シナリオ詳細
波飛沫の花束を
オープニング
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窓の外を、かもめが飛んでいる。
悠々と、空の風を受けて浮かぶように飛んでいる。
「わー……」
そんな光景を、幾人もの女性に囲まれながらエレンシア=ウォルハリア=レスティーユ(p3p004881)は見上げていた。
「こら、メイク中ですよ。ちゃんとこちらを向いて下さい」
「え!? あ、す、スイマセン」
男勝りなエレンシアも、今日は借りてきた猫のように大人しい。
だってそうだろう。人生でこの日は一日しかないのだ。
そうさ。結婚式なんてめでたい日は、人生で一度きりってものさ。
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ルシ(p3p004934)に路地裏で口付けされて。
リングボックスで察してしまう、なんとも自分達らしいプロポーズだった。
あれからなんども指輪を見たけれど、煙のように消える事はない。
どうやら騙された訳ではないらしい、とエレンシアが疑いを晴らすまでには少しばかり時間を要した。
そして思った。
なんとも自分達らしいプロポーズならば、自分達らしい結婚式にしたい。
普通の結婚式なんてありきたりだ、知っている人たちみんな呼べるような、そんな結婚式にしたい!
エレンシアは様々な物件雑誌を買って来て、机の上に広げる。
そうして決めたのが――
「ルシ!」
「? なんだいエレンシア」
「船だ! 船の上で結婚式をしよう!」
「……船?」
ぱちくり、と瞳を瞬かせたルシ。
そう、といっそ誇らしげなエレンシア。
●
――そうして今に至る。
古びた船は磨かれて深い琥珀色の船体を惜しみなく晒し、其れを白いリボンと布が飾っている。
船室はそれぞれ花婿・花嫁の控室となっており、花嫁の控室はそりゃあもう大わらわ。メイクに衣装、ブーケの確認。お色直しのドレスの塩梅を見たりなど、上を下への大騒ぎ。
其れを壁越しに聞いて苦笑いしながら、ルシもまた、衣装を整えて貰っていた。
緊張していない訳ではない。きっとこの後に見に行くエレンシアは花も恥じらうほど綺麗だろうし、友人たちへの招待状に何人が集まってくれるかも判らない。
けれど、不思議と其れは『緊張』であって『不安』ではなかった。だって、これからエレンシアと二人で生きていくのだ。何を不安がる事があるだろう。
タイの僅かな歪みを直して貰って、ルシの準備は終わり。上から下まで銀に近い白色で、ルシによく似合っている。
さあ、自分だけの可愛い花嫁さんに会いに行こう。
ルシは船室の扉を開き、少し静かになった隣の船室、花嫁控室をノックした――
- 波飛沫の花束を完了
- 世界で一番幸せな二人の、ひととき。
- GM名奇古譚
- 種別リクエスト
- 難易度-
- 冒険終了日時2024年03月26日 22時05分
- 参加人数2/2人
- 相談8日
- 参加費---RC
参加者 : 2 人
冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。
(サポートPC11人)参加者一覧(2人)
リプレイ
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海洋のとある港。
白いレースで彩られた大きな帆が張られた船が一隻ある。其の傍には、まるで其の船を護るかのようにもう一隻船が寄り添っていた。
わいわいと、船室の扉越しに賑わいが聞こえてくる。其れを制するように――
『皆様、ようこそお越し下さいました』
この日の為に雇った、敢えて知り合いではないプロの朗読士がよく通る声で話し始める。
其れを聞きながら、『騎兵の先立つ紅き備』エレンシア=ウォルハリア=レスティーユ(p3p004881)はそわそわ、どこかおかしな処がないかとしきりに己を見回していた。
「そんなに見回しても、エレンシアにおかしな所なんて一つもないよ」
花婿が――『穹の天使』ルシ(p3p004934)が穏やかに、白いタキシードのポケットに赤い薔薇を差して笑う。
其れはエレンシアの色だ。同じようにエレンシアも、髪を飾るヴェールの縁を飾る花は白にした。ルシの色だから。
……結婚式。結婚。
