PandoraPartyProject

シナリオ詳細

黄昏に雄姿を映せ!

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●それは場末の映画館で
 大画面で巻き起こる大爆発。
 吹き飛ぶ敵。目にも止まらないアクション!
 輝く魔法! シーンの合間に挟まる人物達の緊張感!

 その映画館は寂れてはいるものの、客足は多い。
 事実、最近はその数本の映画だけで支配人は食って行けている程だ。
「今日も盛況だな……紹介制にしている上にどの客もみんな貴族だから、不必要に広まってスキャンダル屋に騒がれる事も無い。
 なんて美味い商売なんだ……サイコーだぜ、ローレットの連中……」
 安酒でも酒は酒。品質が良ければ安くとも美味い物は美味い。
 支配人はすっかりダメ人間な顔を晒しながら、館内の様子を小窓から覗き見た。
 流れている映画は、とある貴族達から定期的に流して貰っている物だ。
 その内容は『イレギュラーズが仕事をしている姿』という、如何にもドキュメンタリーな雰囲気が漂ってそうなタイトルだ。が……事実はそうではない。
 まるで狙い澄ましたかのように調子の良いイレギュラーズ達が大暴れしている時の映像ばかりなのだ。
「やらせの可能性はあるが……編集加工されてるかどうかなんぞ『通』にはわかる。
 ありゃーモノホンだわな。ど迫力の戦闘が臨場感たっぷりに見れるなんざ中々無い、まったくローレットさまさまだぜ」
 と、そこへ酔っぱらった貴族が三人入って来る。
 支配人は慣れた様子でそちらへ向くと、首を傾げた。

「で? 今度の新作はどんな奴だい」

●数日前、そんな事を知らないローレットでは
 依頼だ依頼だ、と今日も何となく大騒ぎ。
 砂蠍なんかも出て来てさあ大変、そんな最中あなた達に舞い込んで来た依頼は……
「ポルペーノファミリーというギャング団を潰して貰います」
 なんか死んだ目で『完璧なオペレーター』ミリタリア・シュトラーセ(p3n000037)は告げた。
 え? なんでそんな目をしてるの?
「いえ、別に……お父様からの依頼でなければシャキッとするんですが……」
 はい?
「いいえ、なんでも。コホン……ブリーフィングを始めます」

 ポルペーノファミリーとは、どうやら海洋から流れて来た海賊崩れのギャング組織らしく。
 遂に陸でもその手を伸ばす為に幻想へ進出して来たらしい。
 らしい、というのも。
「まあ、さる御方の領地で身の程知らずな事をしようとすれば早々に叩かれるのは必然です。
 ……評判くらいは知ってるでしょうにね、かの令嬢の事なら尚更……」
 イレギュラーズはこれから向かう領地が何処を指しているのか直ぐに理解して、思わず心臓がキュンとした。縮み上がる意味で。
「既に依頼主から組織のアジトと戦力は調べ上げられています、そちらの資料には構成員の体にあるホクロの数が記されてるので読まなくて結構です」
 なんで配ったのこれ!?
「なんとなくです。
 依頼主からのオーダーは『徹底的にボコボコにしてアジトも破壊する事』だそうですので、皆様よろしくお願いします」

GMコメント

 ちくわブレェドです! 宜しくお願いします!

 以下情報。

●依頼成功条件
 ギャング団ポルペーノファミリーを潰す

●情報精度A
 不測の事態は絶対に起きません。

●ギャング団アジト
 構成員×30
 幹部&ボス×11
 アーベントロート領の端にある町で彼等ギャングは廃屋を改造したアジトを設けているようです。
 アジトの規模は四棟の三階建て宿を二階で木板で作った橋を架けている構造となっており、その立地から各棟を時計で示しています。
 皆様にはここへ構成員と幹部が集まる夜に突撃していただきます。

