PandoraPartyProject

シナリオ詳細

再現性ダンジョンウォーカー。或いは、再現性渋谷ダンジョン…。

完了

参加者 : 5 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●再現性渋谷ダンジョン
 再現性東京にはダンジョンがある。
 そのうち1つが、ここ、再現性渋谷駅だ。
 再現性渋谷駅は8階建ての駅である。
 そのうちわけは地上に3階、地下に5階。
 地上2階にある再現性山手線を軸に、様々な方向から、様々な路線が重なっており、結果として幾度にもわたる増改築が繰り返された。
 ホームと通路、階段だけでも数が多く、例えば地下5階で降車し、地上2階を目指すとなると何度も階段を登り、90度や180度の方向転換を繰り返すことになる。
 場合によっては、2フロア分を突っ切るように設置された階段もあり、2階から1階に降りたつもりが、いつの間にか地下にいた……というような事態も起こりえる。
 これは再現性渋谷的ワープ現象と一般的には呼称する。
 一説によれば、再現性渋谷駅では「駅に入った人数と、駅から出て来た人数が合わない」という状況が度々、発生しているようだ。
 これは、年間に何十人か何百人かの人間が、駅内で遭難しているためだと思われる。彼らは今でも、駅を彷徨い続けているのかもしれない。

 さて、そのような再現性渋谷駅でイフタフ・ヤー・シムシム(p3n000231)は迷っていた。地図アプリを起動しようにも、どうやら何らかの電波障害によりa-phoneが上手く使えない。
 時刻は深夜。
 昼間は人で賑わう駅からも、この時間帯になればすっかり人気が失せる。
 イフタフは食糧も水も持っていない。
「このまま……死んじゃうんっすかね」
 もう何時間、1人で駅を彷徨い歩いたことだろうか。
 イフタフとて、脱出のための努力はしたのだ。案内板を頼りに外への出口を探した。駅員に声をかけもした。
 だが、どうやっても出られない。
 不思議なことだが、今となっては自分が何階を彷徨い歩いているのかも分からない。
 これは、明らかな異常事態だ。
「そもそも、警備員さえ見当たらないって……おかしいっすよね?」
 窓の外へ目を向ける。
 広がっているのは闇だけだ。
「……なんで?」
 深夜とはいえ、ここは再現性東京の中心部。中でも一等、人の行き来が多い再現性渋谷である。
 窓の外に街の明かりが見えないということがあるだろうか。
 人の声や、車の音が聞こえないと言うことがあるだろうか。
「なんかの夜妖の仕業っすかね……これ」
 壁に背中を預け、イフタフは思案する。その頬には、冷たい汗が伝っていた。
 イフタフが、再現性渋谷駅に閉じ込められているとして。
 それが、何らかの夜妖の仕業として。
 果たして、その目的は何なのだろうか……。
「このまま迷わせ続けるだけなら、まぁいい方っすよね。もし、夜妖の方から襲って来るとしたら……」
 もしかすると、だが。
 イフタフに残された時間は、そう多くないのかもしれない。

GMコメント

●ミッション
イフタフ・ヤー・シムシム(p3n000231)を救出しよう

●救助対象
・イフタフ・ヤー・シムシム(p3n000231)
ローレットの情報屋。
再現性東京渋谷ダンジョンで遭難中。
食糧や水は持っていないが、まだまだ歩ける。
少なくとも、今は……。

●エネミー?
・再現性ダンジョンウォーカー(仮称)
再現性東京にある駅などをダンジョン化させている夜妖。
名前はイフタフによる仮称である。
目的は不明。ただ人を迷わせるだけなのか、迷わせたうえで襲うつもりなのか……。

●フィールド
深夜。再現性渋谷駅。
8階建ての駅であり、そのうちわけは地上に3階、地下に5階。
地上2階にある再現性山手線を軸に、様々な方向から、様々な路線が重なっており、結果として幾度にもわたる増改築が繰り返されたことで、すっかり迷宮のような有様と成り果てている。
ホームと通路、階段だけでも数が多く、例えば地下5階で降車し、地上2階を目指すとなると何度も階段を登り、90度や180度の方向転換を繰り返すことになるため、方向感覚が狂いやすい。
また、再現性渋谷駅的ワープ現象と呼ばれる現象が発生し得る。
1階分だけ階層移動をしようとしたのに、気づけば2階分移動していた……というようなものだ。

※深夜であるため、ほとんどの明かりは消えており、また壁などの擦り抜け、破壊は不可能な模様。
※エレベーターなどの設備も停止中。
※電波障害によるものか、a-phoneが繋がらない。
※イフタフ以外にも遭難している者がいるかもしれない。