そんな縁が巡って来るなんて突飛な事もあったものだと、エレンシアに笑い掛けながらルシは思う。天使の末裔として元の世界を何千年と生きてきた。けれど、生涯を共にしようと思ったものは誰一人として現れなかった。
けれど彼女は……隣にいるエレンシアは違う。ずっと傍にいて、出来るなら笑顔でいて貰いたい。いや、勿論怒った顔だって、恥ずかしがる顔だって、可愛いけれども――だけれども、矢張り一番可愛いのは、笑顔だと思うから。
ルシはそう望んだ。エレンシアもきっと望んでくれているだろう。ルシは其の時、人の営みも悪くはないと改めて思ったのだった。
「もうすぐ入場だ、準備は良いかな? まさか今更中断してくれなんて言わないよね?」
ひそひそと睦言のように語り掛ける。
そんなこと言わねえよ、と拗ねたようにエレンシアは言う。
「……あのね、エレンシア。わたしはこれでも結構はしゃいでるんだよ。君もそうであると嬉しいな」
「……はしゃいでるのか? ルシが?」
「そうだよ。だって一世一代の晴れ舞台だ」
『さあ皆様、拍手でお出迎え下さい! 新郎新婦の入場です!』
「――さあ行こう、我が奥さん。お手をどうぞ」
そう言ってルシは、己の腕を差し出す。
エレンシアはおずおず、と其処に己の手を絡めて――そうして黒い服を纏ったスタッフが、いってらっしゃい、と船室の扉を開いた。
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「結婚おめでとう、エレンシア!」
船室の扉が開いて、新郎新婦がしずしずと出てくると――イーリンの其の祝いの言葉を皮切りに、瑠璃が、皆がぱちぱちと割れんばかりの拍手を送った。
「わ、」
何人来てくれるかな、とずっと不安だったエレンシア。予想より沢山の人が来てくれている。甲板に座る彼らの顔を見渡して、其の瞳をぱちくりとさせた。
止まりそうになる花嫁の脚を、花婿はそっと進むように促す。二人の席は甲板の奥、丁度参加者たちの間を通り抜けた先にあった。
――おめでとう!
誰もが口々に言うけれど、ざっくりまとめてしまうとつまりは祝いの言葉なのだ。
イーリンをはじめ、皆いつもとは違うフォーマルな装いをしている。其れが新鮮で……海は、空は何処までも青く、眩しくて……エレンシアは太陽の光に目がちかちかした所為にして、思わず泣きそうになってしまった。
そうして二人は席に座る。
ね、とルシがエレンシアを覗き込んだ。其の瞳にうっすらと光る涙を見逃すまいとするかのように。
「思ってたより沢山来てるね。流石は特異運命座標様、ってところかな」
「結婚式に特異運命座標だからとか関係あるか?」
「あるんじゃないかな。多分。――ね、エレンシア。君はもっと自信を持つべきだ。こんなにも私たちを祝福してくれる人が来てくれたんだから」
「……なンだよいきなり。別に自信をなくしてなんか」
「君が君だから、みんな来てくれたんだよ。今日くらいは素直に楽しもう」
「……」
私もそれを望まれる、ってね。
エレンシアはそうからかうルシを見る。二人の視線が合う。
「――うん」
この時ばかりは素直に、エレンシアも頷くばかりであった。
『では、ご友人代表の挨拶をお願い致します。イーリン・ジョーンズ様』
司会に呼ばれ、イーリンが立ち上がる。
ヒールの音を響かせながら、練達製マイクの前に立ったイーリンは、すう、はあ、と呼吸を一度して。
「ご紹介に預かりました、イーリンです。取り敢えずは一言、――……エレンシア! 結婚、おめでとう!」
きいん、とハウるマイク。
普段の彼女からは想像もつかない其の声量に、エレンシアも、そしてルシも目を丸くする。
悪戯成功、とばかりにイーリンは笑って、ブイサイン。
「騎兵隊代表として、お祝いの挨拶は以上よ!」
今まであらゆる艱難辛苦を共にしてきた私たちだもの。其れ以上の言葉なんて必要ないでしょ?
其の意思は伝わって、エレンシアの心を揺らす。うん、と花嫁は頷いた。其の拍子にころり、と真珠のように涙がこぼれて……ルシは別途用意していた真っ白なハンカチを花嫁に手渡すのだった。
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『では、これからは暫くご歓談下さいませ。料理は間もなく隣船より到着いたします』
隣船? そういえば?
