PandoraPartyProject

シナリオ詳細

覚えたての言葉

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●覚えたての言葉
 それはとある村で起きた出来事だった。
 今日も天気が良く、いつも通りの日々を過ごせるはずだった。しかし、その日だけは特別な日。子供にとっては素敵な日。
「トリックオアトリート!」
 トントン、と扉を叩く音と、心早まりフライングで呼び掛ける掛け声。女性が扉を開けると、そこには小さくて可愛らしい魔女の姿が。
「あら、可愛い魔女さん。はいどうぞ」
「わぁい!」
 お菓子を両手いっぱいに渡すと、魔女は喜んで次の家へ向かうのだった。
 その後ろ姿に女性が微笑んでいると、またお客が一人。
「あら、貴方もかしら?」
 ボロボロの布を被った小柄な子供がそこにいた。あまり見ない子ね?と女性がお菓子を用意する。そして子供は小さなか細い声で言う。
「ト……トリック…オア……トリー…ト……」
「はい、これでどうかしら?」
 と、お菓子を差し出した途端。腹部に痛みを感じる。
 ふと見ればそこには刃物。真っ赤に染まる自分に気付けば、途端に響く悲鳴。
「ト、ト……トリック…オア……トリート!」
 子供は刃物で女性を刺す、刺す、刺す。
 それが子供のゴブリンであったという事は、女性が事切れる直前で認識した事であった。

●ユリーカの情報
「悲しい出来事が起きてしまったのです」
 『新米情報屋』ユリーカ・ユリカ(p3n000003)が悲し気に呟いた。
「とある言葉を覚えたゴブリン達が村の人を襲ったのです。『トリックオアトリート』と言えば人間に近付けると思っているようなのです」
 調べてみたところ、ゴブリンは13体。その中で言葉を覚えたゴブリンは6体。
「どれも子供のゴブリンなのです。このままでは村が脅かされたままですし、大人になってしまえば村は襲われてしまうかもしれないですね」
 女性が殺害されてしまった事件が起きてからは、住民はみな外出出来なくなってしまっている。仮に誰かがやって来た所で、扉を開ける者はいないだろう。
「村の入り口は一つですので、そこへゴブリン達はやって来るでしょう。そこで待ち伏せするのが良いかもしれないのです」
 ゴブリン達は覚えたての言葉を口にしているので、言葉を聞けば目標の者達だとすぐ分かるだろう。
「このままでは楽しいイベントが一生出来ないままなのです!是非、ゴブリン討伐をお願いしたいのです!」
 お願いしますね!とユリーカはぐっと拳を握るのだった。

GMコメント

●目標
 子供ゴブリン達の討伐。
 一人でも逃走されてしまうと失敗です。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はAです。
 想定外の事態は絶対に起こりません。

●ロケーション
 お昼。村の入り口にて戦闘を行います。
 入り口には扉等封鎖するものがないので、村に入られないよう、または逃走されないようお気を付け下さい。
 戦場に邪魔になるものは特にありません。
 
●敵
 全部で13体。全員が人間の子供サイズです。
 小柄なので素早いです。
 尚、会話はできません。

喋るゴブリン×6
 とある言葉を覚えた子供ゴブリン。
 「トリックオアトリート」と言えば人間を装い近付けると思っているようです。
 特物:短剣、ナイフ
 攻撃:近距離、至近距離
 仲間が減ると逃走を図ります。

ゴブリン手下×7
 まだ言葉を覚えていない子供のゴブリン。
 特物:弓、スリング
 攻撃:遠距離
 仲間が減ると逃走を図ります。

●その他
 子供だからと言って侮ってはいけません。
 どうぞ宜しくお願い致します。

  • 覚えたての言葉完了
  • GM名野々羊
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2018年11月15日 20時55分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

主人=公(p3p000578)
ハム子
ティア・マヤ・ラグレン(p3p000593)
穢翼の死神
善と悪を敷く 天鍵の 女王(p3p000665)
レジーナ・カームバンクル
ヨハン=レーム(p3p001117)
おチビの理解者
イグナート・エゴロヴィチ・レスキン(p3p002377)
黒撃
エリシア(p3p006057)
鳳凰
鴉羽・九鬼(p3p006158)
Life is fragile
湖宝 卵丸(p3p006737)
蒼蘭海賊団団長

