PandoraPartyProject

シナリオ詳細

事実と真実

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●盗人少年が犯した過ち -Guilty-
「誰か! 私の財布をしらんか!? 頼む、だれか」
 商人風の装いの男が、大通りで悲痛な声をあげていた。
 目は充血し、手は何かにすがろうとするような手つきで、よたよたと道行く人にもたずねる。
 道行く人も、心当たりが無いものばかり。
 哀れみのこもった視線を投げかけては、正面を向いて歩いて行く。
「あれは支払いの金なんだ! あれがないと私の店が。私の家族が! 本当に頼む! 私の財布を! スリなら返してくれ! なんなら後で金をやる! 本当に! 助けてくれ! アアアアアーーーアーアーアーア」
 ついには大の男が泣き出した。
 彼は人生の絶望の中にいる。そしてその絶望に耳を立てるものがいた。
 商人の男から少し離れたところの物陰に、齢14ほどの少年が、壁に背を預けてうつむいていた。
「……」
 彼は盗みを生業とする、スラムの少年だった。
 少年は、擦り傷切り傷こそ目立つが、餓死するほど困窮してはいなかった。
 これは、商店街で食い物をちょろまかしたり、スリで小遣いを稼いだりした結果である。
 たまに警邏にとっつかまる。
 捕まるも、商店街の人たちの人情と温情によって見逃されて、クサイ飯を食った経験は無かった。
 そんな少年が、財布を抱きしめていた。
 大通りで声を上げている男のものである。こっそりとスったのだ。
「おい貴様、おまえ。いつぞやのスラムの小僧だな?」
 少年は、自分の心臓が喉の奥から飛びだすと思った。顔を上げると、警邏がいる。
「例の大通りのおっさん。お前じゃないだろうな?」
 警邏が革靴のカカトを鳴らしながら、近くまで寄ってくる。
 見たことがある顔だった。
 少年を捕まえたことがある、やり手の男だった。鋭い嗅覚はごまかせない、と判断した。
「こ、これ! あれ!」
 少年は手中のものを警邏の男に押し付けた。
「ん? なんだこれは?」
「じゃ、じゃあな!!!」
 たちまち少年は走り去った。素早い動きで、あっというまに垣を越えてどこかへ消える。
 警邏の男は、ぽかんとした表情で、少年が消えた先と、手中のものを交互に見て、立ち去った。


●犯人の殺害依頼 -Judgment-
 商人は数日後、入水自殺した。
 その夫人から――後を追った夫人から――の依頼が、ギルドローレットに舞い込んだ。
 『主人を自殺に追いやった犯人を殺して!』。
 ただそれだけの依頼である。
 殴り書いたような筆跡が彼女達の絶望を表現していた。
「場所は、宿場街ルズベリー。アーベンロート領へ行く商人が寄る街さ」
 『黒猫』ショウ・ブラックキャット(p3n000005)が地図を広げて解説する。
「警邏の調査結果によれば、スラムの小僧の仕業と断定したようだ。商店街の人々は、今まで見逃してきた恩を裏切られ、仲間を殺されたと感じている。悲しみに報いるべく、警邏もやる気を出している――が警邏隊の目的は逮捕だ」
 少年を殺害するなら、警邏隊の連中が引っ捕らえる前に始末しなければならない、という話であろう。
 ショウは続けて、練達の機器による絵、写真を出した。
「敵対するとしたらこの男、『警邏の男』フィップ・バウンディ」
 オールバックで、まなじりがはっきりした目、引き締まった口元――正義感が強そうな印象の男である。
「サーベルの使い手でな。本当は小僧を殺したいらしいが、上の命令で堪えているらしいな」
 本当に憎いと考えているようだ。
 少年の殺害を目的とするなら、警邏の男が本当にやりたいことと目的が一致するらしい。
 特異運命座標《イレギュラーズ》の一人がせせら笑う。
「しかし、笑わせる。自殺した商人とやらに、誰も支援してやらなかったのかい?」
 ショウは無言で肯定して、次に「そういうものだ」とゆるく笑みを浮かべながら話を続けた。
「ギルドローレットの調査でも、財布を盗んだ者が、スラムの少年であることが確認できた――ただし一点不可解な所がある」
「なんだ?」
「空の財布が、夫人の自殺現場近くに捨てられていた」
「盗んだガキが捨てただけだろう?」
 ショウは、それがわからん、と首をすくめる。


●盗人少年と妹 -My sister-
「おれのせいだ……あの人達が死んじゃった」
 盗人の少年が、スラムの細い道をいく。
 先日の商人と同じく、入水自殺した夫人の死体を見にいった帰りだった。
 たちまち、少年に危機感が走った。
 脳裏に浮かんだものは、なんとか一緒に生きてきた妹の顔。
 そして警邏の男に一度捕まった時の、あの虫をみるような恐ろしい視線。

 ――捕まる!

