PandoraPartyProject

シナリオ詳細

ビールの祭典。或いは、さよなら理性…。

完了

参加者 : 5 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●ビールで乾杯!
 喧噪。
 砂浜に大勢の人が集まっている。商人、市民、水夫に貴族、そして海賊やマフィア組織の一員らしき者たちと、人種も職種も一切合切不問。まさに混沌とした人の坩堝である。
 海を背に設置された大きなステージ。
 暗くなると楽団がそこで演奏するのだ。
 奏でられるのは、どこまでも陽気な曲である。例えば、聴けば踊りたくなるような楽曲である。
 ステージの前には雨よけのテントと、ずらりと並んだ幾つもの長テーブル。
 昼も少し過ぎたばかりだというのに、すっかり人で埋め尽くされていた。これが夜になれば、砂浜全域が人で溢れる。
 少なくともエントマ・ヴィーヴィー(p3n000255)の計画ではそうなっていたし、きっとその通りの結果に至るだろうことは明らかだった。
 彼らが何のために砂浜に押し掛けているのか。
 その理由は明らかだ。海岸線に停泊している幾つもの船から香る酒精を求めて彼らは、この砂浜へ訪れたのだ。
 小舟を操る水夫たちや、木の盆を持った海種たちが船から砂浜へと運んでいる黄色く泡立つ酒が彼らの目的だった。
 ビール。
 主に大麦を発酵させることで作る酒である。
 つまり、この砂浜に訪れている者たちは、炭酸の清涼感と、ほのかな苦み、それから泡を愛飲者たちなのだった。

「先日、再現性東京に赴いた際に耳にしたビールの祭典。オクトーバーフェスト。それを海洋でやっちゃうのはどうかな? と、そんなことを思ったんだよね。再現性東京より先にやっちゃえば、こっちが本家ってことになるんじゃないかと思ったんだよね」
 恒例行事の乗っ取り計画であった。
 海岸に並んだ船の1つ。
 運営事務船と呼ばれる船の甲板である。エントマは、彼女が呼び寄せたスタッフたちを前に講釈を垂れていた。砂浜に集まった大勢の人の姿を見れば、エントマの目論見が成功したことは明らかであり、後は大きなトラブルなくイベントを終了させればOK……と、そのような状態であった。
「お子さまたちでも楽しめるようノンアルコールビールも完備! 砂浜には有志達によるソーセージの出店も揃ってる。夜になればもっと多くの人が砂浜に押し寄せる。きっと私は莫大な成功報酬を手に入れることだろうね!」
 どやぁ、と胸を張って叫ぶエントマだが、その頬は少し引き攣っていた。
「トラブルなくね……終わることって、たぶんないんだよね」
 何しろ、提供しているのは酒なのである。
 酒が入ると、人は冷静さを失う。中には理性を失い、虎になる者もいるとエントマは聞いたことがあった。
「虎に暴れられると怖いじゃない? ここは海洋だから鯱になるのかもしれないけど。鯱でも怖いよね、海のギャングだし……本物のギャングもいるし」
 エントマの計画は成功した。
 成功し過ぎたと言ってもいい。まさか、海賊やギャング、マフィアの類まで大勢でやって来るとは思っていなかったのである。
 これはもう、トラブルの予感がする。
 多少のトラブルは仕方ないにせよ、なにかボタンの掛け違いがあれば人死にが出る可能性がある。
 そこで、呼び集められたのがイレギュラーズだ。
 エントマはイレギュラーズのことを、何でもできる便利屋集団であるかのように思っている節があった。
 と、それはともかく……。
「出来るだけ平和に! なるべく怪我人を出さず! そしてビールに理性を奪われることなく!」
 握った拳を振り下ろす。
 力強く、咆哮するようにエントマは言った。
「ビールの祭典を成功させるよ!」

GMコメント

●ミッション
ビールの祭典を大事なく終わらせる

●ビール
主に大麦を原材料とした酒。
炭酸の清涼感、ほのかな苦み、口触りのいい泡が特徴。
再現性東京では「とりあえずビール」という何かの呪文があるらしいが詳細は不明である。
酒は飲めども飲まれるな。
※未成年の飲酒は禁止されています。ノンアルコールビールをお楽しみください。

