PandoraPartyProject

シナリオ詳細

ラサ八幡の秋祭り。或いは、喧噪の放生会…。

完了

参加者 : 5 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●放生会
「放生会って知ってる? 豊穣の方の文化……お祭りなんだけど」
 ところはラサ。
 とある砂漠の遺跡である。
 朝焼けの空を背に負ってエントマ・ヴィーヴィー(p3n000255)がそう言った。
 放生会。
 エントマの言うように、それは豊穣の地で秋に行われる祭事の名である。
 ざっくりと趣旨を説明するのなら「すべての生命を慈しみ、殺生を戒め、秋の実りに感謝を捧げる」ことであり、古くは捕獲されていた鳥や魚などの獣を野に放すなどしたらしい。
 もっとも、今ではすっかり「放生会」という名前だけが残った、単なる祭りと化しているが。
 当然、焼き鳥や肉串、金魚すくいなどの屋台も数多く並ぶ。
「豊穣の……お祭り……? ここ……ラサ、だけど」
「豊穣でやれるんなら、ラサでもやれるでしょ? ラサに無い文化なんだから、最初に始めた私の好き勝手に改造しても許されそうだし、どこかが真似をするってなったら、お幾らか貰っても怒られ無さそうじゃない?」
 レイン・レイン(p3p010586)の疑問は至極もっともだ。
 だが、エントマはその疑問を“エントマ理論”……つまりは、己の欲望を最優先とすることで突破した。突破というか、もうレインの疑問をすっかり無視して迂回して、まったくもって無関係な方向から答えを返した。
「ラサに新文化を持ち込んでみた! みたいな企画を配信しようと思ってるんだよね。それで、急いで作ったの。ここ……ラサ八幡を!」
「……ラサ八幡」
 正気だろうか。
 正気なのである、悲しいことに。
「それで……どうして、僕が呼ばれた、の?」
「ん? だって前に“暑さが落ち着いたら屋台の射的と金魚すくいをやってみたい”って言ってたじゃん。エントマさんは企画力とこうどうりょく、そして記憶力にはちょぉーっと自信があるんだよね」
 要するに、ちょうどいいタイミングで、ちょうどいい人材が知り合いにいた……と、そう言う話だ。使える者は誰でも使う。それが己にとって利のあることならば、というエントマの主義により、この度レインは見知らぬ遺跡に呼び出されたのである。
「なる、ほど? 僕は……何をすれば……?」
「まぁ、前にもそうしたようにカメラを預けるからさ。手分けして、祭りの様子を撮影しようよ」
 朝日が昇る。
 太陽光に照らし出された遺跡には、ところ狭しと屋台がずらり並んでいた。
 焼き鳥、ワニ焼き、盗賊焼きにパンダ饅頭、笹の葉寿司に焼き栗に焼き茸、それから胡桃を練り込んだパンに金魚すくい、綿あめ、りんご飴……色とりどりの幟が風にたなびいている。遺跡を利用した祭りであるため、豊穣で行われる祭りのように順路は整理されていないのが問題か。
 豊穣の祭りでは、基本的に神社の参道に屋台が並ぶ。
 参道というものは、まっすぐに本殿へ向かって伸びているため来場者は鳥居を潜ってまっすぐ進むだけでほとんど全ての屋台を見て回れる。
 だが、遺跡の場合は事情が異なる。
 参道が存在しないし、瓦礫などのせいで幾らか道が塞がっている場所もあった。そこに屋台を並べたせいで、ほとんど迷路のような有様になっている。
「はぁ……これ、上手くいく……の?」
「上手くいくかどうかじゃなくて、上手くいかせるんだよ。運命はその手で捻じ曲げろ!」
 その言葉の意味するところは“トラブルが起きそうなら、未然に防げ”である。
 頑張って、の言葉と共にエントマはレインの手に何かを押し付けた。
 ほんのりと爽やかなミントの香りと冷気が漂う。それはアイスキャンディだ。甘味の街“カンロ”から持ち込んだ、祭りの目玉商品である。

