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シナリオ詳細

<終焉のクロニクル>憤怒の黒炎

完了

参加者 : 10 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 終焉、影の領域或いはラスト・ラスト。世界を滅びに導く魔種たちの総本山。
 その地でかの泥濘は蠢いていた。知能もなく、ただ世界を滅ぼさんという本能に従って動いた結果、覇竜に零れた断片も、傭兵の砂漠を覆わんとした断片も、深緑の魔女に導かれた断片も。いずれもイレギュラーズという敵によって滅ぼされた。
 肉体的には離れた断片ではあるが、魔力的な繋がりによってその事は把握している。いや、させられたというべきか。断片の感じた痛みは本体にも届いていたのだ。
「ユルサナイ……! ユルサナイユルサナイユルサナイ!!」
 蠢く泥濘は憤怒の魔女に触れた得た唯一の感情――怒りに身を焦がしながら激しく全身を蠕動させていく。
 元々は小さな個の集まりだったそれは、怒りの炎を放ちながら融け合い明確な形となっていった。これまでは例え一部が死滅しても全体が健在であれば無事でいられたが、こうして形を得ればそうもいかない。だが、泥濘は自らこの選択をした。
 本能で感じ取っていたのだ。このままでは勝てないと、より大きな力を得るにはこれしかないのだと。
 全ては自身の敵であり痛みを与えたイレギュラーズを滅ぼすため。
 黒く粘着質の巨大な湖のようだったそれは、蠢くほどにその体積を減らし、そして滅びの密度が高まっていく。

「…………イレギュラーズ! コロス!!」
 やがてそれは形となった。
 ワイバーンを思わせる亜竜の体躯。その背から伸びる翼の間――人間で言う肩甲骨の間辺りからは幻想種の女性を思わせる人の上半身が生えている。
 不定形だったこれまでとは異なり、明確な形を得たそれは身体というものに不慣れなのか、まるで生まれたての赤子のようにふらついていたのだが、それも少しの間のこと。
 すぐに感覚を掴むと、しっかりとした足取りで大地を踏みしめ翼を広げ終焉の空へと飛翔していく。
 憤怒の向かう先の一つ――深緑へと繋がるワーム・ホールは閉ざされこちらから向かうことは出来ない。であるならば、滅びが満ちるこの領域の中にありながら希望の可能性が集いつつある場所へ向かうべきだろう。
 産声を上げたばかりの魔は、暗雲立ち込める空を矢のように突き進む。


「遂に、その時が来るでごぜーます」
 空中神殿のざんげから届けられた最悪の報せに世界が激震した。
 混沌の滅びを決定づける神託。Case-Dとも呼ばれる滅びの概念そのもの。それが完全に現れれば混沌のみならず、混沌に連なる全ての世界が消滅してしまうことになる。
 そうなる前に、なんとかしてCase-Dの顕現を阻止しなければならないのだが、その”なんとか”が困難を極めるのは想像に難くない。
 ざんげによると、Case-Dの出現予測地点は魔種たちの本拠地である終焉の中心。全ての魔種の頂点に立つイノリの座する影の城。
 だがやらねばならない。それが出来なければ混沌が滅びてしまうのだから。
「……影の領域、影の城のイノリ達を倒し、Case-Dの顕現を回避して下せーでごぜーます」
 無理難題を押し付けるようで心苦しいのだろう。苦渋に満ちた表情で絞り出すようにそう言ったざんげに、イレギュラーズは応える。
 影の城を攻略し、必ずCase-Dの顕現を阻止して見せると。
 幸いにも、世界各地に現れたワーム・ホールはまだ残っている。これまでは終焉勢力が戦力を送りこむことに使っていたが、それはつまり逆行すればこちらから終焉の本拠地へ直通で行けるということである。
 来たる決戦へと向けて戦いの準備を整えてイレギュラーズは、遂に終焉へと足を踏み入れるのだった。

GMコメント

●ご挨拶
本シナリオを担当する東雲東です、よろしくお願いします。
遂に幕が上がった最終決戦です。待ち受ける敵も強大ですが、皆さんであれば打ち克つことが出来るでしょう。
健闘を祈ります。

●目標
 終焉獣の全滅

●ロケーションなど
 終焉勢力の本拠地、影の城です。
 西洋風の巨大な城で内装も豪華ですが、全体的に薄暗くどこか不気味な気配を漂わせています。
 皆さんはこの城の攻略を目指す途中で、庭園となっている区画に出たところからスタートします。
 なにやら強力な魔の気配を感じて空を見上げてみれば、巨大な怪物が上空より舞い降り整えられた植栽を踏み潰しながら着陸してきました。
 城の攻略には庭園を抜ける必要がありますが、この怪物を倒さなければそれも出来ないでしょう。
 城の攻略を行うため、目の前の障害を排除してください。

