PandoraPartyProject

シナリオ詳細

グルメたちのダンジョン

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●これぞ業、これぞ食!
「タイラントシメジをご存じか」
 一面黒の絨毯に座し、茶人帽を被った男。
 彼は薄緑色の茶をたてると、しずしずと盆にのせて差し出した。
 わきにカブトを置き、あぐらをかいた男が盆を引き寄せるようにたぐる。
 美しい文様と家紋が描かれた鎧からは、彼が少なくとも貴族階級にあることがうかがい知れる。
「混沌の山岳地帯。そのただなかにあるとされる幻樹の迷宮。その浅層に生息するモンスターと聞いておりまする」
 茶碗を手に取り、貴族の男はそれをじっと見つめた。
「身の丈2メートル。大人が三人がかりで抱きついてようやく届く胴回り。枝分かれしたキノコのごとくはえたぶっくりとした腕は鋼のように硬く重く、小動物などたやすく潰してしまうとか」
「然様。さすが、ヒューゲル様は博識でおられる」
 いやいや、と照れるように笑う貴族の男ヒューゲル。
「小動物を殺して喰うほか、草花も喰うことから雑食とされておりますな。それがしもモンスター研究はひとかじりした身ゆえ、その程度のことは――」
「では笠の内側2ミリが美味であることはご存じか」
「なんと?」
 びくり、とヒューゲルの手がふるえた。茶の湯が膝にこぼれるほど。
 しかしそれに気づかぬほど、ヒューゲルは目を見開いていた。
「リキュール殿、もしやそれがしの真の研究内容を……」
「おそれながら」
 茶人リキュールは手を突いて頭を垂れた。
「モンスターグルメの研究をなさっておられると」
「うむ……」
 ヒューゲルは深く深く瞑目した。
「語ってくれまいか。タイラントシメジの内笠の味を」

 茶人リキュールの語るには……。
 幻樹の迷宮に生息するモンスター、タイラントシメジ。
 巨大で豪腕なこのモンスターは、キノコめいた外見からは想像もつかぬほどに頑丈な菌組織からできている。
 ゆえに身は時として剣をはじき、煮ても焼いても喰うことができず、どころか胴にあいた大口で小動物を一口で喰ってしまうという。
 だがその巨体のうち、笠後方2ミリというほんの僅かな箇所だけが、食することができるというのだ。
 その身はほかとは比べものにならぬほどよい香りをはなち、深呼吸するだけで心の隅々まで新緑に満ちるという。
 食べ方は大型キノコのそれに準ずる。
 想像してみるとよい。
 2ミリにスライスした板状のキノコを、七輪に乗せる様を。
 ぱちぱちと焼ける音。たちのぼる香り。裏返すとほんのりとつくきつね色。
 そこへバターをひとかけのせ、醤油を一滴たらし、豪快に口へほおばってみるさまを。
 口の中にふんわと広がる味――否、もはや香りそのもの。舌先ではねる熱さのなかに、確かに存在するぐっとしたうまみ。鼻に抜けていく香りを感じた時には既に、滑るように喉の奥へと落ちている。
 ため息すら心地よい、その瞬間を。

 ごくり、とヒューゲルは喉を鳴らした。
「一口……喰うてみたい」
「つくづく、我らも業が深うございますな」

●食材討伐依頼
「そんなわけで、タイラントシメジを10体以上も狩る依頼が入ってきたのです!」
 『新米情報屋』ユリーカ・ユリカ(p3n000003)は涎をハンカチでぬぐいながら、そこまでの説明をした。
 要約すればユーリカの言うまんまなのだが、更に深く説明すると『幻樹の迷宮』というダンジョンを探索し特定のモンスターを20体倒し、特定部位をそぎ取って持ち帰るというお仕事だ。
「幻樹の迷宮は山の中にポンと出来た大樹の洞を入り口としたダンジョンなのです。
 人ひとりが入れる程度のあなっぽこなのに、下層にとーってもひろーい空間が出来ていることから、その名が付いたのです」
 中には暴れオオカミや首狩りウサギ、歩きニンジンといったモンスターがうろついている。
 中には天然の罠も仕掛けられているので、ダンジョンシーカーが活躍する場面でもありそうだ。
「依頼内容はタイラントシメジの部位10枚。それ以上手に入れたら自分で食べてもよいそうなのです。けど、外にいたずらに持ち出すとよくないそうなので、その場で食べていって欲しいそうなのです。よろしくお願いします! です!」

