シナリオ詳細
今日という日を賑やかに
オープニング
・魔女の家
秋の森は、涼しい。夏のじめじめとした空気は落ち着いていて、むしろ乾いてしまったような気がする。頭上から降ってくる葉は空気よりも乾いていて、慎重に手のひらに乗せないと端から崩れてしまいそうだった。
普段はジョシュア・セス・セルウィン(p3p009462)が一人だけで歩いてくる道だ。歩きなれているはずの道なのに、一人ではないというだけで違う道のように思えた。
「この森の奥に、リコリスが住んでいるんだよな」
ジョシュアに倣って葉を拾い上げたのはフーガ・リリオ(p3p010595)だ。そわそわと落ち着かない様子のジョシュアにフーガは笑いかけて、軽く肩を叩く。
「はい。もっと歩いたところにある一軒家がリコリス様の家です」
黒猫のカネルがよく迎えに来てくれます。ジョシュアがそう付け足すと、佐倉・望乃 (p3p010720)とレイア・マルガレーテ・シビック (p3p010786)が目を輝かせた。
「黒猫が迎えに来てくれるんですか」
「何て可愛らしいのでしょう」
望乃の頭に思い浮かんだのは、とことこと寄ってくる黒猫である。尻尾をふりふりしながらにゃあと鳴くところを想像して、ふにゃりと微笑んだ。
「猫がそんな風に人の言うことを聞くのですね」
「私も驚きました」
望乃の一言に、レイアが頷いている。猫は自由気ままで人の言うことを聞かない印象があるが、カネルは違うらしい。カネルはリコリスの使い魔であるとジョシュアが伝えると、二人は納得したように頷いた。
「猫と言えば」
フーガがクウハ(p3p010695)を見ると、クウハは「あー、これか」と自らのフードを指さした。「おそろいですね」と微笑むジョシュアに「偶々だけどな」と返し、クウハはフードを深く被る。ちょうどその時、茂みからガサガサと音がした。
「カネル」
草の間から姿を現したのはカネルだった。カネルは望乃の想像通りの尻尾の振り方で、ジョシュアの足元にすり寄った。それから初めましての人たちに挨拶をするように一人ひとりの足に鼻で触れて、最後にクウハを見た。ぴょこぴょこと動く耳が、「おなじ」と言っているようだった。
「早速懐かれたなァ」
照れ臭そうにクウハは笑い、カネルの頭をそっと撫でた。その様子を見てジョシュアはほっと胸をなでおろす。人見知りのカネルが、皆を警戒しなくて良かったと思った。
歩くことしばらく。道が開けて、庭に薬草が干してある家が見えた。
「着いたのか?」
「ええ、ここです」
窓にかけられているカーテンは薄く開いていて、女性が中で支度をしているのが見えた。魔女のリコリスだ。外の話し声が聞こえたのか、窓から見えていた影がなくなって、玄関の扉が開けられた。
「いらっしゃい」
リコリスはほんの少し緊張したように頬を赤くして、ふわりと笑う。
「ジョシュ君は久しぶりね。皆は初めまして」
今日は楽しみましょうね。そう笑いかけられて、五人は笑い返した。とっておきのハロウィンパーティーのはじまりである。
・境界図書館にて
「今日は賑やかねえ」
本の背を指でなぞって、境界案内人のカトレアは呟く。普段は静かな音で溢れている世界に、明るい声が落とし込まれたようだ。人と魔女の憎しみや争いから切り離された場所にある、森の一軒家。普段は落ち着いた音がするそこは、今日は人の声で溢れている。
この世界で魔女は、災厄をもたらす存在とされている。しかしそれは人々が作り上げた幻想だ。人々が憎み、蔑むからこそ魔女たちが変化していくことに、人は気が付かない。しかしどれだけつらい目に合っても優しさを忘れなかった魔女もいる。その一人がリコリスだ。彼女はジョシュアと少しずつ交流を深め、今では元の明るさを取り戻しつつある。
「今日はハロウィンパーティーなんですって」
人のことは怖いけれど、関わりを持たないのは寂しい。そんな感情を抱える彼女と、楽しい時間を過ごしたい。そう思ったジョシュアが友達を呼んで企画したのがこのパーティーだ。
「今日は魔法にかけられたような恰好をして、お菓子を食べておしゃべりして。楽しく過ごす日にするんですって」
素敵な日になりますように。本を抱えながら、カトレアは呟いた。
- 今日という日を賑やかに完了
- NM名花籠しずく
- 種別リクエスト(LN)
- 難易度-
- 冒険終了日時2023年11月19日 22時05分
- 参加人数5/5人
