シナリオ詳細
音沙汰なくなった村落へ
オープニング
●集落に襲来した悪魔
ある幻想内の村落。
そこにふらりと、1人の旅人が訪れる。
「すみません。何せ、無辜なる混沌はまだ不慣れなもので」
見た目は、好青年といった風貌の男。紳士的な態度をとる彼はイヴァクと名乗った。
「いえいえ、旅人さんは最近では珍しくもなくなりましたから」
おばさんはそんな青年に宿へと案内する。
この村落など、地方に行くと農作物を育てて生計を立てている集落も多いが、最近では旅人が利用する為の宿を設置して村落の収入源としているところも珍しくない。
「そうですが、ご丁寧にありがとうございます」
しかしその誠実そうな外見に反し、彼の瞳は只ならぬ狂気を秘めていた。
その夜、村落の家々は黒い煙を上げて激しく燃えていた。
炎の海の中で、人々は叫びながら村の外へと避難していく。
だが、中には、見えぬ家族、友人の姿を探し、集落の中を彷徨う者もいた。
「おかぁーさん、おかぁーさん!」
「ああ、どこに行ったの!? 返事を……返事をして!!」
必死に呼びかける人を、他の集落民が抱えて外へと連れ出そうとする。今は生き残るほうが先だ、と。
そんな混乱する集落の様子を、先ほどの青年が頭上から愉快そうに見下ろす。
「……実に愉快だな」
まさに高みの見物と言わんばかりの態度の彼は、黒い光翼を羽ばたかせて炎の中へと降り立つ。
そこにいたのは、先ほど案内していたおばさん。
自身の腕の中で、目蓋を閉じた亭主を亡くしてしまったらしい。
燃え盛る炎の中だというのに、冷たくなった伴侶の死を感じたおばさんの顔は涙で溢れていた。
「折角だ。先ほどの礼をしてやろう」
「あんた、何するんだい!?」
男性の体をつかむ青年がなにやら光を放つと、死んだはずの男性がゆっくりと動き出す。
「あ、あんた……!?」
おばさんが驚きの表情で叫んだのは刹那のこと。亭主がいきなり肩口へと喰らい付いてきたのだ。
「あ、ああぁ、ああぁあ……」
「あんた、やめとくれ!!」
そんなおばさんの様子に、青年が高笑いする。
「くくく、実にいい。秩序の乱れた光景の何たる滑稽なことか!」
黒い光翼で羽ばたく男が高笑いする。
こいつこそ、集落を火の海に包み、さらに死者を「再生」させた張本人。
彼はイヴァク。この世界に降り立ち、「再生」を司る悪魔と成り果てた存在だった。
●便りのない村落への使いに
幻想という国は多く、異世界より召喚されてきた旅人が留まる場所。
旅人の中でかなりの数がイレギュラーズとして、ローレットに所属の上で幻想を初めとして各地での依頼解決へと奔走している。
それは、この混沌の地において、力を持った状態で召喚された旅人達が自分にできることを探して、あるいは生きる為の糧を得る為に事件の解決に当たっているのだろう。
だが、そうでない旅人も少なくはない。
元の世界では持たなかった力を手にしてしまったが為に、自らの欲を満たす為だけに動く者もいる。
また、元の世界から力を持ち越し、混沌肯定『レベル1』の干渉を受けてなお、じっくり力を蓄えてこの地でも己の欲望のままに動く輩もいる。
そして、そういった手合いは大概、混沌に害をもたらす存在となる……。
幻想のローレット。
そこに詰めていた『穏やかな心』アクアベル・カルローネ (p3n000045)は神妙な面持ちでイレギュラーズの来訪を待っていた。
「少しお話をよろしいでしょうか?」
どうやら、彼女は穏やかではない話を仕入れたらしく、イレギュラーズに助力を願いたいとのこと。
きっかけは、アクアベルが情報収集している最中で、行商人のおじさんが発した一言だった。
『いつも買い付けをしている村落の農夫さんがここ数日、音沙汰なくてねえ』
季節は、実りの秋。農家としては、取れたての野菜を売り込みたい時期のはず。
それなのに、数日連絡皆無というのはさすがにおかしいと彼も感じたわけだ。
