シナリオ詳細
<ラケシスの紡ぎ糸>脈動する洞窟で待つ『最強』
オープニング
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近い将来、世界は滅亡する。
外れることがないざんげの神託によって、無辜なる混沌の消滅は確定づけられてしまった。
この世界から、あるいは外の世界から呼び寄せられてイレギュラーズとなった者全て、等しくその滅びからは逃れられない。
それでも、滅びを蓄積させる魔種による凶行をイレギュラーズは幾度も退けてきた。
冠位魔種(オールドセブン)も残るは2人と『原初の魔種』に。
未来を変える為、イレギュラーズは戦い続けなければならない。
●
各地に現れる終焉獣は、混沌の滅亡が近いことを知らせている。
「厄介な相手だが、確実に潰すほかないさ」
『海賊淑女』オリヴィア・ミラン(p3n000011)が依頼について聞きに来たイレギュラーズへと告げる。
このところ頻出情報が後を絶たない。
加えて別の脅威が各国に現れてその対処に追われている状況だ。
ラサに現れる変容する終焉獣。
終焉獣に憤るとみられる大樹ファルカウ。
覇竜で姿を見せる人型の星界獣。
そして……。
「『コロッセウム=ドムス・アウレア』……鉄帝帝都近辺に巨大な塔ができたって話さ」
話によれば、塔の出現と合わせ、全剣王を名乗る者が鉄帝に向けて宣戦布告したのだという。
『我こそが真なる鉄帝の王である。我はこの塔より惰弱なる現鉄帝を支配し、その部を布くものである。
命惜しからん者は挑むがいい。この塔には最強が在る!』
同時に、塔からは溢れんばかりの終焉獣に加え、『不毀の軍勢』があらわれたという。
「不毀の軍勢は人型の怪物だね。全剣王って呼ばれる存在に付き従う連中さ」
それらは強力な相手ではあるようで、自ら最強を語るのだそうだ。
さて、全剣王が造ったという派手なその塔は、天衝くほどに巨大なのだとか。
内部は魔術によって構成され、階層の状況、その内部構造など全てが滅茶苦茶な空間となっているのだとか。
とはいえ、相手が挑みに来いと挑発しているのだ。
加えて、鉄帝の覇権を狙う者であり、終焉獣などを手なずけているのであれば、見過ごすわけにもいかない。
「全剣王と対する為にも、この塔の攻略は必須だろうね。よろしく頼むよ」
塔に臨むイレギュラーズにオリヴィアは資料を手渡しつつ、発破をかけるのである。
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今回チームを組んだイレギュラーズは、鉄帝から全剣王の塔を目指す。
すでに、この塔へと至る経路は他のイレギュラーズや、鉄帝在住の闘士らが制圧している。
その内部へと突入すると、異様な感覚に襲われる。
構わず進む一行はやがて、岩に囲まれた洞窟のような場所へと辿り着く。
所々に細い柱があるやや広い空間。
そこには怪物と思しき人型が待ち構えていて。
「くくく……わざわざ我らの元にやってくるとはな」
「我ら、鉄帝の歴史の中で最強とうたわれる全剣王の配下ぞ」
「個々に特出した能力ならば、我らは最強。負けはせぬ」
鼻息荒くするのは、異様に腕、脚、胴体が発達した怪物……不毀の軍勢である。
それだけではない。その後方には、真っ黒な終焉獣が3体。
それぞれ、巨大な仮面、巨大な左右の手の姿をしている。
終焉獣や不毀の軍勢と対するのも一苦労だが、洞窟を思わせるこのフロアはただの洞窟ではないらしい。
洞窟が少し揺れ動いたかと思うと、突如明後日の方向から鋭い槍を思わせるような岩が伸びてきたのだ。
それは逆側の壁に至ると崩れ落ち、何事もなかったように空間は元に戻る。
「いいのか、今の岩に貫かれても」
「くくく、そうでなくても、我らが切り裂いて見せるがな」
「最強の我らに屈服せよ」
己こそ最強とうたう軍勢と合わせ、不気味に微笑む仮面と両手が迫ってくる。
