シナリオ詳細
<クロトの災禍>終焉の足音
オープニング
●クォ・ヴァディス
広大な砂漠地帯が広がるラサ南部にコンシレラと呼ばれる場所がある。オアシスが点在するコンシレラは覇竜観測所とラサを繋ぐ交易路の役割を持ち、商人たちに新たな販路として注目されている。
しかし終焉(ラスト・ラスト)と呼ばれる『影の領域』が近い事もあり、常に未知の脅威に晒される最前線でもある。
商魂逞しい者たちはそれで馬車を止める事もないが、それは根拠のない勇敢さに後押しされている訳でもない。影の領域のプロフェッショナル、商人たちの言葉を借りるならば奇特な者たちが動きを探っているのだ。
終焉の監視者クォ・ヴァディス。それが彼らの名であり、組織である。彼らを酔狂な者と嘲笑う者もいれば人類の防波堤と崇拝する者もいる。自分の見たものしか信じない性質が見られる商人からすればクォ・ヴァディスは前者で捉えられるが、前金も礼金も無しに魔物から身を守ってくれるのであれば利用させてもらう所だろう。
よって、普段通りにラサで雇った何人かの傭兵で事足りるはずであったが、その酔狂者から嬉しくない知らせが届く事になる。無償で奉仕し続ける団体から連絡が届くのであればそれは良くない方向である事は明らかで、これは商人たちをたいへん不機嫌にさせたが、魔種の伝説が現実的なものとなっている以上は聞き流す訳にもいかないのである。
「ブルック様。影の領域の動きが活発になっています。ラサ、深緑に覇竜に終焉獣が出没する可能性があります」
「それを何とかするのがキミたちの仕事じゃないのかねぇ、全く……。おっとそれ以上は言わなくていいぞ、ここから料金が発生するというのであれば得体の知れないクォ・ヴァディスに渡す金貨など一枚もない。そもそもキミたちは好き好んでこんな事をやっているのだろうからな。しかしまぁ、万全を期すよりほかに道はなくなった訳だ。おいキミ、名前は?」
クォ・ヴァディスの伝令は既にその場を去っていた。必要最低限の事を伝え、商人の面子を度外視して次の一手へと動いている。理解する者が少なくとも、彼らは終焉を覗き続ける強い意志によって忙しなく動くのだ。
「なんと無礼な奴らだ! 伝令風情が忍者のつもりか。あいつめ、終焉獣などサラッと言いおって。端金の駆け出し傭兵程度では太刀打ちできるかも怪しいではないか。ふん……背に腹は代えられないか」
●覇竜へ繋ぐ道
「という訳なんだよ、相変わらずここは暑いね。ここで快適に暮らすなら耐熱アクセサリが必要そうだよ」
『黒猫の』ショウ(p3n000005)はいつもの黒服でラサの直射日光をその身に浴び続けている。急務であるため、情報屋ともども現地に赴いたイレギュラーズは情報を整理する。
終焉(ラスト・ラスト)が動き出すともあれば一大決戦が起きると武者震いする者もいた。。覇竜観測所へ交易品を運ぶ商人の護衛、これだけであれば一般的なラサからの依頼と言えるが今回はその積荷を狙う悪党が終焉獣と言う事だ。ショウの独特な言い回しを除外すれば積荷を狙っている訳ではないが、ともあれ相手は終焉より姿を現したモンスターとなる。
「まだそんなに激しく動いてはいないけどね。悪の本拠地がこんなに単純な嫌がらせをしてくるとも思わないだろう? 敵の狙いは置いといて、終焉獣となれば注意が必要だ」
ショウが終焉獣(ラグナヴァイス)についておさらいをする。既に対峙した者もいれば別方面の任務に従事し顔を合わせる事もなかった者もいるだろう。終焉獣とは滅びのアークそのもので作られた獣、としか言い様が無く敵を知る情報としては頼りないものだ。性質や強さもまちまちながら、決して油断の出来ない強敵と捉えるよりない。
「オレもできるだけ情報は集めているけど、終焉獣に関しては戦いながら能力を見極めるしかないだろうね。前の終焉獣には効果的だった、このタイプはこうすれば良いと思い込むのは命取りだよ」
