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シナリオ詳細

<泡渦カタラータ>大渦への道を拓け!

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●巨影、現る
 恐ろしい光景だと思う。
 海種とは違い、飛行種の彼は海洋を護る騎士の一員として偵察隊に志願したが、今となっては後悔していた。
 『絶望の青』が秘める無限の可能性。其処には当然、生物を脅かす存在が付き物だと理解していても本能的な恐怖心が芽生えるのは仕方なかった。
 あれだけ広い、大きな海に、何がどうなれば大規模な渦を生み出せるのか。彼には次元が違うように思えてならなかった。
「こちら三番艦……動きは無し。当艦は帰還する」
 船を操る船長が港へ通信を入れ、そこへ雑音混じりに他の三つある船から次々に応答が聞こえて来る。

 近々、ギルド・ローレットへ海洋は魔種によって発生させられた『大渦』の対処を依頼する事になる。
 彼等はその日の為にこうして少しでもローレットの助けになるように、情報収集を行っているのだ。
 渦についての謎は多い上、魔種や化け物が海上へ何度も姿を見せている。根本から解決を図らなければ敵は何度でも出て来るか……もっと恐ろしい物を呼び寄せてしまうかもしれない。
(噂ではローレットに渦の中で戦えるような、そんな攻略法が見つかったとか。もしそうならこんな事も直ぐに終わるのだろうか……?)
 白い羽毛を揺らし、旋回する船の中で窓の外を見た。
 大渦と船にはかなりの距離がある。例に聞く屍骸は現れない筈だ。
 しかし、波の向こうで何か黒い影が見えた気がした彼は、窓に張り付いてその正体を確認しようとした。
「……あれ、は──」
 直後、彼が窓から飛び退こうとしたが間に合わず。ガラスを突き破って侵入して来た触腕に捕まる。
 悲惨な音を立てて小さな窓から無理矢理船外へと引き摺り出された彼に続き、船は間もなく同じ運命を辿るのだった。

 その日。海洋首都近海偵察隊の船が三隻、遂に帰って来なかった。
 唯一無事に帰還出来た通信中継役の四番艦の乗組員は語る。
『偵察に出ている仲間の船が、三体の巨大な化け物に沈められていた』……と。

●拓く者達
 卓に集まった者達へ資料を配布した『完璧なオペレーター』ミリタリア・シュトラーセ(p3n000037)は説明を始めた。
「皆様も記憶に未だ残っているでしょう。皆様が行った大討伐、『シルク・ド・マントゥール』の戦い……
 そして既に耳にしている方もいるでしょう。あの大討伐から生き延びた魔種が再び人々へその悪意を撒き散らそうとしている事を」
 海洋首都の近海で最近起きていた異常事態。それらの元凶は拠点を移した魔種によるものだった。
 これまでにローレットは彼等と戦い、調査をした結果。謎の大渦は自然由来ではなく発生させている物だとも判明している。
 その裏に居るのは、やはり魔種の存在だ。
「一連の背景にいる中心人物は件のサーカスで知られる『チェネレントラ』、そして『ヴィマル』という魔種のようです。
 目的は不明で、他にも別の主導者を持った魔種の存在も大渦周辺で確認されています」
 渦の中には古代都市の存在すら確認されているが……そこまで説明したミリタリアは話を切った。
 これから依頼するイレギュラーズには、渦の中へ入って貰うわけでは無かったからだ。
「皆様に行っていただくのは、これらを解決する為に『壁』を取り除いて貰う事です」
「……大渦周辺の敵、って奴か」
 ミリタリアは首を振って肯定の意を示した。
「現在、他にも魔物の存在がありますが。その中でも厄介なのは大型の怪生物です、大渦の何に引き寄せられたのかは不明ですが……
 一体でも船を沈ませる相手。これが三体も居ては味方が渦で戦闘をするどころではありません、皆様にはこれを討って貰い──」
 ────道を拓く。
 それが今回の任務であり、この場に集まったイレギュラーズへ願う事だった。

 大型怪生物は巨大化した軟体生物に近い性質と能力を持っており、一定の範囲に近付いて来た獲物を執拗に狙い、食すでもなく、ただ殺す。
 体高7m前後、触腕だけでも体長20m強という巨体。
 一体倒すだけでも相当な人数と戦力が必要の様に見えるが──これを若き情報屋は否定した。
「特性からして魔種に関連した魔物なのは間違いありません。完全無欠なモンスターなら手の施しようがないですが、少なくともこの生物は何らかの弱点を有している筈です」
「……根拠は?」
「『直感』、です。それと僅かな情報……」
 ミリタリアは既に見せている写真を顔の横に翳して、画面端の部分を指先で示した。