GMコメント

 ご機嫌いかがでしょうか、プレイヤーの皆様。
 世間は冬まっさかりではございますが、こういう時期だからこそ暖かい食べ物が美味しくなりますね。
 最近我が家ではシメジと白菜のバター炒めが流行っておりまして、シンプルにカットシメジと白菜を炒めて塩こしょうを振るのですが、これがえらく美味しいのです。

【依頼内容】
 『タイラントシメジのおいしいトコロを10枚ゲットすること』が依頼内容です。
 そのために幻樹の迷宮に入り、他のモンスターや罠を突破しながらタイラントシメジを狩りましょう。

 幻樹の迷宮は巨大な植物でできたダンジョンです。
 大小様々な部屋が複雑につながっており、
 壁には通行不能(かつ破壊不能)な魔術がかけられています。
 室内は魔法の光で照らされており光源を必要としません。
 沢山の植物に囲まれているので、もし植物と親和性があったり会話ができたりすれば進行が有利になるかもしれません。

【ダンジョン判定】
 当シナリオでは複雑なダンジョンをルール化すべく、進行するたびにダイスロール判定を行なうこととします。
 ロール内容は以下の通り

1.小動物モンスターと遭遇
 小動物モンスターたちが現われます。
 種類は以下。数はランダム。
 →暴れオオカミ(噛みつき:物至単)
 →首狩りウサギ(真空刃:物中単)
 →歩きニンジン(神近単【混乱】)
 →タマネギスプラッシュ(神中範【乱れ】)

2.自然の罠
 迷宮内に存在する罠にかかります。
 罠の探索、発見、解除に役立つ技術があるとこれを回避ないしは解除できる確率があがります。

3.タイラントシメジ発見
 噂に聞くモンスター『タイラントシメジ』を発見します。
 ちょっとだけ強いですが、力を合わせればワケないでしょう。
 「殴りつける(物近単)」「振り回す(物近列)」で攻撃してきます。
 R0~1の範囲に張り付くメンバーを1人に絞ってローテーションするのがオススメです。

【アドリブ度】
 ロールプレイをよりお楽しみいただくため、リプレイにはキャラクターのアドリブ描写を用いることがございます。
 プレイングやステータスシートに『アドリブ歓迎』と書かれたお客様にはアドリブを多めに、逆に『アドリブなし』とお書きくださればアドリブ控えめで対応できますので、ぜひご活用くださいませ。

  • グルメたちのダンジョン完了
  • GM名黒筆墨汁
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2018年02月06日 21時25分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

ジュア(p3p000024)
砂の仔
グレイ=アッシュ(p3p000901)
灰燼
クー=リトルリトル(p3p000927)
ルージュ・アルダンの勇気
A 01(p3p000990)
通称アオイ
ゲンリー(p3p001310)
鋼鉄の谷の
針金・一振(p3p002516)
狐独演劇
ミニュイ・ラ・シュエット(p3p002537)
救いの翼
セリス・アルベルツ(p3p002738)
ギルドの王子

リプレイ

●幻樹の迷宮
 小さくて暗い木のうろを通り抜ける。
 むっとするような草のにおいと土のにおい。
 目の前が真っ白になるかのような光に目が慣れれば、高い天井と広い広い空間にいることがわかるだろう。
「依頼はタイラントシメジの可食部を採取する、だったよね」
 『砂の仔』ジュア(p3p000024)は短く整った草の地面をふみふみとやってその感触を確かめた。
「こういう奴らを食そうとした最初の人は何を考えていたんだろうね?」
 頑丈な木で覆われた壁を杖でこつこつと叩く『灰燼』グレイ=アッシュ(p3p000901)。
「可食部は2ミリだって? 随分と手間のかかる食材だ。それに見合った美味しさがあると信じよう」
 空間はまるで太陽がさしこんでいるかのように明るく、よく目をこらしてみれば天井にさいている花が魔法の光を発してた。
 『通称アオイ』A 01(p3p000990)はしばらくぱちぱちと瞬きをして、目をならししていく。
「働かない人の事をニートっていうって教わった。だから僕、ニート。おなか空いたのでタイラントシメジのおいしいとこのーひんするお仕事受けた。そして余ったら食べる。これでニート卒業?」
「ま、そうなるね」
 造形の美しいナイフをまじまじと確認すると、『狐独演劇』針金・一振(p3p002516)はそれをホルダーに差し込んだ。
「数的に持って帰れないのが残念だけれど、せめて美味しく戴こうか」