 【10時棟】
 主にギャング団の下っ端が溜まり場として使っています。
 恐らくここを襲う場合は四方八方から鳥種のギャング達が羽根を一斉に射かけて来るでしょう。「ひゃっはー!パーティーの時間だぜ!」
 【2時棟】
 ギャング団の武器庫のようです。腕の良いガンマン達がそれはもう四方八方から撃ってきます。「ヒィーハァー!蜂の巣にしてやるぜ!」
 【4時棟】
 ギャング団の火薬庫のようです。ここで弾薬を作成してるらしく、液体火薬も置いてあるため引火すると秒で四棟巻き込む大爆発が起きます。
 「火を放つなよ!? このアジトを吹っ飛ばすつもりでもないならやめろよ!?」
 【8時棟】
 ギャング団のボスと幹部達が集まっています。凄い四方八方から日本刀で斬りかかって来ます。「イヤーーッ!!」

●オトモがついてきます
 何だか全身黒ずくめのマッスルな黒子さんが撮影機材を担いで同伴しますがお気になさらず。
 彼等は作戦中、皆様に様々な効果のあるバフをかけまくってくれるので、
 非力で普段は暴力を振った事も無いあなたは試しにそこにあるハリセンで殴ってみましょう。吹っ飛びます、敵が。

 以上、皆様のご参加をお待ちしております。

  • 黄昏に雄姿を映せ!完了
  • GM名ちくわブレード(休止中)
  • 種別通常
  • 難易度EASY
  • 冒険終了日時2018年10月14日 21時55分
  • 参加人数8/8人
  • 相談4日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

春津見・小梢(p3p000084)
グローバルカレーメイド
Suvia=Westbury(p3p000114)
子連れ紅茶マイスター
如月 ユウ(p3p000205)
浄謐たるセルリアン・ブルー
ヴェノム・カーネイジ(p3p000285)
大悪食
トリーネ=セイントバード(p3p000957)
飛んだにわとり
セシリア・アーデット(p3p002242)
治癒士
クォ・ヴァディス(p3p005173)
ポストランナー
リリアーヌ・リヴェラ(p3p006284)
勝利の足音

リプレイ

●忍び寄る仕事人達
 時刻は深夜。マッスルな黒子が特異運命座標追随する中、四棟の廃屋を前に一同は到着した。
「ここが、あのギャング団のアジトなんだよねー?」
 黒子の事を傭兵団の仲間が別の依頼で見かけたと言っていたのを思い出して。
 三階の薄明かりが揺れる中から下品な笑い声が聞こえて来るのに首を傾げるのは、『ポストランナー』クォ・ヴァディス(p3p005173)だ。
 彼とカメラ目線を決めていた『慈愛のペール・ホワイト』トリーネ=セイントバード(p3p000957)は背にひよこを乗せている。
 大胆にカメラ目線を決めるニワトリとダチョウ。ノリノリでカメラを回す黒子。
「ぎゃーんぐ。とっても悪そうな響き。にわとりの名にかけてやっつけないといけないわね!」
 ふんすと胸を張るトリーネの下へ香ばしい匂いが漂って来る。
「というわけで、やってまいりましたギャングのアジト。撮られているからといってカレーを作るのは止めないよ!」
 カレーが盛られた皿を手に『グローバルカレーメイド』春津見・小梢(p3p000084)がカメラの前でバーンと仁王立ちする。
 香ばしい深夜の中辛チキンカレー。素晴らしいかな。ガラムマサラは欠かせまい。黒子達は「良い絵が撮れた」と無言で喜んでいた。
「暗殺先輩もぱんつ盗まれたり虚仮にされたり大変すねぇ、きっと日頃の行いが悪いんすね」
 黒子の方で何か揉める音が聴こえるが気にせず、『双色の血玉髄』ヴェノム・カーネイジ(p3p000285)は廃屋へ近付いて行く。
「まあ、あの人の領地でよくやろうと思ったよ、ある意味感心かな?」
 『治癒士』セシリア・アーデット(p3p002242)は呆れたような表情を浮かべる。
 その隣で銀髪を揺らして。『浄謐たるセルリアン・ブルー』如月 ユウ(p3p000205)は肩を竦めた。
「変なのが勢力を伸ばす前に潰すのはいいんじゃない? ほっておいたら何処に被害が出るか分からないしね」
「だね。そういえば一緒の依頼だよね、頑張ろうねユウ! もしもの時はサポートお願いね」
「サポート? ……いいわよ、私にできる事なら手伝って上げる。大丈夫だと思うけど無茶はしないでよ?」

