シナリオ詳細
<刻印のシャウラ>明日を迎えるための戦い
オープニング
●諦めない心
子供の泣き声、傷ついた戦士たちのうめき声が、静かな教会内に響く。
「領主様、大丈夫ですか?」
金の髪の美しい女騎士が、老体の領主を気遣い膝をついた。
その言葉に、皺だらけの優し気な顔が、安心させるように微笑んだ。
「大丈夫だ」
結集した盗賊たちの襲撃から一晩。
街の男連中によって大分削れはしたもののの、敵の勢力は、教会内に残る味方の戦闘ができる勢力よりも未だ数は勝っている。
戦ったことなどない一般市民は戦力にはならない。
今は何とかしのげているが、このままではいつか突破されてしまうのは明白だった。
けれど、それでも。
諦めるわけにはいかなかった。
生き残れる確率が、1%でもあるのならば、絶対にしがみついてやろうと、此処にいる皆で誓ったのだから。
●イレギュラーズの戦い
「久しぶりなのだよ。お前たち」
珍しく疲れた顔で、『蛍火』ソルト・ラヴクラフト(p3n000022)が、苦く笑った。
イレギュラーズであるソルトだったが、情報収集向きのギフトと、癖はあるものの社交的な性格から、どちらかと言えば地味に精神的な過酷な調査などに駆り出されている場合が多い。
どうやら、今回受けていた仕事も、そういった系統だったようだ。
心配から君たちが声をかけると、ソルトはひらりと手を振った。
「これも仕事なのだよ。……それに、汝たちのほうがこれから過酷な目に合うのだ。我の事は気にするな。こう見えて我はしぶといからな、これくらいの疲労ならば問題ない」
ソルトがそう言って、調査した書類と今回の依頼書を君たちと渡す。
そこには、こう書かれていた。
――『新生・砂蠍』が本格的な幻想侵攻を開始した、と。
「もはや、こいつらはごろつきなどではない。動きこそ盗賊上がりのため、粗雑ではあるものの、軍隊に近い規模にまでなっているらしい。そして、厄介な事にこいつらの目的は金銭ではなく、この国そのものだ。……一体、どんなバックがついているのか、奴らは充分な情報と金を持っているのだよ。盗賊王のカリスマも既に放置するわけにはいかない。すでに、幻想南部の貴族領、街、村へ本格的な侵攻が始まっている。既に落ちてしまった拠点がいくつかあるが、いまだ持ちこたえているところも多くある。何としてでもそこを守り切りたい」
いつになく真剣な表情のソルトに、この現状がいかに逼迫しているのかが、君たちは重く受け止めた。
普段であれば、軽快な、空気の読めないふざけた冗談や、下ネタを言うこの男が、こうまで警戒しているのだ。
「本来ならば貴族連中が動くのだがな。運の悪い事に、幻想北部、鉄帝国との国境線で鉄帝国が侵攻の兆しを見せているらしい。北部を抜かれれば国防上に最悪の問題が発生するからな、貴族は国境線に戦力を集中しなければならない。だからこその我々だ。挟撃の上に二面作戦の決行とは、いささかハードルが高い。万が一、拠点が多数落とされる結果になった場合、幻想南部の拠点が砂蠍統治下になる可能性も否めない。……だが、お前たちならばやれるだろう」
君がふと、疑問に思った事を聞いた。
鉄帝国が一枚噛んでいるのではないか、と。
「正直なところ、我としては関連は薄いのではないか、と思っているが、我は別に国家レベルで掌握しているわけではないないからなぁ。ただ、あそこはそういうのは嫌っている、と我は聞いているから、直感的にはそう思った。まぁ、今回の依頼は盗賊どもの制圧であって、鉄帝国の調査ではないからな。あちらは貴族連中がなんとかするだろうよ。むしろ、それくらいしてもらわなくては困る。我らは別に幻想オンリーの支援組織ではないのだから。我らは我らの依頼の事だけを考えるに留めておこうぞ」
ソルトはそう言って、今回の依頼内容の説明を開始した。
今回、君たちが守らなければならない拠点は、南部にある「ツェイテ」と呼ばれる街だ。
決してそこまで大きな街ではないが、防衛と言う意味では重要な拠点だった。
この街は、周辺の村々を守る役目を持っている。
