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シナリオ詳細

チョコレート開放戦線。或いは、スイーツに身体を張れ…。

完了

参加者 : 5 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●チョコレート戦線
 ある商人は言った。
「ラサの砂漠の真の支配者が誰かと言えば、それは商人である」
 その言葉が真実か否かはどうでもいいのだ。
 ただ、1つだけ確かなことがある。
 誰かの放ったその言葉は、ある1人の商人と、ある町の支配者の暴走を招いたということだ。

 ところはラサ。
 甘い香りの漂う小さな町である。名を“カンロ”というその町は「甘味の町」として知られていた。
 町に入って、まず目につくのは大通りの左右に並んだチョコレートやアイスキャンディの露店であろう。大通りをまっすぐ進めば、町の中央に大きな広場。
 憩いの場として、幾つものベンチやテーブルの並ぶ広場にも、ワゴンを引いた菓子屋が大勢、うろついていた。
 どこもかしこも、甘く、色鮮やかな菓子に溢れた町である。
 道行く者は、大人も子供も老人も、男も女も、或いは犬に至るまで誰もが幸せそうだった。
 けれど、しかし……。
「大変だ! チョコレートが! 俺たちのチョコレートが……!」
 ある菓子職人が放った言葉が、町に大きな混乱を起こした。

「……荒れてるっすねぇ」
 がらんとした喫茶店。その窓際から通りを眺め、イフタフ・ヤー・シムシム(p3n000231)はそう呟いた。
 通りを埋め尽くす人の群れ。
 商人に、菓子職人、それからカンロの住人たち。
 カンロは日頃から賑やかな町ではあるが、しかし悲しいかな今のカンロは怒りと悲しみに溢れていた。
 なるほど、それで……喫茶店はガランとしていて、棚の菓子も量が少ない。
「チョコレートの自由販売禁止っすか。せっかくチョコを買いに来たのに、これじゃ無駄足っすね」
 以前、カンロに来た時も確かに少し揉めていた。
 バニラ味と、チョコレート味と、チョコミント味のどれが一番美味しいか……とか、そんなくだらない理由であったはずである。
 だが、今回の騒動は酷い。
 町全体を……場合によっては、カンロに出入りする商人さえも巻き込んだ大騒動の予感がしていた。
「えーっと。誰でしたっけ……確かシュガーペースト卿と、キシリトールっていう商人でしたか」
 イフタフが口にした2人こそ、此度の騒動の元凶であった。
 カンロの町長、シュガーペースト卿。
 そして、カンロの商業組合長、キシリトール。
 金に目が眩んだ2人が、つい先日に公開した法令こそが此度の騒動の発端である。

 チョコレートの自由販売禁止。
 そして、チョコレートの原材料の大幅値上げ。
 とくに前者の法が酷い。法を破れば、多額の罰金か追放、或いは禁固刑が科せられるとなれば、カンロの町の菓子職人はチョコ菓子を製造できなくなってしまうのだ。
 結果、町からチョコレートが消えた。
 今、カンロの町でチョコレートを扱っているのは、町長の管轄下にある菓子工場のみである。
「カンロのお菓子は有名っすからね。ましてや時期的にチョコレートの需要も増えていますし……まぁ、利益の独占が狙いっすよね」
 と、そう言って。
 イフタフは、バニラクッキーを指で摘んだ。
 

GMコメント

●ミッション
チョコレート工場を解放する

●ターゲット
・チョコレート工場
カンロの町の北端にあるチョコレート工場。
現在、チョコレートの原料のほぼ全てがここに集められている。
敷地は広く、敷地内には3つの建物が並んでいる。
それぞれの建物では、チョコレートに関連したお菓子を24時間体制で製造している。
警備は厳重。

・シュガーペースト卿&キシリトール
カンロの町長と商業組合の長。
上記チョコレート工場の経営者たちで、利益の独占を目論見「チョコレートの自由販売禁止」「チョコレート原材料の大幅値上げ」を法令として打ち出した。
結果、利益は得たが反感を買った。

●フィールド
ラサの町、カンロ。
甘味の町として知られており、町のほぼ全域であらゆる菓子が作られている。
ただし、現在はシュガーペースト卿とキシリトールのせいでチョコレート製品だけがすっかり消えた状態にある。
現在、菓子職人や取引のあった商人、町の住人たちがデモを敢行中。
チョコレート工場へ大挙して押し寄せているが、警備が厳しくあまり成果を上げられていない。


動機
当シナリオにおけるキャラクターの動機や意気込みを、以下のうち近いものからお選び下さい。

【1】チョコレートが欲しい
チョコレートを求め、カンロを訪れました。
デモ隊には加わらず、独自に行動します。

【2】なんとなく楽しそうだった
なんとなく流れでデモ隊に合流しました。
声だしてこー!

