シナリオ詳細
PPP爆食王 カレー杯
オープニング
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砂蠍たちが暴れまわった幻想各地はそこかしこに戦いの傷跡が深く、深く刻まれていた。
名だたる街だけではない。農村もまた被害を受け、苦しんでいる。丁度、いまも――。
「はぁぁ……。困りましたね。こんなにもたくさん、おウマさんたちに『おやつ』は与えられませんし……そりや、競技場にはほかにブタさんとかウシさんとかも飼っていますが」
踏み荒され、粉々になった農作物の山を前にため息をつくのは、ローレット競技場の管理運営責任者であるダンプPである。責任者といっても、部下はいない。催事以外の時は、競技場の草むしりから馬たちの世話まで、すべて一人でこなしている。
ダンプPは今日、馬たちに食べさせるおやつを買い求めに、はるばるリンゴの生産地までやって来ていた。そこでリンゴ農家だけでなく、その地域の農民たちに囲まれて、売り物にならなくなった農作物を買い取って欲しいとお願いされたのだ。
「リンゴの他にはニンジン……ジャガイモもたくさんありますね。割れちゃってますけど。玉ねぎは食べさせられないから……え、ブタとウシ? とても競技場では飼えませんよ。これ以上増えても……違う? 死んでいる? はあ、肉を買ってくれ、と?」
提示された売価はどれもかなり安かった。もうそろそろレースを開催して利益を得なくてはならないが、まだまだ、お肉も含めてすべて買い取るだけの資金は残っている。
「しかしですねぇ、こんなにあっても腐らせてしまうだけですし……みなさんで食べるとか、それこそ肥料や飼料にしてはいかがですか?」
そう言ったら、自分たちで消費する分はちゃんと分けてあるし、なによりも『シャイネン・ナハト』で子供たちに渡すプレゼントを買う金が欲しいのだ、と切り返されてしまった。
「どうかお願いします」
膝をついた農民たちに胸の前で手を組まれ、潤んだ目で見上げられれば(その後ろには寒空に素足で立つ子供たち)、よほどの冷血漢でない限り、できる限りの事はしてあげようと思うだろう。
「わかりました、わかりましたから。みなさん、お立ちください。なんとかいたしましょう」
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「そうそう、ご挨拶がまだでしたね。わたくし、ローレット競技場の管理運営責任者のダンプPと申します。お気軽にPちゃんとお呼びください」
ビラを片手で差し出しながら、玉子のような男が言った。よくよく見れば、玉子には継ぎ目がある。ロボット? しかしパンツをはいた殻から突き出でた足は生身のようだ。
じっと見ていると、玉子がキャッと足をよじった。
「素敵でしょう、このタイツ。黒と紫のシマシマは私のお気に入りにございます。どこで買ったかお教えいたしましょうか?」
そんなことはどうでもいい。興味もない。それよりもこのビラだ。
「ああ、そうでした。この絵に描かれている食べ物、おいしそうでしょう? 茶色いのがカレーという異世界の食べ物で、白いのがナンと呼ばれているパンみたいな食べ物なんですよ」
厳密に言えばナンはパンではないのだが。
「ただいまこのナンにカレーをつけて食べるという競技の選手を募集しています。どうですか?」
どうですか、と言われても困る。一体何がどうなのか。
「やだなぁ。選手として出ませんか、とお誘いしているんですよ」
競技のルールは簡単だ。
制限時間内にカレーをたくさん食べた選手が優勝となる。
ナンは食べ放題だが、カレー一杯につき一枚は最低食べてもらうことになっている。
「カレーは肉・野菜などにさまざまな香辛料の風味をきかせて調理した、辛味の強い料理でございます。ナンのほか、新鮮な湧き水も飲み放題!」
水飲み放題は別に嬉しくないが、ただで食事ができるだけでなく、参加するだけで賞金が出るという。主催者は得するどころか損をしそうだ。
