シナリオ詳細
舞台を降りる時
オープニング
●
幻想国の、アーベントロート領内にある小さな町。
レンガ造りの町の地下に、それはある。
魔術で強化した大きな炉を点在させ、高温の空気を外に逃がすパイプの張り巡らされた、一つの工場だ。
吸風する術式を組まれ、その音が煩く響いている。
そこで作られているのは、鉄だ。
一年どころではなく、絶える事のない火を入れ、製鉄が続けられている。
「工場長ー! 大変っす!」
「あぁ?」
ある日、そこを取り仕切るリーダーの元に、慌てた様子の職員が飛び込んできた。
切らせた息を、空気を何度かやり取りするうちに回復させ、一息。
「貴族のジジィ、ここを明け渡さないと潰すって言ってきてます! なんか、今回はマジっぽくて……!」
報せは、ある貴族がこの工場を寄越せという、簡単に言ってしまえば乗っとりの催促だ。
「あぁ? そないなこと知るか、溶かした鉄でもぶっかけとけ!」
「うっす! ドロドロのやつ、いっときます!」
「えっ、あ、うん」
意気揚々と去っていく背中に、まぁいいか、と一人頷いた工場長は、引き出しを開ける。
「……この工場は渡さへんぞ、絶対にな」
そこには、土地の権利書を含めた、運用の許可証がある。これが無ければ工場は動かせず、そしてこれを持っているものだけが、この工場を管理できるのだ。
「来るなら来やがれ、従業員全員でぶちのめしてやらぁ!」
●
夜、建物から灯りの消えた、深い時間。
その時にひっそりと、ゆらぐ様な灯りの中で、彼らはいた。
ギルド、ローレットの内部の、その一角。
情報屋である『黒猫の』ショウ(p3n000005)が、隣に女性を佇ませてそこにいた。
彼の眼前には八人のイレギュラーズ。
「さて」
前置き。
その声に、16の瞳が集まったのを確認したショウは頷きで応えて、言葉を続ける。
「依頼だ」
言って、隣の女性を見る。
「お初に、お目にかかります」
独特のイントネーションを持つ声だった。
艶やかな長い黒髪の、若さを見せる人間の女性だ。
「ウチはアーベントロート領の隅の街を治めさせていただいとるモンです。ローレットのお噂は、かねてより聞き及んでおりましたがーー」
ふむ。
「挨拶よりはよぅ本題に、ちゅう顔やねぇ?」
無表情の顔に笑みを浮かべて、女性はクスリと息を漏らす。
それならば、と。
「ほなら依頼を伝えます。ある貴族を殺して、取り戻して欲しいもんがあるんですわ」
「それは、随分と穏やかじゃないな」
「ええ、ええ。そう、ウチラかて、穏便に済ませようと思とったんですけれども……」
事の起こりは、民間業者と貴族の間での利権争いだった。
貴族、政府、傭兵、その他含む戦力から日用品に至るまで、幅広く活用される、鉄という素材。
それを造る工場の所有権を巡った争いは、ついに貴族側の凶行による手段により、奪われる形で決着が着いた。
「まあ、そんなのは幻想でよー聞く話やけど、問題はその後や」
貴族は、鉄の値段を跳ね上げた。
「そこで、金の流れを調べてみた。そうしたら、通常なら定価として高くない筈の鉄が、経営者の切り替わりと共に値段が高騰していたことが解ったんだ」
しかし、高くても鉄は必要だ。
日常でも、戦場でも、無くてはならないものなのだから。
「はしゃぎすぎた奴は消される。崩されたバランスは戻さなアカン。そんなん、この世界の人間なら誰でも知っとる常識や」
故に。
「あんさんらに、それを頼みたい。なぁに、あのサーカス事件を解決に導いたローレットの勇壮な方々やさかい、こんなんちょちょいのちょろりんやろ?」
「ちょろりんて」
言葉のセンスはともかく、幻想でも割りと大事な部分でもある。
放置しておいても、他の貴族が動いて混迷する可能性も高い。
