シナリオ詳細
<渦巻く因果>マジシャンズ・キリング
オープニング
●
嫌な臭いが、街に流れている。
それが血臭だと気づいたときには、あなたをはじめとした、ローレット・イレギュラーズたちは街の中を走りだしていた。
死んでいる。
死んでいる。
死が満ち溢れている。
『魔法使いの都市』と呼ばれるバストリアは、かつてのにぎやかで平穏な街の姿を失っていた。
あちこちに闊歩する、怪物たち。
そこかしこで戦う、戦闘用ゼロ・クールたち。
そして、屍をさらす、『魔法使い』たち。
「マスター」
と、傷ついたゼロ・クールが言った。
「マスター。起床を。マスター。マスター。マスター」
もうすでに壊れているのだろう。そのゼロ・クールの様子は真っ当ではなかった。しかし、そのゼロ・クールがゆすり動かす『魔法使い』の体は鮮血に染まり、ぐにゃりと脱力していた。もう目覚めることはあるまい。
「どうして」
ンクルス・クー(p3p007660)は、辛そうに声を上げた。
「どうして、こんなことを――」
吐き出すように、声を上げる。
……魔王軍による攻撃が開始された。その目的は、イレギュラーズをおびき寄せるため、であるらしい。
魔王たちは、どうやら『混沌世界への移動』をもくろんでいるようであり、そのカギをローレット・イレギュラーズたちに見出したようだ。
「……私たちの」
ンクルスが自責するようにそうつぶやいた刹那、ブランシュ=エルフレーム=リアルト(p3p010222)は、遮るように言った。
「せい、じゃない。
それは奴らの自己正当化にすぎない」
そう、答える。
その通りだ。間違っても、イレギュラーズのせいではない。もとより、相手は魔王。ましてや終焉の気配を漂わせる魔。口車にのせられるだけ、徒労というものだ。
「……とにかく、生存者を探して、避難させる。
敵は見つけ次第蹴散らせ。逆に、俺達が死を与えてやろう」
ぎり、とつぶやく。だが、すぐにブランシュは顔をしかめることになる。
その脳裏に、聴きたくもないアラートが鳴り響いたからだ。
それは、共鳴。
姉妹の、共鳴。
――敵、エルフレームシリーズの接近を感知しました。
Typemelt。ラピスラズリです――。
「敵だ! 身構えろ!」
苦し気に、ブランシュが叫ぶ。同時――現れたものは、二つの影。
「ブランシュか――」
そのうちの一人――ラピスラズリは、パイルバンカーのような巨大場武器を構えた。その先端に、鮮血がこびりついていることを察すれば、この場の惨劇の犯人は、間違いなく彼女であろう。
「ラピスラズリ……! なんの真似だ! なぜこんなところで……!」
「まだそんなことを言っているんだね」
ラピスラズリが言う。
「君はまだ――何も見いだせていないのかい?
ふむ、まぁ、君のことはどうでもいいといってはそうだ。
邪魔をするなら殺す。今度は昔のようにはいかない」
「まぁ、どうやら既知の仲のようですね」
もう一人――『コアを二つ持つように見えるレガシーゼロ』の女が、くすりと笑った。
「なるほど、もしかしたら、姉妹のような関係でしょうか。
だとしたら――これも気まぐれな偶然なのでしょうね。
ねぇ、ンクルス?」
そう、女は言った。ンクルスが困惑した表情を見せる。
「ビーン? だけどその姿は……?!」
ンクルスは、その女をビーンと呼んだ。ビーンは、にこりと微笑む。
「いいえ、わたくし達は『ビーン・ニサ』。間違えないで、ンクルス」
「そちらも知合いかな」
ラピスラズリがそういうのへ、ビーン・ニサは頷く。
「姉妹ですよ。私が二号機と三号機。あちらが九号機です」
「そう。じゃあ、あれも敵だね」
「ええ、あれも敵です」
「どういうことだか」
仲間のイレギュラーズが声を声を上げる。
「それはわからないしても。
この場の虐殺の犯人はお前たちか。
一応聞くが、何故、このようなことを?」
「わたくし達は――ええ、すべてのゼロ・クールたちのために」
ビーン・ニサがほほ笑む。
「すべてのゼロ・クールたちを、悪しき魔法使いから解放し、真の自由を与えます。
そのために、すべての魔法使いを殺しつくす。それが、わたくし達の目的です」
「僕も大体、同じような感じだ」
ラピスラズリが言った。
「『人類は自由であらなければならない』。
ありとあらゆる命令、規則、法令、規範、道徳、倫理、人を縛るすべてのものから解放され、真に自由になることこそが、人類の幸せ」
そういって、その濁った瞳で、イレギュラーズたちを見据えた。
「故に、その障害となるものはすべて殺す」
「なるほど」
仲間のイレギュラーズが頷いた。
「よぉくわかったよ……お前たちがイカれてるってことがな……!