動機
当シナリオにおけるキャラクターの動機や意気込みを、以下のうち近いものからお選び下さい。

【1】イフタフを捜しに来た
イフタフと連絡がつかなくなりました。その足取りが、再現性渋谷駅で途切れていることを知り、捜索に訪れました。

【2】遭難している
再現性渋谷駅で遭難中です。駅から出られず困っています。

【3】夜妖を追っていた
ダンジョンウォーカー(仮称)を追っている中で、再現性渋谷駅へ辿り着きました。


ダンジョン攻略
駅内での行動です。
駅からの脱出を目指す点は、どの選択肢も共通となります。

【1】遭難者を捜す
駅内を歩き回り、自分以外の誰かを捜索します。主に地上階を中心に行動します。

【2】拠点を設ける
駅内に拠点を用意することを考えました。拠点制作に役立ちそうなアイテムの回収や、スペースの確保に勤しみます。主に地下階を中心に行動します。

【3】ダンジョンウォーカー(仮称)への対応
ダンジョンウォーカー(仮称)を捜索、またはそれに襲撃を受けます。

  • 再現性ダンジョンウォーカー。或いは、再現性渋谷ダンジョン…。完了
  • GM名病み月
  • 種別 通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2023年10月16日 22時05分
  • 参加人数5/7人
  • 相談0日
  • 参加費100RC

参加者 : 5 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(5人)

ペッカート・D・パッツィーア(p3p005201)
極夜
ソア(p3p007025)
愛しき雷陣
ユイユ・アペティート(p3p009040)
多言数窮の積雪
山本 雄斗(p3p009723)
命を抱いて
紅花 牡丹(p3p010983)
ガイアネモネ

リプレイ

●再現性東京のダンジョン
 暗い駅の通路を歩く人影がある。
「ココドコォ-……ココドコォー……」
 多言数窮の積雪』ユイユ・アペティート(p3p009040)である。階段を登って、降りて、また登って……今いる階もすっかり分からなくなった。
 半泣き直前といった顔で駅内を彷徨っているユイユだが、初めはもっと元気であった。再現性渋谷駅で遭難したイフタフを救助するために、ユイユは捜索に乗り出したのだ。
 以前にも迷宮のような駅から脱出したことがある。
 今回だって、以前のようにうまくいく、とそんな自信があったのだ。
 根拠はないが、自信だけはあったのだ。
「まさか秒で迷うとは……困ったな」
 ミイラ取りがミイラになるとはこのことである。
 ふさふさとした自慢の尻尾も、元気を失いぐったりとしな垂れて見えた。ユイユが足を進めるたびに、大きな尻尾が上下に揺れる。
「……っ!?」
 何かに気が付いたのだろう。
 ユイユの表情が強張った。慌ててユイユは背後を振り返る。
 目を見開いて通路を見やるユイユの視界を、獣の影が横切った。

『うわぁぁ!!』
 暗い駅に誰かの悲鳴が木霊する。
 その絶叫は、3階、線路の傍を歩いていた『巨星の娘』紅花 牡丹(p3p010983)の耳にも届く。複雑な駅の各所で反響し、悲鳴がどこから聞こえて来たかは分からない。
「イフタフ以外にも迷ってる奴がいるのか……無事だといいんだが」
 牡丹は周囲に視線を巡らす。
 暗い通路に、幾つもの曲がり角。見通しは悪く、方向感覚さえも判然としなくなる。元々、複雑な構造の駅だ。夜妖によってダンジョン化した今となっては、容易に脱出も出来ないだろう。
 もっとも、それは“普通”であればの話だが。
「オレを迷わせれるもんならやってみな!」
 暗がりも、罠も、徐々に狂っていく方向感覚も、牡丹にとっては何の障害にもならない。

 同時刻。
 1階、連絡通路にて。
「よぉ、君も道に迷った口か?」
 『極夜』ペッカート・D・パッツィーア(p3p005201)が遭遇したのは、夜妖ではなく同輩であった。
「うん、渋谷駅に夜妖が出たって聞いて来たけど……いつの間にか、すっかり迷っちゃたな」
 1階の端っこ、元々は駅の外へ通じる扉があった場所を眺めながら、『陽空のヒーロー』山本 雄斗(p3p009723)はそう呟いた。
 あったはずの扉が無くなっている。
 ただ黒い壁だけがそこにある。
 この分だと、駅内にある案内板も信用することは出来なさそうだ。
「駅を迷宮にして鬼ごっこてもして遊びたいヤツがいるのか? それともダンジョンボスの真似事かな」
 かくいうペッカートも迷子であった。
「渋谷駅自体が夜妖の領域になってるみたいだし先ずは取り込まれた人達の安全を確保しなきゃ」
 雄斗が見つけた遭難者第一号がペッカートである。
 きっと、他にも駅内には遭難者がいるはずだ。
「それと……なんにせよ元凶を見つけないことには何にもなんねぇな」
 遭難者を見つけ、駅をダンジョン化させている夜妖を討つ。
 それが出来なければ、駅からの脱出は難しいだろう。

