シナリオ詳細
鏡面館のミラージュ・ゲイト
オープニング
●遺跡の中の鏡面館
まるで異世界に迷い込んだようだ。
その場所に辿り着いた冒険者デリー・ルガスはそう手記に残した。
幻想北西部にひっそりと存在する洞窟を進むと、一つの巨大地下遺跡が見つかる。
その遺跡を進む者は皆明かりを失い、方向感覚を失うという。
そうして辿り着く先には、小高い丘の上の異質な館。
地下の巨大空間――本当に地下に存在しているのかすらも怪しいが――に無機質に建てられたその館は外も中も一面鏡で出来ているという。
鏡面館。
デリー・ルガスはそう名付け、どのような経緯で建てられたのか、何かに惹かれるように、デリーは一心不乱に調査に当たったという。
そうしていくつかの手記を残しその存在を明らかにしたまま、デリーは消息を絶った。
後に残されたのは、同じ手順を踏んでも辿り着くことができない、謎に満ちた鏡面館という存在だけだった――
●魔導図書館からの依頼
「その鏡面館への到達方法が発見されたのです」
経緯を説明していた魔導図書館――ディオーネ図書館の司書クレアが、そう口にした。
デリー・ルガスという冒険者が見つけた異質な世界の異質な館。
デリーが消息を絶って以降、ついぞ見つけることの出来なかった侵入方法がわかったというのだ。
「しかし問題はその到達方法、鏡面館にあるわけではないのです」
歴史的な発見のようにも思えるが、そこに意味は無いと、クレアは言う。
クレアと共にいた同じく司書のリィラが説明を引き継ぐ。
「……鏡面館地下に、恐るべき邪神を引き込む魔導書の存在が確認されました。
魔導書の名は、『ミラージュ・ゲイト』
鏡で構成された異世界の書物と呼ばれる魔導書です」
表情の乏しいリィラが淡々と説明をするが、それは聞くだに恐ろしさを想起させるものだ。
「魔導書の力が暴走しているのか。はたまた、邪悪な意思を持っているのかは不明ですが、鏡の世界に住まうと呼ばれる邪神アモー――それを鏡面館という鏡の集積体の力を利用して呼び込もうとしています。
これを放置することは後の歴史に大きな爪痕を残すに違いないと、我々ディオーネ図書館は判断しました」
混沌中の魔導書の封印・管理を担うディオーネ図書館はこうした危険な魔導書に対処することも仕事という。
「本来であれば我々で向かって魔術的な封印を直接施し、持ち帰って完全に封印をするところなのですが、すでにアモーの力が鏡面館を包んでいるようなのです」
調査に向かった冒険者達が命からがら逃げ出してきたそうだ。
対応に困ったクレア達魔導司書は、状況を鑑みて、実力も実績もあるローレットへと依頼として持ち込んだというわけだ。
「すぐにでも封印して持ち帰らないとなりません。
どうか、お力をお貸し下さい」
粛々と頭を下げるクレアとリィラ。横にいた『黒耀の夢』リリィ=クロハネ(p3n000023)が悪戯っぽい微笑みを見せながら口を開く。
「以前から相談されていた件だけれど、どうかしら?