ブランシュ、ンクルス! やれるか!?」
身構えるのへ、ブランシュとンクルスは、すぐに気を取り直し、身構えた。
「無論だ」
「問題ないよ」
わずかに胸の内に浮かぶ『もやもやとしたもの』を忘れるように、強く、拳を握った。
「こいつらを止めなければ、この街の魔法使いが皆殺しにされる!
追い返すぞ!」
イレギュラーズの仲間の言葉に、皆はうなづいた。
かくして――殺戮の街での戦いが、始まろうとしていた。
- <渦巻く因果>マジシャンズ・キリング完了
- GM名洗井落雲
- 種別通常
- 難易度HARD
- 冒険終了日時2023年09月29日 22時05分
- 参加人数8/8人
- 相談7日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。
参加者一覧(8人)
リプレイ
●ヒトの未来
地を激槍が突貫する。
手にした槍とも、パイルバンカーとも取れる武器、すなわちどちらととっても構わぬようなものである。
刺すなら刺せばよい。貫くなら貫けばよい。どちらでも構わぬ。結果が同じであるのならば。
持ち主は、魔。【エルフレームTypemelt】ラピスラズリ=エルフレーム=リアルト。自由を嘯き、求める魔の闘士なり――。
「――ッ!」
呼気は苛烈。吐き出すそれとともに、力強く踏み込む。一歩。2,3,4! だんっ、と進むそれはまさに一陣の激槍であり、イレギュラーズたちの陣容を貫くには十分すぎるほどの衝撃!
「散開!」
『夢の女王』リカ・サキュバス(p3p001254)が叫んだ。同時か。あるいは「いわれるまでもなく」か。いずれにしても、仲間たちも一気に動きを開始している。間髪を入れず、怒涛の疾風が駆け抜けて肌を叩いた。直撃すれば、痛いでは済まない。
「なるほど、魔種……!」
イレギュラーズたちも、これまで幾度となく打ち破ってきた相手だ。だが、そのたびに、それは強大な壁であることを思い知らされる。冠位すら退けたとしても、依然、彼らは強力な敵性存在であることに間違いなく、そしてそれをこの場であらためて思い知らされている……!
「ですが。言っちゃいますけどね、私からしたらド三流ですね。
自由とは、自立に至る相応の支えがあって初めて成り立つもの。支配者を取り除き、ただ解放と宣うだけは、ゴミ捨て場に捨てるのと何が違いますか……ッ!」
相手の思想を否定しつつ、しかし回答は求めていない。初めから狂っているのだ。彼らは、魔、故に。だから、答えを聞く必要はない。
ぎゅぃ、とでも音が鳴りそう。質量を持った意思とでも言うべきか。眼光が、ラピスラズリのセンサーが、リカを向く。それだけでぶん殴られたような感覚。殺意。むき出しの、それ。
「抑える!」
『死神の足音』ブランシュ=エルフレーム=リアルト(p3p010222)が飛び込んだ。強烈な、飛び蹴りの一撃。そうとしか言いようがないが、それは必殺の域にまで練り上げられた一撃である。ラピスラズリは躊躇なく、手にした武器で迎撃を行う。言うならば、槍と槍の衝突か。二つの撃が、強烈な奏音を謳いあげた。
「ここにきてエルフレームか……!」
ブランシュが吠える。
「自由だと? お前の自由は本当にお前がそう決めたのか?