「なんせ、事件はアーベントロート領やからなぁ。お上の目に着く前に、処理しといて損はあらへん」
「経緯は理解した。依頼としては、貴族の処理と、奪われた権利書を取り返せばいいんだな」
「その通り。けれど、口で言うほど容易い相手じゃないみたいだ」
表情を険しくするショウが、資料の束をぺらりと捲る。
問題は二つある、と前置きをした彼は、その資料をイレギュラーズに向けて見せた。
「まず一つ。護衛がついている。
数は三人、それぞれ雇われ傭兵の様な感じだが、その中で一人、腕の立つ剣客がいてね。
名前はシズク、黒髪の刀を持った女だ。抜く瞬間を見せずに敵を斬る恐ろしい女、と恐れられてる」
他の二人も油断出来ない手練れだが、しかし、傭兵に関してはいい情報もある。
「結局やつらも商売や。雇い主の不利を悟れば、身を引くやろ」
逆に、不利じゃなければ食らい付いてくるということでもあるが。
「もう一つは?」
「うん。どうやらその貴族、モンスターを飼ってるらしい」
噂では四足歩行の、なんの動物なのかよくわからない化け物らしい。
呼称するのにもっとも分かりやすい名前として。
「キマイラ、と、そう呼んでる。ライオンの様な顔と牙、肉食獣の爪と、背中には大きな翼ーーああ、自重で飛べはしないだろうがーーそういう特徴がある」
野放しにするよりこれも駆除したほうがいいだろう。
「つまり、纏めてしまうと単純だ。
護衛と魔物を退け、貴族を処理し、権利書を手に入れる。明確に殺さなければならないのは魔物と貴族で、傭兵に関しては現場の判断に任せよう」
「ほな、あんじょうよろしゅう、たのんます」
- 舞台を降りる時完了
- GM名ユズキ
- 種別通常
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2018年11月16日 21時45分
- 参加人数8/8人
- 相談5日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
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参加者一覧(8人)
リプレイ
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バタンッ。
扉の開く音がした。
大きな屋敷の大きな扉。両開きするそれを、そんな音がするほどに強く開けたのは、言うまでもなくイレギュラーズの八人だった。
バタバタと、遠慮も配慮も無く突入する。
ぞろぞろと、列になって侵入する。
「悪い貴族さんを退治に来た正義の味方」
タタンッと足を踏み込みビシィッと指を突きつけた『魅せたがり・蛸賊の天敵』猫崎・桜(p3p000109)は一息。
「参、上!」
なんちゃって、と口の中で言いつつ、名乗りと共に突きつけた先を見る。
正面、広いホールを横切った所には大きな扉があり、その前に一人、女性がいる。
「手に刀……あれがシズクかな」
鞘に納まったそれを左手に、シャツにズボンのラフな格好の女がそれだ。
視線は会っている筈だが、どことなく眠そうにも見える表情からは、何も伺い知れない。
「確か、剣客だっけ。日本に生息するって聞いたことがあるよ」
抜刀術、居合い、静から動の動きが鋭い戦士らしい。
ワクワクしちゃうね。
そんな事を思う『メルティビター』ルチアーノ・グレコ(p3p004260)は、日本の文化と言うものが大好きだ。自然と胸を踊らせる。
もちろん、戦うに当たっての適度な緊張感は持ちつつ、だ。
「シズクちゃんは聖奈に任せてです!」
片拳を握って言う宮里・聖奈(p3p006739)は力強い。
シズクの側には二人の傭兵がいて、こちらは自然体ながらも隙なく構えているが、聖奈からはアウトオブ眼中。