さすがに、行商人もまたかき入れ時だ。
生活がかかっていることもあり、行商の手を止めてまで農夫の安否を確認する余裕まではない。
「それで、私達ローレットまで安否確認の依頼が入ったということですね」
だが、それと同時に、行商人のおじさんはこんな話もしてくれたらしい。
「その行商人さん、別所で集落跡を1つ発見したらしくて」
そこは小さな村があったはずだが、なんでも気付かぬうちに廃墟と成り果てていたとのこと。
詳細は不明だが、集落民は天災か何かの事由で全滅してしまったらしい。
そして、行商人はそこで、あるモノを見たと言う。
『見たんですよ。黒い光翼で空を飛ぶ白い肌の青年を』
「黒い光翼……?」
そこで、ローレットで待機していた『生誕の刻天使』リジア (p3p002864)が大きな反応を見せた。
アクアベルは、とりあえず先に説明を始めたメンバー達に対して話の締めに入る。
「その青年が何かかしら関わっている可能性は高いです。……くれぐれもご注意を」
そうして、彼女はさらに、リジアに対して同様の説明を始めたのだった。
- 音沙汰なくなった村落へ完了
- GM名なちゅい
- 種別通常
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2018年11月24日 22時20分
- 参加人数8/8人
- 相談5日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。
参加者一覧(8人)
リプレイ
●行きの馬車の中で……
幻想内のとある村落へと向かうイレギュラーズ達。
今回は、『尾花栗毛』ラダ・ジグリ(p3p000271)が操る馬車に揺られて現地へと向かうことになる。
「それにしても、村から、音沙汰がなくなるという……」
赤髪、スタイリッシュな女性、『森羅万象爆裂魔人』レナ・フォルトゥス(p3p001242)がそう話を振ると、クールなスレンダー少女、『浄謐たるセルリアン・ブルー』如月 ユウ(p3p000205)が小さく唸って。
「調査の依頼ね。忙しくてって線は低そうよね……」
――今回は不確かな情報も多いが、もし原因が人為的なものなら……。
そこで、ピンクの髪にたれ目が特徴的な『こそどろ』エマ(p3p000257)が不自然な引き笑いして、口を開く。
「村落の安否確認ですか。異常があったらその場で対処せよと言うことでよろしいんで?」
すでに重傷を負っている状態のエマだが、ひとまずその前提で動くと語る。
「ですので、報酬に便宜とか……いえいえ」
報酬を気にかける当たり、盗賊業に身をやつす彼女らしい。
「元の世界の物語で、よくある話よね」
小柄で色黒の肌を持つ狼系獣人種の少女の外見をした、『銀蒼棄狼』詩緒・フェンリス・ランシール(p3p000583)がそこで、自身の世界での物語について軽く語る。
――短期間に廃墟となった村、ゾンビや吸血鬼に変貌した住人、住人を変えた親玉……。
「どうせ、今回もそんなパターンでしょう」
順調に行くなら、現地に現れたという黒い光翼を持つ青年が悪の親玉の役割だろうと詩緒が告げて。
「……どうなのかしらね?」
「現状は不明とはいえ、これは調べてみないことにはねぇ」
詩緒の問いに、レナが言葉を返す。
「……まあ、兎に角行ってみるしかないわね」
ユウもまた、自分の目で確かめようと仲間達に言う。
「……黒い光翼」
ただ、白い光翼を背に持つ『生誕の刻天使』リジア(p3p002864)だけは何か、胸のざわつきを感じていたようで。
「あくまで、調査依頼だ……分かっている。だが……」
「…………」
それほど、多くを語らぬリジア。
馬車を操るラダはそんな彼女に気を掛けながら、現場の村落へと急ぐのである。
●燃える村落
