PandoraPartyProject

シナリオ詳細

残光憂いの地下遺跡

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


「光幻薬? あぁ、そういやぁちょっと前に有ったな。そんなんが」
 サンド・バザールの一画、角に陣取っていた商人はそう言って水を口に付けた。
 また、別の場所では。
「あー、幻想のどっかにそんな特徴の草が生えてる丘が在るとか無いとか……聞いた事はあんな」
 場所を変え、酒場。
 店員は質問に対して、しかめっ面で炭酸と泡の溢れる黄金色のグラスを両手に握りながら答えた。
「また変な道具でも発掘されたんですか? 最近は変な穴まで出たせいで、皆お酒ばっかり! 店としては……」
 グラスを他の客のテーブルに置いて、嬉しさと心配が混じったような曖昧な声色で続けた。
「売り上げが出て良いんですけどね。見て下さいよ、あの男の人……仕事現場がその穴……何でしたっけ、あの真っ黒い穴に飲み込まれたとかで、連日ここに通ってるんですよ!」
 恐らく、穴というのは何処かの場所を指しているのではなくバグ・ホールの事なのだろう。
 バザールに点在している怪し気な商人や人々からはこれで大体訊き終えたか。
「お客さんも何か飲んで行かれます?」
「いや、今は……」
 白く流れるような髪の下で、目新しい情報が入らない事に憂いの瞳を落とす。
「人を待たせてる。また、後で」
 しかし声は凜と涼しく、騒がしい酒場でも店員の耳には良く聞こえた。
 そのままカウンター席に踵を返し。
「場所を変えてみるか……」
 『灼けつく太陽』ラダ・ジグリ(p3p000271)は、この時期にも照り付ける太陽にヴェールを被ろうか、少しだけ悩んだ。
 少々前の話にはなるが、このバザールでとある薬が出回ったという話が有る。
 薬の名前は『光幻薬(こうげんやく)』。
 かつてイザという青年が自分の妹の処方に入手した薬であり、帰路の途中に襲われ紛失し、イレギュラーズ達によって結果届けられたあの薬だ。
 その効能は風邪から不治の病にまで効くという、いわゆる万病薬である。
 そんな物が実在するのか?
 それとも口八丁手八丁で騙していただけなのか?
 真偽は判らない。
 だが、どうにもキナ臭い感じはする。
 それに、出所が自身の活動拠点となるこの砂漠地方というのも有ったかもしれない。
 故に、ラダは合間の時間を割いてこれの調査へと赴いた。
 先の救出後、イザから聞いた商人の特徴は覚えている。
 今もこの地に居るかは定かではないが……居ないとすれば、聞けるのは似た物品を売りに出している商人、又は情報を集めるならお馴染みの酒場という施設。
 どちらも有益な情報は得られなかった。
 そもそも、元の光幻薬の情報も少ないと言えば少ない。
 昼夜を問わず淡い薄緑の光を纏わせる不思議な薬。
 粉末状で小綺麗な瓶に入った、淡い薄緑の光を纏わせる物。
 主な特徴も、共通しているのは『淡い薄緑の光』という部分だけだ。
 そしてそれは、この混沌世界ではそう珍しくない特徴なのかもしれない。
 ラサ付近に限定して見れば、さて、どうだろうか。
「姉さん」
 イザの妹の病気と関連付けてみるのはどうだろうか。
 彼の言葉を今一度思い出してみる。
 妹は『日に日に固まっていくようだ』と言っていた。
「姉さん」
 単純に考えれば、石化だとか麻痺も考えられる。日に日に……時間を掛けて、という点に引っ掛かりは残るが。
 そう、イザの妹は――。
「そこのお姉さん。確か……アイトワラス商会の」
 三度目の呼び掛けに対して、ラダは日陰に差し掛かった所で足を止めた。
 自分を指して呼んでいるにしては、それまで曖昧な呼び方だったというのもあるだろう。
「光幻薬の事を訊いて回ってるって御人が居ると聞きましてね……特徴を聞いたらピンと来ましたよ。こんな美人さんだとは思いませんでしたがねぇ」
 何の用だ。と問い返すのは時間の無駄だろう。
 ターバンを巻いたその男は、自分からその用件を口にしたのだ。
「いやぁ、懐かしい響きでさぁ……あっしも取り扱ってました。最後に売ったのはどこぞの兄ちゃんでしたがね」
 敵意は見られない。今のところは。
「ちょおっと、お話しやせんかい? あの薬、探してるんなら」
 男は、ずり落ちそうになったターバンを頭の上に持ち上げて、相手の赤茶の瞳を改めて見上げた。
「……お力に、なれるかもしれやせんぜ」