「そっちの趣味はないです」
「いや、うん、それは聞いてないけど。とりあえず任せるよ」
どちらにせよ、避けて通れない相手だ。
なにせホールの入り口は一つ。今入った扉だ。そして出口も一つ。シズクの背後にある扉だ。つまり、
「なんとかしてどかさないといけない、というわけね」
傭兵を殺さずに貴族を探すには、突破するしかない。
「作戦通りならね」
確認の声を作った『レジーナ・カームバンクル』善と悪を敷く 天鍵の 女王(p3p000665)に、『ハム男』主人=公(p3p000578)は頷く。
「あとは貴族が屋敷のどこに居るのか、だけど……」
「ごめんなさい。それは、我にも分からなかったわ」
チラリとレジーナが見る先、扉の前に居るシズクの足元に、ネズミが一匹死んでいる。
彼女の召喚したファミリアーだ。
「貴女のペット……?」
その視線に気付いたシズクが、静かに問いを投げる。
沈黙を答えにしたレジーナに、そう、と短く言ったシズクは、
「じゃあ、貴方達は敵、でいいんだよね」
後ろ手に扉を開ける。
静かに、音もなく開くと、
「ーーーー」
ズシリと脚を踏み込んで、咆哮と共に獣が入室した。
「はっ、でけぇ図体しやがって」
ザリッと片足を踏み、半身を前に構える四杜 要(p3p006465)は強気な笑みを浮かべる。
障害物は無いか。そう油断なく戦場の情報を視界から得て、立ち回りを思う。
「アイツら全員ブッ飛ばして、さっさと引きこもりをシメに行くか」
「ええ、ええ! サクッとやっちゃいましょう!」
並び立つ『偽装職人』ルルリア・ルルフェルルーク(p3p001317)の手が、強く銃を握る。
なぜそんなやる気十分の狐っ娘なのかと言えば、目標の貴族が嫌いな貴族にそっくりだったからだ。
「私欲を肥やし、民から奪い取るだけでは飽きたらず高い価格で品を売り付ける……!」
とてもきたない……!
「それ以外でも相当悪どいやり手らしいな」
油断なく構える『殺括者』ケドウィン(p3p006698)が言うのは、調べて来た貴族の情報だ。
強引な税の徴収や理不尽な執政、その他エトセトラエトセトラ。
「越えてはいけない一線とは言うが、こいつはもうダメだな」
救いようが無いと、そう思う。
だが、救えるモノもまだあるだろう、とも。
「奴を殺して民を救う。……なに、俺はアウトロー。荒事にはピッタリだろう?」
●
「みんな、作戦通りに」
行こうか。
公の言葉に八人は行く。
「シズク、お前は扉を守れ」
それを迎い討つために構える護衛の言葉に、シズクは頷く。
攻めるイレギュラーズに、受ける護衛という構図だ。
だが、そのどちらにも属さないモノがいる。
「!」
魔物だ。
四足歩行で、獰猛な牙と鋭い爪、背中には一対の翼。
それが、立ち位置などお構い無しに行く。
「直線上に並ぶなよ……!」
移動を兼ねた攻撃を警戒しての考えだ。
まずは魔物を倒す、そういう共通認識の元に動きを揃えていく。
「おいおい、俺たちゃ無視らしいぜ」
それを、護衛が笑って観た。
手にはハンドガン。弾丸の装填にスライドを引き、イレギュラーズの動きを観る。
「我が道を行く!」
その後ろ、凄まじい速度で魔物をスルーし護衛を放置しシズクに向かう影がある。
聖奈だ。
両手はフリーに、動きは最小限に、前を向く標的の、斜め後ろの死角から。
行く。
踵から地に付けた足に力を込め、続けて落とす爪先に伝え、低空を全力で跳ぶ。
そして、
「パンツゲットーー!」
シズクのズボンに手を掛けた。
肌と布の間に指を入れ、隙間を作って下にずり下ろーー
「欲しいならあげる」
シズクの声を、聖奈は天井を見ながら聞いた。
「危ない!」
続いて聞こえる警告は、ルチアーノの声だ。