- 相談11日
- 参加費---RC
参加者 : 5 人
冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。
参加者一覧(5人)
リプレイ
「いよいよパーティーですね」
ジョシュアが頼まれていたカチューシャを渡すと、リコリスはふわりと表情を明るくした。彼女は裁縫道具を取り出して、同じ場所に隠していた布を取り出した。作りかけだったであろうそれにカチューシャが通され、仕上げに縫われていく。
「猫の仮装よ」
リコリスの頬が真っ赤になる。望乃の「可愛い」という声が聞こえて、それからジョシュアの頬も熱くなってきた。カチューシャという情報だけでは何の仮装をするのかが分からなかったのだが、猫の仮装は彼女らしいと思った。
「似合っているかしら」
ジョシュアはこくこくと頷く。胸がきゅっとするこの感覚は何だろう。
「皆の恰好も素敵ね」
リコリスの言葉に、「だろ?」とクウハが胸を張る。クウハの恰好はシルクハットを被った帽子屋兼怪盗である。上品で洒落たスーツをよく着こなしていて、帽子を被りなおす動作も様になっていた。連れてきた吸血猫は油断すると血を吸ってくる生き物だが、カネルと早くも打ち解けたようでおもちゃで遊びはじめている。
「もしかして、望乃さんとフーガさんの衣装は合わせているのかしら」
「はい、そうなのです」
望乃がにこりと笑う。望乃とフーガは「美女と野獣」をイメージした衣装を着ている。美女は望乃で、野獣はフーガ。ピンク色の衣装に身を包んだ望乃は愛らしく、そんな望乃に寄り添うフーガは獣のような恰好こそしているけれど、表情には優しいものが浮かんでいた。「お菓子くれなきゃ悪戯するぞ、ガオー!」というフーガの声に温かい笑いが弾ける。
「ふふ、猫がたくさんになってしまいましたね」
自分の頭を指さしたのはレイアである。上品なお嬢様も今日は可愛い猫耳だ。にゃんにゃんと言いながらくるりと回ると、スカートがふわりと広がる。
「猫はかわいいもの。たくさんいてもいいのよ」
そうでしょう? リコリスに尋ねられて、ジョシュアは頷いた。
ジョシュアの仮装は純白の羽が生えた天使だ。リコリスの住む世界の習慣に倣ってランタンを持ってきたのだが、夜の世界を導いている場面を思い起こさせる格好になっていた。
「ジョシュ君もよく似合っているわ」
「ありがとう、ございます」
小さな声で答えたジョシュアの背を、フーガがぽんと叩く。
フーガがリコリスに会うのは初めてだが、ジョシュアから話は聞いている。彼女とカネルにとって良い思い出になれば嬉しいと、フーガも思う。
「よし。パーティーの準備、しようか」
フーガの一声に、四人は頷く。
「皆はお菓子、何が食べたい?」
リコリスの問いに、ジョシュアはマドレーヌと答える。仲良くなりたい人たちと食べるのなら、あの時リコリスが作っていたマドレーヌが良いだろうと思ったのだ。
「あと、リコリスさんの得意なお菓子なんてどうでしょう?」
もし良かったら、作り方を教えて頂きたいのです。そう言ったのは望乃である。そうすればきっと、そのお菓子を作る度に今日の楽しい時間を、彼女のことを思い出すだろうと思ったのだ。
「それじゃあ、マドレーヌと、タルトにしましょう」
リコリスと作るお菓子は決まった。作り方を教えてもらいながら、ジョシュアは材料を量ったり粉を振るったりしていく。彼女とお菓子を作るのは久しぶりで、何だか懐かしいような嬉しいような、そんな温かさがあった。
「大勢でお菓子を作るなんて滅多にないから、少し緊張しちゃうわ」
そう言いながらもリコリスは手際よく材料を混ぜていく。その表情には晴れやかなものがあって、ジョシュアはほっと息を吐き出した。楽しそうでよかったと、心の底から思う。リコリスが材料を混ぜていたボウルに薄力粉を振るい入れながら、ジョシュアは心の中でそっと呟く。おいしくなあれ。
「わあ、すごくいい香りがします」
お菓子が焼けてくると、望乃の顔がふにゃりと和らいだ。香ばしく甘い香りに食欲が刺激されて、オーブンの前でそわそわしてしまう。やがて焼き上がったマドレーヌに望乃は目を輝かせた。
「つまみ食い、じゃなくて、少しだけ味見をしたらダメかしら」
望乃の一言に、フーガとリコリスの頬が緩む。クウハもお菓子を持ってきているというから、お菓子だけでお腹がいっぱいになりそうだとフーガは思った。お菓子を持ち帰るために袋を用意した方がいいかもしれない。美味しいお菓子が家でも食べられれば、望乃が喜ぶだろうから。