 なお、戦場は怪物の出現によって荒れた庭園です。広さは十分で戦うには問題ないでしょう。
 また、罠の類も無いようです。

●エネミー
・終焉獣『ラグナ・キメラ』×1
 元々は終焉のいずこかにいたアメーバのような寄生型終焉獣の群体でした。
 知能もなく本能のままに動き、その際に零れ落ちた断片がワーム・ホールを通じて混沌各地に散ったり、或いは強力な存在に導かれるようにして現れたりして、その近くに居た者へと寄生し暴れていましたが、その悉くがイレギュラーズによって制圧されてしまいました。
 終焉にいた本体もそれを感じ取っていて、魔女ファルカウに触れた断片から流れ込んで来た憤怒の感情もあって、イレギュラーズという存在に対して強い敵意を宿した終焉獣は、小さな個の集合体から巨大な個へと体を作り変え、影の領域へ足を踏み入れたイレギュラーズに襲い掛かります。

 外見としては、ワイバーンとその背中から生えた人間(幻想種の女性)の上半身で、人間部分の腕は樹木のような質感をしておりワイバーン部分に見劣りしないほどに巨大化しています。
 またその全てが漆黒に染まっています。
 これまで断片が寄生してきたもの・人の情報を取り込んで粘土細工のように一つに合わせたようなもので、歪な気持ち悪さを感じる人もいるかもしれません。
 人の情報を取り込んで知能を獲得していますが、小学生の低学年程度でしかなく、さらにその全てがイレギュラーズへの怒りに染められています。

 ステータスは外見通りの非常に高い物理・神秘攻撃を備え、堅牢な鱗や甲殻も高い防技として扱われます。半面、巨大さゆえに反応や回避は低めとなっているようです。
 【飛行】が可能であり、ワイバーンの頭部が放つ強力な黒炎のブレスは【火炎系統】のBSを付与する可能性があるほか、鋭利な爪や牙による攻撃には【出血系統】のBSを付与する可能性があります。
 また、一部の強力な攻撃には【防無】や【必殺】が備えられているでしょう。
 加えて【火炎無効】を所持しているようです。

 断片を通して得たこれまでの戦闘情報を参照し、イレギュラーズ側が使用していた一部の有用そうな戦術も取り込んでいるようです。

・終焉獣『ラグナ・エント』×1
 『ラグナ・キメラ』となった寄生型終焉獣が、変化の際に余った部分から作った配下です。
 枝が腕に、根が足の役割を果たして動き回れるようになった樹人型終焉獣です。
 非常に高いHP、防技、抵抗、EXFを持ちますが、動きは鈍重で反応や回避は低くなっています。
 広範囲へ【怒り】を付与したり仲間をかばったりして自分に攻撃を引き付ける防御役のようです。
 【再生】や【充填】もありしぶとくはありますが、攻撃能力はほとんどありません。
 ただし、【毒系統】【窒息系統】といったBSを付与してくる可能性はあります。
 また、【火炎無効】を所持しているようです。

・終焉獣『ラグナ・ハーピィ』×1
 『ラグナ・キメラ』となった寄生型終焉獣が、変化の際に余った部分から作った配下です。
 腕が鳥の翼となった人型(飛行種)の終焉獣です。
 非常に高い反応、回避、EXAを持ち、【連鎖行動】で『ラグナ・キメラ』と『ラグナ・エント』を引っ張ります。
 【邪道】を含め物理攻撃も高いようですが、その分だけ打たれ弱くなっているようです。
 近距離攻撃が主体ですが、【移】を含む遠距離貫通攻撃も備え戦場全体を縦横無尽に【飛行】するでしょう。
 体から電撃を発することも出来るようで、一部攻撃には【痺れ系統】のBSが付与される可能性があります。
 また、【火炎無効】を所持しているようです。

●友軍
 イレギュラーズと共にワーム・ホールから影の領域に侵入した友軍が数十名ほどいます。
 イレギュラーズの敵となる魔種や終焉獣は上記のエネミー3体のほかにも多数存在しますが、彼らが抑えてくれているので乱入してくる可能性は低くなっています。
 複数の国による混成部隊ですが、今は混沌全体の危機であるため国同士のいざこざは持ち込まず、Case-D顕現阻止のために一致団結しており士気も高くなっています。
 なお、友軍の指揮はブランドン(天義編で弊シナリオに登場した天義の高位司祭NPC)が執っているようです。天義での戦いでイレギュラーズに恩義を感じているため、なんとか力になりたいと駆けつけました。
 なにか要望があれば可能な範囲で叶えてくれるかもしれません。
 また、EXプレイングで関係者の登場をご希望の場合、こちらの友軍に入っている扱いとすることも可能です。

●『パンドラ』の加護
 このフィールドでは『イクリプス全身』の姿にキャラクターが変化することが可能です。
 影の領域内部に存在するだけでPC当人の『パンドラ』は消費されていきますが、敵に対抗するための非常に強力な力を得ることが可能です。

●名声に関して
 このシナリオでは、幻想にあるワーム・ホールから影の領域へ向かうため、名声は【幻想】に加算されます。

●サポート参加
 解放しています。
 シナリオ趣旨・公序良俗等に合致するサポート参加者のみが描写対象となります。
 極力の描写を努めますが、条件を満たしている場合でも、サポート参加者が非常に多人数になった場合、描写対象から除外される場合があります。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はCです。
 情報精度は低めで、不測の事態が起きる可能性があります。

  • <終焉のクロニクル>憤怒の黒炎完了
  • GM名東雲東
  • 種別EX
  • 難易度HARD
  • 冒険終了日時2024年04月06日 22時05分
  • 参加人数10/10人
  • 相談7日
  • 参加費150RC