「久し振りだ。懐かしいな、良く来てくれた」
 青年は元気そうだった。
 あの救出後は本人も衰弱が激しかったろうに、今ではその様子も何も見せない。
 少し、痩せただろうか。
 薄そうな頬で喋る彼は、何だか砂漠の風一つで倒れてしまいそうな軽さを感じた。
「ずっとあの時の礼をしたいと思ってたんだ。中々、タイミングが合わずに今日になったけど……それでも、こうして会えただけでも良かった」
 あの時の他のイレギュラーズは元気か。
 こうして生きていられたのはアンタ達のおかげだ。
 相変わらず薬も医者も探している。落ち着けるように、新しく静かに過ごせる家も探している。
 その話題になった時、イザの顔は少し、沈んだ。
「……今、チヨさんに看て貰ってる」
 一つ壁を挟んだ向かいの部屋。
「最初に、左手……」
 問診のように、『元気なBBA』チヨ・ケンコーランド(p3p009158)は少女の部位に手を添えながら確認する。
「次に、左腕、両足。先端から内側に向かうように」
 ふむ、と息は漏らす。しかし少女には一切の不安の顔は見せずに、チヨは呼び名通りの笑い顔を少女に向けた。
「症状の進行は遅々としておるし、心臓はむしろ至って健康じゃ。突然どうかなる、なんて事はまず無いじゃろ」
「ホント……! へへ、何か安心した……かも、です! あ、チヨさん。ありがとうございます!」
 扉を、外側から二、三回軽く叩く音がする。
「……良いだろうか?」
 籠った声に対してチヨは快い返事で返した。
 扉を開けると、簡素なベッドに仰向けに寝たベージュの長い髪をした少女、そしてその隣で丸椅子に腰掛けるのチヨの姿。
 開けられた事に対して少女は咄嗟に毛布を右手で掴み、顎下まで持ち上げる。
 その先に居るラダの容姿を見ると、少しばかり警戒していた右手が緩んだ。
「あ……確かお兄ちゃんを助けてくれたっていう……」
「ラダ・ジグリだ」
 少女は首から腕だけをこちらに向けて会釈をする。
 多分、体重も思うように傾けられないのだろう。
「ユディです。その節はお兄ちゃんがお世話になりました」
 イザ以上に細い体付き。掛けられた布の上からでも判別出来るくらいの。
「今年で十四だ。意外としっかりしてるだろ?」
 自分の事のように自慢気なイザの声が背中に聞こえて、ラダとチヨを差し置いてユディが真っ先に反応していた。
「もう……止めて……恥ずかしい……!」
 あぁ、確かに恥ずかしそうだ。
 呆れたように両眼を閉じたその顔は微かに赤らんでいる。
 それを更に強調するように、右手でその顔を覆ってベージュの髪を前に垂らした。
 本当なら、左手でも覆いたかっただろう。
 その手が、動いたなら。


「麻痺よりは、石化に近いのぉ」
 イザとユディを彼女の部屋に残し、別室にてチヨは語る。
「飽くまで近いというだけで、断言は出来ん。あれは、そうじゃな」
 病気というより、呪いに侵されている。
 そう、判断する事が出来た。
 そしてそう考えると、これまで医者が対応しきれなかった事実にも、少し納得がいく。
 似ているようで実際は全く別の畑の事だったのだとしたら、普通の医者にどうこう出来る筈が無かったのだ。
 では、過去にイザが持ち帰った光幻薬の効能はどうだったのだろう。
 持ち帰る事は出来た筈だ。あれだけイザが必死になっていた薬。飲ませない、なんて事もないだろう。
「あれは万能薬などではない」
 チヨはそう言い切る事が出来る。
 これは前に実物を見た際の薬学情報と、先程ユディを看た結果の結論だ。
『光幻薬』
 それは、その名の『幻』が示すのは、服用した人物に対してのものだった。
 確かに症状は和らぐ。即効性だ。程度が低ければ完治したとも思うだろう。
 だが、それは一時的な光に過ぎない。
 服用者は、治った、という一時の幻を視ているだけなのだ。
 痛み、苦しみは一時的に緩和される。そして時が経てば再び苦しみは再発する。
 ユディの現在を見れば、治らないのは明らかであるだろう。
 しかし、希望も有る。それもまたユディの症状だ。
 イザと会ってから数か月。ユディの症状はそれより前に出ていただろう。
『妹がああなったのは、アンタ達に会う一、二週間くらい前なんだ』
 その時は、症状は既に腕と足に現れていたのだと。
 たったその期間で現在と変わらないところまで進行しておいて、何故数か月経った今でも殆ど変わらないのか。
 その間に服用した薬と言えば、光幻薬しかなかった。
 不思議な話だとは思う。
 その光幻薬は、呪いという不確かなものを横に置いて、ユディの身体に出た症状に対して確かな効果を見せていたのだ。
 あの時の光幻薬はバザールで入手された物。
 ターバンの男に聞いた情報が思い出される。
『へへ。ありゃあ腕は確かな調合師を騙し……じゃなかった説得して作って貰ったもんでさね』
 仮に一般人が調合していたとして、効果が出ていたのだとしたら。
 もし、それをイレギュラーズの豊富な知識で調合出来たとしたなら。
 格下げされた光幻薬も、材料が有れば『ユディだけの特効薬』としてなら作り直せるのではないか。
 いや、確証が有る訳では無い。
 これは、ただの希望に過ぎない。
「問題はその材料の調達じゃが……」
「情報は有る。これもサンド・バザールでの男の情報にはなるが」
 場所は南部砂漠コンシレラ。
 旧・砂の都近くの遺跡の中。
 その最深部に、『淡く薄緑の光る草』が生える場所が在るのだという。
 一般の冒険者でも取りに行くのは問題ないようだ。男も、その草をまた欲して話を持ち掛けた。
 採取に行くなら、場所までの案内はその男がしてくれると言うが……。
 少し、気に掛かる。
 そんなに容易なら、何故男自身が取りに行かない?
 警戒はしておいた方が良いだろう。
 男が言った、その名称は『月光遺跡』。
 情報通りなら、何ら問題の無い採取依頼ではある筈だ。