 ――嬲られる!

 ――殺される!

「お帰りなさい、お兄ちゃん」
 ふと気がつくと、少年は隠れ家の前にいた。
 窓から、ボロを着た妹が屈託ない笑顔を向けてくる。
「どうしたの?」
 この笑顔に、この笑顔に対して、少年は意を決した。
「――逃げよう! 必要なの持って! すぐに! できるだけ遠くに!」

GMコメント

 Celloskiiです。
 本クエストは結果に応じて
 『名声がプラスになる結末』と『悪名がプラスされる結末』が予定されています。
 これ以外にもあると思いますが、着地点に応じて名声を判定します。
 以下詳細。

●目的
犯人の殺害

●状況
 ・リプレイはスラム街からスタート予定
 ・複雑に入り組んだ街中です
 ・少年が妹を連れ、隠れ家を引き払って逃げよう企てています。
 ・少年には妹がいるため早く動けません。妹を殺害した場合、雲隠れされる危険が増します。
 ・少年の隠れ家は、ショウの調査で判明しています
 ・少年の隠れ家に最速到着後、2分後に警邏隊が踏み込んできます。

●エネミーデータ
盗人の少年
 護身用にナイフを持っていますが、戦闘力は特異運命座標に比べて遥かに劣ります。
 その分、逃げ足(機動力)だけはあります。
 屋根の上から一方的に投石や大物を投げてくるなど。

少年の妹
 少女相応に動きは鈍いです。

『警邏の男』フィップ・バウンディ
 オールバック。正義感が強そうな表情をしています。
 宿場街ルズベリーの警邏隊の中で、特に腕が立つ出世頭。サーベルの使い手です。
 容疑者と知己であったことから、警邏兵を率いてスラムを捜索しています。
 上からの命令が、「逮捕に留める」方針に不満をもっています。

警邏兵×8
 フィップ・バウンディの配下。一般警邏。
 最近、羽振りがいいフィップ・バウンディとプライベートでも気心知れた関係です。
 イレギュラーズ(Lv1)より弱いです。

  • 事実と真実完了
  • GM名Celloskii
  • 種別通常(悪)
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2018年02月20日 21時35分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

暁蕾(p3p000647)
超弩級お節介
琴葉・結(p3p001166)
魔剣使い
サングィス・スペルヴィア(p3p001291)
宿主
佐藤=優(p3p001393)
カオナシ
陰陽 の 朱鷺(p3p001808)
ずれた感性
九重 竜胆(p3p002735)
青花の寄辺
クロ・ナイトムーン(p3p003462)
月夜の仔狼
ロズウェル・ストライド(p3p004564)
蒼壁

リプレイ

●干からびた犯罪 −Backing plate−
 『カオナシ』佐藤=優(p3p001393)は、今回の件の裏付けを兼ねて、バウンディの住居に潜入した。
 失われた商人の金が『警邏の男』フィップ・バウンディの手元にあると考えた結果だった。
「裏金……として使っているでござるかな」
 『カオナシ』佐藤=優(p3p001393)が呟いた。
 下男に扮して、下女から情報を引き出すなど、ひと通り調査を終えたが、金も、証拠となるようなものも、見当たらなかった。
 あぶく銭のように、飲み屋で消費する、あるいは証拠が残らない生活用品に費やす――キッチリやる男なのだろう。
「金品、領収書の類は確認できなかったでござるが」
 最後に、彼の自室。
「しかし、几帳面な男ならば、残さぬ筈がないのでござる」
 ふと床に違和感を覚える。絨毯をめくる。一部に不自然な色の床板。
 その床板を外すと仰向けなる金庫――鍵開け《ワイズキー》による解錠。
「やはりでござる」
 現金こそ現れなかったが、収支を管理する帳面が現れた。
 かの事件があった日に、月給の何倍もの大金が、大きい字で書き加えられている。