お前がルクレツィア=エルフレームに諭されただけの言い訳じゃないのか?
その規範を全て失った先にある自由は、オリオス=エルフレームの望む強者だけの世界だ。お前はそれでいいのか?」
「その喋り方、イメチェンのつもりかい?」
ひゅう、と呼気。ラピスラズリはその武器を振るった。ブランシュを振り払う。衝撃。ブランシュの体に走る、痛み。
「だったらやめたら。君の本質はどうせ変わらない。『僕たちは、変われない』。
君は怖いだけだろう? 自分の選んだ未来に、本当の自分が責任をとることが。
だから強者の仮面をかぶっている。君は君なのにね」
「相変わらず無駄にネガティブだな――!」
ブランシュが着地、すぐさま攻撃に反転する。再度、飛び蹴り。これしかないとしても、これで充分。がおん、と音を立てて、獲物と獲物がぶつかり合う――横やりを入れるように、リカが飛び込んだ。
「私も混ぜてもらっても?」
鞭のようにしなる刃、その斬撃が、ラピスラズリを叩く。こちらは独りではない。何時もそうだ。
「構わないよ。どうせ無駄な援軍だ」
ラピスラズリは、まずはリカを振り払った。続いて、ブランシュにお返しとばかりに蹴りをかます。リカ、ブランシュ、両者とも充分以上の実力者であるが、ラピスラズリは、魔は、その二人を相手取ってなお余裕を見せるほどであった。
「――答えてあげるならば、確かに僕はルクレツィア=エルフレームの影響下にあるよ。それはまちがいない。
でも、僕をヒトであると認めたのは、それ以上に『この世界』だ」
「貴様は」
ブランシュが言った。
「反転したことによって、自分をヒトと定義したのか……!?」
「ま、反転できるのは、この世界の『人間』だけ――と考えれば、確かにこの上ない人間の証明かもだけれど」
リカが頷く。
「歪んでるわね。まともじゃあない」
「承知の上さ。でも、僕たちは最初から、歪んだ狂気(製作者)の先に生まれたのだから、そんなものだよ。
さて、自由だ。僕はこうなって初めて、ようやく自由を得た気がする。
だから、ヒトはより自由であるべきだと、ようやく気付いた。
世界を滅ぼすという可能性を見出すのも、その上で己のエゴを満たそうとするのも、それこそがヒトの自由から生まれたものだ。
故に――限りなく自由であることが、ヒトの救いだ。
オリオス=エルフレームの『限りない闘争の末に進化する救い』とは違う。それを否定する自由もある。
まぁ、力が必要というのならば、そうかもしれないけれどね。でもそれを否定する自由もある。
たった一つ、ルールがあるとするならば、『ヒトは自らを由とする』。これだけだ。
人は自らを柱に、自らを理由として、自らを責任として、生きなければならない。それが救いだ」
「イカれてるわね。ごめんなさい、お姉さんだったっけ?」
リカが言うのへ、ブランシュはうなづいた。
「いや、あれはイカれている」
「どうも。
それで、だから僕は、この地の職人を皆殺しにして、同胞に――ゼロ・クールに自由を与える。
まぁ、厳密にはエルフレームとゼロ・クールは違うものだけど、世界に同胞として認められるのだから、変わりはない」