GMコメント

・お久しぶり……で御座います……! イザです!
 あ、私は夜影鈴です。
 皆様、イザ君を覚えていらっしゃいますでしょうか。
 ずっとタイミングを逃していたアフターアクション依頼、行くなら今が最後の機会かと思いましてご依頼させて頂きました!

●目標
『月光遺跡』最深部へ行き、光幻薬の原料『光幻草』を採取し帰還する。

※光幻薬、及び光幻草はこのシナリオ内のみで使えるアイテムとします。
(依頼後は枯れて消滅します)

●ロケーション
南部砂漠コンシレラに存在する地下遺跡。
場所はイザを救出した場所に近い。

入り口まではバザールで出会ったターバンの男が案内してくれるが、内部の探索はイレギュラーズ達に任される。
人の出入りが有って久しく、中は人工的な灯りは見えず暗い。
ただ、最深部までは一本道ではあるようだ。
最深部に到達すると、確かに『淡く緑色に光る草』が生えている場所が存在する。
この場所ではその光で光源が要らない程だ。
最深部は広く、八人くらいなら広がって行動出来る。

ただ、何かがおかしい。
草の生えている部分は平坦ではなく、山なりのように盛り上がっている。
一体その下に何が有るというのか。

●敵情報

【サクル・カヴキ】×1
月光遺跡の最深部に鎮座している終焉獣。岩の亀。
全身が岩や鉱石のような固さを持つ亀のような見た目である。
『光幻草』はこの亀の背中に生えている。
眠ったようにじっとしているが、採取しようと近付くなら大人しくしている筈も無い。
見上げるくらいには身体が大きく、起き上がった後に採取を試みるなら背中の甲羅に登る必要が有る。

倒す事が出来たなら『光幻薬』の一回分の調合に必要な光幻草が採取できる。
余分に持ち帰られる量は無さそうだ。ご了承願いたい。

背中の光幻草の効力により、この亀は1ターンごとに自動回復してしまう。
防御力は見た目通り固そうだ。
攻撃方法は噛みつき、地揺らしの範囲攻撃。

自動回復を防ぐなら先に採取しきるという手も考えられる。
だが、そう一筋縄ではいかない。
以下の災いが天井から降って来るからだ。

【ガサク・カルマ】×6
光幻草に近寄ると天井から降って来る。採取する者に降り掛かる災い。
亀の背中に乗って採取を始めるか、亀と交戦に入った後の地揺らしの攻撃によって天井から落ちて来る。
体長1メートルを超える毒蛇の姿をした終焉獣。
攻撃は毒の牙での噛みつきと巻き付きの束縛。
牙の攻撃を受けると【毒】状態となり、連続して受けると【猛毒】まで進行する可能性が有る。
巻き付かれると【足止】のBSとなる可能性があるが、この攻撃中は蛇も牙での攻撃しか行えない。巻き付いているので移動が出来ない。

●月光遺跡について
遺跡へは前述の通り、バザールで会ったターバンの男が案内してくれる。
終焉獣を出さない為か、入り口は重そうな岩で閉ざされている。
重そうではあるが、力の有る者なら一般人でも動かせそうだ。

