PandoraPartyProject

シナリオ詳細

アニソンティーチャー

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●ティーチャー無双
 斜陽の茜色に染まる、とある田舎村にて。

「なぁティーチャーさん、もうええ加減、勘弁してくれんじゃろうか」

 農作業を終えて帰路についていたポーリーさん(推定71歳、男性)は、へとへとになって哀願した。
 農道のど真ん中で仁王立ちになっている三十歳ぐらいのマッチョマンが、このポーリーさんに筋トレと格闘技の稽古を半ば強制的につけてやっていたのである。
 褐色の肌、スキンヘッド、山のように盛り上がる筋肉の鎧。そのアニキっぽい外観は、そろそろ晩秋の訪れを感じさせる涼しい田舎村の空気をまるでものともせず、実に暑苦しい。

「なぁ、もうええじゃろう?」
「私が筋トレ及び武術の家庭教師アニソンティーチャーだーッ!」

 聞かれもしないのに、何故か自己紹介で応じるアニソンティーチャー。彼は太い眉毛をきりっとさせると、夕陽に向かって何やら独り言を始めた。

「ウォーターツリーのアニキ……兄貴ウォーターツリー。私はあなたの足元にも及びません。この切なる感情を芸術にして表現出来たら、私もこんなに苦しまずに済むというのに……」

 そして突然、意味不明な歌を歌い出した。ウォーターツリーなる人物をヒーローとして歌い上げているようだが、音痴な上に活舌が悪いせいか、歌曲というよりも悪魔の呪詛にしか聞こえない。
 アニソンティーチャーはそんな歌の中に、己の苦しい心をぶちまけた。
 いや、というか、苦しんでいるのは目の前の爺さんだろう。

●ユリーカアニマル説
 ローレット本部のロビーで、ユリーカ・ユリカ(p3n00002)は一枚の依頼票を眺めて眉間に皺を三つも四つも作っていた。
 そこには、こう書かれていた。

『お願いですから、アニソンティーチャーをやっつけて下さい。奴の弱点はアニソンです』

 何故アニソンなのか。いや、そもそもティーチャーってどういうこと?
 ユリーカの疑問は深まるばかり。しかし悩んでいても仕方が無いので、ユリーカはイレギュラーズに全部丸投げすることにした。
 アニソンティーチャーとは、ある田舎村に出没する妙な通り魔ティーチャーらしい。
 村人を発見するや、その場で無理矢理筋トレとか武術の稽古をつけて去ってゆくらしい。それも大体被害に遭うのは、農作業でくたくたに疲れ切った爺さん婆さんばかりで、兎に角見た目的に弱そうな連中が多く狙われるのだとか。
 普通に暇を持て余している若者ならば程好いサービスなのかも知れないが、疲れた爺さん婆さんにしてみれば迷惑な話だった。
 しかも困ったことにこのアニソンティーチャー、地元の貴族の親戚か何からしいから、武力で排除するのはご法度なのだ。
 そこでその村の爺さん婆さん達は、アニソンティーチャーにもうこんなことはやめてくれと嘆願したところ、彼は『アニソンで私を感動させたら、もうやめる』などと答えたらしい。
 そんな訳でその村の爺さん婆さん達は、何となくアニソンという響きだけでユリーカに依頼を持ち込んだということだった。
 ちなみに当然ながら、幻想ではアニメなどは放映されてないので、アニメソングなどというものも一般知識としては存在していない筈であった。
 実際、ユリーカも違う方向に意識が向かっていた。

「何でボクがアニソンっぽいとか思われたんでしょうか。っていうかアニソンって何ですか。アニマルソングでしょうか。可憐なるボクをアニマルなどとは、実に失礼な話なのです」

 微妙に腹が立ったユリーカだったが、兎に角も依頼された以上は義務を果たさなければならない。
 彼女は早速、その辺に居たイレギュラーズを適当につかまえて、件の村へ派遣することを一方的に決めたのである。
 そんな訳でつかまってしまったイレギュラーズ諸君、文句いわんとさっさと行ってきたまへ。