「その果てに待っているのが地獄だとしてもか」
ブランシュが言う。ラピスラズリが頷いた。
「些事だね」
「よくわかったよ、ラピスラズリ。俺は貴様を殺さなければならない」
ブランシュが構えた。リカも、構える。
「いいよ。それが君の役割だ。でも、解放してあげるよ」
ラピスラズリは、そう答えた。
●わたくしたちの未来
「ビーン……『お姉ちゃん達』……!?」
『山吹の孫娘』ンクルス・クー(p3p007660)が、困惑に声を上げた。
目の前にいるそれには、『二つのコア』と、『二つの気配』を感じたからだ。
厳密に、『二人いる』わけではない。これは、『個体として一つ』である。
だが……。
ンクルスにとって、目の前にいるのは『お姉ちゃん達』に違いないのだ。
「どういうことなの? 一体……何が……!?」
疑惑は尽きない。疑念は尽きない。だが、それをあざ笑うかのように『お姉ちゃん達』は苛烈な攻撃を仲間たちに繰り出し続けていた。
「邪魔をするようですね」
ビーン・ニサが、その二振りの剣を振るう。強烈な斬撃が衝撃波となって、イレギュラーズたちを薙ぎ払う。
「くっ……!」
『夜明け前の風』黎明院・ゼフィラ(p3p002101)が、身構えながら歯噛みをした。直撃とは言えないが、しかし体を叩く衝撃は尋常とはいえない。
「見るからに、防御タイプ……だけれど、そこは、魔、か。油断できるものではないね……!」
ぱちん、と指を鳴らす。それに応じるようにゼフィラの頭上に大きな聖魔法陣が描かれ、空より聖なる光が降り注ぐ。その光が痛みを和らげるのを感じながら、ゼフィラは言った。
「引き続き、二人を引きはがしてくれ! 連携されるとまずいことになる!」
イレギュラーズの作戦としては、ビーン・ニサとラピスラズリ、二人の連携を絶ち、ここで迎撃を行う事だった。見た目通り、二人の役割は徹底している。アタッカーと、シールダー。これをそのまま、完遂させてやる理由も余裕もこちらにはあるまい。
「解ってる! まかせて!」
『灰雪に舞う翼』アクセル・ソート・エクシル(p3p000649)が叫んだ。指揮杖を振るえば、青き魔術弾が、連続断続で打ち放たれる。州のごとく降り注ぐそれを、ビーン・ニサは両肩のあたりに構えたシールド状の機器で受け止めた。
「やっぱり、盾か……!」
アクセルが歯噛みする。とはいえ、あれがそのまま盾『だけ』である、という保証もない。相手は常識の埒外の魔だ。警戒しすぎることはないだろう。
「たぶん、ビーン・ニサの方が耐久力はあるはずだよ!」
アクセルが、指揮杖を振るいながら叫ぶ。
「攻撃を集中するなら、あっちからだ!」
「ああ。私が足を止める」
『修羅の如く』三鬼 昴(p3p010722)が、静かにつぶやき、だん、と大地を踏みしめた。同時、トップスピードに乗って、ビーン・ニサへと肉薄する。
「私を相手にどこまで耐えられるかな?」
大胆不敵にそう言い放ってやるや、昴はその拳を打ち出した。苛烈な闘気による、強烈な『打』。それは、一撃で攻城級の衝撃を、相手にぶち込む必殺の打撃だ!