イレギュラーズ達が半分程まで進むと、何故か入り口が再び閉ざされてしまう。
内部は一本道ではあるが、最深部まで光源は無い。
何故閉じたのだろう。

灯りを所持して遺跡の半分まで到達したなら、傍らに枯れた草を握り締めた冒険者の遺体を発見する事が出来る。
ある二つの条件を満たしてしまった場合、この遺跡半分の場所で【ガサク・カルマ×5】との追加戦闘が発生する可能性が有る。
それが行きとなるか、帰りとなるかは判らない。
イレギュラーズの戦闘力なら素直にそのまま倒して突破する事も出来るだろう。

●光幻薬の調合について
ユディの症状を治す為にはイレギュラーズ達の手で新しく光幻薬を調合する必要が有ります。
『元気なBBA』チヨ・ケンコーランド(p3p009158)さんが御参加されている場合、予め症状を看ていた事により、上手く適した調合をする事が出来ます。
この場合はアドバイスという形でスキルは不要ですが、調合に必要なスキルが有ればご自身も調合する事は出来ます。
調合自体は、医学・薬学関係のスキルを所持している者がいれば他の方でも症状に対する薬は調合する事が出来ます。
但しこの場合調合に該当するスキルの活性化が必要であり、本人と周囲の能力によって完成度合いが変わるものとします。

尚、この調合は依頼成功条件の必須では御座いません。

●NPC

・イザ
『乾く廃墟の沈黙者』のシナリオにて救出された青年。
両親は居ないため、謎の症状に寝込んでいる妹を看病しながらの二人暮らし。
少し疲れ気味か。本人はそんな素振りを見せようとはしないが。

・ユディ
イザの妹。
手足の先から動かなくなる、呪いのような症状を持つ少女。
病院でも、医学知識でも解消される事は無かった。
だが、光幻薬ならこれを取り払える可能性が有る。
呪い云々は置いておき、治るというなら調合しない手は無い。
光源薬を上手く調合して貰えたなら、この依頼で彼女の症状は完治します。

・ターバンの男
バザールで出会った不審な男。
遺跡に案内はするが、中までは付いて来ない。
恐らく、イザに光幻薬を売りつけた本人である。

※『灼けつく太陽』ラダ・ジグリ(p3p000271)さんが御参加されている場合、上記のNPC、またはバザールに存在する可能性の有る一般NPCであれば、各イレギュラーズさんは一般NPCへの対人技能の成功率が上がります。
ラダさんの名声、お名前をお借りする、という形になりますが、ラダさんが必ずその場に同行している必要は御座いません。
またNPCを探す際には時間を掛けずに発見する事が出来ます。
トップの位置に当たる有名NPCなどは登場しません。
この情報を使うかどうか、どう使うかはお任せ致します。依頼成功に必須の行動では御座いません。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はCです。
 情報精度は低めで、不測の事態が起きる可能性があります。

  • 残光憂いの地下遺跡完了
  • GM名夜影 鈴
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2024年03月29日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

ラダ・ジグリ(p3p000271)
灼けつく太陽
亘理 義弘(p3p000398)
侠骨の拳
モカ・ビアンキーニ(p3p007999)
Pantera Nera
チヨ・ケンコーランド(p3p009158)
元気なBBA
ルナ・ファ・ディール(p3p009526)
ヴァルハラより帰還す
多次元世界 観測端末(p3p010858)
観測中
マリオン・エイム(p3p010866)
晴夜の魔法(砲)戦士
オセロット(p3p011327)
譲れぬ宝を胸に秘め