【3】シュガーペースト卿を捕まえたい
シュガーペースト卿に汚職の嫌疑がかかっています。
裏取と捕縛を目指します。


チョコレート解放戦線
チョコレート解放戦線を戦い抜きましょう。

【1】正面突破
正面からの突破を狙います。
目指すはチョコレート原材料の確保です。

【2】暗躍
こっそりと工場に忍び込みます。
チョコレートを盗んだり、内部工作に奔走したり、シュガーペースト卿を捕縛したりするのが目的です。

【3】奔走
チョコレートの開放を目指して奔走します。
ケース・バイ・ケースで、人の足りない場所をサポートします。

  • チョコレート開放戦線。或いは、スイーツに身体を張れ…。完了
  • GM名病み月
  • 種別 通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2024年02月05日 22時15分
  • 参加人数5/8人
  • 相談0日
  • 参加費100RC

参加者 : 5 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(5人)

ラダ・ジグリ(p3p000271)
灼けつく太陽
寒櫻院・史之(p3p002233)
冬結
ソア(p3p007025)
愛しき雷陣
モカ・ビアンキーニ(p3p007999)
Pantera Nera
イズマ・トーティス(p3p009471)
青き鋼の音色

リプレイ

●チョコレートに自由を
 ラサの辺境。
 甘味の町“カンロ”は今、荒れに荒れていた。
「チョコレートを返せ!」
「甘味に自由を!」
「俺たちはチョコレートほど甘くないぞ!」
「カカオみたいに苦い思いをしたくないなら、門を開けろ!」
「業突く張りめ! 貴様を刻んで、チョコレートに混ぜてやる!
「テンパリングの仕方も知らない商人風情が調子に乗るなよ!」
「金を数えている暇があれば、カカオの数でも数えてなさいっ!」
 カンロの北方。
 警備の厚いチョコレート工場に、大勢の商人や菓子職人が詰めかけていた。
 チョコレートの自由販売禁止と、チョコレート原材料の大幅値上げ。
 金に目の眩んだ2人の男……町長シュガーペースト卿と、商業組合長キシリトールの発令した上記の法令が、此度の騒動のきっかけだ。
「……ただでさえ忙しいんだからそういうの来年やってくれるないかな?」
 喧噪……もはや怒号と呼ぶにふさわしい大音声に耳を傾け、『灼けつく太陽』ラダ・ジグリ(p3p000271)が溜め息を吐いた。
 チョコレート工場にほど近い裏路地。
 ラダと、それから十数人の男女が集まっていた。
「まぁいいさ。さて、チョコミン党の諸君、よく集まってくれた」
 声を抑えたラダの言葉に、集まっていた男女が頷く。
 チョコミン党。
 昨年に起きたある騒動の折、ラダと共に戦ったチョコミントをこよなく愛する者たちである。
「この馬鹿げた騒動を終わらせるぞ」
 ラダは“聖戦”の始まりを告げた。

 チョコレート工場からほど近い家屋の屋根の上。
 頭から外套を被った状態で、屋根の上に身を伏せている女性が1人。デモ隊の数と、警備員の人数、それからチョコレート工場の設備や出入口についてを観察しているのである。
「民衆の食に対する欲望を無理やり押さえつけようとは、なんて愚かな事をするのか」
 彼女の名は『Pantera Nera』モカ・ビアンキーニ(p3p007999)。
「デモ隊の中に見知った顔もいるな。であれば……そう遠くないうちに、ひと騒動起きるか」
 頭の中で計画を練りつつ、モカは這うようにして屋根の上を移動した。
 ひっそりと。
 誰にも気づかれないように。
 チョコレート工場へ忍び込む心算なのだろう。
「食の敵は私の敵。悪事の味はさぞ甘いだろうが……それは毒だぞ」
 
 なぜ、こんなことになったのか。
「客も職人も侮る商売に価値は認めない!」
 鋼の腕を空へ突き上げ、声を大きく張り上げながら『青き鋼の音色』イズマ・トーティス(p3p009471)は困惑していた。
「そうだ! その通りだ!」
「横暴を許すな!」
「舐めるのは、チョコとアイスとキャンディだけにしておけ!」
 イズマの叫びに呼応して、商人たちが怒声を上げた。
 デモ隊の中でも、特にイズマの考えに賛同した者たちである。
 彼らとイズマの間には、何の面識もありはしない。あるのは、ただ1つ、同じ想いを胸に抱いているという点だけ。
 なんとなくその場の流れで、イズマをリーダーとして自然と結成された小集団だ。
「俺達の楽しみ、全力で取り返す!」
 なぜ、リーダーなどに祭り上げられているのか。
 仕方あるまい。彼らと共に最後まで戦い抜くしかあるまい。
 そしてチョコレートの材料が手に入るのなら、まぁ、安いものである。