「フーガも味見したいのですか?」
「お、おいらはしねーぞ?」
フーガと望乃のやりとりを微笑ましく見つめながら、リコリスは焼きたてのお菓子を二人に食べさせるのだった。
マドレーヌが焼けてから、ジョシュアはフーガとお菓子をもう一つ作り始めた。リコリスが林檎のジャムを好きだと言っていたから、今日のお礼に林檎ジャムのチーズケーキを作るのだ。
ジョシュアはフーガのお手伝いだと言っているけれど、フーガからすれば自分が手伝う側である。何せ愛情を籠めた贈り物をするのはジョシュアなのだから。そうジョシュアにこっそり耳打ちすると、ジョシュアは一瞬ぽかんとして、それからかぁと頬を赤くした。
「あ、愛じょ、う」
「だってそうだろ」
「ふ、フーガ様」
髪の一部の色がさあと変化して、ジョシュアはその部分を隠すように手で押さえた。リコリスに見られていないか気にしている様子を、フーガは優しい目で見つめていた。
一方のレイアはトランクにぎゅうぎゅうに詰めてきたお菓子や紅茶を取り出し、籠に移していた。見栄えが良くなるようにラッピングや詰め方も工夫がされており、テーブルが華やかに変わっていく。
レイアは料理が得意ではない。粉を振るうのは手伝ったが、それ以降はテーブルの装飾に回っていた。ティーセットの準備もばっちりである。あとはお菓子が揃うのを待つだけである。
できた。そんな声が部屋に響いて、テーブルにお菓子が並べられる。
マドレーヌに無花果のタルト、林檎ジャムのチーズケーキ。それからクウハが用意してきたピニャータケーキ、望乃が用意したファントムナイト・セレクション。ジョシュアとレイアが紅茶を淹れて、パーティーが始まった。
皆がそわそわとどれから食べるか悩んで、食べるのが勿体ないと笑い合う。先にクウハが持ち込んだピニャータケーキを切ってみようという話に落ち着き、リコリスがナイフを差し込んだ。
「まあ」
中から出てきたのはトランプの模様が描かれたアイシングクッキーと、薔薇の形に作られたチョコレートだった。からからと溢れ出たそれらに一同は歓声を上げ、クウハの方を見た。
「すごいな、クウハ」
「全部作ったのですか?」
にんまり笑みを浮かべるクウハ。ジョシュアからリコリスのお菓子が絶品だと聞いていたが、クウハだって負けていないのだ。
「そうさ。遠慮なく味わってくれ」
俺の頭の中身がケーキと同じかは、さてどうだろうな? お菓子と恰好にぴったりの台詞と共に、ケーキを皆の皿に配る。アイシングクッキーと薔薇のチョコレートも配ると、リコリスがアイシングクッキーをそっと摘まんだ。
「上手ね」
「お褒めにあずかり光栄だ」
「それに美味しい」
ケーキをゆっくり味わい、紅茶を飲みながら話は弾んでいく。
最初はマドレーヌが懐かしいという話だった。ジョシュアとリコリスが最初に出会ったときの話から始まって、混沌での出来事や、リコリスの普段の生活の話などをした。ジョシュアがカネルに猫用のおやつをあげると、カネルは尻尾をふりながらご馳走を頬張った。
「リコリスはこれまでどんな研究をしていたんだ?」
魔法薬についてクウハが尋ねると、リコリスはほんの少し照れて、一度ジョシュアの顔を見た。
「古くから伝わっている薬の改良もしているし、新しい薬作りもしているわ」
リコリスがまず話題に選んだのは、最近研究をしていた眠りを安らかにする薬だった。星空を閉じ込めたような輝きを持つそれは、ジョシュアが効果を試したものだ。
「そんな綺麗な薬があるなんて。驚きました」
「そうなのです。リコリス様の魔法は、とても綺麗で」
レイアの言葉に、ジョシュアは頷いた。するとリコリスははにかんで、お菓子の材料みたいに使う薬もあるのよと呟く。
「そうか、それなら子どもでも嫌がらないかもしれないな」
クウハが顎に手を当てる。いつか来るかもしれないもしもの日の為に、病気が治る魔法の歌詞を研究してみてもいいかもしれないと思った。
「あの、リコリス様。今から即興劇をするので、見ていてくれますか」
リコリスが林檎ジャムのチーズケーキを食べていたときだった。ジョシュアたちはお互いに目配せをして、立ち上がった。ケーキをゆっくり飲み込んだリコリスが驚いたように瞬きをして、静かに五人を見た。
「劇をしてくれるの?」
「は、はい」
「主役はジョシュアで」
