シナリオ詳細
<刻印のシャウラ>蠍姫は嗤笑せり
オープニング
●『新生・砂蠍』の侵攻
ローレット内は、いつにも増して騒然としていた。
忙しく動き回る『黒耀の夢』リリィ=クロハネ(p3n000023)を捕まて聞けば、大きな仕事が舞い込んだらしい。
「『新生・砂蠍』――キング・スコルピオ率いる盗賊団は、今や軍隊の如しね。
幻想の辺境を中心に荒らし回って、更に力を付けているわ」
その狙い、もはや金品だけに留まらず――そう、国盗りを狙っているようだ。
これまでは収奪等を中心に動いていたが、ここに来て、幻想南部の貴族領、街、村へ本格的な侵攻を開始したという。
「謎の資金力と人脈、盗賊王のカリスマで強化された『新生・砂蠍』は間違いなく強敵だわ。
侵攻を始めた彼らは幻想南部の貴族領、街や村の占領、占拠を狙っていて……一部はすでに落とされているの」
それほどまでに力を付けていた盗賊団。
これに対し、幻想貴族達も対応するはずなのだが――
「『間が悪い』ことに、北部国境線で鉄帝が軍を動かす兆しを見せている見たいね。
『サリューの王』クリスチアン・バダンデールの諜報で判明した情報だけれど、北部国境線が抜かれれば国防上致命的な問題が生じる以上、貴族達は動けないってわけね」
『不運な事』に北部と南部は地勢的に真逆に位置する。軍隊を動かすにはロスとリスクが高すぎるというわけだ。
「とはいえ、出来すぎてる状況よね……。鉄帝国と砂蠍が連携しているとは思えないけれど……。
なにはともあれ、そういう状況にあって貴族様達が頼ったのが、ローレット――つまりイレギュラーズである貴方達になるわけね」
●
話を区切ったリリィは手にした依頼書を見せてくる。
「丁度頼みたい仕事があるわ。
幻想南部の比較的大きな街、ヴィシュテリアを狙う『新生・砂蠍』の部隊を発見することが出来たの」
そう言って地図を広げ、説明を続ける。
「この砂蠍の部隊は新生砂蠍・毒姫部隊ね。
以前も盗賊団のスカウトをしていて、貴方達が撃退したものの逃げられた『蠍姫』スキラ・スロースが部隊を指揮しているわ。
彼女達はヴィシュテリアの街を目指して街道を進行中。
その狙いは、ヴィシュテリアの街を護る警備部隊をまとめて行動不能にする”神経毒”の散布にあるみたいなの」
大型の砲弾を街にばらまき、そこから発する神経毒で街の警備を無力化。少ない人数で大きな街を占拠する手はずなのだろう。
「占拠が行われれば、自ずと砂蠍関係者も集まり――占領へと至るでしょうね。ヴィシュテリアは要所と言うわけではないけれど、人口も多い街だから奪われると面倒だわ。
そうなる前に――毒姫部隊が街へと辿り着く前に”神経毒”を放つ砲筒、もしくは砲弾を破壊して欲しいの」
毒姫部隊が移動している街道は南北に通った一本道で、東に深い川と、西に小さな森がある。うまくやれば奇襲を仕掛けることも可能かもしれないが、当然ながら毒姫部隊もそれは警戒しているだろう。
毒姫部隊は南から北のヴィシュテリアへ向け侵攻している。北側から押さえるのが基本だと思われるが、やはり東西の環境を利用した奇襲を仕掛けるべきだろうか? 思案をする必要があるだろう。
「部隊構成は蠍姫とその直属の盗賊達三十名になるわ。
そのうち十名が砲筒と砲弾の移動を行っているわね」
