シナリオ詳細
地獄行きにはまだ早い
オープニング
●終焉迫る砂漠にて
「久し振りね……フェーリアイ・ミュステリウム」
「ご機嫌よう、今日にも世界が終わりそうだね」
どこか皮肉めいた態度を取るフェーリアイに対し、『レジーナ・カームバンクル』善と悪を敷く 天鍵の 女王(p3p000665)は目を細めて見つめ返す。
ラサの砂漠地帯──南部砂漠コンシレラに山のようにそびえる終焉獣が出現するなど、ラサの地域は混乱どころの騒ぎではなかった。そこへ各所からイレギュラーズが集まるのは必然でもあった。そんな機を狙っていたかどうかはともかく、フェーリアイはレジーナを見つけ出し、交渉する素振りを見せた。
「ここで会えたのも何かの縁と思って、私に手を貸してくれない?」
かつてレジーナに世界のあらゆる知識を教示してくれた師でもあるフェーリアイの話に、レジーナは静かに耳を傾ける。
「始めはただの病人だと思ったんだ。どんな薬が効くか、わからないから診てほしいというから診てあげた。けど、感じた違和感は正しかったよ。
私のところに来た2人の男女は家族のフリをしていたけど、女の子は男にバレないように、こっそりと私に助けを求めてきた」
フェーリアイは置き手紙と思われる紙を取り出し、その内容を一通り説明する。
「ラサのヤクザ連中に無理矢理拉致監禁されている。という窮状を女の子は手紙で訴えてきた。この2人をなんとか尾行して、男やその仲間の素性までは割り出せた──」
フェーリアイが調べ上げた情報によれば、拉致監禁されている女性は複数いた。
悪徳な金貸しを生業としている男たちの組織は、どうやら借金の形と称して女性たちを連れ去っているという。
「──しかも、借金を帳消しにする代わりに幻想種の誘拐を手伝えと、債務者を脅すようなクソ以下の連中だよ」
フェーリアイから『幻想種』という言葉が出たところで、レジーナはフェーリアイが肩入れする理由を察し、「なるほどね……」とつぶやいた。
「私は殺すのは得意だけど、救出する方に関しては不安が残るからね」
フェーリアイは、ごく普通の会話のように言い切る。更にフェーリアイは、ヤクザ団体が女性たちを連れ出す取り引きの場所についてもつかんでいた。
人目を避けるためか、取り引き場所はラサの都から距離を置いた場所、砂漠に埋もれた遺跡群の一角が指定されている。フェーリアイはそこに乗り込み、女性たちを救出する腹積もりだった。
改めてレジーナに協力を求めるフェーリアイに対し、彼女の性分をよく知るレジーナは言った。
「相変わらず、同族に対しては甘いというか……割り切ることはできないものね」
「私が助けたいから助けるだけだけど?」とフェーリアイは即座に反応し、どこかごまかすように言葉を続ける。
「世界が終わるギリギリまで、善行を積んでみるのも悪くないだろ?」
●取引現場
崩れた石柱や石垣など、石造りの建物の痕跡がまばらに目立つその砂漠一帯には、確かに人の気配があった。石垣の影に身を潜めるフェーリアイと、レジーナを含めたイレギュラーズ一行は、遠くに見える焚火周辺の様子を窺う。夜の砂漠は月明りに包まれ、相手の人数を見通せるほどの視野は確保されていた。
焚火のそばには幌馬車があり、屈強そうな10名の男たちの姿もあった。実際に女性たちの姿は確認できないが、周囲を見張る男たちの素振りからして、幌に覆われている馬車の中にいるのは間違いないだろう。女性たちを連れて来て、わざわざ人目を避けるような取引――その内容がどんなものかは、大体想像がつく。
レジーナは物陰で息を潜めながら、一見落ち着き払った様子のフェーリアイを盗み見た。冷静に急襲するタイミングを見計らうフェーリアイだが、レジーナは静かな殺気をフェーリアイから感じていた。
外道の所業をここで止めなくては――誰もがはやる気持ちを押えて様子を窺う。その最中、ある瞬間が訪れる。幌馬車の中から1人の若い女性、幻想種が飛び出してきた。しかし、男の1人は即座に幻想種の女性を捕らえた。すると、男は一際大声をあげ、腕に噛みついたらしい女性をその場に組み伏せる。
