シナリオ詳細
虎の威を借る狐の利子は
オープニング
●茶番劇
青年は、付き合ったばかりの恋人に何が欲しいか聞いてみた。
そうしてみたら、一緒にいてくれればいいよなんて返されて……。
けれどもどうしても女性の好みそうなものがわからず、さりとてしつこく聞くのも気が咎め、それで途方に暮れていると、彼女が友達に話しているのが聞こえたのだ。
グラオ・クローネの贈り物はサヨナキドリのがいいなあ――。
天啓だった。
そうなのか。
「サヨナキドリ」のがいいのか。
確かにあそこの品物は品がいいんだよな、と青年は納得した。
商人ギルド、サヨナキドリ。その名前くらいは青年は知っていた。
ただ彼は少々うかつで……。そして、騙されやすかった。
サヨナキドリのお店は、思ったのと違った……。
埃っぽいし掃除も行き届いていない。窓ガラスにはひびが入っているし、やっているかもわからないという始末で……。
まさか、サヨナキドリがそんな接客をするはずもない。
なんとも運の悪い青年は、通りを間違えていたのであった。
そう、ここは全く別の店である。
「あ、あのう、このペンダント。ほんとにいいやつなんですか?」
「ええよええよ、ええやつよ」
「なんか、たしかにピカピカしてますけど、石ばっかり大きくて、あんまり、彼女がすきそうでもないし……」
「ええ!? 気に入らないのかい!? 良い品だよ。保証する。……イヒヒ」
やっぱり、なんか違う。聞いていた話と全然違う。
店長? らしき人は、確かに髪が長いのだが……まったくミステリアスでもなく、足を組み、菓子をつまみながら雑誌を読んでいたりする。
「ここ、サヨナキドリですよね?」
「ナサキヨドリだねぇ」
「えっ?」
「やっぱり、僕、手持ちがなくって。今日はやめときます」
「いやいや、ほんとにほんとにいい品なんだよ。10年、20年待ってたら、儲けは10倍どころじゃないよ」
「そうなん!? これは買わなあかんなあ」
「いや、僕は、プレゼントだし」
ふーっと、怪しい男が煙を吐いた。
てしてしとやってきた緑のウサギがぽん、と青年の肩に手をついた。
「買っちゃお。ね?」
「ねって言われても……」
「今やるべきこと、それは買うことだね。間違いない」
「あの、……やっぱり、帰ります。なんか聞いてた店と、違う気が……」
「まさか、黙って帰らねぇよな?」
「ひぃっ」
彼の前に立ちふさがったのは、サングラスをかけた男である……という具合であった。
●偽物、あらわる
「困ったね。悪いコがいるんだよ」
『闇之雲』武器商人(p3p001107)からの通達によると――最近、サヨナキドリの名を騙り、似たような品物を売りさばくような集団が出没しているのだという。
「いや、どう見ても困ってないだろ?」
カイト――本物のカイトだ、と称するには、少々複雑な思いもあるだろうが、ともあれ本物である。
「つーか、その、売りつけられたってやつも、コッチの介入で返品できたし、まともなプレゼント買って、わざわざ「ありがとうございます」って言いに来ただろうが」
「ああ、困った困った。どうにも首が回らない。ヒヒヒ。と、そういうわけで、集まってもらったわけだ」
「連中は……こんど、広場で展示会をするんだってな」
『煙草のくゆるは』綾志 以蔵(p3p008975)はゆっくりと煙を吐いた。