GMコメント

●ミッション
ラサ八幡の放生会を無事に終わらせる

●現在確認されている屋台
・焼き鳥:魔鶏コケコッコの焼き鳥
・ワニ焼き:ワニの肉を焼いて串に刺したもの
・盗賊焼き:とある盗賊たちが考案した焼肉。非常に安い肉が使われている。
・パンダ饅頭:パンダのマークが刻印された饅頭
・笹の葉寿司:エントマが持ち込んだ大量の笹の葉で酢飯を包み込んだ食糧
・焼き栗、焼き茸、胡桃を練り込んだパン:エントマの持ち込んだ(以下略)
・金魚すくい:金魚を網で救う遊戯
・綿あめ、りんご飴、アイスキャンディ:甘味の街“カンロ”から持ち込まれた菓子類

●フィールド
ラサ八幡……と名付けられた遺跡。
大昔は何らかの祭壇だった模様。
現在は、そこかしこに屋台が無秩序に並んでおり、さながら迷宮のようである。
金の匂いを嗅ぎつけた商人や盗賊が紛れ込んでおり、若干、治安が怪しい。
適当に楽しみつつ、トラブルを未然に防ぐことが今回の主な目的となる。


動機
当シナリオにおけるキャラクターの動機や意気込みを、以下のうち近いものからお選び下さい。

【1】稼ぎに来た
出店をやっています。いい感じに稼げるといいですね。

【2】遊びに来た
遊びに来ました。祭りを満喫できるといいですね。

【3】事件の匂いを嗅ぎつけた
何らかの事件の気配を感じ、ラサ八幡(と言う名の遺跡)を訪れました。


喧噪
皆さんが巻き込まれるトラブルです。平穏無事はありません。

【1】喧嘩に巻き込まれる
人が集まると、喧嘩が発生します。人は争わずにいられない生き物だからです。そして、争いは時に無関係な他人までもを巻き込みます。

【2】犯罪者に遭遇する
強盗、スリ、詐欺……何らかの犯罪行為に巻き込まれます。人が大勢集まれば、悪い奴の1人や2人は混じるものです。人の本質は悪ですので仕方ありません。

【3】エントマに使われる
エントマから何らかの仕事を任されました。エントマはすぐに他人を巻き込みますし、他人を使おうとします。なぜならその方が面白くなると思っているからです。

  • ラサ八幡の秋祭り。或いは、喧噪の放生会…。完了
  • GM名病み月
  • 種別 通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2023年10月23日 22時05分
  • 参加人数5/7人
  • 相談0日
  • 参加費100RC

参加者 : 5 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(5人)

ラダ・ジグリ(p3p000271)
灼けつく太陽
亘理 義弘(p3p000398)
侠骨の拳
イズマ・トーティス(p3p009471)
青き鋼の音色
レイン・レイン(p3p010586)
玉響
オセロット(p3p011327)
譲れぬ宝を胸に秘め

リプレイ

●REC
 雑踏を掻き分けた先には小さな屋台。
 並んでいるのは、豊穣から取り寄せた酒である。
「……じー」
「ん?」
 カメラを片手に近づいて行った『玉響』レイン・レイン(p3p010586)の存在に『灼けつく太陽』ラダ・ジグリ(p3p000271)が気が付いた。
「あぁ、記録班か」
「……うん。お酒、売ってる……の?」
 ずらりと並んだ豊穣の酒は、どれもラサではそう易々とは手に入らないものである。豊穣の酒というのは、ラサの酒精が強い酒とは製法から異なるらしく、ある種独特の香りと舌触りが楽しめると、一部の酒好きの間で知られている。
「豊穣と交易している身としては店を出すしかないからな。豊穣の酒は肉にも饅頭にも合うはずだ」
 見たところ、肉などを提供する屋台は多い。対して、飲み物の類を扱う店は、あまり数が無いようだった。片手にワニ肉の串焼きを持った若い男が、ラダの店で豊穣酒を1杯買って行く。
 それを目で追いながら、レインはアイスキャンディを齧る。チョコミントの甘みと清涼感が鼻を突き抜け、少し眠気が覚めた気がした。