GMコメント

 こんにちは、革酎です。
 平和的且つ可及的速やかにアニソンティーチャーをやっつけて下さい。
 弱点は、本人曰くアニソンだそうです。しかしながら額面通りに受け取っては、エラい目に遭います。じっくり考えて対処して下さい。
 尚、今回のプレイングの基本として、著作権に厳しい方面だけは絶対に敵に廻さないようにして下さい。シナリオが失敗するとかしないとかいう以前に、革酎の人生が失敗します。

 以下は、本シナリオの補足情報となりますのでご一読下さいませ。

●依頼達成条件
・アニソンティーチャーをアニソン歌って感動させる。
 暴力的な方法、アニソンティーチャーを肉体的、精神的に攻撃する方法は厳禁です。
 尚、ヲタ芸とか振り付けなどの演出を加えたりするのは自由です。
 ちなみにアニソンティーチャーが敬愛するウォーターツリーなる人物は、登場予定はございません。

●注意事項
 著作権に触れるような行動はNGです。

  • アニソンティーチャー完了
  • GM名革酎
  • 種別通常
  • 難易度EASY
  • 冒険終了日時2018年11月20日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

アルプス・ローダー(p3p000034)
特異運命座標
セララ(p3p000273)
魔法騎士
レッド(p3p000395)
赤々靴
主人=公(p3p000578)
ハム子
ジェイク・夜乃(p3p001103)
『幻狼』灰色狼
ボルカノ=マルゴット(p3p001688)
ぽやぽや竜人
ジョセフ・ハイマン(p3p002258)
異端審問官
新田 寛治(p3p005073)
ファンドマネージャ

リプレイ

●歌え、踊れ
 本来ならばそこは、どこにでもある田舎村の広場に過ぎない筈だった。
 だが今やこの空間は、『ファンドマネージャ』新田 寛治(p3p005073)のプロデュースによる急造のステージとオーディエンス席が所狭しとばかりにびっしりと場を占め尽くし、完全なる別世界と化していた。
 客席の先頭にはアニソンティーチャーの姿。だがそれ以外にも、近郊の村々から噂を聞いて駆け付けてきた老若男女合わせて百数十名の観衆。
 舞台裾の控え場からこの光景を眺めたイレギュラーズ達が、そのモチベーションを限り無くアゲアゲにヒートアップさせたのも、当然の話であろう。
 かくして──。
 アニソン祭、開幕。

「ティーチャー! 趣味を他のひとに広めたい時はどうすれば良いか知ってる!?」
 ステージ上でマイク片手に呼びかける『魔法騎士』セララ(p3p000273)。笑顔の中に厳しさと真剣さを静かに滲ませる彼女のその鋭いひと言に、最前列のティーチャーは思わず腰を浮かしかけた。
 しかしそんなティーチャーの動揺を見透かしたかのように、セララは指を鳴らした。すると『二輪』アルプス・ローダー(p3p000034)が得たりとばかりに名工の手によるピアノを奏で始めた。同時に、寛治が連れてきたバックバンドがリズムに合わせてそれぞれのメロディーを重ね合わせる。
 セララのすぐ後ろでは、『ハム子』主人=公(p3p000578)が魔法少女っぽい衣装でバックダンサーを務めていた。その弾けるような笑顔とリズムに合わせた幻想的なステップで、観る者を十分に魅了している。
 マジカルでリリカルでパワフルでファヴュラスでマーヴェラスなイントロに、セララの歌声が滑り込んだ。
 それではお聞き下さい。魔法少女セララで、永遠の焔。


<永遠の焔>
 作詞・作曲:セララ

 果てしなく刻まれた……悲しみの連鎖
 優しく受け止める……君は光のエンジェル
 小さな胸に灯った永遠の焔
 深い闇斬り裂いて 希望のトビラ開いてく
 笑顔あふれる 未来へ


