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シナリオ詳細

村落救出戦

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

⚫事の発端
 気付けば振りだしていた雪は、翌日に景色をうっすらと色付けした。
 日常に白を添えた出来事に沸く幻想国では、新年と言うこともあってか、各所で賑わいの声を上げている。
 しかし、慶びの祝いをするのは、知性有る者だけだ。
 年中、いや、一生そういった事柄と無縁で過ごすもの達は、ただ頭を埋め尽くす本能と欲に従い、行動する。
 べちゃり、べちゃり。
 街道に積もった湿雪を踏み鳴らして進むのは、そんな奴等だった。
 直上に昇った太陽が照らすのは、草を擦り潰した様な緑色の肌を持つもの達。
 ピンと上向きに尖った耳と、つり上がった目。身長にして、1mと無い体躯は不気味な程に筋肉質で、不似合いとしか言い様がない。
 数にして6匹。その全員が首に茶色の布を巻き、手には欠けたナイフや粗削りされた棍棒などを持っている。
 べちゃり、べちゃり。
 その6匹が進む先、向かい合う様な形で、同じ造形、同じ数の奴等が歩いてきていた。
 違うのは、首の布が黒色という点だ。
「ゲギャ!」
「グゲェ?」
 顔と顔を突き合わせた12匹は、およそ言葉とするのもおこがましい音を喉から鳴らす。
 外から見れば、威嚇をするようにも、談笑するようにも見えたであろう。
「ゲ」
 そして、幾度かのやり取りを済ましたそのとき。6匹と6匹の間を、黒い影がヌッと沸いた。
 一斉に見上げた瞳の先にいるのは、一際大きな怪物だ。
 筋骨が太い巨体の怪物は、萎縮するような12匹を一瞥した後に歩き出す。
 べちゃり、べちゃりと進む先。
 小物を率いて目指すそこには、今年も逞しく生きよと過ごす、小さな村落があった。

⚫黒猫からの依頼
「やあ、よく来たねみんな」
 机を挟んで集まったイレギュラーズ達の顔を見て、『黒猫の』ショウ(p3n000005)は笑った。
 新年そうそうに悪いね、等と愛想の良い言葉を続けて、複数枚の紙を卓上に重ねると、
「君たちに、依頼がある」
 一息入れて、そう切り出した。
 すっと伸びた指が、重なった紙の一枚を撫でる。
 そうして、幻想国を記した地図の、ある地点を指で示した。
 そこは、都市から離れた山の麓。
 貴族達から統治を放棄された、小さな村があった。
「人口にして、そうだな……両手の指で足りるくらいの所さ」
 自給自足で成り立つが、同時にそれが精一杯で、だからこそ治める意味が無いと捨てられた場所だ。
「貴族に頼らず、仲間内で助け合い、そうやって生きてきた逞しい人たちが住んでいる」
 続けて紙をめくる。
 二枚目に載っている情報は、絵だった。
 木炭で塗った様な白黒のモノクロは、醜悪な生き物を描いている。
「こいつは?」
 イレギュラーズの一人がその紙を手に取りながら問いかける。
「ゴブリン。そう呼称されている、魔物の一種だ」
 形状や細部はたまに違うがね、と注釈を入れ、
「最近こいつらが村を荒らしていてね。調べによると、縄張り争いの一環として、力を示しているらしい。はた迷惑な話さ」
 小競り合いで済むなら緊急性は少ないと言う。だが、ゴブリン達の行動は徐々にエスカレートしている。
「始まりは農作物を荒らしての食材集め。最近では家畜を襲い、肉を得ているらしい。そうなれば、次は人へターゲットを移すのも時間の問題だ」
 そうでなくても、自給自足の村から食糧が消えるのは、控えめに言っても生存の危機と思って差し支えないだろう。
「おまけに、やつらのリーダーも確認されていてね。他は置いておくにしても、コイツだけはちょっと厄介だ」
 身の丈3m。武器は持たず、鍛え上げられた肉体を持つソイツを、ゴブリンリーダー、と呼称することになった。
 放っておけば、勢い付いて他の村や町にまで来るのは明白だ。
「村を救う為だけじゃなく、出る杭は打たないといけない。そうだろう?」
 と、二つ折りされた三枚目を開く。
 村の詳細と、周辺情報が載った図面だ。
「村は1m弱の木柵で仕切られている。出入口は二つあるが、ゴブリンが来る方向は調べがついている上に、時間と数も毎回同じらしい」
 時間は昼過ぎ、数は取り巻き12匹と、リーダー1匹。特徴として、リーダー以外は1匹につき一つは武器を持っている事が挙げられる。
「取り巻きは強くなく、考える知能があるわけでもない。だが、だからこそ負けると察したら我先にと逃げるかもしれないが、リーダーは違う」
 戦いに馴れた者なら、取り巻きを相手にしても撃破自体は難しくない。
 だがゴブリンリーダーの相手をするならば、メンバーで力を合わせて相対するべきだろう。
 「要は、いかに素早く取り巻きを撃破し、その間リーダーを抑えておくのが肝だね。全員での連携が大事さ」
 逃がさないようあえて村に深入りさせたり、囲むような陣形を取る等、工夫すればより確実に殲滅出来るだろう。
「戦闘の起こる前に、村人の避難は手配してある。家屋も少なく、戦いやすい地形でもある。後は、君達次第と言うわけさ」
 説明を受け、ローレットから出ていく背中に向けてショウはただ、笑って手を振っていた。