リプレイ


「護衛を残す必要は?」
 遺跡へと入る手前で、『灼けつく太陽』ラダ・ジグリ(p3p000271)は真後ろの人物に簡素な視線を向けた。
「へへ……いやいや、そんなご迷惑は掛けられませんぜ」
 ターバンの男は手を揉みながら商売用の笑みで答える。
「……ま、あんたも砂漠の商人だしな。では行って来るよ」
 遺跡の暗所に入ると同時に、ラダはサイバーゴーグルを額から下ろす。
 先に入っていた仲間の内、『侠骨の拳』亘理 義弘(p3p000398)と横並びになった所で義弘が目線は前のままにラダへ声を掛ける。
「目的はいったい何なんだろうな」
 二人が浮かべるは先程のターバンの男。
 無論、思い浮かべるだけではなく義弘もあの男に対して警戒は怠っていない。
「マア、身モ蓋モ無ク言ッテ、怪シイ話シデスネ」
 と、暗闇より名状し難き音を立てながら応えたのは『観測中』多次元世界 観測端末(p3p010858)。
 とはいえ、他に薬の手掛かりが無いなら断る訳にもいかない。
 背後の入り口まで声が届かない事を確認して、『Pantera Nera』モカ・ビアンキーニ(p3p007999)は一つ問うた。
「で、実際どうだったんだ。二人は合流前に会っていたんだろう?」
 その『二人』に該当する『駆ける黒影』ルナ・ファ・ディール(p3p009526)は指先で水晶玉を回しながら横目でモカを向く。
「疑うなっつー方が怪しいだろ、ほら」
 手の甲で弾いた玉を、自身の召喚した小鳥が掴み取る。
 小鳥の掴んだ水晶玉に映像記録。場面はバザールの一画から始まっていた。
 最初に映ったのは、黒髪を頭の後ろで一つ結びにした若い男の後ろ姿。
『よぉ兄弟、ちょっと出かける前に景気付けしたくてよ。一杯どうだ?』
 その男に突然肩を組まれて大層驚いているのは入り口で別れたターバンの男。
 何故そんなに驚いているかって、旧知の仲のように接して来た『譲れぬ宝を胸に秘め』オセロット(p3p011327)も当然そうなのだろうが。
『酒でも飲みながら現場の様子教えてくれよ。その草、儲かんのか?』
 その横の大男、ルナも口角を上げたまま話し掛けてくるからだろう。
 男は困惑した表情を浮かべた。
『……何で、俺のこと……』
『……あ?』
 ルナは男に逃げる隙を与えないようにオセロットと挟み込むと、バザールの酒場に男の進路を閉じて歩く。
『アンタ、ラダの事知ってて話持ち掛けたんだろ。もう話は伝わってるぜ』
「バザールには月に数回出店してるらしい」
 映像を挟んでオセロットが情報を加える。
「数回じゃと? よくそんなのの足を掴めたのぅ、オセ坊」
 暗所の視野を確保する為の器具を装着した『元気なBBA』チヨ・ケンコーランド(p3p009158)がそのままオセロットへ向く。
「ジグリの姐さんの名を使わせて貰った。端の商人からも情報を聞けたのは流石ってところかね」
 映像は更に先を映し出す。
 『晴夜の魔法(砲)戦士』マリオン・エイム(p3p010866)の青い瞳には、警戒する間合いを保ちつつ、それを感じさせない顔色のルナがペースを崩さずに二人と共に酒場の中へ消えていく部分が映る。
 水晶の中には酒場の入り口。中の音声だけが先にこちらへ流れ出た。
『へへ、や、良いんですかい? ホントにこんな奢って貰っちまって』
『あぁ、酒代なら気にすんな。ラダの名前だしゃ、商会の経費で払ってくれるさ』
「……ルナ?」
 ラダからの視線を感じて、ルナは水晶玉を小鳥から取り上げる。
「必要経費だ」
 と笑ってみせたルナは、再び小鳥へ水晶玉を受け渡すと出口へと羽ばたかせた。
「映像を観る限り、何か行動を起こすようには見えなかったけど」
 怪しいのは変わらないけれどね、と付け加えて、マリオンは足を進めた。
「実際、バザールでのバンダナ野郎は仲間なんぞ引き連れて不意打ちしてくる雰囲気でもなかった」
 罠らしい罠は見えない。それでも魔力と破邪の障壁をルナが展開したのは、この遺跡自体にも油断は出来ぬと踏んだからだろうか。
 オセロットがそれに続く。
「だが同じ商人仲間からの話じゃ、盗品盗掘がもっぱらの売買品って話だ」
 イザのようにそういう評価を知らずバザールを訪れた者などは、珍しい品揃えと口車に乗せられて購入してしまうのだとか。
 道の半分、義弘は壁にもたれて座っていたそれに屈んだ。
「こいつが、その男が安全に盗掘商売を行えている理由だろうな」
 傍らには僅かに光を残した一束の草。
「……枯れた光幻草、か?」
 ラダはその骸に対して逡巡する。草を持っている、という事は採掘から戻る途中だったのだろう。
 骸と化した者に両手を合わせ、義弘がボロボロの外套を捲ると右手に棒切れを握っている事に気付く。
 更にその右手をずらすと後ろに『ウエニ』という崩れた文字。
「ウエニ……上に、かの」
 チヨがその言葉を思案する。ラダも頭上を見上げ、続けて口を開いたのは遺跡侵入時から敵性反応を探っていたモカ。
「確かに……何か、潜んではいるようだな。すぐに襲って来る気配は無いようだが」
「どうする?」
 と問うたマリオンに、モカは思案を重ねた。
 この場で解決する事も出来るだろう。だが、それでターバンの男に警戒を悟られて過激な行動をされても反って厄介だ。
 その時、事態は転調を迎えた。
 何かに、ルナが反応する。視覚共有をした鳥からの情報。
 義弘、ラダが大きく息を吐く。
 同時に入り口側の方が巨大な音と共に闇に閉ざされ、ラダはそのまま呆れたように入り口を振り返った。
「ああ、これは入口閉めやがったか」
「おめでたい野郎だ」
 瞬間に、ルナは最大の機動力を上げて入り口へと駆け出した。
 そして観測端末は、先程のマリオンの問いに至極冷静に返答する。
「成スベキヲ成シマショウ」
 この程度でどうにか出来ると思われているなら、随分と舐められたものだ。
「罠ダト言ウナラ、罠事踏ミ潰シテシマエバ良イワケデスシ」