リプレイ


 その日、昼間であるにも関わらず村はしんと静まり返っていた。
 村人一人すら外に出ていない状態の中、村の出入口にて催し物を準備し始めたのはイレギュラーズだ。
「よいしょ」
 『Life is fragile』鴉羽・九鬼(p3p006158)がテーブルに置いたのはおやつの山。
「これでいいでしょうか……?」
「こっちもオッケーだ!」
 九鬼の隣で『湖賊』湖宝 卵丸(p3p006737)が元気に返す。ドン、と彼が置いたのはお菓子ではなく水の入った桶だ。
「にしても、ハロウィンの言葉を覚えたゴブリンか……勘違いしてるだけ、なんかたちが悪いんだぞ」
「あぁ、ゴブリンもガクシュウして来るんだね。一つベンキョウになったよ」
 やれやれ、と首を横に振るのは『無影拳』イグナート・エゴロヴィチ・レスキン(p3p002377)。
「ただ、チホウによってはフウシュウも違うってことも覚えてもらわなきゃね」
 そう話しながら準備をしていれば、あっという間に会場は完成した。
 お菓子を渡す会場を作り上げたイレギュラーズだが、残念ながらこれは村の子供達に渡すものではない。いや、渡す前に先客がいる、と言った方が正しいのかもしれない。
「さて、では相手を待ちましょうか」
 『穢翼の黒騎士』ティア・マヤ・ラグレン(p3p000593)の言葉に、一部はテーブルの前へ、一部は村の入り口を塞ぐよう、各自移動を始める。
 彼女の中に秘められる神は問う。
『こんなもので奴等は来るのか?』
「来るよ。……ほらね」
 数分も経たないうちに遠くから小さな人影が見えたのは、雰囲気を察したのか、あるいは匂いにつられてきたのか。
『……なるほど』
 神の心配はすぐさま溜め息となって終わりを告げるのだった。
 13人の小さな人影は近付くに連れて、ボロボロのローブを被った子供へと変わっていく。一度ピタリと止まり、何かを相談し合っている様子を見せると、二人の子供が恐る恐るイレギュラーズのいるテーブルへ近付いてきた。
「…………」
 二人が黙ってお菓子の山を見詰めていると、卵丸がにこりと笑顔を見せながら、水の入った桶に手を入れる。水面が変わったかと思えば、そこから出てきたのは色とりどりの食材。
「ほら、これあげるからおいで」
 彼のギフトによってお菓子以外のものもある事に気付くと、ぴくりと反応を見せた者が一人。
「……ト……」
 そして、魔法の言葉をぎこちなく呟く。
「……トリックオアトリート……」
「……待ってましたよ、その言葉」
 九鬼の口元が思わず微笑む。しかしそれは決して子供が可愛らしかったからではない。イレギュラーズ全員が、同時に同じ事を思い、心の中で呟いただろう。まさに彼女の言葉はその代弁であった。
 九鬼がおやつを手に持ち、テーブルの横から出る。そしてそれを子供へと見せつける。
 子供の手がローブの中から伸びる。

「悪鬼に渡す"トリート"は残念ながらありませんよ」
 それが合図だった。


「っ!?」
 その腕に突き刺さるは怨念の弓矢。その痛みに気付いたのは数秒経ってからだった。
 驚き一歩退く子供。もう一人の子供も慌ててテーブルから離れる。その時にひらりとローブから見えたのは顔。彼らは人間ではない。
「『良いゴブリンは人前に出てこないゴブリンだけだ』か……」
 弓矢を放った張本人、『ハム男』主人=公(p3p000578)が嘆く。
「せっかくのハロウィンなのに、一部の事件の所為で台無しになるのはダメだよね」
「全くだ」
 『鳳凰』エリシア(p3p006057)が頷く。
「子供だろうが容赦はせぬぞ。悪戯は躾をせねば、な」
 周囲の人間達が自分達から距離を取り、各自特物の武器を構えれば、これが全て罠だったと気付く子供ゴブリン。
 すぐさま後ろを振り向き、早く来いと言わんばかりに仲間のゴブリン達を手招きした。
「予想通りの動きだわ」
 ファミリアーによって空から周囲を見張っていた『レジーナ・カームバンクル』善と悪を敷く 天鍵の 女王(p3p000665)がゴブリン達の動きに確信を得る。
「ゴブリンとは言え、子供とつくとやりにくさを感じるわね。我(わたし)だけかしら」
 とは言え手は抜かないけれど、と付け足して。
「数で負けていてもこちらはチームワークで勝負するのです」
 『これもメイドのお仕事っ!』ヨハン=レーム(p3p001117)もモップを片手に自分の場所を陣取る。