GMコメント

『マスターコメント』
 ユズキです。
 最初のシナリオとなりますので、単純な戦闘とさせていただきました。
 オープニングと合わせて、以下の補足もご参考ください。

●依頼達成条件
・ゴブリンの殲滅およびゴブリンリーダーの撃破

●情報確度
 Aです。つまり想定外の事態(オープニングとこの補足情報に記されていない事)は絶対に起きません。

●目標敵
 ゴブリンは全12匹。ナイフや棍棒などの近接武器を所持しています。強さはそこまででもありませんが、石を投げたり砂をかけたり、命惜しさに逃げ出したりと、悪知恵はあります。
 ゴブリンリーダーは1匹。特別な武器は持ちませんが、怪力による近接攻撃が強力です。リーダーは逃げませんが、他の個体よりは強いです。

●村内
 周りを木柵で囲まれています。
 村人の避難は完了しているものとします。
 
 派手な立ち回り、堅実な作戦、どのような方針を取って攻めても大丈夫です。
 成功に向けて、頑張りましょう。

  • 村落救出戦完了
  • GM名ユズキ
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2018年01月21日 00時40分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

ディエ=ディディエル=カルペ(p3p000162)
夢は現に
ドラマ・ゲツク(p3p000172)
蒼剣の弟子
ルアミィ・フアネーレ(p3p000321)
神秘を恋う波
ジェームズ・バーンド・ワイズマン(p3p000523)
F●●kin'Hot!!!!!
主人=公(p3p000578)
ハム子
河津 下呂左衛門(p3p001569)
武者ガエル
ムスティスラーフ・バイルシュタイン(p3p001619)
黒武護
ルナール・グリムゲルデ(p3p002562)
片翼の守護者