 ラサ八幡。
 エントマがそのように名付けた古い遺跡がここである。
 ラサの地に八幡宮などあるはずもなく、さらに言うなら何のための祭りであるかも判然としない。ただ集まって、騒げればいいというエントマの意図によるものだ。
 まぁ、稼ぎ時となればあちこちから商人が集まって来るのがラサである。
 そして、商人が集まれば、それを目当てに人も集まる。
「祭りと聞いてきたんだが、何だか雑然としてんな」
 『侠骨の拳』亘理 義弘(p3p000398)が言うように、辺りは実に雑然としていた。人を集めて、騒ぎたいという目的は十分に達成できている。
 元となった祭りの名残は、もはやどこにも存在しないが。
 そもそも八幡宮ではないのでさもありなん。元は神殿か祭壇だったと思わしき遺跡ではあるが、それも遥か大昔のこと。今となっては遺跡の正体、由来を知る術も無いのだ。
「神や仏に感謝って感じでもねえから、仕方ねえか」
「神楽や雅楽も流れていないし、本当に商売の場って感じだな」
いかにもラサらしい。何か納得したように『青き鋼の音色』イズマ・トーティス(p3p009471)は頷いた。
「あの辺りの高台、丁度いいと思わないか?」
 それからイズマは、遺跡の中央にある高台を指さした。階段の設置された高台は、きっと大昔には何かの祭事に使われていた場所なのだろう。
「丁度いいって、何にだよ?」
「決まってるだろ。音の無い人生に面白さは無い。だから、俺が音を奏でるんだよ」
 そうと決まれば、楽器は何がいいだろうか。
 イズマは人通り楽器を弾ける。けれど、やはり祭りであるなら、祭りらしい楽器がいい。
 やはりドラム……否、太鼓を打ち鳴らすのがいいか。
「ちょっと行って来る」
 早速、楽器の準備に向かうイズマを見送り、義弘は肩をすくめてみせた。

 同時刻。
 祭り会場の外れ、運営本部……と言う名の廃墟で、エントマと男が相対していた。
 がっしりとした体躯の大柄な男で、名をオセロット(p3p011327)という。所属はサヨナキドリの警備部……今回、エントマの要請を受け、サヨナキドリより派遣されて来たのが彼だ。
「それじゃあ、早速仕事に出てもらうんだけど……大丈夫? 結構、派手に暴れる奴も出て来るかと思うけど?」
「問題ねぇさ。祭りにトラブルは付きものだからな」
「本当に? マジモンの犯罪者とかも、何人か確認されてるけど?」
「あぁ。犯罪者がいれば真っ先に鎮圧に行くからまかせとけ」
 そう言ってオセロットが拳を握る。
 その態度に気負いは無い。だが、同時に一切の油断も無かった。
 彼は十分に知っているのだ。知識としてではなく、経験則として。手負いの獣と同じように、切羽詰まった悪党というのは何を仕出かすか分からない危険な存在であることを。

●トラブルは突然に
 アイスキャンディを食べ終えて、レインはカメラを覗き込む。
 エントマからは、祭りの様子を映像に記録するよう指示を受けていた。
「遊んでもいいのかな……」
 カメラで周囲の様子をぐるりと撮りながら、幾つかの屋台に目星をつけた。なお、会場に出ている屋台からは出展料として幾らかがエントマに支払われている。
「なら……射的と金魚すくい」
 祭りと言えば、それである。
 エントマのマネをして、チャレンジ企画という体で動画を撮るのも悪くないだろう。
 胸の前で拳を握り、まずは射的の屋台へ向かう。
 そんなレインのすぐ背後へ、こっそりと近づく痩せた男の姿があった。