「しかも、困ったことにねぇ。嗅ぎまわって、戦い方も真似てるらしいんだよ」
「煙を出すからなんだ」
「出すだけで煙に「なれない」……ならそれは、まあ、手品やなあ」
「だよね」
『晶竜封殺』火野・彩陽(p3p010663)に、刻見 雲雀 (p3p010272)はうなずいた。
最近、彼らに周囲を探られていることはわかっていたが――同時に、彼らはせいぜいが迷惑なくらいで、大した脅威ではなかったのだった。
「あれ、おかしかったなあ。こっそり見てるつもりだったんやろけど。後ろにあれがおるのに、気が付かんもんな」
「真似はまねでも、猿真似だな」
カイトは肩をすくめる。
「で? 展示会でぶちのめそうってか?」
「まねされてばっかりじゃ癪だろう?」
「……」
「見せておやりよ」
「ああ、それで、もうちょっと待って、って言ってたんだ」
『苦い』カトルカール(p3p010944)はピンと耳を立てた。必要以上には対処をしなかったのは、散らばっている構成員をまとめてたたくためだと思っていた。
それもあるだろう。だが、海洋支部長のためでもありそうだ。
カイトは教える才能があるというのに、教えるのにはあまり積極的ではないのだ。
「万人向けの教本? いや。それも癪だな。教えられそうな奴にだけ教える」とはカイト談。
(いい機会かな? お手本を見せてもらうのに)
下手なりに真似をしてこようとする連中がいれば、「師匠」も奮い立ち、見本を見せてくれる。
かもしれない。きっと。たぶん。そういうことなんだろう。
(したら、弟弟子ってことになるんやろか……)
(弟弟子が増える……)
(兄弟子に……)
彩陽と雲雀は想像を巡らせる。
「ってわけで、宣伝しに行こうじゃないか」
……人の好いカイトは承知するわけだ。たぶん。
- 虎の威を借る狐の利子は完了
- 【注意喚起】模造品(偽物)、悪質販売店にご注意ください。
- GM名布川
- 種別リクエスト
- 難易度-
- 冒険終了日時2024年02月13日 22時05分
- 参加人数6/6人
- 相談8日
- 参加費150RC
参加者 : 6 人
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参加者一覧(6人)
リプレイ
●利子はいかほど?
「あいつら、僕のシレンツィオどころか以蔵さんのいる海洋にまで来やがって」
『苦い』カトルカール(p3p010944)はぎゅっとこぶしを握りしめ、ふるふると怒りを見せている。
「……食い止められずすいません、以蔵さん、ボス」
「いいや、ボスにも考えがあるってことだ、カトル。なんなら完封もできたはずだ」
「以蔵さん」とは、『煙草のくゆるは』綾志 以蔵(p3p008975)である。
「そうでしょう、ボス」
視線を送ると、『闇之雲』武器商人(p3p001107)がゆるりと顔を上げる。
「いやぁ、こう見えてちゃんと困ってるんだよ? 普段なら、我(アタシ)の猫の玩具にするところだけど……」
「そっくりさんねぇ……」
『雨夜の映し身』カイト(p3p007128)は肩をすくめる。
「そんなもん、俺は『生い立ち的に』見飽きてるんだが。なんならROOでも似たような経験あったし……そっくりさんが3人居るのに追加で偽物がよぉ……」
どうしてこうもカイトのニセモノがあとをたたないのか?