 一方で、黒子が一人カンペを片手に。事前相談時に決めていた初撃目標の【10時棟】の入口へと一同を誘導する。
「全身黒ずくめのマッスルな黒子さんがとっても気になるんですが、やはり何も言わずに気づかない振りをするのが『お約束』なのでしょうか」
 首を傾げる『年中ティータイム』Suvia=Westbury(p3p000114)は小梢の風上へ移動しながらそんな事を呟く。
 黒子達の見た目の、視界に入れた時の反応が困るといったらないだろう。
「……あ、黒子さんひよこを預かってて。ほら、戦いに巻き込まれたら危ないし」
「!?」
 しかしそんなマッスル黒子を逆に困らせた初のイレギュラーズがここに。
「ぴよぴよ!」
「……!」
 ぽいっとカメラの上に飛び乗るひよこを前に何も出来ない黒子。
 か弱いヒナ鳥を乗せた黒子は仲間に「どうしよう?」と振り返って。めんどくさそうに手を振られた後に諦めた。
「10時ってどっち? あっち! さあいくわよー!」
 ずんずん進むトリーネ。
 そうこうしている間にイレギュラーズはギャング団のアジトへと乗り込んで行くのだった。
「……ふ、あはは! そういえば、何でホクロの数まで調べてるのかな! 本当に誰が得をするんだろうね!」
「ホント誰がそんな所まで見るのかしらね……」
 これから対峙するであろうギャングを想像してほんの少しだけ引いた。

●Fast Shooting!
 【10時棟】全体に響き渡る程の悲鳴が上がった。
 酒瓶を手に思い思いに過ごしていたギャング達は飛び起き、臨戦態勢で階下へと向かう。
「ナニモンだァ!!」
 階段を上がって来た影へ一本の羽根が挨拶代わりに投げ放たれる。
 ナイフと変わらぬ鋭さで、弾丸と変わらぬ速さで。白羽は真っ直ぐに影の中心に刺さった。
 だが、次に聞こえて来たのは悲鳴などではなく。枝を折る様に指先で羽根を潰した音だった。
「狩り開始っす」
 ヴェノムの宣言に次いでギャング達へ放り投げられる、一階で煙草を吹かしていた仲間の無残な姿。
「てめえらやっちまえ!」
「ひゃっはー! パーティーの時間だぜ!」
 キレた男達が獰猛な笑みを浮かべて一斉に翼を逆立てる。
 直後に繰り出される白黒茶金の弾幕。木造の廃屋の中を羽毛が乱れ舞い、豪雨の如く突き刺さり破片を撒き散らす。
 その場から身を翻したヴェノムは素早く横へ跳び、二階広間に散乱していたテーブルを盾にしてその場から離脱する。
 弾幕の一部がそちらへ向いた隙、地を這う様にギャング達へと距離を詰める影が二つ。
「飛べる連中は、みんな小柄だし、負けるつもりないんだよー!」
 クォの飛び蹴りが階段近くのギャングをくの字に反らして蹴り飛ばす。
 砲弾のように飛んで行った仲間を見送った男達が一瞬たじろいだ所へ、紫の眼光が一筋の軌跡を描いて迫る。『特異運命座標』リリアーヌ・リヴェラ(p3p006284)だ。
「う、おぉ……!?」
「無駄です」
 咄嗟に翼を振り被ろうとした男の顔面に叩き込まれる静謐の一撃。黒子達のものも含め、強化術式によって威力が向上した拳は容易く男の体躯を宙に浮かせる。
 摺り足で踏み込んだ彼女の細腕が翼爪に絡み、グンと引き寄せた刹那に連続で打ち込まれた拳は的確に急所を貫いて地に堕とした。
 間髪入れずに彼女はキレのある足捌きで背後から殴りかかって来たギャングの拳を躱し、鋭い肘鉄で鳩尾を突いてから頸椎を打つ。