例えどんな環境でも、例え相手が最強を自負する怪物だろうと、例え環境を侵食する終焉獣であっても。
イレギュラーズはその向こうにいる新たな脅威を打破すべく、目の前の敵から討伐を始めるのである。
- <ラケシスの紡ぎ糸>脈動する洞窟で待つ『最強』完了
- GM名なちゅい
- 種別通常
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2023年11月16日 22時10分
- 参加人数8/8人
- 相談7日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
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参加者一覧(8人)
リプレイ
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鉄帝に突如聳え立つ全剣王の塔。
『紅眼のエースストライカー』日向 葵(p3p000366)は仲間と地上入り口付近から見上げて。
「不毀の軍勢に今度は異質な空間の塔まで来たっスか」
「全剣王の塔、ね。彼らってどうやってこんな施設を召喚してるのかしら……?」
ロレイン(p3p006293)の疑問に、皆が首を傾げた。
ただでさえ、全剣王の存在が謎だというのに、まだ謎を増やすのかと葵は呆れる。
「しかし、全剣王……これまた面白そうな強者の話じゃのう」
『特異運命座標』金熊 両儀(p3p009992)は今回の事態を引き起こす張本人に興味を示す。
「鉄帝国の頂点に立ちたいなら、現皇帝との一騎打ちじゃなかったか?」
『青き鋼の音色』イズマ・トーティス(p3p009471)はこんな塔を建てても非公式にしかならないといったところで、鉄帝動乱を思い返して。
「……いや、公式に挑まれても困るけどさ……」
まさか冠位魔種が国を乗っ取る事態になるなど思いもしなかったが、それはさておき。
「トップが直々にタイマンに来るならまだしも、軍勢を送り込んで最強を名乗ろうなんてゼシュテルをナメてるね!」
『黒撃』イグナート・エゴロヴィチ・レスキン(p3p002377)も全剣王のやり方に対し、素直な気持ちを吐露する。
「……まぁ滅びのアークがこれで消費されている可能性に期待して、事態を解決しましょうか」
混沌の法則からすると最高位の魔術師だって施設の召喚は難しいはず。
そう考えたロレインが塔の攻略を皆に促すと、葵もここを突破せねば先には進まないと一つ嘆息して。
「……仕方ねぇ。一つずつ解決していくとするっスか」
「ああ、この塔も踏破してやろう」
全剣王に従う気などないと、イズマもその打倒に意欲を見せるのである。
塔へと突入したイレギュラーズ一行は不思議な感覚に陥る。
登っているのか降りているのか分からぬその内部を移動するうち、いつしかメンバー達が至ったのは洞窟を思わせる空間だった。
「塔の中なのに洞窟とはね……」
他の階も、『咎人狩り』ラムダ・アイリス(p3p008609)が指摘するよう、妙なことになっていたようだ。
一体、この塔内部の絡繰りは本当どうなっているのかとラムダはしばし頭を抱える。
あちらこちらにある柱が天井を支えるといった岩壁に囲まれたその場所は、時折、天井、地面、壁から突き出す槍が襲ってくる。
「壁から出て来る槍程度じゃね! ただ硬いだけの攻撃じゃオレの硬気功と仙術の守りは抜けないよ!」
悠然と、イグナートはそれを受け止めてみせた。
岩槍を一度やり過ごし、『記憶に刻め』マニエラ・マギサ・メーヴィン(p3p002906)は前方に並ぶ厄介な連中を警戒する。
「儂に隠れるは通用せん」
大声を上げた両儀が声量と反響を利用して敵を探知すると、前方から姿を現したのは……。
「我ら、鉄帝の歴史の中で最強とうたわれる全剣王の配下ぞ」
ロレインはそれらを見回す。
(いまいちよく分からないわね?)
