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シナリオ詳細

砂漠にそびえる白き巨大樹。或いは、オアシス奪還作戦…。

完了

参加者 : 6 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●巨大樹と砂漠の国
 フフとプティは砂漠の国の旅商人だ。
 1台の馬車に荷物を山と積み込んで、危険で過酷な広い砂漠を西へ東へ。都市から都市へ、時には小さな集落や、砂漠の途中のオアシスへ。旅をして、品物を仕入れて、売って、また旅をして、そんな毎日を送っている。
「それで、オアシスに居た変なお婆さんから“砂漠でもよく育つ樹木の種”を買い取ったと?」
 イフタフ・ヤー・シムシム(p3n000231)は、じっとりと問い詰めるような口調でそう言った。前髪に隠れて見えないが、きっと2人を睨んでいるのだろう。
「えぇ、だって……砂漠の国では、いい値段で売れると思って」
「……うまい話には、裏が、ある」
 フフは申し訳なさそうに。対してプティは、誤魔化すように視線を逸らしてイフタフの問いに答えを返した。
 まだ幼い子供であるプティはともかく、成人女性であるフフには、もう少し危機感だとか、警戒心だとかを身に付けてもらいたいところである。
 溜め息を零したイフタフは、視線を2人から目の前のオアシスへと移した。
「それで、この有様っすか。いや、まぁ、砂漠でもよく育つ樹木の種があれば、それはもう喉から手が出るほどに欲しいって人もいると思うんっすけどね」
 イフタフの視線が空へと向いた。
 否……正しくは、空に向かってそびえたつ巨大な白い樹木を見上げているのである。

 ところはラサ。
 とある砂漠のオアシスである。
 もっとも、オアシスの水はすっかり干上がっていた。原因は、オアシスの畔に根を張った巨大な大樹だ。
 大樹の根元には、馬車の残骸が散らばっている。
「休憩のためにオアシスに立ち寄ったんだけど……そこでうっかり、種に水を零してしまって」
「あっという間に大きくなって……こんな、感じ。今も、地下の水脈に向かって、根を伸ばしていると、思う」
「……っすかぁ。最悪、この辺りのオアシスが潰滅するかもしれないっすね」
 フフとプティの話を聞いて、イフタフは顔色を悪くした。
 ラサでは確かに木材は貴重品である。だが、木材とオアシスのどちらが優先されるかと言えば、そこは当然に後者であった。オアシスが1つ無くなるということは、数百、数千の旅人や商人が命の危機に瀕するのと同義であるためだ。
「切り倒すか、焼いちゃうか……って言うか、続々と人が集まって来てるのは何なんっすか?」
「あー、木を狙って来た商人とか盗賊じゃないかしら?」
 さもなきゃ、水の干上がったオアシスに人が集まるはずもない。
 オアシスの傍に仮設テントを建てている商人。
 遠くから様子を窺っている盗賊たち。
 何を勘違いしているのか、煌びやかな飾りを持ち寄る旅人たち。
 オアシスには、大勢の人が集まっていた。
「どうしたもんっすかね? 放っておいても、誰かが伐採してくれそうっすけど」
「私たちが大枚叩いて買い取った種から育った樹なのに?」
「……オアシス1つ潰したんっすよね? もう、ひっそりと逃げるのが良くないっすか?」
「馬車が……壊れてる」
「……あぁ、そっすね。そっか。どうすっかな」
 今も少しずつ大きく育っている樹を見上げ、イフタフはガクリと肩を落とした。

GMコメント

●ミッション
白い大樹を排除せよ

●ターゲット
・白い大樹
フフとプティが、怪しい老婆から購入した種が発芽し、オアシスの水を吸い尽くして成長したもの。
現在も地下水脈に向かって根を伸ばし続けている模様。
現在は、全長20メートルほど。
幹も葉も白いことが特徴。

●エネミー
・商人
大樹を狙って訪れたラサの商人たち。現在は、大樹伐採の前準備として、オアシスの周辺に仮設テントを設立中。
中には大樹を狙って来た者たちをターゲットに、食べ物や飲み物を売っている者もいる。