●フィールド
海洋のとある白い砂浜。
現在時刻は夕方ごろ。夜が深くなるにつれて、砂浜には人が増えて来ることが予想される。
海岸線に設置されたステージと、ステージ前のテーブル席が会場の中心となる。
ソーセージや空揚げ、フライドポテトなどを提供する露店が並んでいる。

商人、市民、水夫に貴族、旅人、観光客、そして海賊やマフィア組織など大勢の客がいる。


動機
当シナリオにおけるキャラクターの動機や意気込みを、以下のうち近いものからお選び下さい。

【1】エントマに雇われた
エントマに雇われました。スタッフ側です。

【2】ビールを飲みに来た
ビールを飲みに来ました。客側です。

【3】金の匂いを嗅ぎつけた
商売をしに来ました。協賛企業です。


喧噪の宴
ビールの祭典で、何らかのトラブルに巻き込まれます。トラブルに巻き込まれないと言う選択肢はありません。

【1】喧嘩に巻き込まれる
酔っ払い同士の喧嘩に巻き込まれます。あなた自身が酔っ払っている可能性もあります。

【2】酔っ払いに絡まれる
酔っ払いに絡まれます。見知らぬ誰かにいきなり肩を組まれるかもしれませんし、ステージに引っ張り上げられるかもしれません。運がよければソーセージを奢ってもらえます。

【3】犯罪行為を目撃する
人が多く集まる場所では、何らかの犯罪行為が発生しやすくなります。あなたは偶然にも犯罪行為の現場に居合わせました。また、あなた自身が被害者側である可能性もあります。

  • ビールの祭典。或いは、さよなら理性…。完了
  • GM名病み月
  • 種別 通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2023年10月04日 22時05分
  • 参加人数5/7人
  • 相談0日
  • 参加費100RC

参加者 : 5 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(5人)

バクルド・アルティア・ホルスウィング(p3p001219)
終わらない途
ペッカート・D・パッツィーア(p3p005201)
極夜
トキノエ(p3p009181)
恨み辛みも肴にかえて
宇賀野 穣(p3p010166)
心霊写真家
レイン・レイン(p3p010586)
玉響

リプレイ

●ビールは浴びるもんじゃねぇ、飲むもんだ
 海がビールになったみたいだ。
 そう思えるほどの熱気と酒精に、頭が少しくらくらしていた。
 船から砂浜へ、次々とビールを運ぶ海種たち。
 受け取ったビールを、早速とばかりに一気に飲み干す海洋ギャング。
 スタッフを捕まえてビールの入手経路を聞き出そうとしている商人風の女もいる。
 そんな雑多で、騒がしい人々の姿を写真に撮った。
 1枚だけじゃ終わらない。
 2枚、3枚、4枚……数えきれないぐらいに何枚も写真に撮った。
 とくに、ビールを樽から直接飲んでいるパンダなど再現性東京ではまずお目にかかれない。そもそもパンダを見る機会が少ないのだ。本物のパンダなんて再現性上野動物園ぐらいにしかいない。
 それを撮影できただけでも、わざわざ海洋にまで足を運んだ甲斐があったというものだ。
「いやぁ、いい写真が撮れたねぇ。ビールも美味いし、仕事で来たのか遊びに来たのか、分かんなくなっちゃうよね~」
 にへら、と締まりの無い顔をして『心霊写真家』宇賀野 穣(p3p010166)は撮った写真を撮影する。何しろ被写体たちは好き勝手に動き回って、ビールをかっ喰らっているわけで、当然、プロのモデルを撮るようにブレない写真は撮影できていないのだ。
「うん? それは写真か? 私を写真に撮っているのか?」
 カメラに視線を落とす穣の頭の上から、女の声が降って来た。
 見上げるとそこには、樽を抱えたパンダが1匹。近くで見れば随分とでかいし、腕や脚も硬く太い筋肉の塊であることが分かる。
 まるでプロレスラーのようだ。
 そう思った。
 そして穣は、至近距離からパンダの顔にレンズを向ける。
「その表情いいね〜! こんな間近でパンダを撮れる機会なんて無いから、おじさん張り切っちゃうよ~!」
 パンダの目というのは、近くで見ると結構怖い。
 その事実を、穣は今日この時、初めて己の実体験として理解した。