ショウがたまらず日陰へと避難する。照り付ける太陽からの逃避である事は見て取れたが、ポーカーフェイスを気取るその男は勿体ぶって依頼について説明を続ける。
「敵の狙いが見えるまで、せめて落ち着くまで待てば良いと思うんだけど、商人ってのはフィジカルが強いよね。覇竜観測所に物資を届けて亜竜種の暮らしをサポートしたいとか言ってるけど目が金貨になっていたよ。どうしても様子見をしてくれるつもりはないらしい、キミたちは護衛しながら終焉獣と戦うという全容さ」
世話が焼けるものだ。これが盗賊の類であれば、逆上こそ考えられるものの開口一番に商人が殺される事もないだろう。しかしモンスターが相手であれば交渉や、その暴力性をコントロールする事は不可能に近い。終焉獣となれば尚更の事だ。
「恐らく今回の敵はサンドワーム型、砂漠の中をウネウネと進んで飛び出してくる大きなミミズとイメージしてくれれば大丈夫だよ。商人が雇った傭兵もいるだろうけど、キミたちに作戦は一任されると思う。それと、さっきも言ったかもしれないけど急な仕事だから、時間には気を付けてくれ」
- <クロトの災禍>終焉の足音完了
- GM名星乃らいと
- 種別通常
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2023年09月29日 22時05分
- 参加人数8/8人
- 相談5日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
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参加者一覧(8人)
リプレイ
●ロードトリップ
「ラグナヴァイスも砂漠には砂漠に適応して生まれて来るんだからヤッカイだよね! 戦いガイはあるんだけれどさ!」
『黒撃』イグナート・エゴロヴィチ・レスキン(p3p002377)が指の骨を鳴らし、待ち受ける困難に歓喜した。彼らイレギュラーズを雇った商人ブルックは既に支出を計算しているのか、不機嫌な表情をしている。
「傭兵ってのは最初だけ威勢が良いものだからねぇ、イグナートくんだっけ? 鉄騎種らしい働きを頼むよ」
「ワタシも頑張るから……この依頼が無事完遂出来たらブルックさん何かおまけしてねえ……!」
イグナートはブルックのねちねちとした対応を全く気にしていなかったが、『星月を掬うひと』フラーゴラ・トラモント(p3p008825)が雰囲気を悪くしないよう、フォローするように割って入った。
「出来たら、じゃないんだよね。完遂するんだよ、キミ。ほら持ち場にもどれもどれ」
商人の馬車にドレイク・チャリオッツが並走する。飼い慣らされた亜竜というものにも文句を付けるだろうかと『灼けつく太陽』ラダ・ジグリ(p3p000271)は思ったが、すんなりと提案は受け入れられた。的は多い方が良いのだろう、最悪の場合これを囮にしてでもブルックは仕事をやり遂げるつもりだ。彼の隠す気もない利己的な商人魂はある意味で好ましい、ラダは商人のよしみを感じている。
「少々癖のある御仁だが、な」
「癖に足が生えて歩いてるような奴だろ、ぶん殴る寸前だったぞ俺は」
『駆ける黒影』ルナ・ファ・ディール(p3p009526)は心の底からそう思っているらしく、ブルックに聞こえても構わない声量でラダと話す。不真面目な態度を取っているが、外套に水袋などの準備物と進行形で行われている索敵が彼を物語っていた。
「はっ、ガミガミうるさいケチンボだが、オレ達を雇ったことは評価してやるよ」
ドレイク・チャリオッツにはラダを除いて危なっかしい面々が搭乗している。特に取り決めがあった訳では無いが、ルナや『巨星の娘』紅花 牡丹(p3p010983)がブルックの側にいた場合、フラーゴラは胃を痛めていたかもしれない。
「う、うおおお! イズマさんじゃないですか、おれイズマさんのファンなんですよ! そりゃこっちの方じゃジグリ商会が人気っすけどね! ラダさんもすげーっすけど、イズマさんのこう、戦い方ってのがおれの」