・盗賊
大樹を狙って訪れた盗賊たち。現在は、オアシスの外から大樹の様子を窺っている。
大樹の伐採が進んだところで乱入し、木材を強奪するつもりである。

・旅人
何かを勘違いしている旅人たち。現在は、大樹を飾り付けて騒いでいる。
何故彼らがこのような行為に及んでいるかは不明。謎である。

●フィールド
ラサのとあるオアシス。
さほど大きくない砂漠の休憩所……だったのだが、現在は白い大樹のせいでオアシスはすっかり干上がっている。
オアシスの周辺では、商人たちが食べ物や飲み物を売っている。


動機
当シナリオにおけるキャラクターの動機や意気込みを、以下のうち近いものからお選び下さい。

【1】イフタフに呼び出された
白い大樹伐採のためにイフタフから呼び出されました。

【2】元々、オアシスで休憩していた
オアシスで休憩していました。突如、大樹が現れ、オアシスの水が干上がりました。

【3】旅人や商人と一緒に来た
大樹の噂を聞きつけて、旅人や商人たちと一緒にオアシスへやって来ました。


オアシス奪還作戦
オアシスを取り戻すための行動です。

【1】大樹の伐採を試みる
大樹の伐採を試みます。斬るなり、焼くなり、色々と試してみましょう。

【2】大樹を警護する
主に盗賊や、暴走した商人への対策を行います。周辺警戒や、盗賊の迎撃を行いましょう。

【3】オアシスを楽しむ
商人たちから料理や飲み物を購入したり、旅人と一緒に大樹を飾り付けたりします。

  • 砂漠にそびえる白き巨大樹。或いは、オアシス奪還作戦…。完了
  • GM名病み月
  • 種別 通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2023年12月28日 22時05分
  • 参加人数6/7人
  • 相談0日
  • 参加費100RC

参加者 : 6 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(6人)

ラダ・ジグリ(p3p000271)
灼けつく太陽
ソア(p3p007025)
無尽虎爪
モカ・ビアンキーニ(p3p007999)
Pantera Nera
ユイユ・アペティート(p3p009040)
多言数窮の積雪
アオゾラ・フルーフ・エーヴィヒカイト(p3p009438)
不死呪
紅花 牡丹(p3p010983)
ガイアネモネ

リプレイ

●オアシスの白い大樹
「この木なんの木いけない木」
 ラサの砂漠のオアシスに、1本の白い大樹がそびえたっていた。
 オアシスの水をすべて吸い上げ、今なお、地下の水脈を目指して根を伸ばし続ける奇怪な木である。放置しておけば、付近のオアシスが全て干上がることは明白。
 ともすれば、近くの街や集落もいくつか連座で潰れるかもしれない。
「生えてたらいけない木だね……うん、焼いてしまおう」
 時刻は昼過ぎ。
 今なお成長を続ける白い大樹を見上げ、『無尽虎爪』ソア(p3p007025)はそう呟いた。

「それで慌てて私を呼び出したわけか。まぁ、緊急事態ではあるのだろうけど」
 そう言って、『Pantera Nera』モカ・ビアンキーニ(p3p007999)が大樹を見上げる。ラサの乾燥した風に吹かれて、白い葉の生い茂る枝がゆらりと揺れていた。
「そっすねぇ。対策を考える必要があったんっすけど」
「必要あるか? 放っておけば、明日の朝までには商人たちがきれいさっぱり、木材に変えてくれると思うが」
「……っすねぇ」
 オアシスの周囲には、大勢の商人や旅人、盗賊たちの姿があった。
 こうして会話している間も、その数は少しずつ増えている。彼らの目的が、この白い木であることは明らかだ。気の早い者などは、既に斧の準備をしている。
「白い大樹を伐採するなら枝葉を領地に持ち帰っても構わないか? 植物園でも作って植えてみようと思うんだが」
「取り分を確保できるんなら、まぁ、いいんじゃないっすかね?」
 うんざりとした表情を浮かべて、イフタフは重い溜め息を零した。
 ラサの住人はたくましい。生きる力に満ちている。そうで無ければ、過酷な砂漠で暮らすことなど出来ないからだ。
 そんなラサの住人たちが、貴重な木材を前にして……それも、所有者の決まっていない新鮮な木材を前にして、冷静でいられるものだろうか。
 絶対にトラブルが起きる。場合によっては、暴力沙汰にまで発展する。
 そんな未来を想像してか、イフタフの頬には冷や汗が伝っているのであった。

