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シナリオ詳細

<崩落のザックーム>滅びを蒔くモノ

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 昏い昏い淀みの底で蠢いていた何かは、その全体を激しく蠕動させていた。思考するような知性もないはずのそれだが、確かに感じていたのだ。自分の一部だったものが何者かによって消されたことを。その痛みを。
 蠢く泥濘はなおも動き続け、飛沫のようにその一部が飛散するとそれらは再び混沌の大地へと現出した。

 ラサの南部に広がる広大な砂漠地帯。コンシレラと呼ばれるその場所に漆黒の泥濘はべちゃりと落ちた。
 幾つかの黒い水溜まりのようになったそれらは、本能に従い寄生すべき相手を探す。しかし、それにとっては運が悪かったと言えるだろう。
 近くに寄生でいるような生物が存在せず、どれだけ動き回っても砂塵と熱い日差ししか感じ取ることが出来なかったのだ。この過酷な環境下では、早く宿主を見つけなければ飢えと渇きに耐えきれずやがて消滅してしまうだろう。
 既に端の方から崩れ始めているのを確かに感じていた。
 本能が告げる危機感に従い、幾つかに分かれていた泥濘は一つに纏まり体積を増やすが、それでも時間稼ぎにしかならないのは明白だ。

「……貴方に役割をあげましょう」
 元は一抱えの岩ほどもあった体積が、握りこぶし一つ分となり消滅も間近に迫ったその時。昏き泥濘に救いの手を差し伸べた者が現れた。
 いや、向こうからしたら救ったつもりなどないのだろう。ただ近くに使えそうな駒があったから使った、ただそれだけのだ。
 その人物――魔女ファルカウは黒い塊の中心に小さな種のようなものを植え付けると、直ぐに種は芽吹き枝葉を伸ばしていく。
 そしてその表面は光さえも飲み込む漆黒に染まっていた。
「存分に喰らいなさい。飢え乾く砂漠すら、今の貴方には饗膳となるでしょう」
 そう告げて魔女は姿を消し、その場には黒い巨樹が残されたのだった。


 ラサで異変が起きた。その事がイレギュラーズへ周知されるにはさほど時間はかからなかった。
 元々、コンシレラ砂漠にはベヒーモスと呼ばれる巨大な終焉獣が出現しており、そこから分離した小型ベヒーモスを中心とした終焉の手勢が荒らしていたのだ。
 ゆえに、そのコンシレラ砂漠で状況が変化したことに気付いた者は多く、すぐに情報が集積されていったのだ。
「まずはこれを見てくれ」
 そう言って『黒猫の』ショウ(p3n000005)はコンシレラ砂漠の地図を広げると、その一角にあった黒い丸印を指す。
「既に知っているヤツも多いだろうが、コンシレラ砂漠で動きがあった。今回の依頼はその中でもこの場所に関するものだ」
 示された場所はオアシスもなく人が生活するような場所ではない。重要度はそこまで高くないように見えるが、ショウの顔つきには焦りのようなものが見える。
「ここには本来何もなかったはずだが、調査の途中で小さな森が現れていることが確認された。木々が育つような栄養なんてないはずなのに、な」
 曰く、その森を構成する木々は一様に黒く染まっており、同じく黒く染まった花からは濃密な滅びが花粉のように散布されている。とのことだった。
 森は大地の栄養だけでなく、マナすらも吸い上げて成長して拡大を続け滅びをまき散らしているのだ。早くに対処しなければ、このまま広がり続け対処することも困難となるだろう。
「そこでお前たちに依頼だ。この黒い森がこれ以上大きくなる前に排除して欲しい」
 説明を受けて事態が思った以上に切迫していることを知ると、依頼を受けることを決めたイレギュラーズはすぐに装備を整えて地図に記された場所へと向かうのだった。

GMコメント

●ご挨拶
 今回はラサで起きた異変の解決です。
 よろしくお願い致します。

●目標
 南部砂漠コンシレラに現れた黒い森の完全消滅

●ロケーションなど
 南部砂漠コンシレラの一角に突如として出現した黒い森です。
 生えている草木や花の全てが黒いその森の内部は非常に濃い滅びが蔓延しており、一般人は近づくことすらできず、滅びに耐性のあるイレギュラーズでも体調が悪くなる者も現れるほどです。
 この森は大地の栄養とマナを吸いつくして、土地を殺しながら拡大を続けておりその速度は次第に早くなっているようです。
 皆さんは黒い森手前からスタートし、森を突破して中央に構える『黒の大樹』を倒さなければなりません。