「あぁ、わかったわかった。ラースローさんもよろしく。ブルックさんを守り切ってからまた話そう」
『青き鋼の音色』イズマ・トーティス(p3p009471)が傭兵に絡まれている。話にあがったラダやイズマ以外にもレジェンドたる面々に突然囲まれた新米剣士の興奮は計り知れない。しかしラースローも強大な敵との戦いに緊張と不安で一杯だった。イズマの柔和な対応でラースローは気持ちがほぐれたのだろう、大型犬のように懐かれている。
ブルックが特に怪訝な顔を見せたのは 『半透明の人魚』ノリア・ソーリア(p3p000062)だ。熟練のイレギュラーズである事はイレギュラーズマニアのラースローのお墨付きなのだが、ブルックからすると干上がりにきた魚にしか見えない。勿論、海種というものやノリアというイレギュラーズについてブルックに知識がなかった訳ではないが、彼女はいざ目の当たりにするとやはり灼熱の太陽が照り付けるラサに似つかわしくない白さをしていた。
「大蛇が わたしたちを おそうのは なわばりのためと 餌のため いったい どちらなのでしょうか?」
なわばりついでに食われそうなムードがゼラチン質のしっぽから漂っていたが、流石にそれを指摘するものはいなかった。
「ここから先は儲けか損か以上に、生きるか死ぬかの賭けになるわよ。勿論、あなたが死神のカードを引かないように努力はするわ。それでも万が一、死神を引くかもしれないという可能性だけは覚えておいて」
『Joker』城火 綾花(p3p007140)がトランプを用いてブルックに心構えを問う。ブルックはというと、ギャンブルに忌避感があるようで 綾花の忠告に耳を傾けようとはしなかった。
「お前たちが死神にやられている間に私は逃げるからな。人の心配より自分の心配をしておきたまえ!」
「まぁまぁ、オレは死神とも殴り合えるなら大歓迎だよ」
イグナートはそのような状況になれば喜んで先陣を切り、死神に拳を打ち込むだろう。 綾花はだめだこいつらと早々に頭を切り替える事にした。
●熱砂の戦い
コンシレラを半ばほど進んだ時にイレギュラーズの索敵網に敵が引っかかった。狡猾なワームと言えどイズマにルナ、牡丹の目を掻い潜る事は不可能であった。巨大であるが故に砂地に潜む以外の手を打てないのである。
「はっ、デカブツにしてはよく隠れてる方だけどな。バレバレだってんだ」
「返ってくる音も一つだけ。油断はできないがあの地点に今は集中しておけば良いだろう」
イズマが御者に伝え、ルナにハンドサインを送った。亜竜に先行してもらうのも気が引けるが、それを束ねるは誰よりもラサを知り尽くしているジグリ商会の者だ。確かな信頼のもと大物釣りが始まった。
「さぁお出ましだ! 歓迎してやるよ、ラサ流でな!」
ラダとしても自分の資産をみすみすとやらせはしない。突然の急ブレーキと共に砂地へライフルを撃ち込む。ワームの出現とほぼ同時、わずかにワームの方が速かったが、索敵による優位性がそれを上回った。ワームとしては『確実にこちらを狙っている攻撃』で出鼻を挫かれた形となり、その神速の反応も相まって混乱は大きいだろう。ドレイク・チャリオッツを襲うどころではなく、身をよじって防御反応を見せた。
「あーっ! あーっ!! でっか! みみず!! あーっ!」
フラーゴラがラースローにゆさゆさ揺さぶられている。既に視えていた奇襲だというのにこのヒトはいったい何をこんなにパニックになっているのだろうと不思議に思ったが、揺れる視界がだんだんと鬱陶しくなり、フラーゴラは揺さぶられる勢いのまま頭突きした。
「もう、こんな事してたら潜っちゃった……!」
タンバリンを取り出す。ラースローは自分がタンバリンにされるのかと身構えたが、フラーゴラの狙いは別にあった。シャンシャンと鳴らされるタンバリン、そして大きく息を吸い込む。
