シナリオ詳細
<伝承の旅路>刀幻境
オープニング
●デッドランド
プーレルジールに存在する廃棄場、ゼロ・グレイグヤードはその冠が表すように、何らかの理由で廃棄される事となったゼロ・クールが集う地である。単なる失敗作もあればやむを得ない理由もあっただろう。アトリエの人間はこの地と切っても切れない縁で繋がっており、また、自身の失敗と向き合う事になる。
ゼロ・グレイグヤードをイレギュラーズが知る事となったのは最近だ。ギャルリ・ド・プリエの魔法使いたちが隠していたわけではないが、前述の通り、自分たちの汚点をわざわざ晒す事もないと判断したのだろうか。それを知る事、伝えられる事となったきっかけは魔王軍の存在が関与している。
魔王軍にとってゼロ・グレイグヤードは都合の良い駒の宝庫だ。ゼロ・クールの大半は戦闘用に造られており、四天王が大攻勢に出るまでの小競り合い、人類側の防衛に貢献している。四天王や魔王軍の事情は定かではないが、寄生型終焉獣による能力を行使する事でこれらを離反、寝返らせる事ができるのだから利用しない手はないだろう。
そして、この地はそんな危険な存在を無数に廃棄、イレギュラーズが言葉を選ぶならば『遺棄』している。
だがプーレルジールの人間が杜撰と決めつける事は早計だ。そもそもの小競り合いで手一杯なのだから、供養の場などに大きく手を入れる時間、資材に加えて人員も不足しているのが現状である。この地を管理せんとするゼロ・クールを製造する過程で生まれる廃棄物、そして製造コストによって生じた戦闘用ゼロ・クールの不足と八方塞がりに近い状況を魔法使いたちは複雑に絡み合ったバランスの中で、よく管理していると言える。
●マジック・ラーニング
「ああ、助かったよ。アトリエは何処も大忙しでね、きみたちに頼むしかないんだ」
イレギュラーズはギャルリ・ド・プリエを手伝う形でこの世界に手を貸している。四天王が現れてからは、熟練の魔法使い達であろうとも異邦人の手を借りざるを得ない、切羽詰まる状況となっている。
「ぼくはアルベール。ゼロ・クールの製造に関わってる魔法使いだよ。専門は疑似人格。人間の行動原理を魔力ログとして複写し、データベースへ圧縮するんだ。圧縮されたデータはゼロ・クールの思考パターンに組み込む。例えばお腹が空いたなあと言う音声に対して、無数のメモリから適切と思われる返事や行動を返し、一連の流れを再評価してまた優先度が上下する……オーケー、ドーナツタイムにしよう。そんな顔をしている」
アルベールはドーナツを食べている間も良くわからない事を夢中になって話していた。肉体派なイレギュラーズがこの場にいるとしたら、一日中、家の中で何かをしている白衣の言いそうな呪文だとうんざりしているだろう。
「よし、依頼の話に戻ろう。ぼくの廃棄した……正確には自分からゼロ・グレイグヤードに向かったゼロ・クールがいてね。こいつが困ったものなんだよ。完璧な疑似人格を作ろうとしていた頃の……ええと、バージョンは3だったかな。4か? まあいいよそこは、ぼくたちに従わせると言うよりも、自分で適切な行動を導き出す事でタイムラグなしに奉仕させるつもりだった。それが不味かった。プロ太郎はグレイグヤードに修行の旅に出るとか言い出してね、あ、プロトタイプだからプロ太郎」
プロ太郎は異世界のジダイゲキというものの影響を強く受けているらしい。そして、アルベールのもとへプロ太郎から連絡が入った事が今回の仕事の発端となる。
「あいつ、マジでプロ太郎って名前が気に入らなかったのか、今は死崎 刀獣狼(しざき とうじゅうろう)とか名乗ってるんだ。何なんだよ死崎って……。で、まあその死崎の魔力残量が0になったら回収に行こうと思ってたんだけど、それを死期と勘違いして例のシュウエンジュウ?ってのと手を組んだみたいだ。畜生の道に堕ちようとも剣士が目指す境地を目指すとか言い出してるんだ」
対処は任せるとアルベールは話を切り上げた。
●ぼろ小屋
