シナリオ詳細
●エントマChannel/ミステリ編。或いは、エリア99の謎…。
オープニング
●エリア99
空に輝く白い太陽。
無限に広がる青い海。
季節外れのひまわり畑の真ん中で、エントマ・ヴィーヴィー(p3n000255)が拳を突き上げ、声の限りに絶叫していた。
『Opa! エントマChannel/ミステリ編の時間だよ!』
海洋。
ラサの南端にある港を出て、海を行くこと数日間。やっとのことで辿り着いた常夏の島では、1年を通して一面のひまわりが咲き誇っている。
『さぁ、今回やって来ました海洋の孤島。通称“エリア99”には、遥か昔から不思議な言い伝えが残ってるんだよ!』
ひまわり畑を掻き分けて、エントマは島の中央付近へ歩いて行った。
やがてカメラが映したのは、薙ぎ倒された大量のひまわり。
『これね、人為的なものじゃないんだよ』
エントマが自立式移動カメラへ合図を送る。
ゆっくりとカメラが高度を上げて、空高くからひまわり畑を映し出した。
薙ぎ倒されたひまわりが、〇と△を組み合わせたような幾何学模様を描いている。図ったような真円に、3辺の長さがきっちり揃った三角形。
エントマは人為的に描かれたものではないと言ったが、それが真実であるとは到底、認められない。とてもではないが、自然に形成された図形のようには思えないし、動物などが描いたもののようにも見えないからである。
『見えたかな? すげーよね? さて、さらに不思議なことにね、この島には、動物が1匹も住んでないんだ』
エリア99は、ひまわり畑だけがある島だ。
だが、かつて此処には見渡す限りの草原があった。人の手が入りにくい立地ということもあり、草原には牛や馬が何百頭も暮らしていた。
エントマは、当時の光景を見たことは無い。
だが、少なくとも今に伝わる文献には、そのように記されている。
『じゃあ、動物たちはどこに行っちゃったのか。言い伝えによれば、動物たちの全てはある日、空飛ぶ円盤に吸い込まれて、いなくなっちゃったんだって』
さらには、調査に訪れた海洋の学者や船乗りたちも、同じようにある日を境に姿を消した。
動物たちと同様、件の円盤に吸い込まれたと言われている。
『以来、この島は“エリア99”の名前が付けられ、一般人の上陸は禁止されたんだ』
船で近寄ることも出来ない孤島である。
そのためエントマは、わざわざラサの南端にある港から、遠回りしてエリア99を訪れたのである。
まぁ、要するに不法侵入と言うわけだ。
『さて……今回、私はこの島で一日を過ごしてみようと思います』
そのためにわざわざイレギュラーズを雇い入れたのである。
エントマ1人では、きっと悲しい結果に終わることが目に見えていたので、あらかじめ護衛を雇ったのである。
最初から危険な真似をするな、とそんな声ももっともだろう。
だが、危険程度でエントマが止まることは無い。
撮れ高が期待できるからだ。
チャンネル登録者数が増えるからだ。
そのためならば、エントマは己の命を賭ける。
『噂によれば、空飛ぶ円盤だけじゃなくって、他にも色々……姿の見えない空飛ぶ魚に、沖に住み着く首長竜。手足の長い人に似た怪物、体毛の無い獣の遺体……まぁ、昔から色々と“よく分からないもの”が多く見かけられてる土地ってわけよ』
その大部分は、きっと嘘や出鱈目だろうと思われる。
だが、もしも万に1つでも、それらの噂の1つだけでも真実であるとしたならば。
それをカメラにおさめることが出来たなら。
『浪漫には、命を賭ける価値がある!』
チャンネル登録者数はうなぎのぼりであろう。
そんな浅い欲望が、エントマの脳に響く警鐘を掻き消したのだ。
- ●エントマChannel/ミステリ編。或いは、エリア99の謎…。完了
- 浪漫には命を賭ける価値がある
- GM名病み月
- 種別 通常
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2023年11月06日 22時10分