●心貧しき街を通りけり −Predator's Gambit−
 宿場町ルズベリーは、都市に近い水準の町である。
 王都の一区画を切り抜いてきたような発展ぶりは、町を牛耳る商工会の力が大きく影響している。すなわち商人の拠点であった。
 特異運命座標《イレギュラーズ》は、ふた手に分かれた。
 少年側に向かうもの達と、警邏隊に対して接触するもの達だ。
 少年側に向かうもの達は、『月夜の仔狼』クロ・ナイトムーン(p3p003462)を先頭に、街辻をとおりぬけて、スラムへ入る。
「――スリで生き続けることは、きびしい」
 とクロは呟いた・
 この依頼に対して、最初に思ったことは、「他人ごとではない」「親近感」「怒りのようなもの」が混濁した想いだった。
 スリをしていた時期のことが、たびたび――走り過ぎ去っていく景色とともに――思考を横切っていった。
「やはり何処の世界も、社会とはこういった物なのでしょうか」
 『蒼壁』ロズウェル・ストライド(p3p004564)は独白めいて、諦観の言葉をいう。
「一部の者が私腹を肥やし、そして虐げられる者は地へと這い蹲って生きている。悲しい事ですが、それが当たり前の事なのかも知れませんね……」
 ロズウェルが召喚される前の世界――幻想にもよく似ている世界だが、そこにおいても、よくある事だった。
 諦観。ロズウェルは言葉こそ諦観だが、心の底から割り切れるような器用な生き方をして来てはいなかった。
 『彷徨のナクシャトラ』暁蕾(p3p000647)は、運命のバランスというものを考えた。
「運命のバランスは保ちたいわね」
 生業は占い師である。
 スリの少年がどういう経緯で孤児となって、妹と二人で生きる事になったかは定かではない。世間一般的には恵まれていない部類である。弱者である。
 これまで、そういう運命だったのだから、そのまま闇に葬られるというのも、一種バランスが良くないという想いである。
 三人はスラムを走り、やがて少年の隠れ家に着く。光が当たらない旧市街だの、放棄住居だの、そういった趣を放っていた。
 荷造りを終えて出てきたスリの少年とその妹に遭遇する。
 たちまち「走るぞ!」と妹の手を引いて逃走を計った。

 一方、警邏隊側に行った者達である。
 4人の役割は『到着の引き伸ばし』であった。
「私の式神よ。大鷲となりて上空から警護隊を探してきて下さい」
 陰陽 の 朱鷺(p3p001808)が放つ式神《大鷲》は、天高く舞い上がった。
 舞い上がる最中に特徴を伝える。
「今回の私の仲間と間違えないでくださいね。見つけたら私に知らせてください」
 ものの果てなる空から見下ろす大鷲は、朱鷺の目論見どおり、警邏隊を発見したか。朱鷺へと伝達。
 一直線に警邏隊へと導いた。
「……」
 朱鷺は、今日、体調が優れていなかった。
 心が満たされず、もの寂しくも、重き案件、それでも『この体調不良を言い訳にしてはいけない』と出来ることをやろうと決心す。
 真っ直ぐと道ゆき。警邏隊に接触する。
 模範的規律を体現するような集団が現れ、集団から「何者だ?」と問いがくる。
「ギルドローレット。依頼人は商人夫人です、協力頂けませんか?」
 切り出した『宿主』サングィス・スペルヴィア(p3p001291)が、率直に要件を切り出した。
 代表は一瞬でわかった。
 勲章の数が違う。訝しむ警邏隊の隊長――『警邏の男』フィップ・バウンディ。
 フィップは、単刀直入に投げ返してきた。
「……あのご夫人の依頼……協力、何が目的なのですか? ギルドローレットの方々」
 『一刀繚乱』九重 竜胆(p3p002735)が、応ずる。
「ギルドから少年を確保するように依頼され、私達の仲間が先行しているわ」
「成る程。しかし、身柄は困りますね。我々の名誉がかかっていますので」
 『夫人の依頼であること』『目的は少年であること』を告げると、同一の目的とあっさり理解を示した。
 能面のような顔で、困ったような表情を作り、考えるような仕草をとる。
「――ところで、本当に捕縛だけなのでしょうか?」
 と切り込んできた。
 『魔剣少女』琴葉・結(p3p001166)が表情そのままに切り返す。
「その質問の意図は?」
「自殺するほど絶望した夫人が、果たして捕縛だけで許しますかね? という話ですよ。かの少年の事を夫人が掴んだのか、ローレットの情報網が掴んだかは知りませんがね」
 フィップはたちまち肩をすくめ、両手の手のひらを上に向けた。
「このままでは身柄の取り合いになります。お互いハッピーになれる落とし所を探している――たとえば」
 意外にも、フィップの方から提案が来た。
「私の正義は、市民の情けを踏みにじった少年を許してはおけない――『我々が少年の確保に向かったものの、何者かと交戦。撃退に成功したが、少年は殺害されてしまった』など、良い落とし所だと思いませんか?」
 朱鷺はこの物言いに対して、喉の奥からこみ上げる嘔吐感を感じた。
「ご夫人の依頼内容に沿うものでなければ、拒否してくださって結構です――とりあえず行きましょう。ギルドローレットのご協力に感謝します」
 犯人の殺害が目的であると明かしたほうが同行が容易いか? と考えた結、サングィスであったが、言葉に出す前に許可が出た。
「犯人をすぐに見つけるなんて優秀なのね?」
 サングィスの問い。
「善良なる市民のご協力によるものです」
 対して、フィップや配下の警邏兵は、口角を吊りあげるような、品のない笑顔をつくっていた。