つまり盗賊二十名と蠍姫の防御を抜いて、砲弾砲筒へと手を伸ばす必要がある。これは中々に難依頼と言えるだろう。
「ヴィシュテリアの警備兵に援護を頼むこともできると思うけれど……あまり当てにはしないことね。
それだけ、この砂蠍の盗賊達は強いわ。生半可な相手ではないことに留意して頂戴」
そういってリリィは依頼書に持ち得た情報を記載すると渡してくる。
「難しい依頼になるだろうけど、皆には頑張って貰いたいわ。
気をつけて。無事に帰ってきてね」
忙しそうに次のテーブルへと向かうリリィと入れ替わるように、レオンが近づいて来た。
「なかなかどうして、派手な事をして来やがる。
蠍の侵攻に、鉄帝国か。出来過ぎたシナリオでうんざりするぜ。
ウチは政治的に中立だが、幻想王家、貴族から正式に要請が来た以上は――蠍の駆逐に手加減はいらねえ。
だが、くれぐれも油断はするなよ。連中はもうただの盗賊っていうレベルを超えつつある」
レオンすらも注意を促す相手。
強敵との戦いをどのように進めるか、イレギュラーズは準備を開始した。
- <刻印のシャウラ>蠍姫は嗤笑せりLv:7以上完了
- GM名澤見夜行
- 種別通常
- 難易度HARD
- 冒険終了日時2018年11月15日 21時15分
- 参加人数10/10人
- 相談7日
- 参加費100RC
参加者 : 10 人
冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。
参加者一覧(10人)
リプレイ
●挟撃
川と森を挟むヴィシュテリアへと続く街道。そこを進行する蠍姫率いる新生砂蠍・毒姫部隊。
これに対してイレギュラーズはヴィシュテリアの警備隊と共に、これを四方から取り囲み夜襲を仕掛ける。
警備隊の人数は二十名余り。優先度の高い西の森に十名を配し、東の川に五名、北に五名とした。
まず先行したのはヴィシュテリアの街がある北から動く、『カオスシーカー』ラルフ・ザン・ネセサリー(p3p004095)、『砂蠍の楔』ラダ・ジグリ(p3p000271)、『魔剣使い』琴葉・結(p3p001166)、『銀凛の騎士』アマリリス(p3p004731)、『芋掘りマスター』六車・焔珠(p3p002320)の五名だ。警備隊の五名と共に闇に紛れ毒姫部隊の鼻先を押さえる。
この間に、残る五名、『黒キ幻影』シュバルツ=リッケンハルト(p3p000837)、 『守護天鬼』鬼桜 雪之丞(p3p002312)、 『ぽやぽや竜人』ボルカノ=マルゴット(p3p001688)、『夢は現に』ディエ=ディディエル=カルペ(p3p000162)、『遠き光』ルアナ・テルフォード(p3p000291)は西の森へと潜伏し、挟撃のタイミングを待つ。
イレギュラーズの狙いは蠍姫達が運ぶ砲筒にある。三つの砲筒さえ壊してしまえば、勝利条件は満たすことができる。イレギュラーズはその事に注視し作戦へと望んでいた。
戦いは静かに始まった。
各人が持てるスキルを活用し、毒姫部隊の接近を確認すると、一糸乱れぬ動きで構えを取る。
「さぁ始めるわよ」
焔珠の生み出した六つの『遊火』が街道に広がり揺らめく。夜、明かりの無い街道だ。突如現れた光に盗賊達が一瞬動揺するのがわかる。
それを合図に、北側を固めるイレギュラーズが一斉に動き出す。
飛び出したのは結とアマリリスだ。