参加者 : 10 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(10人)

彼者誰(p3p004449)
決別せし過去
斉賀・京司(p3p004491)
雪花蝶
ライ・リューゲ・マンソンジュ(p3p008702)
あいの為に
ルーキス・ファウン(p3p008870)
蒼光双閃
ファニアス(p3p009405)
ハピネスデザイナー
祝音・猫乃見・来探(p3p009413)
優しい白子猫
イズマ・トーティス(p3p009471)
青き鋼の音色
形守・恩(p3p009484)
柳暗花明の鬼
Я・E・D(p3p009532)
赤い頭巾の魔砲狼
ルブラット・メルクライン(p3p009557)
61分目の針

リプレイ


 混沌各地に開いたワーム・ホール。本来ならば一方通行のそれが、奇跡的に通行可能となった。その事実に世界は団結し、終焉の最深部に聳える影の城への直接攻撃を決定した。
「そろそろ階段が終わるね……!」
 ワーム・ホールを抜けて辿り着いた影の城。その迷路のように複雑な回廊をいったり来たり、階段を上ったり下りたりしながら進行を続けると、先頭を走っていた『赤い頭巾の魔砲狼』Я・E・D(p3p009532)が今駆け上がっている階段の終端を見た。
「これは……庭園?」
「一番奥にはまだ到達できないみたいだね……」
「次の道は……ちょうどこの庭園を挟んで向こう側のようですね」
「ならば突っ切るとしよう」
 Я・E・Dに続いて階段を上り切った『ハピネスデザイナー』ファニアス(p3p009405)が広がる景色を見渡して呟く。城の規模に見合った巨大な庭園は、平時であれば素直に見事な物だと褒めても良かっただろう。しかし、場所柄ゆえか、陰鬱で不気味な印象を拭いきることが出来ない。
 そしてなにより、のんびりと庭園の景色を見ている余裕などない。
 視界が開けたので『祈光のシュネー』祝音・猫乃見・来探(p3p009413)が行く先へ視線を向ければ、まだ城の中ほどと言ったところか。
 次に進むべき方向を示したのは、『あいの為に』ライ・リューゲ・マンソンジュ(p3p008702)。言われてよく見てみると、庭園を形作る生垣の合間から扉のようなものがある。
 他に扉は自分たちが通ってきたものだけ。恐らく、それが先に進むための扉であると判断すると、『61分目の針』ルブラット・メルクライン(p3p009557)の言葉でイレギュラーズは庭園へと足を踏み入れ始めた。
 と、その時だった。後方が俄かに騒がしくなってきた。
「何があった!?」
「どうやら魔種や終焉獣が待ち伏せして背後からの強襲を狙っていたようです!」
 『青き鋼の音色』イズマ・トーティス(p3p009471)の問いに答えたのは、イレギュラーズと共にここまで来ていた各国混成軍の指揮を行っていたブランドンであった。
 この騒ぎは、背後から仕掛けてきた魔種や終焉獣に応戦してのものらしい。
「後は我々にお任せください。貴方たちは前へ!」
「そうしたいのは山々ですが、どうやらそうもいかない様子ですね……」
 ブランドンの言葉に後押しされて先に進もうとするイレギュラーズだったが、自分たちの頭上を一瞬だけ過った影に気付いた『決別せし過去』彼者誰(p3p004449)が顔を上げれば、ワイバーンのような影が舞い降りようとしている所だった。
「どうやら、あちらさんを倒さねば先には進めぬようじゃのう」
 地面を揺るがすほどの巨大な衝撃が走ると、イレギュラーズの前を塞ぐように異形のワイバーンが大地に立つ。
 『柳暗花明の鬼』形守・恩(p3p009484)がじっくりと観察すれば、ワイバーンは漆黒に染め上がった竜鱗を纏い、背中には幻想種の女性を思わせる人影。騎乗しているようにも見えなくもないが、腰から下はワイバーンと融合している。
 そして、その人間体の両腕はまるで森から樹を引き抜いてきたような形状をしており、明らかに尋常の存在ではないことが伺える。複数の生物が入り交じった姿はキメラと呼ぶに相応しい。
 さらに続けてもう一度重いものが落ちた音が響くと、そこにはエントと呼ばれる魔物に近い人面のようにも見える虚を持った樹木がいつの間にか現れており、そこから視線を上にあげれば、いわゆるハーピィと呼ばれる人と鳥の合わさったような存在が羽ばたいていた。
 鉤爪になった足で樹木の終焉獣を掴み、キメラと共に空を飛んで運んできたといったところか。
 いずれも地獄の業火の如く燃え上がる憤怒をその身に宿しており、物理的な圧力と錯覚してしまうほどの敵意が放たれている。
 上手く脇をすり抜けて先に、という甘い考えは早々に捨てた方が身のためだろう。
「未来を掴み取るため、推して参ります!」
 大気を揺さぶる咆哮を打ち破るように放たれた、『蒼光双閃』ルーキス・ファウン(p3p008870)の声にイレギュラーズも応じて、立ち塞がる敵を打ち倒すために走り出した。


