PandoraPartyProject

シナリオ詳細

海上の大捕物

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 夜。
 月明かりが照らす時間帯に、凪の海を一望する場所があった。
 潮の香りを感じながら飲食を楽しむ。そういうコンセプトのレストランだ。
 海側に面した一辺を、床を高く上げたウッドデッキに設計し、そこで過ごす一時を贅沢なものにしている。
 そしてそこに、一人の男がいた。
 腰高の柵に体重を預け、アルコールを満たしたグラスを片手に海を眺める男だ。
 お洒落な場に似合わない、白シャツに短パンというラフすぎる格好に、その周りに近づこうという物好きはいない。
「……相変わらず頭のイカれた服装だな」
 いや、一人いた。
 白い衣装に身を包み、白いマリンキャップを被った男だ。
 片手には麦色をした酒のグラスを持ち、柵にもたれる男の隣まで歩いてそれを飲む。
「おめぇこそ、こんな場所でまでお堅いねぇ。見ろよ、そのせいでだぁーれも近づきゃしねぇ」
「お前のせいだ阿呆」
 自覚が無いのかわざとなのか。
 そんな態度に深く溜め息を吐いた男は顔を向ける。
「お前、いい加減海賊辞めたらどうだ。わかっているだろうが、もうすぐ一斉検挙の為に艦隊が出るぞ。そうなったら……」
 小さな海賊なら全滅、そうでなくても多大な損害が出る。
「お互いに、な」
「お前の弱小団じゃ踏み潰されて終わりだ。いくらお前の流儀が人を殺めない、まだ良識ある方だと言ってもだ。軍はそんなの一ミリたりとも加味しないぞ。だから、」
 だからその前に。
 と、続くはずの言葉を海賊は手で遮る。
「海賊に良識も何もねぇよ、問答無用で俺たちゃ悪だ。そうあるべきだろ?」
「しかし!」
「はっはっは! あいっかわらずお堅い奴だなぁ? そんなに止めたきゃどうすりゃいいか……わかってんだろ?」
 押し黙る二人の間に、湿った空気が流れる。
 風だ。
 凪の時間は終わり、少しずつ、風の勢いが増していく。
「……じゃあな。また海の上で会おうぜ」
 先に動いたのは海賊だ。
 片手を軽くあげて立ち去る背中は、振り返ることはなく遠くなる。
 対して見送る海軍は、それを最後まで見ることはできなかった。
 俯いて地面に落ちた視線は、悲しそうに、ただゆっくりと閉じられていった。


 ギルド、ローレットは、一人の依頼人を迎えていた。
 海洋の海からやってきたその人は、白い衣装に身を包み、揃えた足から頭の先まで直立不動の姿勢を見せる。
 そうして腰から45度に上体を折り、キレのいいお辞儀を見せた後、静かに口を開いた。
「お初にお目にかかります。私、海洋の海の警備を任せられた者であります」
 要は、海軍の人と言うことだ。
 そんな人間がどんな依頼を持ってきたのかと言うと、
「力を貸していただきたい。海を荒らす、海賊を捕らえる為に」
 戦力の調達だった。
 陸地が他の国に比べて少なく、代わりに海に恵まれた海洋という国。山賊、盗賊の代わりに増えたのが海賊だ。
 輸送船を襲い、小さな島を我が物顔で乗り付ける、荒くれもの達。
 それを、今回捕まえたいというのだ。
「少し、大変な仕事になる」
 と、前置きを挟んで一息。
「まず今回の作戦は、海の上で行うことになる。大雑把な流れは、海を行く海賊船に近づいて乗り込み、乗組員を全員生け捕る、ことになる」
 説明口調で言いきった海軍に、しかしイレギュラーズとしては確認事項がある。
 それは。
「生け捕り、か?」
 殺してはいけないということ。
「およそ乗組員は15人ほどだと思われるが、そうだ。誰一人として、死なせたくはないと考えている。犯罪者とはいえ、海に生きるとはいえ、犯罪者は陸の上で正しく裁かれるべきだ」
 生真面目すぎる考え方だ。
 それだけが理由、とは思えないが、しかし、依頼人からの要望ならば、それに応える。
 それがギルドの方針だ。
「海賊船に接近するときも、相手からの大砲が飛んでくるだろう。が、先の通り死者を出したくないこちらとしては、反撃を控えたい」
 つまり近づくまで、砲弾の対処も必要というのだ。
「よろしく頼む。この通りだ」
 深く、深く頭を下げる海軍の男に、イレギュラーズは一つ頷いた。