面白そうな案件じゃないかしら? 興味も湧いてきたんじゃない?」
そう言って、情報をまとめたリリィが依頼書を差し出した。
邪神というのは眉唾ものだが、地下にぽつりと存在する鏡面館に、鏡で構成された魔導書というのも興味はある。
イレギュラーズは依頼書を受け取ると、クレアとリィラと実際の役回りなどの相談をはじめるのだった。
- 鏡面館のミラージュ・ゲイト完了
- GM名澤見夜行
- 種別通常
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2018年12月06日 21時55分
- 参加人数8/8人
- 相談7日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
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参加者一覧(8人)
リプレイ
●ミラーワールド
魔導司書クレアとリィラの案内で、イレギュラーズの八人は幻想北西部の遺跡の内部を進んでいた。
最初こそ、確りと形作られた遺跡であったが、奥へと進むほどに、洞窟の様相を呈してきて、些か不安を覚える道中となる。
そして、極めつけは行き止まりと思われる横道に辿り着いた時の事だ。クレアとリィラはこの先にこそ鏡面館、そして魔導書”ミラージュ・ゲイト”があると言う。どうみてもただの岩壁にしか見えないその先がだ。
「では参りましょう」
クレアの指示に従い手を繋いで壁に向かって進む。奇妙な感覚が身体を襲うと同時に、先頭のクレアから順番に、岩壁に飲み込まれていった。
壁の向こうは暗く、そして妙な重圧。一瞬にして足場がなくなる浮遊感と逆さになる転回の感覚。湧き上がる気持ち悪さを抑えながら”前へ”と進んでいくと、突然パァッと視界が開けた。
「こいつは……本当に遺跡の中か?」
『黒キ幻影』シュバルツ=リッケンハルト(p3p000837)の呟きは、その場にいる全ての者が感じたものだろう。
空と思しき天がある。
混沌に召喚されたときのような、見知らぬ空に心を動かされながら地面を踏みしめ進むと、小高い丘の上にそれは建っていた。
「本当に……すべてが鏡で出来た館、ね。
こんな物が存在するのならば、瑪瑙の大地に七色のオーロラで覆われた空、なんて世界もどこかにありそう」
自身の姿と”空”が映り込む鏡面館の壁面を眺めながら、『レジーナ・カームバンクル』善と悪を敷く 天鍵の 女王(p3p000665)が、ほぅと感銘の息を漏らした。
「凄い! 僕が一杯いる! これ面白いね!
お爺ちゃんワクワクだよ!」
年甲斐のなさはいつもの事だが、『髭の人』ムスティスラーフ・バイルシュタイン(p3p001619)が驚きと興奮ままに手を振ったりして、鏡像を楽しむ。
「あまり長居するのも不安になるところです。
手早く用件を済ませてしまいましょう」
リィラの言葉に頷いて、イレギュラーズは仕事モードへと移る。
「鏡の破壊に際してのデメリットはないように思えますね。
異界の邪神アモーと言うのが、破片から出てくるかどうかは――実際見てみないとわかりませんか」
検証する『叡智の捕食者』ドラマ・ゲツク(p3p000172)がそう結論づける。鏡を割れば、その下地は不透明の壁だ。
問題はペンキだ。
「うーん、効果はあるように思えるけど……これを見て。ペイントしたところがすぐに綺麗になっちゃうよ」
ペイントガンを構えた『タント様FC会員No.1』シャルレィス・スクァリオ(p3p000332)が確認をとるように言う。
レジーナが頷いて、鏡にそっと指を触れた。
「この鏡……魔力で編まれた特殊な物質ね。ご覧なさい、指紋や泥をつけても同じようにすぐに磨かれてしまうわ。
汚れが付いてる時間は十秒。その後十秒はどんな汚れも弾いて受け付けなくなるわね。それが過ぎれば、また同じように汚れをつけられるようだけれど」
無機疎通で鏡面館の鏡――その特性を感知するレジーナ。見事に特性の解明ができたことで、後の戦闘に優位な情報を得る事ができたといえるだろう。
未知とも呼べる異質な館を前に、イレギュラーズと司書の二人はいよいよ、地下でその力を振るう魔導書を押さえる為に、鏡面館の繊細な扉を開き、内部へと侵入する。
「すごいです。調度品まで鏡ですね。少しくらくらします」
設えた鏡の調度品を眺めながら『■■■■■』Selah(p3p002648)が言葉を零す。
「事前に鏡で出来た館とは聞いてはいたが、実際に見ると気味が悪いな!」
シュバルツの言葉に誰もが頷く。
「すべてが鏡でできたこの館でアモーとやらは触腕でどこからでも奇襲ができる、か。