 キメラ、エント、ハーピィ。この三体で最も速かったのはハーピィだった。
 羽毛から迸る雷電を纏い、大きく広げた翼腕を羽ばたかせて勢いをつけると、急降下しながらイレギュラーズに迫ったのだ。
 そして、その動きに合わせて鈍重なはずのキメラやエントも迫ってくる。
 しかし、速いのはハーピィだけではない。
「……こんな所で止まって居られないんだ、突破させて貰うよ」
 少しだけ。そう、いつもより少しだけ本気を出し、鋭い目つきとなったЯ・E・Dが手を翳す。
 一切の無駄を省き最短最速で組み上げられる魔法陣。それも一つ二つではない。空中に描かれた幾つもの魔法陣から次々と魔力の輝きが放たれていく。
 生半可防御など容易く貫くほど強烈な魔力砲撃の嵐は終焉獣たちの機先を制するには十分すぎるものだった。滅びを否定する力を帯びたそれらによって、僅かに動きの鈍ったところへファニアスたちが続く。
「それじゃあ、行こっか!」
 そう言ってファニアスがアクセルを踏み込めば、勢いよく蒸気を吹かせて車が走る。前方へ最高速で突っ込みつつハンドルを切ってドリフトを決めると、遠心力に従って後部座席に乗っていた者たちが飛び出した。
「僕たちで動きを止めている間に!」
「一撃を叩き込んでくれ!」
 両手を突き出し指先から伸びる無数の魔糸を、まるで生きているかのように操りエントとハーピィに絡みつかせた祝音が、ぐっと力を込めて開かれた手を握りこめば、刃物の鋭さを持った斬糸がその獣の体に食い込み傷痕を残す。
 さらに、続いた京司が懐から取り出した手のひらサイズの小型太陽系儀を取り出すと、それを触媒として魔術を構築する。
 エントとハーピィの足元に出現した魔法陣から竜巻によって巻き上げられた砂漠の熱砂が現れ、牢獄となって閉じ込めたのだ。
「大丈夫……神の御許にはあなたの場所もありますよ。無かったら苦情は私でなく神へお願いします」
 そんな軽口と共に拳銃を構えたライが引き金を引く。一度、二度、三度……。魔力を弾丸に変えるこの銃であれば、ライ自身の魔力が尽きない限りは弾切れなど存在しない。
 魔糸に絡めとられ、熱砂の牢獄に閉じ込められた哀れな子羊へと、容赦なく魔力弾を連射していく。
 だが、一方的に攻撃を続けられるほど容易い相手ではない。
「うわぁっ!」
「くっ!」
「一筋縄ではいきませんか……!」
 雷光を強めたハーピィが糸を引き千切ると、砂塵の檻を突き破って突撃してきた。戦場を縦横無尽に飛び回りながら、纏う稲妻を放ちイレギュラーズを焼いていく。
 特に被害が大きいのは、最前線にいた祝音たちだろうか。
「キエロォッ!」
 続けて放たれるのは、ワイバーンの口から放たれる漆黒の火球。着弾と同時に弾けて広い範囲を焼き尽くしていった。
 そして、最後にエントが眼を妖しく光らせると、近くにいた者たちはエントから目が離せなくなり、攻撃衝動が掻き立てられていく。ハーピィやキメラも脅威であり注意を疎かには出来ないと頭では分かっているにも関わらず。
「早く立て直さないと……!」
 こういった搦め手に強い祝音はエントからの精神干渉を跳ねのけ、冷静でいられた。さっと仲間の様子を見れば、同じように精神干渉を防げたのは二人か。
「はぁああああ!」
「不味いですね……!」
 衝動に駆られて突撃を敢行したルブラットがエントの幹へと触れると、そこから闘気を送り込んでエントの体内で幾度も炸裂させる。
 最初にエントを攻撃するのは作戦通りだから構わないが、余りにも攻めに意識が偏り過ぎている。これでは集中砲火を受けてしまう事だろう。
 すぐにエントの魔力の影響から免れた彼者誰が守りを固めてルブラットを庇える位置へ動くと、ルブラットの代わりに終焉獣からの攻撃を一身に受け止めた。
 しかし、いくら守りに秀でる彼者誰といっても、この集中砲火には長く耐えることは難しい。
「~♪」
 そこに響き渡るのはイズマの歌声。戦場に響く魅惑の美声には癒しの魔力が宿っており、仲間たちの魔力を賦活すると共にエントに捕らわれた心を解き放つ。
「危なかったがなんとか持ち直せたな」
 宵闇を宿した細剣の切っ先を彼者誰に向ければ、その頭上に現れた光の円環から聖なる光が降り注ぎ、集中攻撃を受けて負った傷が回復していく。
「ふぅ、早々に戦線が崩壊仕掛けると思わなんだ」
「これはお返しです!」
 イズマに合わせて、正気に戻った恩とルーキスが続く。
 軍馬を駆って前進した恩が愛馬と共に暴れ回っている中へ、ルーキスも入っていく。限界まで力を込めて一撃を放つ得意技。
 右手の白百合と名付けられた白刀が鬼如き膂力で振り下ろされ、エントの強固が外殻に罅を入れると、同じ軌跡をなぞるように振るうことで秘された左の黒刀、瑠莉雛菊が同じ場所へと刃を突き立てた。
 樹木の形状こそしてはいるが、獣であることには変わりないようで痛烈な一撃に悶えるように体を悶えさせる。
「さぁて、第二ラウンドといこうか」
 相手は精強。しかし、勝てない相手ではない。そう見定めた獲物を見定めたЯ・E・Dが野獣のように舌を唇に這わせる。