 フクロウのような翼を畳み、目を瞑って耳を澄ませる『応報の翼』ミニュイ・ラ・シュエット(p3p002537)。
 それこそまさにフクロウのごとく、ずっと遠くで虫が歩く音だって聞こえているかもしれない。
 最初の捜索をミニュイに任せ、『ルージュ・アルダンの勇気』クー=リトルリトル(p3p000927)は二本足で軽くぴょんぴょんと跳ねてみた。いつもの八本足ほど巧みではないが、ダンジョン探索には充分そうだ。
 暫くすると、エコーロケーションと超聴力で周囲の地形探索を終えたミニュイがさらさらと簡単なマップにおこしていく。
 大小様々な部屋が入り組み、その全てを頑丈な木が阻んでいるという構造らしい。
「凄いなぁ、ほんまに迷宮みたいや」
「岩や土の洞窟ならよかったんじゃが、こういうのは居心地が悪い。明かりがいらないのが便利じゃがの」
 『鋼鉄の谷の』ゲンリー(p3p001310)は自分の髭をぐいぐいと撫でると、ルートの相談を始めた。
 一方で、組んだ両手でぐっと背伸びをする『ギルドの王子』セリス・アルベルツ(p3p002738)。
「タイラントシメジの美味しい所……良い商材になるかも知れない」
 人生に無駄なことなんてひとつもない。セリスはハンマーを掴み上げ、ぐっと気合いを入れ直した。
 さあ、楽しいダンジョン探索の始まりである。