腕に覚えがある人物が多く滞在しており、有事の際には彼らが率先して動く事になっていた為、実際に今回の襲撃も、彼らが前線で盾になる事で、その戦線を維持していた。
そんな彼らだからこそ、何とか凌いでいたが、彼らとて人の子だった。
数に圧され、一人一人倒れていき、今は教会に立てこもって籠城している状態となってしまっているらしい。
「届いた情報によると、男連中は殆ど既に戦闘不能らしい。生き残った男も、怪我で動けない者が多いと聞いた。彼らも大分頑張って敵を削ったが、最初の数が多かったようなのだよ。今、教会の中には、街の生き残った人たちと、老体の領主、彼を守る女性の騎士や冒険者たちがいる。あとどれくらい持ち堪えられるか、正直予想ができないが、悠長な事をしている余裕はないのだよ。今回の敵は所詮盗賊上がりの奴らだ、若い女どもの末路がどうなるかなど想像するのは容易い。戦って死ねるならまだマシだ」
どうやれば戦意を殺げるのか、人の心を折れるのか、それくらいの知性と残虐性は彼らは持ちわせているだろう。
「敵の数は、70程だ。教会の中には騎士が7名、弓を持った冒険者が10名ほどと、治癒の力を持った者が数名いるらしい。この教会は戦闘を考慮された特殊な作りになっているため、戦闘時は彼女たちも援護をしてくれるだろう。領主も強いとは言えないが、遠術で吹っ飛ばすくらいはできるらしいので、完全に無力ではない。町の人たちも武器を持っているから、汝たちならば倒せない相手ではない筈だ。易々とやらせてはくれないだろうがな」
彼女たちは、君たちの助けを待っている。
彼女たちの心が折れる前に、共同戦線を張る事、それがまず最優先だ。
「ああ、それと安心したまえ。教会に通じる秘密通路があるので、彼女たちとの合流は簡単だ。ただ、この秘密通路は一方通行でな。一度教会に入ってしまえば、その道から逃げる事はできない。汝たちが帰るためには、敵を跳ね返すしかないという事だけは覚えておいてくれ」
その言葉に、君たちは神妙に頷き了承した。
ソルトが大きく息を吐き、真剣な表情で最後の言葉を告げる。
「最後に、レオン卿からのメッセージを伝える。一字一句そのままだ。……なかなかどうして、派手な事をして来やがる。蠍の侵攻に、鉄帝国か。出来過ぎたシナリオでうんざりするぜ。ウチは政治的に中立だが、幻想王家、貴族から正式に要請が来た以上は――蠍の駆逐に手加減はいらねえ。だが、くれぐれも油断はするなよ。連中はもうただの盗賊っていうレベルを超えつつある。……あの男が警戒しているのだ。気を引き締めろよ。またお前たちと生きて会いたいからな。武運を祈る」
作戦の決行は、明後日。
- <刻印のシャウラ>明日を迎えるための戦い完了
- GM名ましゅまろさん
- 種別通常
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2018年11月15日 21時05分
- 参加人数8/8人
- 相談7日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
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参加者一覧(8人)
リプレイ
●開戦の号砲と共に
いかに勇敢な戦士とはいえ、死は怖い。
教会内でひしめき合う市民にも、彼女らの恐怖は伝わっていた。
敵は、現存戦闘できる面子を遥かに上回っているのだから。
ただ、それで彼女たちを責める気には誰も決してならなかった。
倒れた男たちや、市民を教会まで導いてくれたのは、まだ年若い女騎士や、女性冒険者たちだったのだから。
特に、女冒険者たちは、この街を捨てていても誰も咎めなかったのに、彼女たちは此処に残ってくれたのだ。
感謝していた。
だが、神は決して彼女たちを見捨ててはいない。
ゴゴ、と屈強な石の扉が開いていく。
教会の奥にある、一方通行の道が開く音だ。
それに気づいた周囲の街の人が、警戒するように距離を置き、近くの者と抱き合った。
「やっと抜けたっす☆」