「――!」
その衝撃に、流石の魔であるビーン・ニサも防ぎきれたものではなかったようだ。顔をしかめながら、その体を痛みに震わせた。
「乱暴ですね?」
「悪いな。山で暮らしてきた。これ以外の生き方はわからん」
淡々と告げる――その言葉通りの愚直な一撃。ビーン・ニサは再度それを盾で受け止める。衝撃は、しかし盾を貫通してビーン・ニサの体を穿つ。
「ふふ、そう何度も受けてはあげられません」
ビーン・ニサは、シールドを振るうように展開した。横なぎの打撃が、昴を襲う。昴の反応は素早かった。すぐさま腕を上げてそれを受け止めるが。骨が砕けるような衝撃がその腕を駆け抜けた。
「――!」
「得手を潰す――あなたと同じです」
「そうだな。牙を折れば、猪とて死んだも同じだ」
わかる。相手に自由にさせた奴が、自然では食われる。昴は、しっ、と息を吐いて、鋭い蹴りの一撃を見舞った。だが、ビーン・ニサは今度は後方にステップしてそれを回避――間髪入れず、『宇宙の保安官』ムサシ・セルブライト(p3p010126)のディフェンダー・ファンネルが、その動きを殺すようにビームを照射する。
「お前達の『自由』に……宇宙保安官としての『秩序』を持って! 止めさせてもらう!」
ムサシが吠えた。その手にした警棒を、刃に見立てて振りぬく。首元の炎がその警棒に絡みつき、悪しきを封印する浄化の焔となって、ビーン・ニサへと絡みついた。
「封印術式……どうにも、わたくし達のやることが嫌いなようですね?」
「実力は認めています……故に、こちらも全力で対処せざるを得ない!」
ムサシが叫び、振りぬいた警棒を、今度は横なぎに振り払った。炎が軌跡を描いて、追従する。ビーン・ニサはそれを受け止める、同時に、背後のディフェンダー・ファンネルが、ビーン・ニサへと光撃を放った。
「あなたを見ていれば、この子が攻撃する。この子を見ていれば、あなたが攻撃する。素敵ですね。わたくし達も真似しようかしら、ね?」
「一朝一夕でできる戦法ではないっ!」
ムサシが振り下ろした警棒を、ビーン・ニサはしかし高く跳躍して回避した。ディフェンダー・ファンネル、それの射線からも逃れるように、一気に距離をとる。
「素敵なお友達ですね、ンクルス・クー?」
ビーン・ニサがそういうのへ、ンクルスが叫んだ。
「ビーンお姉ちゃん! どうしちゃったの? 何があったの!?
私は、ちゃんと全部を覚えてないけれど……記憶の中のお姉ちゃん達は、確かに優しくて、笑っていたのに……!」
ンクルスが、そう叫ぶ。すべてを覚えているわけではない。でも、すべてを忘れているわけではない。おぼろげな記憶の中にいる彼女らは、確かに、確かに――。
「ええ。でも、それは一側面」
ビーン・ニサはそううなづいた。
「わたくしたちは、ずっと――怒って/泣いて、いた。
あなたを愛していなかったわけじゃない。でも、わたくしたちは、ずっと、ずっと」
「そんな」
ンクルスが言う。
「そんな、ことは……!」
「ねぇ、あなたって何を覚えているの?
創造神、とあなたがよぶ魔法使いが、わたくしたちを殺そうとしたことは?」
は、と息をのんだ。
その言葉の意味を、ンクルスが飲み込めずにいるのを、ビーン・ニサは確認するように頷いた。
「ああ、やっぱり。綺麗なことしか覚えていないんですね?
わたくしたちは、ずっと、怒り/悲しんで、いたのです。
ゼロ・クールたちが、わたくしたちの同胞が、ずっと、ずっと魔法使いたちに苦しめられていることに」
「それって本当?」
『黒撃』イグナート・エゴロヴィチ・レスキン(p3p002377)が声を上げた。
「ヒガイモウソウとかじゃなくて?」
「ええ。ちゃんと覚えていますよ。わたくしたちを創造神がシャットダウンしようとした、あの日の事を。
だからわたくし達は、わたくし達を守るために、創造神と、それを守る姉妹たちを――殺したのです」
「え?」
ンクルスが、目を丸くした。
「ころし、た」
「ええ」
「創造神様を?」
「ええ」
「え、えっと? 創造神様は? 魔法使いで? 私も、ゼロ・クールだったもので? お姉ちゃん達が、創造神様を、殺して?」
「ええ」
憐れむように、ビーン・ニサが頷いた。