 夜の闇に紛れ、ひっそりと海岸に小舟で渡った者たちがいた。
「さぁて、人も増えてきたことだし、ここからは総力戦といこうか」
 1人はエントマ・ヴィーヴィーである。その腕には「私が主催」と書かれた腕章が付けられていた。腕章の文字が示す通り、エントマこそが今回の催しの主催である。
 上手いこと海洋の商人たちを言いくるめ、必要経費は全て他人に出させているが、残念ながら人員ばかりはエントマ自身も少し出す必要があったのである。
「怪我人はダメ……絶対」
「そう! 怪我人なんていないにこしたことないの!」
「となると、当然死人もダメだよなぁ?」
「駄目に決まってんでしょ!」
 エントマの用意した人員であるところの『玉響』レイン・レイン(p3p010586)と『極夜』ペッカート・D・パッツィーア(p3p005201)は、つまり警備や救護のためのスタッフであった。
 腕の腕章を引き上げて、唇をきゅっときつく結んだ3人は肩で風を切り、喧噪の砂浜へ足を踏み入れる。
「酒は飲んでも飲まれるなって言葉を知らねぇのか? あ“ぁ”? 好き勝手暴れやがって、このすっとこどっこい!」
 早速、誰かが喧嘩をしている。
誰かと言うか、それは『恨み辛みも肴にかえて』トキノエ(p3p009181)であった。
「あれも止めんのか? 骨、折れるぞ?」
 精神的疲労の話ではなく、文字通り。
 呆れたような顔をして、ペッカートはそう問うた。
 エントマは額に汗を滲ませ、すいっと視線をトキノエから逸らす。
「放置してていいんじゃないかな?」
 トキノエが大怪我をすることは無いだろうから。
 喧嘩している相手の方が、どうなるかは知らないけれど。

 喧噪というのは肴になるのだ。
 少なくとも、『蛇喰らい』バクルド・アルティア・ホルスウィング(p3p001219)はそのように思っていた。
 光の当たるところを背中に、暗い暗い海を眺めて、背後から聞こえる喧噪と、眼前の波のさざめきに耳を傾けて、クラフトビールの瓶を傾け酒精を煽る。
 そのような時間が、バクルドは嫌いでは無かった。
「静かに酒を飲んでいたいだけなんだがなぁ」
 空になった酒瓶を砂浜に置いて、バクルドはそう呟いた。
 酒に酔ったバクルドに目に映るのは、数人の若い男たちである。港に住む若者か、それとも海洋ギャングの下っ端か。少なくとも、わざわざ明るい場所を離れて、暗がりへ足を運ぶ類の危機感の足りない連中であることは明白であった。
 若者たちは、にやにやとした嫌な笑みを顔に貼り付け、バクルドの方に近づいて来る。
「おいおい、おっさん浮浪者か?」
「こんなところで何してんだ? 一人でチビチビ酒を飲むのは楽しいかい?」
 嘲笑混じりの言葉が投げつけられる。
 はぁ、とバクルドは溜め息を零した。
 喧噪は肴になるが、何も自分が喧噪の中心になりたいわけではないからだ。
「兄ちゃんたち、悪いこたぁ言わねぇから、さっさと明るいところへ帰んな」
 鬱陶しそうな声音であった。
 そして、その言葉が最後通告であることに若者たちは気づけなかった。

