シナリオ詳細
<ラケシスの紡ぎ糸>アルビレオ神殿防衛戦
オープニング
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吐息。
吐息、吐息、吐息。
息を吸って吐くのは、生きているから。
其の感覚が狭いのは、逃げているから。
「みんな、急いで……!!」
巫女さまの声がする。
いつもは穏やかに笑ってくれる巫女さまが、今は厳しい顔をして、一番小さいからとトーシェの手を引いて走っている。
僕らも走る。ひたすらに走る。
走らなければ、後ろから来る“吐息のないもの”に追い付かれてしまう。
――追い付かれたら、どうなるのだろう?
引き裂かれる? 嫌だ。
食べられる? 嫌だ。
僕たちは生きたい。だから走る。
●
ばたばたという足音に、セーヴィルははっと顔を上げた。
丁度結界術の巨大な魔法陣、其の全てのラインに力を注ぎこもうかという所であった。
「セーヴィル!!」
「ユーク!」
「この子たちで全員だよ、扉を閉めて!」
セーヴィルの片割れ、ユーク・アルビレオが5人の子どもたちを連れて神殿へ駆け込んでくる。其れを見届けるとセーヴィルは足元の魔法陣を起動した。
これはほんの少し、神殿の底で眠る凍竜の力を借りた結界術。
ばきばきばき、と音を立てて神殿の扉が氷で閉ざされていく。其の氷は厚く、固く、だから追ってきた甲殻類のような化け物たちを容易く通しはしない。
「――大丈夫か」
「……わ、私たちは、だい、じょうぶ……みんなは……?」
ユークが見回すと、子どもたちも息を荒くして、大丈夫だと頷く。一番小さい子どもは怯えているのだろう、ユークの脚にべったりとくっ付いて離れない。……震えている。
「凶星が輝いているから暫くは遊びに出るなと言っただろう」
「ご、ごめんなさい、巫女さま……」
――星、凶つに輝けるとき。星の獣が現れ災いをもたらす。
其れは細々とだが覇竜に伝わる伝承である。
巫女であるユークとセーヴィルは当然この伝承を知ってはいたが――セーヴィルは実のところ、そんなものを信じてはいなかった。星の獣とはよくいったものだと鼻で笑ったものだった。
しかし其れは現れたのだ。理解しがたいかたちで現れ、ユークと子どもたちを襲い、そして今も、神殿の唯一の扉をかりかりと其の鋭い脚で引っ掻いている。
「――……イレギュラーズが気付くかどうかだな」
「うん……私たちは攻勢に出られない。子どもたちを護らなきゃ……」
息を整えたユークが小さい子をあやしながら、眉を下げる。
このアルビレオにはもう一つだけ入り口がある。其れは以前アルビレオを訪れたイレギュラーズなら判るだろう場所だ。
中庭の庭園にセーヴィルは静かに向かう。
四季折々の花々が、嘲笑うかのように咲き誇っていた。セーヴィルは杖に光を溜めながら、『吹き抜け式になっている』中庭から空を見上げ……光を撃ち放った。
これで気付いて貰えれば僥倖。
気付いて貰えなければ、――其の時は、何もかもを覚悟しなければならないだろう。
セーヴィルは空に輝く青い星を見ながら、子どもたちが静かに泣きだすのを聞いていた。
- <ラケシスの紡ぎ糸>アルビレオ神殿防衛戦完了
- GM名奇古譚
- 種別通常
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2023年11月27日 22時05分
- 参加人数8/8人
- 相談6日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
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参加者一覧(8人)
リプレイ
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がりがり。
がりがり。
神殿の外壁を引っ掻く音がする。
異形の怪物たちが、今にも障壁を破って押し寄せるのではないかと悪い想像が心の底を這う。
其の度に子どもたちは怯え、ユークは大丈夫だと彼らを抱き締める。
セーヴィルはじっと、中庭から上空を見上げていた。
この異変は恐らく、此処だけではないだろう。
この神殿は下手を打てば後回しにされるかもしれない。
其れでも、とセーヴィルの内には確かな確信があった。
信用だとか信頼だとか、そんな言葉を向けるのは癪だが――其れ以外の言葉を、どうやって今の状況と己の行動に当て嵌めよう。