「その点はご心配なく。とある篤志家がポーンと気前よく資金を出してくれましたので。そうそう、優勝者にはささやかな記念品が出ます。どうです、参加しませんか?」
- PPP爆食王 カレー杯完了
- GM名そうすけ
- 種別通常
- 難易度EASY
- 冒険終了日時2018年12月08日 22時25分
- 参加人数10/10人
- 相談7日
- 参加費100RC
参加者 : 10 人
冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。
参加者一覧(10人)
リプレイ
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「第一回爆食王、カレー杯! 第一回といいましたが、このあと回がつづくかどうかは未定にございます」
あはは、とノーテンキに笑って集まった観客たちに愛嬌を振りまくと、ダンプPは店の前で控えている選手たちを振り返った。
紹介の一番手は『グローバルカレーメイド』春津見・小梢(p3p000084)だ。
「小梢さん、飲み物は……カレー?」
カレーにカレー。その取り合わせに観客がどよめく。
「カレーはカレーでも、一晩煮込んだカレーだ。そう、カレーは飲み物、だからカレーを飲み物としてカレーを食べてもいいじゃまいか。味の違うカレーを口直しにカレー三昧、最高!」
親指をびしっと立てて決め顔。カレーのカレーによるカレーのためのメイドは、不敵な笑みでライバルたちを牽制する。
「小梢さんはあらゆる世界で日々、カレーの美味しさを追及しているとか。くいっぷりに注目です」
続いてダンプPは『彷徨う駿馬』奥州 一悟(p3p000194)の前へ。
「一悟さんは、レモン水ですね。食材を提供してくれた産地のみなさんや集まってくださった観客の方々に一言、お願いします」
一悟は立ちあがるなり、冬空へ高く腕を掲げた。
「宣――!」
「ちょっとお待ちください。もうお一方ご希望されておられますので、後ほどご一緒にお願いします」
速攻で止められ、口をパクパクさせる一悟。観客たちがどっと笑い声を上げる。
「じゃあ、宣伝も兼ねて……」
一悟は椅子に座ると、明後日の方向に顔を向け、手をブンブン振った。
「『しおから亭』のオーナー、見てるー!? オレ、頑張るよー!」
視線の先には何にもない。
「ありがとうございましたー」
ダンプPはそそくさと隣へ移動した。
「零さんは冷たい牛乳ですか。よく冷えていますね~」
学生服に黒い前掛けの『フランスパン』上谷・零(p3p000277)に、ダンプPは話しかけた。
「この戦いに勝つための作戦とか、何か考えておられますか?」
「追いつかれる前に素早く、かつ美味しく喰らう事……! 喰える絶対数が相手の方が多いなら、時間で打ち勝つしかない……!」
零は一言、一言、かみしめるように言って手をすり合わせた。
よく晴れている分、空気が乾燥しており、寒い。食べれば体も暖まるだろうが……。冷たい飲み物のチョイスは吉と出るか凶と出るか。
「あ、フランスパン、欲しい人がいたらあげるよ」
どこからともなく長い一本のバゲットを取りだし、テーブルに置く。
「食べてもいいですが、鍋一つにつきナン一枚は最低ノルマですよ。それでは――」
「諸君! ゴッドである!」
自ら名乗り出たのは『神格者』御堂・D・豪斗(p3p001181)だ。
背中から光放つような気迫に押され、観客たちが「なんだかよく分からないけど、この人すご~い」と嘆息する。
「ゴッドワールドにもカリーは存在した……。この数多のスパイスを用いたクッキングは異世界であっても共通という事か! なかなかに興味深いではないか!」
「あ、はい。Pちゃんも興味深く思います。ところで豪斗さん、そのお飲み物は?」
「不老不死の神酒(ピーチ)である!」
「ピーチジュースですね。では頑張ってくださいませ!」
アルコール禁止。ゆえにさくっと豪斗の紹介を切り上げて、次の選手へ。
「こちらはヨーグルトでしょうか。ラッシーとかいう……」