生まれの宿命というものだろうか。それとも、人気者の運命か。
「誰しもまずは何かの模倣から入るけど、
そこから独自の派生を作って自分のモノにできるのとできない……いや"しない"のとでは差があるんだけどね」
「せやねー」
『最果てに至る邪眼』刻見 雲雀(p3p010272)と『晶竜封殺』火野・彩陽(p3p010663)は二人ともカイトの弟子である。
雲雀のほうが兄弟子で、彩陽は弟弟子にあたる。
どちらも、カイトの深い理解者だ。
「カイトさん相手にそういうことしちゃったのが相手の運の尽きというか何というか」
「まあ、本人と戦うなんてことにはならんわな」
いくら模倣に長けていたとしても、カイトの技をどうこうするというのは無理というものである。
「何が最悪って、形ばっかり真似てちゃんとクオリティーを上げないことだよな。
僕もこうならない様にしないと……」
人のフリみてなんとやら、と、カトルカールは己を戒めた。
「おお、気合入ってるな、カトル」
「……それにしても。
武器商人さんの提案もあるとはいえ、カイトさんが早速実践訓練に連れてくなんて珍しいね」
「仕事だからな」
「ふーんそれ程以蔵さんたちのことは見込みがあると思ってるんだなあ。
まあ素直じゃないから絶対首を縦に振らないと思うけど! ねー彩陽さん?」
「ん、雲雀兄さん。ししょー素直やないからねえ。
でもそれがししょーやしい。ね」
くすくすと笑う雲雀に、彩陽も楽しそうに答える。
素直じゃないというところをカイトは意図的に聞き流しておいた。
「おお。「センセイ」の授業が見れるたぁ、ありがてぇもんだ。
カトル、おまえさんもよーく見ときな」
(以蔵さんが言うならすげー人なのかな……)
カトルの視線を受けるカイトは、咳払いをひとつした。
「――さて。俺の指導は『実物提示教育』だ。分かったな?」
●清算の時
(よしよし、人も少ないみたい)
カトルカールは、広場の様子を見て頷いた。
今までのことをうけて、きちんと呼びかけをしていたためか、人通りはまばらだ。
本物のサヨナキドリの催しであれば、賑わいはこんなものではない。
バザーに並んでいる品を手に取り以蔵は顔をしかめた。
「うお……最悪。パーリッシュフェアリーの偽物もあるな。
ミモザの姐さんが知ったらショックを受けちまうじゃねーか」
「熱色」と書かれたルージュはロゴだけ真似てある。発色のよくないニセモノだ。ほかの品々も明らかな粗悪品であり、『潮風と共に生きる海洋の女性を応援したい』という理念のかけらもみられない。
「こんな中身だったら荒れちゃうよ。サイアクだ」
「うちのシマで粗雑な偽物を売り飛ばすってのがどういうことか教えてやるよ」
「見えるかい?」
「ボス、はい、見えてます。今のところ、問題ありません」
「アリガト」
「もうすぐあの集団の観光客がいなくなって……。あ、今です!」
カトルの合図に、武器商人は合わせる。
人を集める術に長けるなら、無論その逆の心得もある。武器商人の結界術・人払いは着実に作用する。
騒ぎが気になって集まってきた人々も、ハイテレパスにより足を止めた。
「ここからお逃げ。これから公演だ。舞台に上がる必要はない」
そう言って、場を取り仕切っていく。
これはひとつの魔術だ。
線を引き、巧みに残された空間を見て、カイトが渋い顔をした。
「……おい、こっちの領域の範囲はいいけどな。形が複雑すぎるぞ」
「カイトの旦那。そっちはよろしく」
ハイテレパスが飛んでくる。
「……ああ、わかったよ。ったく……」
「今回はカイトの旦那が『その気』になってくれているからね。いい感じに教材になっておくれよ、キミら。ヒヒ」
(あれ? あの人は?)
カトルカールは気配を探した。カイトと雲雀は民衆の中にいた。しかし気配は一切ない。注意して見なければ、見逃してしまいそうなほどだった。
こなれた者ならば気が付くだろうが、カイトは即座にこの場で要点となるべき場所を見極めていた。
しかも、武器商人の結界に従い、始点をずらした。なんてことのない囲いを術の外郭と定め、場を構築しているのだ。
まず、雲雀が動いた。
禁術・大紅蓮蟻地獄である。
忍び寄ってきた冷気が、一気に広場に注ぎ込んできた。市の魚を凍てつかせていく。人がそれに気が付いたのは数瞬遅れてからだった。
(よし。いい手だ。小手先の猿真似ならば『そういう瞬発力』も見させて貰うぜ?)
『ぐあっ』
数人が足をとられ、動けずにいる。力化はさすがに気が付いたようだ。
『おい、チッ、使えないな。これは術だ! 行くぞ』
『イヒヒヒ、オーケィ』
破れかぶれに武器を振り上げたニセモノは、下手な術式を編もうとし、焼ききれた術が近隣の店の壁を焼き焦がそうとした。
「危ない!」
「よし、頼むよ」
辺りを見回している武器商人は大丈夫だと確信を持っていた。誰がどう動いているのかは、しっかりと頭に入っている。
「ごめんなー危険な事には巻き込みたくないんよ」
そこへ身を投じたのは、彩陽である。
民衆をかばい、自身を盾にして逃がす。
(よかった。大丈夫だと思った!)