GMコメント

 ユズキです。
 海上戦からの白兵戦な依頼です。
 暴れましょう。

●依頼達成条件
 海賊15人の捕縛。

●現場
 海軍船から海賊船に乗り込むまでの移動と、海賊船に乗り込んで戦うという変移する現場です。

●移動中
 海賊船から飛んでくる大砲の攻撃を、イレギュラーズの皆さんが撃ち落とす、演出力の強い時間です。
 砲弾は鉄の塊であり、着弾しても爆発はしません。
 斬るなり打つなり撃つなりしてかっこよく近づければと思います。

●白兵戦
 乗り込んでから本番です。
 屈強な船乗りとはいえ、一般人より強い、程度の海賊達と戦います。
 ただし船長、副船長の強さは油断ならないものだと思ってください。
 全員合わせて15人です。

●海賊の能力について
 至・近・中・遠・超遠、全てのレンジに対応した物理単体攻撃を全員出来ます。
 武器として拳、サーベル、ライフルです。特殊なBSを付与したり等はしませんし、回復もしないでしょう。

 船長が一人、副船長が二人います。
 この三人だけ実力が高いです。


 以上となります。
 皆さんの参加をお待ちしておりますね。

  • 海上の大捕物完了
  • GM名ユズキ
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2018年10月26日 22時45分
  • 参加人数8/8人
  • 相談5日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

如月 ユウ(p3p000205)
浄謐たるセルリアン・ブルー
セララ(p3p000273)
魔法騎士
ティア・マヤ・ラグレン(p3p000593)
穢翼の死神
冬葵 D 悠凪(p3p000885)
氷晶の盾
セシリア・アーデット(p3p002242)
治癒士
藤野 蛍(p3p003861)
比翼連理・護
ルチアーノ・グレコ(p3p004260)
Calm Bringer
小平・藤次郎(p3p006141)
人斬りの鬼

リプレイ


 海を行く船が一隻。
 風を受けた帆が曲線に広がり、加速を持って波を割る。
「ねーねーなんで殺しちゃダメなの? なにか理由があるの? 個人的事情なの?」
 操舵を預かるのは、なんと依頼人だ。
 それ以外の船員は最低限、そしてその他には八人のイレギュラーズ。
 その内の一人、『魔法騎士』セララ(p3p000273)が依頼人にしつこく食い下がる。
 それというのも、退治ではなく生け捕り。殺してはいけないという条件が、こういった手合いの依頼にしては珍しいからだ。
「……」
 だが彼が口を開くことはない。ただ一言、出航時に「仕事中の私語はしない主義」と言っただけだ。
 それで引き下がらないセララがなおも食いつき、あれこれと質問攻めにする。
「やー、食い下がるねー」
 操舵室の外、壁を背にして座る『メルティビター』ルチアーノ・グレコ(p3p004260)が漏れ聞こえる声に苦笑いを漏らした。
 色々、事情があるのだろうと、心の中でそう推察する。ただ、
「二人は友人同士、なのかな……?」
 そうであるなら、悲しいことだと思う。
 道を違え、互いに背を向けて歩む結果の敵対なら、辛いだろう、と。
「流儀があって海賊をしている人、それしかないからかいをしている人と、様々な事情でそう名乗る人たちを見たことがあります」
 静かに『氷晶の盾』冬葵 D 悠凪(p3p000885)は空をあおぎ見る。
 今回は、どうだろう。
 どうやら彼らは、殺人行為をする様な海賊ではないようだけど、と。
 思い、しかし。
「だからといって、許されるというものでもありません」
 迷惑を掛けているのは事実なのだから、と、そうも思う。
「……生け捕りでよかった」
 隣で行儀よく座る『ペリドット・グリーンの決意』藤野 蛍(p3p003861)は言う。
 あれこれと事情はともかく、今回は血生臭いのは無しだ。
 何か死なせたくない理由もあるだろうし、なにより蛍自身、殺人を好ましく思っていない節がある。
「出来るなら、それがいいよね」
 争いと無縁の平和な世界。それが蛍の過ごしていた日常だったのだ。
 混沌に来たからと言って、すぐ馴染めるはずもなく。
「ま、オイタが過ぎた連中はしょっぴかんとのう!」
 ケラケラと豪快に『喧嘩渡世』小平・藤次郎(p3p006141)は笑ってキセルを出し、
「おっと」
 蛍の前だからと自重した。
 それにはありがとうと礼をして、目を閉じた蛍は、
「……上手く行くと、いいけれど」
 暗くなった瞼の向こうに、飛ばしたファミリアーの映像を見ながらそう思った。