 ノリノリで、しかも熱い。単なる魔法少女作品のOPと侮るなかれ。
 セララが曲調に合わせて光翼のブーツを起動させての宙返りや空舞パフォーマンスを披露すると、観客席が重低音のどよめきに支配された。
「どう、ティーチャー! 楽しいでしょ! まずは自分が楽しむこと! そして次に、周りの皆にも楽しんで貰うこと! それが趣味の輪を広げていく秘訣だよ!」
 セララはティーチャーに、観客達を魅了することで同志を集めてゆくという正攻法を自らの歌声で知らしめようとしている。
 ティーチャーは成程、と随分感心している様子だった。が、セララの歌に心底魅了されているかといえば、どうも少し違うような気がする。
 魔法少女ソングは、或いはティーチャーの心を揺さぶるには至らなかったのかも知れない。尤も、他の観客達はセララが予想した以上に、物凄く楽しんでいるようであるが。

●命がけの萌えステージ
 舞台裾からステージ上と観客席の盛り上がりをスナイパーの如き鋭い視線で観察していた『『幻狼』灰色狼』ジェイク・太刀川(p3p001103)はぎゅっと拳を握り締め、上半身裸となって剥き出しとなっている大胸筋をぴくぴくと小刻みに震わせていた。
 否、違う。これはただ筋肉をアピールしているのではない。会話だ。ジェイクは筋肉で会話しているのだ。その相手は同じく上半身裸の『異端審問官』ジョセフ・ハイマン(p3p002258)だ。彼らは所謂『熱血組』としてこの後に出番を控えていた。
「えぇと、その、ごめんなさいっす。筋肉語でお話しするの、ちょっと遠慮して貰って良いっすか」
 ジョセフがジェイクに応えて右の上腕二頭筋をビックビクさせているのを、『特異運命座標』レッド・ミハリル・アストルフォーン(p3p000395)がやんわりと咎めた。
 ジェイクとジョセフは互いに顔を見合わせ、こりゃ失礼をばと揃って頭を掻いた。
 と、そこへソロ参戦を表明している御年113の後期高齢者アイドル『ぽやぽや竜人』ボルカノ=マルゴット(p3p001688)が、腕を組んで重々しく頷いた。
「成程、矢張りティーチャーが求めているのは萌え要素ではなく燃え要素だった、という訳であるな」
「いやちょっと待って下さいっす。何で分かるんすか。今どきのアイドルは筋肉語が必須なんすか」
 レッドの容赦無い突っ込みなど気にもせず、ボルカノの面は深慮に沈む。
「しかしティーチャー殿は、悩んでおられるご様子。あの表情からは、我輩には覚悟が足りぬと推測するのが正しいと思われるが、如何」
 ジェイクとジョセフは成程と膝を叩き、ふたり揃って同じようなポージングを披露した。
「いやだから、筋肉語はやめて欲しいと何度も……」
 レッドの抗議を受けて、またもや熱血組のメインボーカルとギタリストの両名は、嗚呼しまったと再び頭を掻いた。

 ステージ上では燃える魔法少女から、ほのぼのとしたリズムへと曲調が変化した。
「さ、次はボクが歌うよ。聞いて貰うのは、ようこそのけ者が居ないパークへ」
 いつの間にかアライグマスタイルへの変貌を遂げていた主人=公。彼女はこの日、萌えとしてのアニソンの魅力を提唱すべく、セララとは異なるアプローチでティーチャーに挑もうという気構えを見せていた。
 楽しさ溢れるメロディと覚えやすい歌詞で、特に若年層、そして特に男子へのアピールが目を引いた。
 歌詞でタイトルを連呼するのは良いアニソンだという格言の通り、主人=公は作品名を滑らかな歌声の中に幾度とも無く登場させた。
 バックダンサーへと廻ったセララはサーバルキャットのケモミミと尻尾で、先程までとは打って変わっての萌えアピールを披露して主人=公を強力にバックアップした。
 色々な友達が居て、皆がお互いのことをよく知れば、もっと仲良くなれる。
 萌えのみならず、人類不偏の愛を説くその歌には、ティーチャーも随分と心を打たれた様子でじっと聞き入っていた。優しさに溢れ、疲れた心に安息を与える。単なる萌えではなく、癒し系の力をも交えた、柔らかな歌声であった。
 だが、それも2ループ目までは持たなかった。
 何を思ったか、突然ティーチャーがビョーンと飛んでいき、主人=公の胸に頭突きをかましたのだ。
 これは決して攻撃ではなく、萌えの何たるかを理解しようとした親愛の行動らしいのだが、普通に考えればただのトペ・スイシーダなので、主人=公が被った打撃は矢張り相当なものである。結果、主人=公はガハッと鮮血を吐き出し、その場にばったりと倒れてしまった。
「お客様、お客様の中に、お医者様はいらっしゃいませんか!?」
 セララの歌唱の際にはサビでの突然転調に完璧なリズムで合わせてみせたアルプスだったが、倒れた主人=公を救う為にも存分な働きを見せた。
 アルプスは村医者を素早く見つけ出すと、セララが馬乗りになって心臓マッサージをしている主人=公のもとへと弾丸のような速さで連れてきた。
 そのまま主人=公と、馬乗りスタイルで彼女に心臓マッサージを施すセララはふたり揃って担架でステージ外へと運び出されたいった。
 皆と手を取り合って助け合おうという主人=公の歌詞が、まさかこんな形で実現されようとは──人生は分からないものである。
 一方、部隊袖ではボルカノとレッドが、何か凄いものを見たなぁと変なところで感心していた。
 そしてティーチャーはというと、熱い涙をぶわっと滝のように流して、主人=公とセララが運ばれていった方向をじっと凝視していた。多分、反省しているのだろう。