●法が裁かぬ悪 −Bane slayer−
 少年側。
 クロが、その身のこなしによって少年の退路を塞ぎ、呼びかける。
「これからここに警邏が来る。捕まえに。でも、俺達は違う」
 ロズウェルは礼儀作法に則った誠実な対応をする。
「私はロズウェル・ストライド。話を聞いた上でこれからどうなさるか考えて下さいませんか」
 そして、暁蕾の人心に響く――少年の強い罪悪感を軽減するような――言葉。
「空の財布が捨てられていました。真犯人は別にいると思っているのです。お話を聞かせていただけませんか?」
 3人の説得によって、少年は観念し、逃走を諦めるに至った。
 一方で、警邏隊側に行った者が、引き伸ばしに成功。
 結果的に、言葉を交わす猶予が生まれていた。
 隠れ家に戻る。
 少年達にはまだ用事があるからだ。
「……本当に、何もしない?」
 妹の方は、何が起こっているのか分からないといった表情で少年に寄り添っている。
 威圧感を与えないよう配慮しながら、クロが語りかけた。
「お前、財布、そのまま持ってた? それとも……」
 不可解にも放棄された『空な財布』についての問いだった。
「……そ、そうだった……渡したはずなんだ。あんな大人が泣くのみて、怖くなって、後悔して、警邏のやつに」
 暁蕾が震えながら唱える少年の懺悔を、柔らかく肯定した。
「そうですか。罪を悔いて、財布を警邏に渡したのですね……罪悪を省みる心。それは偉いことです」
 ロズウェルは、外を伺いながら独白す。
「財布を警邏に渡した――あと証言に対する裏付け、証拠ですね。それが真実であるならば――」
「オレ、嘘は言ってない」
「わかっていますよ」
 己の騎士道が向かう先は決していた。
 やがて制服姿の集団と、同じローレットの特異運命座標の姿を視認。
 暁蕾とクロに合図を出して、戦闘準備を完了す。

 隠れ家に雪崩れ込む警邏隊。
 特異運命座標。合流す。たちまち少年は驚愕す。
「……お前だ! お前に、確かに! 財布を!」
「……。見事な手並み。ギルドローレットの方々のご協力に感謝します」
 少年を無視しながら、フィップが7人に礼を述べ。
 つぎに、害虫を見るような目つきで、少年を睨む。
「……さて、スラムの害虫。わかっているな? これからどうなるか?」
 どういうこと? といった表情の少年。
 いよいよ少年に縋りつく妹。
 近づいてくるフィップに対して、ロズウェルが壁のように進路を阻んだ。
「バウンディさん。少し疑惑について話をさせてください」
「おや……? 疑惑……とは?」
 暁蕾が問いかける。
「私達の本当の目的は、犯人の死――最近、羽振りが良いそうですね? フィップ・バウンディさん」
「何が言いたいのですか?」
 クロが続ける。
「あの商人の財布。お前、受け取らなかった? どうした?」
「……なんのことですか?」
 能面のような顔から、焦りなどは読み取れない。
 フィップは、ふとこれまで同行してきた竜胆、結、サングィス、朱鷺のほうを振りむく。
「貴方がたのお仲間でしょう? 意思決定や方針はどうなっているのです?」
「さて? 我々も確保の心算でしたので」
 竜胆が簡単にいってのける。
「金を横領、夫婦を死に追い込み、全ての罪を少年に被せるつもりですか?」
「これはおかしい。これはこれはこれは。何を吹きこまれたか。教養もない害虫の妄言を真に受けているのですか?」
 証拠は? 証言だけでは、我々すら罰することなどしない。と自らを棚に上げて言う。
「いい加減にしませんと、公務執行妨害として刃を向けざるをえません」 