 ユイユの喉に、鋭い爪が突きつけられた。
 ちくり、とした僅かな痛み。
 ユイユの胸に馬乗りになっているのは、金の髪の獣であった。
「あれ? 夜妖を追いかけてたつもりなんだけど?」
「ぇ……夜、妖……?」
 獣の名は『無尽虎爪』ソア(p3p007025)と言う。
 開いていた瞳孔が収束し、きょとんとした表情を浮かべた。ソアは首を傾げたまま、ひょいと音もなくユイユの上から降りた。
「んー? あっちかな?」
 倒れているユイユを助け起こして、ソアは廊下の奥の方へ……暗がりの中へ目を凝らす。そちらの方で、ゆらりと何かが揺れた気がした。

●増改築を繰り返すとろくなことにならない
 コツン、コツンと微かな足音が響く。
 暗い階段を降りながら、イフタフは顔を左右へ振った。反響する自分の足音が、どうにも不気味に思えてならない。
 どこかから、誰かに見られているような……不躾な何者かの視線を感じている。
 自分が向いている方向も、時間の感覚も、何もかもが曖昧になる。
 もうどれだけの間、駅を彷徨っているのだろう。
 いつになったら自分は駅から脱出できるのだろう。
「もしかしたら……このまま一生」
 一生、駅から出られないのではないか。
 そんな不安と恐怖がイフタフの脳裏をよぎる。
 歩き回って、無駄に体力を消費するより、駅に住み着く方法を考えた方がいいかもしれない。そんな想いに苛まれる。
「はぁ……」
 溜め息を零して、足を止めた。
 コツン、と。
 イフタフの背後で、ほんの微かな足音がした。

 白い壁を前にして、雄斗は足を止めていた。
「おかしいな。こっちの方で、誰かが迷っている気配がしたんだけど」
 壁に手を触れる。
 硬くて、冷たい壁だった。何度か壁をノックしたが、返って来るのは硬質な音だけ。壁の向こうに空洞があるというようなことも無さそうだ。
「ここは階段や通路も入り組んでるからな。壊すか?」
 複雑な駅の構造がペッカートや雄斗の捜索を阻んでいる。声や、助けを求める気配などを頼りに足を進めても、目的地にまっすぐ辿り着けるわけではないのだ。
 壁一枚を挟んだ向こうに目的の場所があったとして、そこに行くには1度、フロアを降りか、登るかしないといけない……そう言う事態が頻繁に発生する。
 再現性渋谷駅が、ダンジョンと呼ばれる所以である。
「加えて夜妖か。ダンジョンウォーカーとか、そんな風に呼ばれているんだってね」
「まだお目にかかったことはねぇけどな……見つけて、交渉の余地が無かったら武力行使で解決しよう」
 雄斗は遭難者を、ペッカートは夜妖を。
 それぞれ、探している対象は違うが、最終的な目的だけは一致している。
 つまり、再現性渋谷ダンジョンからの脱出。
 長い夜を終わらせるのは、まだまだ先になりそうだ。

 ずるずると尻尾を引き摺りながら、駅のホームを歩いているのはユイユであった。
「お化けなんていないさ。お化けなんて嘘さ」
 ブツブツと何かを呟いている。
 その表情に覇気は無く、肩もがっくりと落ちていた。
 まったく、今日はツイていない。
 イフタフを捜しに来たら、自分まで道に迷ってしまった。
 駅を彷徨っていただけなのに、夜妖と間違われて襲われた。
 ソアはさっさとどこかへ駆け去ってしまったので、結局、ユイユは1人きり。こうして、暗い駅を歩き回るはめになっている。
「あーあ、本当に参っちゃうよね」
 ポケットから氷砂糖を取り出して、ユイユはそれをガリリと齧った。
 口の中に甘い味が広がった。
 心なしか、失われていた活力まで戻ったような気がする。
 生きているだけで、生物はカロリーを消費するのだ。そして、カロリーはつまり、行動するためのエネルギーである。
 エネルギーが足りなければ、活力を失うのも当然。
「よし! これでもう少しがんば……」
 コツン、と。
 気合を入れ直すべく、自分の頬を叩いたユイユのすぐ背後で、ほんの微かな足音がした。