と、皆が隣に寄り添っていた船を見ると――なんともはや、まさにモカが出来上がった料理を持って鳥のようにウェディングシップに降り立ったではないか。
「ルシさん、エレンシアさん、ご結婚おめでとうございます。私はスタッフ兼シェフのモカ・ビアンキーニです。……この船には厨房がなかったからね。私の船で提供する料理を作らせて貰ったよ」
「ルシさん、エレンシアさん、結婚おめでとー! とびっきりの料理用意したから、皆で楽しんで食べてね!」
モカのスタッフであるメイがウィンク。そうして二人は次々と参加者のテーブルを豪華な料理で埋めていく。
海洋だからだろう、海産物を用いた料理が多いようだ。カルパッチョに一口サイズのお寿司や焼き魚、照り焼きの小皿。赤と白の添え物が必ず寄り添うように作られた其れ等の料理に、思わず参加者たちは感嘆の声を上げる。
勿論エレンシアもだ。
「ええぇ、すっげぇ……! こんな料理が出て来るなら、もうちょっとゆるいドレス選べば良かったかな」
「はは。エレンシア、私たちは祝われる側だから――ほら、多分食べる暇なんてないよ」
「エレンちゃぁん!!」
真っ先に花嫁の元へ駆け寄ってきたのは、エレンシアの姉貴分であるフォルテシアである。
なんかもう既に半泣きだ。
「うう、あのお転婆で男勝りで気の強いエレンちゃんがお嫁に……!」
「姉貴、其れ褒めてないって」
「お、お姉ちゃん感無量だわ! 本当に嬉しい! おめでとう! ドレス姿もとっても素敵よ、本当に立派になって……貴方を娶ってくれる人、もうこの先現れないかもしれないから大事にするのよ?」
「だから其れは褒めてねーっつってんだろ!?」
「うううう……! ルシさん、妹をどうぞ、どうぞ宜しくお願いします……! 無茶しないように、しっかり見ていて下さいね」
「はは、勿論。其れに……私が最初で最後の夫になるつもりですから」
フォルテシアの言葉にぷんぷんしていたエレンシアだったが、ルシの言葉に顔を赤くする。
まあ! とフォルテシアは驚いたように声を上げて……其れから嬉しさの余りだろう、おいおいと泣き出してしまった。
「あーあー、泣き出しちゃったわね」
「ほんとですね」
イーリンとエマはモカお手製の料理を摘まみながら、敢えて彼等を遠くより見守る。
思い返すように僅かな沈黙が落ちて、イーリンがゆるりと話し始める。
「あの子はね、自信のない子だったの。気丈に振る舞うところや無鉄砲なところがあったり、あの姉を想って一歩も二歩も引いたり」
「口調は結構荒々しいように思えますけど」
「多分そんな自分を隠したかったんじゃない? ――でも今は違う。立派に成長して、伴侶も得て、本当に凄い。あの子が頑張り続けた結果よ」
「……えひひ。イーリンさん、すっごい幸せそうな顔してますよ」
聞き役に徹していたエマ。たまにはこんな日も、光の下も悪くないと笑った。
「ついこの前ね、天使を助けたわ~って思ったのよ」
ジェーリーは配られていたシャンパンを片手に、嬉しそうに語る。
「でもそんなあの子に好きな人が出来て、結婚にまで行き着くなんて――時の速さには驚きを隠せないわねえ」
「ジェーリー……」
「私も幸せな恋愛を夢見たことはあったけれど……ふふ。こんな日に暗い話はなしね、幸せをたっぷりお裾分けして貰っちゃうわ。おめでとうルシ。貴方、とっても素敵よ。どうか幸せになって、……私は引き続き、貴方を見守っているわ」
ジェーリーとルシが暫し思い出話に花を咲かせている時、レイリーがエレンシアの所へやってきた。
第一声は、其のドレスとっても似合ってる。
「仲良しな貴女が結婚するなんて、とっても嬉しいわ。……でも、ふふ」
「? なんだよ」
「貴女のドレス姿、なかなか見ないから新鮮だなぁって。シャイネンナハトの舞踏会以来じゃない?」
勿論値段も意味も全然違うけれど、とレイリーが笑う。確かになあ、とエレンシアも困ったように笑った。どんなドレスだって、今日着ているドレスには敵いやしないのだ。
「貴女は私にとって、気楽に話せる大事な親友で……頼りになる相棒よ。でも、ちょっと素直じゃない。きっとルシ殿は其処まで判って愛してくれるだろうけれど」