終焉獣はともかく、全剣王の不毀の軍勢は剣闘士にも見え、アークに関わる連中という割にはと疑問を抱く。
「先に聞いておくけど、会話をするつもりはないかしら?」
「くくく、個々に突出する最強の我らがなぜ貴様らと話さねばならぬ」
ロレインはやはり無駄かと嘆息する。
わざわざこんな舞台を作るくらいだ。
その殺戮に誇りすら持っているのだろうとロレインは推察していた。
「個々の突出した……ね」
笑いを堪え、マニエラが続ける。
「いやなに、思いの外子供が描いた『最強の存在』みたいで笑いが出そうで」
「何……!?」
煽られた最強をうたう者どもはいきり立つ。
「セッカクだから教えてあげるね! 一芸特化だけじゃケンカには勝てないって事をさ!」
イグナートは陛下が出るまでもなく、こちらで勝手にぶっ飛ばさせてもらうと意気込む。
「突出した能力で強い? お前達の強みになんて合わせてやらないよ」
保護結界を展開していたイズマもまた宣戦布告する。
「キミ達が讃える全剣王はこんな搭を創造するぐらいだから確かにすごいのかもだけど……キミ達自体はどうなのだろね?」
ラムダも改めて、最強を自称するそれらの力量に着目して。
「それじゃあ、お手並み拝見としようか」
「首ば斬れたら、面白いそうじゃが、まっ、先ずは楽しませてもらうぜよ」
両儀はこの場の戦いを楽しむべく武器を抜き、自称最強どもと対するのである。
●
前方にいる敵対勢力は6体。
特化した能力を持つ不毀の軍勢が3体と、巨大な顔面に巨大な両手の姿をした漆黒の終焉獣3体だ。
加えて、先程からあちらこちらへと延びていた岩槍もまた警戒対象である。
マニエラはある程度なら自身は落ちないと考えていたが。
「弾と体力の方はこちらで維持しよう。加減は無し、速戦即決で頼むよ」
仲間へと呼びかけるマニエラは、それらと合わせて連携攻撃をとりそうな混迷の手を警戒する。
さて、イレギュラーズは数人で分かれて敵を抑える。
感覚を研ぎ澄ませるイズマは岩槍が飛ぶ状況を逐一察知しながら、至高の軍勢……グロリアスレギオンに仲間を支援させる。
さらに、イズマは鋼の細剣より発する術で軍勢の内、剛腕、鉄壁を煽ることでイズマは終焉獣、愉悦の顔面の方へと誘導する。
その顔面は両儀が引きつけていた。
「おう、笑うんが下手なやっちゃのぉ、えいか? 笑うんは腹に力を入れてこうやるんじゃ……」
深呼吸した両儀は大声で笑い、顔面の気を引く。
続き、ラムダはすでに戦場を動き回っていた軍勢の残り、俊敏に目をつける。
「成程……戦場をかき乱すのが得意なのがいるみたいじゃないか……」
……アレはボクが相手をする。
テンションを高め、一時的に能力を限界突破させたラムダは少しずつ離れてきていた敵陣を纏めて捉え、赤い華々を坂せんと魔導機刀で剣閃を走らせる。
どうやら、俊敏もそのラムダの誘いに乗ることにしたらしく、大きく旋回するように走りながらも彼女へと斬りかかっていた。
その戦いの合間にも、伸びてくる岩槍が敵味方関係なく、襲い掛かる。
(土槍は一撃で意識を奪われないなら、無視して受けても良さそうだが……)
マニエラは土槍を警戒しつつも、他の敵が必殺の手段を持っている可能性もあると踏み、なるべく避けるべきと判断する。
終始、戦線のサポートをすべく立ち回る彼女は、敵の奇襲を獣の感性で確実に察知し、武闘を纏って自己強化する。
しばらくは聖体頌歌を響かせ、味方の体力回復に努めるマニエラだ。
各自で岩槍の対策をとっていたが、葵もその一人。
「来るぞ、岩槍に備えろ!」
細目に周囲をチェックしていた葵は仲間へと呼びかけ、伸びてくる方向を伝えてから制圧態勢をとって自己強化する。