●自然の罠
 知識がないのでよく分からなかったが、どうやら幻樹迷宮の中には沢山の罠が仕掛けられているらしい。
「これを見てみろ。小動物が罠にかかっておる」
 長い棒で草をかき分けていたゲンリーが、既に発動し終えた罠をさして言った。
 もしかしたら近くに罠があるかもしれん。
 そう語るゲンリーを一旦引き下げて、ジュアが注意深く周囲を探索し始めた。
「ん……これかも」
 器用に指先の感覚で罠の様子を探り、ちょっとした道具を使って罠を殺していく。
「もう大丈夫だよ。ここは通れる」
 迷宮の罠は侵入者を拒むためというより、たまたま通りかかった誰かをとらえるためにあるような印象だ。壁の木がそのまま発展するような形で、かなりランダムに発生していた。
「…………」
 淡々と周囲の警戒にあたるA01。
 どうやら彼は昔、指示を受けて動くのが普通だったようで、自分の意志で判断して動く状況でどうしていいかわからなくなることもあったようだ。
 ジュアやゲンリーたちはそれを察して、後方から警戒をして戦闘に入ったら敵を攻撃するようにと教えてくれた。
 A01はどうやらそれを理解したようで、同行する人たち(『仲間』)の後ろについて冷静に行動していた。
 そんなA01――そしてミニュイがハッとした様子で振り返った。
「敵だ」
 仲間に伝えた時には既に戦闘姿勢に入っていた。
 物陰から現われた歩きニンジンの集団。
 そこへ、A01はすかさず射撃を開始。ミニュイも翼をばっと広げると、羽根を矢のようにして次々に発射した。
 こちらへ駆け寄る前に半数ほどが打ち倒されて転がる歩きニンジン。ギリギリの所でギエエという恐ろしい叫び声をあげた。
 反対側から首狩りウサギやタマネギスプラッシュが飛び出してくる。
 ゲンリーやジュアがそれぞれの武器で応戦を開始。
 一方で、反対側からの接近にいち早く気づいた一振はナイフを抜いて攻撃へと移っていた。
 ウサギが真空刃を飛ばしてくるが、それをナイフで防御。素早く距離を詰めると、ウサギの身体にナイフを走らせた。
 ウサギの動きが大きくブレる。一振が今だよと仲間に合図を送ると、クーは真珠のネックレスをしゃらんと鳴らした。
 まるで水の泡でも吹き出すようにして魔力を生むと、それこそ水流を押し出すようにして投げる。
 魔力の泡が大量にウサギへぶつかり、ばちばちとはじけた。
「隙ありです」
 その様子に慌てたタマネギスプラッシュ。セリスはここぞとばかりに近づいて、ハンマーによる大胆な攻撃を繰り出した。
 と同時に自らをはじけさせるタマネギ。
「あぁ! タマネギが目に来ますっ!」
 涙の出そうな顔でうあーといってのけぞるセリス。
 グレイはその隙に魔術を練り上げた。
 かつての力にはてんで及ばないが、今このときにおいては十分な魔力だ。
 それをうねうねと絡まった木のような杖に集めると、テニスボールを打ち出すような優雅さで発射した。
 タマネギに直撃。今度こそ完全にはじけ飛ぶタマネギ。
 うわーといって目を覆うセリスに笑いかけ、布で簡単に顔をぬぐってやる。
 その一方……。
 クーが倒れたウサギを観察するようにかがみ込んでいた。
「この子らは食べられへんのかなあ。倒したっきりほっとくのはもったいないわぁ」
「確かにね」
 一振も同じような考えをもったのかウサギ肉を調理する方法を考えてみた。
 ちょっともきゅっとしたお肉を火で炙って食べれば、それはきっと美味しいだろう。モンスターのお肉がどの程度のものなのかはわからないが……。
「大丈夫だ。火を通して調味料をかければ、大抵のものは食べられる」
 なんか豪快なことを言うミニュイ。
 既に歩きニンジンを回収しはじめていた。
「とはいえこれらを抱えて歩くのはつらいのう……」
 ゲンリーがなにかしようかなと考えた所で、ジュアが大きな布に包んで背中にとんと背負って見せた。
「うん。このくらいなら、戦ってても荷崩れしないよ」
「便利ですねえ」
 (商売にも)便利そうだなあという顔でジュアのまわりとくるくるまわって観察するセリス。
 その一方で、先程罠にかかっていた動物をグレイが助けていた。
「うん……」
 なんだか見たことのない小動物だったが、グレイになんどか鳴き声をあげるとたかたかとどこかへと走り去っていった。
「このあたりの動物は賢いね。今、罠の少ない道を教えて貰えたよ」
 行ってみようか。そう問いかけるグレイに、A01はこくりと頷いた。

 この後も、八人はそれぞれの能力を活かして罠をかいくぐったりモンスターを倒したり、時にはうっかりかかってしまった罠を解いたり。
 それがずいぶんと続いて、タイラントシメジはどこにいるんだろうと誰かが呟いた頃……。
「ターゲット発見」
 ついに、タイラントシメジを発見したのだった。

●タイラントシメジ
 最初のタイラントシメジは暴れオオカミたちと同時に現われた。
 といっても、タイラントシメジに戦いを挑もうとした所を狙って後ろからオオカミが襲いかかってきた形だ。恐らくはタイラントシメジに苦戦した所をおいしくいただこうという考えだろう。
 だがイレギュラーズはそんなに甘くはないようで、ジュアやセリスたちがオオカミを受け持ち、その間に一振はタイラントシメジへと張り付いた。
 ナイフによる牽制攻撃。彼を振り払おうと繰り出した腕をガードするも、衝撃でごろごろと転がってしまう。
「これはなかなか」
「しゃあない、交代や!」
 転がってきた一振をキャッチしてライトヒールの治癒魔術を詠唱するクー。
 その間にゲンリーが突撃し、タイラントシメジの巨体と正面からぶつかった。
「むっ……!」
 彼の斧がタイラントシメジの頑丈な菌組織にがっつりと食い込む。それを逃さぬように、ゲンリーは腕や足を踏ん張った。
「今じゃ!」
 呼びかけたのは後方――ではない、側面に回り込んでいたミニュイである。
 タイラントシメジの柔らかいところを狙って、研ぎ澄まされた羽根の一撃を放ったのだ。
 まるでライフル弾のように力強く突き刺さった羽根にタイラントシメジは思わず転倒。
 ここぞとばかりに飛びかかった一振がナイフを突き立てたところで、タイラントシメジは動きをとめた。
 こりこりと可食部をきりとる。
 それを見つめて、クーはぐっとガッツポーズをした。
「よっしゃ、一枚ゲットや!」