 瞬間、鼓膜どころか魂を揺さぶる様な突き抜けた鬨の声が鳴り響いた。
「ッッこけーーーっ!!」
「「んぎゃあああッス!!!」」
 おかしいな。神近単のはずなのに広域攻撃並みの破壊力になっている。イレギュラーズの誰かは一瞬だけ脳裏を「こっちくるな」という言葉が過ぎるかもしれない。
 泡を吹いて倒れ行く男達を目の当たりにしたトリーネは驚きながらもはしゃいだ。
「……なんか今日、すごい声の調子が良いのだけど!? すごいわすごいわ!」
「本当にすごいねそれ!」
 くらくらしている敵を蹴り倒すクォが称賛を飛ばす。
「んーむ。チキンカレーもいいですね」
 もぐもぐ。弾幕の中を平然と歩きながら移動する小梢を、残った数人のギャング達は血走った眼で睨んだ。
「オイイイ!? あの女ッ! 『”チキン”カレー』なんてふざけたもん喰ってるぞ!!」
 まさかの名乗り口上効果発動。怒りを買わないわけが無かった。
 しかし彼等は次の瞬間、クォ達が横切る間に打ち倒される。
 Suviaが小梢に近付いていく。
「小梢様、お怪我は大丈夫ですの?」
「無傷だよ?」
「さりげなくバフの上にバフが乗ってるわねー……カレーを一滴も零してないもの」
「あ、守ってるのそっちなんだ」
 後ろから見ていたセシリアは首を傾げてから思う。
 しょっぱなからチキンカレーを選択した意図とは一体。

 ──────
 ────
 ──

 コンテナや段ボールが乱雑に置かれている【2時棟】の二階。そこには騒ぎを聞きつけたギャング達は既に待ち構えていた。
「ヒィーハァー! 蜂の巣にしてやるぜ!」
「あぶない!」
 今度は羽根を飛ばす攻撃とは違い、生半可な防御では防ぎ切れないであろう銃撃の嵐が襲う。
 十数人の男達による一斉射撃はそれだけで脅威だ。セシリアに従い近くの小部屋へと飛び込んでやり過ごした。
「これは鳴き声で対抗するには分が悪いわね……! ならばお星様で対決よ! いけ、ぴよちゃん! ぴよスター!」
「ぴよぴよぴー!」
 小さな星に乗ったひよこが飛び立って行く。小声で「やめろぉぉ」という声が黒子の方から出るが気にしてはいけない。
 もぐもぐしながら前衛と共に廊下へ出ようとしている小梢もそう頷いた。
 今度のカレーは林檎と蜂蜜が効いた味付けらしい。なんというトロミ、深夜に見て良いシロモノではない。
 刹那、通路奥からギャングの一人がひよこに吹っ飛ばされる音が響いて来たのを合図に。弾幕が途切れた通路へ全員が躍り出た。
「撃ち返すよ!」
「ええ、合わせるわ……!」
「ではわたしもお手伝いをさせていただきますの」
 セシリアとユウが息を合わせて遠術を放ち、僅かに距離を縮めたSuviaが指先から茨を走らせる。
「うッおおおわあ!?」
 茨に手元を絡み取られたギャングは食い込む棘による痛みに呻く。その直後、スパァンと乾いた音が炸裂してセシリア達の魔弾に打たれ地を滑っていく。
 或いはその男と共に地を滑り飛び込んで来たリリアーヌが振り抜く手刀に脚を打たれ、倒れ伏せ踏みつけられた者の短い悲鳴が上がる。
「チクショウ! 銃も怖くねえのか!」
「さて、どうでしょう」
 流麗なその動き。銃口を向けられた時には既に間合いを取り、発砲の瞬間には身を反らして避けている。
 やぶれかぶれ。男は雄叫びを上げて自身の翼を硬質化させて肉薄しようとする。
 ──ひよこが「ぴよ!」っと乗ったお星様が画面を横切る。
 が……不意に頭上から伸びて来た蛇のような何かに喉元を食い付かれ、投げ飛ばされてしまう。
「!?」
 一瞬、モンスターかと思い周りの視線が天井へと向く。しかしそれと同時に入れ替わり。中途半端に開かれた扉を背に降り立ったヴェノムがくるりと飛び出す。
 一呼吸の間に鳩尾と肩、こめかみ、両耳を掌で打った彼女は意識を失う手前で踏み止まるギャングを脳天への踵落としで一気に沈める。
 そこへ銃声が連続する。が、ヴェノムは足元に倒れた男を蹴り上げて一瞬だけ盾にすると銃撃が止んだ隙に一気に駆け抜ける。
「くえぇー!!」
「ゴッはぁ~~ッ!?」
 奔る健脚。隼よりも気高く、鷹の眼光に劣らぬ鋭い嘴がギャングの視界を惨くも奪い。続く回し蹴りでトドメを刺す。
 銃弾が彼の身を傷付ける。だが、同時にクォの背後から癒しの光と氷雪が舞った。
「クォさん、大丈夫!」
 セシリアの声が響いた時には、渦を巻いて飛来した氷の鎖がギャングを拘束し、パキリとその身を凍らせて身動きを取れなくさせていた。
 上から降りて来たばかりの出遅れたギャング二人の内片方は遠術に打たれる。
「く、くそ……!?」
 訳も分からず銃を構えて狙ったのは、彼と目の合ったヴェノムだ。
 刹那に交差する視線。引き金に乗せられた指先に力が入るその時、一条の光が男の胸元を貫いた。
 勝負にもならぬ反応速度だった。
「恨むなら神様か運命にでもしてくれ。『敵』でもない奴は直ぐに忘れてしまうから」
 そう彼女は告げると、静かに転がって来たライターを拾い上げた。