 村の入り口を守る様に並ぶイレギュラーズ。まだ戸惑いも見せるが武器を構える子供ゴブリン達。
 これが戦闘の始まり。先に動いたのはイグナートだ。
「オレのジモトじゃトリックに対しては全力でトリックを返すのがレイギなんだ。こうやってな!」
 右手の拳に力を集中させると、音速とも思える一撃を放つ。遅れて放たれる爆発的な衝撃波はゴブリン達を次々に巻き込んでいく。
「これで終わりじゃないわ」
 と、彼の後ろから聞こえてくるのはレジーナの声。
 彼女の周囲に並ぶ多数の銃火器。一斉に射撃された銃弾が狙うのは弓を持つゴブリン。
 ゴブリンには身を守る術も回避する術もない。悲鳴と共に砂煙が舞い上がった。
「ト……トリックオアトリート!」
 一人のゴブリンがナイフの先をイレギュラーズに向けて叫ぶ。仲間の仇だ。そう言ったようにも感じられた。それを合図に態勢を整え終えたゴブリン達が次々と武器を持ち上げ、刃を、鏃を、石を、目標に向ける。
 雨の如く降りかかる弓矢と石。それらは誰かを狙っているものではなく(本人達は集中して狙っているのだが)、とにかく当たればいいと言わんばかりに疎らであった。だからこそ軌道が読みにくい。
「その言葉しか知らないのですか?」
 哀れですね、とヨハンが前に出れば、落ち着いた様子で雷を纏うエネルギーを放出し、敵の攻撃を防御する。
 降り続ける雨ばかりに気を取られていると、前方から突撃してくるのはナイフを持ったゴブリン達。
「こちらはお任せ下さい」
「これ以上お前たちの好きにはさせないんだからなっ!」
 キィン、と武器を弾き前衛のゴブリン達を妨害するのは九鬼と卵丸。
「人々の平和と暮らしを守るのも、正義の海の男の務めなんだからなっ!!」
 夢見る海にそう誓って。彼は得意の格闘戦をゴブリンに仕掛けていく。
「久々に躊躇いなく切れる相手だよ、イン……」
『ふん、相変わらず口ではそう言うが……まぁいい』
 九鬼が話し掛けるのは刀に宿る霊。掛けられた言葉から何処か悲し気な雰囲気を察したインだが、彼女への対応は相変わらずだった。
『食い出の無い小物だがお誂え向きな悪党だ、さっさと斬れ』
 ザッ、と地を踏みにじると、至近距離を狙いゴブリンの懐へ駆ける。そして少女とは思えない素早い手付きで霊刀を力強く一振り。確実にダメージを与えていくのだった。
「よし、さっさと片付けちゃおうか」
 これがお手本さ、と公が怨念の籠った弓矢を放つ。その弓矢は真っ直ぐと前衛にいるゴブリンを射抜いていく。
『百害あって一利無しの存在だ。慈悲は要らん』
「うん、確実に殺さないとね」
 神からの許しを得たティアは目を閉じて祈り始める。その口から紡がれる、絶望の海を表す歌。海の冷たさと悲しさが呪いを帯び、ゴブリン達の耳を支配する。
 ゴブリン達は幼い為か、歌など分からない。聞いていると一方的に心が苦しくなるだけだ。美しくも悲しい歌声に、ただただ己の耳を塞ぐ。
「随分と苦戦しているな、所詮は子供だったか? はたまた、本気をまだ見せていないだけ、か」
 まだ回復する程ではない、と攻撃に専念するエリシア。堕天の杖から迸るのは雷光。仲間達の間から相手を一掃する雷撃は二体のゴブリンに見事直撃する。吹き飛んだゴブリン達は全身の痺れに両膝をつく。