「大丈夫だよ、此処は簡単に破られたりは、……?」
最初に気付いたのは、子どもたちをあやしていたユークだった。
がりがりという耳障りな音が、聴こえなくなっている。幕を一枚隔てたように聴こえるのは、何かがぶつかるような音。
「……セーヴィル」
「ああ。来た」
振り返れば、片割れの腕に二羽の鳥が留まっていた。
ワタリガラスに酷似した一羽の足には括り付けられていた手紙を取り、セーヴィルは淡々と読み上げる。
「――掃除が終わり次第、ソラスに鳴かせる」
「……! 来てくれたんだね!」
「安心している場合じゃないぞユーク。子どもたちを奥へ」
「うん!」
●
「折角落ち着いたところなのに、蒸し返すように厄介事は湧いてくるね」
「確かに、何故かこの神殿、狙われる事が多いような気がするな……」
ふむふむ? と。
『月夜の蒼』ルーキス・グリムゲルデ(p3p002535)、『片翼の守護者』ルナール・グリムゲルデ(p3p002562)夫妻の会話に『灰雪に舞う翼』アクセル・ソート・エクシル(p3p000649)は耳を澄ます。
「色々大変な事に巻き込まれる神殿なんだね……でも其れだけ大事な場所って事だし、何より立てこもってるヒトたちのためにもやっつけないと!」
扉を塞いでいる障壁をがりがりと引っ掻いていた甲殻類型の星界獣を、残らず閃光で吹き飛ばしたのを確認して、アクセルはウンと頷いた。
そうして星界獣から距離を取り、遠距離からの援護に入る。
「あっこら、近付いちゃ駄目だよー!!」
吹き飛ばされた星界獣を乗り越えて、尚も神殿へ向かおうとする彼らをもう一度閃光で吹き飛ばす。其処にルナールが素早く入り込み、敵の注意を引く。
「確かに、いつ来ても襲われてるな。いやな星の下にあるもんだ」
好きでそうなってる訳じゃあないとは思うがな。
ルナールの反対側、『蛇喰らい』バクルド・アルティア・ホルスウィング(p3p001219)は冗談めかしていうと手の指をばきりと鳴らし構える。一気に敵陣へ突っ込むと、腕部を展開。強磁性を帯びた鋼鉄球をバラまいた。びりり、と周囲に満ちる雷の気。ぐらぐらと不安定になった甲殻類型星界獣たちを、『おいしいで満たされて』ニル(p3p009185)が展開した暗泥の渦が巻き込み、塵へと返した。
「できるだけはやく、たすけなきゃ……!」
中でずっと耐えていた人たちは、きっと怖かった筈だから!
一方ルナールが引き付けている星界獣たちは、或いはルーキスが澱泥へと引き摺り込み、或いは『温もりと約束』ジョシュア・セス・セルウィン(p3p009462)の銃弾によって蜂の巣にされていく。
――以前アルビレオ神殿にお邪魔した時は、僕自身が守りたいものは判っていませんでした。でも今は違う。
其れを伝える為にも。
ジョシュアは弓を引く。聖弓アーク・テトロンがゆわんと鳴いて、無数の一撃となり甲殻類型たちを貫いていく。
「――……早く、向かわないと……」
ふわり、揺れる海月のように。
『玉響』レイン・レイン(p3p010586)は終焉の帳を下ろす。紫は死に通じ、そうして、帳に巻き込まれた星界獣は狂気に焼かれながら塵へと帰っていく。
この生き物が果たして何なのか、今だ謎に包まれている。だが、友好的な存在でないのは確か。
「だから、ひとつ残らず壊してしまいましょ」
『屍喰らい』芳野 桜(p3p011041)は少女の姿で愛らしく、残酷に言ってのけた。
「其れに、生きている人の方が好きなのよ。其れを妨げる存在は許せない。あなた達に魂はあるかしら? どんな形をしているの、味はある? あとで食べてみましょうね」
アクセルが放ったのと同じ閃光で桜が星界獣を叩く。
「合わせるよ!」
そう、そして輪は繋がる。アクセルが更に畳み掛け――不調を致命へと至らせる攻撃によって、ひとところの星界獣がまとめて消し炭と化した。
多数を一対一でちまちま減らすのは下策。一気に畳み掛けて殲滅する。其れがイレギュラーズの決めた方針だった。
「そうだ、お手紙に人数とか名前とか書いたの? 知人なら嬉しいでしょうし、頭数が判れば頼もしいと思うのだけど」
辛うじて残った――残ってしまった星界獣に精神の弾丸を放ってとどめを差しながら桜がいうと、ルーキスは苦笑いをした。勿論其の間にも、広範囲攻撃でまとめて削るのは忘れない。