「……皆があたしの事どんな風に見てるか、薄々は判ってたけど……段々判って来たぞ……」
「あーっ、モカさんモカさんモカさん!」
わいわいと喧騒が賑やかな中で、モカを凄い勢いで呼び止める声があった。ヴェルーリアである。
「ん? どうしたのかな」
「あのね、これ、私……エレンシアのお祝いにって持って来たの! 覇竜柿と、覇竜ライチ、其れから覇竜栗に覇竜ブルーベリー! あのね、」
言い募ろうとするヴェルーリアの唇に、そっとモカは人差し指を当てた。
これ以上の言葉は不要だよ、というように。
「とびきり美味しいものを作るよ。これだけあれば皆に行き渡るね」
「……! うん、ありがとう! エレンシアさーん!! ご結婚おめでとうー!!!」
まるで小鳥のように、ちちち、ぴぴぴ。飛び回って花嫁の元へ突撃するヴェルーリアを見守りながら、さて、とモカは受け取った果物を持って隣船へと飛び移った。
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『では――ご歓談は一旦此処までとさせて頂き、花婿様、花嫁様はお色直しとなります。其の前にブーケプルズを行いますので……女性の皆様は中央にお集まりください』
司会の言葉に合わせて、女性陣がわいわいと船室の中央に集まる。スタッフがテーブルを少し移動させて、開けた空間を作り……エレンシアの持っていた色鮮やかなブーケにリボンを繋いだ。
そうして女性は好きな紐を選んでいく。こういうのは早い者勝ち。しっかり選ぼう。
「私も? 良いのかい? なら折角だし参加させて貰おうかな」
勿論モカだって、メイだって例外ではない。メイはモカの隣で当たりますように~~とお祈りしている。
『皆さん、リボンは持ちましたか? ではお引きください! せー、の!』
女性陣が合図とともにぐい、とリボンを引っ張る。幾本ものリボンがさらり、と絹の輝きを見せながら甲板へ落ちて。
「あら、残念。はずれね」
「私もだ」
「うぅ~~、ボクもです……!」
「……あら? え?」
ブーケに結ばれたのは――ジェーリーの持ったリボンだった。
まあ、とジェーリーはあくまで目を閉じたまま、不思議そうな顔をしている。いまいち実感がわかないようだ。
「まあ、わ、私に? こんなおばあちゃんに、良いのかしら」
「おばあちゃんかどうかなんて関係ないわよ、良いご縁があるといいわね」
「そうだぜ! ルシの縁者さんだろ? さっき話してたの見てたんだ。……ルシを助けてくれて、ありがとうな」
エレンシアがジェーリーにブーケを渡しながら、笑顔で言う。
ああ、本当に……ルシは素敵な子を見付けたのね。
ジェーリーは感慨に浸りながら、ありがとう、とブーケを受け取ったのだった。込められた意味はジェーリーにとっては重いかも知れないけれど、でも、とても嬉しい重さだった。
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さて、お色直しの為に新郎新婦は船室へ戻っている。
再び歓談タイムとなり、参加者はそれぞれ結婚式の感想や己の理想の結婚式、そしてどのような色のドレスとタキシードになるのかを予想し合っていた。
其の中で、ひそひそと船室の傍で話し合っている影がある。
「良いですか、誠司さん」
誠司に語り掛けるアレスト。勘違いしないでいただきたい。悪巧みなんてしていない。彼女と彼の持つバスケットの中には、たっぷりのフラワーシャワーが眠っているのである。
「お二人がお色直しして出てきたところがチャンスです。お花をぶわーっ! として、綺麗な花嫁さんとかっこいい花婿さんをお祝いするんですよ!」
あ、勿論食事にかかる事を考慮して、食べたらヤバい花はないですよ。ボク、これでも医者なので。
「はい。甲板全体に撒いちゃって良いんですよね?」
「ですです。みーんなを驚かせて、幸せにしちゃいましょう!」
にしし、と笑い合う二人。
この船には、今日は幸せとちょっぴりのサプライズしかない。海風を受けて、ウェディングシップの帆がふわりふわりとレースを揺らしていた。