 砂漠の商人、フフとプティが持ち込んだ1つの不思議な種。
 それが、オアシスを干上がらせた白い大樹の起源である。
 種が発芽し、大樹となるのに、そう長い時間は必要なかった。せいぜいが半日かそこらだろうか。オアシスの水をぐいぐいと吸い取り、急激に成長する様子など、何かの夢か幻のようにも見えたことだろう。
「なんか急にオアシス干上がったんだけどぉ!?」
「急に大きな木が生えてオアシスが干上がったデス」
 一部始終を見ていた2人……『多言数窮の積雪』ユイユ・アペティート(p3p009040)と『不死呪』アオゾラ・フルーフ・エーヴィヒカイト(p3p009438)とて、目の前で起きた現実を、まったくもって理解できてはいなかった。
 ある種の魔法か何かであると思ったほどだ。白い大樹が急速に成長する様子が、あまりにも現実離れしていたせいである。
「ですが、困ったことになりマシタ。これではお水が飲めまセン」
「だねぇ。商人たちから買うってのも手だけど、やっとのことでオアシスにまで辿り着いて、わざわざ水を買うのもねぇ」
 2人がこのオアシスにいたのは偶然だ。
 砂漠で遭難し、命からがらどうにかオアシスに辿り着いたのだ。

 商人たちが、白い大樹の所有権を巡って言い争っている。
やれ「俺が最初に見つけた」だの、「俺のバックには大商人が付いている」だの、見苦しいことこの上ない。よくよく見れば、言い争っている商人の中には『灼けつく太陽』ラダ・ジグリ(p3p000271)の姿もあった。
「いやもう所有権主張している場合じゃねえだろ」
呆れたように『ガイアネモネ』紅花 牡丹(p3p010983)はそう言った。とはいえ、商人たちの気持ちも理解は出来た。
 ラサでは木材が貴重なのだ。
 当然、木材は高い値段で取引される。
 そこに来て、この所有者不明の白い大樹。もしも、切り出した木材を手に入れられれば、きっと大きな儲けになる。
「はぁ……盗賊の方も警戒しなきゃなんねぇってのに」
 これ以上は、商人同士で言い争っている時間がもったいない。だが、彼らは一端の商人であるからこそ、きっと言い争いはしばらく終わらない。
 目先の大きな利益を他人に譲るような商人は、ラサでは長生きできないからだ。
「仕方ねぇ」
 乱暴に頭を掻きながら、牡丹は盗賊たちの方へと近づいて行った。

 噂を聞きつけ、オアシスに足を運んだラダは、そこで既知の顔を見かけた。
 砂漠を旅する不運な商人、フフとプティだ。
「お、フフとプティも来てたのか。早く参加しないと取り分主張できなくなるぞ」
 そう言いながらも、何故だか少し顔色の悪いフフとプティの様子に首を傾げた。フフとプティは、何やら落ち着かない風である。
 心なしか、疲れた顔をしているようにも見えた。
「寝不足か? それとも、長旅の後か?」
「あー、寝不足よ。ちょっと、心労が……」
「不安で夜も、眠れない……ね」
 不安そうに視線を周囲に走らせながら、フフとプティは肩を落とした。
「?」
 ラダは再び首を傾げた。
 けれど、問いを重ねることはしない。
 2人が何で疲れているのか、何に怯えているのか。気になることは幾つかあるが、今はそんなことに気を回している余裕は無いのだ。
「どうせ放置は出来ないんだ。かといって焼くなどとんでもない」
 持参した荷物の中から、よく磨かれた斧を取り出す。
 それから、下半身を馬へと変えて、大樹の方へと近づいて行った。
「伐採しよう」
 そのために、仕事を横へ投げすてて。
 わざわざこんな辺鄙な場所まで、走って訪れたのだから。
 それぐらい、ラサでは木材が貴重なのである。