●その爆炎に映るのは──
 イレギュラーズの突入から僅か数分。瞬く間に壊滅の一途をたどっている状況にポルペーノファミリーを統べる男、『ドン・バンブラヴィ』は張り裂けんばかりに叫ぶ。
「どぉぉおっしてェェッ!! こォぉオなッッたァァァアアァ!!!!」
 彼等は運が無かったのだろう。
 既に二階から何者かが駆けて来るのが分かる。じきに【8時棟】であるこの建物の三階へと押し掛けて来るだろう。
「……!! テメェら、覚悟ォ決めやがれ……こうなりゃ俺達ポルペーノの意地を見せてやろうじゃねぃかァ!!」
「「応ッッ!!」」
 ポルペーノファミリー幹部達全員が腰に提げていた刀を抜いた。
 ──────
 ────
 ──
「ここがボスの居場所……つまり、最終決戦! まだ一つ残ってる? そんな事は知らないわ。ここが最後ったら最後なの!」
「なんか、この雰囲気、かの日本とか言う国の話のようであると思った。聴いたことはあるが」
 階段を昇り行くクォ達は壁に張られた桜吹雪の掛け軸や、あちこちに提げられた提灯を見て色々と感心する。
「怪我とかしたら言ってね、私でよければ治療するから」
「……戦ってる時は危ないから巻き込まれない様に注意してよね……巻き込まれて怪我をする所を見るの何て嫌よ」
 時折振り向いて話しかけてくれるセシリアとユウ達に、黒子の一人が覆面の下で涙を拭った。
 どうやらこの仕事に何か思う事が無いわけでもないらしかった。嗚呼、哀しきかな。だからこそ彼等は黒子に抜擢されてしまったとは誰も知らない。
 少し長い階段を上がって行った先で、一同の前に光漏れる扉が現れた。
「ハリセンで殴ったら敵が吹っ飛ぶというのは何だかとってもすごそうです。うふふ」
 担当の黒子に借りた少し厚みのあるハリセンを借りたSuviaがちょっと普段見せないウキウキ加減を見せる。
 次の瞬間。扉を勢いよく開け放った彼女は即座に右手に構えたハリセンをフルスイングした。
「あへッッッ───ぷるぁぁあああああ!!」
「まあまあ……♪」
 聞いた者全員が(あっ、すごい良い音した)と思う程にパァン、ととにかくなんかもうすんごいイイ音が鳴った。
 ぎゅん!! と錐揉み回転して吹っ飛び倒された幹部を前に、Suviaは頬に手を当てて喜んだ。

「イヤーーッ!!」
 斬りかかるギャングのボス達。
「くえーーっ!!」
 跳び上がる蹴り脚。蹴り飛ばすと見せかけ顔を鷲掴みにしながら踏みつけようとする、その動きに翻弄されるギャング。
「こけーーっ!!」
 体長50㎝と侮る者は額に汗を流すだろう。よもやあのまんまるなニワトリの小さな嘴が真剣を白刃取りするとは夢にも思美味い、ではなく、思うまい。
 背後からその光景を見ていた黒子達は飛べない鳥種VS飛行種の絵面にごくりと息を飲んだ。