けれど、聞こえてきたのは年若く明るい女の声だった。
服についた埃を払いながら、『名も無き小妖精』フェアリ(p3p006381) がその姿を現す。
「ちょっと埃っぽかったね」
黒・白(p3p005407)が 、すぐ後ろから姿を現すと、『不運な幸運』村昌 美弥妃(p3p005148) 、『演劇ユニット』Tricky・Stars(p3p004734)、『石柱の魔女』オーガスト・ステラ・シャーリー(p3p004716)、『オーガニックオーガ』百目鬼 緋呂斗(p3p001347)、『山賊』グドルフ・ボイデル(p3p000694)『強襲型メイド』ヘルモルト・ミーヌス(p3p000167)もそれに続いて教会内へと入った。
その風貌から、彼らが盗賊の類ではない事に気づいたのは、老年の領主だった。
「あなた方は、もしや……?」
震える声は、自身の考えが合っていてほしい、と言う切実なものだった。
「僕たちはローレットの者だよ。開戦までに間に合ってよかった」
優し気な笑みで緋呂斗が言えば、他の女騎士や女冒険者たちの表情も和らいだ。怪我をしていた男たちからも、歓迎の声が上がった。
「来てくれて感謝だ。だが、その、私たちはお前たちにたいしたお礼はできないのに、いいのだろうか。……もし、君たちに危険が迫るのであれば、領主様と民だけを逃してほしい。必ず我らが、殿を……」
一人の女騎士が、辛そうにそう言った。
彼らに提示された報酬が、この激戦に見合わない事を女騎士は理解していたからだ。
けれど、ローレットのイレギュラーズは、そんな騎士を笑い飛ばした。
「ゲハハハッ、勇ましい騎士サマだ。報酬はそうだな──後で手酌してくれりゃあ、それでいいぜ?」
グドルフは豪快にそう言う。
「いやはや重労働ですねえ。確かに、普段の報酬には割りに合わない仕事です。でも……それでも私はこの街を守りますよ。皆さんの居場所が蠍の毒針の餌食になっていい筈がありません。ガラではありませんが命を賭して共に戦わせてください」
オーガストも、グドルフに続きそう言った。
「楽ではない戦いですが、絶望するにもまだ早い。ここまで耐えた皆様と私達、力を合わせれば決して無理な戦いではないはずです。大切な誰かを護る為、もうひと踏ん張りと参りましょう」
全員生存が最善ではあるが、最悪切り捨てる覚悟はヘルモルトにはある。しかし、それは最悪の場合だ。
救出はオーダーにありませんから、と仲間に隠し通路で言っていた彼女だったが、決して本意ではない。
「敵の数は多いけど、僕に出来ることを一生懸命にやるよ」
出来るだけ多くの人を救いたいんだ、そう言った 緋呂斗に、Trickyが軽快に彼の肩を叩きながら、笑った。
「俺ら結構強いから」
明るいその台詞に、美弥妃が頷いた。
「はいですぅ! それに、何もせずに負けるだなんて後悔ランキング上位に食い込みマスからねぇ!」
「ぼくも、微力ながら頑張るよ。皆さんと一緒に頑張るのです!」
白の言葉は、前半は力強く、後半は愛らしい。
「あたしらが来たからにはもう大丈夫っすからねー。泥船に乗ったつもりで安心して任せるといいっす!」
「泥船は駄目だよ。それを言うなら、大船なのです」
「ありゃ?なんか変な事言ったっすかね? てか、白はなんか不思議っすね」
外にいる大群に対する恐怖など微塵も感じさせない面子を見て、周囲の人間は最初こそ戸惑ったものの、すぐに笑みを見せるようになった。
グドルフが、作戦の指示を伝えると、騎士たちが頷いた。
一般人も、その命令をしかと理解し、バリケードを作り始める。
メンバーの中では、少々荒っぽく見えるルドルフだったので、最初はおっかなびっくりしていた一般人だったが、彼の豪快さに次第に心を許していた。
準備が整ったと、ほぼ同時に。
大きな号砲が、あたりへと響き渡った。
●戦場
前衛組である、ヘルモルト、グドルフ、緋呂斗、槍の騎士、斧の騎士が真っ先に飛び出した。
女冒険者たちは、開戦と同時に教会の上部へと躍り出た。
「教会なのに、要塞みたいなつくりっすね! でも、外に出て大丈夫なんすかー?」