……厄介極まりない」
実際に目の当たりにして、その厄介さを実感する『ShadowRecon』エイヴ・ベル・エレミア(p3p003451)が油断なく周囲を観察する。
「おっと、男性の皆さんは下方見るのは禁止すよ。丸見えっすからね」
しれっと言った『簒奪者』ヴェノム・カーネイジ(p3p000285)の言葉にスカートを履く女性陣がばっとスカートを抑える。そこはまあスルーすべきか悩むところだが、一応ね。
「……コホン。それでは地下へ参りましょう。こちらです」
クレアの案内で、廊下を通って一際大きい扉を開ける。広間へとでると、中央、テーブルがずらされて、その下に地下へと至る階段が見えていた。
鏡の階段を不安げに降りながら、地下へと至る。
青白いろうそくの炎が揺れ、魔術めいた祭壇のようにも思えるその地下室は、四方を巨大な鏡が囲っている。
「あれが、魔導書”ミラージュ・ゲイト”です」
中央、鏡に浮かぶ上下の魔方陣に挟まれるように、中空に浮かぶ一冊の書。鏡で出来た頁に発光する文字が浮かんでいる。
「すぐに封印術式に入ります。
リィラ、準備はいいかしら?」
「はい。いつでもいけます」
「及ばずながら私も本職は書の管理にあります。力をお貸ししましょう」
「我(わたし)も力を貸しましょう。遠慮無く申しつけなさい」
ドラマとレジーナが手伝いを申し出て、四人を中心に取り囲むように円陣を組む。念のため、四人の立つ床の鏡を割っておいた。
「では、いきます。
――術式起動、知識の泉に接続――」
クレアとリィラを中心に魔力が広がる。枝分かれする魔力の経路がミラージュ・ゲイトへと無数に接続されていく。
瞬間。
飛び上がるほどの悪寒と生毛が狂い立つ邪悪な気配を感じた。そして強烈な吐き気と共に、見開いた目が、その”瞳”を捕らえた。
地下室、その一面に広がる鏡に夥しい数の”瞳”が見開かれたのだ。
「チッ、気味悪いな!」
まるで観察するようにギョロギョロとイレギュラーズを見つめる”瞳”。そしてミラージュ・ゲイトと結ばれる魔力経路を見定めると――ニンマリと喜色の笑みを”瞳”が浮かべた。
感じる殺意、感じる悪意。まるでバラ撒いた罠に獲物が掛かったのを喜ぶように。
瞬間、イレギュラーズは理解した。自分達が邪なる悪魔の胃袋の中にいることに。
「くるぞ――」
エイヴの合図と同時、夥しい無数の”瞳”の幾つかが、触腕へと姿を変えて地下室に顕現した。
●封印履行
無数の”瞳”に観察されながら、八本の触腕がイレギュラーズを捕まえようと伸びてくる。その動きは、まるでいたぶるように無邪気に――相手の強度など考慮せず――強烈な叩きつけを見せてくる。
触腕に吹き飛ばされながらも、イレギュラーズはすぐに触腕の対処に乗り出す。触腕の弱点を見いだし防御を無効化する必殺の一撃は、確実に触腕を鏡の中へと撤退させる。
触腕が鏡の中へと戻ったその時が、イレギュラーズの鏡面対策が活きる瞬間だ。
「効果時間はあるようですけれど――」
「こっちも時間を稼げればいいからね!」
すばやく動くドラマとシャルレィスがペンキを鏡にぶちまけていく。時間にして僅か十秒の猶予、しかしその十秒の積み重ねこそがこの依頼では肝となる。
ペンキで汚されたことで出現する触手の数は減る。減った触手は、即座に対応し鏡の中へ撤退させる。
「ぶっ壊すぞ!」
シュバルツのナイフ持つ『傲慢な左』が触腕を切り裂き鏡の中へ逃げ帰らせると、勢いままに連続行動で、不気味に観察する――鏡に映る”瞳”を突き刺す。飛散する金切り音と共に鏡の破片が落ちる。
見下ろしたシュバルツはギョッとする。散りばめられた破片にも”瞳”が存在し、小さくなった触腕が破片の数だけ伸びてきては、捻り絡まり一本の巨大な触腕へと姿を変えた。
「破片はだめだ! 割らないように気をつけろ!」
即座に仲間へと喚起する。無駄に敵を増やす必要はないのだ。
「――! 真上、来ました」
ドラマとレジーナへと支援を向けるセラが、直上から現れた触腕を確認して声をあげる。
前衛陣がフォローに入ってくれるまで、封印術式を手助ける二人をカバーするのはセラの役割だ。
叩きつけられる強靱な触腕の一撃に、身体の内部から痛みが広がる。しかし不滅の肉体を持つセラは瞬時に再生し立ち上がった。
「むっち砲で根こそぎ……と行きたいけれど、鏡を壊しちゃうのはよくないよね。
仕方ない、ここは地道にお帰り願おうとするよ!」
ムスティスラーフが貫通力に優れた槍を振るい、必殺の一撃をもって触腕を撤退させる。
鏡の破壊が効果的であれば、ムスティスラーフの得意とするむっち砲がかなりの効果を見せたかもしれないが、状況的に使用し辛くなってしまったのは残念だ。しかし、しっかりと状況に合わせて立ち回ることで、確実に触腕を撃退することに成功していた。