「うん、良い働きだ」
その様子を見守っていたカトルカールがほっと息をつく。武器商人が頷いた。
彩陽の魔装束が攻撃を受け止めると、鈴の音が鳴った。
「ああ? 心配あらへんよ、ほら、保護結界あるやろ。ん? 俺? 死にゃあせんやろ。っと、はよ行き」
厳しい冷気ではない。どこか、涼し気な音だった。
●フェイク・ザ・フェイク
「ほーん。似てるだけというのも変な感じやねえ」
彩陽は、当然のことながら、相手が比べるべくもない連中であることを知っていた。
「ま、似てるだけなら害はなし。ただ、一般の人らに迷惑かけたらあかんよ。
という事でお仕置き必須。覚悟はいーい?」
『覚悟やてー!?』
『俺の目から逃れられる者は、いない』
「安い真似だな……」
プロトコル・ハデス。以蔵のはからいにより、仲間たちの動きは鋭さを増していくのだった。
「さて、いくよ」
武器商人のレガリア・レガリアが主張する。我らが真であると。
アレが自分のニセモノか、と雲雀は頷いた。
「地味に似てる、というか目まで再現するんだ……
気になるところはあるけど構ってあげるのは仕事を終わらせてかr――」
そして、絶句する。信じられないものがすごい勢いで前を横切っていったのが見えたからだ。
「どしたん」
「待って身内が乱入したから止めてくる!!!!」
雲雀は顔を真っ赤にして、慌てて追いかけていった。
『くらえっ、邪が……』
「-80点だ」
刻見・隼人は、雲雀の偽物を背後から蹴飛ばした。
『ぐへえ!』
そして、背を踏みつけるのである。
「雲雀を選ぶという着眼点の良さは評価すべきだが、
小手先だけで真似られると思っている時点で三流以下の以下。
未熟すぎて失笑モノだな」
隼人の攻撃と早口は、とどまることを知らない。
「何より、俺の弟の可愛さを一切理解せぬ真似るなど思い上がりm」
「隼人!!!恥ずかしいからその辺で止めてそれ以上はやめて!!!」
「雲雀? 当然のことを言っているだけだが……
まあお前に免じてここまでにしてやるとしよう」
「……よ、よかった。気絶してるだけだ」
「このクオリティについてはもっと言いたいことはあったが。そういえば雲雀」
「あとでね!」
『……ヒバルさんがやられたみたいやな』
『そんなあ、でも、負けないぞっ!』
「さて、キミ達はこちらだ。おいで、おいで……ヒヒヒ……」
『『んっ!?』』
構成員たちの頭に、衒罪の呼び声が響き渡った。動きを止め、目先の獲物にとらわれたニセモノたちは、思い思いの獲物を前にして衝動を覚える。
そうしていると、見えぬ気糸の斬撃が、足を払った。
「ふぅ、追いついた。ニセモノと戦うのも問題なさそうだね、彩陽さん」
「やって、「いつも通り」やし」
『ひ、ひぃー』
「そう簡単には逃がせないな」
以蔵の紫煙が回り込み、一撃を食らわせるのだった。
『ま、待て。待ちなさい』
「降参する? してくれるなら話は早い」
「ただ、そうだな。ちょいと気絶していてもらおうか」
雲雀と以蔵の神気閃光が同時に炸裂する。息の合った攻撃だった。
「せいやー!」