 前衛では異様な硬さのエントが盾となって立ち塞がり、速度のある中衛のハーピィがその間に攻撃してかき乱し、最後に最大戦力のキメラが強力な一撃を叩き込む。
 なるほど。獣にしては考えている。ただ群れて戦うよりは、一段も二段も手強いだろう。
 だがこの戦術は、三体が揃っている状態でしか成立しえない。つまり、どこか一角でも崩すことが出来れば、そこから瓦解させることも不可能ではないということだ。
 狙うべきは、三体の中でもっとも面倒なエント。イレギュラーズの思惑は一致していた。
「悪いけど、わたしはタンク殺しなんだ。この程度の硬さだったら、何度も突破して来たよ!!」
 術式の刻まれた護符を破り捨てたЯ・E・Dが猛る。
 護符の術式が発動したことで精神力が高まったЯ・E・Dは、魔力を使わずに術の構築が可能となり、本来ならば魔力総量の限界を超えるほどの多数の魔法陣が展開されていく。
 そして、その魔法陣から放たれる一射一射全ての出力が桁違いだ。エントの幹を、枝を、根を次々と撃ち抜き粉砕していく。
 大地に根を張り傷を癒そうとするエントだが、直撃を受けた部位が凍り付いていて修復することが出来ない。
「さっきみたいにはいかないよ¶」
 エントがЯ・E・Dの砲撃を浴びている間に、ファニアスが歌声を響かせる。
 透き通った高音に聖なる力が宿り、周囲へと拡散しながら仲間の傷を癒していくがそれだけではない。その歌声を聞けば不思議と心が強くなるような気がして、心や体を縛る不調を解きほぐすのだ。
 ファニアスの歌声を背中に受けながら、祝音が練り上げた魔力を光として放つ。向かい合わせるように広げた掌。その間に生まれた三つの光球。
 力を込めて左右の掌を近付けていくと、その光球が一つに合わさっていく。
 融合した光球は鮮烈に輝きながら祝音の手の内に。
「樹のような終焉獣…無限の光に、消え去れ……!」
 Я・E・Dの砲撃を受けてぼろぼろになったエントの懐に入り込むと、両手を突き出しその光球を直接エントにぶつける。
 すると、光が弾け凄まじい破壊の力となってエントを覆っていく。だが、足りない。もっとだ。そう念じながら祝音がさらに魔力を注げば、光度は更に増して恒星の如き輝きとなってエントを飲み込んでいく。
 やがて光が収まると、エントの上半身が消し飛び無残に残された下半身も砂のようになって消え始めていた。
「よし、これで厄介な盾がいなくなったな」
「次はあの鳥ですね?」
 次にイレギュラーズが狙いを定めたのはハーピィ。仲間を斃されたことに怒っているのか、姦しく鳴きながら翼を広げている。
 何か仕掛けるつもりらしくその周囲に不穏な魔力が蠢き始めていることに気付くと、京司は素早く抜いた拳銃の銃口を向けて引き金を引き、弾丸に刻まれた術式を発動させる。
 弾丸は稲妻へと姿を変えてハーピィの翼を貫き、それによって僅かに飛行のバランスが崩れた。
 そこへ、五月雨の如く弾丸が撃ち込まれていく。自由にさせまいライの放ったものだ。これによって更に高度を堕としていくハーピィ。しかし、その狙いを挫くことは出来なかった。
「ぐぅぅ!?」
 風を纏った突撃を正面から受け止めた彼者誰だが、ハーピィの勢いは留まるところを知らず上空へと飛び上がるとさらにひと鳴き。
 立ち込める暗雲から赤黒い稲妻が降り注ぎ庭園ごとイレギュラーズを薙ぎ払っていく。
 さらに、エントが消えたことで後方から火炎放射しているだけではいられなくなったキメラが、稲妻を掻い潜りながら低空飛行で突撃すると、その勢いのままに体を捻り太く強靭な尻尾で薙ぎ払う。
「ユルサナイ! ユルサナイ! ユルサナイ!」
「許さないのはこちらも同じだよ」
 衝撃に舞い上げられたルブラットは、宙返りをして空中で体勢を整えると、白いコートを翻しその内側に潜ませていた凶刃を抜く。
 指の間に挟まれた何本かのメス。それをハーピィ目掛けて投げつける。
 鋭い刃が羽毛を斬り裂きハーピィの体へと突き刺さるが、傷としてはそこまで大きいものではなくそれだけでハーピィを倒すには至らない。
 だが、ルブラットの狙いは別にあった。
 数秒して急に身悶え始めるハーピィ。そう、ルブラットの投げたメスの刃には、複数の毒素を混ぜた特別製が塗られていたのだ。
「仕掛けるならば今か!」
 ハーピィの動きが乱れたその時、イズマの声と共に辺りに暖かな風が吹く。地廻竜の力の残滓が加護となってイレギュラーズを後押ししているのだ。
 加護を得たイズマは自身の奏でる音色を体内に巡らせ、筋肉の動きや魔力の流れの一つ一つを完璧に調律して準備を整えると、深く腰を落として構えた状態から左腕を伸ばして照準代わりにし、狙い澄ました一突きを放つ。
 その動きに合わせて切っ先から魔力の閃光が迸りハーピィを貫いた。
「私たちも続きましょう」
「うむ、撃ち落とすぞ。……とどめはそちに任せようか」
 狙撃銃のスコープを覗きながら、彼者誰が引き金を引く。驚異的な早業で弾倉に込められ弾丸を全て撃ち出し、それらがハーピィの翼や脚に当たってよろめかせると、彼者誰とは対称的にゆっくりとした動作でしっかりと狙いを付けつつ、力強く月白の和弓を引いていた恩が番えていた矢を解き放つ。
 空を切る高い音を響かせて突き進む矢は苦しみ悶えるハーピィの翼の付け根を正確に射貫き、上手く翼を動かせなくなったハーピィが地上へと落下した。
「ありがとうございます。これなら……!」
 すぐに飛び上がろうとするハーピィだがもう遅い。地上に墜ちた時点で運命は定まっていたのだ。
 背後から迫っていたルーキスが渾身の力で二刀を交差させると、ハーピィの首が撥ね飛ばされてごろりと落ちた。