聞き取れたのは、怒りに任せて女性を押さえつける男の怒号と、「傷をつけるな!」と男を止めに入る仲間の声。馬車の中からも、何人かの女性らしき悲鳴が響いた。
レジーナたちの間に走った緊張は一気に高まり、誰もが思わず身構えた。
今はその時ではない、ここはまだ機会を窺う──必要などない。ひどい仕打ちを受けている目の前の現場を、見過ごすことなどできない。
誰よりも強い思いに突き動かされたフェーリアイは、幻想種の女性を組み伏せる男の下まで一気に距離を詰めた。
フェーリアイが手にした杖を槍のように振りかざすと、旋風が発生する。旋風によって押し退けられた男の脇腹には同時に切創が刻まれ、鮮紅が浮かび上がる。血飛沫が目の前の砂地に滴るのを認め、組み伏せられていた女性は弾かれたように起き上がった。そして、一瞬の内にその場から逃げ出した。
男たちの怒号や悲鳴を無視して、フェーリアイはどこまでも遠ざかる勢いの女性の背中を追いかけていく。
より多くの石垣が現存する遺跡群の中に、女性が逃げ込んでいくのをフェーリアイは認めた。身を潜められる物陰が充分にある場所で、フェーリアイは女性の姿を懸命に探した。
「逃げないで! 私はあなたたちを助けにきたんだ。危害を加えたりはしない」
フェーリアイの言葉は虚しく響き、空漠とした地に吸い込まれていくように思えた。しかし、風の音に混じってかすかにそれは聞こえてきた。
「うぅ……」
苦悶するようなうめき声が確かに聞こえ、フェーリアイは耳を澄ませる。間もなくして、フェーリアイは半壊した石垣の向こうにその姿を見つけた。四つん這いになって蹲(うずくま)る女性に声をかけようとしたが、フェーリアイはおぞましい気配を感じて身構える。
薄汚れた女性の衣服の下で、何かが激しくうごめいている。袖口からあふれ出したスライム状のそれは、どす黒い被膜となって女性の全身を覆い尽くす。
女性は目を見張るフェーリアイの前で、異形の姿へと変容した。生えそろった黒い手足はクモの姿を連想させ、ぬらぬらとした光沢を帯びている。身体から伸びる8本の手足を自在に動かす女性は、フェーリアイに対し獣のように威嚇した。
- 地獄行きにはまだ早い完了
- 「世界が終わるギリギリまで、善行を積んでみるのも悪くないだろ?」
- GM名夏雨
- 種別通常
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2024年03月03日 22時06分
- 参加人数8/8人
- 相談6日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
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参加者一覧(8人)
リプレイ
止める間もなく飛び出したフェーリアイ・ミュステリウムの姿を目で追いながら、イレギュラーズは迅速に行動に移った。
『遺言代行業』志屍 瑠璃(p3p000416)と『目的第一』マッチョ ☆ プリン(p3p008503)は、『特異運命座標』エーレン・キリエ(p3p009844)が運転する鉄帝国産のグラードⅢ――蒸気機関式の装甲車両に乗り込んだ。エーレンたちと共に進んでフェーリアイを追いかけようとする瑠璃は、ヤクザの相手を務める者らに声をかける。
「ここは任せましたよ――」
「飛ばすぞ、舌を噛むなよ!」
瑠璃の一言に被せるように言った直後、エーレンはグラードⅢを急発進させた。否が応でも一帯に響き渡る騒々しい走行音は、ヤクザたちの注意を充分に引いた。
3人を乗せた車両は大量の砂を散らし、障害物となる遺跡を避けて小高い砂山を越えていく。スピードを出すエーレンの運転もあり、同乗している瑠璃とマッチョは激しく揺さぶられる。最悪の乗り心地というグラードⅢの評判は、期待を裏切らないものであった。