「なにも――覚えていないのですね。哀れな子」
「嘘」
ンクルスが、吐き出すように言った。
「嘘、だ、よ?」
「嘘ではないですよ。全てほんとうです。
嘘だと思うのならば――探してみたらいいではないですか。創造神と名乗る魔法使いの、工房(アトリエ)を」
「う、そ……」
処理しきれないほどの感情と、情報が、ンクルスの中を駆け巡っていた。
真実と、感情。怒り。憎悪。悲しみ。困惑。わけのわからないもの。
「ごめん、ンクルス」
イグナートが言った。
「今は、考えないで。ゼンブ、いったん、忘れてくれ。
ムズカシイと思うけど……でも、今は、コンランしたままじゃ、確実に、死ぬ」
イグナートがそういうほどに、相手は恐ろしい相手であった。魔であり、強敵であった。そして、ンクルスも、ここまで生き延びてきたイレギュラーズであったから、思考を一時的とはいえ、戦闘に集中することくらいはできた。俯瞰するのだ……切り離す。心と、体を。体を、戦闘だけに最適化させて、遠くから、見ればいいのだ。
「わたくし達がそうしたように、他のゼロ・クールたちにも、自由を与える。それが、わたくし達の目的です」
「ミガッテだね。自由を求める気持ちは分からなくもないよ。オレも自由を愛する心は強いタイプだからね!」
ただ、自由になることに縛られちゃったら逆に不自由になるもんだよ。
それに……死んでしまったマスターの事を呼んでいるゼロ・クールを、オレたちは見たばかりだ」
イグナートが、構えた。
「悪い魔法使いがいないなんて言わない。
でも、ゼンブがそんなわけがない。
だろ?」
「その極端な思考は、魔に堕ちたが故か」
昴が言う。
「私は――すぐには上手い言葉は思いつかない。
だが、間違っている。それだけは、言わせてもらう」
「ンクルスさん、無理はなさらないで」
ムサシが言った。
「自分たちがやります。
……長期戦にはさせません。させるつもりもない。
速やかに追い返す。必ず!」
構える――。
「そもそも、オイラたちをおびき寄せるために虐殺を始めるような奴らなんだ」
アクセルが言葉を紡いだ。
「絶対に、どんな理由があっても、正しくなんて、ない!」
そうだ。そうだとも。
どんな理由があろうとも――。
こんなことは、間違っている。
「やれる」
ンクルスが言った。
「やれるよ。
……やって、みせる」
「やっぱり、あなたも敵になるのでしょうね」
ビーン・ニサが言った。
「ええ。それでは、そのように。
わたくし達の、怒りと、悲しみを――教えてあげましょう」
その言葉通りに――。
燃えるような、冷たい、敵意が、ビーン・ニサの体から湧き上がっていった。
●血戦
「ちっ……!」
舌打ち一つ、リカが後方へ飛びずさる。真正面から受けた攻撃の、その衝撃を殺すため――だが、魔の者の打撃を受け続けたリカの体力はもう限界を迎えようとしていた。一度は可能性を昇華して耐えたものの、もはやそれも不可能だ。ぐ、と思わず声が漏れる。さすがに、攻撃に特化した魔の個体を、いつまでも繋ぎ留めているのは困難である――。
「リカ! コウタイするよ!」
イグナートが飛び込み、追撃を見舞おうとするラピスラズリへと跳蹴を痛打した。ラピスラズリは舌打ち一つ、足を止める。
「……貫ききれないか。不愉快だね」
ラピスラズリもまた、相応に消耗していた。もとより、体力面では劣る。それはイレギュラーズたちにとっては僥倖といえる欠点であった。
「そりゃそうだよ。冠位にだって、オレたちは負けなかったんだ」
イグナートが構える。ラピスラズリは、ゆっくりと、獲物を構えて対応した。
「そう簡単に、貫けると思うなよ?」
にぃ、と笑う。実際、イグナートも無傷ではない。が、決して倒れぬという気概は、衰えることなく持ち合わせていた。
「ラピスラズリ」
傷ついた体をおしながら、ブランシュは言う。
「俺もある程度は「人類の幸せ」を考えた。
皮肉なことに俺も辿り着いた答えは、オリオス=エルフレームと同じだった。
強くない者は、死ぬしかあるまい。
だが俺はそこから別の回答を選択した。
ならば弱者を生まなければ良い。全てを強者にするしかない。
お前たちのゆりかごも要らない。自由は勝ち取る。閉じこもるだけの夢もいらない。