「あの人形野郎……本当に寄生されてるのか? 全然おれたちに従わねえじゃねえか」
グレイグヤードにひっそりと佇むぼろ小屋の外で、一匹の終焉獣が愚痴をこぼす。寄生型終焉獣が死崎のコアに取り憑いたは良いが、どうもウマが合わないようで、こちらに無条件に従う傀儡となっていない事に腹を立てているようだ。
「拙者を支配下に置けると思うな。おぬしらへの義理は返す。だが、拙者は強者を求める抜き身の刃。弱きに従わず、強きは斬る。刃の生き様とはそのようなものよ」
「何言ってるのか全然わからねえ。ま、まあいい。イレギュラーズとかいう奴らとやり合ってくれれば何も文句はねえよ!」
「承知」
リーダー格の終焉獣は頭を抱えこんだ。時間をかければいつかは死崎と名乗る人形も手中に収める事ができるだろうが、それまでこの妙な取引関係のようなものを続け、機嫌を損ねないようにする仕事はひどく疲れるものであった。
何より、死崎は強い。
- <伝承の旅路>刀幻境完了
- GM名星乃らいと
- 種別通常
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2023年10月23日 22時05分
- 参加人数8/8人
- 相談7日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
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参加者一覧(8人)
リプレイ
●侍の道
「ふっ…ひぃ、ふぅ、みぃ。儂を除けば敵と味方にサムライば3人も居るとは思わなかったのう? ……いやー、ワクワクしてきたぜよ!黒星、ルーキス! ちょびっとだけ前哨戦として儂らで斬り合わんか? え、駄目?」
『特異運命座標』金熊 両儀(p3p009992)の朗らかな声がゼロ・グレイグヤードに響く。『黒一閃』黒星 一晃(p3p004679)には明確な殺意こそ見せればその気にさせれない事もないであろうが、一晃は単純な損得勘定からそれを抑えるだろう。ローレットの定めたルールを守り、属する事によるメリットを享受する。其の方が、合法的に敵を斬れる。
ルーキスはというと大真面目に両義に忠告していたが、両義としてもついつい言葉にしてしまう豪胆さはさておき、受諾される提案とも思っていないようであっけらかんとしている。
「プロ太郎…名前はアレですが(侍的な意味で)何となく親近感が湧きますね。壊さずに連れ戻せれば良いんですが」
「名乗りたくない気持ちはわかるな…。しかし終焉獣に取り憑かせたって、彼が目指す境地には至れないし、本当の死期にもまだ遠いじゃないか。正しき道に引き戻してやろう」
『青き鋼の音色』イズマ・トーティス(p3p009471)は苦笑いをしながらルーキスと小声で話した。今のところは死崎と呼んだ方が良いのではないか、という彼なりに気遣いが垣間見える。ルーキスもそれは察する事だ。
「ははあ。よくわかりませぬがアルベール殿は『もっと柔軟な思考のゼロ・クール』を目指したいって感じだったのでござるかな? それがしは自分の『感情』も『心』どこから来てるかわからぬゆえ、元の名前を嫌がる刀獣狼殿に感情が無いとは信じられぬでござるなー」
「感情があろうとなかろうと同胞が消えるのは御免だ。ここで助ける。魔物は消えてもらうがね」
「御意にござる」
『死神の足音』ブランシュ=エルフレーム=リアルト(p3p010222)に『忍者人形』芍灼(p3p011289)が死崎を守るように取り囲む終焉獣へ鋭い眼光を向ける。
ブランシュと芍灼にとって死崎は、依頼における重要な目標以上の感情を抱いている。レガシーゼロの同胞、ゼロ・クール。どれほど奇妙な存在であろうとも、この二人は同胞を救う為なら喜んで渦中に飛び込む事だろう。
「死崎 刀獣狼……なんというか、なんというかだな。まあ元の名前がプロ太郎だったらしいからな。命名センスは親譲りなんだろう。ちなみに俺なら『一文字 斬乃介』と名付けるな。え? 同類だって?」