 イレギュラーズ達の眼前に、その光景は広がっていた。
 場所の中心に円状に固まった光草の群生地。
 どれもこれも淡い光ではあったが、それが集まったこの場所は陽だまりよりも暖かいように感じる。
 但し、それをそのまま感じるには余りにも不穏に満ちていた。
 少なくとも、モカが目の前を敵だと認識し、実戦武技の構えと運気を勝ち取る博打を共に備える程度には。
 大型ライフルの射撃補助を起動させ、魔力で編まれた空気の層へと乗ったラダがそこへ寄る。
 光草の部分が丘のように盛り上がっている。
 明らかに、怪しい。
 チヨが自身のリミッターを外し、目標を光草の中心に捉えた。
 チヨが踏み込んだ、と同時にその身は離れた光草の場所に到達。
 速過ぎた軌跡が真空の刃を生み出し、通った地面に閃を走らせる。
 着地と同時に鳴き声が地下に響き渡った。
 チヨが乗ったその地面。
 地面を丸ごと削り取ったような亀の姿が、本当の地面を大きく揺らしてその場に立ち上がった。
 だが、既に一人。岩亀がこちらを認識する前に、気配を極限まで殺したモカが宙を蹴って舞う様に接近している。
 気付かれるのは時間の問題ではあったろう。しかし気配を殺した意味は有る。
 何故なら、モカの敵性感知は目の前の亀ではなく、天井を示したからだ。
「……上だ!」
 モカは亀の背を蹴り、上方に見えた影に向かって闘気を纏った蹴りを放つ。
 闘気は黒き豹の群れへ。形を成した黒豹が宙を駆けて天井へ突撃した。
 衝撃で蛇型の終焉獣がモカとチヨ、二人の周囲へ落ちて来る。
 落ちて来る間際に、モカはその影に向かってもう一度黒豹の乱舞を浴びせ撃墜させていく。
 採掘者への災い、ガサク・カルマ。
 もし、この光幻草が襲撃の原因だと言うのなら。
「一本拝借……そら、こっちだ!」
 内一本を千切り採ったラダが、口上代わりに蛇達へと草を見せつけるように挑発した。
 入れ違い、ラダの後方から両手を翳したマリオンが現れる。
 ラダへ向かって巻き付きに掛かった蛇達へと、マリオンの気糸が覆い被さるように展開した。
「そんな『足止め』が君達の専売特許だと思ったら、大間違いってことだね!」
 気糸が蛇の自由を奪う。藻掻けば藻掻くほどにその身体を斬り裂いて離さない。
 それら蛇をも全て巻き込むように、マリオンを飛び越した義弘は亀の手前で更に一歩を踏んだ。
 亀と蛇、味方の位置を刹那で鑑みる。味方も巻き込まないのは少々難しいか。
 義弘が突撃するのはラダと真逆の方向へ。
 二人が分かれた中央に、観測端末が割り込んで入る。俯瞰の視覚情報なら良く見る事が出来た。誘いの魔力を晒し出すならここだ。
 チヨからラダへ。ラダから観測端末へ。
 牙の先を変えるガサク・カルマを、オセロットは追従して観察、分析する。
 こいつらと遭遇する条件。矢張り『それ』しかないだろう。
 オセロットが飛ばす刃で亀に一閃。反撃に亀が振り下ろしたのは頭でも牙でも無く、両の前足である。
 その振動、遺跡全体を揺らさんばかりの地響き。
 最深部を中心に、通路から地上へも微かに振動が伝わって来る。
「ひ、ひひ……後は戻ってくるのを待つだけだ」
 その振動で落ちる砂埃を頭から被りながら、外に居たターバンの男はぎらついた目をして大岩を出入り口に押し付けていた。
「まんまと誘いに乗りおって、間抜けどもめ……」
 怪しい素振りは見せなかった。と男は心の中で豪語する。何せ、ここまで殺気の一つも見せていないのだから。
 そう、だから。
「よぉ」
 と、岩の向こうから声が聞こえたのには我が耳を疑った。
 大岩が僅かに自分の方に傾く。押し潰されそうになり、すんでのところで大岩が入り口から蹴り飛ばされる。
 暗闇の中に見えたのは、その闇を身体に塗りたくったような大柄な黒影であった。
「随分と楽しそうじゃねぇか。ところで今……間抜けって単語が聞こえた気がしたが、そいつぁ俺達のことか?」
 悠々と歩み寄るルナの影に、男は臀部から砂に腰を落とす。
「それともアンタってことで良いのか? あぁ?」