フェアリが大きな声で言うと、白が静かに声をかけた。
「多分、大丈夫。あっちは低いけど、こちらは高いのですから大丈夫なのです」
「なるほど! じゃあ、大丈夫っすね。あたしたちも行くっすよ、まだらちゃん!」
「まだらちゃん……!?」
特徴で呼ぶのはフェアリの癖だ。
黒白交じりの珍しい髪をさしての呼び名らしい。
そこに悪意はなかったが、白にとっては衝撃だったらしい。
物申したい事はあったが、今はそうも言っていられなかった。
全開になった教会の扉を縫って、弓矢が教会内に突き刺さった。
「行きます!」
「さぁさ、女の子に殴られたい輩は来てくださいねぇ♪」
可愛らしい姿をしている美弥妃だったが、人は見かけによらない。
盗賊たちを引き付けて、神薙の一撃が猛威を振るっていた。
イレギュラーズたちには戦闘力として及ばない騎士たちは、確実に自身で倒せる敵への攻撃を繰り返しながら、あえて美弥妃の対角線上に盗賊たちを誘導していた。
「こう数が多いと蠍というより蟻のようだな」
Trickyもまた、範囲攻撃で相手を屠って行く。
始まりの赤で高められた力を、ロベリアの花への布陣としているのだが、中々の高威力を発揮していた。
「意外と血の気が多いですね。皆さん。勇ましいですけれど」
ブレッシングウィスパーの囁きで自身に宿った活力を糧に、オーガストは戦況を広い視野で考察する。
前衛は大切だ。
後衛にとって、前衛は要なのだから。
だが、前衛だけでは戦局を維持するのは難しい。
ロックバスターによって召喚された石礫が、女騎士たちを押していた盗賊たちの頭部へと強襲をかける。かなり鈍い音を立て、盗賊が地面に倒れた。
「感謝する!」
槍の騎士が、盗賊を貫きながら、そう叫ぶように言った。
「お互い様です」
前衛組は混戦と言っていいが、遠距離攻撃は、どうやら自軍側が有利なようだった。やはり、高さが利点である。
「グドルフさん、そちらお願いしますっ!」
マッスルパワーで強化された、緋呂斗の屈強な肉体が、盗賊の肩を砕いた。
心優しい彼にとっては、人間である彼らを傷つけるのは、本意ではないだろう。だが、大勢の敵に対して、こちらは精々が三十人に足らない程度の戦闘員たちだ。教会にいる市民は勿論、治療を助けてくれる人たちには戦う力などない。
万が一、前衛たちが崩れてしまえば、数で押されるのは明白だ。
(出来るだけ多くの人を救いたいんだ。悪い人たちにこの街も街の人も奪わせないよ……!)
「うおおおおっ!」
緋呂斗の咆哮が、周囲の空気をびりびりと震わせる。
「ゲハハハ! 意外と剛毅だなぁ!」
グドルフは感心するように、快活に笑った。
勝るとも劣らない強力な一撃で、盗賊たちがグドルフの前に沈んでいくのを、斧の騎士が、キラキラした眼差しで見ながら、彼女もまた敵をなぎ倒していく。
強い男が好きなのは、彼女自身が武に長けているからなのかもしれない。
剣の騎士たちも負けてはいない。
しかし、やはり数は中々減らない。
体力は、戦っていないイレギュラーズに分はあったが、長期戦は好ましくなかった。
有象無象が、グドルフや女騎士ちに迫る。
「けっ……ザコどもが、ウジャウジャとうざってえ。とっととカタして、この村のイイオンナ達と酒でも飲みかわしてえモンだなあ!」
盗賊の一撃がグドルフを襲い、僅かに傷つけるが、彼はそれをものともせず薙ぎ払った。
やや遅れて、フェアリと白が前線に躍り出る。
「っしゃー! でかいの行くっすよー!」
大きなフェアリの声に、対角線上にいた騎士が慌てて距離を取った。
すぐさま撃ち込まれた魔砲が、猛威を振るい、とてつもない威力で大地事抉り取る様は圧巻だった。
フォローに回る女騎士たちの顔は、やや引きつっていた。
「やー心強いっす! こりゃ安心してあいつら狙っていけるっすよ!」
心強いのはこちらだ。
きっと彼女たちはそう思ったに違いない。
「盗賊に人権はないのです」
「そのとーりっ!」
ロベリアの花をぶっ放しながら、白が言ったのを聞いて、フェアリが楽しそうに頷いた。
●じわじわと
戦局としては、こちらが優勢と見て良いだろう。