「一文字 斬乃介……プロ太郎よりも斬り甲斐がありそうな男だな、ククッ」
『狂言回し』回言 世界(p3p007315)の生み出した一文字 斬乃介は一晃の標的に選ばれた。一晃さんが極稀に見せるお茶目要素は絶妙にわかりづらい。ルーキスは死崎にプロ太郎という単語が聞こえてはいないかひやひやものである。
「どうして……こんなに、ややこしいことに! わたしが なすべきは 終焉獣を 倒すこと……ですが、時代劇における さかなとは 海辺の街の 装飾品。それでも 立ち向かわねば なりませんの!」
『半透明の人魚』ノリア・ソーリア(p3p000062)が何かびちびちと跳ねている。ノリアにはサムライマンたちの生き様がわからぬ。だが、暴虐な終焉獣に立ち向かう事は彼女の使命なのだ。きっと。
●死合
「しかし、いかんぜよ。楽しい果たし合いも、突っつく羽虫どもがいては敵わん」
「ほう? 貴様は羽虫も振り払えぬなまくら刀を差しているのか?」
「やっすい挑発じゃのう一晃。じゃが今は乗っちゃる。たのもーーーー! おまんらぁ!果たし合いに来たぞぉー! 儂と斬り合えっ!!」
両儀は敵の終焉獣の反応を待つ事なく突撃する。耳を塞ぎたくなるほどの大声は単なる威嚇ではなく、ソナーのような役割を果たしたが、結局の所は敵が素人である事から大した意味を成さなかった。死崎を頼った棒立ちにも近い姿勢だ。効率的な迎撃態勢、布陣は見受けられない。しかし、どのように狡猾に構えた所で、この鬼人を止める事はできないだろう。
むきになる事もなく、己の役割を豪快に行う。一晃はこの快男児を単細胞とは見くびっていない。このような男こそ危険な存在であり、厄介だ。そして、相手をするのであれば厄介な程良い。対峙する時が楽しみでならない。
両儀の木刀が次々とデバステイターを殴りつけ、強烈な本命の一撃が頭を捉えようとした所で眼前の魔獣は消し飛ぶ。
「おまんがけしかけた癖にいいトコを取るやっちゃのう」
「苦戦しているかと思ってな」
「ぬかしとれっ」
一晃と両儀の正反対な性質を持つ刀捌きが嵐となって敵を襲うなか、ノリアはお約束の如く袋叩きにあっている。ノリアの何がそこまで敵を引き付けるのか、これは混沌における七不思議といっても過言ではないのだが、ともかくノリアは袋叩きにあっている。
「さあ わたしは 戦場におりたつ 海産物! 戦いのなかで 無視できない 存在ですの!」
「オイ! サッサト ヤレ!!」
ノリアを取り囲む終焉獣が野太い声で苛立っている。これほど無防備に見える謎の魚を相手に、殴りつければ殴りつけるだけ傷を負う不思議な現象に、攻撃の手を緩めてしまう。やれる相手からやらなければ、不利になるというのにノリアを抜く事ができない。
「毎度毎度、御苦労な事だな……俺があの役割を求められても、断固として遠慮するだろうな」
世界は自分も仕事をしていますよ、と言わんばかりのアピールを込めてノリアを治癒する。治癒しなくてもどうにかなりそうな雰囲気がしないでもないが、ノリアのような少女が袋叩きにあっている光景は何か手を加えないと気分のよろしいモノではない。
「さあ これで ふりだしですの!」
「相手も難儀な事だ」
終焉獣デバステイターは簡単に状況をコントロールされている。寄生型終焉獣に頼る、下級の魔物などは元々イレギュラーズの相手ではない。油断こそ禁物だが、イレギュラーズが手にした奇跡はゼロ・クールを救出する事ができる。いくらか奇跡の代償を払う事となるが、それでも魔王軍の目論見は正面から打ち砕かれる。
「ここで手間取っている暇は無い……早々に終わらせる!」
「たすかりますの 世界さんは ここぞとばかりに 治癒をするので 長引きますの」
「おい待て」
ルーキスはノリアを取り囲む終焉獣を次々と斬りつける。優先すべき相手が次々と変わり、終焉獣は誰を誰が対処するべきか混乱しており、統率の取れた戦いとは言えないものであった。