 行く船の舳先、水平線の向こうに小さな船影を見る『浄謐たるセルリアン・ブルー』如月 ユウ(p3p000205)は、小さな溜め息を吐いていた。
「……難しい注文だわ」
 ただ倒せばいいだけの戦闘とは違い、今から行うのは生け捕りと言う手加減前提の戦いだ。
 それだけ、慎重にならざるを得ないのは、難易度を跳ね上げる要因だろう。
「その分みんなを危険に晒すかもだしね」
 そんな心配を悟ったのか、『治癒士』セシリア・アーデット(p3p002242)が言葉を繋げてユウに近づいた。
 隣にいる『穢翼の黒騎士』ティア・マヤ・ラグレン(p3p000593)と連れ立って来たセシリアは、振り向いたユウに片手を上げて挨拶とし、
「うん、けどまあ、その分私が頑張って回復をするからさ! 皆無事に帰れるように、全力で!」
 そう言って笑顔を見せた。
「ユウにセシリアと一緒なら、私も心強いよ」
『頼もしい限りだ』
 小さく頷くティアと神様の声を続いて聞けば、ユウの表情も柔らかいものが浮かぶ。
 ふぅ、と、次に吐く息は軽いもので、
「頼りにしてるし、背中は守ってあげる。お手並み、拝見させてもらうわよ」
 鼓舞するような言葉も添えて、三人の結束は強まった。
「ーーそろそろだよ」
 その時、操舵室側から蛍達がやってくる。
 目を開き、感覚の共有よりも生身の行動を優先しているのを見れば、なにがそろそろなのかは予想がつく。
「来たね……!」
 遠く、水平線の彼方だった影も今は大きく。
 空気を震わせる火薬の爆ぜ音と共に、鉄の塊が、空を渡った。