カトルカールは、己のニセモノと対峙する。色合いが全く違う。ただ、少し相手の方が大きい。けれども、気合はカトルカールも負けない。オーラクラッシュ・オーバーレイ。カトルのほうが、纏う武闘は大きい。
『ぐあっ』
「よし!」
雲雀が後を引き受ける。
カトルカールはそのまま力化に詰め寄ると、流れるように攻撃をしかける。
狙うは急所。すなわち、頭、喉、鳩尾。
「一朝一夕で真似できると思うなよ、僕だってそれなりに努力してるんだからな!」
(ほう……)
カイトはその様子を見て、攻撃のセンスを感じとった。猿真似とはいえ、そこそこ早い動きにもきちんとついていっているようだ。
『くっ、いつもだったらこんなんじゃないのに、おかしい!』
完全な逸脱が、ペースを乱す。整えた術は全て乱雑にかき消される。いつもの調子が全く出せない。
『ぶわっ』
『きゃあ!』
汚れた泥が、構成員の足元をすくった。彩陽のケイオスタイドだった。
「大丈夫大丈夫。死なへんようにはしたるさかいにな。じっとしといてなー」
「彩陽さんはよく見ててくれるから、たすかるよ」
一人、また一人とニセモノが倒れて行き、追いつめられていく力化であった。
『っと、アブねぇ……!』
せまる気配に、ひらりと身をかわしたかに思える力化だった。だが、茨の影だけが伸び、貫いた。
「少し、足りなかったようだね、ヒヒヒ」
「こっちはまかせて」
雲雀のアンジュ・デシュが炸裂すると、敵の進路を阻害する。
呪い、呪い、また呪い。いやになるほどの雨模様(バッドステータス)。
あらかたの構成員を片づけた以蔵は紫煙に身を包み、力化に狙いを定めている。
『くそ、やっかいだな……』
葬送舞台・冷え切った雨帳。皮肉にもオリジナルのそれは、暗に動きを強制する。最善手を選び取ろうとするその意思こそが、不自由への導きだ。
『だが、これは、見切った、俺でも使え……ぐ、なんだ!?』
舞台は十全に。カイトは回り込んで、その先を行っていた。
「ただ早いだけじゃ俺は『追えない』ぜ。『舞台』からは逃さないがな」
『くっ……』
「追わせへんよ」
彩陽のダニッシュ・ギャンビットが炸裂した。前に出ると、同時に出現する無数の魔杭が逃走を阻んだ。かと思うと、ねじれた魔空間が構成員を襲うのだった。
『うわああーーー』
通常であれば殺されていたであろう圧倒的な質量。しかし、それは、命を奪うより前に緩み、気絶するだけで済んだ。
「こっちはええよ、そろそろ終わったわ」
『何だとぉ!?』
『まだおるんやで!』
「本気出してええよ」
『アンタ、誰に言って……?』
それは、彼らの周りを取り囲む者へのことばだった。
我冀う。その力を奇跡と成す事を――。彩陽の周りを取り囲む死者の霊が、彩陽に力を貸す。
『アリガト』
一体だれに礼を言ったのかも、その場にどさどさと倒れる彼らには分からなかった。見えていないのだから。
(うん、この位置なら、まとめて狙える!)
カトルカールが位置を確認すると、黒鴉を放った。命まで取る必要はない。その心は一緒だ。
「いけるか?」
気遣う彩陽に、こくりとうなずいた。以蔵や、カイトの動きから、少し学んだことがある。
曲線的にも、撃てる!