そう認識した瞬間。
「さようなら」
聖奈の体は縦の一線を裂かれ、鮮血を噴き出した。
「ほらほら、こっちですよ!」
銃口を上にタンタンッと発砲音を鳴らして注意を引くルルリアに、魔物は目を向けない。
獲物を見定める様に動く視線は、他に向いているのだ。
「むぅ、上手くいきません……!」
「なら、コイツでどうだ!」
中距離から、要が符を放つ。
細長い、呪文の刻まれた物だ。
投げ付ける様に手を離れたそれは、直ぐに黒に染められる。
丸い染みの形から鴉の姿へと変じたそれが、魔物の横っ腹に突き刺さった。
「デカいと当て易い、てな」
衝撃に、魔物が片側に沈む。
そうしてガクンと空いた脇腹へ迫るのはケドウィンだ。
「ーー速度を」
全身に満たす魔力で四肢を強化し、飛び込む様に行く。
片手で握るのは、切っ先の鋭い大型ナイフ。柄には逆の手のひらを添え、下からねじ込む様に魔物の腹を貫いた。
押し返す肉の弾力を、添えた手のひらで強引に押し込む。
「GAA!」
痛みに鳴く叫びは、怒りに満ちている。
邪魔だ、と乱暴に払われる前足の爪がケドウィンを吹き飛ばしつつ切り裂く。
「ぐっ」
転がりながら受け身を取る彼の体に、直ぐに毒の感触がある。
「無理はしないで!」
押し退けられたケドウィンと入れ替わりに公が接近を試みる。
両手に持つ逆十字を象ったビーム盾を前に展開。振り返り、自分を見てくる魔物と視線が会った。気がした。
「……来るかッ」
迎撃が来る、それに対する覚悟を持って突っ込む、その刹那。
「魔物はサクッと倒しちゃおう!」
口の開いた顔が衝撃にぶれる。
桜の射撃による一撃だ。
足元に一度は下げた照準だったが、援護を考えた結果の狙撃だ。
それが実を結ぶ。顔の横合いからぶちこまれた弾丸が公に向けていた顔を反らし、一瞬の隙を生み出している。
だから、叩き込んだ。
「くらえっ!」
魔力を通したその盾構えて跳び、上から落下する勢いもつけて攻撃にした。
顔面に直撃し、魔物は前肢を折って崩れ落ちる。
「このまま攻めーー」
順調だ。
そう思った公の脇腹に、痛みが走る。
「寂しいじゃないの、俺を忘れるなよ」
片手のナイフを、体当たりするように突き立てた護衛の一人がそこにいた。
●
「無茶するのね」
距離を取りつつ状況を観るレジーナは、始めに召喚の魔法を使う。
呼び出したのは白い人の様なシルエット。それが、シズクに斬られた聖奈を癒しに行く。
「パンツの為にそこまでするの……」
見ている限り、シズクは扉の前から動く様子は無い。侮られていると言うよりは、シズクさえいれば守りは平気だと、そういう信頼なのだろう。
触らなければ、戦うのは後回しに出来たかもしれない相手だ。
現に聖奈を斬った後も、シズクは動いていない。
「と、いうか……」
「なるほど、白か。これは良いものを見たね」
「いやいやガン見して笑ってるとか変質者みたいよ貴方」
魔物へとナイフの斬撃を遠当てしていたルチアーノは、そのツッコミに「えっ」と一瞬固まる。
「マズイ……!」
いや、正確には、聖奈に向けられた銃口を見て、だ。
二人目の護衛の持つ銃が、シズクに向く聖奈を狙い定めている。
……魔物に掛かり付きすぎたか。
作戦の大部分を、魔物を倒した後、に置きすぎた。
そこでフリーになるのは護衛二人だ。
一人は公を奇襲、もう一人は今、
「きゃう!」
聖奈の体に鉛弾を撃ち込んだ。
マガジンの弾を使いきる連射、五発。
「聖奈……男に虐められる趣味はないのですけど……!」
「残念だな、俺は活きの良いガキと遊ぶのは嫌いじゃねぇ」
回復した体力を追い越して削られ、更には体から流れる血が止まらない。
追い詰められている。
控えめに言って、ピンチだ。
「ドバドバ流血だけど……でも!」
