目を伏せる。
「司教、神様の声は」
 吐き気がするような、そのセリフ。
「――神様の声は、聞こえる?」
 バドワーク司教はええ、と敬虔なる使徒の様にそう言った。強き意思を込めた瞳を細めて。
「おかしいっすね……? 神は盗品を捧げられて喜ぶものか……」
 呆れの色を込めたクローネの言葉に柔らかに頷くコロナは「神はその様な下賤な品をお喜びにはなられないでしょう」と囁く。
「盗品? 何のことかな」
「なんのこと――こちらが正義、あらゆる事に置いて悪を裁くのであれば潜入も盗み見も赦されるはずッスよ……。……正しく、お前らのように」
 告げるクローネの言葉にバドワーク司教の目が細められ――コーデリアは微笑んだ。

 神様の声に導かれて――

 司教の目が見開かれる。彼がゆるゆると後退し、パンの入ったバスケットをコーデリアへと投げつけた。
「ッ」
 目晦ましか、と彼女が顔を上げると同時、灰は周辺の盗賊をひきつける様に刃抜き声を張る。
「司教の助けに向かわんとしますか――貴殿らの技前は私を避けねばならぬ程度とみて良いので?」
 似合わないかと笑う灰を支援するようにヴィクターが盗賊団の青年達を巻き込む様に攻撃を放った。
「逃げるという事は悪を認めるという事か。バドワーク司教!」
 張り上げたイルの声。コロナはそれを止める事無く「神の聲というならば、その意思を示しなさい」と強き想いを籠め、そう言った。
「ならず者と荒くれ者と、呼ばれた彼らを『神がお見捨て』になったというだろう、聖騎士団」
 バドワーク司教は振り仰ぎ、特異運命座標へと云う。
「人命が貴い者だとお言葉にしたのは誰だ? 輝かんばかりの金品を一人抱え込む悪意溢れる人々より我々がこの寂れた村に金品を渡すことの何処が間違いだというのだ」
 ミニュイは「間違いは神を騙った事だろうね」と詰まらなそうにそう言った。
「神に――神に――そう、神だ。神が民を救えとお言葉を下さったならば、これしかないだろう!?」
「それが他者を貶める行為だとしても、ですか」
 コーデリアはその手を休めず攻撃し、バドワークと相対した。
「ああ、そうだ」
 神が救えというならば、手段は問わない。何故なのか、それは敬虔なる神の使徒として祈り捧げ願い続けた自身の使命だとバドワークは知っているからだと笑った。
 振るう刃を収めたレイスとクローネは殺さぬ様にというのは難しいと抵抗を見せた盗賊団の青年達を捕縛する。
「――結局、」
 青年の囁く声がレイスの、ウィリアムの耳朶を滑った。
「神様なんていないんだ」
 信じていた自身らを許容する神などいない。道を違えたものに神は余りに優しくないのだ。


「神様の名前で誤魔化すのはよくないと思うけれど……まあ、続きは騎士団の人達と話すといい。罰も彼らが決めてくれるだろうさ」
 淡々と告げたウィリアムは盗賊団とバドワーク司教を騎士団員に手渡した。
 捕縛した彼らが俯き、神の名を呼ぶその様子に『天義らしさ』を感じたミニュイはふい、と目を逸らす。
 誰も彼もが神という視えもしない存在の掌に踊らされているのだ。騎士団ではその罪をどう判断するのだろうか。それを問い掛ければイルは解らないと首を振る事だろう。
「ううむ、多分上手くいった……はず。
 あまり悪い事は考えず実直に行った方が息の長い商売ができるのでしょうな。私も身の振り方の教訓としますぜ」
 頬を掻いた灰は身の振り方は難しいものだと溜息を交える。
「……今回の依頼で貴女の『正義』は見つかったか」
 問い掛けるレイスにイルは曖昧な表情を見せた。正義たる毅然とした態度をとるであろうリンツァトルテと比べればイルは余りに平凡な少女だった。
 正義とは何かと問われれば彼女は何処かぎこちなく笑みを見せるだけなのだ。
「イル様。真に悪を罰するためには、その偽装の殻を剥ぎ取るために正義とは思えない行動が必要になるのです」
 淡々と、しかして柔らかに告げたコロナの言葉にイルは「正義とは思えない行動、とは」と声を震わせる。
「断罪は、正義だと国家は掲げる。私は――私はそれを『ひとごろし』だと思ってしまうのだ。
 ああ、いや……忘れてくれ。私が未熟故、神を愚弄することを言った。神に謝罪をせねば、ならないな」
 乙女のその瞳に落ちた影にウィリアムは困った様に笑う。まだ、彼女は幼い。それ故の苦悩であるのは十分に見て取れる。
「人は苦労して手に入れたものほど大切にする性分だからね。おかしい事じゃない。
 色々なものを見て、沢山考えて、心の中の正義を鍛えるといいと思うよ」
 その心に培った『確かな感情』は決して無駄ではないのだと、告げられた言葉にイルは俯く。
「『正義』とは何なのでしょうね」
 静かに、コーデリアはそう言った。イルはその言葉に何所かぎこちない表情を浮かべる。
「国の掲げる『正義』に私は未だ――未熟故、馴染めていない」
「ええ、しかし……天義のそれと己の意志と……取り違えぬようにして下さい」

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

 お疲れさまでした、イレギュラーズ!

 このイル・フロッタという少女は何とも『難しい』相手です。
 国家や、そして、リンツァトルテ・コンフィズリーが正義の為ならばと剣を振るい断罪を行えるのとは対照的にイル・フロッタは『行き過ぎた』と特異運命座標が感じる断罪を同じように苦とする少女です。
 未だまだ、皆様と関わる機会が多くなるであろうイル・フロッタ。どうぞ、よろしくお願いいたします。

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