シナリオ詳細
なに喰う虫も好き好き
オープニング
●どうしてそんなに大きくなったの?
幻想の辺境、ある低い山のふもとに村がひとつあった。
交易の要というにはあまりに奥まっているため、外部から人がやってくることは少ないが、全くないというわけでもない。
まれに――特に秋になると、村の特産品を求めて訪れる行商人がいるのだ。
村が閉鎖的でないのは、村人たちの穏やかな気質によるものだけでなく、このささやかな交流の賜物だろう。
そんな村で。
この秋、大きな問題が起きてしまった。
「いました」
「移動しておらんのか」
「動き回ってはいるようですが、数はたぶん減っていませんね……。よそに行く様子もありません」
「うーむ……」
山に偵察に行っていた狩人の青年からの報告に、村長は難しい顔をして唸る。
秋に最盛期を迎える特産品とは、デカキノコとこのあたりでは呼ばれている巨大なマトゥタケだった。その大きさ、なんと一般的なマトゥタケの十倍。
春になれば山を緑色に染め上げる、マートゥという木の根元に生える大きなキノコは、味わい深いだけでなく、うっとりするほど香りがよく、いい出汁もとれるとひそかに人気を博していた。
すっかり寒くなったこの時期、マートゥは赤色に染め上げた葉を枝から落とし、山の中を鮮やかに染めている。他の落葉樹の黄色の葉とまじりあい、一幅の絵画のような光景を生み出していた。
村人の楽しみは、そんな山の中を歩き、デカキノコや秋の山菜を収穫することだったのだが。
「ミミズか……」
今年はなぜか、ミミズが出た。
それもただのミミズではない。なにが起こったのか、体長はおよそ三メートル。枯葉や樹木だけでなく、デカキノコまで食べ、人まで襲う凶暴な生物だ。
「村長、このままではデカキノコどころかマートゥの木まで食われます」
「毎年デカキノコを楽しみにしてくれている商人さんに、あわす顔がありません」
「うむ……」
村長の家に集まっている男たちは、村の利益を案ずるよりも、デカキノコを買いつけにきてくれる行商人や、それを食べてくれる人々に申しわけなさを感じていた。
意を決し、村長は膝を叩く。
「うむ。ローレットに依頼じゃ。デカミミズどもを退治してもらえんか、頼んでみよう」
●巨大ミミズを討伐せよ!
「香りマトゥタケ味シメジ、なのです」
テーブルに資料と地図を広げた『新米情報屋』ユリーカ・ユリカ(p3n000003)はそう言ってから、口の端のよだれを澄ました顔で拭きとった。
「マトゥタケは焼いても炊きこみご飯にしてもおいしいのです。お値段はちょっと高めですが」
そうだね、と頷いた特異運命座標たちは、資料の一番上に置かれていたスケッチらしき紙を見て眉をひそめる。
そこに描かれているのはミミズのような生き物だった。ただ、普通のミミズと違い、頭部がバカッと開いている。口らしきそこには鋭い歯がずらりと並んでいた。
「この村、大きなマトゥタケの産地としてその道の愛好家たちに知られているそうなのです。ボクは初めて聞いたのですが……。とにかく、その村の裏にある山で大きなミミズが出て、マトゥタケを食べているそうなのです!」
悔しそうにユリーカは天井を仰いだ。
「ボクも食べたいのです!」
「えっと、今のところ村に被害は?」
「ないのです。でも特産品を食べられているのです。それに、いつ村に下りてくるか分からないのです。山に入った狩人さんが襲われたことで、ミミズがいると発覚したそうなのです」
「なるほど、人を襲うのか」
可愛らしい顔に険しい表情を浮かべて、ユリーカは頷く。
「皆さん、大至急、村に向かってほしいのです。ミミズ狩りなのです!」
何人かの特異運命座標が、スケッチの不気味なミミズを見てちょっと嫌そうな顔をした。
- なに喰う虫も好き好き完了
- GM名あいきとうか
- 種別通常
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2018年11月27日 23時40分
- 参加人数8/8人
- 相談7日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