「行くよ、フィールド展開!」
 舳先にトンッと乗ったセララが、薄い光の膜を球体状に広げる。
 条件次第で船へのダメージを向こうか出来るスキルだ。
「よっしゃあ! ワシに、任せぇ!」
 両手に握る斧を縦に振りかぶり、藤次郎が飛んできた砲弾を吹き飛ばす様に打つ。
 それはぶつかる瞬間、鉄をひしゃげるように凹ませ、戻ろうとする反動で跳ねる。
 真下、船の甲板へと、だ。
「……」
 べきゃ。
「……」
 木で出来た床が、砲弾の形に抜けた。
「守れないね! 迎撃ー!」
 ダメじゃん、仕方ない! とセララは舳先を蹴って跳ぶ。
 右にラグナロク、左にライトブリンガーを握って、連続して飛んでくる砲弾を斬りにかかる。
「聖剣に斬れないものは、あんまり無い!」
 縦に裂く。
 半分に割れて左右へ広がる鉄を振り返らずに前を見る。
 光翼を見せるブーツを振り上げ、迫る別の弾を踏みつけ落とすと同時に横に行き、また砲弾を斬り落とす。
「鮮やかだね。いや、スタイリッシュ、かな?」
 カチンと音を立てて、折り畳みのナイフを広げて握るルチアーノは、空を短時間ではあるが自分のモノにしたセララをそう評する。
 とはいえ、短時間、だ。
 直ぐに舳先へ跳び戻れば、再度の跳躍には少しばかり猶予が要る。
 だから、迎撃の手数は必要だ。
「よっ、と」
 軽く跳躍し、舳先より少し下がったヘリに彼は立つ。
 連続する大砲の音に身体を打たれながら、おもむろにナイフを振るう。
 無造作と言える、簡単な所作だった。
 薙ぐ軌跡から、斬撃の閃きが見えなければ、何をしているのか誰も理解できなかっただろう。
 そう、斬撃の遠当てだ。
 砲弾の中心点を抜いた一撃で勢いを無くした塊は、水柱を上げながら落水する。
「よし、ボクも……!」
 蛍の魔導書は開かれる。
 禍々しく黒く、しかし発動する青を混ぜ込んで、一瞬の術式陣を形成。
 放たれる、半球面の衝撃波が、砲弾を空中で破砕した。
「……」
 パタンと閉じる魔導書。
 それを見る蛍の表情はどこか複雑そうに見える。
「まだまだ来るわよ、気を抜かないで」
「あっ、うん……!」
 冷静なユウの声に、蛍は頷く。
「……全く、全部直撃コースね……」
 前方に手をかざす。
 腕から手のひらへと魔力を通し、展開するのは円形の魔術式だ。
 急激に温度を下げるその式から放たれるのは、白く半透明な鎖。
 凍てつく氷で構築されたものだ。
 それを、ユウは横薙ぎに放つ。
 瞬時に凍らされた砲弾は、船にぶつかると同時に粉々になって散る。
「流石だねー、ユウ」
 セシリアの祝福が、ユウの魔力消費を支える。
「でも辿り着く前にすっからかんはまずいからね」
 サポートは大事だ。
 なにせ、撃ち落としの要員が少し心許ない。それに加え、一度オウンゴールの様なダメージも船に負ってしまった。
 生け捕る前に沈められたのでは笑えない。
 だから砲弾の迎撃は少し丁寧に、消費やや多め、ダメージ増しになったのは、仕方の無いことだ。
「……ところで」
 ふと、ティアが気づいた。
 敵船の横合い、右舷側から近づいていくこの船より、どう向こうへ渡るのだろうか。
 そろそろ横付けするようにしないと、ぶつかるのではないか、と。
『うむ、これは当たるな』
「冷静にマズくないかな?」
「いやマズいですよ」
 やけに冷静ですね……。
 とにかく回避を、と悠凪が操舵室を振り返ると同時に、拡声器から聞こえる様な声がする。
『予想より被害があって、あまり小回りが効かない。よって、このまま最速で行く』
 なにやら敵船の方からも声がする。
 途切れ途切れに届く声を要約すると、
「おいマジかよおいおい、死ぬわ」
 だ。
「……おんしゃ正気じゃなかー!?」
 藤次郎の叫びと共に、二つの船は海上でぶつかり合った。