「足下の注意が必要ね。
『潰し』てしまいなさい」
ギフトによって名状し難き魔物を使役するレジーナが指示すると、魔物が足下の鏡の破片を集め、その上にペンキを塗っていく。
足場を確保するために割ってしまった足下の鏡だが、割ってしまったものは仕方がないと、割り切ることも必要だ。
できる限り死角を生み出さないように破片を一箇所に集めておいた。
触腕が一番に狙うのは、やはり魔導書と接続している司書二人だ。
その二人を鏡面館侵入からずっと傍で守っているのはヴェノムである。
「出現の予兆……は理解したスが、出現パターンは完全ランダムすね。しかも時間が経つ事にどんどん数が増えてるスね……こいつはマズイすよ!」
触腕が現れる前、必ずその場所の”瞳”が閉じる。ここまでは理解できるが、その”瞳”が閉じるパターンはランダム。そして徐々に増える数。
一人で二人を庇うことは到底叶わず、多くなればなるほど、触腕を後ろへと通してしまう。
「きゃぁ――ッ!」
「大丈夫ですかっクレア――」
「平気よ、少し掠っただけ……続けましょう」
司書の二人もよく頑張っている。ヴェノムとイレギュラーズの頑張りのお蔭で触腕の直撃を免れてはいるものの、その肌に痣ができるほどには傷を負っている。それでもなお、封印術式を極力止めずに繋いでいた。
「面倒な位置からでてくるが……やりようはある」
エネミーサーチを用いるエイヴは、捜索スキルとともに合わせて触腕の予兆を手繰る。仲間達と連携し声を掛け合うそのポジションは司令塔といっても良いだろう。
遊底(ボルト)を操作し弾薬を装填し、即座に狙い撃つ。一つ触腕が鏡に帰っていくのを確認すれば、続けざまに遊底を操作して第二射を構える。広い地下室の奥から伸びる触腕目がけて放たれた弾丸が見事に直撃し、触腕を引きちぎって破裂させた。
封印術式の履行まで半分を切った頃になると、地下室はまるで触腕の海のように、鏡から伸びる触腕で一杯になっていた。
足下からは触腕が伸び、イレギュラーズ達の足を絡め取ろうと動く。天井から伸びる触腕は腕と頭を、四方の壁から伸びる触腕が身体を押さえようとヌラりと艶めかしい動きを見せた。
また身体を押さえようという動き、それだけではない。
触腕の先についた吸盤めいた部位から紫の霧を吹く。室内に充満するようにもたらされた身体を蝕むその霧に、イレギュラーズは噎せ返り悪態付く。
「術式の邪魔をさせるわけにはいかないよ!」
ムスティスラーフが恐怖を打ち払う破邪の結界を生み出す。不測の事態を見越して対応を考えていたことが功を奏し、地下室に充満する霧の効果を打ち消す事ができた。
「とにかく二人に近いところから、数を減らしていくしかないよ!」
司書二人の庇いをフォローしながらシャルレィスが声を上げる。すでにヴェノム一人では庇いきれる状況になく、広げていた円陣は徐々に小さく狭まっていった。
「後手に回り続ければ援護にも限界がくることでしょう。
一掃することも考えねばなりませんね」
召喚物による支援を重ねながらセラが苦慮する。範囲攻撃による一掃は、鏡の破壊を招き、そこから倍増する触腕に追い詰められる事となる。
しかし、すでに室内を蹂躙する触腕の中にあって、これ以上増えたところで状況は変わらない。で、あれば、一掃することによって生まれた一時的な状況有利を利用して体勢を立て直す、ということも考慮にいれて然るべきだろう。
「一掃しペンキで時間を稼ぎましょう。
タイミングを合わせてください――!」
ドラマの合図で、ムスティスラーフとエイヴが構える。
「嵐の王、力をお借りします」
「全力! 全開!!」
「貫け――」
ドラマの手にする魔導書より顕現する猛き暴威の一端。それに合わせて、ムスティスラーフが吐き出した緑の閃光が乱反射する。そしてエイヴの放った全てを穿つ死の凶弾が、次々と触腕と鏡を破砕していった。
「チャンスだね! ペンキを喰らえっ!」
「どうせ残り僅かだ、盛大にいくぞっ」
シャルレィスとシュバルツが一斉にペンキを、壊れ破砕した鏡にぶちまける。
床に散らばった鏡は封じた。壁に残った鏡の破片からすぐさま触腕が現れる。
「最後まで、やらせないスよ!」
司書二人へと伸びる触腕の攻撃をヴェノムが身を挺して防ぐ。その隣では同様にドラマとレジーナを守るセラが触腕を防いでいた。
二人の献身的な介護は最後まで続き、パンドラを消費する代償を払うも、結果術式の履行を三十秒縮める事に成功するのだった。
そして、ペンキの効果が消え去り、大量に湧いた小型の触腕が絡まり巨大となる中で、クレアとリィラの声が上がった。
「――封印術式の完成を確認!