「まずは注意を引くわよ!」「イッヒヒヒ。楽しいパーティーの始まりだぜ」
「指揮官を抑えます――結様行きますよ!」
闇夜に紛れ周囲を固める盗賊達を駆け抜けながら、その中心に立つ指揮官、蠍姫スキラ・スロースを捕らえる。
突然の襲撃者に浮き足だつ盗賊達を、蠍姫が一喝する。
「ビビるんじゃないさね! 想定通りの夜襲だ。対処法通りに動きな!」
この一喝で盗賊達の冷静さが取り戻される。
「蠍姫! かかってきなさい!」
「フン、安い挑発なんぞに乗りはしないさね」
結の挑発に蠍姫は乗ってこない。挟むように肉薄したアマリリスが蠍姫と対峙した。
「天義より参りましたアマリリスです。どうぞ姫君、ともにダンスは如何です?」
「はん! 天義の小娘が。神様とやらに祈りは済ませたのかい?」
アマリリスが蠍姫を徹底的に抑える中、ラダとラルフが動く。
「出来るだけ砲弾は巻き込まないようにしたいが――」
砲弾を避けるように超距離からの魔弾を放つラダ。貫通力を兼ね備えた一撃が護衛の盗賊巻き込んでいく。
貫通攻撃はラダのそれだけに留まらない。
「防ぎきれるとは思わないでおくれよ」
ラルフの放つ超威力を誇る破壊のエネルギーが守備役諸共砲筒に損傷を与えていけば、続けて焔珠が全身の魔力を破滅的エネルギーに変えて放つ。
「そう連発はできないけど、その分威力はお墨付きよ!」
この守備役を無視する超威力の攻撃の連打は砲筒と守備役、両方に絶大なダメージをもたらして、蠍姫の出鼻を挫くことに成功したといえた。
アマリリスと対峙する蠍姫はこれに苛立ちを隠そうとせず、舌を鳴らした。
こうして十分な注意を北側部隊が引きつけたところで、西の森に潜んでいたメンバーが行動を開始する。
南側の退路を塞ぐように移動した挟撃部隊が、戦場へと介入。同時に西と東に残された警備部隊が射撃による攻撃を開始した。
「両端からの攻撃かい!
いや……主力の数が少ないねぇ……だとすれば――
お前達、南からも来るよ! 森と川は無視しな!
砲筒一つ無事ならそれでいい、近づく奴から各個に撃破しな!」
蠍姫の判断は素早かった。北側主力の攻撃を基準とし、それに満たない東西からの攻撃を無視し、南北の挟撃への対応に人員を割く。
(さすがは傑物というところか。対応が素早い……だが、後手に回る対応で守り切れると思うな――!)
四面楚歌の状況にあって、見事な判断と舌を巻くしかないが、戦況はイレギュラーズに分があった。
南から接敵するイレギュラーズの合流を持って、戦いは砲筒破壊を巡るものとなっていく。
●破壊への道筋
「悉く、ぶち壊すであるよ――!」
南側部隊で誰よりも早く戦場に突撃したのはボルカノだ。
南側に配された砲筒を見つけるや否や、守備役を振りきり肉薄、強烈な一撃を叩き込む。目論見としては砲筒に状態異常を付与したいところだったが、残念ながらこれは通らない。しかし、通らないことも計算済みであり、すぐさまその装甲を打ち破る気功爆弾へと攻撃を切り替えた。
「ねぇねぇ。ルアナと遊んでよ!」
信念の鎧纏うルアナが砲筒の周囲に備える盗賊達の注意を引く。これが思いの外機能し、多くの盗賊を砲筒から引きはがすことに成功する。
しかし、それは同時にルアナの耐久力との勝負になることを意味する。防御を集中し、一秒でも長く持ちこたえる立ち回りを見せる。