いつの間にかエーレンの肩に止まっていた小鳥は、車体が大きく揺れる度に何度も体を跳ねた。ファミリアー――使い魔である小鳥は、互いの状況を共有するために『レジーナ・カームバンクル』善と悪を敷く 天鍵の 女王(p3p000665)が託したものだった。
フェーリアイを追いかけようとしたヤクザは、猛然と走り去る車両を前にして呆気に取られる。
超人的な視野の広さを駆使する『夜を裂く星』橋場・ステラ(p3p008617)は、瞬時にヤクザたちの位置取りや動きを把握する。事態を把握し切れないでいるヤクザたちの至近距離に向けて、ステラは膨大な魔力を放った。それは砲撃のごとく砂地を吹き飛ばし、思わぬ襲撃を受けたヤクザは縮み上がる。
「塵も残さず消え去りたいなら、さあ、此方へどうぞ?」
声高に宣言したステラは、威嚇射撃によって怯んでいるヤクザたちの前に堂々と姿を見せた。
ステラを始めとするイレギュラーズは、崩れかけた石垣の向こうから続々と姿を見せ、ヤクザたちと対峙する。
「何なんだ?! お前ら、誰の差し金だ!!!!」
リーダーらしき大柄の人間種の男──ヤクザAは憤慨した様子でナイフを抜き、他の男たちに指示を出す。
「はやく逃げた女を連れ戻せっ!!」
どうするべきか当惑していたヤクザB、C、Dは、リーダーの指示通りに動こうとする。それだけを考えて駆け出そうとした3人だったが、
「まぁ! レディを目の前にして素通りしようだなんて──」
冗談らしく振る舞うレジーナの言葉が耳に入った。レジーナを無視しようとした男たちは、またも目を剥くような攻撃にさらされる。
どこからともなく降り注ぐ無数の武器──あらゆる剣や槍がヤクザたちに向かって飛び交い、情けない絶叫が響き渡った。
「そんなつれないこと……しないわよねぇ?」
そう言って悪どい笑みを浮かべるレジーナの表情は、ヤクザAには一層憎たらしいものに見えた。
レジーナやステラたちがヤクザの注意を引いている間に、『ガイアネモネ』紅花 牡丹(p3p010983)は拉致された女性たちがいる馬車の方へと接近する。その姿をヤクザたちに気取られないように、牡丹は石垣などの影に身を潜めながら行動した。
牡丹が馬車の近くまで向かう間にも、『Pantera Nera』モカ・ビアンキーニ(p3p007999)やオセロットは息巻くヤクザたちを相手に応戦する。
薄々商品である女性たちが目当てであることに気づいたのか、ヤクザたちは馬車への接近を妨げるように前に出た。
モカは自らのオーラを操り具現化することで、獰猛な黒豹の姿を生み出す。モカの黒豹は獲物として狙いを定めたヤクザの男たちに向かっていき、鋭い牙や爪を容赦なく突き立てる。一方で、オセロットはヤクザD、Eの攻撃を引きつけ、互いにナイフを構える。しかし、人間種の男2人の刃がオセロットを捉えることはなかった。顔を真っ赤にして必死になる男たちとは対象的に、流れるような動作で刃から身をそらすオセロットには余裕すら感じられた。
オセロットを始末するつもりで挑む男たちは、見境なく攻めかかる。ヤクザD、Eを見かねたヤクザF、Gも加わり、入り乱れる刃がオセロットを追い詰めようとする。
オセロットは懐に引き入れたヤクザDの腕を脇でホールドし、腹に膝打ちを加えたうえで相手を引き倒す。勢いあまってヤクザDが他の仲間の前に転がり出た瞬間、オセロットはナイフを構え直してつぶやいた。
「きっちり落とし前つけてもらおうか」
すでに背後を狙おうとしたヤクザEの動きを見切っていたオセロットは振り向き様、表情ひとつ変えずにヤクザEのみぞおちに拳を突き当てた。呆気なくくずおれるヤクザEを見て、他のヤクザたちは思わず息を呑んだ。そのわずかな間に、オセロットを取り囲んでいたヤクザたちは次々と斬りかかられる。オセロットの豪胆かつ俊敏な動きに、ヤクザたちは慄然とした。