 痩せた男はスリである。
 彼は足音もなくレインの背後へ近づくと、肩から提げた鞄へ向かって手を伸ばした。まるで当たり前のような顔をして、素早く、自然に、音も無く。
 これまで、こうして何十、何百もの財布を盗んで来たのだろう。その手つきに澱みは無い。慣れているのだ。幾度も繰り返したことで研鑽された技術によって、彼は大した苦労もせずに幾らかの金を手に入れる。
 そのはずだった。
 けれど、そうはならなかった。
「こういう場にはスリやタカリが集まるって相場が決まってるとは言えよ。シロウトさんに迷惑かけちゃならねぇよなぁ」
 誰かに……否、義弘によって手首を掴まれ、男のスリは未遂に終わる。
 大きな手で握り絞められた手首が、ミシミシとまるで枯れた木材のような音を鳴らしていた。痛みも相応なのだろう。男の顔には脂汗が浮いている。
「向こうでちょっと“話”をしようや。祭りは楽しむのが一番だからよ」
 低く唸るような声で義弘は言った。
 その間に、レインは射的の屋台の方へと歩いていく。自分がスリに狙われていたことになど、まったく気が付いていないのだ。
「くっ……離せ!」
 スリの男は、拘束から逃れようと身を捩らせる。
 もっとも、幾ら暴れたところで万力のような義弘の握力からは逃れられない。
 さらに騒ぎを聞きつけたのか、人混みを掻き分けラダが近くへやって来た。
「義弘。“話”をする必要があるのか?」
「おう、ラダか。儲かってるか?」
「それなりにな。そいつ、縛って少し砂漠に干しとけば、程よく大人しくなるんじゃないのかね」
 声を潜めて交わされる言葉は、スリの男にとってはまるで死刑宣告に近い。そもそも、砂漠の国においては窃盗は重罪なのである。古い時代にはパンを盗んだ代償に、身ぐるみ剥がされ砂漠に埋められた者もいたほどだ。
「まぁ、何はともあれ“そのスジの者”がいてくれるのは心強い。よしなに頼むよ」
 そう言ってラダは、スリの男を一瞥さえせず義弘の手にコップを手渡す。
 コップの中身は豊穣の酒だ。
 故郷の酒によく似た味の豊穣酒は、義弘の五臓六腑に良く馴染む。
 
 手渡されたのは玩具のライフル。
 鉛の弾丸ではなく、コルク栓が込められていた。レインはライフルを片手に持つと、テーブルから身を乗り出させる。
 片眼を閉じて狙う先には、大小様々な的が並んでいた。的にはそれぞれ、文字が書き込まれている。ワニ焼き、パンダ饅頭、焼き栗、焼き茸、胡桃パン……的を撃ち落とせば、文字に書かれた食べ物が賞品として渡されるのだ。
「僕は……スナイパー……」
 右手を銃底と引き金に、左手をバレルの下部に添えて狙いを定める。ライフル銃を撃った経験はないが、確かラダがこのように構えていたはずと思い出したのだ。
 ドン、ドン、タッタ、ドン、ドン、トット♪
 ドン、ドン、タッタ、ドン、ドン、トット♪
 遠くから、腹の底に響くような太鼓の音が聴こえ始めた。太鼓のリズムに呼吸を合わせる。少しずつ、意識を集中させる。自分の身体の延長線に玩具のライフルが、そして的が存在しているようなイメージだ。
 ドン、ドン、タッタ、ドン、ドン、トット♪
 ドン、ドン、タッタ、ドン、ドン、トット♪
「ふー……すぅ……」
 浅く、細く、心臓の鼓動を抑えるように息をする。
 レインの指がトリガーを引いた。

 パン!