砲筒周囲の護衛を引きはがしにかかるのは雪之丞も同じだ。
「邪魔立てはさせませぬ。
阿――ッ!!」
砲筒の護衛に対し、全身全霊の大喝が響く。物理的破壊力を持った衝撃波が砲筒を庇っていた盗賊を吹き飛ばし引きはがした。
だが、盗賊達も対応が素早い。護衛が離れたとみれば別の者がスイッチし護衛に取り変わる。離れたものが今度は前衛に出てきて攻守を交代する。三十名という人数をフルに活かした戦術だ。蠍姫指揮の下高い連携力が窺える。
闇に紛れる黒服で砲筒周囲に混乱を齎すのはシュバルツだ。
「テメーらの思い通りに行くと思うなよ。
砲筒はここで破壊する――ッ!」
ビートを刻むかのように加速し、砲筒を守る盗賊に絶凍たる武闘を叩きつける。疾風怒濤の立ち回りは、刹那の間に複数回の行動を良しとする。
「……見覚えのある顔がいくつかいるねぇ。妙に脚の傷が疼くかと思えば――いつか会った特異運命座標の奴等かい」
得意の毒をばらまきながら戦場を睥睨していた蠍姫が、以前出会ったイレギュラーズの顔を確認し目を細める。
それに――
「厄介なのは目の前のアンタさね。天義の人間ってのは毒でも喰って生きてるのかい!?」
特殊抵抗を極めたアマリリスを前に、得意の毒が通用しないとみれば、蠍姫が毒づく。
「神への信仰あればこそです! 貴方も神へと恭順してみては如何ですか!?」
「ハッ! ごめんさね!」
毒が効かなくとも蠍姫のしなやかな脚による蹴撃は重く鋭い。特殊抵抗によるアドバンテージを持ったとしても一人では防戦に回るのが手一杯というところだ。
イレギュラーズ各人は蠍姫を正しく警戒し、その間合いには入らないように気をつけていたが、状況的にその間合いに入り込むことが多々あった。蠍姫はその状況を逃さず散毒する。
ラルフお手製の毒対策は確かに機能し、その効果を半減あるいはそれ以上に軽減するが、全てを消し去るというわけにはいかなかった。
その状況に対応するのはディエだ。
「ふん、休む暇も無いという奴だな。
我が暗黒の力、とくとご覧じろ――!」
恐怖を打ち払う神秘魔術を行使し自身を中心とした効果域を浄化する。ここで重要なのは、このディエのブレイクフィアーがイレギュラーズにとっての唯一の回復手段であるということだ。最大使用回数五回。ただのこれだけでこの戦いを支えなくてはならない。それはつまり短期決戦を意味していた。初手から全力攻撃を掛けるイレギュラーズはよく理解していよう。
その動き、立ち回りを、蠍姫は良く見ている。蠍姫がパチリと手にした扇を閉じた。
「――状況はかなり不利。これはキングに何をされても文句はいえないねぇ……幹部としても立場は危うくなるか」
「全く挑発に乗ってこないのも、腹が立つわね――!」
結の放つ飛ぶ斬撃を、蠍姫が扇片手に受け流す。
「――けどねぇ、そうタダじゃ転ばないさね」
「何をブツブツと――それよりも、問う。貴様ら血蛭を揃って見せていますね。
あいつと……梅泉と繋がってるわね!?」
クリスチアン、梅泉、そして鉄帝。疑惑を持つアマリリスの問いに、しかし蠍姫がしかめ面で鼻を鳴らす。
「ふん、誰さね。そいつは」
「しらばっくれないで!
貴方たち、一体どういう繋がりよ!! 応えろ、蠍の姫君!!」
「ハッ! キングが誰と繋がってようがそんなモノに興味ないさね!