 デモ隊の数は、100人を優に超えていた。
 最初はほんの数人だったデモ隊も、日を追うごとに増えて行った。あっという間に数を増し、今では100人の怒れる軍勢と化していた。
「チョコレートが食べたい気分だったのにー! がっかりだー!」
「わーい、ヨギナクサレー!」
 まぁ、軍勢の中には『無尽虎爪』ソア(p3p007025)や『冬結』寒櫻院・史之(p3p002233)のように、その場のノリと勢いでデモに参戦した者たちも混じっているのだが。
 とはいえ、この2人の存在こそが不運であった。
 誰にとっての不幸かというと……それはシュガーペースト卿とキシリトール。そして、チョコレート工場の警備を任されている流れの傭兵にとって、ということになる。
「えぇい! 去れ! 門は開かぬ! 去れ!」
 デモ隊の気迫に気圧されたのか、デモ隊の男が声を張り上げ槍を振るった。
 デモ隊の幾人かが悲鳴をあげる。
 地面に血が滴った。
「……あ」
 警備員が、怯えたような声を零した。
 威嚇のために振るった槍が、ソアの頬を裂いたから。
「……ふーん? そういうことするんだ?」
 ソアの瞳が、ほんの一瞬鋭くなった。
 まるで野生の獣のように、瞳孔が縦に長くなる。怯えて1歩、後退しようとした警備員の背が重厚な門にぶつかった。
 それ以上、後ろに下がることは出来ない。
「先に手を出したのは向こうの方だ! どんどん殴っていこーう!」
 史之が叫んだ。
 その声をきっかけに、デモ隊たちが動き始めた。一時的とはいえ、ソアはデモ隊の仲間である。仲間を傷つけられたのだから、黙っているわけにはいかないのだ。
 かくしてデモ隊とチョコレート工場の攻防は、ついに暴力の応酬へと発展したのであった。

●チョコレート工場の攻防
 応援に駆け付けた警備員は全部で20を超えていた。
 門の外へ出て来た人数でそれだけだ。
 門の向こうで待機している警備員は、きっともっと多いだろう。今頃は裏側から門を抑え込み、支えているはずだ。
「通すな! 追い返せ!」
「シュガーペースト卿からの許可は出ている! 怪我をさせる程度は構わん!」
 警備員たちは門の前に固まって、前方へ向け槍を突き出した。
 槍衾と呼ばれる陣形だ。
 槍の射程を活かした防御陣形。碌な武器を持たぬデモ隊たちは、槍衾を突破できない。
 けれど、しかし……。
「退け退けぇー! 邪魔する人は放り投げちゃうからねっ!」
 鋭い槍も、鍛え抜かれた警備員たちの体躯も、そして暴力的な態度も、ソアには通用しないのである。
 槍も、体躯も、暴力も……ソアを怯ませるには至らない。
 姿勢を低くし、地面を蹴って、ソアは槍衾へと飛び込んだ。
「なにっ!?」
「死ぬ気か!」
 これには警備員たちも驚いた。
 槍衾に自分から飛び込む者がいるとは思っていなかったからだ。警備員たちは、確かに荒事を専門とする集団だ。しかし、何も好き好んで他人に重傷を負わせたり、命を奪ったりしたいわけではない。
 そんなのは傭兵や盗賊のやることだ。
 遺族や友人、或いは怪我をした本人から恨まれるリスクなど避けて通りたいのである。
 むろん、警備員たちの抱いたそれは無用の心配であった。
「……あぁ!?」
 槍がその身を貫く直前、ソアの姿が掻き消えた。
 文字通り、警備員たちの視界からソアの姿が見えなくなった。
 かと思えば、視界がぐるりと反転している。
「あん? どぅっ!?」
 そして、衝撃。
 自分が宙へと投げ飛ばされて、頭から地面に落下したことに気が付いた時にはもう体が動かなかった。
 視界一杯に映る青い空。
 そして、空に舞い上がる数人の同僚たち。
「退け退けー! 道を開けろー! チョコレートを解放しろー!」
 警備員たちを投げ飛ばし、ソアは門へ向かって前進。
 デモ隊たちがその後に続く。