自分の刀を杖代わりにして体を支え、立ち上がる。
「シズクちゃんがかわいいから、まだまだ悪戯して脱がせちゃうぞ……!」
「いや少しは自重しろよな!?」
そこに、要からの援護が行く。
光だ。
体を包むような淡い光が、出血を抑えで傷口を塞ぐ。
「こっちも手一杯だ、早々援護なんて出来ないからな!」
言うが早いか、魔物の噛みつきが要へと向かう。
顔を90度曲げて、胴を噛み潰す勢いだ。
「ちぃ!」
下がる。
一歩を後ろへ、手にした非物質の鎌を地面に着け、腕の力だけで体を反転。
足から上へと飛び、無理矢理な回避を得て、
「ぶちこめ!」
叫ぶ。仲間への合図だ。
「りょう、かい!」
先陣切って行く公は、さっきとは逆の動き。下へ潜り込み、盾の一撃を上へと向ける打ち上げを行う。
「う、ぉ、おおお!」
踏み込み、腹へ当てた盾に肘を押しつけ、屈伸の要領で曲げた脚を思いきり伸ばして衝撃を押し付ける。
重い体躯はそれで浮くことは無いが、四肢が張る程には腰が上がる。
が、魔物とてそのままやられているだけではない。
「ーー!」
押されるなら、引けば良いと。前肢を持ち上げ、挟む形で公の身体へ爪を突き立てる。
「ぐぁ……ッ」
肉に食い込む爪の傷が、ジンジンと高熱を持つ。毒による蝕みの熱だ。
さらには、その爪が公の動きを食い止めている。そこに、護衛の二人が畳み掛けた。
「ぁ」
銃弾だ。二人合わせて十発の弾が、公の体に殺到する。
削れた体力が、その攻撃に耐えられるわけもない。ガクリと膝が落ち、そのまま意識を失い倒れる。が、
「ッ、まだ、だ……まだ、終わらない!」
踏みこらえる。そして、魔物はまだ持ち上げられたままだ。
「ええ、まだ終わりません!」
両手で空間を掴む形を作り、そこに炎を作り出したルルリエが突撃する。
ここまで来たら攻めるのみだと攻勢に出て、地を蹴り魔物の背を取る。
「燃えて!」
振り上げ、叩きつける。広がる炎は酸素を混ぜ込んで空気ごと魔物を焼き焦がす。
「桜さん!」
「ん」
両手で握る重火器の重みを前に向ける。大きな瞳を細めて狙いを定め、トリガーに指を掛けた。
「僕にお任せ、だよ」
そして、引く。
桜の放った一撃が、対象の眉間をぶち抜いて貫通し、遂に仕留めとなった。
●
その瞬間、動く影がある。
ケドウィンだ。
「押し通る」
狙いは一つ、貴族の首だ。そういう作戦でもある。だから行く。
「通らせ」
「てあげてくれる?」
行かせない。その邪魔をする護衛を、レジーナが邪魔をする。
掌底で護衛の腹を殴り、衝術を発動させて吹き飛ばす。その隙間をケドウィンは滑り込み、立ちはだかる二人目の護衛を見据える。
「通してくれ」
「素直に退くとでも?」
「思わないさ、だから言ってるんだ。なぁ、ルチアーノ?」
一歩を制止したケドウィンの声に、追い抜いて行くルチアーノが笑う。
「通すよ」
息を吸い、下腹部に力を込めて、正面に立った護衛の前で仁王立ち。そして、
「退け!!」
音が衝撃となって敵を吹き飛ばす。残るシズクを越えれば、魔物が出てきた扉の奥にいる目標まで邪魔はない。
行く。
地を強く蹴って、飛び越える動きでシズクの上へ。
「そう」
ゆらりとそれを見上げるシズクの視線を、ケドウィンは感じ、その刹那。
「通っていいよ」
彼の体は、一筋の傷を刻まれ、血が爆ぜた。
「死体なら、だけど」
ドシャッと落ちる体を背中に、シズクはそう言った。
「ーーいいや」
だがそれに異を唱える。
「死体じゃないさ」
要だ。式として使う符を放って行うのは、ケドウィンの止血だ。
……アイツが落ちたら、埋める奴が居なくなる。
要が思うのは、最悪のパターンだ。ケドウィンの役割を代替する者は居ない故に、通れなければ護衛三人と長い削り合いが続くことになる。