●エネミー
・終焉獣『黒の大樹』
 元々は寄生型終焉獣の切れ端のような存在でしたが、手駒として使えると判断した魔女ファルカウによって力を与えられました。
 現在は黒い森の中心にしっかりと根付いています。

 ステータス傾向としてはHP、AP、防技、抵抗の高い耐久型です。
 イレギュラーズの接近を感じ取ると、枝や根を鞭のように動かして打撃してきたり、刃のように鋭い葉を飛ばすなど植物らしい戦い方をするでしょう。
 また、大地から栄養やマナを吸収することで、高い【再生】【充填】能力を持つほか、ファルカウから与えられた力の一端なのか【火炎無効】も持つようです。

 これを撃破する事によって、黒い森の拡大は停止し消滅することになります。

・終焉獣『黒い樹木』×不明
 『黒の大樹』が広げた森に生える黒い樹木は、それら全てが『黒の大樹』の末端であり、侵入者に対して攻撃を仕掛けてきます。
 いわゆるトレントのような存在で、根を足代わりに歩くことも可能なようです。
 基本的な戦闘方法やステータス傾向は『大樹』とは変わらず、体格が小さい分だけ劣化版と言えるでしょう。

・憤怒の火精×少数
 魔女ファルカウが置いていった使い魔です。
 ファルカウの怒りを体現するかのように激しく燃え盛る体を持ちます。
 動きの鈍い『黒の大樹』や『黒い樹木』の隙を埋めるように苛烈に攻撃してきますが、数は『黒い樹木』に比べるとかなり少ないようです。
 ステータス傾向としてはAP、神攻、反応が高く先手を取る事を得意としているようです。
 また、攻撃の全てに【鬼道】と【火炎系列】のBS付与を持ち、火精自体は【火炎無効】を持ちます。

●特記事項
・『滅びへの種』
 滅びのアークを土地に植付けて、魔法樹を急速に育てます。
 その成長の大元はパンドラや大地そのもの支える魔素的なものです。大地のマナを吸いあげて、滅びの魔法樹を育て、その土地を枯らし尽くすだけでなく、バグ・ホールが開きやすいように調整する役割も担っているようです。

・『滅石花(ほうせき)』
 滅びへの種で育った魔法樹に咲く花です。所謂、滅びのアークを蔓延させるための花粉を出す役割を担っています。

 『黒の大樹』及び『黒の樹木』は『滅びへの種』から芽吹いた魔法樹と寄生型終焉獣が一体化したもので、大地から栄養とマナを吸って自身を成長させ、『滅石花』を咲かせることで滅びを蔓延させつつ『滅びの種』を生産し、寄生した『滅びの種』を蒔くというサイクルで黒の森を拡大させているようです。

 黒い森の内部では、『滅石花』の蒔く花粉の影響によって非常に濃い滅びが蔓延しているため、侵入したイレギュラーズには2~3ターンに1度BSが付与される可能性があります。
 付与されるBSは【毒系列】【痺れ系列】【窒息系列】【不調系列】【麻痺系列】の中からランダムで1種が選択されます。
 これらは特殊抵抗やBS無効などで予防出来るほか、BS回復での治療は可能となります。

●サポート参加
 解放してあります。
 シナリオ趣旨・公序良俗等に合致するサポート参加者のみが描写対象となります。
 極力の描写を努めますが、条件を満たしている場合でも、サポート参加者が非常に多人数になった場合、描写対象から除外される場合があります。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はCです。
 情報精度は低めで、不測の事態が起きる可能性があります。

  • <崩落のザックーム>滅びを蒔くモノ完了
  • GM名東雲東
  • 種別通常
  • 難易度HARD
  • 冒険終了日時2024年02月24日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談6日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

(サポートPC3人)参加者一覧(8人)