イレギュラーズ一行の乗る馬車は問題の村落へと近づいていく。
「さて、到着です」
「HAHAHA! さあて、お仕事の時間だな!」
エマの言葉に、今回のチーム唯一の男性である格闘家スタイルの『ボクサー崩れ』郷田 貴道(p3p000401)が豪快に笑い、腕を鳴らす。
目立ちたがり屋な貴道だが、どうやらリジアと因縁のある相手の仕業だと感じていたようで、今回は脇役として立ち回ろうと割り切っている様子。
そんな彼を含めたメンバー達が見た現場の村落は……。
「村が燃えてる?」
炎に包まれる家々。それに、金の双眸を持つ全身真っ白な少女、『α・Belle=Etoile』アルファード=ベル=エトワール(p3p002160)が刹那目を見開く。
「く……! まだ生存者がいるかも」
それを見て、ユウも顔を僅かに引きつらせる。
ともあれ、ラダが自らの馬車を村落の外へと停めると、メンバー達は急いで生存者を探すべく、中へと突入していく。
アルファードは早速、精霊疎通で周囲の精霊から情報を集めようとする。
何やらざわつく感情は頭上から感じるが、その細かい場所は分からないようだ。
この為、アルファードは仲間に頼りつつ、自力で調査を行うことにしていた。
「本当はばらけて探すのが効率いいのだけど、状況が分からないし」
ユウも精霊と疎通し、その精霊に生存者の捜索を頼む。
「ローレットだ。救援に来た。可能なら、我々の元に向かってほしい」
その間、ラダは大声で叫ぶ。
ローレットへの信頼、自身への名声は使う為にあると考えるラダは、超嗅覚と聞き耳も働かせる。
生き残っている住人を、詩緒は可能な限り救助しようと探す。
貴道もまた、物陰に住人がいないかと聞き耳を立てていた。
リジアはというと自らの光翼を羽ばたかせて、村落上空から捜索に当たる。
(……黒い光翼の男……アレがどこにいるかは、探らねばわかるまい)
あの半端な再生物の排除をと考えるリジアは、村落内に騒ぎが起こってないかと探して回る。
もし、この場にアレがいたら。
……いや、今回はあくまで調査依頼。衝動を抑えられたなら我慢しようと、彼女は自制していた。
生存者を探す一行。最初に発見したのは、ラダだった。
声や血の臭いなどを頼りにして探していた彼女は、何やら叫ぶ人の声を聞きつけたのだ。
そちらへと近づくイレギュラーズは、生き残った住民がゆらゆらと動く人影に襲われているのを見た。
……それは、その人影は。
「あんた、止めとくれ!!」
生き残りのおばさんが動き出した死者に……亭主だったそれに呼びかけていた。
「あ、ああぁ、ああぁあ……」
だが、蘇った死者……ゾンビはおばさんへとつかみかかって腕を振るい、あるいは噛み付いてこようとしてくる。
そんな状態にあるのは、その1組だけではない。
「おかぁーさん、おかぁーさん!」
「ああ、私がわからないの? ねえ、返事して!」
住民達は死んだはずの家族や友人へと呼びかけるが、ゾンビと成り果てた者はそれを認識できず、ただ襲い掛かってくるのみ。さながら、地獄絵図である。
「急がせてもらいましょう」
状況を察し、エマが飛び込んでいく。
「……もし誰かが関わっているなら、許さないわよ」
この状況を作り出した何者かがもし、この場にいたならば。
ユウは怒りを見せつつ、この場の人々の救出へと介入していくのである。
●ゾンビに縋る住民を……
大急ぎで近づくエマは射程距離ギリギリから、隼の名を冠する短刀『ペレグリン』で斬りかかり、相手の首を狙う。
「な、何をっ……!?」
住民が叫ぶのにも彼女は聞く耳を持たず、ゾンビの身体を切り刻んでいく。
「救出担当さん、後よろしくですよ」
「ここは危険です。早く避難を」
エマの呼びかけに応じ、詩緒が生きている住人を庇いに当たりつつ、簡単な治癒魔術で傷つく住民の癒しに当たる。
降り立ってきたリジアも、生き残った住民に痛覚破壊をもたらし、傷を気にせず動けるようにしていく。