- 参加人数4/7人
- 相談0日
- 参加費100RC
参加者 : 4 人
冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。
参加者一覧(4人)
リプレイ
●命を賭けて、浪漫を追え
『浪漫には、命を賭ける価値がある!』
ひまわり畑にエントマの声が響き渡った。
ふわり、とひまわりの花弁を揺らしたのは、潮風か、それともエントマの大音声か。
「相変わらずこの手のモンが好きだねぇ、お前さんは」
エントマに次いで島に降り立った『幻蒼海龍』十夜 縁(p3p000099)が、欠伸を噛み殺しながらそう言った。
ひまわり畑の広がる島で、どういうわけか生物の気配は感じられない。
島の名は「エリア99」。
海洋に数多く存在する人の住まない小さな島で、その中でも正式に海洋国家から「立ち入り禁止」に指定されている海域である。
「まぁ、浪漫は素晴らしいよな、解るよ」
『青き鋼の音色』イズマ・トーティス(p3p009471)がエントマの言葉に同意を示す。
立ち入りが禁止されている「エリア99」には、古くから多くの謎が伝わっているのだ。エントマでなくとも、その謎に興味を抱き、直接、島に乗り込みたいと考える者は多いだろう。ともすると、過去には大勢の人が島に“勝手に”上陸したのかもしれない。
そう、エントマと同じように。
エントマは別に「エリア99」への上陸許可を得ていない。わざわざラサの南端から出航して、こっそり島に乗り込んだのだ。
縁やイズマにしたって、目的地が「エリア99」であることを聞かされたのは、島の近くまで来てからだった。
「ともかく、生きて帰って、不法侵入の弁明も考えないとな」
「あー……うん。配信したら、流石にバレちゃうもんね」
イズマの言葉に、少し顔を青ざめさせてエントマはがっくりと肩を落とした。
「エントマ……あそこ……何か漂着してる、みたい?」
肩を落としたエントマの頭上から、ぼんやりとした声が降って来た。
声の主は『玉響』レイン・レイン(p3p010586)だ。少々、奇妙な話なのだが、レインはいつの間にか船に乗っていた。
本来、エントマが呼び集めた“エリア99調査隊”にレインは含まれていないのである。
まぁ、来てしまった以上、いいように使うのがエントマという女性の性だが。レインの仕事は、船の見張り番である。
そんなレインが指差したのは、エントマたちの位置から数十メートルほど離れた位置の海岸であった。
縁とイズマが、腰に差した得物にそっと手を伸ばす。
エリア99は生物の生息していない奇妙な島だが、大昔から異常事態が頻発することで知られている。その中には、島の生物を吸い込む“空飛ぶ円盤”という奇怪で危険なものもある。
縁とイズマが警戒しているのはそれだ。
「え、ほんと! どんなの!?」
もっとも、当のエントマは危機管理能力がバグっているのか、興味津々といった様子で漂着物の仔細を訪ねているわけだが。
「人……? 手足がある……みたい?」
「おぉ! もしかして、グロブスター!?」
グロブスター。
かつて、エリア99から海洋の港町に漂着したと言う正体不明の生物の遺体だ。
意味するところは毛の無い肉塊。
流れ着いた遺体は既存のいかなる生物にも似ておらず、その身体には一切の体毛が生えていなかったと言う。
「早速、観に行かなくちゃ!」
「あ、おい。そんな無警戒に……」
「足が速いな……護衛するのも骨が折れるぞ」
脱兎のごとく駆け出して行ったエントマを、慌てて2人が追いかける。
砂浜に投げ出された手足。
身体には海藻が巻き付いており、その肌は血の気を失い青白い。
「これは……え」
カメラを止めて、エントマが顔を青ざめさせた。
漂着していたのはグロブスターなどではない。人だ……『不死呪』アオゾラ・フルーフ・エーヴィヒカイト(p3p009438)だ。
島の調査に訪れて、人の遺体を発見してしまったのだと、エントマは冷や汗を零す。