●熱き手応え
 萌えステージで死人が出そうになるという話は寛治もついぞ聞いたことは無かったが、次はいよいよ自分の出番だと、アルトサックスを携えて檜舞台に上がった。
 他のイレギュラーズ達をプロデュースすることも目的のひとつだったが、こうしてステージ上に立ち、ボーカル無きアニソンを披露することも重要な目的だった。
 寛治がさっと右の人差し指を振ると、続いてガツンと聴衆の鼓膜を引っ叩くホーン・セクションの一斉射。
 次いで始まりを予感させるベースのリズムに合わせて、カウントを刻み込む。
「OK……3、2、1、Let’s JAM!」
 時にはソプラノ、時にはテノールに近い音階で吹き鳴らされる寛治のアルトサックスは、その変幻自在な音色でティーチャーを呆然とさせた。
(歌は素晴らしい。歌詞に乗せて思いを、気持ちを表現し、それを聞く者と共有して気持ちを昂ぶらせるのは、音楽の至上の喜び)
 だが、同時に寛治は確固たる思いを別に抱いていた。
(アニソンとは、歌がなくても、それと同じ感動を揺さぶることが出来るのです。私は今日、それをあなた方と共有したいのですよ、アニソンティーチャー)
 思いは、確かに伝わった。
 最前列のティーチャーは、我知らず間に棒立ちとなっている。ビバップスタイルで気ままに流れゆく旋律に、すっかり乗せられているようだ。
 テーマを奏で続けるホーン・セクションの後にはドラムとベースのソロが走り、そして見せ場となるアルトサックスのソロ。
 幻想に、少なくともこの田舎村には、ジャズのスピリットは根ざしていない。それだけに、寛治と彼のバンドが披露したモダン・ジャズの洗礼はひとびとを大いに驚かした。
 こんな音楽があったのかと、誰もがすっかり聞き入っていた。臨時でピアノパートを受け持っていたアルプスも、思いのままに指先を鍵盤上に走らせる楽しさに、完全に酔いしれている。
 そう、これがジャズだ。誰もが自由に、自分の好きな思いをそこに投じることが出来る。ビバップでは、各パートが他パートと協調しながらもアドリブを加えて新たなリズムを作り出せるところにも魅力がある。少なくとも寛治は、そう考えている。
 いうなれば、予測不可能な旋律の集合体。ジャズの真骨頂といえよう。それでいて、締めはきっちり全パートでそれぞれのキーをしっかり結び付けて余韻を残して終わった。
 観客席から割れるような喝采が溢れたのも、当然の結果であろう。
 ティーチャーもすっかり度肝を抜かされたらしい。全てが歌で構成されるであろうと考えていた為か、こういうインストゥルメンタルパートが織り込まれることは想像すらしていなかったのだろう。
「いやいやいや、実に見事であった」
 ギターを抱えてステージに上がってきたボルカノが、心底感心した様子で拍手を贈った。
「実に気持ちの良いセッションでした。株の空売りも約手の割引も、何もかも忘れて集中することが出来ましたよ」
 何気に飛び出した金融用語にボルカノが小首を傾げているのも気にならないといった様子で、寛治は一旦舞台裾へと引き上げていった。この後は引き続き、プロデュース業が彼を待っているのだ。
(歌声はなくとも、作品の感動を伝えたいという想いは表現できる。あの日の私の感動の何分の一かを、今日は伝えたかった)
 そしてその感動は間違いなく伝わったという自信が、寛治の中に漲っていた。
 一方、ボルカノが見るところ、ティーチャーの中の心の防壁は間違いなく、一枚一枚崩されつつある。少なくともこの時点までに外堀は埋まった筈だ。