 エントに続きハーピィも斃れた。しかしここまでは前座もいいところ。最大の障害であるキメラを排除せねば先には進めない。
「イレギュラーズ、コロス!!」
 人間体部分の声に呼応してワイバーンの頭が咆哮を上げ、その口腔内に灼熱の炎を燻らせる。
 来る! そう直感したイズマが号令をかけた。
「もう邪魔者はいない、一気に畳みかけるぞ!」
「当然!」
 もはや何度目になるかも分からない魔法陣の展開。まだ護符の効果は切れておらず、Я・E・Dはいくらでも撃つことが出来る。
 ドーム状に展開された無数の魔法陣がキメラを取り囲み、極低温の閃光がその背中に生えた人間体部分へと殺到した。
 巨大な樹腕で覆って防いではいるが、その守りを貫き得る威力がこの砲撃の雨には秘められている。
「もう少し、頑張ろう!」
 少しでも傷を癒そうと歌声を響かせるファニアスの声に応えて、祝音が術式を組み上げると魔糸が再び伸びてキメラを絡めとる。
「貴様等なんかに殺されない……ここで潰えるのは、僕等の敵だけだ!」
 エントやハーピィとは桁違いの大きさと力強さだ。祝音一人で抑えきるには無理がある。
 しかし、祝音に続いて京司とライも動いていた。三人で囲み、別々の咆哮から同時に仕掛ける。
「お前にはここで消えて貰わねばならん」
「美味しいお酒を楽しく飲むためにも、早く先に進みたいんですよ」
 京司の背中に広がるのは光の翼。羽を舞い散らせながら輝くそれは、味方には癒しを、敵には傷を与える。力強く羽ばたかせることで光の刃が生み出され、キメラに向かって飛翔するとその体を切っていく。
 さらに、ライの放った無数の弾丸も荒れ狂う嵐のように乱れ飛び、漆黒の竜鱗を次々と砕いていった。
「神よ、悪しき者に裁きを……」
 どこか胡散臭いライのそれとは異なる本物の祈りを捧げるルブラット。
 それに応えるように、上空の暗雲を貫き光の柱が伸びてきた。光の柱に飲まれたキメラは浄化の輝きに身を焼かれ、苦しそうに呻く。
 聖なる力は邪悪な終焉の存在を許さないのだろう。キメラの動きが鈍り、僅かだが抵抗も弱まったように感じられる。
「お前の相手はこっちだ!」
「私も忘れないでほしいものですね」
 号令をかけたイズマも攻撃に参加していた。
 走りながら細剣を突き出し、鋭く撃ちだした魔力の槍がキメラの竜鱗を貫くと、そこから不協和音が流れ込みキメラの意識を自身へと引き付ける。
 一方で足元へと迫っていた彼者誰は、自らの強固な守りを活かしてまるで砲弾のように突撃し、キメラの巨体を揺るがす一撃を叩き込む。
「このまま押し切りましょう!」
 畳みかけるべくルーキスも前進していた。その行く手を遮るようにキメラが巨大な樹腕を振り下ろすが、それを足場に駆け上がると肘の辺りで大きく跳び、空中で体を回転させながら二刀を振るう。
 その斬撃にどこか不気味な黒い気配がキメラの体内へと侵入し内側から蝕み始めると、馬に鞭を打ちルーキスと入れ替わるように突撃していた恩も踊り狂うかのようにキメラの足元であばれ、更なる打撃を叩き込んでいた。
「コンドハ……コッチノバンダ!」
 先制して総攻撃を仕掛ける事に成功したイレギュラーズだが、キメラの瞳に宿る怒りの炎が燃え尽きることは無い。巨大な樹腕を力強く地面へと叩きつければ、その先端が地中深くまで突き刺さる。
 何をするつもりなのか。そんな疑問への答えはすぐに出た。
「下から来る! 避けろ!」
 地面から伝わる振動や音で察知したイズマが声を上げるが一瞬遅かった。
 根のように広がった樹腕の先端が鋭い槍となって黒炎を纏いながら地面から無数に突き出してきたのだ。これまでの動きからも分かっていたが、見た目に違わぬ激しい攻勢にイレギュラーズの傷も深い。
 だが、ここで諦めるわけにはいかぬと歯を食いしばると、立ち向かう意思を力に変えてキメラに対峙する。