「まずは敵の数を減らさなければなりません」
ここまで冷静に戦況を観察していた『鋼鉄の冒険者』オリーブ・ローレル(p3p004352)は敵から距離をとり、クロスボウを手に取って掃射し、敵を纏めて撃ち貫かんとする。
敵は何れも比較的大きな相手。
的が大きくて当てやすいと判断していたオリーブは終焉獣が発する浸食に巻き込まれないようさらに攻撃を行う。
オリーブは健脚自慢の俊敏の動きを牽制し、さらにクロスボウを構えていた。
仲間達も敵を抑えてはいたが、イグナートも己の存在感を発揮して敵を正面から立ち向かう。
イグナートは剛腕と合わせて混迷の手を捕捉していた。
近場の仲間と合わせてふらふら動く敵を、イグナートは限界まで鼓動を高めて強く引き付ける。
後は、聖王封界を展開し、様々な攻撃に対処できるよう防御を固める。
仲間達がうまく抑える敵に、ロレインが仕掛ける。
「それでもこんな形式ばったフィールド、わざわざ対処可能な人員を選んでいるようね?」
最強と名乗っていい気になっている敵へとロレインは語り掛ける。
遠距離から仕掛ける彼女は、自身に魔神を降ろす。
敵味方が入り乱れる戦場だ。
敵のみを捕捉できるよう慎重にタイミングを計り、携行砲へと変化させた幻想信仰に膨大な魔力を集めて。
「顕現:砲」
次の瞬間、その魔力が迸り、一気にその洞窟空間内を駆け抜ける。
空間に伸びていた岩槍を含め、仲間が警戒する混迷の手や俊敏へと浴びせかけられる。
眩い光に灼かれた混迷の手は左右揃って動き、盾役となるメンバーへと掌を押し当て、指で弾いてくる。
それらは黒い霧のようなものを指先へと集め、こちらを侵食する隙も伺っていたようだ。
「浸食を起こすあの指が厄介だね」
そう察した葵は両手が揃う状況も面倒だと判断し、まずは片手から集中的に攻撃するべく紫色の重力エネルギーを纏わせた足で右手側からエネルギー弾を蹴り込んでいくのだった。
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洞窟内部のような空間とあって、互いの起こす音はよく響く。
それでも、オリーブなどは一切物音に気にかけることなく攻撃を続けていた。
「不規則で予想出来ない物に意識を傾け、肝心の戦いをおろそかにするなど愚の骨頂です」
注意深く意識を向ければ気づくことは可能だったかもしれないが、オリーブは敢えて倒すべき敵の体を裂く。
岩槍の被害は敵にも及んでいる。
だからこそ、これはちょっとした賭け事の一種に過ぎないとオリーブは割り切っていたのだ。
不意に伸びてくる岩槍をロレインが破壊する。
「顕現:剣」
幻想信仰を二振りの剣に変えた彼女はすぐさま近場にいた手に無数の炎片を舞わせた。
焦げた臭いが周囲に漂う中、不毀の軍勢の軍勢が笑う。
「くくく、我らの前ではイレギュラーズも形無しだな」
剛腕は笑いながら大剣を振り下ろし、鉄壁は構えをとりつつ2つの刃を振るってくる。
それらを捉えるイズマだが、ここでも岩槍が邪魔をしてくる。
彼は周囲の敵を一網打尽にしようと岩槍ごと呪術で捉えた。
粉々に砕ける岩槍の傍で、軍勢どもが怯んで動きを止める。
(徹底的に対策しよう)
弱みを突かせないことこそ、こちらの強みだと強調するイズマは、しばらく敵の引き付け、足止めに注力する。
引き付け役としては、両儀も愉悦の顔面の侵攻を食い止めていた。
気味の悪い笑いを浮かべる顔面に、両儀は悪態をついて。
「はんっ! 聞こえんば、そんなもん意味のうじゃろが!」
気色悪い笑い? 異言を紡いで惑わす? 笑い声で周囲を侵食?