だが、さすがに数で勝るあちらに、物量で勝つことは難しく、体力も無限ではない。
教会内の治療師たちの力も、永遠に続くわけではない。
ヘルモルトは、開戦の前に皆に言っていた。
教会と言う設備を有効に使用しよう、と。
『此方の前衛ではカバーしきれない数が一気に来た時などは教会内へと退避しましょう。また、退避のタイミングは誰かが取り残されたりする事が無いように気を付けなければなりません。その際は殿を務めます』
その言葉を思い出しながら、メンバーは敵の残存勢力を教会内へとおびき寄せる。
ヘルモルトの柳風崩しが前線の敵を崩しつつ、教会入り口での戦闘が開始されたのは、誘導を始めて15分後の事だった。
●激闘
前衛組が、入り口付近で敵を食い止めている。
教会に無い入りきらない敵は、遠距離の弓が射っていき、怯んだところを騎士たちが切り捨てていく。
騎士たちの鎧は傷つき、美麗な肌は土と汗で汚れていた。
治療師たちは、勇気を振り絞りながら、彼女たちに近づき傷を癒す。
『あーらら、ガチで絶体絶命ってヤツじゃないッスか』
ロベリアの花を放てる力は尽き、マリオネットダンスに切り替えたTrickyは、額の土を拭いそう言った。
「多勢に無勢とはよく言ったものデスねぇ……とはいえ、やれるところまでやりましょうかぁ」
美弥妃の声は、決して暗くない。
焔式で近い盗賊たちへと攻撃をしかけ、その戦意を殺いでいく。
「何もせずに負けるだなんて後悔ランキング上位に食い込みマスからねぇ!」
入り口での戦いは熾烈を極める。
剣を持った女騎士がすでに、二人倒れていた。
治療師の女性が懸命に治療を行っているが、出血が多く、正直な所、生存は厳しいだろう。
老体の領主は、彼女の手をそっと握っていた。
そんな事もあり、治療師たちは、何とか力になろうと前に進もうとするが、さすがに彼女たちには荷が重い。
「皆さんは、市民の方と一緒に奥の方へお願いします。……大丈夫、治療ができるのは私も同じです。皆さんの出番は、戦闘終了後ですよ」
オーガストの言葉に、彼女たちは顔を見合わせて、静かに頭を垂れた。
「本当にガラではないですけどね」
正直言えば明日から本気を出したいところだったが、ここで本気を出せないと、明日がそもそも来ない可能性もあったので、オーガストは珍しく、ややきりりとした表情を作った。
と言っても、他のメンバーから見て、普段との違いは分からなかったのだが。
「おらっ!」
「グドルフさん、右!」
緋呂斗の声に、グドルフが瞬時に判断して、ぶちかましで吹っ飛ばす。
派手な音をたてて、盗賊が地面に倒れ伏すと、すぐさま次の敵の対応に向かう。
徐々にではあるが、敵戦力はその戦意を失いつつあった。
●敵の将
屈強な黒髪の男は、戦況を見ながら、苛立たし気に舌打ちをした。
圧倒的に数はこちらが勝っていたのに、気づけば教会に引込めるほどに人数が減らされていた。
「ローレットの犬どもめ」
正直、このまま戦い続ければ、どちらに転ぶかは断言できない。
これが背水の陣ならば、引くことなどありえなかったが、あいにくと今はその時ではないだろう。
男は別に重要な役柄についているわけではない。
今ここで判断を誤り、突っ込んだ結果死んだところで、誰の不利益にもならない。
盗賊の手ごまが消えた、と言う意味はあるあもしれないが、いくらでも替えの利く存在なのだから、まさにどう考えても犬死である。
「忠誠より、俺は命を取る。……合図をしろ」
彼を取り巻く仲間もまた、その意見には賛成らしい。
――鐘を大きく鳴らし、撤退の撤退の合図を送った。
●戦いの終わり
大きく鳴り響いた鐘に、イレギュラーズは訝し気に顔を顰めた。
同時、対峙していた盗賊たちが、撤退をはじめるのを見て、Trickyが、なるほど、と呟く。
「逃げた、ってことだね。芸術的じゃないな」
「芸術、関係あるのかな?」
『あっ、気にしないでくださいッス!』
「稔」の言葉を聞いての緋呂斗の戸惑い声に、「虚」がちゃらく答える。
さらに困惑した様子の緋呂斗に、白がぽそりと声をかけた。
「よくあることなのです。うん、よくあることだよ」