●実際どう? ビールが美味しいのってひと口目だけじゃない?
 地面に伏した男が5人。
 バクルドに絡んだ若者たちだ。
「妙な酔い方してると思ったが……なんだ、こりゃ?」
 髪を濡らすビールを片手で拭いながら、バクルドは足元に転がる小さな瓶を拾い上げる。髪がビールで濡れているのは、調子に乗った若者たちがバクルドの頭にビールをかけたからである。
 ウザイ絡み方をしてくる程度なら、見逃してやっても良かったのだが、悲しいかなビールを頭にかけるという行為は明確な敵対行為、挑発、侮辱の類である。
 若気の至りと見逃してやるには、彼らは調子に乗り過ぎた。
 その結果がこれだ。
 若者たちはせっかく飲んだビールを全部吐き出して、白目を剥いて塩辛い砂を舐める羽目になっている。
「薬……には、違いねぇんだろうが」
 小瓶の中身は、白い錠剤である。それを1つ取り出して口に含む。
 少しだけ、錠剤を舌の上で溶かすと、バクルドはすぐにそれを砂浜へ吐き捨てた。
「シャブかよ」
 そう呟いた、その時だ。
 パシャリ、とシャッターを切る音がして、バクルドの全身を光が包む。
「あら~? こりゃちょっと、見ちゃいけないとこ見ちゃったかな?」
 しまった、という顔をしてカメラを構えているのは穣だ。
 穣の視線は、砂浜に転がる若者たちと、錠剤を手にしたバクルドの間を揺れている。穣は焦ったような顔をしているが、その目には好奇心の色がある。
「兄ちゃん、そんなんじゃ長生きできねぇぞ?」
「あははぁ。よく言われるけどね、どっこい悪運だけは強いみたいでさぁ」
 にやけた顔だ。
 気絶した若者たちの顔をカメラで撮りながら、穣はバクルドへ言葉を投げた。
「どうもこの祭りに、妙な連中が紛れ込んでるみたいなんだよねぇ」
 そう言って穣は、胸ポケットから何かを取り出す。
 一枚の小さなメモ紙だ。何やら位置の情報と「×10,000G」などの文字が書き込まれている。それが何かを察したらしく、バクルドは大きなため息を零した。

「あの男は、信用できるのか?」
 そう呟いた1頭のパンダ。
 名をP・P・D・ドロップという旅の武闘家であった。
「さぁな。何かしら動いてくれりゃいいんだが」
 ドロップの問いに答えたのは、顔中に幾つもの傷痕が残る大男。白いスーツを身に纏った、明らかにカタギじゃない容貌の彼の名はルッチという。
 海洋のギャング“ルッチ・ファミリー”の頭目である彼は、とある犯罪組織を追って今回の催しに参加していた。非合法の薬物を、裏で売りさばく下衆どもである。
 なにも正義の心に目覚めたわけではない。
 ルッチの縄張りで、粗末な薬物をばら撒かれるのが鬱陶しいと思っただけだ。
「まぁ、もう一手打っておくさ。俺らが出張らずに済むなら、それが楽でいいからな」
 と、そう言い残して。 
ルッチは救護テントの方へ歩いて行った。

 救護テントは人で溢れかえっていた。
 人とはアルコールが入ると暴れるものである。前後の判断も怪しくなって、勝手気まま、気の向くまま、足りない理性で人に迷惑をかけるものである。
 それゆえ、救護テントは大きなものを用意していた。薬や包帯、簡易ベッドの数も十分に用意していた。
 酒を飲んで暴れる阿保に対処するべく、エントマがあちこち駆けずり回った結果であった。だが、そんなエントマの努力もむなしく、もうじき簡易ベッドが足りなくなりそうだ。
 運び込まれる人がどうにも多いのである。
 酒に酔ってぶっ倒れる者もいるし、喧嘩の果てに怪我をした者もいる。
「いや、まったくもって面目ねぇ。巻き込まれたので仲裁しようとしただけなんだ。だがよぉ、殴られたから殴り返しただけで、そんなに悪いことは……」
「うるせぇ。怪我で済んだから結果オーライってだけで、危うく死人が出るとこだったじゃねぇか」
 ペッカートに怒られているトキノエなどは、まぁ例外として。
 喧嘩に巻き込まれた結果、十数名を殴り倒して救護班の仕事を増やした下手人である。本日、この時に限りエントマ的な法律に置いては極刑も止む無しな極悪人である。
 殴り倒した十数人を、放置せずにテントへ引き摺って来た点だけは評価できるが。
「いや、いっそ海に捨ててくれれば事故ってことで……」
 忙しさが極まっているのだろう。エントマが不穏な言葉を口にした。
 そんな彼女を横目で見やって、ペッカートはトキノエの頭を平手で叩く。
「反省しろよ、ったく」
「あぁ。今は反省している、少しだけ」
 反省している奴の台詞じゃないのだ、それは。
 と、それはともかくとして……。
「BS回復も……お酒に効くかな……」
 泥酔し、前後不覚に陥っている連中の手当をしながらレインは「おや?」と首を傾げた。
 喧嘩で怪我をした程度なら治療も楽だ。
 酔って意識を失った者も、問題は無い。
 だが、時々……ごく一部に、酒の酔いとは別の理由で泡を吹いているものがいる。それがどうにも解せないのである。
「ん……? 毒?」
 泡を吹く者たちを治療しながら、レインは呟く。どうにも、泡を吹いているのは、アルコールではない別の“毒”が原因であるように思われたのである。