「え」
そんな無茶な。慌てるジョシュアに、リコリスが「頑張ってね」と微笑む。驚きと緊張と照れ臭さで髪色が変わってしまうのが、ジョシュアの視界の端にうつった。
「さあさあ今宵の物語の幕を開けようじゃないか」
最初の台詞はクウハだった。
即興劇の行く末は面白おかしく、ハッピーエンドに。即興劇をやると決めたときに話し合ったことだ。リコリスを楽しませることは勿論、彼女の心に潜む闇を払えれば良い。そう思って、劇に望んでいる。
「今宵の俺は帽子屋にして怪盗。お手をどうぞ、麗しのレディ? 奇妙で刺激的な世界へ案内しよう」
それからは、部屋が違う世界に変わってしまったようだった。天使のジョシュアが彷徨える魂をすくい上げて、天界に送り届ける物語が紡がれていく。
「ど、どうしましょう。このままではこの子の魂が浮かばれません」
「その子は楽しい思い出が欲しいと言っています。歌や演奏なんてどうでしょう」
「おいらたちが演奏するぞ」
「お菓子もどうでしょう? にゃんにゃん」
精霊たちの力を借りて発光した望乃、明るくお菓子を配っていくレイア。演技に自信はなかったはずなのに、いつの間にか朗らかに笑っているフーガ。怪しい台詞を吐きながらもジョシュアの次の台詞を導くクウハ。リコリスのためにと一生懸命演技をしているジョシュア。時折ちぐはぐになりながらも進んでいく劇はただ面白いだけでなくて、優しいものだった。
天界に無事に魂を送り届けて、物語は終わりを迎える。苦しみから解放された魂を見送るのが最後の場面で、リコリスの拍手によって現実に切り替わった。
「とても素敵なお芝居だったわ」
リコリスは劇のどんなところが良かったのかを丁寧に話してくれた。そうして彼女の言葉に耳を傾けているうちに、クウハはリコリスの心の美しさに気が付く人がこの世界にもいるはずだと思った。フーガもリコリスだけでなく皆との距離が縮まったような気がして、友達という言葉を頭に思い浮かべた。
お腹が膨らんで、時計の針が進んで、パーティーもお開きの時間。賑やかで楽しかったとジョシュアは微笑む。こうしてパーティーを開けたのは皆のおかげだ。
「皆様、今日はありがとうございます」
またこんな風に集まれたらいいですね。その言葉に、皆は楽しそうに頷いてくれた。
成否
成功
状態異常
なし
NMコメント
こんにちは。椿叶です。リクエストありがとうございます。
魔女さんと一緒にハロウィンパーティーです。
世界観:
魔女の毒薬(https://rev1.reversion.jp/scenario/detail/7302)と同じ世界です。魔女と人々の間には深い溝があり、魔女たちは迫害されています。
舞台となる場所は森の奥にある一軒家です。かつて「毒薬」と呼ばれていた魔法薬を扱う魔女、リコリスが住んでいます。
パーティーに使う部屋はキッチンとダイニングがひとつに繋がっています。皆で過ごすのには十分な広さがあります。魔法薬や魔法薬を作る道具の類は別の部屋にあります。
こちらの世界ではハロウィンは死者が帰ってくる日とされていますが、近年は賑やかな催しがされるようになりつつあるそうです。
目的:
仮装やファントムナイトで変化した姿で、ハロウィンパーティーをすることです。
リコリスがお菓子を作ってくれます。手伝うと喜んでもらえることでしょう。お菓子のリクエストをしてもいいかもしれません。
もちろんお菓子の持ち込みもできます。お菓子を食べたり、お喋りしたり。楽しく過ごしましょう。
リコリスについて:
魔法薬と自然毒の研究をしている魔女です。穏やかで優しい性格で、お菓子を作るのが上手です。
「魔女の毒薬」からジョシュアさんと交流を続けています。リコリスも例に漏れずこの世界の人々から迫害を受け、優しさを忘れないために森の奥深くに住むことにしました。最近は少しずつ明るさを取り戻しつつあります。
リコリスも仮装します。どんな仮装かはお楽しみ。
出来る事:
・仮装orファントムナイトの姿になること。
・パーティーで食べたりお喋りしたり。
・お菓子を作るのを手伝ったり、持ち込んだり。
・その他たのしいこと。
服装に指定がある場合はプレイングに記入していただければと思います。
それでは素敵な時間を。トリック・オア・トリート!
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