 岩亀の背は光が根こそぎ奪われていた。
 即ち、ラダと観測端末が蛇を引き付けている間に、チヨが手早く採取を終えていたのだ。
 光幻草を刈ったその手は乱撃の嵐へと、チヨの両手は蛇達へと襲い掛かっている。
 追撃を加えるのは残影を伴ったモカの百手。無数にも思える手数の殆どは実害を伴う布石。
 本命は、ここだ。
 伸びた拳の一つが蛇の頭を打ち穿つ。
 岩亀を眼前に、立ち塞がるように構えるのはマリオンと義弘。
 と、マリオンが調整を計るように左右に揺れているのを見て、義弘は怪訝に問うた。
「……やけに動き辛そうだな?」
「……毎回、言ってるのは言ってるけど」
 マリオンは、二、三歩で位置を整えて一気に亀へと向かった。
「男性モード、重心バランスが違うからやっぱり女性モードは格闘戦がやり辛いです! ばつ!」
 なら何故動き難い方へ……とも思えるかもしれないが、義弘にも理由は解る。マリオンは、出そうと思えばもっと火力を出せるのだろう。
 それを行わないのは背中の光幻草を巻き込まないか危惧しての事だ。もっとも、採取を終えた今なら、そろそろ存分に発揮できる頃合いか。
 亀に対してただの正面衝突では効果が薄いと踏んだ義弘はここで大きく両の腕を広げた。
 両手に練るのは破壊の闘気。
 一撃で良しとするか。まさか。敵と相対する時でも冷静な思考の義弘が、そんな慢心で臨む訳もなく。
 左拳で首元へ一撃。更に大振りな右の拳を顔面近くに叩き付ける。
 明らかに堅そうな敵、ならば内側から破壊しようと送り込まれた闘気が、亀の体内で爆発を重ねる。
 その亀の弱点を突くように、ラダのライフル弾が甲羅の境目へ突き刺さった。
 次を構えたラダに、鋭い蛇の鳴き声が襲い掛かる。
 瞬時にリロードし、ラダが振り向く。が、その弾は発射されないままに目の前の蛇は地に伏せた。
「ま、やられてるとは思ってなかったがよ」
 反対側から撃たれたルナの銃弾が頭部を貫いていたからだ。
 腰辺りにはターバンの男。簀巻きにされて身動きを封じられている。
 ルナはラダの手元に見える光幻草を見て、何かを悟った。
「……狙われ役か?」
「必要経費さ」
 返したラダと共に、放った銃弾の嵐が蛇達に降り注ぐ。
 その状況を広域から俯瞰していた観測端末が、根を張るように陣形の中心に移動する。
 福音を授けた光輪の治癒。人数が少ない状態ならば間に合いそうだ。
 が、散らばった状態でマズいのは亀の地揺らし。あの被害が一番大きい。
「皆サン」
 と声を掛ければ、観測端末が何をするのか予測も出来ようか。故に、皆はなるべく観測端末の元へ跳んだのだ。
「負傷ノ激シイ方ハ、当端末ノ後ロヘト」
 溢れる慈愛の陽光がイレギュラーズ達を包み込む。
 最中で、オセロットは観測端末を狙う蛇へと乱撃を浴びせた。
 引き付けとはいえ、その他が攻撃の手を緩めるとは誰も言っていない。
 重なるチヨの乱撃が蛇達を強襲し、殆ど数体となった蛇の群れに義弘が放つのは。
 頭数を無数に増やした大蛇の腕。
 食い散らかすように蛇達の身を削り、満腹になったかと思えばその上空だ。
 光幻草への憂いが無ければこちらのもの。
 マリオンが魔力を充分に収束させ、魔人の如き魔力の咆哮と共に。
 亀の身体へと撃ち放った。
 亀に焦げ付いた穴が残っている。
 その岩の巨体が崩れ落ちたのは、間違いなく止めを刺したからであろう。