寒櫻院・史之(p3p002233)
冬結
ソア(p3p007025)
愛しき雷陣
カイン・レジスト(p3p008357)
数多異世界の冒険者
フラーゴラ・トラモント(p3p008825)
星月を掬うひと
ルーキス・ファウン(p3p008870)
蒼光双閃
イズマ・トーティス(p3p009471)
青き鋼の音色
囲 飛呂(p3p010030)
君の為に
紅花 牡丹(p3p010983)
ガイアネモネ

リプレイ


 熱砂が広がるコンシレラの地。その上空より一つの影が大地へと降りた。
「かなり広がっているね。一直線で進んでも、それなりに掛かると思うよ」
 そう言って『冬結』寒櫻院・史之(p3p002233)が指したのは、目の前に広がる漆黒に染まった森だった。
 本来、砂漠という環境にはありえないはずの不気味な存在。その全てが終焉獣であり、滅びを振りまきながら広がっているのだ。
「大地が……死にかけている」
「この濃密な滅びの気配、これ以上の拡大は危険ですね」
 足元の砂を手で掬って『数多異世界の冒険者』カイン・レジスト(p3p008357)が呟く。砂漠は元から生命の気配が薄い環境ではあるが、それでも一つの生態系として成立している。
 そのはずなのに、足元の砂からは生命の気配どころか、地脈の魔力さえも感じられない。この貪食の森が全てを喰らいながら広がり、滅びを振りまいているのだ。
 滅びの結晶とも言える花粉を吸わないように口元を押さえながら『散華閃刀』ルーキス・ファウン(p3p008870)もカインの言葉に続く。
「そうこう言っている間に……見ろ」
「末端を排除しても埒が明かない。目指すなら……」
 何かに気付いた『点睛穿貫』囲 飛呂(p3p010030)が指した先を見れば、今まさに新たな暗黒の草木が地面から生え始めている所だった。
 森が円形に広がっているとして、同じペースで広がっていくとすれば、外周が長くなるほどに時間あたりの拡大面積が大きくなるという事だ。
 『青き鋼の音色』イズマ・トーティス(p3p009471)が顔を上げると、その場所からもよく見える、森の中心に聳える巨大樹があった。
 潰すならばやはり核だろう。
「なら、まずは森の突破か……」
「こんな森、焼き尽くしてやろうね!」
 目的をはっきりと共有すると、『ガイアネモネ』紅花 牡丹(p3p010983)が好戦的な笑みを浮かべて拳を打ち合わせ、『無尽虎爪』ソア(p3p007025)もそれに同意するとばちばちと雷光を奔らせる。
「ワタシの大好きなラサの砂漠に沈む夕日……。その景色をみんなで守る!」
 『星月を掬うひと』フラーゴラ・トラモント(p3p008825)の言葉にその場の全員が頷くと、イレギュラーズは黒の森へと足を踏み入れるのだった。