魔導書ミラージュ・ゲイト――其の力、其の記憶、知識の泉に沈みて、永久の眠りにつけっ!」
「封印、履行します――」
クレアとリィラを中心に目映い輝きが発せられ、地下室を包み込んだ。
細めた瞳を静かに開くと、地下室を蹂躙していた触腕の姿なく、場は静謐に包まれていた。
「……ありがとうございました。この通りミラージュ・ゲイトの封印を完了しました」
クレアが鏡で出来た魔導書を手にし、頭を下げる。
「ふう……なんとかなりましたね。
……あの、それで……少し見せて頂いても良いですか?」
待ちに待ったその時を迎えウズウズが止まらないドラマが出し抜けに尋ねる。セラも気になっているようでじーっとミラージュ・ゲイトを見つめていた。
「そうですね……すぐにこの聖骸布に包んで物理的にも封印するところですが、良いでしょう。特別なので、内緒ですよ?」
その答えにパァと明るい顔を見せてドラマが魔導書を手に取った。
鏡張りの表紙をめくって中を確認しようとしたとき、鏡面館に異常が起きた。
「な、なんだ――!?」「え、なに――!?」
驚きの声を上げるシュバルツとシャルレィス、そしてエイヴがその薄い目を見開いた。
「逃さない――だと」
再生する鏡。一面が真っ赤に染まり、血よりも濃い黒赤が呪詛を浮かべていた。
●脱出
イレギュラーズは本能的な危機を感じて一斉に地下室を飛び出した。
その後ろからは黒赤の液体――のようなもの――が蠢きながら迫ってきていた。
広間へでると床から、天井から、壁から――鏡の全てから黒赤の”なにか”が滲み出てイレギュラーズを追いかける。
「あれはなんだ!?」
「わ、わかりません――! 魔導書の封印は確実に行われています。ミラージュ・ゲイトの力ではない、なにか別の力としか――!」
「とにかく逃げるんだよ! 見て! どんどん鏡が溶けて行ってる!」
広間を飛び出し廊下へと出る。
駆けながら入口へと向かう途中で、レジーナが足を取られ倒れた。”何か”が纏わり付くようにレジーナを包み込み、一瞬にして意識を持って行かれた。
「くっ、置いてかないスよ!」
「引き起こします――」
咄嗟にヴェノムとセラが引き起こす。二人で抱きかかえながら入口へと駆ける。天井から落ちた”何か”が阻むように人の形を成した。
「邪魔です――!」
「どいてぇ――!」
ドラマが放つ蒼剣直伝の剣閃が”何か”を切り伏せ、シャルレィスの怒濤の連撃が”何か”を粉微塵に吹き飛ばした。
入口の扉前、駆け出そうとする視線の先は”閉まっている”。
「扉が閉まってる……! なら――!」
エイヴが瞬時の判断で即座に手にした対物ライフルを放つ。轟音と共に扉が破砕され、光が飛び込んだ。
転がるように外へ飛び出ると、歩みを止めずに出口へ向かって走る。
振り返ってみれば真っ赤に染まる鏡面館がドロドロと溶けていくのがわかった。
無事に遺跡の外へと脱出することに成功したイレギュラーズは、それから数日経った後、司書の二人から”その後”を聞く事になる。
遺跡と鏡面館を繋ぐ”壁の入口”は通れなくなり、二度と鏡面館へは行けなくなったこと。
魔導書の封印はやはり完璧で、なぜあのような事態が起こったのか不明だということ。
クレアは思うところを語る。
混沌肯定が適用されない世界。もし、あの世界が冒険者デリー・ルガスが感じたように本当に”異世界”だとしたら。そして魔導書が自らの意思でなく、”別の何か”に使われたのだとしたら。
――その世界を作り、魔導書を動かして人を喰らおうとしたのは、鏡面館というあの建物なのではないか、と。
「鏡面館は今もまた、どこかの世界に入口を繋げて、贄を待っている。
なんて――真相は闇の中、ですね」
クスりと笑ったクレアが少し楽しそうに言うのをイレギュラーズは見逃さないのであった。
成否
成功
MVP
状態異常
なし
あとがき
澤見夜行です。
館物といえば最後は呪われた館からの脱出な気がしました。ちょっぴりホラーです。
なんか真犯人はクレアな気がしてきましたが、気のせいです。善良な美人です。まあ美人は怪しいけどね。
MVPは悩みましたがやはり司書二人の傷を最小限に抑えたヴェノムさんに贈ります。
依頼お疲れ様でした! 素敵なプレイングをありがとうございました!