 渇いた音が鳴り響く。
 雑踏の中、誰かが銃を撃ったのだ。
 響く悲鳴。そして、立ち込める硝煙の匂い。
「くそっ! 邪魔だ!」
 人混みを掻き分け、駆けて行く者がいた。それは背の高い男性だ。薄汚れた外套と、手入れ不足の拳銃、履き潰したブーツと身に着ける装備はどれも粗末なものである。
 髭の目立つ顎に、落ちくぼんだ眼窩、汗でべたついた髪……盗賊だろう。それも、あまり食えていない落ち目の盗賊。
 きっと何かしらのトラブルか、或いは窃盗を見咎められるかした結果、彼は銃を抜いたのだ。人混みの中で誰かを撃ってしまったのだ。
 まったく、愚かとしか言いようがない。
 人の目のある場所でそんな真似をしたならどうなるか。予想がつかないほどに愚かであったのだ。
「……穏やかじゃないな」
 人混みの中を駆ける盗賊。
 焦った顔と、覚束ない足取りをラダの目はしっかりと補足していた。男はそのまま人混みを抜け、ラサ八幡の外へと逃げるつもりなのだろう。
 ラダは屋台の下に隠した愛用のライフルへ手を伸ばす。
 男が人混みを抜けた瞬間、その脚を撃ち抜くつもりである。
「……おや?」
 だが、ラダの出番は回って来ない。
 男の前に、オセロットが立ちはだかったからである。
 
「こういう場だ。警備の仕事は絶対需要があるんだよ」
 拳を固めたオセロットが男の進路に立ちはだかった。
 その佇まい、そして鋭い眼光を見て、盗賊の男はオセロットがただ者ではないと気が付いただろう。
 拳銃を腰から引き抜いたのは、本能的なものであったかもしれない。本能が警鐘を鳴らし、盗賊の男に戦闘態勢を取らせたのかもしれない。
 人は所詮、脳味噌の乗り物である。
 脳が恐怖を感じれば、手足はまったく動かなくなる。
 脳が危機を察知すれば、身体は勝手に攻撃や逃走に移行する。
 男の場合は、それが銃撃であった。
 2発。
 銃声が鳴り響く。
 放たれた弾丸を、オセロットは掻い潜るようにして回避した。地面を靴底で擦るようにしながら一瞬のうちに盗賊との距離を詰め、3発目の弾丸が撃ち出される前に手首を殴打し、関節を砕いた。
「う、ぎぁ、ぁぁあ……ぁ」
 盗賊男の絶叫が不自然に途切れた。
 その顔面が潰れたからだ。
 男の顔面を潰したのはオセロットの頭突きだ。警備部に勤めるオセロットにとって、自身の五体はどこであろうと武器になり得る。盾になり得る。
 昏倒した男を抱えると、その手足の関節を外した。
 これで男は、目を覚ましても逃げられない。
「……1匹幾らって契約でもねぇが」
 少しだけ悩んで、オセロットは盗賊を遺跡の外に捨てて来ることにした。
 元居た場所へリリースするのだ。

 テキ屋というのは、どこの世界でも変わらない。
 人混みの中を歩きながら、義弘はそんなことを考える。
「いや、ラサのは少し性質が悪ぃな」
 おそらく屋台を出しているのが商人たちだからだろう。
 金魚すくいの屋台を見つめ、義弘は呆れたようなため息を零す。
「僕は……レスキュー隊」
 ポイを片手に桶を見つめるレイン。桶の中にはたくさんの金魚が泳いでいた。
 通常、金魚すくいの金魚とはすっかり弱った個体ばかりだ。だが、ラサの金魚すくいは違う。どの個体も元気いっぱいで、隙さえあればレインを襲ってやろうという気概が窺えた。
 弱肉強食。
 過酷なラサの土地が、気風が、金魚の性質を好戦的かつ強靭なものに変えたのだ。