よしんば知っていたとして、言うとおもうかい!?」
東洋めいた深いスリットの入ったドレスから蠱惑的な脚を覗かせる蠍姫が、尋常ならざる速度でアマリリスに肉薄し上段回し蹴りをアマリリスの整った顔目がけて放つ。辛うじてブロックするものの大きく体勢を崩したアマリリス。彼我の距離が一呼吸分開いた。
戦場を見やれば、二つの砲筒がイレギュラーズにより完膚なきまでに破壊され、残り一つも時間の問題だった。
蠍姫は冷静にその状況を俯瞰し、そしてイレギュラーズ達が考えに及ぶより先に判断を下した。
「作戦中止さね! 蠍の尾を切りな!」
まだほとんどが戦闘態勢にある盗賊達が、蠍姫の一声に、即座に動きを変える。
懐より取り出した液瓶を飲み干す。幾人か倒れている盗賊もいたが、その者達の分は近くのものが取り出し地面に叩きつけて割った。
「――判断が速すぎる」
これから起こることに目算のついたラダがぼそりと呟く。
ラルフも答えに思い当たり声を上げた。
「全員、神経毒に備えろ――!」
ラルフの声と同時、蠍姫が手を振り上げた。
「――やりな!」
気づいたボルカノとラダが、残る砲筒に渾身の力を籠めて最大限の攻撃を叩きつける。結と雪之丞が、手近にいる”砲弾”を持った盗賊を止めようと仕掛けた。
蠍姫の口角が上がる。
轟音と共に巻き起こる爆風が、戦場を包み込んだ。
●蠍の毒
最後の一瞬。
ボルカノとシュバルツ、そしてラダによる攻撃は残る砲筒に直撃し、これを大破せしめた。
この時点でイレギュラーズの勝利条件は満たされたと言って良い。
イレギュラーズの目算としては、砲筒を破壊し、敗北が確定した盗賊達が逃走に走ると仮定し、その追撃戦によって完全勝利を収めることを考えていたことだろう。現に幾人かは盗賊の一人でも捕まえて情報を引き出す算段にあったはずだ。
だが、蠍姫の”早すぎる”判断によってその目論見は崩れ去る。
「あっはは……逃げるときにでも”砲弾”を起爆させるとでも思ったかい?
ふん、そんな及び腰じゃ女伊達等に盗賊なんてできやしないさね」
砲弾の起爆によってばらまかれた神経毒の煙の中、痺れを引き起こし上手く動けなくなっているイレギュラーズを蠍姫が嘲笑する。
神経毒が使われる――それは想定していた事だった。
故に、ラルフは事前に持てる知識を持って抗毒剤を精製、それを全員が服用していた。その甲斐あって、即座に倒れることはない。
「……やーっぱり動けるようだねぇ。以前もしっかり対策されたさね、予想はしていたさ。
まあ完全に防げる代物じゃないさね。大幅な身体能力の低下、それだけで十分さね」
蠍姫の言うように、状況は圧倒的に悪い。戦闘行動ができるとは到底言い難い状況だ。
「健気にもマントやマスクで防ごうとしてるようだがね、まあそんな簡易的なもので防げるモノじゃないさね。肌が一部でも露出してれば、そこから浸透する代物さ」
「くっ……皆さん、動けますか!?」
唯一の例外は、突き抜けた抵抗をもつアマリリスのみ。
「拙も煙に触れてしまいました。予想していた以上に広範囲でありましたね」
煙に巻かれる直前に大喝により煙を吹き飛ばそうとした雪之丞。果たして煙りは飛ばすことに成功したが、しかし散布された範囲が超大だったが故に、一時的に凌いだにすぎなかった。
距離を離していた者も同様にその範囲に巻き込まれている。その範囲は砲弾七つで大きな街を埋め尽くす範囲だ。一つ、二つでも周囲に位置する森や川にまで至った。対応策をもたない警備兵は回避すること無く神経毒に侵されてしまった。
「まあ、噂の特異運命座標とやらだ。すぐに回復を図ってくるだろうねぇ」
「この隙に逃げるのかよ――」
それはイレギュラーズの希望であり予想。まともな指揮官であればそう選択するだろう。
だが――
「言っただろう? 逃げるときにでも起爆させると思ったかい、って」
蠍姫の美しい顔が邪悪に歪む。
答えは、この状況において最悪のモノだった。
「さあ、蹂躙の時間さね!