 黒の森の中を駆けるイレギュラーズ。ここは敵陣の只中――いや、敵の胃袋の中と言っていい場所だ。足を止めれば瞬く間に喰われてしまうだろう。
 俊足のフラーゴラが光を放って闇を照らしながら先導し、最短最速で中央へと向かうために足を動かす。
「先回りされている!」
「ならこっちだ!」
 しかし、敵も易々と突破を許すつもりはなく前方を塞ぐように黒い樹木が動く。
 さながら現実となった迷いの森だが、進路を透視したイズマが声を上げると、すかさずカインが別の進路を示す。森の中でも優れた感覚と冒険の経験を活かして、最も効率的な進路を瞬時に見出しているのだ。
 だが、それでも周囲の樹木は全て終焉獣。そして、ファルカウの置き土産である火精もちらほらと見えていた。
「俺たちの邪魔はさせねぇ!」
「テメェらの相手はこのオレだぁ!」
 蛇と蔦が刻まれた狙撃銃を構えた飛呂が引き金を引くが、放たれし弾丸は一発ではない。目にも止まらぬ早業でリロードと射撃を繰り返すことで、敵をその場に縫いとめたのだ。
 そして、動きの止まったところに、星々の煌きを宿した赤黒い片翼を広げた牡丹が突っ込む。決して美しい飛び姿とは言えないが、烈火の如き武闘は炎には強いはずの黒い樹木や憤怒の火精を焼き尽くすかの如く。
 縦横無尽に暴れ回ることでその敵意を引きつけたのだ。
「道を塞ぐというのなら開けるまで!」
「そんな炎効かないよ!」
 飛呂が押さえつけ牡丹が引き付けているその隙を狙って、カインが術式を構築する。本来ならばその威力ゆえに膨大な魔力と複雑な術式を、時間をかけて構築しなければならない術式が瞬時に組み上がると、眼前を貫く一条の閃光となって黒い樹木を消し飛ばしたのだ。
 一方でソアも飛び出していた。踏み込みにくいはずの砂漠の砂をしっかりと足で捉え、並外れた脚力による跳躍。弾丸のように迫ると、そのまま憤怒の火精を鷲掴みにして地面へと叩きつけた。
 火精の発する炎で皮膚が焼けるが、そんなことなどお構いなしに鋭く伸びた爪を乱舞させ賽の目に切り刻む。
「末端に構ってる暇は無い。退け、通してもらうぞ!」
 倒した傍から無尽蔵に湧き出て道を塞ごうとする黒い森。
 夜空を思わせる黒き細剣を抜いたイズマが、その剣身に魔力を込めると剣の周囲が冷気によって白く染まる。それをすかさず振り抜けば、凍てつく突風が嵐の如く巻き起こり、立ちふさがる終焉獣や精霊を纏めて吹き飛ばした。直後、 古竜の言語によって描かれた魔法陣が広がり、黄金の輝きが黒い森の闇を斬り裂いた。
「本当に鬱陶しいな……!」
「森の中心までもう少しです! 一気に駆け抜けましょう!」
 イズマが開いた道を左右から阻もうと樹木や火精が迫るが、風鳴りが響いたかと思うと両断された。
 史之が凄まじい膂力で太刀を抜き放っていたのだ。
 その斬撃は空気を斬り裂きながら宙を進み、敵へと衝突するとそのまま突き抜け、まるで後から斬られたことに気付いたかのように一拍遅れて斬られた者の体が二つに割れた。
 史之と反対の方へ対処に動いていたのはルーキスだ。
 鮮やかな青と穢れなき白。二つの刀をその振るい、その美しさとはかけ離れた鬼の如き膂力による、力任せな斬撃によって敵を駆逐していくと、刀の切っ先をある方向へと向けた。
 暗い森の中であっても、森の中心がどちらにあるのかルーキスは常に感じ取っていたのだ。
 イレギュラーズはその勢いのまま、ルーキスの示した方角へと突き進み森の突破を試みる。
 だが、全てが順調であった訳ではない。森の内部は滅石花と呼ばれる花の蒔く、濃密な滅びを宿した花粉で満ちているのだ。
 その毒性は非常に高く、例えイレギュラーズであっても耐性の低い者は容赦なく侵され、身体への異常が出始めていたのだ。
「治療は僕たちに任せて」
「傷も纏めて治しておくぞ!」
 しかし、イレギュラーズ側もこの程度は予測済みで備えていない訳が無かった。後方に控えていた三人が主力の不調を感じ取って前へと出たのだ。
 『黄昏夢廸』ランドウェラ=ロード=ロウス(p3p000788)が言葉に魔力を乗せて周囲へと広げ、仲間の魔力を賦活すると共に異常を取り去ると、『揺蕩う老魚』海音寺 潮(p3p001498)もそれに続いて聖なる歌声を響かせた。
 歌声には癒しの力が込められており、交戦によって負った傷や毒で失われた体力を回復させていく。
「さぁ、行ってきな!」
 万全に近い状態へと回復した主力の中でも、前衛を務める者へ後押しするように『クラブチャンピオン シード選手』岩倉・鈴音(p3p006119)が手を伸ばすと、その手から伝わる聖なる力が守護として体を包み込む。
 やがて、イレギュラーズは黒い森の外周を突破し、その勢いのままにその中心へと躍り出るのであった。