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『お待たせいたしました、新郎新婦の入場です!』
スタッフが船室の扉を開き、装いを新たにしたエレンシアとルシが甲板へと踏み込む。
エレンシアはヴェールを外し、つややかな黒髪を白い花で留めている。そして其の二つ名に相応しく、深紅のドレスを身に纏っていた。腰辺りで巻かれた布地は、まるで真っ赤な薔薇のようだ。
そうしてルシは彼女を引き立てるように、ブルーグレーのタキシードに身を包んでいた。勿論ポケットには深紅のハンカチーフ。
「おめでとうございますーー!!!」
このチャンスを、アレストと誠司は見逃さない! 丁度良く海風が吹いた瞬間を狙って、フラワーシャワーをぶわっ! と甲板に舞わせる。
「うわ!? わあ、すげえ! 見ろよルシ、花が一杯だ!」
「本当だ、……凄いな、綺麗だ」
勿論、君の次にだけどね。
ルシはそっと花嫁に囁く。幸せを乗せた花弁たちは甲板を渦巻くように舞い、新郎新婦の旅立ちを祝う。
――僕も、いずれは……って思っちゃうよねぇ……
誠司は舞う花を見ながら、さて、と次のサプライズの準備を始めた。
“余興”があると聞いているので、其の後に祝砲を打つ予定なのだ。
「本当に本当に、おめでとうございます! どうかお二人の人生が、幸せで満ちたものとなりますように!」
アレストが言う。
舞う花の中を歩く新郎新婦は、今日、間違いなく世界で最も幸せな二人だった。
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『では、お次は……』
花弁が舞い、空を舞って次の場所へ幸せを届けに行くのを皆で見送った。
そうしてエレンシアとルシが席に着いたのを見ると、司会が言葉を不自然に切る。
「……?」
二人が首を傾げていると、イーリンが不意に立ち上がった。
続けてレイリー、そしてヴェルーリアだ。
「こういうめでたい席には、余興が必要よね? 私たちで練習してきた曲、是非聞いて頂戴!」
言うとイーリンは席に隠していたヴァイオリンを取り出し、甲板の中央へ。
ヴェルーリアはなんとタンバリン二刀流。しゃんしゃかしゃんしゃか鳴らしながら、イーリンと共に甲板の中央に立つと……まずはイーリンがヴァイオリンを奏で始める。
海の傍で響く、弓が弦を滑る音。
其れに合わせてヴェルーリアは、最初は静かにタンバリンのジングルを鳴らす。
「――」
其処に伸びやかな声で入って来るのはレイリーだ。最初は静かに……そして段々と、足取り軽やかに。
そう、其れはまるで騎兵が意気揚々と馬を走らせるに似ている。たん、たん、とヴェルーリアのタンバリンがリズムを奏でだすと、自然とエレンシアも、ルシも、そして他の観客も手拍子を送り始めていた。
一見アンバランスに見えるヴァイオリンとタンバリン、そして歌。けれど誰もが“二人を祝いたい”という気持ちを持っているから――だから、不思議な調和が船を満たして、港にまで其の音は響き渡る。
船を出そうとしていた漁師が作業を止めて、微かに聞こえる音に耳を澄ます。
魚を売り買いしていた者たちが、声を止めてウェディングシップを見上げる。
やがてヴァイオリンの音はフェードアウトして。そしてレイリーの歌も終わり。そしてなんどかヴェルーリアが『あと一声!』とばかりにタンバリンを叩いて……そうして、三人の演奏は終わった。
其の瞬間。
ウェディングシップに限らず、港湾のあらゆるところから歓声が上がった。エレンシアとルシも、言葉を失って拍手をしている。
「すげえ、すげえよ……!」
「本当に。余興とするには勿体無い完成度だ」
其処にそっとモカが現れる。
まずは花嫁と花婿の前に、とん、と皿が置かれた。うん? と二人は顔を見合わせて、皿を見下ろす。
其処にはスプーンで丸くくりぬかれた果物たちが、甘そうなシロップに漬けられて鎮座していた。
「……これは?」
「花嫁様のご友人から贈られた覇竜柿、覇竜ライチ、覇竜ブルーベリーで作ったフルーツポンチです。覇竜栗も頂いたので、あとでスイートポテトにしてお持ちします」