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参加者一覧(8人)
リプレイ
●キノコの香り
葉を落とした木々の間から、巨大なミミズの影が見えないか。足元から不穏な振動は伝わってこないか。
特異運命座標たちは感覚を研ぎ澄ませ、注意しながら山の中を歩いていく。
「あったよ!」
嬉しそうな声を上げ、『はーれむ・ますたー』ナーガ(p3p000225)が木の根元で屈む。色づいた落ち葉を適当に払いのけ、全貌を明らかにした巨大なマトゥタケを無造作に収穫した。
「見事なものですね」
かすかな感動を声音に乗せ、桜咲 珠緒(p3p004426)がまじまじとマトゥタケを観察する。
「こっちにもあったぞ」
別の木から『Hi-ord Wavered』ルア=フォス=ニア(p3p004868)が二本目のマトゥタケをとる。
「いい香り……。美味しそうですね……!」
思わず巨大マトゥタケ料理の数々を想像してしまった『Life is fragile』鴉羽・九鬼(p3p006158)は、慌てて口許を拭う。
「ひとつ貸して。囮に使うわ」
「いいよー」
楽し気なナーガから受けとったマトゥタケを縦に裂き、『不屈の紫銀』ルーミニス・アルトリウス(p3p002760)は銀色の毛並みの少し大きな犬を召喚する。
「はい。これ咥えて走るのよ」
「ガウ……」
「どうせ噛まれても消えて還るんだから、不服そうにしないの!」
心の底から嫌そうに鳴かれ、ルーミニスは片手を腰にあて、逆の手で犬を指さした。
「ルーク、大丈夫……?」
「え、なにが? 平気だよ。ミミズなんて全然、問題じゃないよ。それよりも一緒に依頼受けるの、初めてだよね。頑張ろうね」
「うん……」
山に入ってからずっと顔色が悪い『メルティビター』ルチアーノ・グレコ(p3p004260)を、『白金のひとつ星』ノースポール(p3p004381)は不安そうな目で見る。
大丈夫だとルチアーノは微笑みを浮かべ、ルアに声をかけた。
「マトゥタケ、もらってもいいですか?」
「うむ」
「ありがとうございます」
事前に粗方、決めておいた作戦通り、ルチアーノがマトゥタケのいい香りを混ぜた香水を作る。
完成させた小瓶は二つ。ひとつは自分が持ち、もうひとつをノースポールに渡した。
「気をつけてね、ポー」
「うん。ルークも」
単独行動は予定に入っていないが、絶対にそうならないとも限らないのだ。
「見つけた」
一同のやりとりを穏やかに見つめながら、精霊たちに戦闘に向いた場所を探してもらっていた『優心の恩寵』ポテト チップ(p3p000294)が凛とした声を上げた。
「ミミズたちの居場所は?」
犬を説得していたルーミニスの問いに、ポテトは精霊たちとの意思疎通を続けたまま応じる。
「およそ把握した。目的地の近くにもいる」
「分かったわ。ほら、誘導役!」
「バウ……」
「道中にはおるのか?」
ルアは両手に銃を持った。
「一体だけ」
「じゃあ、そのムシさんもつれていこう!」
「デカミミズ……。うぅ、絶対、夢に出るやつじゃないですか……」
はしゃぐナーガと自らの不運を嘆く九鬼の温度差は激しい。
「出立前に、ノースポールさん」
「はい」
少し緊張した顔でノースポールが頷く。
「大丈夫です、痛くないはずなので」
安堵させるように口元に笑みを刻んだ珠緒が、ノースポールの手に触れた。
双方が同意したことにより、血束が発動。血の呪印がノースポールの体に刻まれる。
「おしまいです。お待たせしました、向かいましょう」
頷いたポテトが、案内役として先頭に立つ。
●キノコが好き
巨大マトゥタケを咥えた白銀の大型犬が疾駆する。
特異運命座標たちは木々を二本ほど挟むよう心掛けながら、犬と並走する。犬の後ろには途中で引っかけた巨大ミミズが、すさまじい速度で這っていた。
「もうすぐだ」
直径一メートル、全長三メートルのミミズが動けば、乱立している木々は押し倒される。破壊される自然に胸を痛めつつ、ポテトは精霊たちの声を聴く。
間もなく、開けた場所に出た。
そこは恐らく、元々なんらかの理由で木々が生えていない一角だったのだろう。花畑でもあったのかもしれない。
しかし今は花弁の一枚もなく、むき出しの地面には葉さえなかった。