 地脈。それは大地の下を循環する魔力の流れであり、それが太く多いほどに土地は豊かになる傾向がある。砂漠のような土地でもそれは存在し、過酷な環境であるからこそ生物の生存に必要不可欠なものとなっていた。
 しかし、付近の地脈は枯れかけている。漆黒の巨樹が地脈にまで根を伸ばし、流れる魔力を喰らいつくす勢いで吸い上げているからだ。
「外から見た時よりも、更に大きくなっている……!?」
 黒い森の中心へと出ると、フラーゴラは黒き大樹の巨大さに息を飲む。森に入る前より大きく見えるのは、決して自分たちが近づいたからというだけではないだろう。
 この大樹は今なお成長を続けているのだ。
「早く何とかしないと! ワタシが引き付けている間に!」
 先陣を切るのはやはりフラーゴラ。仲間の速度を引き上げつつ、自身は魅了の魔力を振りまき注意を引き付ける。
 敵は目の前の大樹だけではない。にじり寄ってくる周囲の樹木や、その合間から顔を出している火精も同時に相手にせねばならない。
 既に包囲されているのは仕方ないとしても、せめて大樹と戦う者の邪魔はさせない。その一心でフラーゴラは自ら囮を買って出たのだ。
 まるで誘蛾灯に誘われた蛾のようにフラーゴラへと群がり始め、間もなくして周囲を取り囲まれ孤立することになる。が、それも織り込み済みだ。
 放たれる火炎、振るわれる枝葉。前後左右あらゆる方向から飛んでくる攻撃を、フラーゴラは的確に往なし続け、反射による反撃まで行っていた。
 例え背後から狙われようとも、極まった獣種が持つ野性の勘とフラーゴラの俊敏性があれば、即座に反応することなど難しくはないのだ。
「狙いやすくなった、助かるぜ!」
 いくらフラーゴラの守りが硬くとも囲まれて集中攻撃を受ければいつかは倒れる。そうなる前に、集まった敵を駆逐できるかどうかが勝負の分かれ目だろう。
 フラーゴラが十分に敵を集めた所で、飛呂は照準器を覗いて狙いを定めると迷いなくその引き金を引いて、五月雨の如き連射を披露する。
 一見無差別な掃射だが飛呂の腕前であれば、集団の中からフラーゴラだけを避けて撃ち抜くことなど造作もない。フラーゴラ自身も光を放って位置を知らせてくれるため、より識別しやすくなっており敵だけを正確に撃ち抜くことが出来るのだ。
「火精を優先して潰すよ!」
「了解です!」
 飛呂が放つ弾丸の雨の中に突っ込んだのは史之とルーキスだ。無謀にも見える行為だが、飛呂の射手としての腕前を信じているのだろう。
 その動きに迷いはなく、そして飛呂もその信頼に応えるように二人へ当てることなく銃撃を続けていった。
「はっ!」
 乱戦のなかで史之は太刀を振るえば、紅い雷光が閃き火精やその周囲にいた樹木を纏めて薙ぎ払う。その稲妻は樹木の硬い外皮すら貫き、体内を直接焼いていく。
 その一撃に脅威を感じたのだろう。攻撃を受けた火精が火炎を放ち、樹木が地面の下から根を伸ばしてきた。しかし、史之は身体を傾けて芯を外すことで打撃を受け流すと、火炎を突っ切って火精へと迫り鋭き一刀によって斬り伏せる。
「……っ!」
 一方でルーキスも、苛烈な攻撃を仕掛けてくる火精を相手にしていた。明鏡止水の境地から放たれるのは師より授けられた”力”。
 肉体の限界を超え、自らの体さえも傷つけるほどの力で放たれる修羅の一撃によって、飛呂に動きを封じられたりフラーゴラや史之へと意識を向けたりしている火精を刻んでいく。