「ごっ、ゴラぁ〜〜! アトさあああん……!」
タンバリンと共に大音量でゴラの魂のシャウトが響き渡る。
行動を察せなかったブルックとラースローは絶叫に耳を押さえてのたうち回っているが、それにもう一匹が加わる形で効果が現れた。音で探知しているワームは突然の奇声に腹を立て、地中から再び姿を見せる。アトさんって誰なんだよ、ワームの怒りは計り知れない。
「おうおう、出たり入ったり忙しいヤツだぜ。おっと、舌噛むなよ?」
「あ?」
ブルックが忌々しくフラーゴラを睨んだ時にはルナに掴まれ、驚異的な速度で前線から引き離される。『あ』の一言が戦闘中に発せられたブルックの最後の言葉で、ブルックはそのまま意識を失った。ルナは呆れたが、小うるさい現場監督が気絶した事にほっとする気持ちもあった。
「逃げられても依頼達成とは言えねえだろうし、面倒くせえから潜るんじゃねえぞ!」
牡丹がワームの周りを片翼で変則的に飛び回る。サイズ差で見れば自殺行為のような挑発だが、好機と見た牡丹は迷うことなくそれを実行する。ラダの放った音響弾の効力も残っているようで、牡丹の速さに対して反撃の一手が鈍い事は明らかだった。
「こりゃ三下だぜ、さっさとやっちまおうぜ」
曲芸じみた回避を見せる牡丹からリクエストが入る。
「それじゃ、そろそろオレたちの出番って感じかな?」
「ラースローさんは気絶してるブルックさんを守ってあげてくれ」
憧れのイレギュラーズと共闘できなかった事に少し不満があったが、イズマ直々のオーダーを受けたラースローはまるで彼に仕える騎士のように快諾した。冷静になればいくらイレギュラーズが気にかけてくれるとは言え、あの巨大なワームに立ち向かう事は報酬に見合わないハードな仕事である。
「は、はいマイロード! あの野郎は任せておいてください!」
「誰がマイロードなんだか。ラースローさんが護衛を引き受けてくれる事で俺たちはあいつに集中できるからね。助かるよ」
何も奇声を発しながら猛進せずとも良いのだが、ラースローはまるでブルックが寝かされている場所にモンスターでもいるかのように急ぐ。ルナから見ればあまりにもスローリーな速度だが根性だけは認めよう。
「あー……なぁ、運んでやろうか?」
「結構! マイロードからの使命、この身ひとつで完遂してみせます!」
がんばれ。ルナはひーひーと息を切らし、どたどたと走る騎士モドキの背を見送って戦場へと即座に戻る。
イグナートが鋭い手刀を放つ。気さくな青年はいざ戦いが始まると豹変する。ラダ、牡丹によって作り出された隙を最大限活用する容赦のない一撃がワームの身体を斬り裂き、この生物に必要なものであろう体液を大きく噴出させた。
「うわっ! 効けばモウケと思ってたけどコレは想像以上だよ!」
みちみちに詰まっていたそれが勢い良くイグナートに放たれたが、無駄のない動きで回避する。
「これだけファーストコンタクト、最初の手札をイカサマされたら為す術もないわよね。ディーラーとしては最低だけど、悪く思わないでよね」
綾花が手慰みに使っていた安物のトランプを何気なく引く。JOKERのカード、公正とは言えないがこれも仕事なのだ。綾花はそれにありったけの魔力を込めてワームに『配』る。
質量を無視するかのようにJOKERはワームの身体に風穴を開けた。当たりどころが良ければそのまま千切れ飛んでしまうかのような一撃であった。勿論、至近距離で降り注ぐ体液を避け続けるイグナートにしてはたまったものではないが、この好青年は嫌な顔ひとつせずにそれを捌くだろう。
「さあ おなかに 穴があくほど 空腹になったはず。今こそ わたしを 必要としてるでしょう!」
ノリアが空を飛ぶ。ブルックの意識があったとしてもこの珍妙な珍味が突然に飛行する光景に腰を抜かし、同じような末路を辿ったかもしれない。ともあれ、牡丹にノリアと絡まれ続けるワームは弱肉強食の世界で身体を蹂躙される死骸のようであった。