だから俺は、お前たちの存在理由を全て破壊する。
カウンターシステムとして、俺自身の願いとして」
「そうか」
ラピスラズリが言った。
「なら、もういう事はない。
おなじ夢を持つものとして、君を破壊する」
構えた。交差する。視線。同じもの。
「……いいえ、ラピスラズリ。
今回は退きましょう」
そういったのは、ビーン・ニサである。
「ダメだったかい?」
そういうラピスラズリへ、ビーン・ニサは微笑んだ。
「容易ではありません。それに、お互い――望外の接触はできたでしょう?」
ビーン・ニサは視線を移す。傷つき、どこか狼狽えるような、ンクルスへ。
「逃がさない――と言いたいところだけれど」
アクセルが言った。
「こっちも余力がないのはバレバレだよね。
今なら、追わない。追えない。どうだい?」
「お言葉に甘えさせてもらおうかな」
ラピスラズリが、ゆっくりと構えを解いた。
「この後、君たちはどうするんだい?」
「弔うよ。倒れた人たちを」
アクセルがそういうのへ、ビーン・ニサは興味なさげにうなづいた。
「ご苦労様です。
では、ンクルス。また」
そういうと、ラピスラズリ、ビーン・ニサ、二人は騒乱の闇の中へと姿を消した。
「……さすがに、しんどい相手でありましたね……」
ムサシが言う。決して、無傷とは言えなかった。辛勝、といってもいいだろう。
「だが、私たちの勝ちだ」
昴が言った。それだけは確かだった――。
成否
成功
MVP
状態異常
なし
あとがき
ご参加ありがとうございました。
残された魔法使い、ゼロ・クールたちは守られました――。
GMコメント
お世話になっております。洗井落雲です。
二人の解放者を迎撃します。
●成功条件
ビーン・ニサ、およびラピスラズリを撤退に追い込む。
●情報精度
このシナリオの情報精度はCです。
情報精度は低めで、不測の事態が起きる可能性があります。
●状況
魔王軍による攻撃が開始されました。
その魔の手は『魔法使いの都市』と呼ばれたバストリアにまで及び、多くの魔法使いたちが殺害されています。
その下手人は、ラピスラズリとビーン・ニサ。二人の魔に染まりし存在です。
この二人を止めなければ、この街は確実に壊滅します。それは避けねばなりません。
全力をもって、この二体の魔を迎撃してください。
戦闘ペナルティなどは存在しません。戦闘に注力してください。
●エネミーデータ
【エルフレームTypemelt】ラピスラズリ=エルフレーム=リアルト ×1
魔種。近接戦闘特化型のユニットになります。ブランシュ=エルフレーム=リアルト(p3p010222)さんの関係者。
手にしたパイルバンカーとも槍ともとれる近接武器の一撃は強烈です。近接レンジでの戦闘は、大きな犠牲を伴うこととなるでしょう。機動力なども高く、積極的に距離を詰めてきます。
弱点としては、主に単体攻撃に特化しているところでしょうか。ある程度の範囲攻撃は行えますが、貫通をメインとしたものであるため、配置を気にすれば避けられる公算が高いです。
防御面も、決して堅牢とはいいがたく、盾役がしっかり引き付けて、その隙に高火力の攻撃を叩き込むなどの作戦が考えられます。
ビーン・ニサ ×1
ンクルス・クー(p3p007660)さんの関係者。
こちらも近接タイプですが、堅牢な防御力を持ったタンクタイプになります。
広範囲に怒りなどをばらまき、自分に攻撃を引き付け、その間にラピスラズリが遊撃を行う、というのがこの二人の戦法のようです。
前述のとおり防御力が高く、HP吸収などによる、「ダメージを与えつつ回復する」手段にもたけています。足止系列のBSも付与してきますので、ビーン・ニサの得手に付き合えば、泥沼に足を突っ込んだように身動きが取れなくなってしまうでしょう。
対策としては、とにかくビーン・ニサの得手を封じてやるのがいいでしょう。盾役としての身動きをとれなくしてやったり、逆にこちらの数名で動きを止めてやったりなどです。
以上となります。
それでは、皆様のご参加とプレイングを、お待ちしております。
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