その上で、彼女はゾンビの前に立ちはだかり、足止めへと当たっていたようだ。
「HAHAHA、邪魔だ。さっさと逃げるんだな」
貴道もゾンビへと叫びかける住民を、無理矢理引きはがす。
「村の外に馬車を用意している。とっととそれに乗れ」
それが自分達を慮っての言葉だとは認識しても、ゾンビとなった死人に思い入れが強い住民達は、いかに傷つけられても呼びかけを止めようとはしない。
そんな状況の中、アルファードはゆっくりと、住民達へと噛んで含めるように告げる。
「これから、ゾンビと化した彼らに、攻撃、します」
酷なことを言っているのは、アルファードも自認の上。
ものすごい形相で睨みつけてくる住民もいた。だが、恨むのであれば、それでも構わないと彼女は割り切っている。
ただ、アルファードは何も言わずに、住民達の知人に手を上げることはできなかったのだ。
それでも、攻撃を止めて欲しいと訴えかける住人に、ユウが告げた。
「もう戻れないわ。せめて、眠らせて上げなさい」
傷ついてボロボロの住民に、治癒魔術を施すユウ。
慟哭の叫びを上げるその住民から恨まれても、その人が生きる理由となるのであれば。
ユウは生き残った村落民を護る為に、ゾンビと成り果てた人々の前に立ち塞がる。
ラダがそこで、住民達へと自身の馬車に乗るよう住民達へと促す。
「危険が及ぶなら、他を待たず出ていい」
死者対応を自分達に任せ、他村へと避難するようにと指示を出す。
「悪いが、私達には死者を死者に戻す事しかできない。そこは承知してくれ」
その上でラダもまた、彼らへと現実を突きつける。
内心分かっていたとうな垂れる者。狂ったように暴れる知人を呆然と見詰める者。もうダメなのだと諭されて泣き崩れる者もいた。
「村内の脅威は排除だ。後で弔いも必要だろう?」
そのラダの言葉におばさんが気丈に立ち振る舞い、生き残った人々を村の外へと連れ出してくれたのである。
●歪に再生された者達に本当の安らぎを
徐々にこの場を離れていく住民達を背に、イレギュラーズ達は呻き声を上げて暴れるゾンビ達を相手取る。
住民の説得の間も、エマは燃える村落の中を優雅に舞いながら、短刀を手にゾンビとなった住民を切り刻む。
彼女は幾度も切り刻んでいくが、思った以上にタフな相手。
ゾンビどもは底知れぬ力で、襲い掛かってくる。
先ほど、住民達がボロボロになっていたが、数で群がられるとそのダメージは軽視できぬものとなってしまう。
「さあて、ハリウッド映画じゃないが、ゾンビ狩りと行こうか!」
貴道は至近距離まで迫ってゾンビを抑えつつ、相手が腕を振り下ろしてきたタイミングで全体重を預けた一撃を繰り出していく。
かなりリスキーな一撃ではあったが、うまく貴道はゾンビに痛打を叩き込み、痺れを与えていたようだ。
(出来得る限り早く、損壊は少なく眠らせられたら)
アルファードはというと、距離を取りつつも攻式『黒式・ミツハ』を行使する。
周囲に浮かぶ水鞠には視線を向けず、アルファードが前に出した腕を振るうと、水鞠は弾丸となって相手の体を射抜いていった。
集中力を高めた詩緒はゾンビ目掛けて距離を維持しつつ移動し、ライフル銃『コールド・ブラッド』を片手で持つ。
「片手で撃つにはちょっと重いのよね」
それでも、詩緒は銃にスコープがない為に自前の視力で補正しつつ、ゾンビの身体を性格に射抜いていく。
初手、信念の鎧を纏うリジアは周囲の状況を逐一確認しながらも、前方のゾンビ目掛けて極光を放つ。
それは、破壊をもたらす天使の力。ゾンビはその光に苦しみを覚えていたようだ。
しかしながら、他のゾンビはまだ暴れ続けている。
ユウはそいつら目掛けて遠距離術式を放ちつつ、傷つく仲間の状態を確認していた。
イレギュラーズ達は順調に攻め立てているようにも見えるが、レナだけはどうにも動きが冴えない。