 放たれる黒炎は煉獄の炎。巨大な四肢から放たれる打撃は破城鎚の如く。
 先頭が長引くほどにキメラの怒りは激しくなり、攻め手も苛烈さを増してイレギュラーズを苦しめた。しかし、対するイレギュラーズも、これまで積み上げてきた軌跡の力を纏い互角以上に渡り合っている。
「これで最後……! 持っていけぇ!」
「グガァッ!?」
 護符の力による無尽蔵な魔力はもはやなくなったЯ・E・Dは、もうここで決めるしかないと全ての魔力を注ぎ魔法陣を再展開。
 青白い閃光が煌き、キメラの体を貫いていく。狙いはやはり背中の人間体。樹腕を盾にして防ぐのも相変わらずだが、その腕はこれまでの戦いでぼろぼろだ。
 遂にЯ・E・Dの放った砲撃がその強固な樹腕を砕き人間体に届く。
 その衝撃に苦悶の声を浮かべながら人間体の胸から上が消し飛ぶが、やはりワイバーン部分も含めて全身を破壊しなければ倒しきれないのだろう。
 依然としてワイバーン部分は激しく動き回り、イレギュラーズとの戦いを繰り広げていた。
「きっともう少しだよ、最後の一押し頑張ろうね♭」
 喉が枯れそうになるほどに歌声を響かせ続けるファニアス。それが戦線を支える一助となっていたことは間違いない。
 酷使しすぎた喉から血が出てくるがそれでも構わず歌い続け、そんな姿にイレギュラーズも奮い立つ。
「そろそろ終わりにさせて貰う!」
「こちらが地獄への切符というやつです」
「ここを通り抜けて、僕たちは破滅を止めるんだ!」
 京司の放った弾丸は術式を起動させて漆黒に染まると、竜鱗を貫きキメラの体内深くにまで食い込んでいく。それでも巨躯のキメラにとってはたいした傷ではないのかもしれない。
 しかし、京司の弾丸に仕込まれた術式が体内で花開く。込められた呪いがキメラの全身へと回り内側から蝕み始めたのだ。
 そして、深く傷つき後ろへ下がっていたライも銃弾を放っていた。これまでに使っていたものとは異なる、本来であれば対物ライフルなどで使われるような50口径。さらに、受けた傷の分だけ威力が高まる術式によって、破壊力が格段に高められているのだ。
 内側からの呪いに続き痛烈な一撃を浴びて悲鳴のような声を漏らすキメラに追撃を仕掛けたのは祝音。大きく跳躍し、両手の間に生み出した光球をワイバーンの頭部に叩きつけると同時に、追加でさらに魔力を込めて威力を高め輝く太陽のような光の爆発を引き起こした。
 頭の半分を吹き飛ばされたキメラが衝撃で体をよろめかせるが、これで怒りが臨界に達したのだろう。地面がひび割れるほどの音圧を持った咆哮を轟かせると、キメラは傷口から滴るどす黒い血を燃料にして火を付け、全身に炎を纏って飛び掛かった。
「ぬぅん!!」
 飛び掛かった先にいた彼者誰は、生半可な覚悟では止めきれないと判断し、全力でもってそれを受け止める。あまりの勢いと威力に地面を抉りながら後へと押し込まれ、灼熱の炎にも炙られることとなり遂にはその命が尽きてしまう。
 が、パンドラの奇跡によって息を吹き返すと、ファニアスがすかさず治療を行っていく。
「これは効くだろう?」
 背後に回り込んでいたルブラットが背中に飛び乗りキメラの背中へと手で触れれば、そこから注ぎ込まれた闘気が体内で炸裂し、内側から肉体を傷つけていく。
 痛みに暴れるキメラだが既にルブラットは背中から降りていた。音もなく着地すると同時に走り出し、キメラの股下を駆け抜けながらコートの裏に仕込んでいた暗器を振るう。
 竜の牙に例えられるほどの鋭い一撃が叩き込まれたことでキメラの脚は抉られ、思わぬ一撃にキメラが体勢を崩して膝を付く。
 ルブラットは即座に反転すると締めの一撃。キメラの胴体に深く刻まれた一筋の傷痕から、大量の血が溢れ出した。強力な抗凝固剤を塗布した刃を使っているため、この血が止まることはそうそうないだろう。
「最後まで悪あがきを……!」
 相当に追い詰められているのだろう。キメラが纏う黒炎が周囲へと広がりイレギュラーズを焼き払おうとしていた。だが、そんな中でさえ恩にとっては舞台の一つに過ぎないのかもしれない。
 黒炎の熱に浮かされたように舞い踊る。一見して無秩序な狂気の舞は、そのステップや振り付けのひとつひとつが呪術的な意味を込めた呪いの舞であり、その命を喰らわんと牙を剥く。
「そろそろフィナーレといこうか!」
 これまでは全体のバランスを鑑みて補助的に立ち回っていたイズマだが、ことここに至れば火力で押し切ったほうが良いだろう。
 細剣の剣身に左手を添えて鍔から切っ先へ向けて動かしながら持てる魔力を限界まで注げば、剣身に眩いばかりの白い輝きが宿っていた。
 鋭い踏み込みと共に振るわれる細剣。そして、イズマの左手にはもう一つの魔法陣。古竜の魔術によって生み出された暁の光が宿っていた。
 鮮烈な白と黄金。二つの閃光が交わりキメラの胴を深く抉る。
「合わせます。はぁああああ!」
 イズマが踏み込んだのと同時に、ルーキスも動いていた。キメラの巨大な翼に飛び乗るとその上を駆け、ワイバーンの首の付け根を狙い二刀を振るう。
 自らの体が悲鳴を上げて血を噴き出すほどの力を込めて振り下ろされた白刃と黒刃が交差し、キメラの竜鱗もその内側の強靭な筋肉すら斬り裂いていった。