「ガハハハ! ヨーグルトはヨーグルトじゃあ。ミルクは混じっておらんわい。わしとしては、ビールが欲しいところじゃがなぁ」
『重戦士』ギルバルド・ガイアグラン・アルスレイド(p3p001299)は、豪快に笑い声をあげた。
「申し訳ございません。アルコール類はNGでございます」
「むむむ。とにかく、食欲魔人が、その気になるところを見せてやるのじゃあ」
言って、バチンと腹を叩いた。
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「ムスティスラーフさんもお飲み物はカレーです!」
『髭の人』ムスティスラーフ・バイルシュタイン(p3p001619)はコクコクと頷いた。カレーで汚さないように、三つ編みにした白いアゴ髭を肩の後ろへ回す。
「カレーは飲み物だって聞いたよ!」
一番端のテーブルで、グローバルカレーメイドの眼鏡が光る。わかっているじゃない、と言った顔だ。
「あと冷やしてると甘味が増して食べやすくなるんだって!」
ね、とムスティスラーフは、隣に座るギルバルドへウィンクを飛ばした。
「それは初耳ですね。Pちゃん、ひとつ賢くなりました。では、のちほど宣誓をお願いします」
「任せて!」
ダンプPは次へ。
「なんと、三人目! ここにも飲み物にカレーを指定されている方が!」
「カレーは飽きが来ない刺激的な味……そして、作り手や場所によって味や辛さ、色まで違う事があると聞いた! 中でも私が一番衝撃を受けたのは……「カレーは飲み物」とも言われた事だ……」
『世界喰らう竜<ワールドイーター>』ヨルムンガンド(p3p002370)は、『I LOVE(♡) 食べ放題』と書かれたエプロンの裏に親指を当てて、クイっと押し出した。
「今回は大食い大会だ……凄い量が用意されているのだろう? 故にカレーを飲み物としても味合わせてもらえないだろうか……!」
「もちろんOKです。しかし……大丈夫?」
ダンプPはヨルムンガンドの大きな胸から真っ平な腹へと視線を動かした。とんだセクハラ野郎である。
「ふっ、『世界喰らう』の異名は伊達ではない。私はいくら食べても体型は変わらず、無限に食べ続ける事が出来るのだ……」
それはギフトの力によるもの。他の選手の妨害にならないので禁止されてはいないが……満腹感を感じることはなくとも、口腔内に感じる辛みと熱までは無効化されない。遅かれ早かれ、舌は味覚の反乱にあうだろう。
彼の世界では「伝説の怪物」と語り継がれたドラゴンよ、さて、これをどう乗り切る?
「量もさることながら、辛さと熱さにどう対処するか。注目ポイントでございます!」
続いてダンプPは、『さまようこひつじ』メイメイ・ルー(p3p004460)の紹介に移る。
「お飲み物は牛乳、ほんのりと温められています。ところでメイメイさん、目標は?」
「優勝、です……!」
おおー、と観客がどよめいた。手が打ち鳴らされ、子供たちが「おねえちゃん、がんばれー」と声をあげる。
「錚々たるメンバーを前に少しビビっていますが、思いきって、上を目指します。わ、わたしたちが、カレーを食べることで……世界が救われるの、なら」
スプーンを手に取り、ぐっとガッツポーズを決める。ふわもこひつじのアップリケ付き、茶色の前掛けがかわいく揺れた。
「さて、お隣は蝙蝠の柄の珍しいエプロンをつけたサイモンさんです。お飲み物は『血』ではなくトマトジュースと水です」
『吸血鬼を狩る吸血鬼』サイモン レクター(p3p006329)は、牙を少し見せ、唇の間からふっと息をもらした。
「蝙蝠の柄はいうほど珍しいか? まあ、これはオーダーメイドだけどな」
ほうほう、とエプロンを見つめるダンプP。
「ところで」
「何でございましょう?」
「カレーの隠し味にニンニクとか入ってねぇよな? 今なら食べても平気だが、ニンニクにゃあまだ慣れてねぇからな」
混沌証明のいいところ。元の世界で弱点だったことが、召喚とともに弱点でなくなることがある。サイモンはニンニクの他にも日光という弱点があったが、これもなくなっていた。おかげで日中も気軽に出歩けるようになったのだが、目は日光になれておらず、片時もサングラスを手放せないでいる。