『おわぁぁぁぁ!』
『うわっ! わわわわっ!』
 
 2度目の悲鳴が牡丹の耳朶を震わせた。
 今度の悲鳴は2人分。1人はイフタフ、もう1人はユイユのものだ。
「あっちか!」
 悲鳴が反響する。
 耳を済ませれば、辛うじて悲鳴の聴こえた方向が分かる。
 床を踏みこみ、走り出すべく腰をかがめた。
 だが、本当にこれでいいのだろうか。牡丹の脳裏に疑問が浮かぶ。
 右も左も分からないダンジョン駅。
 それも、現在は夜妖の影響下にある“本物”の迷宮だ。
 本来、ダンジョンの踏破には時間がかかるものなのだ。地図とコンパスを手に、曲がり角の度に目印を刻み、慎重に慎重を重ねて時間をかけて歩を進める。
 それはなぜか。
 迷うからだ。罠などが恐ろしいからだ。
 悲鳴を聞いて、後先考えずに走り出すなど愚か者のすることだ。
 まず何よりも優先すべきは自分の命。次に自分の持つ物資。その次に余裕があれば他人の安否……ダンジョンにおける優先順位とはそう言うものだ。
「って、考えてる場合じゃねぇな」
 ここで二の足を踏むようでは、何をしに駅に訪れたのか分からない。
 幸いなことに、有効なスキルは多く有しているのだ。臆していては、イフタフや、他の遭難者が“可哀そうな目”に逢うかもしれない。
 迷っていたのは、ほんの一瞬。
 悲鳴の聴こえた方向へ向け、牡丹は全速力で駆けていく。

 両の腕に鋭い爪を備えた人影。
 壁から滲むように姿を現して、あっという間にそれはペッカートと雄斗の間を通過した。下半身はまるで床に伸びる影そのもの。
 コツ、コツと爪の先で床を叩きながら、滑るようにそれは走った。
「うぉっ!?」
「いっ……っ!!」
 鋭い爪が、ペッカートの肩と、雄斗の脚を斬り裂いた。
 その瞬間を、牡丹は確かに視認した。
 だが、影の狙いは2人ではない。咄嗟に迎撃態勢を整えた2人を無視し、影は再び、滲むようにして床の中へと姿を消した。
「もういねぇ! 狙いはたぶん、あんた等じゃねぇよ!」
 影が姿を消したなら、2人が足を止める時間はまったくもって無駄になる。
 2人の前方、廊下の奥を走る人影を指さして牡丹は叫んだ。
 人影の数は2つ。
 イフタフとユイユだ。
 影の狙いは、どうやらそっちのようである。

 まるで鼠みたいじゃないか。
 廊下を走る影を見て、ソアはにんまりと微笑んだ。
「んふー」
 爪が伸びる。
 爪の先で自分の顎を何度か掻いて、両の手と足で床を掴んだ。
 すばしっこい獲物だ。あれがダンジョンウォーカーだろう。
 見たところ、それなりに鋭い爪も有している。
「ボクの爪ほど鋭くは無さそうだけど」
 それでも、ダンジョンウォーカーが手応えのある獲物であることは間違いないだろう。
 
 ソアは疾走を開始する。
 時折、薄明りの中にダンジョンウォーカーの影が一瞬だけ覗く。
 一瞬でも姿を視認できるのなら、ソアの瞳が、狩人たる獣の瞳が、それを見逃すことは無い。
 ただ1つ、問題があるとするならば……。
「また、曲がり角……っ!」
 複雑に入り組み、曲がりくねった駅の通路や階段の構造そのものだ。
 曲がり角に差し掛かる度に、ソアの速度は僅かに落ちる。急制動をかけて、方向転換をしなければいけない。
 その度に、少しだが走る速度が落ちるのだ。

『ユイユさん! 何か無いんっすか! 便利なアイテムとか!』
『残念だけど、そう言うタイプの狸じゃないんだよ、ボクは! 氷砂糖ならあるけど!?』
『今はいらないっす!』

 イフタフとユイユの声が遠ざかる。
 どうやら2人は、階段を降りて行ったらしい。
「もう、狙うのならボクを狙ってくれればいいのに!」
 口から文句が突いて出た。
 文句を言ったところで、何かが変わるわけでも無いが。
 舌打ちを零す。
 遠ざかる2人の声を追いかけて、ソアは走る速度を上げた。