「ええ! すっげえ、美味そう……! な、なあルシ」
もじもじと新郎を見詰めるエレンシアに、ルシは吹き出しそうになった。
そうだね、君は、私たちは沢山の人に囲まれて、さっきは食べる間もなかったから。
「挨拶が終わったら食べようか」
「やった! ……あ! そうか、挨拶があるンだな」
『ご友人の皆様、ありがとうございました。続いて、新郎新婦より、本日のご挨拶を申し上げます』
●
「ええっと。……本当に皆、来てくれてありがとうな」
エレンシアとルシの挨拶は、エレンシアのそんな言葉から始まった。
「皆がおめでとうって言ってくれる度に、ああ、あたし、今幸せなんだって思って……其れに、こんなに沢山の人に祝ってもらえて、本当に嬉しいよ! へへ、なんかちょっと泣きそうになるな」
ちなみに既に彼女の姉貴分であるフォルテシアは号泣している。
「――本当に、皆来てくれてありがとう。これが人の言う『幸せ』なんだと、改めて実感したよ。……なんて、柄にもない事を言ってしまったけれど、今日はそういう日だから許して欲しい」
ルシはそういうと、エレンシアに向き直る。
あれ? こんなの筋書きにあったっけ、と目を丸くする花嫁を、ルシは誰よりも甘く、愛おし気に見詰めた。
「私は自分で言うのもなんだけど、回りくどい言い方が多い方でね。だから今だけは、ストレートに言うよ。――愛してるよ、エレンシア。君と共に生きられる事に感謝している」
エレンシアの視界が、煌きに満ちた。
愛した人に愛していると言われる喜びを、エレンシアは今、本当の意味で享受したのだ。
「――これからも意地悪くするのは許してね。其れが私なのだから」
「……ん、な、愛してる、なら、意地悪するなよ……!」
ふふ、と笑いながら、最後は君が、とエレンシアにマイクが渡る。
エレンシアはルシに百ほど言いたいことがあるのを押さえて、……参加してくれた友人たちに向かい合った。
「とまあ、こんなあたし達だけど! 改めて、祝いの席に来てくれた友人たちに多大なる感謝を! そしてこれからも、変わらぬ交流をしてくれたら嬉しいよ!」
――どおん!
太鼓を叩くような音がした。
其れは誠司の打った祝砲だ。どおん、どおん、どおん。数度続けて打たれた後に、更に花火が昼の空を彩る。昼でも良く見えるようにと色濃く作られた花火は、これからの二人の門出を彩るようで――ルシはそっとエレンシアの腰を抱き寄せ。そして新郎新婦は勿論、参加者たちも笑顔で、暫し、其の輝きを見上げていたのだった。
成否
大成功
MVP
なし
状態異常
なし
あとがき
リクエストありがとうございました。
このハレの舞台を書かせて頂けたこと、本当に本当に嬉しいです!
ご結婚おめでとうございます!いつまでもお幸せに!
お疲れ様でした!
GMコメント
こんにちは、奇古譚です。
この度はリクエストありがとうございます!
結婚式のシナリオになります。不穏な要素は一切ありません。
雰囲気としてはイベントシナリオに近いものとなります。
●目標
ルシとエレンシアを祝福しよう
●立地
海洋の港です。
古めかしい船を一艘借りて、白いレースや布で飾り付けたウェディング・シップになります。
船内に踏み入ると甲板は食べ物が一杯。勿論飲み物もあります(未成年はノンアルコール限定です)
●エネミー?
ルシx1
エレンシアx1
エネミーだ!祝おう!
今回はサポート参加ありとなっておりますので、お二人をどんどんお祝いしましょう。
●進行
花婿・花嫁入場や、ブーケに繋がっているのは一本だけのリボンを選ぶブーケくじ(投げて海へ落ちたらやるせないので)、なんなら新郎の友人向けにブロッコリートス(こちらは海に落ちても問題ないので)などもあります。
或いはサポート参加される方々が何かを披露しても宜しいかと思います。いわゆる余興ですね。
●
此処まで読んで下さりありがとうございました。
アドリブが多くなる傾向にあります。
NGの方は明記して頂ければ、プレイング通りに描写致します。
では、いってらっしゃい。
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