リプレイ

●グッドモーニング・ハードワーク
 その日は、雲一つ無い朝だった。
 東から昇った太陽が山から顔を出し、空を青く染め、薄雪の散らばる大地をキラキラと輝かせる。
「よし、じゃあみんな、いいかな」
 村の中央、集まったイレギュラーズにそう切り出したのは、村の地図を持った『異世界なう』主人=公(p3p000578)だった。
 彼は二つに畳まれたそれを開き、全員が見える様に水平に持つと、
「いいかな?」
 再度声を作り、確認として視線が集まるのを待ってから一つ頷きを入れる。
「ボク達は、もうすぐやってくるゴブリン達を迎え撃つ。数が多いから、罠を仕掛けたいよね」
 両端に一つずつある村の入り口は、門も無く開け放たれている。地図上には、ゴブリンが来るとされる方向にマークがされていた。
「クク、それならば、ボクの用意した罠を存分に活かせるね……!」
 得意気にツインテールを揺らした『夢は現に』ディエ=ディディエル=カルペ(p3p000162)が、持参したトラバサミを地面に置いた。
 簡単なバネの仕掛けで作動する、簡素な造りのそれは、彼女がギフトで作成した物と、市場で購入した物が混ざっている。
「フッ、有効に仕掛けられそうな位置は、勿論チェック済みだ。使えそうな道具も見付けておいたとも!」
 なにせ、時間が限られているからね? と、地図に設置ポイントの候補を書き加えていく。
 広い村内はしかし、少ない家屋と少量の田畑しかない。調査は容易かったと、ディエは思う。
「成る程、建物の付近や村の出入り口は、ゴブリンが行きそうな所なのです」
 サラサラと書かれる位置に、『夢見る幻想』ドラマ・ゲツク(p3p000172)は納得の息を吐いた。
 元々、略奪に似た行為が目的で襲来するゴブリンだ。家に押し入る事もあれば、逃げて立て籠る可能性も十分有り得るだろう。
 だが、問題もあった。
『ゴブリンが来る正午過ぎまでに、果たしてどこまで出来るのか……』
 いくら小柄なゴブリンといっても、すっぽり納まる程の深さや幅を多量に作るとなれば、それはもはや重労働だ。時間の有限性もあるが、疲労等のリスクも無視できない。
 『“燃えた”男』ジェームズ・バーンド・ワイズマン(p3p000523)は、その可能性を懸念していた。だから、『それならば』と、首元から発生する機械音で前置きをして言葉を作る。
『穴という大きなものではなく、溝程度の深さを掘り、足を取られる形にしてはどうかな』
「それはつまり、質より量。数で勝負という事でござるな?」
 ジェームズの意図を汲んだのは、『武者ガエル』河津 下呂左衛門(p3p001569)だった。
 蛙の手を顎に当て、ふむ。と一度頷く。
「量を取るなら、僕は反対の出入口にも穴を掘れたらいいと思うよ!」
 続けて言ったのは、『輝煌枝』ムスティスラーフ・バイルシュタイン(p3p001619)だった。彼は傍らにふわりと浮かせた土掘用の道具を素振りし、意欲を見せる。
「拙者は住居の手前を重点的に、と考えたでござるが、どうするでござる?」
「それなら、二手に手分けしよう」
 下呂左衛門の問いには、『紅獣』ルナール・グルナディエ(p3p002562)が答えを出した。
 元々ディエの調査で、候補は出ているのだ。住居と村の出入口は、そこに合致している。
「ルアミィも、罠の設置、お手伝いするのですっ」
 華奢な体躯でありながら、力仕事に張り切る『神秘を恋う波』ルアミィ・フアネーレ(p3p000321)の言葉を最後に、イレギュラーズ達は自然と理解した。
 ゴブリンが襲来するまでのあと数時間。自分達の出来る事を、最大限に実行するべきだと。
「しっかり村の人たちの安全を守らなくっちゃ。みんな張り切っていこー!」
 公の勢い良い言葉を皮切りに、分担された作業が開始された。

●ハロー・グッドデイ
 彼らにとって、その日はいつもと変わらない日になるはずだった。
 いつもと同じ太陽の位置、いつもと同じ待ち合わせ場所、いつもと同じ顔ぶれ。
 足裏を冷たく濡らす地面も同じで、進む先も同じ村だ。なにも特別な事はない。
 ただ、前回よりも強く、前回よりも荒々しくと、愚かしい程に手前勝手な勇ましい意気込みには満ちていた。
 だから、彼らは行く。
 暴力と略奪を覚えた知性無き魔物として、らしく生きる為に行くのだ。
 開け放ちの村に足を踏み入れ、がらんと広々な空間を視界に収める。
 勝手知ったる我が家の様に、作物の実る土の場所や、家畜の暮らす住み処を覚えているが、今回はもっと強欲に動こうと決めていた。
 人を警戒するべき時は過ぎ去ったのだと証明するため、自らの凶悪さを知らしめるため、ゴブリンは村の中心へと深入りする。
「ゲェアー!」
 手始めに、村でもそこそこの大きさを持つ建物を目指して、我先にと向かう12匹。彼らにとっての手柄は、今回で言えばそこに住む者の打倒となるだろう。
 ずっしりと構えて見定めてくるリーダーに認められ、仲間内でのトップに立つための功を立てるのだ。と、競い合う茶色と黒色の2グループが、敷地を踏み均した瞬間。
 パキリと、小気味のいい乾いた音が、鉄と鉄が擦れる様な甲高い音と同時に鳴った。
「グッ、ギィ!?」
 それから一瞬を開けて、先頭を走っていたゴブリン数体がよろめく。
 体勢を崩しながら悲鳴を上げたゴブリンの足は、柔らかい土に飲まれる様にくるぶしまで埋まっている。
 ーーこれは罠だ。
 足首に食い込む刃に苦しみながら、ゴブリン達はそう考える。
 一体誰が? 村人か? 歯向かう気なのか……許さない!
 と、ジンジンとする痛みが、怒りにも似た感情に変わっていく。
「ガァッ!」
 だから、彼らは気合いの音を肺から吐き出しつつ足を引き抜き、
「ガ、キョ――」
 立ち直った一匹に、三方向からの光がぶちこまれた。