「今だ! 行け! 行け! ゴー! ゴー!」
 デモ隊の誘導をしているのは史之だった。
 自身も腰の刀を抜き、まっすぐに突き出されている槍を切断。デモ隊たちが前へ進むための道を切り開く。
「くそっ! あいつだ! あの剣を持ってる男を潰せ!」
 その時、誰かの声がした。
 門の上にある小さな窓から顔を覗かせているのは、豊かな髭を蓄えた男。
 商業組合長キシリトールだ。
「アイツか……町の皆からチョコレートを奪ったのは!」
 太刀を片手に携えたまま、史之はキシリトールを睨んだ。
 史之の視線に気が付いたのだろう。
 焦った様子で窓を閉じると、さっさと何処かへ逃げていく。
「……上層部が汚職する時ってじみーにお金がない時なんだよね」
 デモの熱気に浮かされていた史之の思考が、ほんの一時、平時の冷静さを取り戻した。
 キシリトールの顔を見て、彼やシュガーペースト卿が“デモのリスクを抱え込んでまで、チョコレートの価値を吊り上げた”ことに、当初より違和感を抱いていたのだ。
 とはいえ、今のところは目の前の事態に対処するのが優先だろう。
「まぁ、そっちの方は誰かがやってくれるだろ」
 そう呟いて、史之は太刀を持ち上げた。
 史之の視界の端っこに、門の方へと駆けていくモカの姿があったからである。

 史之の元へ、接近して来た警備員は全部で2人。
 左右から挟み込むようにして、じりじりと史之との距離を詰める。
「……素人ってわけでもないみたいだね」
 槍の間合いまで、後1歩というところで2人は止まる。
 当然、史之の太刀は届かない。
 太刀を低く構えたまま、史之は左右へと視線を走らせた。警備員たちと史之の間に、じりじりとした緊張の糸が張っていた。
 もっとも、冷や汗を流しているのは警備員たちだけだ。
 史之の纏う雰囲気は、よく研がれた剣にも似た鋭いもので……例えば、歴戦の戦士や幾つもの修羅場を潜った大商人が纏っているそれに近い。
「っ……えぇい!」
「悪いが、これも仕事でなっ!」
 警備員たちは、同時に疾走を開始した。
 2本の槍が、左右から史之へと迫る。その鋭い槍が、史之を貫く……その刹那。
「ふっ……!」
 史之が姿勢を低くした。
 史之の頭上で2本の槍が交差する。紙一重で槍の刺突を回避した史之は、流れるような動作で足を踏み出した。
 逃げるつもりか、と。
 警備員たちは、そう思った。
 だが、違う。
 一閃。
 低い姿勢から繰り出された、身体ごと旋回させるような斬撃が2本の槍を同時に半ばほどで切断したのだ。
 見えなかった。
 反応できなかった。
 もし、史之が槍ではなく胴体を狙って斬撃を放ったのなら、きっと今頃自分たちは死んでいた。
 それが理解できる程度の脳があるから……分かってしまったからこそ、警備員たちの戦意は折れた。
「……降参だ」
 短くなった槍の柄を地面に投げ捨てて、2人は頭の上へ両の手をあげた。

 いかに頑丈な門とはいえ、怒れる軍勢を阻むことは叶わない。
 粉砕された門を、デモ隊たちが駆け抜けていく。その中には、イズマ率いる制圧部隊と、ラダの率いるチョコミン党の姿も見える。
「私はシュガーペースト卿を追う! 皆は裏口へ廻って奴の退路を断ってくれ!」
「チョコレート工場は他の皆に任せよう。俺たちはこの門を死守するぞ!」
 工場の奥へ向かって走り去っていくラダたちを、イズマの率いる一団が見送った。
 デモ隊たちは幾つかの部隊に別れ、3つの工場へと散っていった。多少の時間はかかるだろうが、怒れる商人や菓子職人たちは必ずやチョコレートを奪還するはずだ。
「彼らが敷地内の閉じ込められてしまうと不味い。警備員を縛り上げろ。増援が来るなら、そいつらもだ!」
 矢継ぎ早にイズマは仲間たちに指示を出す。
 デモが成功すれば、デモ隊たちは英雄となる。
 だが、もしも失敗してしまえば……町を騒がせた犯罪者だ。
「大事なチョコ作りの材料調達だと言うのに、つまらない事をしてくれたな」
 工場の敷地内に、足を踏み入れれば分かる。
 すっかり空気に馴染んだ、甘くほろ苦い芳醇な香りの存在に。
 暫くの間、カンロの町から消えていた香りだ。
 チョコレート。
 数多の人類を魅了する甘味を独占するなど、なんと残酷な真似をするのか。
「……それにしても、不当な弾圧に対する憤りは、菓子職人も音楽家も変わらないようだ」
 なんて。
 そう呟いて、イズマは開いた門の中央に立ったのだった。