「いやー……どうかなあ。ユークの方は喜んでくれると思うけど、セーヴィルは別に気にしなさそうだし。助けなら何でもいいとか……思ってたらいい方かなあ」
「そうなの? なんだかヘンな関係なのね」
●
ルナールが引き付ける。
其れを挟み撃ち、一気に削る。
みるみるうちに甲殻類型の星界獣は其の数を減らしていた。
そうして――漸く見えて来る。甲殻類型とは似ても似つかない身体の、人のカタチをした星界獣だ。
「……ふむ。あれはヒト型として生まれたのかな。其れとも進化でもしてるのか」
ルーキスは興味深そうに見詰めながら、されど取り出した宝石に魔力を凝縮する。立ち上るオーラは剣の形となり、一気に接近して人型のソレへと一閃を振り抜いた。
――ぱりん、と音がする。
「……む」
氷を割ったような感触だ、とルーキスは思った。実際其の通りだ。ヒト型の星界獣は氷の盾を作り上げ、ルーキスの禍剣を凌いでみせたのだ。
「では――これなら!」
ジョシュアが弓引く。無数の一撃が人型と甲殻類型を巻き込むけれども、人型は矢張り氷の盾で耐えているようだった。
「……氷属性……だから神殿を狙ったのかな」
甲殻類型は兎角数が多い。かすり傷も重ねれば重傷になると、アクセルは癒しの術を紡ぐ。
「どうだろうなあ。聞いても判らんだろうが、頭には――」
違いねえだろ。
バクルドが甲殻類型を減らすついでとばかりに人型に攻撃を加える。ぱりん、と其の度に割れる星界獣の氷の盾は、バクルド自身に傷をつけた。攻撃を兼ねた盾という訳か。なんとも性格の悪い戦法だ。
「――……」
何事かを考えていたレインが、は、と気が付いたような仕草をした。
「……ニル」
「はい!」
「僕が、あれに張り付くから……氷の盾、砕いたら……攻撃してみて……」
「盾を砕いたら……? 判りました!」
ニルが頷いたのを確認すると、レインは甲殻類型に構わず人型星界獣へと移動を始める。
「あ! こら、気を付けなさい……って、こら!」
甲殻類型が鋭い脚を向けても、レインの視線は人型星界獣にあった。傷付いていくレインを癒したのは桜だ。
援護を得て、そして緩慢に見えて迅速に人型星界獣へと接敵したレインは、持っていた傘を閉じて振りかぶる。
「相性……最悪だと思うよ……」
叩き付ける。
傘は熱を帯び、焔を起こして、脆い氷の盾を粉砕した。
そして其れを、ニルは見逃さなかった。
「いまですっ!」
本当なら至近で思い切りぶちかましてやりたかったが、今は人型の傍にレインがいる。ならばとニルが選んだのは、澱んだ凶事の泥だった。
『――!』
其れは見事に人型星界獣を巻き込み、ダメージを与えていく! もがくように苦しむ様を見て、残り少ない甲殻類型を引き付けていたルナールはぐっと拳を握った。
だが人型星界獣とて、盾一辺倒ではない。氷の槍を作ったかと思うと、レインに向けて突きだして――
「……」
じゅわ、と音がした。
其れは氷が融けてゆく音。槍をかたどっていた氷が、呆気なく液体へと還ってゆく音。
「だから……言ったでしょ。相性……最悪、だって……」
「よーし、あとは殲滅するだけ! アクセル、レインについてあげてくれる?」
「おっけー! 多分大丈夫だと思うけど、万一凍ったら大変だもんね!」
ルーキスがあとちょっとだ、と仲間を鼓舞する。
答えるようにバクルドが、はぐれていた甲殻類型星界獣、其の甲殻の柔らかいあわいを見事に撃ち抜いて見せた。
●
手紙を受け取ってからどれだけの時間が経っただろうか。
静寂の中、ユークは泣き疲れて眠った子どもの背を擦り……セーヴィルは矢張り中庭に立ったまま、空を見上げていた。
ふと――カア、とワタリガラスが鳴いた。
「……!」
ユークとセーヴィルは其れを聞く。
手紙の情報が確かなら、このカラスが鳴いたなら……
「セーヴィル」
「待て」
中庭から天を見上げていたセーヴィルは、ふわふわと何かが――誰かが浮遊するように近付いてくるのを見た。
杖を構える。……けれども。其のすがたかたちを認めれば、はあと大きく溜息を吐いて構えを解いた。
「……こんにちは……」
其れはレインだった。
簡易飛行でひとっとび、中庭からお邪魔したのである。
「レインーっ、レインー!? 行き成りお邪魔するのは……あっ!」
天井から中庭を覗き込んだのはアクセル。危ないって言ったのに、と言いながら、レインの後に続くように降りて来る。
「もう大丈夫だよ! 外の星界獣は全部オイラたちがやっつけた!」
「……人型も……倒したから……みんなは、無事……?」