 要領やコツがあったのだろうか。一匹見つけるとあとは調子よくトントンとタイラントシメジに遭遇できた。
 他のモンスターが襲ってきたり、戦闘中に罠にかかってしまったりということもたまにはあったがうまい具合に対処ができた。
 そして――。

「次でノルマ達成だ。そっちは任せた」
 襲いかかってくる首狩りウサギの群れを迎撃しつつ、ミニュイや一振たちが時間を稼ぐ。
 その間に、ジュアが豪快な四つ足走行でタイラントシメジに体当たりを仕掛けた。
 いかなタイラントシメジの巨体といえど、勢いよくタックルを浴びせれば平気ではいられないらしい。
 なんとかジュアをはねのけようと腕を振り上げた。
 その腕めがけてライフルでの銃撃を打ち込むA01。
 タイラントシメジは大きくふらつき、その場に転倒した。
 なんとか起き上がろうとするタイラントシメジに、グレイが大量に生み出した魔法の弾を次々に撃ち込んでいく。
 闇雲に振り回した腕がジュアにぶつかり、ジュアが派手に転倒した。
 起き上がるのはどちらが先か。
 いや。どちらを待つ必要も無かった。
 勢いよく飛びかかったセリスが、大上段に振りかざしたハンマーをタイラントシメジめがけて叩き付けたのだ。
 ごっすんという鈍い音と共に、タイラントシメジの腕から力が抜けた。
 ふう、と息をついて額をぬぐうセリス。
 タイラントシメジの可食部を切り取ると、それを高く翳した。
「これでノルマ達成ですね」

●タイラントシメジのあぶり焼き
 あんまりにいい香りがするものだからその場で食べちゃいたくなるが、そこはダンジョンのど真ん中。
 お腹いっぱいになったところを襲われてオオカミのご飯になるなんてゴメンである。
 八人はダンジョン探索を切り上げ、幻樹の迷宮の入り口にあたる場所まで戻ってきた。
「ここなら敵も来ないじゃろう」
 そう言って火をおこすゲンリー。
 ジュアが背負っていた荷を下ろした。
「まずはタイラントシメジを焼くの?」
「それもいいが、折角集めてきたのじゃ。肉や野菜もとらねばもったいない」
「おっ、こっちも料理するんやな?」
 待ってましたとばかりに駆け寄ってくるクー。
 ミニュイたちは首狩りウサギを普通にさばくと、ごく一般的な調理法を試してみた。
「このダンジョン、美味しそうな敵ばかりだったからね。食べない手はない」
 では折角ということで、手に入れたモンスター食材によるお料理を始めることにしよう。