私ら盗賊の本懐を果たしなぁ! 奪え! 殺せ! 全てを我が物にしなぁ!」
蠍姫の恐嚇にまだ多く残る盗賊達が沸き立った。
「くっ……どうする」「イッヒヒ、こりゃ本気でやべぇな!」
「ルアナも、動かなくちゃいけないのに――!」
結の同様にズィーガーが笑い、ルアナが震える自分の足を力の入らない手で叩く。
「あ、う……痺れて術式がうまく組めん……!」
あと一、二回は使えるブレイクフィアーだが、それを上手く発動させることができないとディアが顔を歪める。
「祈りを捧げることが、こんなに上手くいかないなんて……!」
焔珠も神経毒には備えていた。対策もできているはずだったが、その効果がやはり想定を上回っていた。
(まずいな……どうにか凌がなければ……)
冷や汗を垂らしながら、しかし冷静にラルフは戦況を見定めていた。
「……自分が守ります――!」
「あはは! 一人でこの人数相手に守れるものかいっ!」
蠍姫の笑いを合図に、一斉に盗賊達が襲いかかった。
●撤退戦
蠍姫を含め二十五名程の盗賊達が残っている。
一人頭二人強の盗賊を、満足に動きが取れない中相手をすることになる。
「くっ……この、あァァ――ッ!
倒れてなるものか! もっと悲しみや苦しみを抱える幻想の人たちがいるんだから!!」
蠍姫をマーク・ブロックする立場だったアマリリスだが、その立場は逆転し、いまや蠍姫がアマリリスの行動を制限する。
砲弾の起爆を攻めに使うという、その一手によって状況は逆転した。
無抵抗なイレギュラーズに盗賊達の容赦の無い攻撃が見舞われる。
抵抗し効果が薄れるたった三十秒。しかしその三十秒は地獄といって差し支えが無い。
「あっはは! 動けない奴をいたぶるのは楽しいさね!」
「まだよ! まだ……終わるわけにはいかないのよ! 力を寄こしなさいズィーガー!」
蹂躙に結が声を上げる。
行動不能は、一瞬にしてパンドラへと縋る状態となり、それでも足らず戦闘不能、あるいは重傷を抱える形となる。
「全員撤退だ!! 目標は果たしている、今はとにかく、逃げろ――!」
ラルフの一声に、迷う間もなく全員が同意し街道を西へと逃げる。
「きゃあ――!」
盗賊達の追撃にルアナが倒れる。それをすぐさまボルカノが担ぎ上げ走る。
「重傷者は我が背負うのである。皆絶対に生き延びるであるよ!」
下卑た笑いと奇声をあげる盗賊達が背後から迫る。
「はぁ……はぁ……くっ、シュバルツ、お願い、逃げて」
最後の最後まで盗賊を引きつけるアマリリス。そんなアマリリスをシュバルツは放ってはおけない。
「バカヤロウ、一緒にいくんだよ――!」
「殿は拙が。行ってくださいませ」
意識朦朧とするアマリリスを傷だらけのシュバルツが支え、二人を守るように雪之丞が小太刀を構えた。
「逃がしやしないさね!
作戦を潰されたんだ、アンタらの首でも無けりゃ私の面子が立たないさね!」
先陣切って追撃を決める蠍姫。その周囲には明らかに異質な空間が広がっている。
「呪詛毒の類いでございますか――ッ」
アレに触れてはマズイ。然しもの雪之丞もそこで踏みとどまるという選択肢はなかった。
「無理はしないで! とにかく逃げることを考ましょう!」
「盗賊というのは、どうしてこう勢いづくとたちが悪いのか」
ラダが愚痴ったところで、背後に迫る盗賊達の勢いが死ぬことは無い。
ただひたすらに、背後から迫る死から逃げる為に、森の中を走り続けた。
それから半日が過ぎた。既に朝日は昇り、正午に近い。
執拗に追いかけてきた蠍姫だったが、或る時間になると「……時間切れさね」とぼやき、瞬時に追撃の手を止めた。
「……追っ手はこないようね」
ため息を漏らす焔珠。地面に腰を付けたまま周囲を見渡せば満身創痍のイレギュラーズが泥まみれで腰を地面に座らせていた。
「チッ……運がよかっただけだな」