 太鼓という楽器がある。
 豊穣の地で仕様されるドラムの名称だが、一般的にオーケストラなどで使用されるそれと違って、低く太い音が鳴るのが特徴だ。
 太鼓の音色は、腹の底を、心の臓を、骨の髄を震わせる。
 古くは戦の際に、戦意向上や指揮のためにも打ち鳴らされて来たと言う。
 そのせいだろうか。
 イズマが叩く太鼓の音に感化され、頭に血の気が昇ってしまった者がいた。
「お前、強そうだな。どうだ? 我と一戦、拳を交えてみないか?」
 パンダである。
 名をP・P・D・ドロップという旅の武闘家だ。
 彼女がバトルマニアであることはイズマも良く知っている。以前にも何度か顔を合わせたことがあるし、実際に拳を交えたこともある。
「~~っ!? 彼女も来ていたのか……っ!」
 太鼓を叩く手を止めて、慌てて高台から飛び降りた。
 ドロップが喧嘩を仕掛けていたのは義弘だ。義弘とドロップが喧嘩を始めてしまったら、きっと周囲にも大きな被害が及ぶだろう。
「頼むから2人とも冷静でいてくれよ。演奏を邪魔する奴は許しちゃおけないからな」
 喧嘩両成敗。
 だが、2人の喧嘩にイズマまで割り込むことになっては、いよいよもって収拾がつかなくなるだろう。
 それが理解できるからこそ、イズマは祈るような気持ちで2人の元へと駆けているのだ。
「平和が尊いものだというのがよく分かるよ」
 どこか疲れたような様子で、イズマはそう呟いた。

●祭りの終わり
 高台の上に太鼓があった。
 その近くには、太い木から削りだしたスティック……ばちと呼ばれる物が落ちている。
「……?」
「確か、こんな風にして」
 2本のばちを、レインとエントマが1本ずつ持ち上げる。
 それから、暫く前にイズマがそうしていたように大きく振りかぶって、太鼓へと叩きつけて見た。
 デン、と少し弛んだ音が鳴る。
 イズマが打った時に比べて、音が緩くて気持ちが悪い。
「お……おぉ……手が、痛い……」
「難しいね、これ」
 おまけに太鼓を打った反動が、2人の手にダイレクトに跳ね返る。
 太鼓に張られた牛の皮は厚く、硬いのだ。当然、それを叩く者の手にもかなりの負荷がかかるのである。
 思わず、2人は手からばちを取り落とした。
「おっと。しっかり握ってなきゃ危ねぇ」
「まぁ、慣れないとびっくりするよな」
 2人が落としたばちを、空中でキャッチしたのは義弘とイズマだ。多少、汚れてはいるが大きな怪我は無さそうだった。
「音……響かない、よ」
 少し困ったような顔をしてレインが問うた。
「いい絵が撮れそうかと思ったんだけどね」
 肩を竦めてエントマが拗ねる。
 イズマの太鼓を勝手に叩いているのがバレて、少々、バツが悪いのである。
「それなりに膂力がいるからな。あぁ、義弘さんは両面打ちをやったことは?」
 予備のばちを取り出して、イズマはそれを義弘へと手渡した。
 
 絶え間なく、低く、太く、大きな音が鳴り響く。
 その音を背に、ラダとオセロットは遺跡の外へとやって来ていた。
 砂の上に転がっているのは、本日、悪事がバレて遺跡から叩き出された犯罪者たち。その数は合計で12人にも上っていた。
「彼らをどうするか聞いているか?」
「いいや? 見つけ次第、捕まえるように言われただけだ」
 骨を折られている者。
 関節を外されている者。
 ロープで縛り上げられた者。
 誰も自力では動ける状態になかった。
「だったら、こいつらの身柄は私が引き取っても構わないか?」
 窃盗、傷害、器物破損……罪状は様々であるが、中には指名手配されている盗賊もいる。
「……まぁ、いいんじゃねぇかな。雇い主も、自分のイベントで死人なんて出したか無いだろうしな」
 このまま砂漠に転がしておけば、そう遠からず獣かワニに喰われて命を落とすだろうことは明白。そうなるよりは、ラダに身柄を預けてしまった方がよいとオセロットはそう判断したのだ。
「そうか。それではこいつらの身柄はいただいていくよ」
 臨時収入が増えた。
 なんて、少しだけ機嫌が良さそうに。
 ラダは馬車へと、罪人たちを積み込み始めたのであった。
 

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

お疲れ様です。
無事に祭りは成功し、エントマから報酬が支払われました。
祭りに使った遺跡は、今後もエントマがイベント会場として利用する算段のようです。

この度はご参加いただき、ありがとうございました。
縁があれば、また別の依頼でお会いしましょう。

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