「これで全部のようじゃ」
 と、チヨは懐に光幻草を仕舞い込んだ。
 ターバンの男が恨めし気に見ていたが、もう種は明かされている。
 オセロットの分析の結果だ。恐らく、あの蛇は光幻草の光に釣られて来る。道中での遺体もそれが原因、ラダ自身でも証明された。
 つまり、光さえ見せなければ罠は抜いたも同然である。
「お主は何のために光幻草を求めたのかのぉ? どっちにせよ、弔ってやらねばなるまいて……」
 恐らくこの真上の蛇にやられたであろう骸をチヨが担ぎ、向かうは出口。
「刺激はしないでおこう」
 のラダの言により、罠の箇所はそのまま通過。
 もし大岩で塞がれたままだったならマリオンの砲撃で纏めて吹き飛ばしても良かったろうが、帰路で疲弊を重ねる事も無いだろう。
「さて……」
 と、日光の元に出たラダは言葉を落とした。
「話を聞かせてもらえるな?」
 向けられたのは、勿論ターバンの男だ。
「な、なんの事ですかねぇ……」
 とこの後に及んで口籠る男に、ラダはライフルの音を聞かせて示した。
「ゴム弾でも撃つのは私も気が引けるんだ」
 月光遺跡。
 帰還したイレギュラーズ達が向かうのは、当然のように彼の家だった。
「オセ坊、その瓶をこっちに」
「あいよ、チヨ婆」
 光幻草を元に、医学薬学の知識を総動員したチヨの調合が始まった。
「本当に、何と礼を言っていいのか……」
 恐縮するイザに対してもチヨは笑みを続ける。
「ほっほっほ! ラサに生きる子ら、すなわちイザ坊とユディちゃんはわしの孫みたいなもんじゃて」
 年の功が見せる製薬術。治療に複雑な工程は踏まない、が手は緩まない。
「孫が苦しんでおるのに放っておく婆はおらんぞい!」
 その様子を音で聞いていた義弘は、隣のルナへ誰へともない口調で声を掛けた。
「これで妹さんの治療ができるといいんだがよ」
「幻覚薬だとしても、痛み忘れたり夢やら幻覚ん中で頭が体の動かし方を思い出すっつー効果もあんのかもしれねぇ」
 ルナは続ける。
「毒も薬もおんなじだ。ま、薬のこたぁ詳しい奴に任せるさ」
 ユディの体調も気になるところだが、気になると言えばまだ残っているものがある。
 その報を知らせる為か、歩んできたラダに観測端末は問うた。
「アノ方ハ?」
「捕らえたよ。不義理な商売をしてたみたいでね……今頃、牢の中かな」
 凜とした表情でラダは答える。
 扉が開いたのは、それを聞いていたマリオンが振り返った瞬間であった。
「あの、皆さん……!」
 ベージュ色の長い髪。
「起き上がれました……!」
 暫く動かしていなかった脚は痩せて見えたが、兄に捕まりながらもその顔は晴れやかに彩られている。
「動けます! 動けるんです! 私……貴方達のお陰……で……!」
 言葉が詰まっているのが良く解る。だが、それを催促させるのは野暮というものだ。
 チヨ、オセロットと共に出て来たモカは、イザにメモの書かれた紙を手渡した。
 養生の為にと、安価で入手し易い材料のレシピ。病人用に記した栄養豊富で消化の良いものを数食分にして。
「妹さんが早く快復する事を願っているよ」
 親族も大切な人もいないが、人として家族を大切に想える気持ちを理解したい。そのモカからの餞別。
 それを受け取って、イザは皆へともう一度顔を上げた。
「……感謝する。今、この世界が大変な時だっていうのに」
 そして頭を下げ、再び上げた彼の瞳には確かな光が宿っていた。
「俺達に出来る事なんて無いに等しい。けれど、そうだな。アンタ達から貰った希望、ラサの民として忘れはしない」
 一歩、進んでイザはラダとチヨ、そしてイレギュラーズの面々を見て言葉を紡ぐ。
「俺達は俺達で、必死に今日を生き抜く事でアンタ達の希望になろう。だから、まぁ……」
 柄じゃないんだが、とイザは頭を掻いて続けた。
「また……平和になったら活躍を聞かせてくれ! ユディと一緒に待ってる!」

成否

成功

MVP

ルナ・ファ・ディール(p3p009526)
ヴァルハラより帰還す

状態異常

なし

あとがき

大変お待たせ致しました! 依頼完了です、お疲れ様でした!
改めましてイザとユディで御座います!
こちらアフターを頂いた際からずっとタイミングを見失いつつあったのですが、決戦までに解決出来ていや本当に……良かった!
メインストーリーが進むにつれて「いや今か……? 今行っていいのか……!?」と内心焦っておりました。無事にお出しできて感無量です。

少し状況は複雑目ではありましたが、罠の看破もお見事で御座いました。
亀は……はい! 初手に草取られちゃったので固さを活かし切れず……。回復を兼ねた固い敵、どうでしょう! という目論見は全部初手で崩されました。
今は最終決戦中ですが、またお会い出来る日を楽しみにしております。
では、ご参加有り難うございました!

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