GMコメント
こんにちは。澤見夜行(さわみ・やこう)です。
異質な世界の魔導書が恐るべき力を解き放とうとしています。
魔導司書の二人と共にこれを封印、持ち帰って下さい。
●依頼達成条件
クレアとリィラの封印術式の完了
●依頼失敗条件
封印術式の失敗
●情報確度
情報確度はBです。
想定外の事態が起こりうる環境での戦いになります。
●鏡面館について
構成する全てが鏡で出来ている二階建ての館。
その内部も調度品を含めて鏡になっている。そう布団すらも柔らかい鏡なのだ。
一階には客間やキッチンなどがあり、地下室へは中央の広間の床にある隠し扉から向かうことが出来る。一階奥には割られた壁があり、その奥には二階に続く階段がある。
今回の依頼では二階部分には何も無いことが判明しているので説明は割愛。
地下は広いホールになっていて、中央に魔導書『ミラージュ・ゲイト』が浮遊している。
当然ながら地下も壁、柱、燭台に至るまで鏡によって構成されている。
その鏡は特殊で、壊そうと念じなければどのような攻撃で持っても破壊することができず、衝撃を吸収する力を持っている。しかし壊そうという意思の下、鏡へと攻撃すると、あっけなく割れるようだ。
●邪神アモーの触腕
魔導書『ミラージュ・ゲイト』はアモーを顕現させようとその力を奮っています。
その力は鏡面館の全てを包み込んでおり、アモーはその鏡を通して自らの身体の一部である触腕を顕界させてきます。
侵入してから、魔導書に対する封印が完了するまでの間、常にアモーの触腕による攻撃を警戒しなくてはいけません。
強大な力を持つアモーですが、高い攻撃力をもつ攻撃や【弱点】・【必殺】・【防御無視】での攻撃によって、その触腕を鏡の中に撤退させることが可能です。
鏡の世界に生きる邪神、そして鏡で出来た館。この二つの組み合わせに対抗することが必要でしょう。
●魔導書『ミラージュ・ゲイト』について
異世界の書物と呼ばれる構成材質がすべて鏡で出来た魔導書。
ただの力の暴走か、或いは誰かの意思か、魔導書に綴られた邪神アモーを顕現させようと力を発揮しています。
この魔導書を魔導司書の二人が封印するのには、合計十五ターンの間【術式行使】の行動を取る必要があります。
【術式行使】を行ったターンは副行動を取ることができません。
二人は攻撃を受けるとそのターンの封印術式に失敗したこととなります。失敗させずに【術式行使】を行ったターン数を稼ぐ必要があるでしょう。
●同行NPC
ディオーネ図書館の司書クレアとリィラが同行します。
封印術式を行使しますが、戦闘能力は皆無に近く、ちょっとしたことでも大きな怪我に繋がってしまうはずです。
彼女達をどのように守るか、考える必要があるでしょう。
また、神秘に精通もしくは司書のクラスに近しいスキルを持つ人は封印術式の手伝いが出来るかも知れません。サポートした場合は【術式行使】に必要なターン数が減ることでしょう。
●戦闘地域
幻想北西部にある遺跡の中、ぽつりと存在する鏡面館が戦闘地域となります。
武器を振るうには十分な広さがありますが、引き撃ち等距離を取る行動は難しいでしょう。
そのほか、有用そうなスキルやアイテムには色々なボーナスがつきます。
皆様の素晴らしいプレイングをお待ちしています。
宜しくお願いいたします。
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