加えて、ノリアの杖から放たれる熱水がワームの傷口に降り注ぎ、悲鳴にも似た咆哮がコンシレラの砂漠に響き渡る。ブルックさんやラースローのような一般人にはたいへん刺激の強いシーンとなっている。
「それではもう一つ、二つほど大穴を開けさせてもらうとしよう」
イズマが感覚を研ぎ澄ましていく。熱砂の戦場において其処だけが冷気を帯びるような鋭敏さを放ち、敵を討つ行為に最適化されて行く。魔力を消費する過程の踏み倒し、術式を在ったものとして扱う高度なプロセス・スキップ。その集中力が導く結果は殲光砲魔神の連射という途方もないスケールで体現する。
爆音に次ぐ爆音。場所が場所であればその痕跡すら吹き飛ぶであろう魔光線がワームを飲み込む。ワームは比較的硬い部分の外皮で防いだようだが、それでも被害の深刻さは否めない。
「そう簡単に抜かせてもくれない、か」
「イカサマはしてませんからね! あたしの攻撃は運が良かったんですよ、運こそがあたしの実力ですから」
クリティカルな一撃を放った綾花が弁明する。イズマは理解ってるよと微笑んだ。
殲光砲魔神で舞い上がった砂塵が落ち着けばフラーゴラがミニペリオンの群れと共に攻め込んでいる。見た目こそ冗談としか思えないファンシーな状況だが、その一匹一匹が神翼獣ハイペリオンの権能を宿している。この戦場のJOKERはフラーゴラなのかもしれない。
「こんな敵じゃワタシは止まらないよ……!」
ここは彼女にとっての通過点、いかなる障害に邪魔をされようとも彼女を止める事はできない。
「底が知れた、か。これ以上の音響弾は不要だろうな」
ラダが常用の弾丸をKRONOS-Iにリロードする。イグナートの拳、イズマの閃光、ゴラペリオンとコストパフォーマンスに優れた攻撃が続く中で自分だけ高価な弾を消費する事もないのではないかと一瞬考えてラダは苦笑した。商人としての思考は切っても切れないものらしい。
しかし、これは手を抜く訳ではない。音響弾による探りのフェーズを終え、ダメージ・トレードを行うフェーズへと移行した事を意味する。
「手負いの 獅子こそ 危険ですの なればわたしは 獅子に追われる さかな」
「何いってるかわかんねーよ!!」
見ればノリアと牡丹は最初の圧倒的優位から若干引きずり降ろされている。まだこちらに利があるとは言え、終焉獣となればこのまま押し切らせてもくれないようだ。辛抱強く反撃の機会を伺っている。ワームはまだ危険な存在だ。
「楽しそうなパーティーに乗り遅れちまったが、まだ俺のケーキは残ってるのかよ?」
気付けばルナが側に立ち、気怠げにケーキの外皮を指差す。其処に目を凝らせば綾花のカードが刺さり、イズマの閃光が焼き焦がした、最もスウィートなスポットが露出している。ラダとしても弱っている部分を追い打ちする徹底的な損得勘定を行うつもりであったが、これは予想外に大きい利益だ。このお節介な友人のアドバイスを聞き入れるとしよう。
「そろそろお開きのようだ。あれを食べるつもりなら急いだ方が良い」
「けっ」
お断りだとルナは頭をかいた。視界外でラダの発砲音とワームの咆哮が響いたが結果は見ずとも視えている。
「それじゃあ、そろそろ積荷の回収でもしとこうかね?」
余裕の生まれた牡丹が砂地に足をつける。片翼で長時間飛び回ったもので相当に疲弊しているはずだが、彼女は涼しげに言う。青空の下で負ける訳には、無様な姿を◯◯◯◯◯に見せる訳にはいかないのだ。そんな事ではアレが、安心してくたばってもいられないのだから。
「積荷といっても俺が結界を張っておいたから、そう散らかってもいないけどな。アレを積荷と言えばそうなるんだが」
イズマが目線を向けた先を牡丹が追えばブルックが転がっている。
「げっ」
牡丹の『げっ』は置いておくとして、ラースローは珍妙な構えで周囲を軽快している。何も夜襲や数の暴力にさらされている訳でもないのに敏感にきょろきょろと四方八方を警戒するラサの傭兵を見てひとまずイズマは合格点を出した。