ヤクザたちが攻撃に晒されている隙に乗じて、牡丹はすでに馬車の中を窺っていた。馬車を覆う幌の隙間の向こうには、確かに4人の女性たちの影があった。馬車の奥で脅えながら身を寄せ合う女性たちに向けて、牡丹は小声でささやく。
「オレたちはローレットのイレギュラーズだ! あんたらを助けに来たぜ!」
馬車にとどまる女性たちを安心させようと、牡丹は味方であることを訴えた。
女性たちが無暗に逃げ出す恐れを除き、ヤクザたちに向き直る牡丹は透かさず投降を促した。
「よう、ヤクザ共。投降するなら命だけは助けてやるぜ?」
複雑に揺らめく銀河の無数の瞬き、燃えるような輝きを放つ片翼を広げ、牡丹はヤクザたちの戦意を削ごうと果敢に向かっていく。
「……なんだ?」
――ウワサでは聞いていたが、まともに見るのは初めてだ。
寄生型終焉獣と、その宿主となってしまった女性の姿を目の当たりにしたフェーリアイは、伝え聞いていた寄生型の魔物の話を頭の中で反すうする。しかし、その中のどれにも具体的な対処法などない。
幻想種の女性の容姿は覆われた黒い被膜と一体化し、見る影もない。言葉も失い、獣のように歯をむき出して唸り、威嚇を繰り返す。
フェーリアイは終焉獣との距離を保ちつつ、どう行動するべきか逡巡する。クモのような手足を生やして一歩踏み出した終焉獣は、今にもフェーリアイに襲いかかりそうな気配を発していた。
じりじりと緊迫感が高まる中、フェーリアイは何かが近づいてくる音を耳にする。それは紛れもなくエーレンが運転するグラードⅢの走行音だった。次の瞬間、フェーリアイは砂山の向こうから現れる車体を目にする。車体は砂山を下って浮き上がったが、バランスを保って着地した。そのままスピードを維持した状態で、猛然とフェーリアイらの前まで接近してくる。
遺跡群を避けるためにグラードⅢがカーブを描いたところで、車両のハッチが開かれる。ハッチの下から上半身を覗かせた瑠璃は、並んだ石柱の脇を通る車両から終焉獣に狙いを定めた。石柱の列が途絶えた瞬間を狙って、瑠璃の手はすばやく印を結んだ。
瑠璃の妖術は、月光が映す影の中からあるものを浮かび上がらせた。にわかに影の中で何かかがうごめいたことに終焉獣は気づく。終焉獣自身の影の中から飛び出したそれは、食らいつく牙となって襲いかかる。まるで影そのものに食らわれる終焉獣は、被膜を引き剥がされながら必死に抵抗を続けた。
フェーリアイが身をよじる終焉獣を注視している間にも、停車したグラードⅢから降り立った3人は、続々とその場に駆け寄ってきた。
加勢しようとする3人に対し、フェーリアイは女性が寄生された状態であることを訴えた。一目見た時から感じていた終焉獣特有の滅びの気配を、3人のイレギュラーズとしての直感が捉えていた。
「鳴神抜刀流、霧江詠蓮だ――」
刀を構えたエーレンは、終焉獣に対し名乗りをあげた。そして、寄生された女性に気持ちを向けるエーレンは、自身の言葉が届くことを願った。
「怖いだろうが、今少しばかりの辛抱だ。必ず助けるぞ!」
その横で、マッチョはフェーリアイをいさめるように言った。
「仕事をするために俺たちはいるが、あまり先走らないでくれると助かるな」
マッチョの言葉を聞いたフェーリアイは、冷静さを取り戻したように杖を構え直す。
「それもそうだね、お互い仕事をしようじゃないか」
フェーリアイのその言葉が合図であったかのように、その場から散開する4人は飛びかかる終焉獣を回避した。終焉獣は8本の手足でクモのように動き回り、手足をバネのように利かせることで砂地を跳ねる。すばやい動きで相手を翻弄しようとする終焉獣だが、4人は動じることなく砂地を蹴り、各々が殺気立つ終焉獣との距離を保つ。
重厚な鎧を身につけているかのような全身鋼鉄の姿のマッチョは、終焉獣に正面から挑む動きを見せた。マッチョの超人的なスピードは終焉獣を上回り、砂埃を舞い上げて接近したマッチョは終焉獣と激突する。