 衝撃の広まりより速く動く者がいる。
「初めのリズムを奪うわ」
 ユウと、それに続くティアだ。
 衝突し、乗り移れる好機に二人は跳ぶ。
 もちろんそれは、他のイレギュラーズも同じだ。
 数の優位を相手が取るなら、こちらは先手で優位を取る。そういう意味合いが強い。
 だが、その流れにしまったと思う者もいる。
 蛍だ。
 揺れる身体を、数度の足踏みでバランスを保った彼女は言う。
「待ってーー」
 ファミリアーの視界で、敵船上を見たからわかる。右舷、その甲板には、
「大砲、撃たれる!」
 数が四門、手押し筒の形のそれが、跳び移っていくイレギュラーズに向けられていた。
「はっはーようこそクソッタレの海賊船へ! 出迎えが荒いのは、勘弁しろよ!」
 響く。鉄を弾き飛ばす火薬の音。
 それらはイレギュラーズを狙う、というよりも、移動先を撃って動きを乱れさせる様な照準だ。
「さて、仕置きの時間じゃ! 全員、お縄につぐはっ」
 藤次郎の腹に砲弾がめりこんだ。
「あ、やべ」
「え、今やべって言った?」
 当たると思わなかったんだもん、と、海賊船の船長らしき人物はゴホンと咳払い。
「オラァ! 海賊舐めるからこうなんだよ!」
「いや、別に舐めてないけど」
 と、クールに一言で切り捨てたユウが魔術を行使する。
 それは、周囲の温度はそのままに、魔力による氷の結晶を生み出す魔術。空間をチラチラと輝き、鋭く肉体を傷つけるモノだ。
 陽の光を乱反射してきらめき、幻想を思わせる事から付いた名を。
「ダイヤモンドダスト」
 と、そう呼んだ。
「海の上で、って、ちょっと不吉だけど」
 うわぁ冷た痛い! いたつめたい!
 と氷に巻かれて騒ぐ海賊達の範囲内へ向けて、ティアが声を作る。
 歌だ。
 一定感覚の音を刻み、乗せた声に魔力が宿る。内容としては、絶望の海に由来したものだ。
「やべぇ……やべぇよ……海こえー……」
 まともにそれを聞いてしまった船員達が、ガクガクと身体を震わせる。
 寒さと痛さと心を打つ不安から来るものだ。
「ふえぇ……あ、まって、みて、お人形だよーうふふ……」
 大の大人がふえぇに次いでお人形さん、は流石に見るにも聞くにも耐えない。
 ひょいっと持ち上げられた人形は、金の髪をした女の子の形で、しかも動き、まばゆく光って。
「うわやべなにこれかわいいーー」
 そして爆裂した。
「いやーかわいいなんて照れるな! 爆発するよー!」
 それはセララの放った魔法のぷちセララ人形だ。
 ぽいぽいっと行くそれらは、ユウとティアに続いて範囲内を爆散。
「ちょ、ちょっと待ってみんな、やりすぎで死んじゃうよ!?」
 藤次郎にヒールを掛けていたセシリアがストップを告げる。
 見た感じ、結構な数の船員が生まれたての仔鹿みたいに震えて立っている。
「……いや君ら容赦無いねー……」
 それを見ていた船長が、どこか呆れた様に感想を呟いていた。