「今の俺はどうにも機嫌がいい。死神の足音を聞け。恐れるなよ。順番が来ただけだ。いずれ分かっていた事だろう?」
ダメ押しとばかりにブランシュが死角から飛び込み、強烈な衝撃波で終焉獣の武器を、身体を、生命を破壊する。
両儀やノリアに気を取られていた終焉獣は、とうとう最期まで死崎の援護を受ける事はできなかった。死崎としても、手を貸すつもりはなかったようだ。死崎をアテにしていた下級のモンスターらしい末路であった。
「刀獣狼さん、だな? 俺とお手合わせ願おうか。その刃で鋼を斬れるかどうか、試してみるといい」
「如何にも。強者と死合う事こそ拙者の悲願。妖魔如きに邪魔をされてはたまらぬ故、一掃に感謝致す」
イズマが名乗り、細剣を死崎に向ける。造り物の口調、風貌、生き様であるがそれが何だと言うのだろうか。勘違いしているだけのゼロ・クールだが、ブランシュや芍灼の同胞であり、イズマにしても助けるべき命である事に変わりはない。プロ太郎はアレにしても、彼を嗤う事はない。
「刀獣狼殿、それがしともお相手願うでござる。貴殿は剣技を極めた先、どの様にされるおつもりだったか聞かせていただくでござるよ」
「死を前にして、これほど多くの剣士と相見える事が出来るとは。フッ、時の女神は残酷なものよ」
芍灼もイズマと共に死崎に対峙する。完全にバッテリー切れを死期と勘違いしているが、芍灼の経験上これはもう一度ひっぱたいてからじゃないと説得できない事は薄々と勘付いている。それでも言わねば気がすまない。
「というかそもそも、『死期』とやらは貴殿の勘違いなのでさっさと元に戻るでござるー!」
芍灼が即座に死崎に毒霧を吹き付ける。この程度でゼロ・クールがやられるはずもないという同胞への、死崎へのリスペクトを兼ねた容赦のない忍術である。死崎も8人に囲まれる身である事から、一人ずつ斬り合うとも思っていなかったようだ。毒を直撃こそしたものの、想定内のダメージに平静さを失わない。
「そう簡単に斬らせてくれる相手ばかりじゃないぞ。剣士の頂を目指すなら相手に甘えるな、どんな相手でも己の刃で斬るんだ!」
イズマが飛び込み、死崎の一撃を次々と封じ込める。死崎はゼロ・クールの中では秀でた戦闘能力を有するが、本職のイレギュラーズには敵わない。
「クッ、疾いな。拙者にあと1年……いや、半年でもあればその域へ挑めたものを……!」
死崎はなかなか反撃の機会を掴む事はできなかったが、最善手と思われる防御に注力し、イズマの猛攻を凌いでいる。そして、僅かな隙を突こうとすればブランシュがそこを咎める。実に八方塞がりのワンサイドゲームである。
「お前は見たはずだ。俺の一撃を。お前が定義する強者の技を。ならばお前は斬らねばならない」
思うように攻める事はできないが、イズマやブランシュから激励を受けながら戦う事は不思議と悪い気分ではなかった。
「おうおうおう、こげん楽しそうな戦い、儂も混ぜてくれんかのぅ!」
両儀が強引に割り込む。そして、この先の先を取り続ける戦いに退屈したのか、余興とばかりに1対1の構図を所望した。
「少しだけだぞ。俺たちは遊びに来ている訳ではないからな」
「ちいっとばかし楽しんでもバチは当たらんぜよ!」
死崎を封じ込める戦いとは性質の違う、真っ向からのぶつかり合いが起きた。いくらか死崎も攻勢に転じたが、豪胆な両儀を受け止める事は難しい。単純な力の差で吹き飛ばされる事となった。
「まだじゃ! おまんはまだこの程度じゃなかろ! 儂に見せてくれんかのう!」
両儀は放っておくと何方かが倒れるまで戦うのではないかと思わせる気迫に満ちていた。
「両義さん! ストップ、ストップ!!」
ルーキスが両義の木刀を二刀で受け止める。気持ちの良いほどに豪快な男ではあるが、彼もまた剣の道に生きる修羅である。ここぞでルーキスは両義をクールダウンさせる事にした。
「ここからが面白くなるというのに……むぅ」