 大きな音を立ててその場に倒れるキメラ。
 遂に最大の障害を取り払ったのだ、と思ったのも束の間。
「これ、まだ生きているよ!?」
 Я・E・Dの声に注意深く見てみれば、確かにキメラの体が僅かに動いている。しかし、イレギュラーズも満身創痍でありすぐには動けない。
 そんな事情もお構いなしに揺れ動くキメラの肉体。やがて、その背中を突き破って幻想種のような女性の姿が現れた。それは、Я・E・Dが消し飛ばしたはずの、ワイバーンの背に生えていた人間体とほぼ同じ姿だ。
 違うとすれば、その背中に亜竜種のように竜の翼を生やし、腕は人間サイズに縮んでいる所だろうか。その表情はやはり憤怒一色に染まっており、イレギュラーズに対する強い敵意が感じられた。
「イレギュラーズ……!」
 強烈な憎悪の感情を叩きつけるようにそう一言だけ発すると、キメラだったものは翼を広げて彼方へと飛び去って行った。
「……助かった、のかな?」
「恐らくは……」
 暫く待っても戻ってくる気配はない。
 満身創痍であったのはキメラも同じであり、まだ動ける部分を寄せ集めて体を作り変えてあの姿になったといったところだろうか。
「ひとまず、これで先へ進めるようになりましたね」
 向かうべき先を見てライが言う。
 手入れの行き届いていた庭園は、キメラとの戦闘で見るも無残な姿になっていたが気にすることは無いだろう。むしろ、生垣が崩れて反対側へと移動しやすくなったと言える。
 だが、すぐに移動を再開できないほどにイレギュラーズは消耗していた。
「負傷者はこちらへ。決して死なせはしない」
「私も手伝うよ☆」
 医者であるルブラットが率先して治療を行っていき、ファニアスもそれを手伝う。
 イレギュラーズがキメラを斃したのと前後して、後ろの友軍も奇襲を仕掛けてきた魔種や終焉獣との戦いを終えており、彼らの治療も合わせて行っていく。
「イズマさん、ご無事なようでなによりです」
「ブランドンさんも。約束通り生き残ってくれてほっとしたよ」
 戦う前に、イズマはブランドンに生き残ってくれと頼んでいた。
 激しい戦いだったようで、法衣は血で汚れてところどころ破けてもいるが、命には別条がないようで一安心と言えるだろう。
 ブランドンと話してそれぞれの状況を共有すると、可能な限り早く先へ進むためにイズマも治療に協力し始めた。
「この場はなんとか凌ぎましたが、この先にもあれと同じくらい……いやもっと強力な敵がいるのでしょうね」
「そうだね。でも、俺たちが諦めればそこで世界は終わってしまう」
 漸く一息つけるようになったことで彼者誰がそう零せば、近くで刀の手入れをしていたルーキスが答える。世界の存亡を懸けた戦いはまだこれからなのだ。
「左様。ウチらでこの世界を生かすのじゃ!」
 一休みして傷と疲れを癒し、魔力を回復させたイレギュラーズは恩のその言葉に頷くと、影の城のさらに奥。Case-Dの顕現が予測される最深部を目指して進み始めるのだった。

成否

失敗

MVP

なし

状態異常

彼者誰(p3p004449)[重傷]
決別せし過去
ライ・リューゲ・マンソンジュ(p3p008702)[重傷]
あいの為に
ルーキス・ファウン(p3p008870)[重傷]
蒼光双閃
ファニアス(p3p009405)[重傷]
ハピネスデザイナー
イズマ・トーティス(p3p009471)[重傷]
青き鋼の音色
形守・恩(p3p009484)[重傷]
柳暗花明の鬼

あとがき

お疲れ様でした。
キメラを倒しきることは出来ませんでしたが、戦闘続行が不能なくらいに追い詰め撤退させることは出来ました。
オーダーが終焉獣の全滅のため失敗という事にはなりましたが、これにより道の先へ進めるようになりました。
混沌の存亡を賭けた最終決戦、頑張ってください。応援しています。

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