激しく突き飛ばされた終焉獣だが、即座に態勢を立て直す。すると、終焉獣は刀を振り下ろす直前のエーレンを視界に捉えた。気迫のこもったエーレンの一太刀は、終焉獣に向けて衝撃波を放つように攻撃を飛ばす。終焉獣は、衝撃波を避けようと体を宙に踊らせた。それと同時に、終焉獣は口元から糸のかたまりのようなものを吹き出した。すばやく反応するエーレンは糸を避け、相打ちは免れる。
1本の脚の側面を削り落とされ、自身に体を向けたままの終焉獣をエーレンは警戒する。
終焉獣と斜めに向かい合うように移動しようとしたエーレンを、マッチョは制止した。終焉獣が放った糸のかたまりから広がるように、クモの巣がエーレンの足元に到達しようとしていたからだ。砂地の上をゆっくりと這う糸に触れないように、エーレンは迅速に飛び退いた。
まるで糸自体が意思を持って動いているかのような光景に対し、杖を突き立てたフェーリアイは泰然として構える。
「面白い芸ができるんだね」
そう言って不敵な笑みを浮かべるフェーリアイは、自身の魔力を増幅させることに集中する。強力な魔法を発揮しようとするフェーリアイの頭上一帯には、雷鳴が轟き始めた。
「私も、とっておきを披露してあげるよ」
フェーリアイの一言と共に連続で稲妻が走り、地上の終焉獣を狙って次々と落雷を起こした。
「それで……まだ抵抗するつもりなの?」
強烈な瞬きと共に放たれた熱線が、砂山を激しく吹き飛ばした直後、レジーナはつぶやいた。
レジーナは圧倒的な魔力を見せつけ、すでに半数以上の男たちを打ちのめした状態で、再度降伏を促した。
レジーナの脅しに対し、男たちは身震いしながら膝を付き、続々とナイフを捨ててみせた。追い詰められた状況の中、歯ぎしりしながらレジーナを睨みつけるヤクザAだけは、怒りで身を震わせていた。だが、とうとうヤクザAもナイフを捨てる素振りを見せる──ように思われた。
ヤクザAの殺意によってギラつく眼差しをオセロットは見逃さず、レジーナを狙ってナイフを投げつけようとした瞬間を捕える。ヤクザAを背後から羽交い締めにしたオセロットは、強引にその両腕を縛り上げた。
「よぉ。自分達が商品みたいに転がされる気分はどうだよ?」
馬車にあったロープなどを利用し、オセロットは率先してヤクザたちを拘束して回る。オセロットは男たちを値踏みするように言ったが、
「まあ、テメエらじゃ雑巾ほどの価値もありゃしねえな」
ヤクザの存在を心底軽蔑するオセロットは、そう言い捨てて背中を向けた。
「ごきげんよう、お嬢さんたち。私たちはローレット所属のイレギュラーズです」
一方で、モカは馬車の中にいた女性たちを安心させるため、笑顔を交えて状況を説明する。
「──安心してね。怖いお兄さんたちは、全員ボコボコにしておいたよ」
モカは手短に事情を説明し、女性たちが危険にさらされることを案じて要請した。
「私たちは今からもっと恐ろしい怪物を倒しに行くから、ここで待っていてくれないかな」
レジーナのファミリアーを通じて、終焉獣の存在を察知した5人は、その場からグラードⅢのタイヤ痕をたどろうとする。
牡丹は指笛で合図を送り、石垣の影に待機させていた馬車を呼び寄せる。調教された亜竜──ドレイクがけん引する馬車に乗り込む前に、ステラは雷鳴が轟いた空の辺りを一瞥した。
瑠璃は一身に終焉獣の注意を引きつけ、身を挺して終焉獣の排除に臨む。
終焉獣は、砂地のあちこちにクモの巣を広げた。巣自体が意思を持つかのように、付近に近づいた者を捕えようとする糸がそこから放たれる。終焉獣は張り巡らせた巣を自在に操ることで、イレギュラーズたちを追い詰めようとする。
クモの巣の方へ追い込むようにして、終焉獣は瑠璃へと突っ込む動きを見せた。瑠璃の左足首には糸が絡みついたが、即座に糸は断ち切られる。自身の精神力を変換し、魔弾を放った瑠璃は、更に前脚を掲げて襲いかかろうとした終焉獣に対しても一撃を撃ち込んだ。
終焉獣が醜悪な絶叫をあげてよろめくのと同時に、瑠璃は足首に激痛を覚えた。巻きついたままの糸が、ひとりでに瑠璃の足首を締め上げていたからだ。