イレギュラーズの調和を乱す事はなく、素直に、だが不満げに従う様子はおもちゃを取り上げられた大型犬のようであった。
「くく、俺には視えていたぞ。貴様が無防備に飛び込んだ所に反撃を喰らう一幕が」
「じゃかあしい! よ、避けきってみせたわ!」
冷静になれば確かにヒートアップしすぎて守りが疎かになっていた事は否めない。なんともウマの合わないやつだ。
「死崎よ、果たして貴様はその身を終焉に巣食わせたままで満足出来るのか? 貴様のその技、主に組み込まれた物で無く研鑽の賜物であろうよ。それは驚嘆に値しよう。だが刀幻境、その境地に至ったと、その終焉に穢れた刃のままで果たして言えるか? 俺の刃の偽打も真打には程遠い。だがそれでも刃の果てを目指さずにはいられん。死崎 刀獣狼。此処で死した物だと思いもう一度プロ太郎からやり直せ。そしてもう一度名乗れるまで己の役目を果たしつつ研鑽を重ねるがいい。刃は火を入れ叩き冷やして完成する物だ」
一晃が終焉獣の血で濡れた刀身を拭き取りながら、死崎と対峙する。
「穢れた刃……か。不思議なものよのう、黒星 一晃とやら。剣の道に生きる者は何処か互いに近いものを感じる。言わば同類でありながら、理解しあう事はなく。唯一の対話は刃によって行われる不器用な生き様よ。だが、それでも斬り結ばなければ、気が済まない。おぬしも果てを目指す者ならば……!」
一晃の偽打と死崎の鉄剣が激しく打ち合う。死崎の持つ刀も日本刀とは言い難い、それを模したようなロングソードの亜種だ。フェイクとフェイクのぶつかり合い、だが互いが抱く信念は紛うことなきオリジナルなのだ。
「かぁあああ! 儂の出番を奪いおって一晃! 刀獣狼! けちょんけちょんにしちゃれ!!」
「……これで三度は斬った。俺の勝ちという事にしておこうか」
「だが拙者は生きておる。結果に現れぬ宣言など何の意味を成そうか」
一晃の優勢は明らかであったが、死崎の言う事も一理ある。自分は敵の命を奪っていないのだ。つくづく甘いことをしているな、と一晃は自嘲した。
「それでは、次は俺が相手をします。ルーキス・ファウン、カムイグラ二刀流です」
「剣士ってのは皆あんなバトルジャンキーなのか……? 俺は包丁を持つのも億劫なんだがなあ」
「たべないで くださいまし! わたしは 活造りにされようと 最後まで 戦うつもりです」
嬉々として戦う剣士たちを前に、世界は一応の治癒術を準備しつつ面倒臭そうに眺めていた。はたから見れば命の奪い合いだが、彼らはまるで新しい友人と遊ぶかのように次々と斬り合っている。とても正気とはおもえない。そしてこのアナゴも。
「奇跡のちからで 約束されている救出。ですが、それを抜きにしても 楽しいのでしょう」
「自分の知らない剣術を自分に向けられる事が? 俺にはわからん世界だよ……」
「のう世界! おまんも意外と上達は早いかもしれんぞ! 儂がいっちょ稽古を付けてやろうか?」
「遠慮する」
両儀はしゅんとしている。
ルーキスの二刀が執拗に死崎を攻め、防御をすり抜ける。変幻自在の二匹の蛇、死崎は後にそうルーキスの剣を評している。
「チィッ……! 世界は広いのう、二刀流など馬鹿げたおとぎ話と思っていたが、これほどの使い手がいようとは」
「俺も楽しいですよ、死崎さん。あなたの戦い方は悪党どものそれとは違う、はっきりとした信念に基づく太刀だ。受けていて気分が良い」
「顔を歪ませられる程の剣術でなければ、情けない話なのだがなあ」
「お互い様です」
死崎の剣術はゼロ・クールらしい理論値に基づく正統派なものだ。先手を取られ、封じ込められていた時も決して焦らず、反撃の機会を伺う。ルーキスの二刀流も動きに惑わされず、一番のウィークポイントをしっかりと守り、其処から剣閃を分析する。地味ながら優秀であり、良い剣士になるなとルーキスは感じた。
「遊んでばかりもいられない。そろそろ、時間だ」
ブランシュが告げる。そうだ、イレギュラーズは斬撃レクリエーションを行う為にここにいるのではない。死崎を寄生型終焉獣から救う為にここに集っている。一晃やイズマたちは己の得物を仕舞い、奇跡の欠片を手にする。