一匹の巨大ミミズが胴体を伸ばして、歯の生えた丸い口で、樹木の幹を半ばから噛み砕く音が響く。
「キャウン!」
ついに捕まった犬が悲痛な声を上げて消える。犬をマトゥタケごと食らった巨大ミミズが勢いを殺さずに前進。
ぽっかり空いた空間を囲むように立つ木々の一本を丸のみにしようとして、なにかに気づいたように動きをとめた。
もう一匹もそれにならう。二体の巨大ミミズが、特異運命座標たちを認識した。
「これ以上、好き勝手にはさせないよ」
香水を頭からかぶったルチアーノとノースポールが、仲間たちと二体の怪物の間に立つ。ルチアーノはこみあげてきた嫌悪感と吐き気を、気合で胃の底に戻す。
ノースポールが香水を自身にすべて振りかけ、瓶を投げ捨てた。
「キノコが欲しかったら、こっちにおいでー!」
「僕を食べてもいいよ? おなかを壊さない程度にね」
「ギュアアアオオオオ!」
けたたましい声で巨大ミミズが吼える。二人は視線を交錯させてから、左右に分かれた。
敵が広範囲の攻撃を繰り出せば互いにぶつかりあってしまう距離を意識しつつ、気を引きつけておくのだ。
ふわりとノースポールが飛翔する。目の高さは体の半分をもたげた巨大ミミズよりも上だった。
「ギュアオオオ!」
「あう……っ」
牙を剥き出しにして跳ね上がった巨大ミミズの攻撃が腕を掠める。だがこの程度、どうということはない。
「おとなしく食べられるワケには、いかないのっ!」
曲芸師のように身軽に、彼女は宙を舞って攻撃を繰り出す。旋風のような動きは眼前の巨大ミミズだけでなく、ルチアーノが請け負った巨大ミミズにまで炸裂した。
「ムシさん、ひきちぎってあげる!」
ナーガなりのアイに満ちた、衝撃波を帯びるこぶしが直撃する。巨大ミミズが口から緑色の体液を吐き出した。
「はぁっ!」
全身全霊で吐き出されたルチアーノの大喝が、巨大ミミズを後退させる。
「ギュアオオオ!」
叫んだ巨大ミミズが猛進。頭部を薙ぎ払うように振り回した。
「く……っ!」
衝撃と痛みと相手がミミズであるということに、胸が悪くなる。だが、単体ではなく列に作用するミミズの攻撃は、同じ巨大生物にもあたっていた。
「せめて理性があればよかったのに」
仲間に攻撃され、怒りや不信感を抱く程度の知能があれば、少し楽だったのかもしれないが。
体をぶつけあいダメージを重ねて行こうとも、巨大ミミズたちは全く気にしていないようだった。キノコの匂いに夢中らしい。
「これだけ大きければ……」
二体の獲物の間あたりに滑りこんだルーミニスが、武器を構える。
「釣りの餌にだってならないわよ!」
大戦斧を旋回。巻き起こる旋風はもはや暴風だ。範囲に入るすべての生命を傷つける。
「行くよ、イン……!」
霊刀を手に九鬼が疾走。気力みなぎる突撃が命中した。
「もう一回……!」
片足を軸に身を反転させ、大きく踏みこんでさらに一撃。身もだえる巨大ミミズから吹き出す血液を浴びる羽目になったが、彼女はひとまずその不運を思考から除外する。
保護結界で周囲を守ったポテトが、ルチアーノに祝福を授ける。その隣で、珠緒は呪印を通してノースポールの負傷具合を確認しつつ、彼女に祝福をかけていた。
「桜咲は思うのですが」
「うん?」
「ミミズが牙を持っている、という話は聞いたことがありません。つまりこれは、そもそも別種なのでは?」
「私もそんな気がしている」
戦場を見つめながら頷いたポテトを目の端に捉えつつ、ならばあれはなんなのかと、珠緒は少し難しい顔になる。
見た目は完全に、巨大化して気持ち悪さだけが増したミミズなのだが。
「ナーガ、回復する」
「九鬼さん、頑張ってください」
主に敵の気を引いている二人に注意を払いながら、前線で戦う仲間たちを癒す。声をかけあい、連携をとることで過剰な治癒重複の可能性を排除していた。
「残り十体か」
先は長い、とポテトが呟き、珠緒が同意する。
九鬼の鋭い聴覚と音の反響で周囲の状況を把握する能力が、地中からの脅威を告げた。
「きます……!」
前線で戦うルチアーノ、ナーガ、ルーミニスが後退。ノースポールはさらに高く飛ぶ。
同時に、地表を割って一回り小さなミミズが出現した。
「それでもデカいのぅ」