遺体を見るのは初めてではないが、何も進んで遺体を見たいわけでは無いのだ。
「……いや、遺体じゃねぇぞ」
エントマを押し退け、縁が前へと歩み出た。
それから、数度、アオゾラの頬を平手で軽く叩いてみる。
するとどうだ。アオゾラは口から、ぴゅうと水を吐き出して、むくりと上体を起こしたではないか。どうやら、漂流中に水を飲んで、一時的に呼吸を止めていただけのようだ。
「よぉ。お目覚めか? 何があった?」
「あー……鯨肉が食べられるホエールウォッチングの最中に船が転覆するとは……お肉食べ損ねたデス」
身体に巻き付いた海藻を引き剥がしながら、アオゾラはむすっと拗ねたような顔をした。
「所でココは、ドコ?」
●浪漫を追う者
エントマから預かった自立式移動カメラ(予備機)を連れて、アオゾラは島をうろうろしていた。
エリア99に漂着し、エントマたちに助けられたアオゾラは、このまま一行に同行することになっている。だが、肝心のエントマたちがまだ目的を達していないのだ。
だから、船はまだエリア99を出港しない。
ただ待っているのも退屈なので、アオゾラはエリア99の調査を手伝うことにした。
「島を探索するデス」
カメラに向かってVサイン。
視聴者サービスというやつである。
何しろ島には、広大なひまわり畑しか存在していないのだ。当然、撮影対象なんてあっという間になくなった。
確かに季節外れのひまわり畑は珍しいけれど、代り映えのしない景色ばかりを延々と撮影し続けていてもつまらないのだ。
そうなればもう、自分自身を撮影するしか画面に変化を加える方法は存在しない。
と、その時だ。
「ん。何か……ンン」
ぺちん、と小さな音がした。
後頭部に手を触れて、アオゾラが首を傾げている。
ぺちん、ぺちん。
続けざまに、小さな音が鳴る。その度に、アオゾラの身体が揺れた。
手を、足を、背中を、腹を……見えない何かが打っているのだ。
否、ぶつかっていると言った方が正しいか。
「なんデス? 目には見えないデスガ」
ぺちぺちと何かに打たれながらも、アオゾラはカメラを手に取った。
記録されている映像データを確認しようというわけだ。
とはいえ、しかし……。
「……本当に、なんデス。コレ?」
映像に映っていたのは、アオゾラの周囲を高速で飛び回る半透明の影だけだった。
同時刻。
エントマたちから少し離れた海岸沿いを、縁は1人で歩いている。
「さーて、今回は何が起こるやら」
乗って来た船からほど近い海岸。腰の刀に手をかけたまま、ゆっくりと砂浜を踏み締めた。
縁の視線は、海の方へ向いている。
波は穏やか。
けれど、不思議と魚影は少ない。
「首長竜とやらの縄張りだったりするのかね」
エリア99の首長竜。
大昔にエリア99の近くの海域で目撃情報が多発した、その名の通り、長い首を持つ巨大生物の伝説である。
目撃情報は30を超えたが、不可思議なことに、首長竜の正確な姿を確認したものは1人もいない。近年では、首長竜を撮影したという写真も出回っているが、どうにも画像は不鮮明なものばかりである。
そのほとんどは、名声目当ての誰かが作った偽物だろう。
縁はそう予想している。
だが、目撃情報や証拠の写真の全てを“偽物”と断定することは出来なかった。
真実とは、膨大な量の嘘の中にひっそりと隠れているものだからだ。
「天浮の里のこともあったし、案外亜竜種が迷い込んでいてもおかしくねぇしな」
そう呟いて、縁は視線を船へと向けた。
甲板にいるレインが、海に触手を伸ばして魚を獲ろうとしている。
どうにも魚の少ない海域なようで、一向に釣果は増えないようだが。
「さぁて、おいでなすった」
代わりに、と言うべきか。
船の真下に巨大な“何か”の影が浮上したのである。
時刻は少し巻き戻る。
船の番をしていたレインは、いつの間にやら陽光の下で微睡んでいた。
否、熟睡と言っても過言ではないだろう。
「ゆらゆら……ざんざん……波の感触と音が気持ちいい」