●大樹を巡る人間模様
 ハルトマン一味。
 ラサではまったく名前の知られぬ、弱小の盗賊団である。
 構成員は全部で12人。ちょっとした護衛を雇った商人程度も襲えぬほどの人数だ。何しろハルトマン一味は弱小であるため、これ以上人数が増えても集団を維持できないのである。
 おまけに構成員と言えば、食い詰めた集落の3男坊や、一旗揚げようと旅に出てそのまま落ちぶれた見習商人、まったく腕の立たない傭兵崩れとあまりにもひどい。
 リーダーだったハルトマンが真っ先に団を辞めて逃げ出したと言えば、そのひどさがよく分かるだろう。ゆえに、今のハルトマン一味にハルトマンは在籍していない。
 さて、そんなハルトマン一味の前に赤い髪の少女が1人でやって来た。
 険しい目付きは、まるで狂暴な猟犬のようだ。その目で睨みつけられたハルトマン一味は、最初から腰が引けていた。
「つうわけで商談だ。てめえら手伝え」
 開口一番、燃える赤髪の女性……牡丹は言った。
 静かに凄むような声である。
「な、な……なんだって?」
「耳まで悪ぃのか? 商談だっつったんだ。白い大樹を伐採するぞ」
 背後にそびえる白い大樹を指差して牡丹は告げる。
 ハルトマン一味の視線が、大樹に向いた。確かに木材は魅力的だ。だが、樹を切った経験など、ハルトマン一味の誰にも無い。
「切るのか? 俺らが? 俺、加工前の木なんて見るの初めてだ」
「おぉ、サボテンぐらいしか切ったことねぇよ」
「木ってけっこうでかいよな。感動しちゃったぜ」
 ラサの木材不足は深刻であった。
 ただ指揮を執るだけでなく、木の切り方から指導する必要があるだろうか。そう思うと牡丹は頭を抱えたくなった。
 ことここに至って、そんなみっともない真似はしないが。
「……ば、伐採した分はくれてやる! 商人たちに即売却もありだぞ! 退治されて儲け0は嫌だろ!」
 白い大樹を伐採するにあたって、どうしたって人手は必要になるのだ。
 少し頼りないけれど、いないよりはマシだろう。

 幸せの白い大樹。
 今月号の『月刊“ヌー”』に掲載された特集記事だ。
 月刊“ヌー”はラサの一部で流行(自社調べ)しているオカルト雑誌だ。眉唾ものの奇妙奇天烈なオカルト話を面白おかしく書き綴ることで有名な一切の信憑性に欠ける雑誌だが、何故だかファンは多かった。
 さて、肝心の白い大樹についての記事だ。
 曰く、ラサ以外の国ではシャイネンナハトの時期に現れる白く染まる大樹に、飾り付けを施す習慣がある。飾りの放つ輝きを頼りに赤い衣を纏った怪人がやって来て、人々に“幸せ”をプレゼントしてくれるのだ。
 要約すれば、以上のような内容であった。
 その話を真に受けた者が半分、面白そうだと首を突っ込んだのがもう半分。
 アオゾラとユイユは後者であった。
 星の飾りに、色とりどりの布、そこら辺で拾ったサボテンと、残り物のかぼちゃの置物。あらゆる物を適当に飾り付けられた白い大樹は、混沌とした輝きを放っているように見えた。
「……ただの作り話というか、雑誌が適当に書いた嘘八百だと思うんだけどね」
 飾り付けられた大樹を囲んで、旅人たちが騒いでいた。
 商人たちが売っている酒や食べ物を買い漁って、輪を作って飲んで騒いで歌って踊って……もはやパーティさながらである。
 そう言うモカ自身も酒とつまみを売って稼いでいるので、あまり文句を言う気も無いが。騒げる理由は何だっていいし、人に迷惑をかけない範囲なら何を楽しんだっていいのだ。
「切り替えって大事だよね」
「七面鳥を買って来るのデス」
 モカの店で飲み物を買ったユイユとアオゾラが、次の店へと移動していく。どうやら意気投合した旅人たちと、一緒に騒ぐ予定のようだ。
 そんな2人の背中を見送り、モカは視線をオアシスの外側へ向けた。
「……盗賊たちが消えたけど。さて、何をしでかすつもりか」
 このまま“楽しい”だけで1日が終わればいいが。
 まぁ、そうならないであろうことは、過去の経験から知っているのだ。