シュバルツの言うように、もしあのまま追われ続けていれば――取り返しの付かない事態となっていてもおかしくはなかった。
(目的は果たせたが……想定以上の力を見せられたな――)
新生・砂蠍。そして一部隊の指揮官である蠍姫。ただの盗賊では収まらない彼女らの上に立つキング。
たかが盗賊の無茶な侵攻と思いきや、その力は予想を遙かに上回るものだった。
強大な敵を前に、イレギュラーズは自身の力不足を感じたことだろうか。
戦いは終わらない。
幻想南部に攻め入った砂蠍との戦いは、まだ始まったばかりなのだ。
「蠍の姫……いずれまた、ぶつかることもあるでしょうね」
疲労したアマリリスの呟きが、空へと昇り消えて行った。
成否
成功
MVP
状態異常
あとがき
澤見夜行です。
少し厳しめの判定で、辛うじて勝利となりました。
砲筒狙い、毒対策、挟撃の作戦はかなり良かったのですが、継戦するために必要な回復手の不在や、砲弾に対してのプレイング不足など、蠍姫が付けいる隙が多かった印象です。
勝利判定ではありますが、代償は大きかったですね。
MVPはその抵抗力で蠍姫を抑えることに成功したアマリリスさんへ。自由に動かれていたら状況はもっと悪かったでしょうね。
次回があれば、決着を付ける時かもしれませんね。
依頼お疲れ様でした! 素敵なプレイングをありがとうございました!
GMコメント
こんにちは。澤見夜行(さわみ・やこう)です。
新生砂蠍が本格的に動き始めました。
毒撒く姫が街を狙っています。作戦の阻止を狙いましょう。
●依頼達成条件
”神経毒”を撒く砲弾を四個破壊、もしくは奪う。
または、砲筒を全て破壊する。
●情報確度
情報確度はBです。
想定外の事態が起こることを覚悟しましょう。
●『蠍姫』スキラ・スロースについて
長い黒髪を靡かせる妖艶な美女。女で有りながら砂蠍の幹部にまで上り詰めた。
毒の扱いに長け、扇から毒針を放つ攻撃を得意とする。
男を足蹴にして踏みつけるのが趣味。
蠍姫については『<蠢く蠍>散毒の蠍姫』(https://rev1.reversion.jp/scenario/detail/931)をご覧ください。
反応値が高く、耐久力、EXF値、回避、特殊抵抗が高い強敵です。
蹴技を主体としながらソニックエッジとクリティカルスナイプを放つ。
また、以下の特殊攻撃を使用します。
・致死毒針(物遠扇・致死毒)
・出血神経毒(物中範・出血・麻痺)
・蠱毒(神近域・特殊毒)
特殊毒は毒無効スキル、耐性による無効化はできない。
特殊毒状態の対象は毎ターンHPを最大値の20%失う。
BS自然回復判定及びスキルによるBS回復は可能。
●『蠍姫』直轄の盗賊について
数は三十名。そのうち十名は砲弾、砲筒を背負っている。
砂蠍に所属し、その士気、戦闘能力はかなり高い。
『蠍姫』に踏みつけられるのを至上の喜びにしている。
EXF値が高く、防御技術に優れる。攻撃力も高め。
主に以下のスキルを使用します。
・ブレイブラッシュ
・ラピッドショット
・血蛭
・戦闘続行
・ブロッキングバッシュ
●砲弾、砲筒について
砲弾が七個に、砲筒が三筒。
砲弾は壊し安く持ち運びも容易だが、衝撃を与えると爆発し、神経毒を撒き散らします。
砲筒は壊れにくく重い。
砲弾、砲筒をもった盗賊達は戦闘の際、地面に下ろして護衛しています。
●戦闘地域
ヴィシュテリアに向かう街道になります。
襲撃時刻を選ぶことが可能です。
南北に街道が一本走り、北にヴィシュテリアの街があり、東に潜れる程の深い川、西に小さな森があります。
街道には遮蔽物等はなく、開けた場所での戦闘となるでしょう。
そのほか、有用そうなスキルには色々なボーナスがつきます。
皆様の素晴らしいプレイングをお待ちしています。
宜しくお願いいたします。
Tweet