「トリックオアトリート! トリックオアトリート!」
 地団駄を踏み、意地になって叫ぶその姿は、子供が駄々をこねている様にも見えた。
 それを好機と見る者もいれば哀れに感じる者もいる。ただ、ゴブリン達に同情する者は誰一人としていないのは確かであった。
 ジグザグとした短剣を持つゴブリンが猪突猛進に体当たりを仕掛けて来る。彼と同時に襲い掛かってくるのは、短くも鋭い弓矢と握り拳程の大きさの石。
 数が多いだけに攻撃の波は大きく、いくら子供が相手とはいえ全ての攻撃を避け切る事は不可能だった。
 防衛するものの徐々に削られていく体力。だが――。
「さあ、立ち上がるのだ戦士達よ。今はまだ倒れる時ではない」
 エリシアのメガ・ヒールやレジーナのヒールオーダーにより回復と鼓舞を受け、まだこれからだ、と戦い続けるイレギュラーズ。
「さては、あいつがリーダーだな?」
「そうみだいだね」
 卵丸の気付きにイグナートも確信を得る。
 他のゴブリンとは少し違うジグザグの刃物を持ち、そして先ほどおやつを貰おうとしたゴブリンだ。
「それじゃあ、あいつにはヨウチュウイだね」
 そう告げると、イグナートは足が覚束無いゴブリンを狙って接近する。
「オレのジモトじゃトリックに対しては全力でトリックを返すのがレイギなんだ」
 これがオテホンさ、とゴブリンの腹部に強烈な一撃を与える。至近距離から放たれた拳は何と比べても硬い、自慢の豪腕。地を歪める一撃にゴブリンは悲鳴も上げられず、ぴくりとも動かなくなる。
「私も負けてられない。行くよ、イン……!」
 両手で構える霊刀を光らせ、九鬼も戦場を駆け抜ける。
『転ぶんじゃないぞ』
 ここでドジを踏む訳にはいかないが、まぁ彼女もそれは分かっているだろう。
 今は余計な心配か、とインがにやりと笑った気がした。
「僕からも行きますよっ!」
 ヨハンがメイド服を翻しながらモップを強く握りしめると、ナイフを持ったゴブリンの頭部を目掛けて思い切り叩き付けた。
 普通のモップなら折れているだろうが、ヨハンのモップはそうではない。まるで鋼鉄の棒で殴られたかの如く、ゴブリンはふらりとよろけると、目を回しながら静かに倒れていった。
「トリックオアトリート!」
 リーダーゴブリンが後ろを振り向く。後衛は何をやっているんだ、と投げ掛けるように。
 しかしその目に映ったのは、虚無のオーラに包まれ棒立ちをするゴブリンであった。
「もう雨は降らせません。そのまま眠りなさい」
 ティアの放つナッシングネスで事切れるゴブリン。からりと弓が手が離れれば、リーダーゴブリンは悔しそうに叫ぶ。
「ト……トリックオアトリート!」
 そう、気付けば前衛は三体、後衛も三体。確かに数は減っていた。
「その言葉は連呼するようなものではないわ。それに夢が詰まってないもの」
 レジーナの銃火器は攻撃を止める事はない。最初のお返しよ、と言わんばかり、集中的に撃たれる銃弾の雨は、投石を試みようとするゴブリンの体を貫いて風穴を作っていく。
「よし、一気に終わらせるぞ!」
 卵丸も気合いを入れ直すと、怪我だらけの体に鞭を打ち込み地を蹴った。
 短剣を持つゴブリンに対し、刀を振ったかと思えば、
「残念、今度は脚だよ」
 にやりと笑い、足払いをしてみせた。
 それが致命傷とまではいかなかったが、その隙をついて背後からトドメを狙ったのは公だ。
 ACC(アンチクロスカスタム)に魔力を纏わせ振るう一撃は、一刀両断に等しいものであった。
「ナイスだったよ卵丸。さて、これで……」
 ちらりと残りを見れば、残りは全部で四体。
「もうすぐだ。皆、気を引き締めよ」
 エリシアが卵丸を癒しながら視線を細める。
 そわそわとし始めるゴブリン達。困っている様子の仲間達にリーダーゴブリンは命令を下す。
「……トリック……オアトリート……!」
 腕を上げ、イレギュラーズに背を向け走り出す。それを見た仲間達が後を追う。
『逃がすな、斬れ!』
「えぇ、逃走なんてさせない!」
 インの言葉に九鬼が動き出す。
「いいでしょう、私達に買ったらおやつあげます! この村も入っていいでしょう! 但し、私達に勝てたらのお話ですけれどね……!」
「おぉ、言うねぇ九鬼。ボクも負けてられないな。……ボクは主人=公、この村から平和を取り戻す者だ!」
 久々のゴブリン退治である公は張り切った様子で名乗り上げる。
「これもメイドのお仕事ですから。ヨハン=レーム、行きますよ!」
 二人の名乗り口上にくるりと向いたその隙にと、ヨハンのモップ捌きが炸裂する。
「ま、逃がすワケないんだけどね」
 と、イグナートとティアが逃げ道を塞ぐように囲む。
「パーティは、最後まで楽しまないとね」
『構わん、やれ』
 神の言葉に従いティアは呪いの歌を歌い続ける。
 じわり、じわりと耳から体を蝕む呪いに苦しんでいると、卵丸は両手に持つ刀でゴブリンに奇襲を掛ける。
「トリックオアトリック……これは亡くなった人の分だ」
 十字に斬り裂き、その命を奪っていった。
 逃げ道を塞がれ、畳掛けるように攻撃されていくゴブリン。その怒りと名乗り口上の効果が効き、残ったゴブリン達は怒り狂ったように襲い掛かる。
「村に近付かせる訳にはいかないわ」
 ナイフを持つゴブリンに狙われたレジーナは静かに魔導書を突き付ける。その瞬間、パァン、と弾ける音が鳴り響く。青に輝く衝撃波がゴブリンを包み込み、小さな体は地を削り吹き飛んで行く。
「ト、トリックオア……」
「やれやれ、いい加減しつこいぞ」
 聞き飽きた、と言わんばかりの表情を浮かべるのはエリシア。
「もうよい、菓子なら来世でくれてやる。良い子にしていればの話だがな」
 彼女が堕天の杖を地面に突き刺す。すると心の底に渦巻く悪意が殺傷の霧に変えられていく。残った二体のゴブリンは息苦しそうに首を書き毟る。
「中途半端に痛めつけて、放置すれば此奴等は復讐しに来ようぞ。禍根を断つのだ」
 弓を持つゴブリンの死を確認すれば、やはり最後に残ったのはリーダーゴブリン。
「…………」
 あれだけ叫んでいた魔法の言葉はもう叫べない。叫んでも、聞いてくれる者などいない。
 ならば、最後の抵抗にと、ジグザグのナイフを振り上げる。
「ザンネンだ。次に生まれた時は、ちゃんとタダシイ使い方をするんだよ」
 マホウのコトバは、そんなコワイコトバなんかじゃない。
 イグナートの憎悪の爪牙がリーダーゴブリンの体を引き裂く。からりとナイフが落ちる音が響く。
 こうして、悪戯に使われた魔法の言葉は消え去っていった。