資料によれば、様々な笑いを浮かべるこの顔面。
そんなものより大きい声で掻き消さんと、両儀はスピーカーボムを使って耳を塞ぎたくなるほどの音爆弾の如く顔面へと音の圧を浴びせかける。
柱や細槍を遮蔽にしようと動いたとしても、両儀は多少のダメージを構うことなく強引に抑えに掛かっていたようだ。
さて、メンバーの優先撃破対象は混迷の手。
多少翻弄されながらもそれらを攻めあぐねているように見えた軍勢からは苦笑すら浮かんでいたが、イレギュラーズは冷静に対処を続けて。
(効率が落ちるので避けたいですけれど、苦手という訳でもないですからね)
距離を詰める形となっていたオリーブは仲間の攻撃が集まる右手に対城技から派生した対人技で強烈な連撃を刻み込む。
だが、そこにやってくる左手。
両手が揃って掴みかかられれば、非常にまずいと判断したオリーブは仲間へと支援を求める。
徐々に傷の深まる仲間へ、マニエラが号令を発しつつも聖体頌歌を響かせる。
癒しが多少間に合わぬ状況となっても、イグナートが身を挺して攻撃を受け止める。
恐ろしい怪力を発揮した両手によってその身を引き裂かれんばかりの一撃を繰り出すが、イグナートは見事に耐えきって見せた。
それどころか、さらに隆起してくる岩槍を、彼は見事に破砕してみせる。
「「…………!!」」
両手とも、イレギュラーズによる度重なる攻撃によって、漆黒の体に亀裂が入り始めている。
葵は確実にその片方を潰すべく、さながら幻影の如く迫り、苛烈な蹴りで指先を蹴り飛ばす。
衝撃に耐えられず、存在を維持できなくなった右手が姿を掻き消す。
左手も相方がいなくなってもなお抵抗を続けていたが、動きに精彩さが欠けてきている。
ここは再び距離をとっていたオリーブのクロスボウが左手を甲から貫く。
オリーブの狙いは実に見事で、そいつは跡形もなく姿を消してしまう。
その間に、戦場を走り回っていた俊敏の動きも鈍ってきていて。
「悪ぃけど、動けるのはアンタだけだと思うな」
葵が発した氷の杭を蹴り飛ばし、片足に命中したのが大きい。
柱に隠れる俊敏に、ラムダが呆れて。
「やれやれ、面倒な地形だね……」
ただ、この手の環境を活かすのはラムダも得意としており、数多の剣閃を煌めかせて俊敏を追い詰める。
「く……、大人しくしていればよいものを」
「何だったら足の一本でも折るか? 動ける足がなきゃ俊敏も名折れだろ」
この状況でも強がる俊敏に、葵は距離を詰めて脚部を攻める。
這いつくばってでも逃れようとする俊敏を岩槍が突き刺す。
ラムダはその気を逃さず、刃を切り結ばんとする。
俊敏はやがて長剣を地面へと落とし、ラムダの一閃によって完全に地へと伏してしまったのだった。
●
変わらず、岩槍が飛び交う洞窟空間。
葵、イズマがそれらを察知し、彼らの呼びかけを聞いたマニエラが避け、オリーブやロレイン、ラムダが破砕する。
イグナートが庇いに当たるが、両儀などは敢えて受けていたようだ。
「…………」
その間にも追い詰められていた終焉獣、愉悦の顔面。
表情はにやついたままであったが、額には冷や汗が浮かんでいるようにも見えた。
両儀がここぞと自らの傷を力に変えて一撃を叩き込む。
その彼の戦意を低下させようと異言を紡いでくる顔面だが、時すでに遅し。
渾身の魔力を振り絞ったイズマが創造した神滅のレイ=レメナーで顔面を真っ二つに切り裂き、虚空へと消し去ってしまった。
「何……」
「あの獣どもを消し去った……だと?」
軍勢の残り、剛腕と鉄壁もイレギュラーズの快進撃に目を丸くする。
だが、己こそ最強と自負する者どもだ。
攻撃を手を止めることはなく、こちらへと刃を振り下ろす。
葵はどちらかと言えば、攻撃が集まっていた鉄壁に愛用のサッカーボールを叩き込む。
「特化したからといえ見た目で教えるのはディスアドバンテージだろう」
マニエラは軍勢へと冷静に指摘する。
自身の強さを誇示するのは威嚇行為であり、動物的にいえば弱い部類の仕業なのだ、と。
「戦場では見た目も重要な情報戦の一つだよ」
「知ったことを!」
マニエラの主張には聞く耳持たず、ただ、鉄壁は己の強さを誇示しようとしてくる。
強がっているようにしか見えぬ相手を目にしながら、マニエラは傷の深まる仲間を星々の瞬きで照らす。
そのやり取りの間にオリーブが矢で射抜き、注意を逸らしたところで、ロレインが仕掛ける。