クモの糸の脅威に晒されながらも、寄生された女性を救うため、瑠璃やマッチョ、エーレンは懸命に終焉獣へと挑んでいく。消耗が積み重なることを危惧し、フェーリアイは攻撃に従事するだけでなく、負傷した者に向けて自らの魔力を発散、送り込むことで治癒の力を促進させる。
頼りになる弟子、レジーナの気配を探し始めた時、フェーリアイは砂山の向こうに馬車の屋根を確かに見た。
レジーナたちは終焉獣の姿を認め、牡丹が馬車を停める前に身を乗り出していた。中でも即座に駆け寄ったモカの姿を、終焉獣は間合いに踏み込まれた時点で捉える。モカは残像が生じるほどのスピードで、終焉獣に連続で拳を打ち込む。掲げられた終焉獣の脚がミットのようにモカの拳を受け止めたのは、わずかな間だけであった。一気に衝撃を増した突きが炸裂し、押し込まれた終焉獣の身体は後方へと滑り込む。
合流を果たした一同は一気に勝負を仕掛けようと、攻撃を畳みかける流れで動き出す。
「腑抜けた姿を見せてる暇なんてないのだわ」
杖を握るフェーリアイのそばに立ち、レジーナは小憎らしい態度でフェーリアイを煽ってみせる。
「――同胞を助けるんでしょう?」
フェーリアイは静かに杖を握り返し、礼を言う代わりに威勢よく答えた。
「たまには優秀な弟子を立ててやろうと思ったのさ」
終焉獣の逃走を阻止するため、包囲網を敷こうとステラは回り込む。ステラの動きに合わせて、牡丹やオセロットも終焉獣に立ち向かう。
寄生されている女性を救うため、それぞれ終焉獣の排除に臨む者たちは、攻撃の波を加速させていく。
接近する者に向けて前脚から鋭いジャブを繰り出し、終焉獣は頻りに威嚇する。その前脚も黒い被膜が削られるなどして、ボロボロの状態で、消耗が積み重なっていることは一目瞭然であった。しかし、それはイレギュラーズも同じと言えた。
心身を削る勢いで攻撃を積み重ねるイレギュラーズに向けて、フェーリアイも懸命に魔力を注ぎ込み、支援を絶やさないよう努めた。
直前まで攻撃的だった終焉獣だが、大きく飛び退き後退していく。それを追撃しようとした牡丹は、直前で終焉獣の狙いに気づいた。すでに牡丹の後に続こうとしている者らの動きもあり、意を決した牡丹は、正面から終焉獣の攻撃を遮ろうと動いた。
前進する牡丹が踏み込んだ瞬間、終焉獣はネットのように広がるクモの巣を放った。その直後、牡丹は回転させた全身でクモの巣を払い落とすように、宙に体を踊らせた。
片翼に糸が絡んだことで、牡丹は一瞬バランスを崩して着地する。牡丹に絡みつき、体を這い回る糸は一瞬の内に首筋に集束し、牡丹を締め上げようとしてきた。
呼吸ができずに身をよじる牡丹に終焉獣の狙いは向けられたが、ステラはその注意をそらすように攻撃に出る。
ステラの鋭いキックが終焉獣に向かって飛び出し、頭上付近をかすめた。連続で蹴り技を繰り出すステラを振り払うことができず、終焉獣は一方的に防戦を強いられる。更にステラが放った強烈な回し蹴りをまともに食らった終焉獣は、クモの片脚がちぎれるほどに吹き飛ばされた。
砂地にのめり込んだ終焉獣だったが、即座に起き上がろうとする。しかし、ステラからの一撃を受けた体は大きくよろめいた。その瞬間を狙っていたかのように、エーレンは終焉獣の懐へと飛び込んだ。
「さあエイドス、頼んだぞ!」
そう言い放ったエーレンの手の中には、鈍い光が掲げられた。終焉獣に向けて突き出された光体は、触れ合った瞬間に一層輝きを増した。
強烈な閃光が、終焉獣の体を貫き覆う。たちまち激しい明滅が皆の視界を支配し、終焉獣の周囲にはたちまち白煙が立ち込める。
終焉獣──寄生されていた女性の姿は、確かな変化を見せた。黒い被膜が全身から徐々に剥がれ落ち、すべてのクモの脚が機能を失ったように地面に転がる。
煙の向こうに見え隠れする女性の影はゆっくりと膝をつき、力なくくずおれる。そこには、終焉獣の寄生から解放された女性が横たわっていた。