「食事を必要としないモンスターが何で動いてるのか知りませんが、ここ────喉の奥で光っている石が無関係だと思いますか?」

GMコメント

 邪魔するタコをシバいてやりましょう。

 以下情報。

●依頼内容
 三体の怪物を討伐する。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 弱点が不明となっているようです。

●強襲か迎撃か
 一度対峙したが最後、勝利するまでは終わらない。
 距離にしておよそ40m地点で発見され、高機動で迫って来ます。大渦へ近付く者を狙う様です。
 敵は三体、いずれも巨大。迎え撃つか敢えて打って出るのかは皆様次第です。

 『巨大生物』×3
・【触腕振り回し】物近域・【飛】
・【触腕振り下ろし】物中貫・【防無】
・【触腕叩き付け】物至列・【低確率麻痺】
・【捕食】物至単・低命中
・【ディスペアーブルー】物至単・高威力※

※……三体連続で船を対象に発動した場合、船に絡みついて破壊します。
 乗船者達に飛行等手段が無ければ水中戦闘へ移行後、マニュアル通りの判定。

●無貌の番兵
 巨大生物に視覚は無く、同時に食事を必要としない。
 ではどうして捕食行動に移るのか? その答えは口腔の奥に光る直径2m程度の石が関係している可能性があります。
 しかし、そこを狙うには危険な賭けに出る必要があります。もっと他に策は無いのでしょうか……

 以上。
 皆様の活躍をお待ちしております。

  • <泡渦カタラータ>大渦への道を拓け!Lv:6以上完了
  • GM名ちくわブレード(休止中)
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2018年10月23日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談5日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

サンティール・リアン(p3p000050)
雲雀
猫崎・桜(p3p000109)
魅せたがり・蛸賊の天敵
御幣島 戦神 奏(p3p000216)
黒陣白刃
ティバン・イグニス(p3p000458)
色彩を取り戻す者
恋歌 鼎(p3p000741)
尋常一様
ルルリア・ルルフェルルーク(p3p001317)
光の槍
ミア・レイフィールド(p3p001321)
しまっちゃう猫ちゃん
アベリア・クォーツ・バルツァーレク(p3p004937)
願いの先

リプレイ

●とにかくぶちのめす!!!
 大渦の影響、或いは渦の中に潜む怪異達を要因とした文字通りの余波か。
 その日の海は荒れた色を見せ、波を掻き分ける二隻の船を招かれざる者として弄んだ。
 未だ大渦を船から目視できない距離だというのに、灰色の空には耳の奥まで轟くような囂々とした音が伝わっていた。
 だが近付いているのは間違いない。
 夜毎練習し続けた魔法の成果を見せるべく、新緑の風を受けて船の上空を飛び回っていた『雲雀』サンティール・リアン(p3p000050)はその蒼林檎の瞳を大きく開けて海原の向こうを見下ろす。
 彼女の眼に映るのは遠く離れた灰色の海に巨大な穴が開いている光景、隣を羽ばたく海鳥にチラと視線を向けサンティールは頷く。
「……ッ!」
「リアさん!?」
 その時、船上で異変。
 『旋律を知る者』リア・クォーツ(p3p004937)はその場に崩れ落ち、揺れる頭を押さえ声を上げた。
「近いわ……少なくとも目視できる範囲内よ。私達の船前方、右舷奥、少し……重なってる。多分右舷にもう一体いるはずよ」
 青ざめた顔で『偽装職人』ルルリア・ルルフェルルーク(p3p001317)に肩を借りる彼女が言うには、今言った方角から旋律が聴こえたという。
 足元が浮くような、落ちて行く感覚が離れない。リアのギフトは対象の感情を読み取る物だが、よもやこれだけ明確に感情を有しているとは思わなかったろう。
「前方……右舷……」
 リアの告げた方向をサンティールは見据える。
 100m程度なら事前情報としてあった【敵】のサイズからして目視できてもおかしくないのだが、如何せん海中を上から覗くには視界が悪かった。
 しかし、それをクリアできる程の視力の持ち主ならば話は変わる。