倒木の上に立つルアが立ち位置を調節。新手のミミズが吼えるのとほぼ同時に、OoSを放った。
真紅の雷が巨大ミミズたちに直撃する。最も深手を負っていたミミズが、ぶすぶすと黒煙を上げながら倒れた。
「いつぞやのぼーふらよりマシじゃが、十分にキモい!」
食糧としての価値もなさそうなミミズに、用も容赦も慈悲もない。
虫は嫌いだし、ミミズも嫌いだ。
だがそれ以上に、ノースポールが巨大なミミズに襲われているという状況が、我慢ならなかった。
「ポー、あとは任せて!」
瀕死の巨大ミミズの標的になっているノースポールに声をかけ、ルチアーノが躍り出る。「倒す潰す早く終わらせる!」
すんなりと位置を変わってくれた彼女に聞かれないよう、早口で呟きつつ怒りと憎悪と執念をこめて、刺突と斬撃を絶え間なく繰り出す。
「私も頑張るね……!」
敵の背後に回ったノースポールも、ルチアーノの奮闘に励まされながら旋風のように暴れ回った。
のたうち回っていた小型のミミズが、地中に潜る。
「逃がしません……!」
感覚を研ぎ澄ませ、九鬼は敵の居場所を即座に割り出した。
「ここです!」
「ナーちゃんにまかせて!」
穴が穿たれるほど鋭く、ナーガがこぶしを地面に叩きつける。休んでいられないとばかりに巨大ミミズが急上昇。ナーガを下から噛み砕こうと、大口を開けて地上に再び姿を見せる。
「させないわよ!」
だが、ナーガを咥えた大口が完全に閉じられるより早く、ルーミニスがその横腹に大戦斧の一撃を叩きこんだ。
「ギュアオオオ!」
「大丈夫ですか……っ」
「うん!」
負傷はすぐさまポテトのハイ・ヒールに癒される。
「もう一発、ぶっぱじゃ!」
ルアの号令。前衛たちが退くのを確認すると同時に、二度目の放電が行われた。
ルーミニスの二体目の犬が、第二陣を連れてくる。
今回は巨大ミミズが三匹だった。九鬼は地中からの襲撃を警戒し、ポテトはルチアーノ、ルーミニス、九鬼、ナーガの祝福が途切れていないか、素早く再確認する。珠緒もノースポールの祝福と調子を入念に確かめた。
「ギュアオオオ!」
犬もキノコも一緒くたに食べたミミズの咆哮。エサにありつけなかった二体のミミズが、ルチアーノとノースポールに狙いを定める。
「まとめて範囲攻撃で薙ぎ払う作戦、間違ってはないと思うけど」
「数が多いです……!」
「どれだけいるんでしょうね!」
「いっぱいアイしてあげる!」
「絶対潰す絶対潰す絶対潰す……!」
前衛の五名がそれぞれ巨大ミミズに躍りかかる。
「すべてのミミズを積み上げたら、それだけで山ができそうですね」
足場が悪くなってきたため、宙に浮きながら珠緒がため息交じりに言う。ポテトは小さく息をついた。
「精霊たちが、山が踏み荒らされて悲しいと言っている」
「さっさと終わらせるのじゃ。儂ももう、見飽きておる」
巨大ミミズはもう十分だ。
三体のうち、一体の巨大ミミズが瀕死に陥ったところで、地中から二体のミミズが姿を現した。
開けているとはいえ、先ほどの三体のミミズの死体もあるのだ。ただでさえ圧迫感のある光景が広がっていたというのに、余計に狭く感じられる。
だから、というわけではないのだろうが。
「あ……っ」
斬撃を放とうとした九鬼が、盛大に転んだ。
敵も味方も無差別に押し潰そうとするように、暴れ回っていた二体の小型デカミミズの攻撃が、迫る。
「なにやってるのよ!」
二体のミミズの狂乱の舞踏を受けた九鬼に、頭を振ったデカミミズの追撃が入る前にルーミニスが走った。ナーガが笑いながら、二人に迫った攻撃を受ける。
「しっかりしろ、鴉羽」
「まだ戦えますか?」
ルーミニスに回収された九鬼に、ポテトと珠緒がハイ・ヒールをかける。九鬼の目蓋が震え、意識が戻った。
「たたかえ、ます……」
「迅速に下がるのじゃー!」
自力で立ち上がった九鬼は、真上に向かって疾駆する紅の雷の眩しさに目を細めた。
ここがきっと、今回一番の正念場になる。
積み重なる疲労とうなじが焦げるような焦燥を押し殺し、ノースポールは自分がするべきことをする。ただ、ルチアーノの様子がどうしても気になった。
どうか、無事に終わりますように。
信じて戦う彼女を、巨大ミミズの牙が捕らえる。
「かふっ、うぅ……っ!」