●駅とは便利なものでなくてはいけない
「そこ、飛び降りて線路に降りろ!」
 牡丹の叫ぶ声がする。
 その指示に従って、ペッカートと雄斗はフェンスを乗り越え、1階下の線路へ跳んだ。
「次は……」
 視界を巡らす。
 ダンジョンウォーカーやイフタフたちの位置は正しく把握している。
 その後を、ソアが追いかけているのも見た。
 曲がり角の多い通路じゃ、ソアはダンジョンウォーカーに追いつけないだろう。
「あぁ……ったく。ごちゃごちゃと増改築を繰り返した結果がこの有様だ」
 エスカレーターを駆け下りながら、頭の中に駅の地図を思い浮かべた。
「防火扉を降ろせ! 進路を限定する!」
 
 複雑な造りの駅内を、好き勝手に走り回られたんじゃたまらない。
 牡丹の叫ぶ声を聞き、雄斗とペッカートは即座に行動を開始した。
「やっぱ、荒事になんのかよ」
 まず動いたのはペッカート。
 腰を落として、両の腕を振り抜いた。
 放たれた不可視の刃が、床や壁を傷つけながら飛んでいく。天井に埋め込まれていた火災報知器を刃が抉ると、けたたましい火災ベルが鳴り響く。
 スプリンクラーが作動し、防火扉が降り始めた。
 これで、幾つかの通路が封鎖されることだろう。
「雄斗!」
「あぁ! 2人とも、こっちへ!」
 両手に剣を構えた雄斗が疾走を開始。
 降りて来る防火扉を片手で押さえ、イフタフとユイユを呼んだ。
「助かったっす!」
「まだ助かってないんじゃないの!?」
 体力の限界なのか、イフタフの足取りは覚束ない。
 イフタフの手を引き摺りながら、ユイユは走る速度を上げた。だが、雄斗の声に気が付いたのは、イフタフとユイユだけじゃない。
 2人の背後に、ダンジョンウォーカーが現れた。
 爪を備えた長い腕が閃いて、壁や床を傷つける。その爪がイフタフの背中を切り裂く寸前に、2人は頭から床に飛び込んだ。
 ヘッドスライディングの要領で、ユイユとイフタフが床を滑る。
 2人が防火扉の下を通過するのを確認し、雄斗は扉を支える手を降ろした。
 シャッターが閉まる。
 2人を追って、影の腕が床を這う。
「これで、もう大丈夫!」
 雄斗が剣を薙ぎ払う。
 影の腕は、肘の辺りで裁ち斬られ溶けるように消えていった。

 片腕を失ったダンジョンウォーカーが、耳障りな絶叫をあげた。
 だが、それも一瞬のこと。
 防火扉など、ダンジョンウォーカーの前では何の障害にもならない。壁や扉に潜り込み、駅の中を自由気ままに移動する。
 そう言う性質を持つ夜妖なのだ。
 ダンジョンウォーカーにとって、再現性渋谷駅は自分の庭のようなものだ。
 けれど、しかし……。
「やっと追いついたよ」
 空気の爆ぜる音がした。
 暗い廊下に紫電が迸る。
 否、それは稲妻を纏う1匹の獣。
「追い込み猟ってこんな感じなのかな?」
 姿勢を低くし、床を四肢で掻くようにしてソアが走る。
 十数メートルの距離を一瞬で0にし、鋭い爪を振り抜いた。
 回避も、防御も間に合わない。
 獣の狩りとはそういうものだ。
 一瞬で距離を詰め、一撃で獲物の息の根を止める。
 苦しむ間は与えない。
 荒々しく、けれど、果てしなく慈悲深い。
 喉を裂かれたダンジョンウォーカーは、悲鳴を上げることも無いまま、霞と化して消え去った。

 床に転がったまま、イフタフとユイユは荒い呼吸を繰り返していた。
 迷って、逃げて、走り回って、どうやら2人は助かったらしい。
 夜妖が消え去った以上、再現性渋谷駅からもすぐに脱出できるだろう。
「もう、駅で暮らす方法とか考えなくていいんっすね」
「食べ物の調達とか、大変そうだもんね」
 溜め息を零したのは同時。
 ぐったりとしているユイユの前に、イフタフの手が差し出された。
「? ……あぁ」
 その手の上に、ユイユは氷砂糖を置いた。
「あ”ー……カロリーが、五臓六腑に染みわたるっす」
「甘味って、人生をちょっと豊かにするよね」
 なんて。
 どうでもいいような言葉を交わして、2人はゆっくり目を閉じた。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

お疲れ様です。
無事に再現性渋谷ダンジョンからの脱出に成功しました。
おめでとうございます!

駅で迷うと「ここで俺は死ぬんだな」って気持ちになりますよね。

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