「──ふふ、見つけたよ」
 サンティールの隣を飛ぶ海鳥。視覚を共有した瞳の向こうで微笑むのは第二船の『尋常一様』恋歌 鼎(p3p000741)だった。
 海面付近を這う様に移動する黒い影を、その超視力は見逃さず。鼎に従い二隻の船上に待機していた一同はそれぞれ戦闘態勢に入った。
「敵意を感じないのはまだ発見されてないからなのか、それとも『敵視』すらしてないのか」
 『記憶喪失の旅人』ティバン・イグニス(p3p000458)が槍を一振りして船首へと向かう。
「壁を取り除いて他の味方さんが動きやすいようにパパっと片付けたいところです」
 既に装備は検め終えていた『偽装職人』ルルリア・ルルフェルルーク(p3p001317)もまた続いて前衛として魔銃を構える。
 痛む頭を抑え、波とは別に揺れる足元を自力で正しながら。リアはこれからぶつかるであろう船首から離れ蒼白のヴァイオリンを手に呼吸を整えている。
「……文字通り一度乗った船、絶望の底にだって付き合ってやろうじゃない」
 強かに、その手は魔力で精製した銀の剣を掴んだ。

「この海に落ちちゃうのはちょっと勘弁だよね、泳ぎはもっと暑い時に綺麗な浜辺でお願いしたいんだよっ」
 第二船。鼎が操船を行っている近海警備隊から派遣された操舵手に何か指示を出している。
 時折飛沫を上げる灰色の海に眉を潜め、『特異運命座標』猫崎・桜(p3p000109)が腰辺りまであるコンテナに銃器を置いて装備を検めている。
「魔種退治に協力すれば……海洋にミアの名が売れる……にゃ。ミアが大好きなお魚を……一杯お安く仕入れる……の♪」
 桜と対を為すのは、これから見合う巨大生物を狙撃しようと同じくコンテナに大型銃器を設置している『しまっちゃう猫ちゃん』ミア・レイフィールド(p3p001321)だ。
 親しい仲のルルリアと別個行動で不安を感じているが、その実。愛らしい欲望と未来を想い気持ち軽い様子だった。
 ある者は緊張を、ある人は勇気を。
 例え海洋首都近海といえど、既に彼等がいるのは敗北すればただではすまない魔の海域。
 敵は独りの獣ではない。比べ物にもならない。今ここで迎撃せんとしているイレギュラーズが相手をするのも片鱗である。
 だが、誰かが鱗を取り除かねば敵の身に一刀を差し込む事は難しいだろう。
 つまり。
「とにかくぶちのめせばいいのね!!! わかった!!!!
 ……理性が消失してるけどーん! ちょっとさむい!!」
 船首へ片足を掛ける『黒陣白刃』御幣島 戦神 奏(p3p000216)は腰元で鯉口を鳴らしまくり、高らかに叫んだ。
 それは見ようによっては宣戦布告であり、開戦の合図ともなる。
 かくして──潜伏していた巨大モンスターの領域に入った瞬間、高々と打ち上がった三基の水柱へ向けて複数の火線が伸びた。

●化け物さんの原動力
 二基の火砲から放たれた弾丸、弾幕は、真っ直ぐに二体の巨大生物を撃ち貫いた。
 轟く発砲音と同時に鳴り響く警告音(サイレン)に似た爆音は、果たして触手蠢く怪物の悲鳴なのか。
「貫いた……にゃ?」
「……ふふ、初撃が成功したのにしぶといね。潜り始めたよ」
 鼎が言うが早いか。海上に膨れ上がった軟体生物のような怪物の姿が水中へと沈もうとする。
 瞬間、第一船の上から閃光が瞬いた。