「ニンニクはひとかけらも入っていません。誰かが妨害のために入れてなければ」
「妨害? 『食事』は神聖なモノだ、邪魔するなど言語道断。正々堂々と喰らいつくすまで」
横から口を出したのは、「暴食」とプリントされた純白のエプロンをつけた『暴食の剣』リペア・グラディウス(p3p006650)だった。
「もちろん、もちろん。不正はされておりません。Pちゃんが保証いたします」
どこまであてになるのか分からないが、本人はいたって真面目だ。
「お飲み物は零さんと同じ、よく冷えた牛乳ですね」
遠くの席から「いっしょだね。頑張ろう」という声が届いた。
リペアも体を後ろへ傾け、手を振って「頑張ろう」と応える。
「ところで、リペアさん。カレーはお好きですか?」
「好きも何も……聞いた事があるだけで、今日、初めて食べる。見た目は何か得体のしれないものだが、たくさんの香辛料と具材が入った異世界の究極の料理の一つだと……」
カレーをよく知る者も、カレーを初めて食べる者も、一同に会しての爆食大会。
一悟とムスティスラーフが立ちあがった。
「「宣誓! 我々はカレーを用意していただいた生産者の方々に感謝し、カレーマンシップにのっとりここに正々堂々と食事を楽しみ、残さないことを誓います!」」
わき上がる拍手。
最初のカレー鍋とナンがテーブルに配られた。
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「紹介で字数をめちゃくちゃ食ってしまいました。カレー爆食事、60分勝負。ここからは巻きます!」
えー、という声がどこからともなく聞こえてきたが、ダンプPは華麗にスルー。開始の笛を吹いた。
「あー、早くもおかわりする選手が。一悟選手トップでおかわり。続いて小梢選手、ギルバート選手も行ったぁ! はやい、はやい! まだ一分たっておりません!」
まだまだ、勝負は始まったばかりである。そんな余裕をみせて豪斗が立ちあがると、すかさず零、メイメイ、ムスティスラーフの三人が後を追う。
まだニンニクを警戒しているのか、サイモンが8位。立ちあがりが不気味なヨルムンガンドが9位で序盤戦は進んでいた。
10名中9名が次々とおかわりを取りに走る中、リペアは初めてのカレーをじっくり食べ、味わっていた。
「……これは! 程よい辛さと濃厚な味深いルーが食欲を刺激して味覚を刺激してくる! さらにナンのもちっとした食感、中の具材のとろとろと噛みやすい食感がたまらん!」
「リペアさん、ちょっと出遅れていますよ。大丈夫ですか? ほかのみなさんはもう6鍋おかわりしていますよ。早い人は9鍋ですが」
現在4鍋目のリペアは、まだカレーの味に感動して体を震わせていた。
その様子に生産者たちは喜び、観客たちは生唾を飲み込む。
「これがカレー! まさしく味の核弾頭のような衝撃だ! 一言でいうなら……美味! ……まあ、魂よりは味はちょっと落ちるが。ん? ああ、大丈夫。序盤はペース抑え気味でいく作戦だ。徐々にスピードを上げて行こう」
20分を過ぎたところで依然として一悟がトップ、続いてギルバート。二位だった小梢は、メイメイと大躍進のサイモン、ムスティスラーフに抜かれて大幅に順位を落とす。すぐ後ろには零と調子を上げて来たリペアがぴったりとついていた。
「本命がここで大きく後退。どうした、小梢選手!? ダブルカレーがきついのか?」
絶叫するタマゴの横で、小梢は鍋から立ち昇るカレーのスパイス香に集中力していた。鼻から香り揺れる胸いっぱいに吸い込んで、至福の時を満喫する。スプーンでルーをすくって口に入れる。それはカレーの憧れから始まった。舌はクンジュラブ峠を越え、カラコルムを下って憧れのガンダーラへと旅立つ。ああ!
「自然と匙がとまりませんなぁ。ナンは鍋についたカレーを拭き取るのに丁度いいし……これからです。私の戦いは」
乞うご期待!