「鉄帝もようやく落ち着いてるのよ、わざわざ乱しにこないで、遊びたいなら余所でしなさい」
再度、己に魔神を降ろしたロレインの放つ魔力砲。
鉄壁を自称するだけあり、しぶといと判断した彼女は幻装信仰を長剣に変える。
次の瞬間、ロレインの繰り出した不可視の刃が鉄壁の体を裂く。
「ぐ……」
嗚咽を漏らしたそいつは白目をむき、重い音を立てて崩れ落ちていった。
「最強が聞いて呆れる……!」
残る剛腕が苛立ちげにそう漏らす。
そいつに両儀が嬉々として魔術と剣撃で勝負を挑む。
相手が彼の剣魔双撃を見るのは初めて。
満足に防ぐことができず、一層傷を深めていた。
「やはり、斬り合うの事こそ楽しいのう」
ただ、剛腕は己の強さを示せず歯痒さを滲ませる。
ラムダも岩槍が隆起してくるのに合わせ物質透過して剛腕を切り裂く。
岩槍を避けたとほくそ笑んでいた剛腕だったが、その槍を透過してイレギュラーズが現れるとは思ってもなかった。
「な、に……!」
完全に油断していた相手から、激しく飛び散る血飛沫。
だが、まがりなりにも最強を自負する剛腕だ。
漲る力で大剣を振り下ろしてイレギュラーズを圧倒する。
繰り出される力だけなら、確かに目を見張るものがあった。
だが、それだけ。
剛腕が風を切った直後に合わせ、早期に決着をつけたいオリーブが敵の正面へと躍り込む。
(多少、強引にでも攻めて流れを……)
ここぞとオリーブの繰り出す鋼覇連閃は、剛腕に致命傷を負わせたが、こちらもかなりしぶとく起き上がる。
「倒れないのが重要だからね」
絶気昂で自身の傷を塞いでいたイグナートはここまで剛腕を抑える形となっていたが、彼は仲間の助力を得て、栄光をつかみ取るその手で正義の騎士の矜持を抱いて拳を叩き込む。
「ぐ、は……っ」
もはや己が最強をうたうこともなく。
最後の不毀の軍勢は地を這ったのだった。
●
先程までの剣戟音が嘘のように静まり返る洞窟空間。
戦いに熱を入れていたメンバー達は改めて、この場が全剣王なる存在が建てた塔であることを思い出す。
この塔の上にいると思われる全剣王と対する為、イレギュラーズは更なるフロアの攻略に臨むのである。
成否
成功
MVP
状態異常
なし
あとがき
リプレイ、公開中です。
MVPは存在感を示し、左手を撃破した貴方へとお送りします。
今回はご参加、ありがとうございました。
GMコメント
イレギュラーズの皆様こんにちは。GMのなちゅいです。
<ラケシスの紡ぎ糸>のシナリオをお届けします。
鉄帝に突然現れたという奇妙な塔……合わせて宣戦布告してきた全剣王とは……。
●概要
鉄帝の帝都近辺に現れた奇妙な塔に挑みます。
すでに、入り口まで制圧されており、内部に突入できます。
その内部は非常に入り組み、階層の順番どころか空間すらも歪んでいるようです。
今回突入する階層は空洞のような洞窟内を思わせる場所。
細い柱が所々視界を遮っています。
時折、地面、壁、天井などが2、3か所隆起して槍の如く敵味方関係なく襲ってきます。
砕くことも可能ですが、それに1手を費やしますし、際限なく隆起する槍は現れます。
●敵
〇不毀の軍勢×3体
全長2.5mほど。
『全剣王』と呼ばれる何者かに付き従っている、強力な人型の怪物の軍勢です。
腕力に自信を持つ剛腕、健脚で戦場をかき乱す俊敏、防御に優れる鉄壁の3体。
いずれも剣を持ち、剛腕は大剣、俊敏は長剣、鉄壁は双剣を使います。
〇終焉獣×3体
滅びのアークそのもので作られた獣達。
姿は様々ですが、漆黒の体躯をしたものが多いようです。
・愉悦の顔面×1体
全長4mほど。全身真っ黒な顔面。
仮面のような形に人の顔面らしきものが張り付いています。
気色悪い笑いでこちらの戦意を低下させ、異言を紡いで惑わしてきます。
加えて、笑い声をあげて周囲を侵食してくるようです。
・混迷の手×2体
全長2m弱。左右一対の手です。
掌を叩きつけて上から押し潰したり、指で弾いたり、ビンタを叩きつけてきます。
両手が揃っていると、力技で相手を引き裂こうとするので要注意です。
指で空間を裂き、浸食を行うことも。
●情報精度
このシナリオの情報精度はBです。
依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。
それでは、よろしくお願いします。
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