 フラーゴラたちが周囲の樹木や火精を引き付けている間に、残りの者たちは大樹へと攻撃を集中させていた。
「オラオラオラァ!」
 翼を広げて素早く前へと出た牡丹が仕掛ける。
 拳を乱打し、蹴りを浴びせ、広げた翼からは炎を纏わせた羽を弾丸のように飛ばし……。型など存在しない荒削りな喧嘩殺法だが、魂を燃やして放たれるそれらは大樹の注意を引くには十分なものだった。
 みしみしと不気味な音が鳴ったかと思えば大樹の枝が大きくしなり、次の瞬間には弾かれたかのように振るわれ牡丹に叩きつけられた。
 が、直前に察知していた牡丹は翼を盾にして防ぐ。強烈な一撃ではあったが、守りに秀でる牡丹であれば最小限の負傷で済ませることが出来る。
「チッ! 硬ぇなぁ!」
「大丈夫! ほら、よく味わってね」
 殴り続ける牡丹ではあるが、大樹の外皮が硬く傷を付ける事は困難。その上、地脈の魔力を吸って漸くつけた傷もすぐに治してしまう。
 しかし、そこへソアも加われば話は別だ。
 牡丹が引き付けてくれている間に、安全に接近することのできたソアは、呪いによって黒く染まった爪を振るう。
 大樹に付けた傷は浅い。しかし、込められた呪いは姉と慕う饗宴の悪魔より授けられたもので、呪われた者の傷が癒えなくなるというもの。
 その証拠に、ソアが今付けた傷は消えることなく残り続けていた。
「ソアさんの呪いが解けないうちに畳みかけよう!」
「合わせる!」
 攻めるならば今が好機。そう判断したカインとイズマが同時に術式を組み上げる。
 膨大な魔力を収束させたカインの魔力砲撃は、味方を巻き込まないようにと大樹の上部を狙って放たれ、硬い外皮を貫きながらその極低温によって傷口から凍りつかせていく。
 その下ではイズマが細剣を振るっていた。横薙ぎに振るわれると同時に、剣身に纏わせていた氷の魔力が突風と共に解き放たれ、大樹の幹へと叩きつけられると共に、周囲から集まりつつあった樹木を吹き飛ばす。
 いずれも地廻竜の加護が付与された強烈な一撃であり、大樹は呻くようにその身を震わせていた。


「っ! 何かが変だよ!」
 終始戦いを優位に進めていたイレギュラーズだったが、ある時になってフラーゴラがうなじの毛が逆立つような悪寒を感じ取って警戒を促す。
 直後、大地が鳴動を始め明らかに何か異変が起きていると感じられた。
「燃えてる、だと!?」
 異変の正体はすぐに分かった。
 大樹の正面に立つ牡丹が、大樹の全身を覆うように黒い炎が噴き出しているのを見た。
 いや、大樹だけではない。周りの樹木や草木を含め、森全体が黒い炎に覆われていったのだ。
 数の少なかった火精は既に駆逐されているが、魔女ファルカウと接したことで何かしら影響を受けたのかもしれない。激しい怒りを感じさせる炎を纏いながら、大樹と樹木はイレギュラーズへと襲い掛かる。
「くっ! 攻撃が激しくなって……!」
「でも、それだけ追い詰めたってことだよなぁ!」
 なおも自らを囮に樹木を引き付けるフラーゴラ。炎を纏ってから、樹木や大樹は鈍重さこそ変わらないが、目に見えて攻撃が強まっているのだ。
 反射の威力も高まると言えば聞こえはいいが、それもフラーゴラ自身が耐えきれてこその話だ。
 暖かな癒しの風光で自分ごと仲間を治癒していくがそれだけでは足りない。飛呂が引き続き銃撃によって押さえつけ、支援を行ってくれているランドウェラや潮からの治療が無ければ危うい所だっただろう。
「俺たちはこのまま樹木を相手にしましょう!」
「……どうやら、それしかないようだね」
 脅威度の高い火精がいなくなれば、樹木の攻撃力はさほどでもないため、フラーゴラだけでも抑えきれると踏んでいたが、そうは問屋が卸さなかったようだ。
 この状態でフラーゴラだけ置いて行くのは危険すぎる。そう判断したルーカスと史之は、飛呂と共にフラーゴラの集める樹木へと斬りかかっていく。
「ぐぅ! まだまだぁ!」
 大樹の攻撃を一身に受ける牡丹の消耗は非常に激しい。今も地中から伸びてきた根に胴への一撃を叩き込まれ、口から血を吐き出した。
 それだけではない。これまでの戦いで、全身のあらゆるところに打ち身や裂傷が出来ており、骨の何本かも折れていた。
 だが、それでも闘志を燃やし続け、自分は無敵なのだと自分自身を奮い立たせ、決して膝を付くことなく牡丹は背中の仲間を守り続けたのだ。
「このまま!」
「押し切る!」
 負傷の激しい牡丹の傷をイズマが治療すれば、まだ牡丹は立ち続けることが出来るだろう。だが、負担をかけ続けることは出来ない。
 何度目かになる癒しの聖歌で牡丹の傷を治療すると、イズマとカインが再び同時攻撃を仕掛ける。
 カインの放った青白い閃光が燃える大樹の幹を凍らせ、そしてイズマが呼び出した無数の英霊による突撃と、その後に続く黄金の閃光が、大樹を斬り裂き貫いていく。
 さらに、カインが狙った場所に重なるように鈴音も魔力砲撃を放つ。
 地廻竜の加護も残り僅か。その力が残っている内にと火力を集中させるのだ。
「火には強くても、ボクの雷ならどう?」
 ソアはそう大樹に投げかけた。
 無論、答えなど返ってくるはずもないが、もとから返事など期待していない。
 ただ、焼き尽くす。それだけだ。
 獰猛な肉食獣が獲物を狩る直前のように、手を地面につけて姿勢を低くすると唸り声を上げ全身に力を溜める。
 そして次の瞬間、ソアの姿が消えた。かと思えば、耳をつんざく雷鳴が辺りに轟く。
 暗い森の中を眩く照らしながら縦横無尽に奔るその迅雷こそが、獣性と精霊種としての力を完全開放したソアの姿なのだ。
 極低温の魔力砲撃が二つ、英霊の軍勢、戦場を駆ける迅雷。イレギュラーズが持ちうる最大火力を集中させたことで、大樹の幹全体に罅が入っていく。
 なおも暴れ続ける大樹ではあるが既に大勢は決した。程なくして全身に広がった罅が亀裂へと変わり、遂に大樹は音を立てて砕け散ったのだった。