煙草の煙が揺れる。
「以蔵さん、行きますっ!」
以蔵の『ステイシス』。そして、続けざまにはカトルカールの攻撃が炸裂する。
『ぐ、が、動きが、鈍く……っ!』
さて、ここにきて、この場はどちらのものなのか。それははっきりとこの空気が物語っている。
一つ一つは大きな痛手ではなかったかもしれない。
しかし、一歩、また一歩と手を間違えているうちに、いつのまにか状態異常のバイキングもいいところだ。
ありとあらゆる妨害を受け、泥沼に陥ったように動きは鈍くなる。破れかぶれに放たれた術式は意味をなさず、かすり傷すらつかない。奇跡を願い、捨て身の一撃を食らわせようとあがいても、その可能性すらすでに先回りしてつぶされているのであった。
『ウン? 青い、青いよ? なんだこれ、イヒヒヒヒ』
うっかりと青い提灯の炎を追いかけていたニセモノがぐったりとその場に身を投げ出した。
「おいで」
武器商人がしなやかに呼ぶ。残っていた構成員の一人が再びからめとられていった。
「よし」
息を吸った。秘咒・点照。雲雀が会得している強化咒法の一種である。雲雀の流れを、仲間たちはたどった。
「どうだ、弟は唯一無二だろう?」
後方で頷いているのは隼人である。
「もう、恥ずかしいな……」
なにもかも、上手くはいかないかった。
『なら、利用してやる、術を……っ! この、結界を、ぜんぶっ!』
弱点を見つけた。
この術にすべてを込めると決めたのだ。
力化が呪文を唱えると、再び冷気が立ち上った。……いける。調子がいい。上手くいっている。立ち上る冷気はサヨナキドリ一行に牙をむき……。
「――さぁ、命運ごと『裏返れ』」
そして、カイトのたった一打で術式はひっくり返った。
冥王の呼び声。浸食せし闇。恐ろしく湧き上がる恐怖。ニセモノ、力化はおののいた。先ほどまでサヨナキドリ一行を襲おうとしていた冷気は、今、自分に牙を剝いている。
『なぜ、なぜだなぜだなぜ、なぜ!』
「「この目とこの手で、本物を超えてやる!」ってか。成程なぁ?
――面白い事を言うじゃねぇか」
そこにいたのはホンモノで。底の知れないホンモノだった。
「ならお前を『超えさせてやる』」
『んだとぉ?』
「自分から俺に対して『売り込んだ』んだ。後悔すんのは遅いぜ?」
カイトの授業は実に実践的だった。術式が構築されていく。即興劇のようなもの。その場のアドリブ。これについていこうとするなら、自分もまた柔軟にならねばならぬと思えるのだった。
きらりと辺りを舞う氷の粒に、自分自身が映り込む。まるで知らない自分自身が。
『なんだ、これ……?』
模倣の果て、ニセモノの自分は、ほんの一瞬、力化は、自分が限界を超えたことを察した。
……それは一瞬の、ことではあったが……。
『真似じゃない、これは……これは……』
自分自身。
勝てる。
そう確信して、力化は舞台を整え、術を放った。
「俺を超えられるとは言ってないな」
「ヒヒヒ、良い経験は積めたかな?」
●弟子が増えました
(寒っ寒っ。ふう。終わった。って、あれ? 人が少ない。そっか。結界だ)
カトルカールは理解する。
カイトの結界術が効いていたのだ。全員を捕まえたのを解除すると、一気に喧騒が近くに感じられる。
「難しいほうを押し付けやがって」
「器用なのはお得意だろう?」
「っと、これで全部か。よくもまあ見た目だけは似せたもんだ」
以蔵は展示会の商品を回収すると、首尾よく設備を撤収した。
「あ、手伝います! こいつら、顧客リストも作ってたみたいです」
「おお、でかした。カトル」
『待て、それは俺たちの……っ』
「俺たちの、なんだい?」
『ぐっ……』
「ま、観念しろってこったな」
カイトに作り出された魔法のロープが、構成員たちをぐるぐるに拘束することになった。
かくして、ニセモノ集団は蹴散らされることとなった。再起不能なまでに返り討ちにあった彼らは、もう二度と悪さをすることはないだろう。
「よかった。シレンツィオの方にも報告しないと」
「ミモザの姐さんもこれで勘弁してくれるかね?」
「良い戦いだった。周りを見ながら、先陣を切っていたのを俺は見ていた。まったく、俺の弟と比べることすらおこがましい連中だったな」
「もう、そうやってまた……」