 オアシスの畔にソアが横たわっていた。
「……行き倒れデスカ?」
「お腹減ってんのかな? オアシス饅頭、食べる?」
 目を閉じているソアを左右から突きながら、アオゾラとユイユは首を傾げた。
「行き倒れじゃないよ」
 パチ、とソアの目が開く。
 ユイユの手からオアシス饅頭を受け取りながら、ソアは地面を指で叩いた。
「聞こえるんだ。根がすごい勢いで水を吸い上げてる音が」
 耳を澄ませば、聴こえてくるのだ。
 ソアはそう言って、白い大樹へ視線を向ける。
 ある程度以上に大きくなった大樹だが、まだ成長は止めていない。少しずつだが、今も空へ向かって伸びていっている。
 最初ほどの勢いがないのは、幹を成長させる分のエネルギーを、根を伸ばす方に移したからだ。
「え、不味いじゃん。地面がカピカピに乾燥しちゃう!」
「……既にカピカピを通り越して、砂になっていマス」
「んー。そうだよねぇ。焼いちゃうのが速いと思うんだけど、こうも人が多いとなぁ」
 根に雷撃を叩き込めば、木の1本程度はあっという間に焼き尽くせるのだ。
 だが、それをすると周囲に集まっている旅人や商人にも危険が及ぶ。そう考えると、打てる手が途端に少なくなる。
 ソアが困っているのはそれだ。
「ラダさんも木材を欲しがってるしね」

 ユイユとアオゾラに呼び出されたラダは、ソアの話を聞いて苦い顔をする。
「オアシスを吸い尽くすのか……そうか」
 オアシスはラサに住まう者にとって、非常に重要な共用資源の1つであった。何しろ水が無くなれば、ラサの過酷な灼熱砂漠は容易に人の命を奪う。
 水が無ければ人は生きていけないのである。
「……ちなみにこれ海水では育たない?」
 とはいえ、樹木が……さらに言うなら、木材が貴重であることも事実。可能であれば、白い大樹と言う“ラサの砂漠でも大きく育つ木”を確保しておきたいのだろう。
 もしも、白い大樹の安定した栽培が可能となれば、木材不足は加速度的に改善される。同時に、白い大樹の木材を扱うラダの商会は大きな儲けを得ることだろう。
「無理じゃないかな? 海水は、流石に」
 まぁ、無理なのだが。
 机上の空論なのだが。
「……うん、分かってた」
 がっくりと肩を落とす。
「けど、せめて焼く前に木材を回収させてもらえないか? 仕事を投げ出して来たんだ。得るものが無いと、商会員たちに言い訳もできない」
 木を切るためには、まず飾りを外さないといけないのだが。
 なぜ、木を飾り付けたのか。
 そんなラダの視線を受けて、ユイユとアオゾラは誤魔化すように視線を逸らした。
 