「死んじゃうのも、死なせるのも、こわい。でも……あの青い海を、血で汚させたりするもんか、みんなの道は僕たちが拓く!
 ────雷光よ、集いて疾れ!!」

 溢れ出す新緑の閃光。彩る様に展開した二対の魔法陣が花弁の如く重なり合う。
 ──怪物達はそちらへ向く──
 噴き出し、零れ落ちる光は空気を切り裂いて。サンティールから渾身の魔砲が今まさに水中へ逃れようとした巨大生物の頭部を射貫いた。
 遠目に見ても明確に飛び散る『白い肉片』。共に鳴り響く先ほどの警告音からして、やはり悲鳴を挙げているのだと一同は理解する。
 数瞬して、二隻の船が速度を落としながら水中を移動する巨大生物から距離を取ろうとする。
「一体、間違いなく頭部を貫いた様に見えたけどね」
「例の石は見えた?」
「見えたけど思ったより頑丈なようだね、直撃させないと破壊には至らないみたいだよ」
 旋回する船に合わせて船首の方へ移動する桜とミア。彼女達の初撃は大きなダメージを与える事に成功したが、急所と予想されている『石』に直撃させる事は叶わなかった様だ。
 鼎は手振りで第一船の操舵手へ簡単な指示を出すと、ファミリアーの海鳥による俯瞰で捉えている巨大生物の動きに合わせる。
 『予測できる』という事は、それだけで利となる。
 第一船のティバンとリアも今なら相手の敵意や”恐怖心”を読み取る事で正確に位置を把握している。これで失敗や不意打ちは有り得ない。
 ゆえに。
「浮上して来るよ。距離からして向こうの射程に入ってるみたいだから気をつけてね?」
「りょーかーい! 三人とも後ろは任せたー!」
 鼎の合図と同時に、航行していた二隻の船が急旋回行動を取りながら停止する。
 直前に浮上し始めていた巨大生物はその行動によって狙いを狂わされ、浮上と同時に振り下ろした触腕が轟音と水飛沫を撒き散らす。
 敵の初撃を回避できたのだ。

「先攻を取れたアドバンテージはここまでだな」
「ようし! みんな、やろう!」
 第一船、第二船の近接戦闘の役目を担う各々が武器を構え船首、或いは船尾へ駆けて行く。
 突き上げられるように船が揺れる。十数本の触腕が船に取り付いて捕えた衝撃である。
 大樹を思わせる太い肉の柱は唸りを上げ、甲板上を薙ぎ払う。
「くっ……!」
 その際、ティバンとサンティールの二人が振り払われる猛威に後退させられる。だが所詮は掠り傷だとばかりに、文字通りの宙返りをしたサンティールが再び新緑の閃光を奔らせた。
 ──怪物達の動きが一瞬の隙を生む──
 船体に張り付こうとしていた触腕ごと貫いた魔砲は直線状に位置していた第二船が相手する巨大生物の頭部を削る。
 惜しい。或いは直撃していたかも知れぬ自身の一撃に小さく表情を曇らせた。
「ルルには動きのおそーいタコさんの攻撃なんて当たらないのです!」
 触腕の根元に見える繭のような、歪な球体……頭部をルルリアの魔銃が撃ち続ける。その間にも極太の触腕が振り回されるが、どれも彼女に当たらず。船体を激しく傷つけるばかり。
 船首で巨大生物の触腕すら足場に変え、回避と同時に海面に浮かぶ頭部を狙い打ち続けるルルリア。
「ごはんを必要としないのに捕食してくる技はあるんですよねー。化け物さんの原動力は捕食した生物のエネルギーか何かと、よそーするのです」
「同感だな」
 執拗に魔銃から炎を放ち続けているルルリアの横へ、ティバンが躍り出る。
 朱槍を深々と腰を落として構えた彼の手元が槍と同じく赤く煌めいた瞬間、横薙ぎに振り回された触腕を身を捻り躱し、直後に穂先から放たれた一条の閃光が触腕とクロスして海上の頭部を吹き飛ばした。
 半ば、その場に息を飲む気配が重なる。
「直撃した……やったね!」
 一瞬の空白から覚めたサンティールが腕を振ってティバンへ称賛を送る。
 しかし、彼には分かっている。
「いや……駄目だな、まだ直撃させないといけないようだ」
 敵対心。敵意。そんなものが彼等の相対する怪物に備わっているのか知れた事ではない。
 だが今は間違いなく。ティバンへ赤黒い感情が向けられていた。
「気をつけて、さっきよりも怒ってるわよ!」
 後方から『聴いていた』リアが注意を促した。
 炸裂音。破砕。
 細い触腕が甲板を跳ねる様に叩き付けられたかと思えば、次の瞬間にはルルリアを無視してサンティールが吹き飛ばされた。
「うぁ……! く、負けないぞ!」
「聴いて、サンティールさん!」
 連なる様に振り下ろされる触腕を避け、切り刻み、甲板を駆けながら再びマントへ風を纏わせる。
 刹那に奏でられた天使の旋律がサンティールの傷を癒す最中、船外に遂に火柱が突き立った。鳴り響く怪物の悲鳴に微かに一同は怯むが、即座に前衛が体勢を立て直して挑む。
 