 『僕は料理なんてできないよ?』と堂々と言ったグレイを筆頭に、特別料理が得意な人がいたわけでもなかったが、バーベキューキャンプの原理でみんなで一緒に作ればなんとかなるものである。
「まずはニンジンの食べられない所を捨てようね」
「手足はダメそうだね。真ん中は普通に美味しそうだ」
 ジュアとグレイが刃物を使ってニンジンのあちこっちを落としていく。
 毒とかあったらいけないので葉っぱは捨てて、ちょっとだけ舐めて変な苦みや酸味がないか確かめる。
 このとき分かったことだが、歩きニンジンは不思議とジューシーでほんのり暖かく、そして深い甘みを持っていた。このまま無限にコリコリ食べられそうな気がするくらいだ。
「ああっ、またタマネギが……! でじゃびゅー!」
 目を覆ってうわあとのけぞるセリス。タマネギの皮むきだ。
 淡々と外側の皮をむくA01だが、気づくとほぼなにも無くなっていた。
 これは一体どうしたことだろうという顔で振り返ると、セリスが『タマネギは外側のちょっとしたところだけむけばいいんですよ』と教えてくれた。
 一方でウサギの調理にかかるミニュイとクー。
「お魚さばくんとはだいぶ違うんやなあ」
「基本は一緒だよ。食べられない所を捨てる」
 お肉部分だけをとると、すぐさま熱した鉄板の上にのせた。
 質のいい油を多く含んでいるらしく、乗せた途端にじゅわっと小気味よい音がする。
 そうしている間に、一振とゲンリーはタイラントシメジの調理にかかった。
 ぺらぺらだし、なにより数が限られている。一人一枚くらいと考えて丁寧に焼いていくことにした。
 さて、そうしている間にも肉野菜の調理は進んでいる。
 一振が持ってきたバターを熱した鉄板に引いて、そこへ刻んだニンジンとタマネギを順に入れて炒めていく。
 別枠で焼いていたウサギ肉も投入し、充分に火が通ったかなという所でトドメとばかりに醤油をかけた。
 ふわっと吹き上がるように広がる香りに、思わず深呼吸をしたくなるもの。
 そうこうしている間にタイラントシメジのあぶり焼きも完成した。
 お皿に並べ、八人はそれを囲み、誰からとも無く手を合わせた。

「う、薄いなあ。ほんまに美味しいんかなこれ」
 クーはタイラントシメジを一枚手に取り、いぶかしげに眺めた後おもいきってぱくりとやった。
 宇宙。
 とだけでは伝える努力が足りないというもの。僭越ながら、つたない文章能力で精一杯お伝えさせていただきたい。
 まずクーが感じたのはグッと強い歯ごたえだった。
 たかだか2ミリのぺらぺらとした板。箸でつまめばくにゃんと曲がるような物体だ。しかし歯で噛み千切ろうとした時に弾力で抵抗し、その際にじゅわっと何かがしみ出した。
 なんだ? 疑問はすぐに味覚が応えてくれた。濃厚なだし汁というべきか、タイラントシメジに含まれるうまみ成分グアニル酸が口内へあふれんばかりに広がったのだ。
 頑強な菌組織は外からの攻撃から身体を守るだけでなく、豊富な栄養素を外に逃がさぬように閉じ込めていたのだ。
「おいひーい……」
「こっそり持って帰りたい……」
 表情をとろーんとさせるクーやセリス。
 彼女たちだけではない。皆大小の違いはあれど、タイラントシメジの味わいにしばし浸っていた。
 勿論、美味しいのはそればかりではない。
 歩きニンジンとタマネギスプラッシュ、そして首狩りウサギの肉で作った肉野菜炒め。
 ほんのりとバターをきかせたが、それが最初からいらなかったのではと思うほどコクの強いウサギ肉。
 舌に乗せた時にはしゅわっととける油と、真空の刃を発生させるほど強靱な筋肉組織の歯ごたえ。
 一方で歩きニンジンは行動に必要なカロリーを体内にため込んでいるのか、深い甘みを備えている。さらにタマネギは攻撃に使われる体液に多少のクセをもつものの、独特のアクセントとなって料理全体の味を引き上げてくれた。
 普通に作っただけなのにめちゃくちゃおいしかった。
 一同ははふーと深く息をつき、ある意味この依頼における最大の報酬に浸ったのだった。

 かくして、イレギュラーズたちはタイラントシメジの可食部10枚を持ち帰り、依頼主へと届けた。
 勿論報酬もちゃんと支払われたが、その希少さから市場にほとんど出回らないタイラントシメジを食したという経験もまた、彼らの大きな報酬となったことだろう。
 そしてこんな風にも考えられるかもしれない。
 もっと美味しいモンスターが、この世にはいるのかも……と。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

 お帰りなさいませ、イレギュラーズの皆様。
 タイラントシメジのお味はいかがだったでしょうか。
 この世界には沢山の種類の生物が生息しておりますが、それは同時に沢山の食材が生きているということでもございます
 無辜なる混沌(フーリッシュ・ケイオス)で色々な依頼を受けていればいずれまた、こんなふうに珍しい食材に出会うこともあるかもしれませんね。
 その時はまた、お土産話をしてくださいませ。
 心より、お待ち申し上げております。

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