魔力弾で応戦していた彼女は、幾度かゾンビに食らわれて全身に傷を負っていた。
それに気付いたユウが治癒魔術でレナを癒そうとするが間に合わず。相手の鋭い爪に引き裂かれ、さらに食らいつかれ、レナは意識を遮断してしまう。
止む無く、ユウは傷の深まる仲間に対象を切り替え、癒しへと当たっていく。
「回復担当、なんてガラじゃないんだけどね」
詩緒もまた仲間に回復を振り撒く合間に、彼女らしく相手の体をライフル銃で撃ち抜いていた。
ようやくと、倒れるゾンビが1体、また1体と出始める。
短刀を振るい続けてゾンビを攻め立て続けていたエマは不意に高く跳び、鎮火した家の屋根に飛び乗った。
頭上高くへと移動したエマを追おうとしたゾンビ達は両腕を上げて、届かぬ彼女を捕えようとする。
「ゾンビ相手ですからね」
彼女は真下の相手の脳天を狙い済まし、素早く刃を振り下ろすと、そいつはなすすべなく地面へと崩れ落ちていく。
徐々に動く死者が減ってくる中、ラダは周囲からの奇襲に警戒を怠らない。
まだ、黒い光翼の青年らしき者の姿は確認できない。
ラダはそれを気にかけつつ、前方の敵目掛けて古めかしい大口径の『対戦車ライフル』から魔弾を発射し、ゾンビ2体を撃ち抜いていく。
時折、後ろへと攻撃を通さぬようにと、相手をブロックしながら立ち回るリジア。
彼女は至近距離から生命の再生能力を逆転させ、ゾンビとなった人の身体を破壊する。
呻き声が完全に止まり、前のめりに倒れる最後の1体。
全てのゾンビを倒したというのに、リジアは警戒を解かない。
その時、頭上に飛ぶ何かが村落の地面へと影を落とす。
「くくく、いいですね……。乱れた秩序はこんなにも素晴らしい」
炎が小さくなり、多数の人々の遺体が見え始める中、狂ったように笑う黒い光翼の男。
リジアの世界において、翼の大きさは力の大きさに比例して大きくなるとされているが……。
思った以上に大きな光翼を持っていた彼をリジアは睨み、自らの翼を羽ばたかせるのである。
●黒い光翼の青年
リジアの予感は当たっていた。
この近辺に現れていた黒い光翼に白皙の青年。
そいつは、「再生」を司る悪魔イヴァク。リジアと同じ世界からやってきた旅人だ。
「貴様など、この惨状を引き起こしたと言うだけで滅ぼすべきだが」
涼しい笑いを浮かべる相手に、リジアは問いかける。
「何が目的で、何を意図しているかくらいは聞いてやる」
「くく、知れたこと。乱れた秩序こそ我が望み。この混沌の地で混沌を望んで何が悪いのでしょう」
「……私が破壊する」
白い光翼を広げた彼女は、相手を睨みつけてさらに続ける。
「世界のシステムでありながら、混沌を望み、秩序を乱さんとする貴様など……私が破壊する」
その存在ごと抹消する為に。リジアはすぐさま仕掛け、宙へと極光を放つ。
ただ、相手もそう簡単には食らいはしない。
そんなリジアの様子に、ユウは僅かに驚いて。
「あそこまで気に入らないって言うのは、よっぽどよね」
頭上から飛び降りてくる青年に対し、ユウはすぐさま応戦の構えを取り、宙を飛ぶリジアを援護すべく遠術を飛ばす。
「サポートはしてあげるから、好きに戦いなさい」
「リジア様の心の儘に」
アルファードもまた、仲間に近づいて治癒符を使った癒しに当たっていたようだ。
他メンバー達もまた、宙にいるイヴァクに対して攻撃を仕掛ける。
「HAHAHA! やるつもりか、クレイジー野郎?」
高笑いする貴道は素手で空中を殴りながらも、その衝撃をイヴァクへと伝えようとしていく。
「飛ばれると辛い相手ですが……」
今回は情報がない相手だ。エマも様子見とばかりに跳躍しながらも短刀で切りかかるが、相手は悠然と避けてしまう。
「くくく、怒りに満ちるあなた達の表情……。これも秩序が乱れたからこそ」
まだまだ、情報が欲しいところではあるが、完全に狂った相手だというのは間違いない。