●奇襲作戦の成果
 ムスティスラーフは、村の中央が見通せる位置に隠れていた。
 そこは、彼の射程距離が活かせる木箱の裏。狙撃に適した場所の一つだ。
 村への侵入から罠にかかるまでの一部始終を見ていたムスティスラーフには、ゴブリンに叩き込まれた三つの弾丸の効果が見える。
 無防備に晒した五体の内、頭と背中、それから腹部へと命中した攻撃は、ゴブリンを速やかに絶命に導いていた。
「倒すのは可哀想、ですけど! 村人さん達を困らせるのは、良くないのですっ」
 スタッフを振り終えた挙動のまま、鋭い一撃を腹部へ当てたルアミィはそう叫ぶ。
「良かった、ちゃんと当てられたようなのです」
 向かい側から背中を撃ち抜いたドラマも、片手に魔書を開いて持ちながら安堵の息を吐く。
 そして、そんな射手二人と違い、
『ああ、村を荒らすゴブリンは許せないとも! だがこの神秘、もっと使いこなせるか……!』
 頭部への直撃を見舞ったジェームズは、どこか別の目的があるようにも見えた。
 しかし、それを気にする暇はイレギュラーズには無い。
 足首をトラバサミに食いつかせたまま死んだ仲間の姿に、残りのゴブリンが得たのは、まず怒りの感情だった。
 罠を免れた者は勿論、トラバサミにかかったゴブリンも、気概だけで立ち上がったのだ。
 そうして彼らの狙う先は、まず目の前のルアミィに向かった。
 無事だったゴブリンの1匹が、棍棒を両手持ちに握り、突撃する。
 一歩。二歩。
 罠を警戒した歩幅は、三歩目には強い踏み込みとなって、一足飛びに小さな体を加速させる。
「ゲィアーッ!」
 引き絞る様に腰を捻り、棍棒を振りかぶって、ゴブリンは行った。
 目標のルアミィまで、あと、三歩。
「無いよりマシ程度の壁だけどな」
 それを、ルナールの盾が遮る。
 横薙ぎされる一撃を、腰を落として受け止めると、押し出す様にして弾いた。
「そこは我慢してくれ」
「いいえ、とっても心強いのです!」
 防御に専念したその鉄壁は、攻めを決意したはずのゴブリンに、二の足を踏ませるには十分なものだった。
「ククッ、時は満ちた!」
 進むべきか、退くべきか。そんな思考は、硬直となって身体を支配する。
 だから、ディエは行った。
 隠れ場所から一直線に走り、動きの鈍ったその敵に向かいながら、右手を軽く開く。
「我が呪われし右腕を開放してやろう……!」
「ゲェッ!?」
 ディエに気付いたゴブリンが、慌てて身を捻るがもう遅い。
 下からすくい上げるようにして振ったその右手は、ゴブリンの鳩尾を深く穿って破壊する。
「ガッ、ハ――」
 強烈な一撃。体をくの字に曲げて苦しみ、防御ががら空きとなった敵へ、
「撃ち抜くよ!」
 機を伺い続けたムスティスラーフが、全力の一撃を撃ち放った。
 超遠距離からのその一撃は、戦意を向上させた万全の狙撃としてゴブリンを吹き飛ばして倒した。
「初依頼がゴブリン退治! これぞファンタジーの王道だね? ……なんか血生臭いけど!」
 目まぐるしい戦場の流れの中、なんとなくわざとらしい台詞を言いながらレイピアを構えた公は、トラバサミで出遅れたゴブリンの1匹へ肉薄する。
「うむ。世界を救う、と。大それた目標はピンとこないでござるが、この力を無辜の民の為に振るえるとあれば、頑張るでござるよ」
 迎撃しようとするゴブリンのナイフを避けながら、公は通りすぎる様にレイピアを一閃させて脇腹を裂く。
 切り口から吹き出る血液に、思わず手で止血しようとしたゴブリンの隙を、下呂左衛門は見逃さない。刀を上段に構え、正中線をなぞるように振り下ろすと、その体を縦に開いた。
「グッ……ギィ!」
 瞬く間に倒された3匹の同胞を見たゴブリン達は浮き足立つ。
 逃げるべきだと本能は告げている。が、数では勝っているとも、まだ目的は果たせていないとも、そう思う。
「グオオオオオオッ」
 もしゴブリンだけの場だったならば、そこで散り散りに逃げていただろう。
 だが、ここまで静観をしていたゴブリンリーダーの一吠えに、彼らの迷いは闘志の方へ傾く。
「ここからが本番だ……!」
 誰でも無く、イレギュラーズ達はそう感じた。