●不正解者には”罰ゲーム”
 空気が渦巻いて轟く。
 巨大生物を迎え撃つ第一船から放たれた閃光が水平に放たれた直後。奏の眼前で触腕を丸めて振り被っていた怪物の頭部が爆ぜ飛んだ。
 撒き散らされる肉片を斬り払い、奏は船尾へ乗り上げていた触腕を伝い駆け抜ける。
「戦神が一騎、御幣島カナデ! 陽が出ている間は倒せないと思え!」
 白刃が一閃。奏の刀が硬い肉の塊を一方的に斬りつける。血液の類は一切出ないとしても、至近距離で噴き出す爆音の悲鳴はダメージの大きさを表していた。
 出鱈目に振り抜かれた触腕が丸太の如く彼女を殴り飛ばすが一転、軽快な動作で体勢を立て直して奏は飛び掛かって行く。
「どうせ襲ってくるなら食べられる蛸とか烏賊がいいんだけどな! ゲソの破壊しがいがあるしね? ……あれは、流石に食べられないよね」
「ふふ、食べたいのかな?」
「嫌に……決まってる、の……!」
 船の後方から注がれる銃撃が次々と巨大生物の触腕を一本ずつ削って行く。
 時には上手く当たったのかミアの弾幕で奏に迫る腕を落とす事も出来ていた。それでも生々しいブニブニした触腕は一向に船へ襲いかかって来る。
 片目を閉じた鼎はポツリと。
「あの触手……再生してるね。頭部は特に尋常じゃない速度で傷が修復されてる」
「にゃっ!? ……あれって、タコに寄生したゴーレム……とかじゃない……の?」
 鼎は首を振る。
 海種や動物とは全く別の、海に生息する魔物という事なのか。誰も踏み入った事の無い『絶望の青』の向こう、はたまた海の底の底から湧いた混沌の生物だとでも。
(もう一体の大ダコに至っては水中に潜ったまま出て来ないからね、ターゲットに何か法則でもあるのかな。
 ……そう、さっきからサンティール君の魔法が気になって仕方ない所。どうかな?)
 常に回転を続けるキューブ型の宝石。あれがこの巨大生物の核であり頭脳なのかもしれない。
 それがただの石な筈はない、魔石の類なのは間違いないだろう。
 鼎は奏の後方へ向かい、触腕が銃撃に怯んだ隙を見て魔力で編み込んだロープを投げ放った。ロープは三節に分かれた形状で飛来すると触腕を数本巻き込んで勢いよく締め上げる。
 数秒。巨大生物の動きが止まった瞬間に奏が弾幕の中を一気に駆け抜ける。
「私らはオシゴトでぶちのめしに来たんだけどー関係ないよねー所詮おさかなさんだ。刺激的にやろうぜー」
 白濁とした肉片が飛び散っていく『其処』に、何度目かの全力の一撃が叩き込まれる。
「おーあーいむすかーりー。そーあーいむすかーりー」
 鼻歌混じりに繰り出される剣戟の嵐。
 時に触腕が大きく振り下ろされるが、至近距離の彼女にそれがまともに入るわけもなく。多少打たれた程度では後方からの支援を受けている奏は止められなかった。
(にゃ……今ならあの石を貫ける気がする、撃てる……の!)

 刹那。奏が触腕を斬り払った横を抜けた死の凶弾が巨大生物の頭部を貫き。更に放たれた狙撃が抉られた傷口を弾いた。
 それは何となくという勘に基づいた意識で。彼女の白刃がミアと桜の紡いだ狙撃痕へ突き入れられた。