 ――横領犯が法の番人気取りでござるかな? 大した役者でござる。

 優であった。
 少年側、警邏隊側のどちらにも行かず、単独行動をとっていた佐藤=優。
 隠れ家の窓の縁に、腰掛けながら帳面をペラペラと眺め――帳面を閉じて、ここに合流す。
「みなの衆。結論だけ言う。敵は警邏の男でござる」
「そ、それは!? 馬鹿な! 何故それを!」
 優が持つ帳面を凝視するフィップは、能面のような顔を歪める。
 すべて知っていたような、警邏兵。彼らも、「それ」を知っていて羽振りの良いフィップに肖っていたと見られる。
「決まりね」
 竜胆がスラリと抜刀する。
「……っ。私は応援と回復しかできません。けれど――」
 朱鷺が鼓舞をもたらす。
「悪いけどコレも仕事なのよね――けれど私としては、貴方だけを制裁すべきだとは思っていないわ」
 結が抜剣。インテリジェンスソードめいた得物も愉快そうに言う。
『イヒヒヒ、さぁ仕事だ! キッチリ決めちまいな!』
 サングィスも儀礼用の短剣を抜く。
「ふむ、つまらない状況と思ったけど悪くないわ――私も同じ見解といえば同じ」
 次々と得物を握る特異運命座標《イレギュラーズ》に対して、フィップは。
「見たなら殺す! 正義の邪魔だ」
 とサーベルを抜き、優と少年への進路を隔てているロズウェルに斬りかかった。
「フィップ・バウンディ。貴様が正義だと言うのならば、我が剣技を耐え抜いて見せろ」
 ロズウェルの大剣、フィップのサーベルを防ぎ、そのまま力ずくで押し出す。
 押し出し、よろめいたフィップ。そこへ矢が飛来した。
「俺達、自殺の原因作った犯人、殺せって依頼された。お金を自分のものにしたお前。殺す」
 クロが素早き足で距離をとり、窓の外へ。窓の外から射抜いたものだ。
 矢は、正確に肩を貫く。
「ッ! 貴様ぁぁぁ!」
 更にロズウェルが続けて追撃す。
 体全体を横に回転させ、場を凪ぐ剣。鎧袖一触。
 フィップの片腕がこれに触れ、触れたところから先が消失す。
「ああ! 私の腕が! ぐ、ぐああああ! なんてことをしやがる!!」
 加勢に出てきた警邏兵であったが、ロズウェルが一喝。
「我が剛剣の前に、両断されたくない者は剣を引け!」
 ふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるな!!
「盗人は糞餓鬼害虫だろう! 何故私を! 私ではなく、ゴミカスなスラムの餓鬼を殺せ!!」
「分かってるわよ。商人夫婦を自殺に追いやったって言うなら、あの子も――って位。それでも、子どもの未来を奪いたくない。この気持ちに嘘をつきたくないの」
 竜胆が二刀流。フィップの背を袈裟懸けに切る。もう一刀は、サーベルによる防御と接触。
 鍔迫り合いに入る。
「糞が! そんな理由で! そんなくだらん理由で! ――ええい! お前らもかかれ!! 散々、私の金で豪遊してきただろうが!」
 ロズウェルに一喝された状態から我にかえる警邏兵。
「『私の金』ね」
 前進してきた警邏兵より、フィップの絶命を優先するサングィス。
 手のひらに再生術式を顕現させ、軽い平手打ちがごとく――竜胆との鍔迫り合いで無防備となった男の背へ施した。
 否、逆再生の術式だ。破壊される細胞に、フィップは口中から赤い液を大きく吐き出した。
「ご、ゴハッ。死ねるか! こんなくだらんことで! 死にたくない! 死にたくないんだあああああああ」
 大の男が目に涙を貯めて苦悶し、声を絞り出す。
 結が携える魔剣の突き。
「それは、商人の夫妻も同じだったと思わない?」
 逆再生でもろくなった骨、破壊されつつある臓器。
 これらすべてを砕きながら、結の魔剣が人体に侵入する。
 たちまち、人ひとりの生命がここに途絶えた。