●ここは任せて先に行け
「やあやあ、我こそは『井之中流』河津下呂左衛門なり! いざ、尋常に――」
 勝負!!
 動き出したリーダーに真っ先に向かった下呂左衛門は、懐に飛び込む位の勢いで駆ける。
 刀を滑らせ、間合いに入ると同時に斬り付けた。
「くぅ……っ」
 苦悶の声を上げたのは、しかし下呂左衛門の方だ。
 下から斜め上へと、逆袈裟に斬り上げた刃はリーダーの腕が防御したのだが、その感触は斬るというより硬い壁を削ったと言う方が近しい。
「見た目通りの筋肉でござるな!」
 大きく振りかぶってくる巨腕を、身を沈める様に前へ出て避けながら言う。
「ボクも共にゆくぞ、河津!」
 距離を取りながら、ディエは薬瓶を取り出す。
 グラスの中へ、禍々しい色の液体を注ぎ込みながら、下呂左衛門がリーダーから離れた瞬間を狙ってそれを投げつけた。
「フッ、毒ならば筋肉は関係あるまい!」
 パリンッ、とぶつかって割れた瓶から弾ける液体が、リーダーの皮膚を焼く。
 煙を噴きながらギロリとディエを睨み付けるリーダーだが、直ぐ様近寄ってくる下呂左衛門に狙いを乱される。
「よし、今のうちにゴブリンを倒そう!」
 対リーダーを二人に任せ、残9匹のゴブリンへとイレギュラーズは動いた。各個撃破を狙い、数を減らそうとする動きだ。
 だが、勿論ゴブリンとて、やられるだけでいるはずも無い。反撃行動の開始として、まず遠距離から狙ってくるムスティスラーフへと石をぶん投げた。
「うわ、とととっ」
 小柄ながらに異常発達した筋力で、力任せに放られる石は、即席の弾丸と言っていい。
 距離があって威力は下がるが、狙撃の精度を下げる目的として見れば有効だった。だから、隙を付けと1匹のゴブリンが狙撃場所から出た彼へと接近する。
 が、
「遠距離だけが能じゃないよ!」
 鮮烈に咲く花の様な火が、パチパチと弾けるようにして迎撃をした。
 予期しない攻撃をモロに食らったからだろう。首の布に燃え移った火に焼かれながら、そのゴブリンは動かなくなった。
『あっ、このガラスの加工は手間が掛かるのだよ!?』
 飛びかかるナイフの一撃がジェームズの顔である球面に引っ掻き傷を付ける。
「えっ、怒るところそこなの?」
 攻撃後の隙を突いて、ゴブリンを処理した公が思わず振り向き様につっこんだ。
「大丈夫ですか? 回復が必要なら言ってくださいね?」
 術式を展開し、未だ罠にかかったままのゴブリンへ攻撃を続けていたドラマは、心配そうにポーションへ手を伸ばして聞いた。
『いや結構、心配はないのだよ』
 その言葉へ冷静に答えたジェームズは、別で飛びかかってくるゴブリンに焔を放つ。
「ーーカッ、ッ!」
 身と空気を焼かれ、声も出せずにのたうち回るゴブリンを、彼は静かに追加で燃やした。
「ゲァー!」
 既に半数。仲間の死に恐怖を覚えたゴブリンが逃亡を図り出す。
「逃がさないのですっ」
 その背中を、平和な村に戻すため、と言い聞かせ、ルアミィは足止めを兼ねて魔法で撃つ。
 衝撃につんのめったゴブリンは、防御から攻撃に切り替えたルナールが止めを刺した。
「ここからは俺も攻撃に移る。少し、気合いをいれるとするか」
 追撃されたことで、ゴブリンの逃亡に熱が入る。
 侵入してきた入り口とは反対方向へと駆けていく背中は、ドンドンとイレギュラーズ達から離れていく。
 もう大丈夫だ、逃げ切れる。
 そう確信した時、パキリと乾いた音と、鉄と鉄が擦れる様な音が鳴った。
 この音を、彼らは知っている。
「ギャ!?」
 為す術もなく仲間を葬る原因となったトラップの音だったからだ。
 綺麗に足を地面に食わせたゴブリン達は、恐る恐ると背後を振り返り、そして――