「すみませーん……?」
 戦いが終わり、被害状況を確認し終えた後、イレギュラーズ達は一件の家を訪ねていた。
「……やはり出ないですかね?」
「ゴブリンじゃないんだけどなぁ……」
 ティアが首を傾げると、公がドアをノックをしてみる。
「ボク達、悪戯するゴブリン達を退治しに来ました。もう大丈夫ですよー」
 そう声を掛けてみるが、やはりドアは開かない。その代わり、ドア越しから小さな声が返ってきた。
「……本当に?」
 幼い少女の声だった。それに返答したのはレジーナだ。
「えぇ、我(わたし)達が全て倒したわ。これで外に出られるでしょう?」
 そうよね? と自らの使い魔であるジャック・O・ランタンに話し掛ける。
 その答えに安心したのか、ドアが少しだけ開いた。ちらりと少女の顔が覗いている。
「こんにちは。おやつ、持って来たんです。折角だから配ろうかなと思って……」
 九鬼が両手で包むおやつに、わぁ、と目を輝かせる少女。
「あ、でもタダじゃあないですよ」
 あれですよ、あれ。
 そうウインクしながら魔法の言葉を催促する。
「……と、トリックオアトリート……?」
「そうだ」
 やっと本物が聞けたな、と微笑むイグナート。
 九鬼からおやつを渡されれば、少女が嬉しそうにドアを開いた。外に出たのは何日ぶりだろうか。
「……ありがとう、お兄ちゃん、お姉ちゃん!」
「何、例には及びません」
 ヨハンは笑顔でお辞儀をするが、卵丸は複雑な表情を作る。
「らっ、卵丸は……海の男、男……」
 明らかに『お姉ちゃん』の括りに入っている。そんな気がした。
「しかし、この状態では時間が掛かりそうだな」
 一件一件がこのようになかなか顔を出してくれないとなるとな、とエリシアが顎に手を当てる。
 しかしその心配は無用のようだ。
「わたし、みんなを呼んでくる!」
 村が安全だと分かった途端、少女はおやつを持ったままイレギュラーズの間を通り、元気に隣の家へと走って行くのだった。
「……もう少しここへ居ようか」
 エリシアの提案に異議を唱える者はいない。
 だって今日は、村が救われた日。魔法の言葉が子供達の元へ戻ってきた大切な日なのだから。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

お疲れ様でした。
野々羊の初デビュー依頼に参加頂き、感謝でいっぱいです。
張り切ってリプレイを書きましたので、楽しんで頂けたら幸いです。
またご縁がありましたら、宜しくお願い致します。

解放されたこの村ではきっと、季節外れでも魔法の言葉が流行っているかもしれませんね。

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