「この男が原因なら、討伐できればそれで済む!」
ラダは相手を狙い済まし、ライフル銃で空から叩き落とそうとする。
身体を射抜かれた敵はにやりと微笑み、極光を放ってきた。
ゾンビとの戦いから連戦となっていたこともあったが、まともにそれを食らってしまったアルファードが意識を失い、倒れてしまう。
思った以上に素早く、宙を飛び回るイヴァク。
今度は、大きな光翼から放たれる光で、狙いすました貴道を追い込む。
仲間を庇うように立ち回る貴道はイヴァクへとカウンターを浴びせかけようとしたが、イヴァクは涼しい顔をしたままで彼の体を光に包んで破壊してしまう。
「SHIT! やるな……!」
パンドラの力に頼らなければ、貴道も地を這っていたに違いない。
銃を相手に向けていた詩緒は威嚇しながらも、傷の深い貴道へと治癒術を施していく。
万全とは言えぬ状況、かつ敵の情報なしでの戦い。
しかも、こちらはすでに2人が倒れ、立っている者も疲弊してきており、かなり分が悪い。
「……癪だが、アレの力は未知数だ」
まだ、どんな隠し玉を持っているかは分からない。リジアはチームの疲弊が激しいこともあり、退くしかないと呟く。
悔しそうにしているのは、ユウにも分かる。
ただ、無謀に追撃させるわけには行かない。知人が命を進んで捨てようとする様など、見たいはずもないのだ。
「くくく、それではさらばです」
一通りイレギュラーズへと攻撃したイヴァクは不敵な笑みを浮かべてから光翼を羽ばたかせ、あっという間に姿を消してしまった。
一通り戦いが終わる頃には、周囲の炎も鎮火へと向かっていた。
超聴力を働かせるエマは更なる異常がないかと確認に回っていたようだが、生存者は皆馬車で脱出し、新たに起き上がる死者もいない様子だ。
リジアはそんな中1人、空を見上げて。
――今度こそこの手で。
狂った悪魔と成り果てた同郷の青年をこの手で破壊しようと、彼女は固く誓うのである。
成否
成功
MVP
状態異常
あとがき
リプレイ、公開です。
残念ながら、光翼の青年は取り逃がしてしまいましたが、
生き残った村落民の救出ができたのは何よりです。
MVPは村落民を自らの馬車で避難させた貴方へとお送りします。
今回はお疲れ様でした。ゆっくりお休みくださいませ。
続編は、12月頭までには公開の予定です。
GMコメント
イレギュラーズの皆様こんにちは。なちゅいです。
幻想のとある村落から音沙汰がなくなったとのことで、
村落の調査依頼が来ております。
●状況
村落は200名程度住む小規模なものです。
農家などが多い場所で、
農作物の買い付けを行う商人が
連絡が来ないと証言してきたことで、
今回の事態が発覚しています。
====以下、プレイヤー情報です====
●敵
○ゾンビ×8体
何者かの手によって、
歪な状態で復活させられた死者です。
理性などはありません。
近距離で引っかき、喰らいつき(ドレイン)を行う他、
中、遠距離に向けて肉片、怨念(不吉)を飛ばすこともあります。
○「再生」を司る悪魔・イヴァク
行商人によって、黒い光翼を広げて飛ぶ姿が目撃されています。
その姿は、白皙の美青年という話ですが……。
●状況
イレギュラーズ達の到着直後、
集落は生き残った10数名の民が
「再生」した家族、友人へと声をかけています。
しかしながら、再生した民に理性はなく、
生きている人々へと襲い掛かっているようです。
====ここまで、プレイヤー情報です====
●情報精度
このシナリオの情報精度はBです。
依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。
それでは、よろしくお願いいたします。
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