パンドラを使用しての無理矢理な突破ならもう少し、動ける余裕もあっただろうか。
「そんな余裕は、あんまりねぇだろ」
「ないなー、特に聖奈は全然ない」
出血がひどく、消耗が激しい。にへらと笑っては見たが、聖奈の体力は底を尽くだろう。
守りに重きを置き、長く立ち回りしていたが、
「遂にパンツに手が届かない……!」
ズボンをずり下ろした最初以降、有効打が無い。いやパンツへの有効打などなんの意味もないのだが。
「とにかく、こっちはケドウィンが仕留めるのを待つだけ」
パンツは置いといて、と公が言葉を作る。静かに語るそれは、
「こっちもそっちも、死ぬまで戦う義理ってないんじゃないかな。依頼人がいなきゃ、報酬も無いでしょ」
終戦の進言だ。今頃は部屋でケドウィンが貴族をせっついて、目的の物を手に入れている事だろう。
「というか、人のことを考えない貴族さんの護衛をするなんて、お仕事は選んだほうがいいです」
「おいおい手厳しい狐ちゃんだな」
ルルリエはジト目だ。貴族が嫌いというのもあるのだろう。それに肩を竦める護衛は苦笑いだが、ふぅむ、と顎に手を当てる。
「ま、そうだな」
そうして頷きを一つして、ホルスターに銃とナイフを手早くしまう。
「けどな狐ちゃん、俺たちゃあんたらとは違う。選ばないんじゃねぇ、選べねぇんだよ」
覚えなくてもいいけどな、と捨て台詞と、帰るぞ、という号令で、三人は出口に向かう。
「そういえば、シズク、ローレットに興味は無いかな。どうせ危険な戦場に立つなら、こっちの待遇はいいと思うけど」
その背中に、ルチアーノは投げ掛ける。単純な興味からでた質問だ。
「興味無いけど、覚えとく。ああ、それから」
ふわり。
風に乗って、座り込んだ聖奈の元に白い布が届けられる。
「それ、欲しいみたいだからあげる」
「くっ、施しパンツなんて……ありがとうまた遊ぼうね!」
そして去った後、暫くして。
「終わったぞ」
目当ての権利書を手にしたケドウィンの帰還を持って、イレギュラーズの仕事は終わりだ。
「欲をかいては足をすくわれる、過ぎたるは毒って事件だったわね」
「というか、まあ。自業自得、だな」
成否
成功
MVP
なし
状態異常
なし
あとがき
ユズキです。
お疲れ様でした、ほぼ戦闘シーンだけになりましたけど純戦だし許してください。
では、またの依頼で。
GMコメント
ユズキです。
長々語りましたけれど、やることはいつもより簡単だと思います。
では以下、補足と、ショウが調べた敵情報。
●依頼達成条件
貴族と魔物を殺す
●現場
貴族の屋敷のホール。
そんなに広くないと思われます、大体50m四方。
貴族は傭兵とモンスターに自信満々なので部屋で優雅にワインでも飲んでるので逃げる心配はないでしょうし、逃げようとするときにはもう遅いです。
●敵情報
護衛:
二人の護衛は長所もなければ短所もない、オールマイティな戦士です。
近~遠の距離をカバーする攻撃が出来ます。ただしそれだけ。
シズク:
刀を一本持った女性。
回避力や機動力が無い代わりに防御技術を高め、至・近にいる単体の敵を高確率で流血にする斬撃を放ちます。
何を考えてるかよくわからない子。
モンスター:
防御を無視する至距離への噛みつき。
猛毒を付与する近距離への爪。
移動を伴う万能な超貫の突進体当たり。
突進の際はマーク・ブロックを無視すると思われます。
ちなみに敵と味方の区別を付けられる知能はある模様。
貴族:
雑魚。
ちなみに敵情報とはエネミーデータって読みます、横文字カッコいい。
基本的に純戦です。
経緯は私の趣味です。
それでは参加を待ってます。
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