●少年の再出発 −Make a Fresh!−
 他の警邏兵は殺害せずに、不殺にて撤収。
 凄惨なる現場から場所を移す。
「罪は償わなければならない。闇に生きる盗人は今日ここで死に、今後は光の元で良き運命を育む者に生まれ変わりなさい。妹の為にも」
 暁蕾の言葉に、少年は暗い表情のまま頷いた。
「夫人の依頼は犯人の死。警邏の男と――アンタも対象になるかもしれなかった」
 竜胆が言う。でも止めたのだ。
 理ではなく、少なくとも自分は、情でその対象から外すことにした。未来を奪いたくないの一心で。
「――だから、しっかり生きなさい」
 クロも続ける。
「スリで生き続けるのは、難しい。いつかこうなる」
 訓戒めいたものを残しながらも――胸裏にて『まだやり直せる内に、やり直そう……がんばれ』とエールを送った。
 ロズウェルは片膝をつき、少年に目線をあわせる。
「少年、あなたの不幸は罪を見逃されながらも周りにそれを咎める者が居なかった事でしょう」
 しかして、ふむ、と言葉を改める。
「いや、もし居たとしてもあなたは生きる為に同じ事を選択したかも知れません――あなたには自分だけではなく、守る物があったのですから」
 うつむいていた少年は、ロズウェルの目を真っ直ぐと見て、妹をみた。
 かくて少年はその後、暁蕾の手引きによって、機会を得ることになる。
 胸にはクロの訓戒、ロズウェルの教示を。生きている意味を考えながら、真っ当なるこれからを生きていく――手をつないだ妹とともに。

「……まあ、我輩の出る幕ではないでござろう」
 優にも思う所こそあったが、フィップ殺害の証拠品として、一部を切り取り、撤収とす。
 また、周辺地図を調べていたため、体調を崩した朱鷺を、近い診療所に連れていった。
「とりあえず依頼は達成したわよ……貴女の望む結果かどうか判らないけど」
 結は、依頼主である夫人の入水自殺現場に行き、花を手向けた。
 その答えを知るものは、もうどこにもいない。


●事実と真実と不実 −Epilogue−
 フィップ・バウンディの死は、商店街の人々を悲しませた。
 収支の記録があろうとも、彼への信頼は厚く、「そんなことをする人ではない」と終始する愚民そのものであった。
 『警邏所長』――肥満に見えるほどの筋肉と浅黒い肌の大男――は、葬儀にて仇討ちを宣うも、葬儀が終われば、そっけなく本部へと帰参した。
「……『法は破られ彼は死に盗人は保護された!』『司法による『正当な』罰がない状況を認めるならサーベルを折りなさい!』か」
 サングィスが施したメッセージだった。
 熱いやつは嫌いではない、と、もう1枚の羊皮紙に目を移した。白紙の依頼書だ。
「費用は石工ギルドから?」
 秘書の女が問う。
「我々は『ラサから来た鼠退治』で忙しい。商工会は雪氷利権。石工ギルドは――どうしている?」
「正体不明のサーカスとやらを」
「では優先順位の問題だ――最優先はわかっているな?」
「はい。バウンディの金を回収します」


 みよ、すべての罰はしるされたり、されどすべては在らざり。
 罪悪、他者の手にはおもみを感じず、かなしむ者の一念は、吊るさるる青き炎の幻影のみ。

                    ――――『廃都の賢者』トリストラム = クラフ


成否

成功

MVP

佐藤=優(p3p001393)
カオナシ

状態異常

なし

あとがき

 Celloskiiです。
 遅くなりまして申し訳ありません。
 MVPは、難易度が高めだった「フィップの帳面」を手に入れた貴方へ。

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