 ソロで挑むボルカノだが、実はこのステージが彼にとっての初ライブでもあった。ティーチャーが求めるものと自分が提供するものが合致するかどうかは分からないが、兎に角やってやろうという意志だけで、彼はティーチャーの前に立ちはだかったのである。
「では、聞いて頂こう。反逆の火!」


<反逆の火>
 作詞・作曲:ボルカノ=マルゴット

 さあ進め!己の道を
 運命なんて蹴っ飛ばせ 自分の腕で掴むモンだ
 何を悩む? 悩む暇がありゃ身体を動かせ
 解ってねえなら教えてやる テメエはただのヒヨッコ野郎だ

 キリキリ動け キリキリ動け
 お前の望みはそんなモンか?
 キリキリ動け キリキリ動け
 目指した背中はそんなモンか?

 解ってんだろ自分の能力 悟ってんだろ自分の限界
 それでも歩みを止めねえならば
 覚悟をキメろ! やるのはお前だ!
 躊躇い捨てて さあ踏み出せ!

 立ち上がれ! その足で その理想掴めよ
 笑うヤツら見返せ
 かっ飛ばせ かっ飛ばせ かっ飛ばせ ヤツら
 ぶっ飛ぶぜ ぶっ飛ぶぜ ぶっ飛ぶぜ オレが
 目にモノ見せてやれ! この空突き抜けて!

●アニキを称えよ
 歌い終えて、ボルカノは観客席を静かに一望した。ティーチャーは何か熱いものが込み上げてくるのか、うぉーっと吠えていた。逆に村人達はすっかり放心状態で、疲れたように腰を下ろしている。
(ちぃっと激し過ぎたかも知れぬ)
 彼らのような楽曲初心者には、まだ少し早過ぎたと解釈すべきであろうか。ともあれ、ボルカノの思いはティーチャーが真正面から受け止めたことは間違い無さそうだった。
 もうあとひと押し──ボルカノは確信を得て舞台裾へと引き下がり、トリを務める熱血組の三人に静かに頷きかけた。
 ボルカノと入れ替わる格好でステージへと向かうジェイク、ジョセフ、レッドの三人を寛治が拍手で送りだしてくれた。
(彼が求めているアニソンとは即ち、アニキソングのことだろう)
 ジェイクはティーチャーを真正面から見つめた。彼が思うに、今のティーチャーのやり方では、その想いにはウォーターツリーなる人物には到底、届かない。
 誠なるアニキの心を伝えねばならない。
 直後、レッドの演出でステージバックスクリーンにどこぞのアニキが映し出され、何故かパルス・パッションの映像も一緒になって流れ始めた。パルスは完全にレッドの趣味のようだが。次いで、ほら貝を吹き上げる。
 その何ともいえない重低音の響きが、最後の演目開始の合図だ。
 寛治がさっと手を振り、バックバンドとアルプスが同時にマッチョフルな旋律を叩き出した。熱いロック。タイトルは未定だが、ギターとサブボーカルを担当するジョセフ渾身の力作だ。


<タイトル未定>
 作詞・作曲:ジョセフ・ハイマン

 聞こえるかあの歌が アニキの教え
 正義の心 燃える友情 無敵の力
 肩を組もう 声を上げろ 熱い決意をその胸に
 けれども忘れちゃいけないぜ
 俺には俺の歌がある 君には君の歌がある