女性のそばに駆け寄ったマッチョは、呼吸の有無を確かめる。その呼吸は弱々しくはあるが、女性は確かに生きていた。
女性を馬車に運ぼうとするマッチョが抱え上げると、フェーリアイは女性の顔を確かめて言った。
「ああ……彼女だよ。私に最初に助けを求めてきたのは」
フェーリアイにSOSを送った女性を見下ろし、マッチョはやくざのことを指して言った。
「……随分と拙い連中だが、それで助かったという訳か」
ようやく一段落つき、馬車に残されている女性たちの下に戻ろうとした時、エーレンはフェーリアイに声をかけた。
「本格的に組織を潰す段になったら声をかけてくれよ。こういう輩は俺も許しがたい。俺の足の速さはきっと何かと役に立つぞ」
フェーリアイは「それは心強いね」と応じると、
「まだやることが残ってる。手伝ってくれるとありがたいんだが──」
ギルドでの女性たちの保護、ヤクザの自供を引き出すことに関してなど、イレギュラーズからの協力の申し出を受ける中、フェーリアイはレジーナと視線を交わす。
「我が親愛なる師の頼みとあっては、断れないわね」
その一言と笑みを向けるレジーナは、フェーリアイと強く握手を交わした。
成否
成功
MVP
なし
状態異常
なし
あとがき
ご参加ありがとうございました。
GMコメント
●情報精度
このシナリオの情報精度はBです。
依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。
●成功条件について
●必須条件
拉致されている女性たちを無事に取り返すこと。
●任意条件
寄生型終焉獣の寄生を解除すること。(やむを得ず殺めてしまっても、終焉獣としてカウントする)
●戦闘場所について
夜の砂漠。
遺跡が点在する人気のない砂漠地帯。
●フェーリアイについて
寄生型終焉獣と対峙し孤立状態。1ターンもあれば追いつける距離にはいる。
金貸しのヤクザ団体に関しては、近い内に組織ごと潰そうかと考えている。
●ラサのヤクザたちについて
計10人。人間種の男7人、獣種の男3人が馬車周辺の警備をしている。馬車の中には、3、4人ほどの女性がいると思われる。
攻撃手段は至近距離系のみ。
●寄生型終焉獣について
クモと人が掛け合わさった化物のような見た目。
寄生された女性は完全に狂気状態に陥っているため、会話は不可能。
クモのような手足は見た目ほど脆くはなく、簡単にはへし折れない。八方に伸びる長い手足で相手を突き飛ばそうとする(物近単)。
クモらしく糸を飛ばし、もがけばもがくほど食い込む糸で対象を苛む(神遠単【窒息】、神近扇【足止め】【流血】)。
●【寄生】の解除について
寄生型終焉獣の寄生を解除するには対象者を不殺で倒した上で、『死せる星のエイドス』を使用することで『確実・安全』に解き放つことが出来ます。
また、該当アイテムがない場合であっても『願う星のアレーティア』を所持していれば確率に応じて寄生をキャンセル可能です。(確実ではない為、より強く願うことが必要となります)
解き放つことが出来なかった場合は『滅びのアークが体内に残った状態』で対象者は深い眠りにつきます。
個性豊かなイレギュラーズの皆さんの参加をお待ちしております。
最初の行動を決めてください
以下の選択肢の中から行動を選択して下さい。
【1】フェーリアイの跡を追いかける(終焉獣に対処する)
フェーリアイの背中はあっという間に遠ざかっていったが、今すぐに行動すれば追いつくだろう。
【2】ヤクザたちの足止めを担う
フェーリアイの襲撃によって女性の1人が逃げ出したことで、男たちは激昂する。何人かはフェーリアイを追いかけようとしている。
逃げた女性のことはフェーリアイに託し、他の女性たちを救出するべきか──。
【3】その他
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