一つの肉体に複数の魂、複数の人格、そんな類の存在は多くは無いが、決して見かけないほどレアでもない。
「私は、周囲に残党がいないか確認します」
「おい、深追いは……」
「大丈夫です、グドルフさん。警戒は怠りません。魔女は用心深いですから」
敵の声と足音が遠のいた後、オーガストが外へ様子を見に行く。
「なんとかなったすねー。さすがにちょっと数は多かったッスけど☆」
「デスねぇ! 上々だと思いマスよぅ」
フェアリも美弥妃も、上機嫌で肩の力を抜いた。
「目的は果たしましたね。……っ」
壁に寄り掛かったヘルモルトが、痛みで顔を顰めると、治療師が慌てて傍に寄り傷を癒していく。
体力の十分残っていたヘルモルトは、自身の身体を囮にして、貫通攻撃を受けていた。
かなりの無茶ではあったが、悠長にやっていてはジリ貧間違いなしだったため、その判断は間違っていなかった。
持久戦になっていた場合、盗賊たちは果たして撤退していたかどうか。
僅かな戦況の違いが、全く違う展開になる可能性とてあった。
だが、彼らが得たのは紛れもない、勝利だった。
――ただ、喪われたものもある。
領主は、眠るようにして亡くなった遺体の手を、胸付近で組ませながら、自らは祈りを捧げていた。
女騎士二人は、その短い生涯を閉じたのだ。
「私は結局彼女たちに何もしてあげられなかった」
「……領主さんよ。その騎士たちは、自分の職務ってやつを果たしたんだぜ? それに、元々死ぬ覚悟がそいつらにはあったんだよ。生き残った奴らで弔ってやるのが、あんたの最後の仕事だろうが」
ガシガシ、と頭をかきながら、グドルフが言った。
グドルフは善人ではない。
今回の依頼が盗賊相手であり、余計なトラブルにならないために、あえていう事でもないので、言わなかったものの、れっきとした山賊である。
盗賊と山賊の違い、正直な所は大差はないと思っている。
だから、綺麗ごとなんて正直興味はなかったが、イイ女どもの生き方まで否定するつもりはなかった。
「領主様、弔ってあげましょう。ワタシも手伝いますぅ」
美弥妃も、彼女なりに領主様を元気づける様に笑顔で言った。
「そ、うか。ああ、そうだな」
領主の顔が、しわくちゃになるのを見て、皆は祈りを捧げた。
騎士たちの魂が、安らかに眠れるように、と。
その後、彼女たちの埋葬は、街の人全員で行われた。
●END?
負傷者多数、死傷者2名。
残念ながら、死者は出てしまったが、街の人の命と、領主の命は無事に守られたのだった。
――しかし、今回の事件は、おそらくまだ始まりに過ぎないのだろう。
成否
大成功
MVP
状態異常
なし
あとがき
依頼完了です。
無事に成功いたしました。
大人数による戦闘でしたが、無事に敵の戦意を殺ぐことができ、撤退させることに成功しました。
また、よろしくお願いします。
GMコメント
お久しぶりです。復帰後初の依頼となりますので、よろしくお願いします。
全体依頼かつ、純戦闘依頼です。
数は多いですが、力を合わせれば、撃退できる相手ですので頑張って倒しましょう!
【成功条件】
蠍たちの撃退
「敵」
敵は70名ほどと多いですが、街の男たちの手によって弓などの物資は大分潰されており、近接戦を主体に攻撃をしかけてきます。
遠距離攻撃を打てるのは、この内の15名ほどです。
敵は初戦ではないため、万全ではありません。
「味方」
領主…老体のため近接戦はできませんが、遠術に似たものが使用できますので無力ではないです。
女騎士…7名。剣4、斧1、槍2です。20代~30前半の女性たち。そこそこ腕はたちますが、イレギュラーズたちほどの腕前ではありません。
弓を持った冒険者…10名ほど。
治癒の出来る人…数名。戦闘はできませんが、傷は癒せます。
街の人…戦い向きではありませんが、石部手を投げたりはできます。ただし、戦力計算するのは早計です。
街の人たちはローレットに対して、好意的です。
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