噛みつかれ、そのまま振り回すように木に叩きつけられた。空気の塊を口から吐き出し、痛みでうめく。
「アンタの相手はこっち!」
「あははっ」
ノースポールに突進しようとした巨大ミミズを、ルーミニスとナーガが引きつける。
瀕死だった一体は先ほどのルアの放電で沈んでいた。二体の小型デカミミズのうち一体は九鬼が引きつけ、もう一体は地中に潜っている。
ポテトと珠緒がハイ・ヒールをノースポールに施す。血が流れていく感覚と激痛が、徐々に和らいでいく。
一部始終を、ルチアーノは目撃していた。
一瞬だけ沸騰しそうなほど煮えた頭が、氷水につけられたようにすっと冷える。
ミミズたち――特にノースポールを噛んだミミズを睨んで、愛用の折り畳み式ナイフを握りなおした。
「潰す」
冷え冷えとした怒りの中で、嫌悪感は灰さえ残さず燃えつきた。
第二陣をどうにか倒しきり、第三陣を迎える。
「これで犬の召喚は限界よ」
やはり不服そうな従僕を見送り、ルーミニスが疲労を不敵な表情の下に隠して宣言する。ルアが左右の手に持った、金と銀の銃を自身の細い肩に乗せた。
「儂もきつい」
「次が最後になるといいですね」
できればもう現れてほしくない、と思いつつ、珠緒が細く息を吐き出す。
刹那。
騒音が聞こえてきて、特異運命座標たちの前で三体目の犬が食われた。
「仇はとってあげるわよ!」
「ムシさんも、ひきちぎってあげるね!」
「これで最後になりますように……!」
ナーガ、ルーミニス、九鬼が迎撃のために駆け出す。
「ルーク」
不安そうな目で見つめてくるルチアーノに、ノースポールは微笑んで頷いた。
彼女の力強い表情に勇気づけられ、ルチアーノも首を縦に振る。
「行こう、ポー」
「さて、もうひと頑張りじゃな」
大きく伸びをしてから、ルアが銃を構えた。
「誰も死なせない」
「気絶も、もうさせません」
ポテトと珠緒も気を引き締める。
「ギュアオオオ!」
地上から、地中から。
巨大なミミズたちが現れ、戦闘が始まる。
●巨大マトゥタケ三昧
どう、と音を立てて巨大ミミズが地に伏し、沈黙が戦場を包んだ。
「全滅だ」
精霊から情報を得たポテトの声で、空気が一気に弛緩する。
「お、お疲れさまでした……」
剣をおさめた九鬼がへたりこむ。
「皆さん、お疲れさまでした……。大変でしたね」
「本当にね」
ルチアーノはノースポールが落ち葉の上に腰を落ち着けるのを確認してから、平静を装って隣に座った。
「怪我、平気?」
「うん。ルークこそ大丈夫?」
「大丈夫だよ」
巨大ミミズの亡骸から精一杯目をそらし、ルチアーノはにこりと笑んだ。
「なぁ。この土地、ガチで調査した方がいい気がするのじゃが? また、変なキモいのが出たりしそうじゃし」
足場にしていた倒木から軽やかに降りたルアが、銃の先でミミズをつつく。ぶよぶよしていた。
「出現時期や巨大化のきっかけについて、精霊たちに聞いているんだが」
「要領を得んか」
「巨大なマトゥタケを食べていた、地下から出てきた、ということくらいしか分からない」
「ふぅむ」
ポテトが首を左右に振る。ルアは顎に手を添えた。
「土を持って帰って、もう少し調べてもらいましょうか」
「去年までいなかったということは、例年とは違うなにかがあったはずですからね……。私も手伝います……!」
「桜咲も手伝いましょう」
九鬼と珠緒が、地下からミミズが出現した際にあいた穴付近の土を集め始める。
「僕も手伝うよ」
枯葉の下や地中から現れる小さな虫をものともしないノースポールに、僕も頑張らないと、とルチアーノは自身を鼓舞した。
「ナーちゃんはおうち! つくる!」
言うが早いか、ナーガがすさまじい速度で穴を掘り、巨大ミミズを埋めてしまった。さらに土と木の枝や色鮮やかな落ち葉を使って飾りつけ、立派な墓を作り上げる。
「すごいわね」
思わず感嘆の声を上げたルーミニスに、ナーガは喜びでいっぱいの顔になった。
「まだつくる!」
「……まぁ、埋めておいたらミミズたちも肥料になるかもしれないし? いいんじゃないかしら」
村人がやってくるようになれば、巨大ミミズの死骸に腰を抜かすことになるだろう。土に埋めればその心配もない。
「芽吹け」