穏やかに揺れる船の上は、まるで揺りかごのようだったから。いつの間にやら眠りの縁に落ちてしまうのも仕方がないのだ。
だが、レインの午睡はそう長く続かなかった。
じりじりと降り注ぐ陽光。そして紫外線に焼かれて、たまらずに目を覚ましたのである。
「傘……忘れた……」
今のレインは、まぁ要するに密航者というやつである。
勝手に船に乗り込んでいたという経緯もあって、愛用の日傘を持参していないのだ。
「船から出ると……干からびるかも……」
のろのろと起き上がったレインは、甲板を這って貯水樽の方へ向かった。すっかり失われた水分を補給するためである。
人と言うのは、ただ生きているだけで大量の水を消費する。
クラゲの海種であるレインは、例えばエントマやイズマよりも生命維持に必要とする水分量は格段に多い。
「そうだ……皆……お腹減るかも知れないし……」
水を飲んだら、頭も少しすっきりとした。
ただ船の番をして待つのも退屈だ。だったら、今のうちに少しでも食糧の調達をするのはどうか。そう考えたのだ。
名案だ。
少なくとも、レインは自身の考えに対し、そのような感情を抱いた。
かくして、甲板から身を乗り出したレインは、触手を海へと垂らして釣りを始めたのである。
魚はまったく釣れなかった。
だが、もしも、仮に魚以外の“何か”も釣果として扱うのならば、この日、レインが釣り上げたそれは、海洋の漁師でも滅多に釣れぬほどの大物と言えるだろう。
「わぁ……ぉ」
船が激しく揺れている。
海面が、白い泡を噴き上げた。
海の下から、巨大な何かが浮上したのだ。
甲板にしがみ付いたレインを見下ろすほどに巨大な何か……長い首を持つ、トカゲと海獣の中間染みた威容の巨大生物である。
首を含めた全長は5メートルを超えるだろうか。
開かれた口腔には、ノコギリの刃にも似た細かな牙がびっしりと並んでいる。ぎょろりとした、感情を感じさせぬ瞳に睨まれながら、レインの手は甲板の上を這っていた。
指を何度か開閉させるが、その手が何かを掴むことは無い。
「あ……傘、忘れたんだった」
瞬間、首長竜が咆哮を上げる。
空気を震わす大音声に、ひっくり返ったレインが甲板を転がっていく。
牙の並んだ口を開いて、首長竜が襲い掛かった。レインを喰らうつもりだろう。
だが、しかし……。
「こういう手合いの方がやりやすいってのもなぁ」
首長竜がレインを喰らう、その寸前。
尖った鼻の先端を、縁の刀がサクリと裂いた。
過去には“ヒトガタ”と呼ばれる北海の怪物とも切り結んだ縁である。首長竜がいかに巨体だからと言って、今さら臆するわけもない。
「食われねぇように下がってな」
「うん……ありがとう。あ」
首長竜が現れた時に、波と一緒に降って来たのか。
レインの手元には、魚が1匹、落ちていた。それを手に取り、レインは尋ねる。
「お魚……食べる?」
「……後で刺身にしてみるか」
なんて。
さも“日常の延長”みたいな会話を交わして、縁は首長竜へと斬りかかっていく。
レインが首長竜に襲われている。
だが、救援に駆け付けたのは縁だけ。エントマやイズマは、船に近寄れないでいた。
その理由は簡単だ。
「動物がいない、は環境的に無理があると思っていたが」
「何なの、あれ? 動物の範疇でいいわけ?」
「さぁ? どこかで聞いた噂に、似たような奴が出て来たが」
右手に細剣を構え、左腕でエントマを後ろへと下げる。
そんなイズマの眼前には、十数メートルほどの距離を開けて“何か”が立っていた。
太陽を背にしているため、“何か”の姿は明瞭ではない。
だが、どうにも“人”に似た形をしているようだ。
“人”にしては、異様なほどに手足が長いが。背丈はおそらくイズマの倍ほどもあるだろう。
もしかすると、エリア99から港へ流れ着いたというグロブスターの正体は、眼前にいるそれかも知れない。
「だが、奇妙だ」
「近づいて来ないね」
異形の人影は、確かにそこに立っている。
顔は良く見えないが、きっとエントマとイズマを凝視している。
だが、身じろぎの1つもしない。