 と、その時。扉の前で勢いよく跳躍したのは一際体格の良い鴉の男だ。
 恐らくはギャングのボスだろう、対峙するリリアーヌと打ち合う事が出来ている。
「……なるほど、では出し惜しみは無しです」
「うおるぁァアア!!」
 上段から振り下ろされようとする兜割りを、刀の柄頭へ突き上げるように掌底を放ったリリアーヌ。その静かな瞳が宙に軌跡を、弧を描いて残し。
 凄まじい衝撃波を纏ったブロウがドン・バンブラヴィの意識を一撃で刈り取ったのだった。
 窓の外へ吹っ飛んで行くボスを目の当たりにした幹部達が泣き叫ぶ中、狭い室内に冷気と共に煌めく紅い雫が散った。
 イレギュラーズもその様子に手を止め、振り返る。
「私の前に立ち塞がるのなら……氷漬けにしてあげるから覚悟する事ね」
 セシリアの前に立ったユウが指先を一閃させた直後。室内に氷刃の吹雪が吹き荒れ、遂にギャング団ポルペーノファミリーの幹部は全滅したのだった。
「んー……カレーのボスといったらやっぱりカツカレーでしょう」
 小梢が食べているのが何のカツなのかは、誰も知らない。

 曲がり角から飛び込んで来た下っ端も下っ端らしいギャングの青年をクロスカウンターで沈めた小梢は首を傾げる。
「こちとらか弱いメイドなので荒事とか苦手なんですけど、出来る限りのことはしますよっと」
 さりげなくバフの上にバフが乗り、不可視の鎧が小梢を覆う。
 セシリアが遠術で撃ち抜いた他の青年の方へカレーをもぐもぐしながら近付いて行った彼女は再びカウンターで沈めた。
 もしかするとこうして他のギャングも一瞬で倒していたのかもしれない。黒子達は手元のカメラをふと見つめる。
 彼等が今いるのは【4時棟】である。
「えっとー、爆薬臭いよねー? 火は付けるなよー!」
「一応私が保護結界を張ってるから、意図的に引火しなければ大丈夫だと思うな」
 火薬、弾薬を管理しているのはいずれも若いファミリーなのか。積極的に出てこようとしないギャングの残党を捜索しては撃破して行く。
 セシリアが結界を張っている事で稀に跳弾が弾薬箱に当たっても傷一つ付かない。
「ところでヴェノムさんはどこに?」
「アジトを吹っ飛ばすためにオイルみたいなの撒いてたよー! 油かなー?」
「はあ、オイルですか」
 リリアーヌが近くの部屋にあったドラム缶を覗き込む。
 揺れて広がる波紋の奥に、明らかに異質な香りと『とろみ』があるのを彼女は見た。
「…………」
 うっすらと、冷たい汗が流れる。
(……4時棟以外にも撒いてるのでしょうか、もしそうなら保護結界の外という事……)
 振り返るリリアーヌ。その視線の先で黒子達が撤退をするか否かで激しく揉めているのを見て彼女は決心した。
「逃げましょう皆さん」
「え!? 急にどうしたの!?」

 驚くセシリア達の後ろで小梢がハッ……と気付く。
「スープカレーもなかなか」
 ──
 ────
 ──────
 どのタイミングで火が放たれたのか、引火したのか、誘爆したのかは定かではない。
 ただ分かっている事は、セシリア達がアジトの外へ退避して数秒後。背後で莫大な閃光が瞬いた。
 四つの廃屋が綺麗に炎の円を描き、各棟を中心に凄まじい爆発が巻き起こる。
 渦巻く炎を切り裂いて悠々と出て来たのはヴェノム。そして彼女の頭上を飛び越えて叫ぶ影が二つ。

「爆発オチかよー!!」
「ああ……私飛んでる……持ってて良かった焼き鳥耐性……」

 その日。ラストを飾ったのは爆炎をバックに去って行く者達と、遂に空を飛んだ者達、そして爆炎の中で焼きカレーに舌鼓を打っているメイドだった。
 もう色々と吹っ飛んでしまったが、吹っ飛んだからこそこれで一仕事終えた事になるだろう。
 Suviaが差し入れたお茶を飲みながら、彼等は黄昏の如く赤く燃える炎をバックに去るのだった。
「皆様お疲れ様でした♪」

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

成功です。
町の端で起きた爆発は『地元のチンピラがうっかりガソリンの類に引火させてしまった』という事になっているそうな。

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