「抑えに出ます」
 ボリボリと頭を掻いた船長が、サーベルを抜いて前に立つ。
 その左右を副船長が立ち、周りに船員をバラけさせる格好だ。
 そうなったら船長と相対すると決めていた悠凪が、一歩を踏んで行く。
 自分自身への守りの強化を付与して、曲刀を抜き、敵へと斬りかかった。
 それに続くルチアーノは、向かって左、副船長をマークしに行く。
「悪いけど、自由にさせる訳にはいかないよ」
 ナイフを逆手にまず、倒れ込む様に身体を落とす。そうして横に振るう斬撃は敵のサーベルに遮られるが、その直後には順手に持ち変えた刃先を思いきり突き出している。
「至近ならナイフが得意なんだ。お付き合い願うよっ」
「いいぜ、来いよ色男」
 サーベルとナイフの斬り結ぶ金属音の中、セララも副船長と戦う。
 鍛えられた肉体から繰り出される、岩の様な拳の一撃。それを彼女は腕で防御する。
「ッ! どんな理由で海賊してるのか、ボクは知らない、けど!」
 吹き飛ぶ身体に追撃の蹴り。それを掻い潜り、
「これだけの強さがあるなら別の選択肢だって選べる筈だよ!」
 背中を二つの剣で十字に斬り付け、投降を呼び掛ける。
「それでも選んだのがこれだ」
 答えはNOだ。握り直す拳に、藤次郎が横から向かう。
「一回海にでも叩き落としたら、考えも改まるんじゃなかろうな!」
 戦斧の横振り。ゴウッと音を立てるそれはしかし空振りし、副船長の拳が藤次郎の腹をーー砲弾が一度打った部分を深く抉る。
「グッ、ぅ」
 ガタンと、戦斧が落ちる。いや、手から離したのだ。
 空いた手で副船長の腕を掴み、逆の手を拳として、
「でぇりゃあ!」
 打ち下ろす軌道で顔面にぶちこんだ。
 そうしてそのまま、藤次郎は吸い込まれるように甲板に落ちた。
「ーーユウさん、セシリアさん、お願いします」
 流れがマズい。
 全体を見た蛍の判断はそれだ。
 なにせ、率先して船員を叩く人員がいない。
 いや、居ないわけではないが、手加減をして倒そう、という意思が弱いというべきか。
 それではダメだ。なら、どうするか。
 強敵の抑えをする三人が手隙になるとは思えないし、手加減の手段が無いティアは体力の削り役だ。
 それなら。
「ボクもやります!」
 ヒーラーとして主行動を取る蛍とセシリア、そして得意距離を詰める事になるユウと、手分けするしかない。
 最初の範囲攻撃でかなりの体力が削られているのがかなり幸いした。おかげで、大半の船員を一撃で昏倒させられる。
「きっと、上手く行かせてみせる……誰も死なせないし、仲間を支えてーー」
 次の指示を。思う蛍の視界が急に下がる。
「い、っう……!」
 膝が崩れて落ちている。理解すると同時に、脚が鋭い痛みを訴えていた。
「すまねぇ眼鏡の嬢ちゃん、少し妨害するぜ」
 片手にライフルを構えた船長が、蛍を狙撃したのだ。見れば、悠凪の横を抜けて射線を確保している。
「しまっーー」
 動きの止まった蛍は、後悔を思う間もなく、突撃してきた船員の体当たりで吹き飛ばされた。
 戦況は混戦。無理矢理に奮い立つ蛍が起き上がる頃には、船員は全員倒れ、船長と副船長も虫の息程度の状況だった。
「いやいや青髪の嬢ちゃん、マークがなってねえなぁ」
 それでも態度に余裕を無くさない船長は笑う。
「負け戦も覚悟の上さ、そうだろてめぇら!」
「ーー応ッ」
 倒れた船員も、副船長も、声を上げる。海賊であると決めたから、そこに迷いも後悔も無いと吠える。
「矜持があるのは解るけど、でも、誰も殺さないあなた達なら新しい道を歩めるでしょう?」
「そうだよ、罪を償って全うに生きて欲しい! だってその方が、皆で笑顔になれる筈だよ!」
 ルチアーノの蹴りが、セララの拳が副船長を沈め、そして言う。
 投降しろ、と。
「……わけぇ癖に説教臭くていけねぇや」
 やれやれと、溜め息混じりに天を仰ぐ彼の手から、武器は滑り落ちた。


「はーお疲れ様、大丈夫? 怪我、してない?」
 縄に繋がれた海賊が船を移る最中、セシリアが言う。
「ええ、私は大丈夫、怪我はしてな、ってなに、え、抱きつかないでもらえる!?」
「まあまあちょっと甘えさして!」
 ユウに抱き付き、体重を預けるようにして脱力。そんなどさくさに紛れて、本当に怪我をしていないのかの確認をしつつ、
「ユウってば意外と無茶するんだもの、無理してない? へいき?」
 まああまり人の事言えないけれど、とは心中で呟きつつ。
「お、楽しそう」
 私も、と、ティアが両手を広げて抱き付きに来た。
「ティアまでなに!? あぁ~もう、はぁ……仕方ない、わね……」
「ふふ、まあまあ、折角だから」
「おっ、これは私も負けてられないぞ!」
「なんの勝負なのあなた達……!」
 ワイワイと。
 海賊船を牽引し、港へ帰る船の上、三人の声は弾んでいた。
「……結局、彼らはどうなるんだろう」
 船の檻。海賊達の処遇はそこではわからない。
 ただ静かに海を行き、戻れば然るべき場に連行されるのだろう。
「……やり直せるといいのだけど」
 そう願うイレギュラーズの元に、海賊が禁固の処罰とされた報せが入るのは、今はまだ先の話。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

おつかれさまですユズキです。
船から船へのお話でした。
とてもお疲れ様でした。
また別の依頼で、よろしくお願いします。

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