●大樹を切る
 夜通し騒ぐとは思わなかった。
 朝方。睡眠不足の目をこすりながら、イフタフは惨状を見回していた。
 惨状。
 つまり、夜通し騒いだ旅人たちが、オアシスの周囲に転がっているのだ。その中には、幸せそうな寝顔を浮かべるユイユの姿もある。
「しまっておくデス」
 眠ったまま起きる気配のないユイユを、アオゾラが端の方へと転がしていった。
「最後まで見届ける必要があると思って残ってたっすけど」
「まぁ、そろそろ終わるんじゃないか? 仕事に取り掛かれば、後は早いさ」
 苦笑を浮かべたモカが砂漠の方を指差す。
 果たしてそこには、ノコギリや斧を装備した盗賊たちの姿があった。
「野郎ども! 仕事の時間だっ!」
 驚くべきことに、盗賊たちは牡丹に率いられているようだ。
 どうやら近くの街に出向いて、木を切る道具を買い揃えて来たらしい。

 ラダが焦っている。
 白い大樹の伐採が、想像よりも数段速く進んでいるからだ。
「牡丹のやつ、随分と盗賊たちを統率できているじゃないか」
 これは予想外である。
 樹木の伐採というのは、単純な話、力仕事だ。1人ひとりの膂力はもちろん、頭数が多ければ多いほど作業はより速く、より効率的に行える。
「まずいな。フフ、プティ! それとアオゾラとユイユも! 手伝ってくれ!」
「ユイユさんは眠ってマス」
「起こせ! 木材を根こそぎ持っていかれる!」
 牡丹と盗賊だけじゃない。商人たちも既に伐採作業に取り掛かっている。
 これ以上、貴重な木材を横取りされてはかなわない。
 ラダはフフとプティ、アオゾラの3人を率いて、大樹の伐採へと向かう。

「うわぁ」
 それ以外の言葉が出ない。
 木材を奪い合う商人たち。がむしゃらに木を切る盗賊たち。そこかしこで罵声が飛び交い、ついでに木くずも飛び交っていた。
「商魂たくましいな。皆、稼ぐことに前向きだ」
「前向き……っすかねぇ。盲目的の間違いじゃ」
 あのラダでさえ、冷静さをかなぐり捨てて木材の確保に奔走している。
 普段通りの者と言えば、アオゾラとユイユの2人ぐらいだ。
 まぁ、2人とも木材に興味が無いので当然である。
 と、それはともかく……。
「あっという間だったな」
 感心したようにモカが呟く。
 作業の開始から数時間も経たないうちに、根本を残して白い大樹は消え失せたのだ。

「見ろ、木材がこんなに! いや、まぁ、大樹の大きさからすれば少ないんだが」
 馬車に積み込んだ木材を見て、ラダは大喜びである。
 大した量ではないが、貴重な木材が“タダで”手に入ったのである。“タダ”より高いものは無いと賢しらぶって言う者もいるが、ラダから言わせればそんな言葉はまやかしだ。
 タダで何か貰えるのなら、タダの方がいいじゃないか。
 そして、タダで手に入れた物を高い値段で売り捌くのだ。それがラサの、商人たちの常識である。
「それじゃあ、そろそろいっかな♪」
 商人や旅人たちが去っていくのを見送って、ソアが木の根に跳び乗った。
 右の腕を天へと掲げ、爪を広げる。
 ばち、と空気の爆ぜる音。
 落雷……否、ソアの爪が紫電を撒き散らしているのだ。
「いけない木は、焼いちゃおうね!」
 それから一撃。
 まさしく落雷のような轟音と衝撃を放つ一撃を、木の根へ向かって叩きつけた。
 地響きがした。
 火花が散って、木の根が燃えた。
 濛々と煙を上げて木の根が焼ける。水分が多いのか、白い煙が辺り一帯を覆い尽くす。
 煙から逃れるように、その場を離れたソアの背後で、ごうと大きな火が燃えた。
 このまま暫く放置しておけば、やがて木の根は完全に燃え尽きるだろう。
 
 まぁ、オアシスが復活するまでには、数日から数週間ほど時間がかかりそうではあるが。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

お疲れ様です。
白い大樹は無事に伐採されました。
騒動に紛れて、フフとプティも逃走。
不幸になった者は誰もいません。

この度はご参加いただきありがとうございました。
縁があればまた別の依頼でお会いしましょう。

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