「……生を願うとは全く死人の俺らしくも無い事だ」
「後々の問題は山積みだ。だからこそ、こんな所で失敗はしていられない。死崎さん、俺たちと帰ろう」
死崎は突然にして攻撃の手が止んだ事に驚き、何が起きるのかと防御の構えを取る。
「何をするつもりだ……! 拙者と戦え! 剣の境地へ共に至ろうではないか……」
「それがしは忍者なのでその境地はわかりませぬが、それは死崎殿に巣食う邪悪を取り除いてからゆっくり行えば良いのでござる!」
「死神としてお前に一つ言っておこう。地獄はお前のような生者を受け入れるには狭すぎる。お前のコアに取り憑いているそれで予約は埋まっている、とな」
世界は『え、この人って死神なの?』とぴくりと反応したが、まあイレギュラーズも色々いるので死神もいるんだろうとすぐに邪念を取り除いた。
「死崎さん! 必ず助けるぞ!」
「星の奇跡を!」
死崎の身体を星の光が打つ。コアに取り憑いている影は断末魔をあげ、光の中に消える。何が起きたのかを死崎は理解できず呆然とした後に、バッテリーが切れて倒れ込む。
「同胞の惨めな姿を晒すわけにはいかない。これはサービスだ」
ブランシュと芍灼がすかさず死崎の身体を支えた。世界は死神でレガシーゼロでゼロ・クールの同胞かあといろいろ複雑な事情に何ともいえない顔をしていたが、助かるものは助かったので良しとした。
「お前はこうして生き延びた。それは俺を斬る剣を鍛え上げる為に授かったのだ。生きてみせろ」
「クク、生き延びた所で待ち受けるは果てしなき剣の道。潰えた方が楽だったかも知れんがな」
「じゃが、それでも進むのが儂たちじゃろ?」
「其の点においては貴様に同意してやる」
ルーキスはどうしたものか、依頼人への対応を考えている。自分がもしもカムイグラキル次郎とか名付けられたらそれはたいそう嫌なものなので、やはり親から付けられた名前だとしてもプロ太郎はないな、と改名を進言する事にした。
「それがしの知人はよく武器名を付けられておりましたが、プロ太郎よりはマシではないでしょうか」
「サムライソードにでもするか……? いや、これは何かスーパーヒーロー感があるな」
それが死崎となるか、別の名を持つかはわからない。だが、寄生された死崎 刀獣狼という男は浄化された。時間はかかるだろうが、プーレルジールの地を守る、心強い味方と成り得るかもしれない。
その時は、この新たな剣士の門出を祝おう。
成否
成功
MVP
状態異常
なし
あとがき
ご参加ありがとうございました!
プロ太郎は殺人剣から大立ち回り、二刀流と様々な剣術を学んだ事でしょう。
GMコメント
●目標
【必須】プロ太郎(死崎 刀獣狼)の対処
様々な方法が考えられます。得意分野、持ち味を活かしてみてください。
●情報精度
このシナリオの情報精度はAです。
想定外の事態は絶対に起こりません。
●ロケーション
ゼロ・グレイグヤード ぼろ小屋
現場に到着する時間帯を選べます。
早朝、昼、夜などそれぞれに有利、不利な判定や状況が発生するかもしれません。
別々に行動する事はできません。イレギュラーズは多数決で合意する取り決めになっています。
●敵
プロ太郎(死崎 刀獣狼)
一人で無数の終焉獣を斬り捨てたサムライソードのチョンマゲなゼロ・クールです。
死期を悟り、自ら寄生されました。刀幻境なる剣士の頂を目指しています。
秘剣『孤狼満月斬』は非常に強力な一撃ですが、プロ太郎の身体に負担がかかるでしょう。
終焉獣デバステイター 5匹
ハンマーやフレイルで武装した、防御を崩す事に特化した人型の魔物です。
動きは鈍いですが、油断のできない攻撃力を誇ります。
プロ太郎の手先のような立場になっており複雑な気持ちで憤慨しています。
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