【────ォォォォォォオオオオオオオオオオオンンンンンン】

 手応えがあったと思う間もなく。凄まじい衝撃波がドーム状に広がり、奏を10m程吹き飛ばした。
 第二船の操舵手が鼎に緊急時の指示を受けていなければ船は転覆していたかもしれない。大きく衝撃波に煽られながらも第二船は急発進によって姿勢を保つ事に成功する。
 衝撃波によって巻き上げられた海水が雨の如く降り注ぐ中、彼女達は巨大生物が四散したのを確認した。
「……なるほど、そういうことだったんだね」
 鼎が静かに笑みを浮かべる。
「メカ子ロリババア、発進」
 合図と同時に海へダイブする老婆の鳴き声を発するメカっぽいロバ。
 どこか濁った瞳を灰色の空へ向けて揺らしながら必死に泳いでいくメカ子ロリババアは、今にも沈みそうな危うさのまま第一船と第二船の中間部で動きを止めた。
 ザブ、と。動きを止めたそれに触腕が絡み付いた瞬間にマジックロープが飛来する。
「狙い撃つなら今だよお二人さん」
「む、もしかして狙撃出来る? 出来る? それなら狙い撃つぜ! なんだよ♪」
「……わかった……の、ミアも狙い撃つ……にゃ!」
 先の衝撃波による余波も落ち着いた頃、二人の少女達が大型の銃器を構え照準を穿つべき的へ絞る。
 メカ子ロリババアごと巻き付いたマジックロープは触腕に絡み、拘束こそできずともミシリと締め付ける。
 ……その瞬間、動きを止めた触腕の根元が水中から顔を出して姿を現した。

「ふふ、引っかかったね? ──不正解者には罰ゲーム、持ってる石を没収かな」
 一呼吸の間。
 閃光と爆音が鳴り響いた。

●道は────
 爆風に似た衝撃波によって船体が大きく揺らぎ、リアが滑る足を戻しながら立ち上がる。
 決定打を遂に与えたのであろう鼎達の方へ視線を巡らせたその時、船首で激戦を繰り広げていたサンティール達の方から短い悲鳴が上がった。
「サンティールさん……!?」
「ッ……身体が、動かん」
 ティバンが触腕の拳に叩き付けられた衝撃で、立てないでいる前。夥しい触手に捕まった緑髪の少女が視界に映った。
 巨大生物の触腕や頭部は黒く変色して、あちこちが溶け爛れている。
 ルルリアの撃ち込んだ毒弾と炎弾は怪物の再生能力を上回り、確実に瀕死へ追い込んでいたのだ。
「僕の事は心配しないで! 『このままでいい』、撃ち続けて!」
「……! はいなのです!」
 しかしサンティールは苦悶の声ではあっても苦渋の表情ではない。
 船首から飛び上がり魔銃による近距離術式を撃ち込みながらルルリアが跳び回る。
 少女を捕えた巨大生物、怪物は触腕をさらに締め上げながらドロドロになった頭部を半ばから裂けるように口を開いた。
 恐ろしい光景だ。
「だけど……!!」
 二度は言わない。そして、今度ばかりは絶対に外さないつもりで。
「──雷光よ、集いて疾れ!!」
 死の臭い立ち込める口内へ一気に残りの魔力と体力を放出させた、瞬間。
 彼女の眼の前で爆ぜた魔石は虹色の輝きと共に凄まじい衝撃波を迸らせ、四散した肉片と共に船の上へ放り出された。
 船体が大きく揺れ、転覆の文字が一同の頭に過ぎる。
 だがそれは起きず。横合から突進して来た巨大生物に今度は反対方向へ船体を傾けられてしまう。
「わわっ……! もう一体、忘れてましたー!?」
「いけない、サンティールさん気絶してるわ……! 危ない!」
 頭部が半壊し、魔石すら罅割れている姿で。巨大生物はたった今行動を終えたばかりの前衛を襲おうとした。
 引き金を引くルルリア。魔剣を手にヴァイオリンを奏でるリア。
 振り払う触腕。破壊される船体……サンティールは、動けない。

 
 ────走る朱い一閃。
 バツン! と鳴り響いた炸裂音に続いて目にしたのは、天使の旋律によって立ち上がったティバンの姿だった。
「これで終わりだ」
 その手にある槍を捻り込ませた直後。
 三体目、最後の怪物が遂にその身を海に散らせたのだった。


 半壊した小型船から乗り移って来たリア達は漸くその体をすとん、と下ろした。
 道は拓かれた。
 これで大渦を調査する者達が何にも邪魔されないかと言えば、そうではないだろう。
 だが、今日戦った彼等の活躍は無駄にはならない。必ずこの航路を辿る者がいるのだから。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

依頼は成功。
皆様の活躍によって大渦の調査も前進を見せるでしょう。
その話は、また別のお話です。

今回の相手は物言わず搦め手の魔法を使う相手ではありませんでしたが、弱い敵でもありませんでした。
MVPは一糸乱れぬコンビネーションを発揮できた皆様へ。という事で称号を発行致しましたのでお確かめください。
お疲れ様でしたイレギュラーズの皆様。またの参加をお待ちしております。

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