「次から次へとコイツに穴が空くね! 爆心地もいいトコだよ!」
ショートレンジで決闘を続けるイグナートが構えを変えた。彼が先程述べたモウケを狙ったものではない、己の技量にて結果を掴み取る真なる攻勢。その荒々しき虎爪の構えから放たれる雷槍の一撃は深々とワームに突き刺さる。無遠慮に、他者の身体へ突き刺す死の一撃。刃物による刺突ですら生ぬるい次なる破壊。雷撃の槍、その先端に集まった気が爆ぜ、二次被害を叩き込む。
「オレもちょっとは本気で行くよ!」
其処に在った体組織は蒸発し、紛うこと無く穿孔された。
「これを使う必要はなかったか。まあ、戦いが長引いて予期せぬ事態になるよりは良いな」
イズマが準備していたメロディア・コンダクターを仕舞う。
●遥かなコンシレラ
「おいコラ、起きねえか」
ルナがブルックさんのたるんだ頬をぺちぺちと引っ叩く。ラースローから見れば雇用主に対するとんでもない反逆であるが、張り手を繰り出す彼は素知らぬ顔である。これに激怒して報酬を支払わずともルナは対して気にしないのだろう。そんなルナにラースローは『侠気』を感じた。
「ル、ルナさんかっけぇっす! そのアウトローっぷり……俺もルナさんみたいになりてえっす!」
「アンタはまず走り込みから始めろ。砂地とはいえおせえよ、足」
面倒臭そうにラースローを追い払うが、結局の所このブルーブラッドは『仕方ねぇなあ』の精神で相手をするのだろう。ルナほどに速くなれるかは別として。
「ラースローさん、お疲れ様だ。怪我はないかな」
イズマが声をかけるとラースローは何処で覚えたのか、海洋流の敬礼をしてみせる
「マイロード! 無事に警戒任務を終えました!」
「調子の良いヤツだぜほんと」
ルナはため息をつく。
「馬車の方は大丈夫そうだね、ダメになっていたら私のチャリオッツを貸してやるつもりだったが」
「ふ、ふん……礼は言う。報酬も規定通り渡す、渡すがその申し出は何があったとしてもNOだ。商人が商人に貸しを作ってたまるか」
やはり見込んだ通りの男だとラダは思った。商人という生き方がブルックという男の性根を捻じ曲げてはいるが、根本的には善よりの人物なのだろう。
「そう言ってくれるな。覇竜との交易だってこれからだ。あんたみたいな奴には期待してるのさ」
「ああ、何を期待しているのか言わなくても理解るとも」
ブルックとラダは一瞬の沈黙の後に、互いに心を通わせた。
「ラサの為に」
「これも 弱肉強食 の ことわり。しかし、その ヒエラルキーは 時として 覆りますの」
ノリアがゼラチン質のしっぽでワームをつつき、生死を確認する。ワームは動かない。今、生物界のピラミッドを一つマアナゴが駆け上がった。生物界の頂点へと達した被食者は一体何を思うのか、今は知る由もない。
成否
成功
MVP
状態異常
なし
あとがき
ご参加ありがとうゴラいました!
GMコメント
●目標
【必須】商人の護衛
【努力】傭兵の生存
●情報精度
このシナリオの情報精度はBです。
依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。
●ロケーション
南部砂漠コンシレラ
現場に到着する頃は昼です。
見晴らしも良く、砂嵐の心配もないでしょう。
●敵
終焉獣 砂喰らいの大蛇
コンシレラに出没した強大な終焉獣です。
砂地に潜んでおいてからの奇襲が予想されます。
とても大きいので戦闘中に見失う事はなさそうです。
●味方
ブルックさん
とても口煩いケチな商人です。
狙われたら即死すると思います。
ラサ傭兵 ラースロー
頼りない獣種の剣士です。
ブルックさんが費用をケチったリクルート級の傭兵です。
イレギュラーズに憧れている為、ブルックさんと別の意味で口煩いです。
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