「こりゃ薬物だ。祭りの喧噪に紛れて、粗末なブツを売りさばいてる連中がいるんだろうよ」
 そう言ったのは、顔や体に幾つもの傷痕が残る巨躯の偉丈夫である。
 出で立ち、佇まい、顔つき、言動、すべてにおいて彼がカタギで無いことは明白。どうにも海洋のギャングか何かのようである。
「はぁ……なるほど。それは困ったな」
 顎に手を触れ、エントマは思案した。
 それから、チラとレインの方へ視線を向ける。
「皆……楽しめる様に……」
 拳を握って、何かを決意したかのようなことを宣う。
「どうする? うちが出張ってもいいが、アンタんところのシノギなんだろ?」
 ギャングらしき大男は、まるでエントマを試すみたいにそう問うた。エントマが、イベントの主催としてどのように対応するのかを、そうして窺っているようだ。
「どうするも何も、対処しますよ? 情報の提供、ありがとうございます。でも、こっから先はね……ペッカートさん!」
 ここから先は、自分たちの仕事であると。
 エントマは、大男の提案をきっぱりと断った。うっかりギャングやマフィアなんかの手を借りてしまえば、そのままイベントそのものを乗っ取られかねないと思ったからだ。
 そうなれば、エントマにとって大きな損失となるのは明らかだったからだ。
 犯罪組織にケツ持ちを頼むというのは、どうにも避けたいのであった。
「あいよ。っと、トキノエも手ぇ貸せよ」
「あ? 俺ぁ客だぞ? ビール飲みに来ただけだ」
「仕事を増やした責任を取れって話だよ。ビールはその後、好きなだけ飲めばいいだろう」
 ここは任せた、と言い残し。
 トキノエを連れたペッカートは、さっさと何処かへ歩き去って行ったのだった。

 喧噪から遠く離れた暗がりの中、十数人が屯している。
 若者から老人まで、年齢は様々。
 ただし、その顔つきや佇まい、周囲を警戒する仕草などは裏の世界で地面を這いずるように生きる者特有のそれだ。
 少しオドオドとした様子で、男たちの間を2人の若い男が進んで行く。
 一番奥に座った男は、飲んでいたビールを横に置いて、無言で手を差し出した。若者2人は、焦った様子でポケットを漁って数枚の紙幣を掴みだす。
 男は紙幣を確認すると、くいっと部下らしき男へ顎をしゃくった。その合図を受けて、輪を形成する1人が若者たちに近づいていく。
 まるで友人にそうするように、若者たちの肩にぐいっと腕を回すと、胸ポケットに小さな瓶を滑りこませた。
 これで、取引は完了だ。
 そのはずだった。
 けれど、しかし……。
 
 パシャリ

 フラッシュの光が瞬いた。
 男たちの反応は様々だ。驚く者、撮影者を探す者、怯えた様子で顔色を悪くする者もいる。
 都合、28の視線を一身に浴びて、カメラを構えた痩身の影は肩を揺らしたようだった。
「その表情いいね〜! そのまま、自然な感じでよろしくお願いしますよっ」
 穣である。
 違法薬物の取引現場を写真に納めて、穣はさらに言葉を重ねた。
「何しろ、娑婆で撮る最後の写真になるんだからさっ」
 後ろにバクルドが控えているからであろう。
 或いは、少し酔っているのか。
 穣は何やら、少し強気のようである。