 忘れるなよあの歌を アニキの心
 正義の心 燃える友情無敵の力
 手を繋ごう 力を合わせ 慈しみをその胸に
 けれども忘れちゃいけないぜ
 俺には君の道がある 君には君の道ががある


 熱い。ひたすらに熱い。その熱さはティーチャーの迷いを瞬間的に吹き飛ばした。
 歌詞に合わせてジェイク、ジョセフ、レッドの三人で肩を組み、或いは手を繋ぎ合わせ、絆を歌い上げる。ジェイクが連れてきた子ロリババアのダリアが感涙に咽び泣いていた。
 迸る汗。鍛え抜かれた筋肉。握り拳は天を衝き、観客席から咆哮が連続した。
 マッチョに囲まれたレッドの応援し隊制服とサイリウムが妙に可愛らしく見えたのは、まあご愛嬌といって良いだろう。
 そしてティーチャーは、歌っていた。両手を突き上げ、歌っていた。ウォーターツリーへの敬愛を全身に表しつつ、熱血組と共に、歌っていた。

 ステージ上で喝采を浴びながら、ジョセフはふと感慨深げな表情を浮かべた。
(アニソン……悪くはないな)
 かつてジョセフが目にしてきた作品群に、諸々の思いを馳せた。これまで抱いたことの無かった感情が、この時初めて彼の内側に湧き起こっていた。
 勿論、過去の自身の行状を罪深いなどと恥じ入るつもりは無かったが、しかし新たな価値観に目覚めることが出来たのは僥倖といえるだろう。これまで然程に気にも留めなかった存在、アニソン。
 ジョセフは今日、この地で確かに何かを見出した。
 ジェイク、レッド、アルプス、そしてジョセフは再びステージへと上がってきたボルカノ、寛治の両名とも熱い抱擁を交わし、それぞれがそれぞれの友情を確かめ合った。
 まだ見ぬウォーターツリーなる人物への、感謝と憧憬の念を込めて。

 ステージを降りたレッドは、ベストセラー『ゼシュテル万歳!』をティーチャーに差し出した。
「私にこれを読めと?」
「あなたはまだティーチャーを名乗るには早いっす。ティーチャーではなく、仲間ならどうっすか?」
 アニキを尊敬するならば、その敬愛するアニキに失礼が無いように互いに己が肉体を更に鍛え上げ、歌をより華麗に、そして逞しく、自信を持って披露出来るように鍛錬せねばならない。
 レッドのそんな思いに、ティーチャーはうむと低く頷いた。
「ならば、もう村人に稽古をつけたりするのは止めよう。今後の私はアニソンティーチャーではなく、アニソンコンパニオンだ」
 スキンヘッドの強面は、爽やかに笑った。
 その空間だけは友情の迸るような熱気に包まれていたが、村人達はというと、やれやれやっと解放されるといわんばかりの正直な様子でばらばらと散っていった。
 相当迷惑がられていたのかと苦笑を禁じ得ないイレギュラーズ達。
 だが兎も角、アニソンコンパニオンの新たな門出に乾杯だ。
 尚、主人=公はセララの心臓マッサージで肋骨がへし折られそうになったというオチがついていたが、辛うじて回避出来た模様である。
 萌え系アニソンで肋骨骨折などという憂き目に遭ったのでは、主人=公も堪ったものではなかったろう。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

 こんにちは、革酎です。
 アニソン=アニキソングであることを的中させたジェイクさん、お見事でした。その推測が熱血組にトリをお任せする最大の判断要因となりました。素晴らしかったです。
 他の方々も非常に思い入れのある熱いアクションを送って頂き、誠にありがとうございました。
 OP作成当初はただのコメディに終わるかと思っていたのですが、いざこうして書き上げてみますと、想像以上の熱い内容になりました。ただ、その熱さがちゃんと皆様にお伝え出来ているかどうかは正直、私にも分かりません。皆様に納得して頂けるクォリティになっていれば良いのですが。

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