近づいて来ることも、逃げることもしなかった。
耳障りな悲鳴が聞こえた。
首長竜が、縁に斬られてあげた悲鳴だ。
「わっ! 向こうにもなんか出てる!?」
「なに? ……っ!?」
エントマの声に気を引かれ、イズマはほんの一瞬だけ、船の方へ視線をやった。
異形の影から、視線を少し逸らしてしまった。
瞬間、イズマは細剣を振るう。
さっきまで10数メートルも離れた位置にいた人影が、一瞬のうちに2人の眼前に移動していたことに気が付いたからだ。
一閃。
空気が震える、弦楽器の調べにも似た太刀音が鳴った。
肉を……と言うよりは、スポンジでも斬り裂いたみたいな奇怪な手応え。だが、確かにイズマは異形の人影を斬った。
悲鳴を上げるようなことは無かったが、人影は明らかに警戒した様子で、数歩ほど後ろへと下がる。
その間もずっと、人影はイズマとエントマの方を凝視していた。
「目を離しちゃ、まずいのか」
移動速度が異常なほどに速い相手だ。
油断は出来ない。
渇いた唇を舌で湿らせたイズマは、腰を低くし、細剣を刺突の形に構えた。
●エリア99からの脱出
姿の見えない、空飛ぶ魚群。
正確な数は不明だが、10や20じゃ利かないだろうそれに追われて、アオゾラはひまわり畑の中を疾走していた。
ひまわりが揺れて、黄色い花弁が辺りに散った。
「ぺちぺち、ぺちぺちと、鬱陶しいデス」
空飛ぶ魚群は、ひたすらにアオゾラを襲っている。
もっとも、身体が軽いのか大したダメージにもなっていないが。しかし、速くて数が多い。鬱陶しいことに変わりはないのだ。
「足場も悪いデスし……なんデスカ、コレ?」
咲き誇るひまわりが邪魔だった。
おかげで視界が通らない。
ひまわりの下に埋まっているらしい、硬い何かが邪魔だった。
足元が安定しないせいで、どうにもうまく走れない。
「アウ」
埋まっている何かに躓いたのだろう。
アオゾラは頭から地面に転んだ。その頭上を、空飛ぶ魚影が通過する。
「……骨?」
ひまわり畑に埋まっているのは、今しがたアオゾラが躓いたのは、どうにも骨のようである。
馬や牛、羊に豚……様々な獣の骨がそこら中に転がっているのだ。ひまわり畑は、骨の上に根を張るようにして広がっているらしい。
だが、どうにも骨の状態がおかしい。
まるで鋭い刃物か何かで切断されたかのように、断面がスパッと奇麗に整っているのである。
「人の仕業……でも無さそうデスガ」
では、何者が獣をきれいに切断したのか。
その答えは、直後に彼女の頭上に姿を現した。
海の中より現れたのは、空飛ぶ円盤としか形容出来ない何かだ。
おそらく、何らかの魔物であろう。
よくよく見れば、その形状は牡蠣に似ている風にも見える。
「どっかで似たようなのを見たような」
遠目に円盤を眺めながら、縁はそう呟いた。
なお、既に首長竜は撃退済みである。というより、円盤の登場と前後して、海の中へと逃げ帰って行ったのだ。
縁の目には、まるで円盤から逃れようとしている風にも見えた。
「……あれ」
レインが円盤の方を指差す。
正確には、円盤の下のひまわり畑だ。
「アオゾラ……空、飛んでる」
「飛んでるというか、ありゃ」
円盤に吸い込まれているようにも見える。
ひまわり畑から吸い上げられたアオゾラの身体が、虚空を漂い、円盤の方へ上昇していく。
「船を出す用意だ。この海域は、ちっとばかし手に余る」
「了……解」
一か八かの賭けだった。
人影から視線を逸らさないまま、イズマは地面を蹴って宙へと跳び上がる。イズマを追って、人影が顔を上へと上げた。
と、その瞬間。
ふわり、と人影の足が地面を離れた。
頭上を舞う円盤に、吸い上げられているのである。
いかに動きが速かろうと、足が地面から離れてしまえば自由には動けないだろう。
「だけど、俺は“そうじゃない”」
浮上する人影を蹴って、イズマは虚空で方向転換。
地上へ向かって跳び下りる。
その途中で、アオゾラを回収するのも忘れない。
「2人とも! 急いで船へ!」