「ん……んん? あれあれ、ヨルムンガンドさん。最下位ですよ? ゆっくり歩いている場合じゃないですよ」
食べるペースはともかく、お代わりをとって席に戻ってくるまでが遅かった。カレーをこぼさないよう慎重を期すあまり、すり足になってしまうのだ。
「はふ? はふははふ。は、ふは。ふははふはふふ、はふふふふ(遅れ? 問題ない。あ、零。フランスパンを一切れ、分けてくれ)」
口にナンをくわえたまま喋ったので、ダンプPにはヨルムンガンドが何を言ったのかわからなかった。が、すれ違う零にはわかったらしい。
「後で持っていく」
そういって零はおかわり配給のテーブルへ走って行った。
30分経過。
ここでギルバルドが他の選手を引き離しにかかった。猛然とスプーンを動かし、カレーをわずか3すくいで完食。ナンできれいに鍋の底をぬぐい、そのまま口の中へ入れ、おかわりを取りに向かう。
続いて一悟とサイモンがほぼ同時におかわり。一口差で小梢が走った。同数でムスティスラーフ、零、メイメイが。ネクタルピーチをぐいっと煽って、余裕の豪斗。ヨルムンガンドは変わらず最下位。
「ムスティスラーフさん、調子はどうです? ここから逆転を狙えそうですか?」
ムスティスラーフは嬉しそうに目を細め、白鬚のおじいさんがんばってー、と応援する子供たちに手を振った。
「食べられる限界量では暴食ギフト持ちには敵わない。なので楽しく食べる方が重要かな」
見えざる手でナンを大きくちぎって辛口のカレーにひたし、お口にイン。上気させた頬をうっとりと震わせる。
「ンン~しっとりとしたナンの誘惑にカレーの辛さもほだされ、やがて二人は溶け合いメロメロに。カレー×ナン、これは流行る!」
「カレー×ナン!? 薄い本の話でございますか。ムスティスラーフさんも薄い本が好き?」
「あ、僕はギルバルド君が好みだよ」
「こ、好み? なにがじゃ??」
ギルバルドは訳が分からないふりをしたが、こっそり椅子をゴッド側へずらしたところをみると、相手が宝石の角をキラリンと光らせた意味をしっかり理解しているようだ。
前半を平均26鍋で折り返し、後半戦に突入した。トップ、36鍋を重ねるギルバルドのテーブルに観客の注目が集まる。
だが、ここにきてカレーの中にゴロゴロ入っている牛と豚の肉が、野菜が、モチモチのナンが、トップを走る選手たちの胃に牙をむき始めた。
「おおっ!? 飛ばし過ぎたか、45分を過ぎてギルバルド選手の手が止まった……あ、ダメ。ドクターストップがかかりました!」
野菜を細かく崩し、カレーに溶け込ませる作戦で突っ走っていた一悟も徐々にペースダウン。苦しそうな顔を見せる。
「大丈夫ですか、一悟さん?」
ガンバレ赤毛の兄ちゃん。応援に駆けつけてきた農家の人々からも声援が飛ぶ。
「おう、どんどん行くぜ! 肉も野菜もサイコー。隠し味のリンゴがたまらん!」
空にした鍋の底を農家の人々に見せてアピールした。
「零さん、お味はいかがですか? まだわかりますか?」
開始から50分、ダンプPが30鍋目をもう少しで食べきるといったところで声をかける。
「凄く、美味い……ッ!!」
零はソフトなフランスパンに鍋の底のルーを染み込ませて食べた。
「ナンの味もカレーにベストマッチして凄く良いけど、パンにもあう! これは幾らでも食える美味さ―――!」
わたしにもください、と手をあげるメイメイ。
ダンプPがパンを持って走る。
「上谷さまのフランスパン、とても美味しいです」
「メイメイさんも同じく30鍋、ここから上位に食い込めそうですか?」
「勝っても、負けても、美味しい大地の恵みに感謝、を」
ひつじがかわいい前掛けの端で、微笑む口元をぬぐった。それから猛然とスプーンを動かしだした。
ラスト8分。
ここで、ムスティスラーフ、サイモンの手が止まる。
「お! サイモン選手、立ちあがりました」
サイモンは席を離れると、屈伸運動を始めた。体を動かしてエネルギーを消費し、胃の中のものを少しでも早く消化する作戦だが――。
「あ~、膝をついた。サイモン選手、四つん這いになってしまいましたー。気つけにトマトジュース、飲みます?」
いらない、と首を振ることさえ苦しそうだ。
「サイモン選手、現在48鍋でストーップ!」
そして、豪斗も。腹が重くなっていた。
「うぬ~、ゴッドのタクティクスに間違いはなかったはず! 具の多い内はスプーンで、ナンは具が少なくなってから。一鍋、一枚……なぜだ!?」
原因は神々しすぎる食べ方にあった。見るものをうっとりとさせるようなスプーンの運び、カレーに祝福を与えんとナンを千切る指の動き。一口食すごとに漏らされる至福のため息……。
ゆっくりと食事をとることで、満腹中枢が満たされてしまったのだ。
「たしかに。溢したり、掻きこむようなエレガントでない行いをゴッドはしない! 人の子たちのライフをゴッドは愛するが故に!」
無念に目蓋を伏せ、腹をさするゴッド。
最終局面、残り五分。4人の手が止まったまま、トップを小梢が走る。
いつの間にか二位に大躍進のメイメイに、半鍋差で一悟が三位。リペアと零が同数で4位と五位を争う。
「ここでヨルムンガンド選手が来たーっ! ワールドイーター起動!!」
残り一分。ヨルムンガンドはスプーンを捨てた。ナンを丸のみすると鍋に口をつけて流し込む。それを横目で見た小梢もピッチをあげる。メイメイも負けんと食らいつく。
観客大盛り上がり、熾烈なる女王争い!