地面に手をあてたポテトが囁く。
命を落とした倒木から、枯れ草が積もる地面から、ミミズが埋められた墓から、草木の芽が伸びていく。
少しでも元の環境に戻ることを願いながら、ポテトは周囲の植物を成長させた。
不意に、ぐううう、と音がする。
おなかを抱えるようにしてうずくまったのは、九鬼だ。
「え、えっと……」
「走り回りましたからね。おなか、すきましたね」
「はい……」
珠緒のフォローに、九鬼は赤くなった顔をかすかに上下に振った。
「一度、村に戻ろう」
「そうですね」
立ち上がったポテトにノースポールとルチアーノが異口同音に同意する。ルアは二つ目の墓を完成させたナーガに声をかけた。
「ほれ、帰るぞ」
「うん!」
「マトゥタケ、見つけたら持って帰るわよ。困ってそうだし」
「現物支給してくれないでしょうか。友人にあげたくて」
「私、大きなマトゥタケ、食べたいです……!」
「村長に相談しなさい」
真剣に持ち帰りを望む珠緒に九鬼が大きく頷いた。ルーミニスは周囲に視線を走らせながら、適当に応じる。
巨大ミミズが消えた山の中には、穏やかな空気が満ちていた。
成否
成功
MVP
なし
状態異常
なし
あとがき
お疲れさまでした!
このあと村では去年収穫して干しておいた巨大マトゥタケや、皆様が帰り道でとってきた巨大マトゥタケを使った料理の数々が振舞われました。
また、後日ローレット宛に巨大マトゥタケがたくさん入った箱とお礼状が届きました。
きっと皆様には秋の味覚をたっぷり堪能したり、友人知人に配ったりしていただいたことでしょう。
巨大ミミズ騒動はあれから起こっていないようですが、来年はどうなるか分かりません。原因は地中と巨大マトゥタケにあるようですが。
なにごともなく巨大マトゥタケを収穫できるといいですね。
香りマトゥタケ、味シメジ。
といったところで、今回はこのあたりで。
ご参加ありがとうございました!
GMコメント
お久しぶりです、あるいは初めまして。あいきとうかと申します。
キノコがおいしい季節ですね。
●目標
デカミミズの討伐。
●情報精度
このシナリオの情報精度はAです。
想定外の事態は絶対に起こりません。
●ロケーション
現場に到着するのは昼頃です。
デカミミズは木々が生い茂る山の中にいます。
山は低く、それほど広くもありません。
木々は密集するように立っていましたが、デカミミズたちが食べたり倒したりしたのでまばらなところもあります。
葉はほとんど落ちているため、陽の光が地表までしっかり届きます。
足元には枯葉が積もっていますが、足をとられるほどのものではありません。
木に隠れられるほどデカミミズは細くも小さくもありませんが、地中を這って移動し、地面から現れる場合がありますので、奇襲にご注意ください。
●敵
巨大なミミズの群れです。
どうしてそんなに成長したのかは分かっていません。デカキノコが大きい理由に関係しているのかもしれませんが、詳細は不明です。
去年までは一匹もいませんでした。
なんでも食べる食いしん坊たちです。見た目が非常に気持ち悪いです。
『デカミミズ』×6
食欲に支配されている巨大ミミズ。体長3メートル、直径1メートルほど。
ずるずると移動する姿はヘビにも見えるが、圧倒的に気持ち悪い。
血液は緑色。
・巻きつく(物・近・単):巨大な体で巻きつく【窒息】
・噛みつく(物・至・単):牙が並ぶ歯で噛みつく【出血】
・薙ぎ払う(物・至・列):頭部を振り回す
『デカミミズ(小型)』×4
小型といってもデカミミズより一回り小さいだけ。
一般的なミミズよりもはるかに大きく、血液は緑色。
動きが早いのが特徴。
・地中からの突進(物・遠・単):地中に潜行、急上昇して下から攻撃してくる
・大暴れ(物・近・範):体をめちゃくちゃに地面に打ち付ける【反動】
・潜る(物・自・単):地中に戻って休息することでわずかに回復する
●他
これ以上、木々を倒したり燃やしたりしない方が村人は喜ぶでしょう。
また、デカミミズや小型デカミミズはデカキノコが好物のようです。
よろしくお願いいたします!
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