●帰るまでがお仕事です
 ゴブリンリーダーと相対していた二人。下呂左衛門とディエは疲弊していた。
 リーダーの身体には浅い斬り傷が多く、また毒物による浸食も目立つが、動きは荒れている。
 小柄を活かして善戦していた下呂左衛門でも、リーダーの蹴りを交えた攻撃の全てを回避することは出来ない。
 蹴りあげられた身体は、必然と一度離れざるを得ず、フリーになったリーダーの狙いはディエに向かう。
「来るなら来い、分解してやる……!」
 勇ましくしたところで、剛腕の一撃は少女の身体を容易く弾き飛ばすだろう。
「っ!?」
 だから、立てた左腕を軸に、右手を前に重ねて彼女は受けた。接触の瞬間に、リーダーの拳に破壊の力を流し込みながら吹き飛ぶ。
「ごめんお待たせ、ここからはみんなで攻めるよ!」
 受け身を取りながら転がったディエと下呂左衛門の前に、ゴブリンを全滅させた六人が揃った。
「ガアアアア!!」
 空気を震わせる咆哮を吐き出して、リーダーは地面を蹴った。上から振り下ろす様な振りかぶりの溜めを入れて突撃する。
「さて」
 そこに飛び込むように行ったのはルナールだ。意識をリーダーに集中させて動きを見極め、盾を前にして懐に。
「これはどうかな?」
 そうして行うのは、押し返す様に力を込めた弾きの一撃だ。
 しかし、正面からのぶつかり合いは、ルナールの膂力敗けになる。
 鍛えられて硬いリーダーの腹部へ鈍い衝撃を与えた彼の身体は、反動で後ろに飛んでいく。
 だがそれで良い。殴ろうとする一撃を事前に食い止められた事で、一瞬の隙が出来たのだ。
 だから、その隙に攻める。
 がらりと空いた間合いに入り込む公は、レイピアを素早く突き入れてダメージを通し、痛みに怯んだ所へジェームズが魔法の弾丸を撃ち込んだ。
「回復するのです!」
「大丈夫ですか?」
 ルアミィから溢れた優しい光がディエを包んで傷を癒し、ドラマの回復用ポーションは下呂左衛門の削れた体力を回復させた。
「この村を救ってみせるよ、みんなで!」
 ムスティスラーフは、浮かせたスタッフの先端をリーダーの顔に向ける。彼の並々ならない意気込みの奥には、彼にしかわからない感情があった。
 だから、それを示すべく行動する。
「シュート!」
 宣言と同時、弾丸の様に鋭く、閃光が走った。
 それは吸い込まれるように鼻先を穿ち、緑色の巨体が膝を着く。ゆっくりと地面に倒れ付したその身体は、もう二度と、動く事はなかった。
「無事に終わって、何より、か?」
 ルナールが呟いた言葉に、誰ともなく、みんなが頷いた。
 顔を見合わせ、成功の実感がじわり、じわりと沸いてきて、そして。
「わぁ、すごくボロボロですねー」
 罠で掘り起こされた土、散らばる遺体、流れ弾で削れた壁。
 そんな惨状を、ドラマの一言が物語った。
「それじゃあ、時間が許す限り補修をしようよ!」
「お仕事完了の報告はそれから、ですね」
 ムスティスラーフとドラマの言葉に、イレギュラーズ達は慌ただしく動く。
『いや私は学術的興味を満たすべくゴブリンの検分をーー』
 ジェームズだけは、少しだけ未練を残してゴブリンの残骸をチラチラしていた。

成否

成功

MVP

主人=公(p3p000578)
ハム子

状態異常

なし

あとがき

 シナリオへの参加、ありがとうございました。
 初めてのリプレイとなりましたが、楽しく書けました。
 皆さんにとっても楽しい初依頼となれたなら光栄です。

 またの機会を楽しみにしています。

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