「……」
セーヴィルは暫し黙り込んでいた。
其れは怒っている訳ではなく、二人のイレギュラーズの真意を確認する為。周囲の気配を、神殿を通じて探り……彼らの言葉通り、奇妙な気配が一つとして残っていない事を感じ取ると閉じていた目を開き、杖の一振りで結界術を解く。
まるで枝が枯れていくかのように入り口を塞いでいた氷がなりを顰めると、どやどやと残りの6人が入ってきた。
「やあ、大丈夫?」
「静かにしろ。眠っている子どもがいる」
のんびりとルーキスが聞くけれども、ぎろりとセーヴィルはルーキスを睨み付けた。
「……セーヴィルはずっと、鳥さんが鳴くのを待ってたんだ。君たちを信頼してね」
「ユーク」
「間違ってはないでしょ?」
にやにやと、お前の本心は判ってるぞ、みたいな顔でルーキスとルナールが見て来るので、セーヴィルの眉間にますます皴が寄った。
「片付けるのに時間がかかっちまった。寒くて敵わんな、暖を取る場所はあるか?」
バクルドが両腕を擦りながら言う。
人型星界獣の影響が残っている訳ではないのだが、何せ此処は氷の神殿。周囲も内部も、他の場所より温度は低いと言えるだろう。
うん、とユークは頷いて、子どもを抱いて立ち上がる。
「私たちが普段使ってるスペースがあるから、其処で皆休んでくれていいよ。良いよね、セーヴィル」
「……」
「沈黙は肯定と取るからねー」
「勝手にしろ」
「あったかいもの、持って来れたら……良かったんだけど。ごめんね……」
「別に謝る必要はないでしょ、戦いの邪魔になるかもしれないし……というか、何なのあの生き物。魂らしきものが全然感じられなかったんだけど」
桜が不満そうに首を傾げる。
さて、とジョシュアが答えた。いや、答えたというよりは同調したというべきか。
「未知の敵……ですよね。覇竜以外での目撃談はないみたいですし」
「倒しても魂がないなら倒し損よ。もう……」
「まあまあ。取り敢えずユーク様もセーヴィル様も、他の子どもたちも助けられた訳ですから」
ちなみに残りの子どもたちはというと、ルナールお兄さんと無邪気に戯れている。安心したのか座り込んでいる子はアクセルやレインと穏やかに談笑し、バクルドはユークと共に生活スペースへ向かった。
ルーキスは考える。覇竜にのみ現れる星界獣という存在。
――何が原因なのだろう?
――何に惹かれているのだろう?
――覇竜には、まだ謎がある……?
「あ! そうだ、クッキーを持って来たのです。がんばっておなかへったでしょう? おまじないつきなので、きっととってもおいしいですよ!」
ニルの声にきゃあと楽し気に声を上げる子どもたち。
ルーキスは一旦思案をやめ、振り返って其の微笑ましい光景を見詰めると、
「……ま、取り敢えずは解決かな」
穏やかに笑って、其の輪に加わりに行った。
成否
成功
MVP
状態異常
なし
あとがき
お疲れ様でした。
星界獣。一体何処から、何を求めて、何の為に現れるのでしょうね。
ご参加ありがとうございました!
GMコメント
こんにちは、奇古譚です。
覇竜にも終焉が訪れようとしています。
至急アルビレオ神殿へ向かって下さい。
●目標
星界獣を撃破せよ
●立地
亜竜集落ウェスタ近郊にあるアルビレオ神殿です。
神殿上空に青い星のような光が撃ちあがっています。恐らく救難信号でしょう。
アルビレオ神殿には二つ入り口があり、一つは分厚い氷で塞がれ、星界獣もイレギュラーズも通れません。
しかしもう一つの入り口――中庭に通じる吹き抜けの天井部を一部のイレギュラーズは知っています。空を飛ぶ手段があれば、此処から入って二人の巫女と子どもたちの支援を行う事も出来るでしょう。
●エネミー
甲殻類型星界獣xたくさん
人型星界獣x1
人型が甲殻類型を引き連れてアルビレオを攻めているようです。
人型は意思疎通は出来ませんが、氷の神秘術を扱います。
甲殻類型は其の鋭い前脚で切り裂く至近攻撃を行います。数で攻めて来る厄介なタイプです。
●情報精度
このシナリオの情報精度はAです。
想定外の事態は絶対に起こりません。
●
此処まで読んで下さりありがとうございました。
アドリブが多くなる傾向にあります。
NGの方は明記して頂ければ、プレイング通りに描写致します。
では、いってらっしゃい。
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