●ビールと人生は少し似ている
 ちょっと苦くて、ほろりと酔えて、最後に全部飲み干さなくちゃならない辺りが、特に似ている。
「そこの岩場の影で集まってる奴ら、酔ってそんなところに居たら危ない……ってなんかお取り込み中? キマる怪しい白い粉か?」
 岩の上に立つペッカートが、男たちへ向けそう告げる。
 その手に持った松明に、マッチで炎を灯したのなら、暗がりにいた者たちの顔が一瞬のうちに白日のもとに晒された。
「って、あれ?」
 その中に穣とバクルドの顔を見かけて、ペッカートは目を丸くした。どうにも2人が、違法薬物を買いに来た客のようには見えなかったからである。
「こりゃ、俺の出番はないな。爺は隅でビールでも飲んで見学してるから、さっさと終わらせてくれや」
 ペッカートの腕にある腕章を見て、バクルドは髪を掻き毟る。それからふらふらと輪の中へ入っていくと、呆気にとられている若者の手からビールの瓶を奪った。
「あっ……おい、爺さん。俺のビーるばぁっ!?」
 最後まで台詞を言い終える間も無いままに、若い男は砂の上を転がった。
 その頬を殴り飛ばしたのはトキノエだ。
「っと、手加減を間違えちまったか? どうも、酔いが回ってんな、こりゃ」
 トキノエは、狂暴な獣のような笑みを浮かべている。
 黒い手袋に付着した男の血を拭きとりながら、砂浜を両の脚でしっかり踏み締めた。
「よーし、やっちまえトキノエ! 今日、この場で問題を起こした阿保どもに痛い目みせてやれ!」
 そして、無慈悲な号令がかかる。
 ペッカートによる断罪の言葉。
 違法薬物の売人たちが、砂に塗れて転がるまでにそう長い時間はかからない。

 せっせと。
 せっせ、せっせとレインは酔っ払いの治療に従事している。
 右から運ばれて来た怪我人を治療して、左の簡易ベッドへよいしょと投げ込んで。
 左から運ばれて来た酔っ払いを治療して、砂浜の上に放り投げて。
 マグロか何かのように砂浜でビチビチしている酔っ払いを、引き摺っていってその顔面に冷たい水をぶちまけて。
「これで……よし……」
 酔いを醒まして、眠っていれば目を覚まさせて、救護テントから喧噪の中へ、乾杯の音頭が木霊すビール祭りの会場へと送り返すのだ。
 元気に会場へ戻って行った今の男は、きっとこれから、再びビールを飲むのだろう。
 ともすると、もう何度か救護テントに運び込まれてくるかもしれない。
 酔っ払いは何も学ばないからだ。
 何度も酔って、何度も他人に迷惑をかけるのが酔っ払いと言う生き物だからだ。電柱に喧嘩を売ったことも、車道に寝転がったことも、うっかり路上で嘔吐したことも、誰かに財布を盗まれたことも、何もかもを忘れ去るのが酔っ払いと言う生き物だからだ。
 性質の悪い永久機関のようである。
「酒は飲めども……飲まれるな……」
 そんなレインの、ありがたい言葉も、きっと耳には残っていない。
 ビールが全部、洗い流してしまうからだ。
 後悔も、反省も、何もかもを洗い流す不思議な力が酒にはあるのだ。
「あーもー、忙しい! 酒は節度を保って飲めって教わんなかったの!!」
 エントマが悲鳴を上げている。
 見よ、これが自業自得を体現する者の姿である。

 と、まぁ。
 なにはともあれ。
 酒の飲みすぎには注意しましょうね。
 

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

お疲れ様です。
ビール祭りで死者は出ませんでした。
皆さんの努力の賜物です。

今月末から中洲の方でオクトーバーフェストが始まりますので、お近くへお越しの際はどうぞ足を運ばれてくださいね!

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