 大樹の消滅と同時に、森の中に静寂が訪れた。
 黒く染まっていた森は中心から徐々に白くなっていき、白くなった大樹の破片や樹木は砂のように砕け散っていく。
「……これで一件落着ってことで良さそうかな?」
「たぶん……?」
 太刀を鞘に納めた史之が辺りを伺いながら言うと、ソアはそう答えるが確かな事はまだ分からない。イレギュラーズは報告のためにも、森の状況を調べていく。
「砕けた大樹や樹木からはもう滅びの気配は感じられない。無害化したと言っていいだろう」
「まだ外周に近い所のがしぶとく生き残っているみたいだけど、心臓を失っているようなものだし遠からず白くなるだろうね」
「心配なら、帰るついでに倒してしまうのもありですね。どうせもうたいしたことは出来ないでしょうから」
 暫くして、何組かに分かれていたイレギュラーズが再度大樹のあった場所に集合して、調査結果を共有する。イズマ、カイン、ルーキスが順に話していった内容を纏めると、事件はほぼ解決と見ていいだろう。
「枯れかけていた地脈だが、森が枯れたお陰でその魔力が還元されているようだな。この分なら生態系に影響は出ないはずだ」
「その還元された魔力って大丈夫なやつなのか?」
 飛呂の言葉に牡丹が挟む疑問はもっともだが、還元されているのは純粋な魔力であるため特に問題は無いとのことだった。
「ワタシたちは守り切れたんだ……」
 全ての情報を共有し終えると、フラーゴラはそう呟く。
 その視線の先には、地平線へと沈み始めた真っ赤な太陽。
 守るべきものを守り通した。その達成感がイレギュラーズの胸を満たすのだった。

成否

成功

MVP

フラーゴラ・トラモント(p3p008825)
星月を掬うひと

状態異常

フラーゴラ・トラモント(p3p008825)[重傷]
星月を掬うひと
紅花 牡丹(p3p010983)[重傷]
ガイアネモネ

あとがき

大樹が消滅したことにより、黒の森の拡大は止まりました。
白化した森は時間と共に崩れて、やがては元の砂漠へと戻ることでしょう。
お疲れさまでした。

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