「……2、1、終了ッ!」
終了の笛の音が響き、真っ青な空にカレー色の息が一斉に吹きあげられた。
「優勝は、50鍋とナンを完食の春津見・小梢選手―!! 二位は49鍋、メイメイ・ルー選手。三位は怒涛の追い上げをみせてくれたヨルムンガンド選手でした!」
最後に、全員揃って感謝の言葉で締めた。
ごちそうさまでした!!
成否
成功
MVP
状態異常
なし
あとがき
合計461鍋!
農家の人々も、集まった観客たちも、みなさんのくいっぷりに大喜び。
実に楽しい大会でした。
優勝……『グローバルカレーメイド』春津見・小梢。50鍋、50ナン
準優勝…『さまようこひつじ』メイメイ・ルー。49鍋、49ナン
三位……『世界喰らう竜<ワールドイーター>』ヨルムンガンド。48鍋、48ナン
四位……『彷徨う駿馬』奥州 一悟。
五位……『吸血鬼を狩る吸血鬼』サイモン レクター。
六位同着『神格者』御堂・D・豪斗。
『暴食の剣』リペア・グラディウス。
『フランスパン』上谷・零。
九位……『髭の人』ムスティスラーフ・バイルシュタイン。
十位……『重戦士』ギルバルド・ガイアグラン・アルスレイド。
ご参加、ありがとうございました。
GMコメント
【!依頼内容】
・大食い競技に出場し、よく噛んで味わい、楽しむ。
●ルール
制限時間60分以内にたくさん、きれいに『カレー』を食べた人が勝ちです。
なお、スキル使用禁止。
・カレー(辛口)
直径10センチ深さ4センチのホーロー鍋に入れて出てきます。
必ずナンが1枚ついてきます。
ニンジン、ジャガイモ、牛肉(豚も混じっています)がゴロゴロッと入っています。
ルーにはリンゴと玉ねぎが使われています。
・カレーは鍋の中が『キレイ』になくなった時点で追加できます。
・水は飲み放題です。
その他の飲みものは各自プレイングで指定してください。
※アイテムとして所持している必要はありません。
・おかわりは自分で鍋を取りに行ってもらいます。手を上げて催促しても駄目。
運んでいる途中に数滴でも零したら、もう一度戻って新しい鍋と交換です。
・競技中に会場(ロープで囲った範囲)の外へ出ることはできません。
・競技は室外(とある店の前)で行われます。寒いです。
ちなみに長机を並べ、横一列で座って食べてもらいます。
・会場にはカレーに使われている具材の生産者たちも応援にやってきています。
生産者たちはまんべんなく全員を応援してくれます。
個人の応援団とかも来場しているようです(参加者以外の名は出しません)。
【!おねがい】
プレイングの冒頭に飲み物の指定をお願いします。
・1行目:『ひらがな』または『カタカナ』のみで、4文字以上、10文字以内の飲み物1つ
なお、アルコール類は一切禁止いたします。
例1)つめたいコーンスープ
例2)アイスミルクティー
あとは戦術とか、前掛けの柄とか、ご自由にご記載ください。
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