『わかりました。すみませんでした。もう二度と悪いことはしません! ……というわけですので、見逃していただけますと……』
「タダで帰らせようっていうわけにはいかねぇなあ」
とりあえずはあとを片づけろと、ホウキとチリトリを持たされた。
ポン、と首謀者の肩をたたくカイト。
「そうだな。弟子志望なんだっけ?」
『へ?』
「ちょろちょろつけまわしたりしてくれやがってよぉ……」
「弟子にしてもらえるなんてラッキーやな」
「カイトさんったら、甘いんじゃない?」
さて、彩陽と雲雀に囲まれている。
「楽な道はないってことだよね」
と、カトルカール。
かくして、とっ捕まったニセモノは、本物の弟子(見習いかもしれない)にされることになった。
「拒否権? あるわけないだろ。よかったな。ホンモノの弟子に憧れてたんだろ?」
『ひぃ……!』
「おっ、喜びの声だね」
「気張りやー」
とりあえず損害の詫びということで、様々な手伝いからということになった。
カイトはおこげチップスをパリパリと食べながら働きっぷりを見守るのであった。
「あ。それ。ししょー、一枚ちょーだい」
「……」
「ししょー」
『うう、どうしてこんな……』
と言いつつも、なんとなく嬉しそうな新弟子であった。あの瞬間、自分を超えられたように思えたことがすっかり忘れられないのだ。
「まあ、名前はダサすぎるから、変えたいところだが」
「そらそやなあ」
「命名でも募集するかい?」
成否
成功
MVP
なし
状態異常
なし
あとがき
偽ブランドの退治、お疲れさまでした!
評判も下がることはなく、これにて海洋には平穏が戻ったことと思います。
そしてまたカイトさんにはひそかな隠れファン(?)が増えるんじゃないでしょうか。
GMコメント
お久しぶりです、布川です!
ほんとだろうか。巾川とかかもしれない。
●目標
武装派商人集団「偽計組」を退治する。
●舞台
海洋王国、サヨナキドリ支部近くの広場。
見晴らしはよく人気も多い。
●状況
サヨナキドリを含め、さいきん海洋では品物の「模倣品」が出回っています。
(もちろん、気が付かなかったわけではなく、ギルドを含め、評判が落ちないようにそれなりに対策をしてきました。ただ、ほかの一般市民が被害を被っており、このまま放置すれば評判を落としかねない状況です)
武装派商人集団「偽計組」は、「展示会」と称し、サヨナキドリ支部の近くの広場で販売会をするようです。
●敵
武装派商人集団「偽計組」
もともとは豊穣のほうから流れ着いてきたならず者のあつまりです。シレンツィオ・リゾートでけちな商売をしていましたが、海洋にも手を伸ばし始めました。
リーダーを含む少数の集団であり、ここで退治すればあとくされなく壊滅するでしょう。
ターゲットとみるや、人・物問わず、執拗に追跡し、形ばかりマネをします。
そこにオリジナリティはまるでないのですが、彼らは「誰よりも上手に模倣できる」という誤った美学があるようです。盗んだものは、商品であれば売りさばきます。人の技術であれば、盗み、高額でセミナーを開いたりします。
リーダー『力化(リキカ)』
「この目とこの手で、本物を超えてやる!」
・服装だけカイトに似ている気がする。
・素早い。ただし素早いだけである。
その他の構成員×20
ウサギめいた構成員や邪眼使い、など、皆さんに似た連中もいます(フレーバー程度に)。
瞬発的な小手先の模倣力だけはかなりのもので、お手本が良いので無為に強いかもしれません……が、逆立ちしても本物にかなうほどではありません。
積極的に一般人を巻き込んだりはしませんが、しかしならず者です。通行人に危険が及ぶ可能性もあります。
●その他
ここ最近は、「偽計組」による監視を受けていたかもしれません。ただし、彼らは一般人に対しては脅威でもイレギュラーズに対して十分な監視ができるほどの実力があるわけではありません。好きにあしらったことにしてください。
(誤情報をつかまされ、変な模倣の仕方をしている構成員もいるかもしれません。)
●情報精度
このシナリオの情報精度はAです。
想定外の事態は絶対に起こりません。
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