「分かってる。アオゾラさんは、走れるかい?」
「えぇ、そこは問題ナク」
地面に降り立ったイズマとアオゾラ、そしてエントマの3人は、円盤に背を向け船へと疾走を開始した。
3人は決して振り返らない。
振り返っている暇なんて、無いことを理解しているからだ。
遠ざかる3人の背中をじっと凝視しながら、異形の人影は円盤に吸い込まれていった。
「これ……配信しない方がいいかも」
出航した船の甲板で、エントマがそう口にする。
エントマが持っているのは、エリア99に持参した数台のカメラだ。どのカメラにも、正体不明かつ衝撃的な映像が記録されている。
「まぁ、そうだろうな。迂闊に視聴者の興味を引いたら、被害者が」
「もっと寝かせて、ここぞと言う時に配信するのがいいよね」
「……倫理観」
呆れたようにイズマはじろりとエントマを見やる。
とりあえず、陸に到着する前に、映像記録は全部消そうと心に決めた。
成否
成功
MVP
なし
状態異常
なし
あとがき
お疲れ様です。
エリア99の伝説は、どうやら正体不明の魔物によるものだった模様です。
まぁ、依然としてその正体は不明のままですが。
今回は、浪漫に命を賭けるお話でした。
縁があれば、また別の依頼でお会いしましょう。
GMコメント
●ミッション
エントマを無事に連れ帰る
●ターゲット
“エリア99”の噂
1:空飛ぶ円盤
エリア99で最も有名な噂。空から現れ、生き物を吸い上げ攫っていくらしい。
2:姿の見えない飛ぶ魚
大昔から伝わる噂。姿は見えないが、触れた感触が魚のようであったらしい。
3:沖に住み着く首長竜
時々、沖に現れると言う首長竜。姿をしっかり確認した者はいない。
4:手足の長い異形の人影
古い時代に目撃された正体不明の人影。3メートル近い長身に、異様に長い手足を持った人影らしい。
5:体毛の無い獣の遺体
エリア99から、海洋の港に流れ着いたと言われる奇妙な生物の遺体。体毛が無く、既知のいかなる生物にも似ていなかったらしい。
●NPC
エントマ・ヴィーヴィー
依頼人。『エントマChannel』の配信者。
撮れ高に“浪漫”や“エンタメ”の名前を付けて、お金に変える自由人。
今回、明らかに危険な海洋の孤島“エリア99”を訪れた。
何らかのトラブルに見舞われるので、上手いこと護衛して、無事に連れ帰ろう。
なお、余談ではあるが割と足が速い。
●フィールド
海洋。
エリア99と呼ばれる立ち入り禁止の孤島。
常夏の島で、島内全域にわたりひまわり畑が広がっている。
なお、島の中心には〇と△を組み合わせた幾何学模様が描かれている。一説によれば、幾何学模様を描いたのは空飛ぶ円盤であるようだ。
島内には生き物の姿が見当たらない。
虫の1匹さえも生息していないらしい。
動機
当シナリオにおけるキャラクターの動機や意気込みを、以下のうち近いものからお選び下さい。
【1】エントマに雇われた
「旅行に行こう」と誘われました。まぁ、こんなことだろうな、とは思っていました。
【2】勝手に船に乗り込んでいた
何らかの理由により、エントマの借りた船に密航していました。まさか、こんな孤島が目的地だとは思ってもみませんでした。
【3】漂着した
何らかの理由により海で遭難し、エリア99に漂着しました。まさか、こんな島に流れ着くとは思ってもみませんでした。
エリア99調査隊
島に来てしまった以上、皆さんは運命共同体です。生きて島から脱出しましょう。目下、注意すべきはエントマです。
【1】エントマを護衛する
基本的にはエントマの近くで行動します。エントマの身に危険が及んだ際には、戦闘が発生する場合もあります。
【2】エリア99を調査する
噂を頼りにエリア99を調査します。エントマからカメラを貸し出されています。
【3】船に乗っている
船番です。船が無くなると、帰還が難しくなりますので頑張って番をしましょう。
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