●チョコレートを我らの手に
 チョコレート工場の一室。
 似合わぬほどに豪華な家具の並んだ部屋に、2人の男の姿があった。
「なに……っ!? 門を破られただと!?」
 顔を赤くして怒りを露にしている彼の名はシュガーペースト。つい昨年、カンロの町長に就任した業突く張りである。
「えぇ……すぐに警備員たちが取り押さえるかと思いますので、今少しだけお時間をいただければ」
 顔を青くして、そう答えたのはキシリトール。
 カンロの商業組合長だ。
 つまり、この2人こそが此度の騒動の元凶であった。
「ふん。とてもそうは思えないがな」
 腕を組んで、シュガーペースト卿はそう言った。
 部屋の外からは、絶えず怒号が響き渡っているからだ。
「では、いかがなさいますか?」
「……うむ。逃げた方が良いだろうな。なに、我々さえ無事なら、工場を落とされても再建はできる。デモに参加した連中を確認しておけ。後日、全員まとめて捕縛せよ」
「では、そのように」
 話し合いは、ごく短い時間で終わった。
 何しろ、これから2人は工場を捨てて逃げるのだ。悠長にしている時間は無い。

 結論から言えば、シュガーペースト卿とキシリトールは逃げられなかった。
「仮にも長だろう。従業員を見捨てて逃げるのか?」
「風上にもおけん輩だな。随分と私服を肥やしたことと思うが……さて、その太い腹を探れば何が出て来ることだろうな?」
 2人が書類を纏めている間に、ラダとモカが部屋に踏み込んで来たからだ。
「せっかくの上等なチョコレートだ。独占するなんてもったいないことをするなよ」
 ラダの手には、銀紙に包まれたチョコレートが握られている。
 それはつまり、チョコレート工場が制圧されたことの査証だ。
「……窃盗は犯罪だぞ?」
 脂汗を流しながら、キシリトールはラダを睨んだ。
 だが、ラダは飄々とした態度を崩さない。
「対価は払うとも。それが正当なものであればな」
 これ見よがしにチョコレートを齧ると、背負っていたライフルを手に取った。
 銃口を突き付けられた2人は、ゆっくりと両手を頭上へ挙げる。

「チョコだ! 恵みのチョコレートだ!」
「この甘さ! この味! この舌触り!」
「チョコレート! 久しぶりのチョコレート!」
 工場前の通路には、デモ隊たちが歓喜している姿があった。
 カカオを胸に抱いている者。
 砂糖の袋に頬ずりをしている者。
 泣きながらチョコを舐める者。
 喜び方は人それぞれだ。だが、誰もが歓喜していることに間違いはない。
 チョコレート工場は、無事に制圧されたらしい。
「さて、チョコレートは無事に皆の手に戻ったようだな」
 窓から通路を見下ろしモカは言う。
 その口元にはうっすらと笑みが浮いていた。
「……ぐ、ぬぅ」
 対して、シュガーペースト卿とキシリトールは苦い汁でも飲み干したような顔をしている。
 反論の言葉を発しないのは、ラダがライフルを構えているからだ。
 町の住人や商人、菓子職人であれば武力での反撃も容易だろう。だが、ラダは違う。モカは違う。
 安全な場所で、悠々と金を溜め込んでいた2人にも分かる。
 ラダやモカは、戦うことに……暴力を行使することに慣れている。
「我々をどうするつもりだ?」
 唸るような声で、シュガーペースト卿はそう問うた。
 モカはにやにやとした笑みを浮かべて、モカはシュガーペースト卿の胸倉を掴む。
「な、なにをする! 無礼であろうが!」
「無礼は失礼。だが……あぁ、やはり」
 シュガーペースト卿の首から、ネックレスを引き摺りだす。
 否、それはネックレス状に加工された鍵である。
「どうするつもりか、と聞いたな? それはまぁ……後生大事に身に付けていたこの鍵が何のためのものかを確認してからになるな」
 汚い金でもどこかに溜め込んでいるのだろう?
 モカの目は、口ほどに物を言っていた。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

お疲れ様です。
無事にチョコレートが解放されました。
依頼は成功となります。
チョコレート、美味しいですよね。

この度はご参加ありがとうございました。

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